YUMIYA~ある弓道部員の物語~   作:伊藤ネルソン

25 / 27
「皆さんこんにちは、作者です」
「同じく、涼太です」
「唐突ですが、ついにもう一本弓買っちゃいました!」
「.....また無駄な買い物を....何買ったんです?」
「特作粋の16を!」
「これまた高いものを...作者貯金大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫また月末には入るから」
「....(こりゃギャンブル中毒と変わらんな)」
「これで今までよりもよー当たるぞ!」
「多分、2キロも上げたんですから、射形崩して早けに逆戻りが落ちですよ」
「まぁ、しばらくは巻藁でのみ使ってならします」
「無理なみっともない射は見せんでくださいね」
「頑張ります」
「さて、弓矢22話始まります」
「ビィシーにて遥達が弾に物言わせて反乱軍をなぎ払っていた頃」
「花の都(笑)パリでは市街戦が始まります」
「今回は、前回と逆で国王側はせいぜい警察に毛が生えた程度のもの」
「この状況、どう乗り切るか」 
「途中より敵軍指揮官の立場に立って進めていきます」
「それでは」
「「ゆっくりしていってね」」


フランスの一番長い日②パリは燃えているか

 

 1786年

 

 ヴィシーが包囲され始めた頃、パリでは作戦会議が開かれていた。

 

「敵軍は、セーヌ川を挟んで対岸に陣取り、またあちらも河川用砲艦を用意していたようで、マルメイユより出港した砲艦隊と戦闘しております。」

 

 パリ駐屯軍の参謀が地図にならぶ船と陣地の形をした駒を指し示した。

 

 「戦況としてはどうなのじゃ」

 

 「やはり戦前の想定が功をそうしたのか、海戦は有利に進んでおります、しかし逆に敵側の沈没艦により川が遮られつつあり、浮揚、撤去作業を行いながら向かっておるためパリ到着はまだまだ先になりそうです」

 

 「うーん、流石に沈船が問題になるとは思いもしませんでしたな」

 

 ラファイエット候爵が頭を抱えながらつぶやく

 

 「そのまま、輸送船を着岸させて、歩いて進軍させたらどうなのじゃ?」

 

 私は地図をみながら思ったことをつぶやいた

 

 「それも試みたのですが、川岸はどこも防御が固く、砲艦隊との戦闘は有利に運べてもまだ上陸できるほどの状況には至っておりません」

 

 「となると、頼みの援軍は今は期待できないのじゃな」

 

 「はい.....残念ながら」

 

 参謀は悔しそうに答えた

 

 「となると、現有戦力で対処するしかないのか.....まぁ仕方ない、司令官、駐屯軍の兵力はどれくらい居る?」

 

 「はっ、およそ1500人ほとが駐留しておりますが、あくまで治安維持が目的のため、大半は憲兵隊が占めております。また武装に関しても必要最小限の物しか無く、砲に至っては皆旧式の先込め滑空砲となっております。」

 

 パリ市駐屯軍司令官が答える 

 

 「それでは、せいぜい民衆の蜂起の対処しか出来んでないか!」

 

 ラファイエット候爵が司令官の胸倉をつかんで怒鳴りつけた。

 

 「候爵、司令を責めても仕方が無い、この街を警備するだけならそれで良かったのじゃ」

 

 「それは.....そうですね、無様な姿をお見せして申し訳ございません、司令殿、わしの方こそ、対策が甘かった、申し訳ない」

 

 ラファイエット候爵は私に指摘され、司令官に謝った。

 

 「いやいや、候爵殿が頭を下げられることではないですよ」

 

 司令官が困った表情をしながら頭を振る

 

 私は両者が落ち着いたのを確認し、会議を再開した。

 

 「さて、お互いわだかまりも解けたところで再開するぞ、憲兵隊長、パリ市民の様子はどうじゃ、避難の方は完了したか?」

 

 「はい、少々時間がかかりましたが。パリ市民は皆安全な戦線より後方の町に避難させました。」

 

 「そうかぁ、避難計画をちゃんと練っておいたのは良かった、関係の無い市民を巻き込むのだけは避けたかったからな」

 

 私は胸を撫でおろした。市民の安全を一番に考えるのは革命を防ぐ上でも大切だし、何より私は国王である、極力犠牲は避けられるのであれば避けねばならない。

 

 

 「一応聞いておくが、ヴェルサイユ方面に通じる道は本当に全部封鎖されとるのか?」

 

 「はい、どこも厳重な構えであり、突破は困難です、仮に市街のセーヌ川に掛かる橋が残っていても、そこに至る道は皆封鎖されております。」

 

 

 「そうかぁ....」

 

 私含む参加者は皆頭を抱えた。分かっていたことではあるが、こうなると最早ヴェルサイユに戻るのは無理であろう。既存の兵力でパリを守り切るしかない。

 

 「さて、それを踏まえてどのように防衛するか聞かせてもらえるか」

 

 私はパリ駐屯軍の参謀に質問した

 

 

 「はい、まず第一段階として、陛下以下皆さんには後方の町に撤退してもらいます」

 

 「うむ、それから?」

 

 「それから.......」

 

 

 ........

 

 

 その夜

 

 

 「そこ、急げ!日が昇っちまうぞ!」

 

 「はいぃ!!ただいまー!!」

 

 私達政府要人が去るのと同時にパリ市内では翌日に備え、兵が忙しそうに動いていた。

 

 川岸では既に砲撃合戦が始まっており、恐らく日が昇った後に大軍が押し寄せてくるであろう。

 

 正直、この少ない時間でできることは無いに等しいが、やれるだけのことをこなしていった。

 

 ...........

 

 そして翌日

 

 「よーし、時間じゃ、渡河準備!」

 

 前日より砲撃合戦をつづけていた反乱軍は未明になるに連れ、反撃が少なくなってきたのを確認し、いよいよパリ市内へと侵攻しようとしていた。

 

 「参謀!船はどのくらいやられた!」

 

 参謀は報告書を見比べ答える

 

 「はっ、半数ほど砲撃で吹き飛びました!」

 

 「そうかぁ.....こちらの船もだいぶやられたが、それはあちらも同じはず、今を除いて機会は無いぞ」

 

 そう言うと反乱軍の指揮官も船に飛び乗り、真っ先に渡河し始めた。

 

 「指揮官に続けー!!」

 

 それを見た兵たちも我先にと乗り込みオールを漕ぐ。

 

 ドーン、バッシャーン!

 

 「おい、大丈夫か!おい!」

 

 当然砲撃は渡河するボートに集中し、鮮血が辺り一帯に飛び散る。

 

 それでも兵達はオールを漕ぎ続け、なんとか対岸まで辿り着く。

 

 船が対岸につく頃には、何故か砲撃も止み、スムーズに上陸出来た。

  

 おかしなことに上陸中は一切攻撃がされ無かった。

 

 「ははっ、敵さんも我々の軍勢に恐れを成したか」

 

 「国王といえど兵が居らねば単なる飾りにしか過ぎぬのお!」

 

 無事に上陸出来たことに安心したのか、至るところから軽口が出る。

 

 「馬鹿か!!貴様ら、無事に上陸出来たからって気を緩めるで無いぞ!.....むしろ、反撃がないのか不気味なぐらいじゃ」

 

 指揮官より怒号が飛ぶが、その怒鳴り声の後にぼそっと聞こえた言葉の方が兵の肝を冷やしたようだ。

 

 「良いか、最初うまく行く場合、たいてい後に何かあるんだ!だから気を緩めるでないぞ!」

 

 「はっ!」

 

 その後、その部隊の兵からは軽口が聞こえることは無くなったが、それ以外の部隊からはまだまだ聞こえる。

 

 「杞憂であれば良いのだがなぁ.....」

 

 指揮官は一人頭を抱えながら侵攻を始めた。

 

 ............

 

 町にいつもの喧騒は無くひっそりとしていたが、進むに連れ、兵は店舗の中に商品、食材がそのまま残っているのに気がついた。

 

 「おっ、これうちの年収でも飲めねえ、ワインだぞ!」

 

 「これなんか、輸入品の珍味じゃねえか!」

 

 兵たちは最初のうちは辛抱していたようだが、徐々に我慢が出来なくなったのか、列を離れて略奪を始めた。

 

 「あっ、こら、勝手に列を離れるでない!」

 

 指揮官はサーベルを抜き、列を離れた者を戻らせようとするが、部隊単位で略奪を始めたため終始がつかなくなっていた。

 

 「これでは、パレロワイヤルの奪還はだいぶ遅れるぞ」

 

 指揮官は顔を青ざめる。パレロワイヤルを奪還し、パリにおける拠点とするのが今日の目標である。

 

 「まぁ、仕方ありませんよ、昨日までずっと進軍を秘匿させていて疲労も溜まっていたのですから、息抜きも必要ですよ」

 

 参謀が苦笑いをしながらフォローする。古今東西略奪は軍隊の補給の基本である。現地調達出ないととてもじゃないが、軍隊を支えることは不可能である。

 

 「うーむ、しかしだなぁ......」

 

 それでも指揮官は腕を抱えて悩んでいるようであった。

 

 そこへ

 

 「連絡です!もうまもなく、パリ占領軍全軍渡河完了するとの話です!」

 

 「そうか、分かった」

 

 連絡を聞いた参謀は指揮官の方を向き提案した。

 

 「どうです?渡河が終わるまで小休止としては?」

 

 「仕方ない、終わるまでじゃぞ」

 

 指揮官は渋々ながら許可を下したのであった。

 

 

 

 しばらく後、

 

 

 「渡河完了しました!」

 

 「よし、ようやくか!全軍進撃を再開する!持ち場に戻......!」

 

 指揮官がやれやれといった表情で指示を飛ばそうとしたその時!

 

 

 ドンッドンッドンッ!!

 

 後方より爆音が聞こえてきた。

 

 「何事だ!」

 

 「はっ!渡河地点付近で建物が一斉に爆破されました!」

 

 「なんと.....それは退路を断たれたということか......」

 

 参謀がたじろぐ。そこへ

 

 「申し上げます!渡河に使用したボート、全て破壊されました!」

 

 「何!......司令官、これは.....」

 

 参謀は青ざめながら指揮官の方へと顔を向けたが、指揮官はというとさも当然のことのような顔をしながら指示をした。

 

 「あぁ、我々は最初から敵の掌で踊らされていたということだ。まぁ.....そんでも今となっちゃ行くしかない、全軍、今を良い機会に一層気を引き締めて周囲の警戒を怠らず進軍を再開せよ!」

 

 

 「はいっ!.....ッ!!.危ない!!」パーン!

 

 異変に気づいた参謀が咄嗟に指揮官を倒した。

 

 と同時に建物に銃弾がのめり込む。

 

 「イタタっ」

 

 「大丈夫か?」 

 

 指揮官は無事のようだが、参謀の肩より鮮血がにじみ出ている

 

 「はいっちょっと掠っただけのようです、それよりも早くあちらに!」

 

 「あぁ」

 

 指揮官と参謀は急ぎ物陰へと隠れた。

 

 「ちょっとまっておれよ」

 

 指揮官はポーチより包帯を出し、参謀の肩へ巻きつける。こうしている今にもどこからか銃弾が飛んできて隠れ遅れた兵の命を刈取る。

 

 「ありがとうございます。ただこりゃ隊列を維持しての進軍は無理ですね」

 

 参謀は舌を噛み悔しそうな顔をしながら話した。

 

 「あぁ、恐らく、通り沿いの建物にはかなりの狙撃兵が潜んでいるであろう....ちょっとライフルかしてくれるか?」

 

 「はぁ、何をなさるのです?」

 

 参謀は頭を傾げながらライフルを渡した。

 

 「ちょっとした探索さ」

 

 ライフルを受け取ると、自らの帽子を銃剣の先に置き、物陰よりそっと出し、すぐに引っ込めた、途端近くの地面に砂埃が立つ。

 

 「ふむ、君のライフルはよく整備されてるようだね」

 

 「何をされたんです?」

 

 「銃剣を鏡にして狙撃手の位置を割り出したのさ、一人目はあの建物の3階にいる」

 

 そう言って指揮官の指差す所を自らのサーベルでみると

 

 「なるほど、よく分かりましたな」

 

 確かに、ちらと建物の窓に人影が写っていた。

 

 「ちょっと父より習った技でな.....ちらとカルカも見えたから彼らは恐らく先込め式の旧式ライフルを使っている、対する我々はグラース、装填時間の差は活かせるはずじゃ」

 

 「申し上げます!表通りを避けつつパレロワイヤルまで到達可能な裏道を見つけました!」

 

 銃弾を飛び交う中走ってきた伝令より、裏道の存在が伝えられる。

 

「よし、では....」

 

 「うむ、隊を2隊に分ける!、1隊は建物を虱潰しに制圧し、本隊の安全なルートを確保し、もう1隊は我について裏道より、パレロワイヤルを目指すぞ!」

 

 

 「「はっ!」」

 

 弾丸飛び交う中、部隊はそれぞれ制圧部隊と攻略部隊に別れ、行動を開始した。

 

 

 ......

 

 指揮官以下、裏道攻略隊は慎重に細い路地を進んでいた。

 

 パンッパンッ!! 

 

 建物の方で乾いた音が響く。狙撃兵を発見したようだ。

 

 比較的制圧部隊の方はスムーズに行けているようである。指揮官もその様子に胸を撫でおろしながら前へと進む。だが

 

 「危ない!!」

 「ッ!!」

 

 今戦闘の案内兵が、通ろうとした所には、釣り糸が張られていた。

 

 恐らく地雷か何かにつながっているものであろう。

 

 よくみると奥の方まで一定間隔で張られていた。

 

 「危なかったな....総員絶対に踏まぬよう慎重に進め.....」

 

 そこまで言った所で参謀により命令は遮られた。

 

 「いや、大丈夫です。」

 

 参謀は少し後方に下がり銃を構えた。

 

 「何をするというのかね?」

 

 「ちょっと下って見ててくださいね」

 

 慎重に、狙いを定めながら参謀は引き金を引く。

 

 と同時に手前から奥にかけて、糸が切れる音が響き、次の瞬間

 

 ドッドッドッドッン

 

 一斉に建物の脇が爆発した。

 

 恐らくこれでトラップの類は消えたであろう。

 

 その様子を確認した参謀はふぅっと額の汗を拭いながら報告した。

 

 「処理完了いたしました」

 

 「君!よく糸の交差部分に当てたね!」

 

 指揮官は驚いた様子で褒めた。

 

 「いやぁ、射撃の腕には自身があるんですよ!」

 

 参謀は照れながら話した。

 

 「そうだったのかぁ....なら、いっそ制圧部隊に混ぜた方が良かったな」  

 

 「まぁ、それもそうかも知れませんが、私は司令官に助言いたすのが仕事ゆえ....」

 

 「あぁ、そうであったな、ならば仕方ない、これからも頼むぞ」

 

 「はいっ!」

 

 彼らは今しがた安全が確保された道を足早に過ぎていった。

 

 ......

 

 「よし、後はここを曲がれば.....」

 

 攻略部隊はその後は比較的安全に進軍出来、もうパレロワイヤルが建物の影より見える場所まで到達していた。

 

 「お待ち下さい!そっちに曲がってはなりませぬ!」

 

 「どうしたのじゃ?」

 

 「そちらには軽砲がズラッとこちらに狙いを合わせて待機しております!ゆえに、こちらへお願いいたします!」

 

 案内の兵は建物の扉を指差していた。

 

 「建物の中より迂回しながら目指すのか....多少遠回りになるが仕方ない、入るぞ」

 

 彼らは建物の中、砲兵に気づかれることなく、迂回し裏へと回った。しかし!!

 

 「ぬわ!!してやられたわ!」

 

 裏より見た砲兵隊は藁づくりの人形達であった。

 

 彼らは確認するべく、人形達に近寄った。ここで参謀が異変に気づく。

 

 「何か匂いませんか」   

  

 参謀の言うとおりあたり一帯には、ワインの香りが漂っていた。

 

 そして指揮官が人形に触ってみると

 

 「濡れている...もしかして.....ッ!、離れろ!」 

 

 指揮官がそういうや否や、藁人形に火がつき、一瞬で燃え上がると同時に、目の前の壁に見えた板が倒され、本当の砲兵隊が姿を表した。

 

 その数10門、この部隊の対応だけならお釣りが出るほどである。

 

 「feu!」

 

 号令と伴に一斉に火を吹いた大砲は、向かい側の建物をぶどう弾で、チーズのように穴ボコだらけにした。当然間にいた兵たちは悲惨な姿になっていた。

 

 「ゲホゲホッ、下がるぞ!」

 

 「ハッ!」

 

 うまく破壊範囲より逃げることが出来た指揮官参謀以下数名の兵達は、煙の中、咳き込みながら、元きたルートを引き返しつつあった。

 

 歩兵による追撃を撒いた所で指揮官は一度確認を取った。

 

 「.....ついて来れたのは何人だ!?」

 

 「ハッ私含め4名のみです。」

 

 指揮官に続くものは大半がさっきの砲撃でやられたようであった。彼は天を仰ぎながら

 

 「我としたことが......これでは攻略などできっこない....作戦変更!急ぎ制圧部隊に合流し、本隊の安全を確保する事とする!」

 

 「ハッ!」

 

 その時

 

 ドーン!!グラグラ....グッシャン!!

 

 「なんだ、何事だ!」

 

 どこからか崩壊音が聞こえてきた。

 

 「指揮官!あれを見て下さい!」

 

 「何じゃ?.....うわ!なんと!.....」

 

 参謀の指差す先には、崩れつつある建物群があった。そこには今から合流する予定の制圧部隊が突入している。

 

 「急げ、急ぎ戻るのじゃ!」

 

 彼らは急ぎ来た道を戻り、分隊地点までやってきた。

 

 だが、時すでに遅く、突入済みの建物は全て崩れきり、生存者も見当たらなかった。

 

 文字通りの全滅である。

 

 途方にくれていると、川の方からボロボロの兵が、2、3人歩いてきた。

 

 皆、疲れ果てているのか目の焦点があっていない。

 

 「どうしたのだ?本隊はどこだ?」

 

 指揮官は彼らの肩を揺らして問いただした。

 

 「はい.....上陸後、進軍を開始しようとしたとき、上流より敵がやってきて、不意を打たれた我が隊はチリヂリになりました....」

 

 「なぬ!それは本当か!?」

 

 参謀も目を見開いて問いただす。

 恐らく、交戦中の敵艦隊が我が方の防衛線を突破し、パリに到達したのであろう。

 

 「はい......襲撃を受けた多くの隊はすでに降伏しております.....さぁ、指揮官殿も降伏いたしましょう」

 

 「そうか、分かった。......降伏したけりゃ、そちの好きなようにすりゃいいが、わしはまだ諦めんぞ」

 

 「ははぁ.....ご武運をお祈りします」

 

 そういうと兵たちはそのまま、幽霊のように過ぎ去っていった。

 

 兵たちが過ぎたのを確認した指揮官は頭を抱えてしゃがみこんだ。

 

 「本隊もやられたか.....さっきはああ言ったが、我々もそろそろ腹を括るべきなのかもしれんな......」

 

 「......我々は指揮官の判断に従います」

 

 参謀は指揮官の手を握り、答えた。

 

 「不甲斐ない、指揮官ですまんな....」

 

 「いえいえ、なにもこの戦況、指揮官のせいではございません......敵が強すぎただけです.....さぁ、降伏するなら........!」

 

 「「!」」

 

 その時、ふと近くの広場に見覚えのある人の姿が見えた。

 

 「あれは....うん!間違いない!.....陛下だ!」

 

 他より高い身長、見覚えのある顔、威厳のある立ち居振る舞い。それはまさしく我が国王であるルイ16世陛下、そしてその後ろからは....

 

 「逆賊、ラファイエット.....」

 

 オルレアン派にとって君側の奸たる、ラファイエット候爵が姿を表した。

 

 「前言撤回だな.....」

 

 皆で顔を見合わせて頷きあった後、指揮官は改めて指示を下した。

 

 「我々はまだ、降伏などせぬ!目指すは、ラファイエットの首唯一!!」

 

 指揮官はサーベルを抜くと、天高く振り上げた。

 

 「者ども!かかれー!」

 

 「「ワァー!!」」

 

 号令一下、銃を持つものは銃を、剣を持つものは剣を構えて、表通りへと飛び出た。

 

 それから脇目もふらず、ラファイエット候爵目指して、一目散に駆けてゆく。

 

 「なんじゃ、何事だ!」

 

 「敵襲です!」

 

 戦勝気分が漂っていたパレロワイヤル前の広場に集う国王派の兵たちは突然の襲撃に対処が取れなくなっていた。

 

 「急げ、急ぎ撃退するのじゃ!」

 

 準備の出来たものより配置に付き、撃ち始めるが、いかんせん旧式のマスケットである、装填時間の長さは致命的であった。

 

 対する、反乱軍側は4人だけとはいえ、後送連発式のグラースであり、うち1名は射撃の名人である。迎撃体制の整っていない、国王派の兵を次から次へと討ち取っていった。

 

 (あと、70.60.50メートル!!)

 

 (このまま、走りきればもしかすると.....)

 

 だが、反乱軍側の勢いも長くは続かなかった。

 

 距離が近づくにつれ、弾も集中しだした。

 

 そして

 

 「あっ!....」バタッ!

 

 「ウッ!!」ドサッ!

 

 味方の兵が、二人ともやられてしまった。

 

 そして 

 

 パーン!! カチカチ!

 

 「あれ!?」ガチャガチャ! 

 

 「よし、今だ!!突撃ー!」

 

 参謀の持つライフルの弾が切れたのを機に、指揮官と参謀は兵達に取り押さえられてしまった。

 

 「むぐむぐ!」

 

 彼らはもがくがとても脱出できる状態では無かった。

 

 しばらくそうしていると.....

 

 「......二人を離してやれ」

 

 その号令により、二人を押さえていた兵達は離れていった。

 

 指揮官は立ち上がり、見ると遠くより、将校とおもしき人物が歩いてきた。

 

 その人こそ.....

 

 「ラファイエット候爵!」

 

 そう、彼ら二人が死にものぐるいで求めたラファイエット候爵が歩いてきたのだ。

 

 彼らは武器を構えようと腰の辺りを探った。 

 

 だが、先程の攻防で取られたのか、何も無かった。

 

 実質捕虜になりかけている身である、仕方が無い。

 

 それに気づいたラファイエット候爵は.....

 

 「ああ、すみませんね。ちょっとサーベルとライフルは回収させてもらいました」

 

 彼はタハハと頭を掻きながら話した。

 

 「いえ、お気遣いくださらなくとも大丈夫です」

 

 「今ここで降伏すると答えてくれれば、すぐにでもお返しいたしますが......」

 

 ラファイエット候爵はちらと上目遣いで呟く。

 

 この状況、ほぼ選択肢は限られているであろう

 

 「はい、分かりました.....と言いたいところじゃが、生憎私頑固なものでしてな、貴方方に下るぐらいなら、参謀とともに組み合ってでも貴方を倒し、その後舌を噛み切って自害するじゃろう」

 

 指揮官はキリッとした表情答えた。

 

 「貴様ぁ!」

 

 「この状況でまだそんな戯けた事を.....」

 

 兵達の銃口が頭に当てられる。

 

 「まぁまぁ、離してやれ....」

 

 ラファイエット候爵の指示でいやいやながらも兵達は離れた。

 

 「その意気、見事です!しかし、私もむざむざやられたくは無いですから......ここは、一つ勝負をいたしましょう!ここへ......」

 

 ラファイエット候爵は副官に日本の剣を持ってこさせ、片方を指揮官に渡す。

 

 よくみると、剣には刃が付いていない。

 

 「これは.....」

 

 「これは私の学校で使ってる剣でしてな、安全に剣の修行が出来るのですよ。これを使ってもし、貴方が勝ったなら、武器をお返しした上で解放いたしましょう。逆に私が勝ったら.....」

 

 「大人しく軍門に下れと.....?」

 

 「理解が早くて助かります。その条件で一つやってみませんか?」

 

 ラファイエット候爵は少年のような笑顔で剣をくるくる回しながら話す。

 

 

 指揮官も少し考えた後、

 

 「良いだろう....」

 

 提案に乗ることにし、ラファイエット候爵と間合いを取った。

 

 「ありがとうございます、では私も本気でやらせてもらいます。」

 

 周りの人々も蜘蛛の子を散らすように広がり、ラファイエット候爵は舘を背に剣を構えた。

 

 場に静寂に包まれた。

 

 お互い隙を探り合っているようで、互いに動かない。ようでよくみると剣先や目が僅かに揺れ動いているのが見える。

 

 「いやぁ、今回はやられましたわ、まさか砲艦隊がほぼ無力化されるなんて.....」

 

 「ありゃ、たまたまですわ.....それよりも貴方方の戦略の方が凄まじい、旧式の武器で我々を追い返すとは」

 

 お互い笑顔で互いの戦略を褒めだした。だが、ピリピリとした雰囲気は変わらない

 

 

 「お宅が使ってらっしゃったグラース?どうやって手に入れたんですか?」

 

 「それは今はお答え出来ぬ」

 

 「じゃ、それも私の勝った時の条件に追加ということで......」

 

 「うーん、中々目ざといのぉ」

 

 「今は全体としては劣勢なのでね!」

 

 そういうや、ラファイエット候爵は剣を突き出した。

 

 指揮官の胴に剣が近づく

 

 と彼は胴をひねりつつ相手の剣を払い、その勢いで一気に近づき

 

 鍔迫り合いとなる。

 

 「少なくとも、我々に、とってここは負けてるかもしれぬが.....」

 

 ぎりぎりと、お互いの剣がしなる。

 

 「貴方方に反発するほぼすべての兵力が参加しているため、我々の攻勢はまだまだ続くであろう!」

 

 そういうと、ぱっとお互い離れ、再び間合いを取った。

 

 「そりゃ、参りましたなぁ.....だけど、我々そんな嫌われることしましたっけ?」

 

 「度重なる特権の廃止、そして今回の徴税権の剥奪、ありゃ我々のような弱小貴族には首を締められたようなものじゃ。あれのせいで私の友人たちも何人も首を釣って死におった....」

 

 「それは.....だけど!我々も禄は提供したため生活に困ることは無いはずと思われますが....」

 

 「そりゃ、規模のデカい伯爵様とかは問題ないかもしれぬが、元より収入の少なかった者は与えられる禄も当然減ってて、使用人に回す金すら無いらしいわ」

 

 「あれ!おかしいな」

 

 その話を聞いたラファイエット候爵は顎を抑え考え込む。

 

 「戦闘中に下をむくとは!なめられたもんだな」

 

 ここぞチャンスと見た、指揮官は再び間合いをつめ、突き出した。

 

 「いや、ちょっと待って下さい!今、使用人に回す金すら無いと言いました?」

 

 ラファイエット候爵は慌てて剣を払った後、タンマとばかりに両手を挙げた。

 

 「ああ、そう申したが.....」

 

 指揮官は剣先をラファイエット候爵に向けたまま答える。

 

 それを聞いたラファイエット候爵は先程よりも混乱した表情で話した。

 

 「どうもおかしいです!」

 

 「何がだ!!」

 

 「我々は禄を配布するにあたり、収入だけでなく、その家の支出も考慮して配布しました。当然、使用人への給与も含めてです」

 

 「そんなの出鱈目では無いか?実際私の禄もそんなに無かったぞ!」

 

 そこへ

 

 「いや、この紙にはちゃんとそれ相応の金額が払われたと書かれているぞ」

 

 「陛下!?」

 

 国王ルイ16世が書類を持って現れた。

 

 突然のことに指揮官も慌てて、剣を下ろす。

 

 「陛下!?まだここは、危のうございますぞ!後方へお下がりください!」

 

 ラファイエット候爵は陛下に注意するも

 

 「いや、この町においてもう大勢は決したであろう.....それよりも」

 

 陛下は指揮官に直接紙を見せ渡した。

 

 指揮官は畏みながら紙を受け取ると、目を大きく見開いた。

 

 「な、なんと....」 

 

 そこには受け取ったよりも遥に多い金額が書かれていた。

 

 「そちのもとに届いたのはいくらであったのだ?」 

 

 陛下は優しく語りかけるように質問した。

 

 指揮官は手をぷるぷる震わせながら

 

 「この半分もありませんでした......」

 

 と答えた。

 

 「うむ......そういえばそちの領地は西部の方じゃったな」

 

 「はぁ、よくご存知で......」

 

 「一度会ったものの事を余は忘れぬのでな!となると、貴領への街道はオルレアンを通るのか?」

 

 「確かに通りますが.....!もしや!」

 

 指揮官と陛下、ラファイエット候爵は顔を見合わせた。

 

 「オルレアンで何かされたのかもしれぬな!ラファイエット候爵!今すぐ捕虜にした反乱軍の貴族達に聞いてきてくれ!」

 

 「ハッ!」

 

 そう言うと、ラファイエット候爵は去っていった。

 

 彼が去ったのを見届けた後、陛下は指揮官へ頭を下げた。

 

 「すまなかった!」

 

 「どうか頭をお上げください!陛下が謝られることではないです!」

 

 「いや、国民を守るといいながら、貴方方貴族の事を守ることが出来なかった!すべての責はわしにある!...そこの君!指揮官にサーベルをお返ししなさい!」

 

 サーベルを預かっていた兵は慌てて指揮官に返した。

 

 「さぁ、この首、貴方に授ける!思いのままに切り落とせ!」

 

 「陛下!?」

 

 「陛下!?お気を確かに!」

 

 周りの兵たちが慌てて制止に入るも

 

 「だまらっしゃい!」

 

 陛下の一喝で皆離れた。

 

 その様子を見届けた指揮官は静かに

 

 「陛下.....私は色々誤解しておりました。私の方こそ申し訳ございません」

 

 陛下の元に跪き、頭を下げた。

 

 そして、サーベルを抜き、捧げ持ち懇願した。

 

 「そして、もしお許しくださるのであれば、陛下の軍勢の末席に加えさせてもらえませんでしょうか」

 

 「もちろん、こんな情けない君主の元で良ければ.....」

 

 陛下は頭を上げると、指揮官の首筋に当て、柄に口づけをした。

 

 いわゆる、刀礼である。

 

 「これより、アラン子爵陛下とともに参ります。」

 

 「うむ!期待しておるぞ!」

 

 これを以てパリ市街戦は終わりを迎えた。

 

 その後、ラファイエット候爵が明かしたオルレアン公による禄横領が敵方にも伝わり、敵は瓦解したように見えた。

 

 しかし、

 

 「英国、我が王国に宣戦布告!」

 

 自体はより一層深刻になった。

 




「弓矢22話終わりました」
「今回珍しく長引きましたね」
「やっぱり戦闘はいやでも長くなっちゃいますね」
「ですが、結局指揮官殺さなかったんですね」
「なんでしょうね、最初はモブキャラとして適当なとこで退場していただくつもりだったのですが......」
「愛着が湧いてしまったと......」
「まぁそゆことです」
「にしては名前がモブですね」
「いやぁ、思いつかなかったもので....」
「まぁ作者の脳みそじゃそんだけしか想像つきませんよね(ボソッ)」
「今なんと?」
「なんでもないです」
「コホンっ!まぁいいです」
「コロナですか?」
「違います!さっさと終わりますよ」
「はーい」
「それでは」
「「ありがとうございました!」」

 次回

 「右砲戦!目標敵先頭艦!前方より分火!」
 
 フレンチ装甲艦隊vsロイヤルネイビー本国艦隊

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。