YUMIYA~ある弓道部員の物語~   作:伊藤ネルソン

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「皆さん、こんにちは作者です」
「同じく涼太です」
「コロナの自粛期間、皆さんどのようにお過ごしですか?」
「作者は週末の楽しみがなくなり、半ば発狂気味ですが、より弓道を楽しんでるようです。」
「やっぱ、こういうとき巻藁あると便利ですね」
「ほんと、ある意味普段以上に弓道に熱が入ってる気がしますが」
「だってすること無いんですもの」 
「なら、この小説....」
「あっ、今回も...」
「2ヶ月(というかほぼ3ヶ月)空いてましたよ」
「うーん、難しいですね〜、時間はあるはずなのに」
「....もういいです」
「ほんと読者の皆さんすいません、多分この感じだと毎月はちょっと厳しいかもしれません」
「なるべく早く投稿は出来るよう努力してまいりますので」
「どうかこれからもよろしくお願いします」
「さて、弓矢19話始まります」
「今回は100射会を取り上げてみました。」
「作者の母校では一年の時しかやらなかったようでしたが.....」
「弓道マンガ等を見てると結構盛り上がっていたのでやってみましたw」
「妄想の要素が非常に多いですが」
「それでも構わないという方は」
「「ゆっくりしていってね!!」」


百射会

 1786年 ヴィシー学園

 

 キリキリッ.....パンッ トン

 

 

 射場に心地の良い音が響く

 

 

 「当たるようになってきたね」

 

 「いやいや、ハルちゃんには負けるわよ」

 

 

 今のはシレーヌのようだ。的中もさることながら、彼女は力強く引くことができている。

 

 

 キリーッキリーッ....トンッ パン

 

 

 ソバールも負けじと当てていく。彼女の見た目と裏腹に矢勢はとても鋭い。

 

 

 キリーッキリーッ......カンッ トン

 

 

 カリーネは他の人たちと違い、すごくふんわりと弓を引いている。しかし、良く伸びあっているため、当たりは確実なものとなる。

 

 皆、巻藁テストの時と比べて見違えるほど上手になっている。

 

 最初は皆弓に引かれていたような状態であったが、今は良く体に馴染んでいるように感じた。

 

 一通り立ちを終えて、休憩の時間に入った。

 

 「みんな、お疲れ様〜」

 

 私は紅茶を淹れ、皆に配った。

 

 「うん、やっぱり、ハルちゃんの紅茶はうまい!!疲れた体に染みるわ〜」

 

 「えへへ、ありがとう」

 

 味に関しては、王室お墨付きである。

 

 普段は顧問たるおばさんが配るのだが、今日は仕事が立て込んでるためか、部活に顔を見せていないため、私が配っている。

 

 弓道に休憩は必要である。あまり激しく運動しないため、あまり取る必要の無いように感じるが、それ故についついやり過ぎて射形を崩したりすることもある。そのため、このクラブでは立ちが終わったら休憩を取るようにしている。

 

 「うーん、6中かぁ、中々難しいなぁ」

 

 シレーヌが悔しそうに記録を見る。

 

 「あの最後一本づつが当たっていたら全皆中できたんだけどな」

 

 「ホント最後一本難しいよね、ちょっとでも考えると外しちゃう」

 

 シルーヌとソバールが頭を捻らせている。

 

 弓道に於いて、最後の一本というのはとてつもない負荷がかかる。それはまさしく同じ的のはずなのにまるで金的を狙っているような感覚である。

 

 「ハルちゃん、普通に皆中してるけど、何かコツとかある?」

 

 「まぁ、そりゃ昔からイロイロ言われてるけどやっぱり一番は......」

 

 「一番は?」

 

 「まぁ、経験だね!」

 

 皆、期待していた答えと違ったのか肩を落とす。

 

 「いやぁ、そりゃね、当てようとしないとか、ボッーと引くとか言われてるけど、どれが一番良いかなんて本人にしか分からないし、精神力つける意味でも自分を知る意味でも場数を踏むのが一番良いかもね。」

 

 「うーん、参ったなぁ」

 

 皆の困った様子を見て、私はふとある事を思いついた。

 

 「とはいってもずっと同じように立ち組んで競射するだけじゃ飽きてくるだろうし.....よし、それじゃ今週末、道場に泊まってある練習をしよう!」

 

 「ある練習?」

 

 「そそ、どんな練習かは、当日のお楽しみ!.....あっ、ただ体力は必要だから前の日にはじっくり体休ませといてね。」

 

 「体力の必要って.....ちょっと怖いな」

 

 「フフ、どんな練習でしょうね」

 

 その後も普段通りに立ちを通して、その日の練習は終えた。

 

 

 

 そして迎えた週末

 

 

 「よーし、みんな集まったね。」

 

 私は皆が集まったのを確認し、説明を始めた。

 

 「今日は百射会をやっていこうと思うわ!」

 

 「百射会?まさか...百本も弓引くの?」  

 

 ソバールが顔を青ざめながら聞いてきた。

 

 「そのとおり、今日一日で100本....は辛いだろうで今日明日の2日に分けて100本引いてみようと思うわ」

 

 普段の練習ではせいぜい立ち4回プラス自由練習といったところのため、せいぜい30か40本ぐらいしか引いていないが、今回はまる2日かけて100本引くのである、驚くのも無理もない。

 

 「そんなたくさん引いて肩故障したりしない?」

 

 カリーネが心配そうに聞いてくる。正直私が居た時代では学生弓道では一日100本くらいゆうに練習してるとこも多かったが、無理してやってはいけない

 

 「一応、休憩時間も十分取りつつやるけど、もし辛かった無理せず伝えてね。あと準備運動、今日はこれを徹底してやろっか」

 

 わたしは皆に指示を出し、二人一組で柔軟体操を行った。

 

 「...ハルちゃん、これ柔軟だけで息上がっちゃうよ!」

 

 「そりゃ、普段よりキツめの柔軟だからね、ただ効果は大だよ」

 

 ソバールを始め皆、若干息が上がっているが、まぁこれくらいなら大丈夫だろう。(シレーヌは平常運転のようだが)

 

 「よーし、じゃ5分間だけ休憩して始めよっか!」

 

 一応皆のためにも少し休憩を取ることにした。

 

 私も軽く腕を伸ばしたりして、リラックスしておいた。

 

 この射場は5人立ちのため、今のクラブ人数なら同時に進めて行くことが出来る。(かわりに看的は自分立ちで見に行くしかないが)そのため、円滑に事を進められる代わりに休むタイミングは意図的に取らなければならない。

 

 私はその事を意識しながら百射会に望むのであった。

 

 「さて、それじゃ、始めよっか。立ち順はシレーヌ、ソバール、カリーネ、私の順番で」

 

 「はーい」

 

 こうして、私達の百射会が始まった。

 

 

 2時間後...... 

 

 

 「これ結構しんどいわね」

 

 カリーネが汗を拭いながらつぶやく。まだ4分の1の25本しか引いていないが、皆疲れが見え始めている。

 

 「そりゃ休憩取りつつとはいっても、ぶっ続けで引き続けているわけだからね。普段とは体力の消耗量が違うよ。」

 

 「これ、100本も持つかなぁ..... 」

 

 「たぶん休憩無しじゃ今の自分達の体力じゃ無理だと思う。だからこそ半々に分けてやったのだけど.....」

 

 ちょっと50本まですら持つか不安になってきた。そんな私の気分を察してか、比較的体力のあるシレーヌが皆に呼びかけた。

 

 「皆、ここからが正念場よ!諦めずに頑張っていこう!」

 

 「そうだね、ここまでならいつも引いてる本数と変わんないし、むしろここからが本番よね、よし頑張るわ!」

 

 「私も、頑張るわ!」

 

 

 ちょっとバテ気味だったカリーネとソバールにも元気が戻ってきたようであった。

 

 シレーヌには本当に感謝したい。

 

 私も再度気を引き締めて、打ち起こした。

 

 ちなみに今での的中はバテ気味のソバールとカリーネは若干普段の的中率よりも、落ちつつあったが、何とか盛り返し、半矢前後をキープしているのに対し、シレーヌは順調なようで8割を維持し続けている。(さすがフェンシングバカは違う)

 

 

 

 キリー......キリー...トンッ パンッ! 

 

 「...ふぅ〜、よし、それじゃ休憩挟もっか、今回は長めね」

 

 30射ほど引いたところでちょっと長めの休憩を挟むことにした。

 

 私もこっちに来てからせいぜい50本/日ぐらいしか引いていないため、ちょっと早く疲れがでてきた。

 

 カリーネは、気分転換がてら走り込みに、シレーヌは柔軟をして使った筋肉を解している。

 

 二人とも普段からスポーツをやっているため、体を休ませる際にも気を使っているのであろう。

 

 私はというと、道場の床に大の字に寝転がった。

 

 場所によっては叱られるが、これが一番リフレッシュできるのである。

 

 ぼんやりと天井を見ながら、今日の射を振り返った。

 

 「前半はまだ良かったけど後半がなぁ.....やっぱり体力つけないといかんかぁ」

 

 「どしたのハルちゃん?」

 

 ソバールが私を覗き込みながら聞く。彼女は私同様大の字に寝転がりながら、本を読んでいる。

 

 「いやぁ、ちょっとね、後半、力んで当て射に走っちゃってね.....まだまだ未熟だわ〜」

 

 私はタハハと苦笑いをする。

 

 本数を稼いでいたり、緊張が度を過ぎたりすると、何かしら違和感があったとしても短絡的に考え、’まあいっか'と'当たればよい'と考えて行射をしてしまうときがある。

 

 確かに、案外それでも良く当たるかも知れないが、それになれると早けや緩みなどの病にかかったりするし、何より美しい射にはならず、射の本懐に反することとなる。

 

 それ故極力出さないようにしないといけないのだが、それが中々難しい。

 

 「いや、ハルちゃん、それは贅沢な悩みだよ」

 

 「どうして?」

 

 「私なんか、半分ぐらいしかあたってないのにハルちゃん、ほとんど中ってる、正直それで十分満足できるものだと思うよ」

 

 ソバールは羨ましそうにつぶやく。

 

 「まあねぇ、昔だったらそれで喜べたんだけどね....今となっては何か満足出来なくなっちゃった。」

 

 始めたばかりの頃はちょっとよく中っただけで舞い上がっていたが、今は中っても何も感じなくなってしまった。だが

 

 「だけどね、やっぱり的中で一喜一憂していたら、その先にあるものに達することが出来ない、射を進化させていくことが出来ないとも思うんだよね」 

 

 「確かにそれもそうだけど....うーん、何か難しいね、ハルちゃんちょっと考えすぎじゃない?」

 

 「ハハハ、よく言われるわ」

 

 「あんまし深く考え過ぎずに、今は弓道を楽しもう?」

 

 「まあねぇ、うん....ありがとう、ちょっと迷いが晴れたわ」

 

 ソバールのおかげでちょっと気を楽にすることができた。

 

 「だけどなぁ、どうすりゃ、ハルちゃんみたいな悩みを持てるんだろう、ある意味私にとって目標だよ?」

 

 ソバールは羨ましそうにつぶやく。

 

 「まぁ、無理やり持とうとしなくても、鍛錬を重ねていくと自然に湧いてくると思うよ」

 

 「うーん、まだまだ道は遠そうだなぁ」

 

 「いや、案外近いかもよ?」

 

 「どしてよ?」

 

 「いままでソバールみたいな子で上手くなっていった子何人も見てきたから」

 

 私は、前の世での記憶を振り返る。最初、運動もしたこともないヒョロヒョロな子や、自信なさそうに引いてる子でもちゃんと続けていれば、他の皆よりも上手くなっていた。

 

 「だから自信をもって、自分の射を魅せていこう!」

 

 「てへへ、ありがとう......私、頑張るわ」

 

 ソバールは照れそうにしながら答えた。

 

 

 

 そこへ

 

 

 

 「おっ、二人ともラブラブかw」

 

 柔軟を終え、カリーネとともに走り込みに行っていたシレーヌが戻ってきた。

 

 そんで、戻ってくるなり放った一言がこれである。

 

 「ばっ、そんなんじゃないし///、だだ話していただけだよ!」

 

 「そうだよ、誤解だよ!!」

 

 当然のことながら、私とソバールは反発する。

 

 しかし、それをみたシレーヌはさらに調子に乗って聞いてきた。

 

 「ぐふふw、私に隠してそんな関係になっていたなんてw、ソバールも隅に置けないねぇw、それで?二人はどこまでいっちゃったのw?」

 

 シレーヌは顔をぐいっと近づけ、迫ってくる。

 

 「ちょっと、調子に乗るんじゃないわよ.....顔近いって!」

 

 「またまた〜、シレーヌには全てお見通しなんだからw〜全て吐いちゃった方が楽だよー」

 

 「だから、誤解だって言ってるでしょう!」

 

 その時

 

 ガラガラー

 

 「ふぅー、スッキリした〜、シレーヌ飛ばしすぎよ〜、ちょっとは私のペースも考え..........」

 

 ランニングから帰ってきたカリーネが私達の姿を見て一瞬固まった後、

 

 「....お邪魔しましたー」

 

 ガラガラー

 

 扉をしめ、何事も無かったかのように去っていった。

 

 「ちょっとカリーネ!?誤解なんだって!!カリーネ!」

 

 射場内に私の悲鳴がこだました。

 

 .......

 

 「....ちょっと調子に乗りました、すいませんでした」

 

 目の前には頭にタンコブを作ったシレーヌが頭を下げている。

 

 あの後、何とかカリーネを追いかけ、誤解を解き、戻ってきたのだが、見ると大分時間を無駄にしてしまっていたのだ。

 

 「全く.....本来だったらもう、今日の練習は終わっているはずだったのに.....シレーヌは罰として今日は居残りで百本引ききること!!」

 

 シレーヌの顔から血の気が引いていく。いくら体力のあるシレーヌとはいえ、普段3.40本しか引いていないのに突然百本も引けるわけがない。

 

 「ちょっと、流石にさっきはやりすぎたけど、一日でそれは無理だよ!」

 

 「いーや、あんな事する体力が残ってるなら、出来るはず。私は見張ってるからやりきりなさい!」

 

 私は有無を言わさず迫る

 

 「まぁまぁ、シレーヌも反省してるんだし良いんじゃない?」

 

 「いーや、だめだね、(やるなら徹底的に仕返ししないとw)私はやるといったら曲げないわよ?」

 

 ソバールが仲裁しようとするが、押し切る

 

 「まぁ、シレーヌは自業自得だからしゃあないとして、自分達も後20本残っているんだからさっさと引ききるわよ」

 

 「そんなぁ、カリーネまで....」

 

 カリーネが他人事のように皆に促した。カリーネの援護を期待していたのか、シレーヌは肩を落とす。

 

 「まぁ、それもそうだね、こうして喋ってる時間が無駄だし、さっさと引いちゃお」

 

 私達は、再び弓矢を手に取り、射位へと進んだ。

 

 ........

 

 「ふぅ、引ききった〜」

 

 私達は今日のノルマを終え、片付けを始めていた。

 

 私は普段通り引けてはいたが後半に行くにつれ、やや中て射気味になってしまった。

 

 カリーネとソバールは中盤バテてきて的中率が落ちてしまったが、休憩後何とか巻き返すことができていた。

 

 しかし、シレーヌは休憩後からちょっとずつ的中率が下がっているように感じた。

 

 今のところ私が50射43中、カリーネが50射28中、ソバール50射26中、シレーヌ50射38中

 

 といった結果となった。

 

 「「「そんじゃ、さよなら〜」」」

 

 カリーネ達はひとまず片付けを終え帰りだした。

 

 「ちょっと、シレーヌ、あんたはまだよ」

 

 私はカリーネ達に混ざって帰ろうとしたシレーヌの肩を、叩いた。

 

 「いや、ちょっと花を摘みに......」

 

 「はいはい、テンプレ的な言い訳は良いですよー」

 

 さらっと逃げようとするシレーヌを中に戻し、弓を持たせた。

 

 「参ったなぁ、正直肩回らなくなってきてるのに.....」

 

 「はよ、やらんと日跨ぐよ」

 

 時間はすでに16時である。ヨーロッパであるため日本よりも日の沈みは遅いが、油断していると簡単に真っ暗になるであろう。

 

 渋々ながらシレーヌも残り50本を引き始めた。

 

 .......

 

 スーッ..パンッ、ブスッ、スーッ、ダンッ、ブスッ

 

 「はぁ....なんで...なんで当たらないのよ!」ドンッ

 

 シレーヌは息を切らしながら弓で床を叩いた。

 

 「物に当たるでない!」

 

 「ねぇ、何でなの、なんでこんなにも...」

 

 シレーヌは嗚咽しながら顔を抑え込む

 

 既に80射以上引き100射までもう少しといったところまできたが、本数をかけるにつれ、徐々に射が崩れだし、的中も会バツだらけと行った状態になってしまった。

 

 弓道は時に残酷である。どれほど努力しても我を失った者には容赦なく破滅を与える。

 

 本来だったら普段引いてる本数から考えても50射くらいで止めさせるべきであったが、私はそれを許さなかった。

 

 「ハルちゃんもハルちゃんだよ!何もここまで酷い仕返しすること無いんじゃない!?」

 

 シレーヌからの一言に私の胸がチクリと痛む。

 

 つい、顔を崩しそうになったが、そのままの表情で答えた。

 

 「これは仕返しでも何でもないよ、今の現状はアンタの出した結果に過ぎないわ」

 

 「バカッ!」パンッ

 

 顔を真っ赤にしたシレーヌが平手打ちをしてきた。

 

 「じゃ、どうすれば良いのよ!さっきからずっとこんな調子...これじゃたとえ百射引けたとしても意味はないわよ!」

 

 「.....」

 

 「もう....もう帰らせて...」

 

 シレーヌは泣きながら懇願する。普段の私ならこれで許したであろう。しかし

 

 「だめよ、100本引ききるまで許さないわ」

 

 「....ハルちゃんの意地悪...」

 

 もはや聞くのを諦めたのか、シレーヌは力無く弓矢を持ち射位へと向かった。

 

 そこで

 

 

 「シレーヌ、本座の位置はわかる?」

 

 私は、直接射位へと向かったシレーヌに聞いた。

 

 「いや、そこでしょ、それくらいわかるわよ」

 

 シレーヌは本座の位置を指差してからその位置に戻って揖をしてから射位へと向かい引き始めた。

 

 「それじゃ矢を番えるとき、どうやって送る?」

 

 「どうやってって.....あれ、三回に分けるんだっけ、一回で送るんだっけ?」

 

 シレーヌは困惑したように私の方を見た。

 

 「私が教えたのは一回で送るって方法だよね?(読者の皆さんすいません、正直3回で送るのも昔は主流だったようで、どちらとも言えます。)、他にもシレーヌ、体配結構雑になってきてるけど自分で気づいてた?」

 

 「いや、気づかんかったわ.....」

 

 シレーヌは顔を伏せながら答える。

 

 「弓道はね、全部が大事なの!一つでも適当にやったら中らないし、たとえそれで中っても、それは崩れた形が丁度いいくらいに噛み合った結果なだけだし、次に待つのは破滅だよ!」

 

 「...うん」

 

 「今言ったことは私がなんども言ってることだけど、多分アンタはそんな事言われんでもわかってると思う。なのに今できなかったのは......」

 

 「完全に周りが見えていなかった、ただただ弓を引くことにしか気が行っていなかった。」

 

 「そう、自分でもわかってるじゃない...弓道はね、自分が弓と一体になるような境地を得ることを目指すのだけど、一歩間違えると今のアンタみたいに弓に取り込まれて、弓に引かれるようになってしまう、だからそうならないためにも体配にも気が配れるくらいの余裕をもって引かないといけないよ。当然100射会でもね」

 

 「...うん」

 

 「私がね、アンタだけ今日残って引かせたのはね、なにも仕返しなんかが目的じゃない、シレーヌあんたならできると思ってのことよ」

 

 「...私が?」

 

 「そうよ、シレーヌ手ぇ見せなさい」

 

 「ん?」

 

 シレーヌの手は分厚い皮膚の上にさらに新たなマメが何個もできていた。

 

 「あんたはね、ソバール達と違って剣もやってるのもあって元から体力があったのもあるけど、それは分厚い皮膚とマメが語ってるように最初から有ったんじゃない、人よりもたくさんの努力によって得られたものなのよ」

 

 「いやぁ、それほどでも無いよ///」

 

 シレーヌは謙遜しているが、私は知っている。夜な夜な剣の風切り音に混じって弓のツルネが聞こえてきていることを。

 

 

 

 「だからね、あんたならどんな苦境に陥っても戻ってこれる」

 

 「ハルちゃん...」

 

 二人の間に静かな空気が流れた。

 

 「....あ~あ、結局私もソバールと一緒かぁ....」

 

 「えっ?」

 

 突然ソバールが出てきた事に私は驚いた。

 

 「だって今の出来事で今日のソバールの気持ちが分かった気がするもん」

 

 「えっ、えっ?なんの事?」

 

 「本当、ハルちゃん鈍感やね〜、もういいや、何でもない」

 

 「....一体何だったのかしら?」

 

 シレーヌはそう言うと再び射位へと向かった。今度はきちんと体配に気を配りつつである。

 

 「....ホント、ハルちゃん男だったら良かったのに...」

 

 物見を向けた、シレーヌの口から聞こえた一言に、私は顔を真っ赤にした。

 

 「何なのよ!もう///」

 

 私は相変わらず訳が分からず混乱している。

 

 「ふふ、まぁありがとう、ちょっと気が楽になったわ」

 

 「なら良かったけど...最後にシレーヌ、もう大丈夫だとは思うけど一言補足しておくね」

 

 「ん?」

 

 「これからの射は当てようとはせず伸び伸びと、伸びる事に力を入れて大きく引いてみて」

 

 「分かった、やってみるわ」

 

 

 

 シレーヌside

 

 

 

 (伸び伸びと、なーんにも考えることは無いよ、ただ伸び伸びと)

 

 シレーヌはそんな事を頭の中で唱えながら、行射を始めた。

 

 (肩が凄く軽い!何か気持ちがいいなぁ♪)

 

 引き分け、大三、会と行くにつれ、普段以上に周りの景色がぼんやりと、しかし確実に見えてきた。

 

 (そうかぁ、今日は満月だったんだなぁ)

 

 空には既に月が登っている。さっきまでだったら的しか見えていなかったが、今なら外の月すらも視界に入れることが出来る。

 

 会で伸びあうにつれ、腹の下に息が自然に降りてくる。

 

 引いている。されど引いていないような、絶妙な感覚が体を襲う。

 

 

 

 キリー.キリー......トンッ、パンッ

 

 

 気持ちよく離れた一本の矢は、正鵠を射ていた。

 

 

 .........

 

 

 翌日

 

 遥side

 

 「ふぅー、今日も頑張るぞー♪」

 

 私、伊藤遥は背を伸ばしていた。

 

 昨日のシレーヌの居残り射会は、イロイロあったものの最後には自分を取り戻し、ここ一番の射をすることができていた。

 

 シレーヌだからこそ、やりきれたのである。

 

 ちなみに的中は後半落ちてしまったため、勿体ないが、100射68中であった。

 

 初めてにしては良くやったほうだと思う。 

 

 「ハルちゃん、おはよー」

 

 「おはよー」

 

 カリーネとソバールが、射場へとやってきた。

 

 シレーヌは昨日100本引ききったため今日は、フェンシングの練習である。

 

 非常に熱心である。

 

 「二人とも、調子はいい?」

 

 「ちょっと肩が凝ってるけど大丈夫だよ」

 

 「右に同じく」

 

 「よーし、なら今日も全力で引き切ろう!」 

 

 「「おー!!」」

 

 こうして、100射会2日目が始まった。

 

 

 

 キリキリー、キリキリー......トンッ! パンッ!

 

 カリーネが中てた。 

 

 二人とも、昨日と打って変わって非常に順調である。逆に順調すぎて調子に乗らないか不安であるが、多分彼女達なら大丈夫であろう。

 

 「うーん、なんか今日よく中るなぁ」

 

 「うん、私も...普段じゃこれの半分しか中らないのに....」

 

 二人とも自らの的中に驚いているようであった。

 

 「多分、長いこと練習を続けた事で体に射が染み付いて来たんだろうね」

 

 「染付く?」

 

 「うん、普段じゃ100も引かないけど、2日間丁寧に引き続けた結果、体が覚えてきたんだろうね、中るきれいな射をね。」

 

 休憩なく、適当に100本も引いたら逆に射が崩れるため良くないが、今回は、

きちんと休憩をとり体に無理をさせることなく、100本引いている。

 

 そのため、無理なく引けるきれいな射が体に身についたのだろう。

 

 

.....

 

 

 その後も、比較的順調なまま引き続け、結果としては

 

 私が100射85中、カリーネが74中、ソバールが68中となった。

 

 「ふぅ、皆お疲れ様〜、今日は普段以上にたくさん疲れも溜まってるだろうで、充分休んでね〜」

 

 そう言い、私は道具を片付け、温泉街へと向かった。

 

 たくさん引いてからのお風呂は別格である。

 

 今回何かしら皆成長することができた。そう感じられた百射会であった。

 

 




「さて、19話終わりました。なんか書いてる途中で無情に百射会したくなりました」
「開放されたら市の先生方に提案してみたらどです?」
「多分、今100も引いたらシレーヌみたいになるので止めときます。」
「やらんのかい!」
「だって、この前巻藁で50本引いたら酷いことになりましたから」
「普段から体力つけてないからこんなことになるのです、この際ランニングでもはじめてみては?」
「ランニングだけでは、なく居合も始めてみました!」
「えっ!?そんなやるとイロイロぶれますよ?」
「まぁ、試しです。居合に関しちゃ自粛のせいで道具しか買えてません」
「....道具買ったんですか」
「まぁ、素振りだけでもはじめてみました。」
「さて、作者は上手く両立できるでしょうか?」
「分かりませんが、やるだけやってみます」
「まぁ、朗報期待しています。」
次回 未定!?(いい加減歴史進めていかないと!)

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