【完結】無限泡影が飛んでこないこの世界で元気に生きてます 作:気力♪
全盛期ちょい過ぎたあたりのシャドール使いならば知る、一部の相手にのみ発揮されるテラナイトの本気をご覧ください。
事が起こるまで、何もしてこなかった訳ではない。
匿名の掲示板でハノイの騎士とデュエルする事の危険性を訴えた。
運営であるSOLテクノロジーに、ハノイの騎士がデュエルを通して危険なウィルスを散布しようとしてると通報もした。
交流会で、ハノイの騎士とかハッカーとか怖いし、ログイン頻度を下げないか?と提案したこともある。
だが、どれも目立った効果が出ることはなかった。
言葉に説得力がないのである。ネットで重要視される、情報のソースがあくまで自分の転生知識だけなのだから。
今ほど、自分の無力さを痛感した事はない。自分にもし、主人公"藤木遊作"のようなハッキングスキルがあれば、事が起きる前にハノイの計画を白日のものとできただろうに。或いは、事が起こった際に一般人を強制ログアウトさせて、被害を未然に防ぐ事ができるかも知れないのに。
だが、そんなものは所詮無い物ねだりである。この世界に転生した時から変わらない、自分は自分にできる事をよろしくやっていくしかないのだ。
リンクヴレインズをぶらつきながら、たとえ意味のない行動になるとしても声を張り上げることをやめないでいよう。と一般人なりの覚悟を決めていた時、それは始まった。
ハノイの騎士による、リンクヴレインズ大襲撃事件である。
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覚悟していただけ、その行動は他の人たちより迅速にできたと自分では思う。
「ハノイの騎士だ!皆、危険だからログアウトしろ、早く!」
大声での避難勧告である。
だが、実際に被害が出始めるまで、これは対岸の火事だと、物見遊山決め込んでいる人のなんと多いことか。
「ハノイ見物ならログアウトしてからでもできる!早くログアウトを!」
それでも、声を張り上げた。自分にできることを、全力で。
目に見えてる範囲ですらハノイの騎士は十数人もいた。そのうち、ハノイの騎士と一般デュエリストとのデュエルが始まりだした。
「デュエルなんか中断しちまえ、とにかく逃げるんだ!このままじゃ...ッ!」
「うるせぇ、臆病者はすっこんでろ!おれはハノイを倒してリンクヴレインズのニューヒーローになるんだ!」
ハノイの騎士とのデュエルの結果、どうなるかを説明できない。実際に犠牲者が出るまで、敗者が現実でも昏睡状態になってしまうなんてことを、今の自分は説明する事ができない。虚言とみなされるだけだ。
それでも、声を張り上げた。
「いいから逃げるんだ!ニューヒーローなんか何処にもいない!この状況のヤバさは分かるだろ!とにかく早くログアウトを!」
あちらこちらで声が聞こえてくる。慣れ親しんだ掛け声が、今は絶望を告げる一言が。
自分のちっぽけな抵抗も虚しいまま、始まってしまった。ハノイとデュエリストたちの、命をかけたデュエルが。
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「デュエルを中止してログアウトしろ!頼むから俺の声を聞いてくれ!」
「デュエリストが挑まれたデュエルから逃げられるかってんだ。お前はさっさと逃げとけ、臆病者。」
声が届かない。
「頼むから逃げてくれ!デュエリストの誇りなんか...ッ!」
「誇りを無くしたデュエリストなんて死んだも同然よ!ふざけた事抜かさないで!」
声が届かない。
「ログアウトするんだ!大事なもんだろ、
「デュエル以上に大事なもんなんてあるものかよ!」
声は、届かなかった。
そのうち、聞こえてくる声に悲鳴が混ざりだした。
「畜生、なんだこれ。体が、俺の体がぁッ!」
「嫌!なんなのこれ、こんなの聞いてない、聞いてないよぉ!」
あるハノイの騎士が言った。言ってしまった。
「冥土の土産に教えてやるよ雑魚ども。デュエルで負けた奴らはなぁ、一生目覚めないんだよ、現実の世界でもなぁ!」
狂乱が始まった。
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「なんで、デュエルを中止できない!どうして⁉︎私死にたくなんかないのに!」
「このあたりは俺たちの仲間がハッキングしてるからよ、デュエルの中止なんてせこい真似は無理なんだよ!」
「さっきの臆病者の話を聞かないからだよバーカ。なぁに助かりたいなら話は簡単だ。勝ちゃいいんだよ勝ちゃ。まぁ出来るならだけどなぁ!ヒャッハハハハ、可笑しくて笑いが止まんねえぜ。」
「畜生、何人消えた⁉︎俺は何もできないのか...ダメだ馬鹿、切り替えろ!今俺に出来る事はッ!」
項垂れた俺の目の前で、それは起こった。
消えていくデュエリストの体。
Dボードの上で消失に唖然とする姿。きっと彼は、消失した奴と仲が良かったんだろう。その表情は絶望に染まっていた。
そんな彼に、ハノイの騎士は近づいていった。おそらく彼に、デュエルを挑むつもりだろう。
ここからは正直、何を考えてたとかよく覚えてない。
こんな危険な状況、もう逃げ出して然るべきだ。普段の俺ならそうしたと思う。
だが、考えるより早く、体が動いてしまった。
それに気づいたのは、ハノイの騎士の顔面にDボードで正面衝突かましたあたりでだった。
「ここは俺が引き受ける!そのうちにさっさとログアウトを!」
「え、あ、え?」
「良いから早く!」
「はっ、ハイ!」
彼はメニューを操作し、ログアウトを開始した。
「チッ、どんな馬鹿が挑んできたと思ったら散々喚いてた臆病者じゃないか。」
「言ってろ畜生。...正直逃げ出したいよ、怖いよ、胸が苦しいよ。けどなぁ動いちまったんだよもう!ならやるしか無いだろ、もう!」
「その蛮勇、すぐに絶望に変えてやる!さぁ行くぞ!」
「...来いッ!」
「「スピードデュエル!」」
「先行は俺だ!カードを一枚セットし、俺は手札抹殺を発動!お互いの手札を全て捨てる!そして捨てられたシャドール・ビースト、シャドール・ヘッジホッグの効果を発動!シャドール・ファルコンを手札に加え、一枚ドロー!カードをもう一枚セット、モンスターをセットしてターンエンド。」
「シャドールデッキか...俺のターン、ドロー!スタンバイ、メイン。俺は手札一枚をコストに、ツインツイスターを発動!セットカードを2枚とも破壊する!」
「セットカード発動、
「相変わらず頭おかしい手札効率してやがる...ッ!俺は
俺はセイクリッド・ダイヤでセットされてるビーストを攻撃!"ダイヤモンド・ブラスト"!」
「このターンビーストの効果はもう使われている。ビーストのリバース効果は発動しない。」
「続けてアルタイルでファルコンを攻撃!ターンエンドだ。」
「俺のターン、フフッ、お前に絶望を見せてやる!スキル発動!"ダブルドロー"ドローフェイズにカードを2枚ドローする!来たぞ俺の最強カード!魔法発動!
「セイクリッド・ダイヤの効果!オーバーレイユニットをもつこのカードが存在する限り、デッキからカードを墓地に送ることはできない!」
「くそ、発動は中止できねぇのか...俺は手札のシャドール・リザード、シャドール・ドラゴンで融合!融合召喚!現れろレベル5!エルシャドール・ミドラーシュ!融合に使ったシャドール・ドラゴンの効果発動!このカードが効果で墓地に送られたとき、魔法罠を一枚選んで破壊できる!行け、ドラゴン!セットカードを破壊だ!」
「セイクリッド・ダイヤの効果発動!闇属性モンスターの発動した効果を無効にし破壊する!"ダイヤモンド・プレッシャー"!」
「チッ...モンスターを一枚伏せて、カードを一枚伏せる。ターンエンドだ。」
「俺のターン、ドロー!スタンバイ、メイン。俺はアルタイルを通常召喚、効果発動!墓地のデネブを特殊召喚!」
「その特殊召喚にチェーンだ!トラップカード激流葬!フィールドの全てのカードを破壊する!だがミドラーシュは効果により、破壊効果に対して耐性を持っている。よって破壊は無しだ!」
「悪いがそんなカードは通さない!デネブを墓地に送り、カウンタートラップ神聖なる因子!激流葬を無効にする!その後、一枚ドロー!」
「何だと⁉︎」
「デネブの特殊召喚自体は成功した。よって効果発動!デッキからアルタイルを手札に加える!魔法発動!
「ミドラーシュの効果発動!破壊されたとき、墓地のシャドール魔法、罠を手札に戻すことができる!俺は
「セイクリッド・ダイヤの効果!オーバーレイユニットをもつこのカードがある限り、墓地から手札に戻るカードは全て除外される!」
「そんな効果まであるのか⁉︎だがそれもオーバーレイユニットがある限り、お前のユニットは残り1枚だ!」
「バトルを続行!俺はセイクリッド・ダイヤでセットカードを攻撃!"ダイヤモンド・ブラスト"!」
「セットカードはシャドール・リザード、破壊される。だが、リバース効果発動!フィールドのモンスター1体を破壊!お前のセイクリッド・ダイヤを破壊する!」
「星輝士の因子の効果!装備モンスターは相手のカード効果を受け付けない!よって破壊は無効だ!バトル続行!2体目のアルタイルでダイレクトアタック!」
ハノイの騎士 LP4000→2300
「だがお前のモンスターは全て攻撃を終えた!さぁ、ターンエンドしろ!次のターンでお前を...ッ!」
「いいや、お前に次のターンは無い!速攻魔法
ハノイの騎士 LP2300→1300
「今はバトルフェイズ!よって追撃が可能ッ!これで終わりだ!
「馬鹿な、この俺が、こんな臆病者なんかにぃぃ!」
ハノイの騎士 LP1300→-100
「そんな、アイツがやられるなんて⁉︎」
「ヤツはこの辺りハノイのリーダーッ!これから誰の指示を仰げば良いんだ⁉︎」
自分の倒したハノイは意外と大物だったらしい。これなら、ハッタリが効く!
「さぁ次はどいつだ、かかってこいハノイの騎士!このStargazerが相手だッ!」
「ヤベェ、俺知ってるぞアイツを。”鬼畜星”だッ!カリスマデュエリストで結構上位のヤツだ。俺たちじゃ敵わねえ、逃げろ!」
「大変だ!C地区の連中がAIでできたデュエリストどもにやられたらしい。しかもそいつらがこっちに流れ込んで来やがる!この地区のリーダーは⁉︎」
「さっきやられたよ畜生、一体どうすりゃいいんだ⁉︎」
「狼狽えるな!ここの指揮はこのファウストが引き継ぐッ!まずはあのStargazerとかいうやつを囲んで黙らせるのだ!」
「またしても大物、しかも今度はモノホンの。さてどうするか...ッ⁉︎」
「AIの連中が来たぞー!」
瞬間、Dボードの向きを変更し、逃走を始めた。
AIデュエリスト部隊がくる以上、この場で張り続ける意味はない。
それに、アナザーになってない一般デュエリストの大半も、流石にもう逃げだせただろう、一般人の出来ることとしてはもう十二分だ。
「あばよハノイどもッ!2度と会わないことを祈るぜ!」
そう捨てゼリフを残しつつ、メニューを操作しログアウトを開始した。
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現実に戻った。
なんとかなったという安堵からか、目の前で人を助けられなかった失望からか、ため息が出た。
が、くよくよしても居られない。今自分にできることをやるのだ。
まずはSNSなどで事件のことを知らない人に知らせ、リンクヴレインズへのログインを自粛させなければ。
そんな風に思い、ネットサーフィンを始めたところ、こんな一文が目に留まった。
「事件が始まって、私は右も左もわからなくなってしまったんです。けど、誰かの"逃げろー、ログアウトしろー"って声が聞こえたんです。とても必死な声でした。その声に従ってログアウトしたから、私はハノイの被害に遭わずに済んだんだと思います。この場を借りて一言。逃げろって声を上げてくれて、ありがとうございました!」
これが、自分の張り上げた声のことかどうかはわからない。ただ少しだけ、自分のおかげで、多少被害がマシになったよと言われているような気がした。
ちょっとだけ、涙が出た。
その理由が、救えなかった苦しみからでなく、救うことのできた達成感からだと、今は信じたい。
シャドール使いにセイクリッド・ダイヤを立てるという鬼畜の所業。皆さん薄々感じてると思いますが、この主人公デュエルで勝つためなら割となんでもします。