カーテンの隙間から覗く朝日に照らされて、パジャマ姿の少年━━神川 仁は机の上にある目覚まし時計の騒音で目を覚ました。
机の上で、騒音を鳴り響かせる目覚まし時計を止めようと、仁が立ち上がろうとした瞬間、ある違和感に気づいた。
「………ん?」
部屋にはベッドがあるのだが。少年はベッドの上ではなく、ベッドの横、つまりは床にいた。
べッドから落ちた記憶は無く、かと言って就寝時から床にいた記憶もない。
そもそも、家に帰ってからベッドに入るまでの記憶が曖昧で、そんな事があったかどうかさえ思い出せない。
昨日、少年は月にて、墜落し、襲撃され、落とされ、月"旅行”とは名ばかりの、壮絶な体験をした後。
紫のおかげで月からは帰れたのだが。
スキマの先、幻想郷と少年の家を繋ぐドアがある場所である博麗神社。
その地で、自分を『文々。新聞』という新聞の記者を名乗る、背中に黒いカラスの様な羽を持った少女が、突然博麗神社に現れ、仁に
インタビュー、もとい尋問を受けて、解放されたのは2時間後。
すっかり疲れ果てた少年は、家の、もっといえば自分の部屋につくなり、ベッドに倒れ込むように寝たのだ。
「深くは…考えない方が良いか」
そして、少年は立ち上り、窓のカーテンを開け、ベッドの上に取り残された毛布を畳もうとベッドに近付くと。
モゾリ、と、ベッドの上、毛布の下で
「ひっ!?」
少年は間の抜けた声を出し、飛び上がった。
そして、少年の頭の中で数多くの考察が飛び合う。
虫だろうか?いや、虫はこんな毛布を動かす程の力はないし、かと言って毛布を動かせる程の数がいるとも思えない。
猫だろうか?だが、そもそも仁の家では猫は飼っていない。野良猫にしても、戸締りだけはしっかりしていたから可能性は低い。
そして、またモゾモゾと毛布が動く。
考えられる可能性は他にあるとすれば。
人、だろうか。
「……………」
怖い
純粋に、少年は心の中でそう思う。
何せ、少年はそんな類の話が大の苦手なのだから。
世界では、屋根裏部屋に潜み、家主が寝静まった頃に食料を漁るような"同居人”の話は、テレビでも良く紹介されている。
(いや、待てよ。俺の知り合いに他人のベッドに潜り込むような変人はいない……うん、いないと思いたい!)
そして少年は覚悟を決め、毛布を手で掴むと。
バサッ!と取払った。
毛布の下、モゾモゾと蠢いていモノの正体は
一人のショートヘアの少女だった。
くうくうと寝息をたてながら、仰向けとなって寝ている少女は白のパーカーを着ていたが、よく見るとそのパーカーは仁の物だった。そして、その少女はパーカーしか着ているようにしか見えず、ダボダボとなったパーカーが足のももの辺りまで覆っていた。
「???」
少年は、まずこの少女に見覚えが無いかと顔を見た。
その顔は昨日、月にて仁と共に行動していた、あのウサ耳兵士の"鈴華”だった。その頭から生えたヨレヨレのウサ耳がそれを確証させた。
「は?え、え?」
動揺する仁を横目に、ベッドの上の鈴華が、
「何…?」
と、言いながら起き上がった。
眠たそうな目をこすりながら、仁の方を見ている鈴華は、
「あ、仁君。おはよぉう…」
と、今度は大きな欠伸をしながら言った。くせっ毛だらけの髪の毛や、ダボダボのパーカーのせいで本当に彼女が昨日会った、"あの”鈴華なのか疑問に思う。
「おま…な、なん、で?」
「あれ?ボクの事、紫さんから聞いてないの?」
ツッコミたい所が四、五箇所程あるが、仁はとりあえず。
「紫!?紫っつったか!!???」
仁はその名前を聞いた瞬間、ベッドの上に充電されながら置いてある携帯電話に飛びついた。
そして、携帯の電話帳にあった紫の名を見つけると直ぐに電話をかけた。
だが…
「…って、繋がんない!?」
耳に当てた携帯からは、ツーツーという機械音、そして次に『おかけになった電話番号は……』から始まる合成音声が聞こえた。
「あんの野郎、何考えてやがる……」
そう呟くと、携帯電話を机の上に置く。
「じゃあ、お前は何か知ってるのか?」
今度は、ベッドの上で足を組んで手を伸ばす鈴華に聞いた。
「うん、でも…」
「でも?」
そして、鈴華は少し俯くと。
「その前にご飯、頂いても良いですか?」
そう、申し訳なさそうに言う、少女の頬は赤く染っていた。
「で、何で、お前は、俺ん家に、いるんだ?」
そう、仁が言う。
仁と鈴華は、仁の家のリビングでそれぞれ朝食をとっていた。
無論、用意したのは仁である。
そして、トーストにした食パンをバクバクと、そうパクパクなんて上品な咀嚼音ではなく、バクバクと擬音がつきそうな勢いで食べる鈴華が、
「紫さんから、今日からあなたの住む所よ、って言われて」
と、あまり似てない紫のモノマネで語る鈴華に。
「ふざけんなっ!俺に何の説明も無し、でか!?」
「だって、紫さんが、私から話はつけとくわよ、って言ったから…」
はぁ…と仁は溜息をつくと、目の前で二枚目の食パンに齧り付く鈴華を見て。
「なあ、お前さん本当に鈴華だよな?」
「そうだよー」
「昨日会った、兵士のだよな?」
「そうそう」
「あの、襲撃してきたヤツらを全滅させた?」
「合ってるよ」
そして、仁は一度間を空けると。
「……そんな性格じゃなかったよな?昨日のお前」
「そりゃそうでしょ、誰にだって仕事のスイッチON・OFF出来なきゃ疲れるよ」
「確かにそうだけど…そのスイッチの出力、イカれてんじゃねえのか?」
「失敬な。兵士たるもの、自分に悪影響が出ること前にしっかりと体調管理するものだ」
と、余りない様に見える胸を張りながら鈴華は言う。
ひとまずは鈴華自身の性格については分かったが。謎はまだ残る。何故、仁の元へと連れてこられたのか?そして、何故ボクっ娘なのか。
後者はともかく、仁は鈴華と行動さえ共にしていたが、そこまで親しくしていたつもりもない、だから仁には、何故ここまでフレンドリーに接してくるのかが分からなかった。
「で、だ!本当に、何で俺ん所に?お前さんなら、月で兵士やってたはずだろ?」
そして、鈴華が何故か観念したように、
「分かった分かった、言うって…」
と言う。
そして、何かを話したくて、うずうずしている子供の様なかおで。
「ボクがここに来た理由、それは……」
「そ、それは?」
「ボクが、君の相棒に任命されたからさ」
「………はい?」
呆然と、ただ呆然と少年はポカーンと口を開けたまま、静止した。
そんな、少年をよそに目の前のウサ耳少女は残りの朝食を食べるが、仁の様子がおかしい事に気付いたようで。
「もしもーし。生きてる?」
「あー…生きてる…じゃなくて、今何て言った?」
「だから、ボクは君の相棒として、紫さんから送られたんだよ」
「おかしい…絶対におかしい…!!」
「えっと…おかしいって何が?」
「全部!!そう、全部ですよ!」
「と、とりあえず落ち着いたらどう?」
若干引き気味の鈴華が、半狂乱状態の仁に言うが。
「落ち着けるか!?」
と、仁はどんどん変な(危ない)方向に向かっていっている。
鈴華が、仁への対応に困り果ててた、その時。
ブーブーと、仁のズボンのポケットから聞こえてきた。
「あ?誰だ…って」
と、スマートフォンの液晶画面を見て言うと。
「もしもし、ちょっと2つ3つぐらい聞きたいことが有るんだけどよ。勿論、1から10まで説明してくれるよな?紫さんよぉ」
『あら、私はてっきり感謝されるものかと思ったのだけど』
そして、聞こえたきたのは紫の声だった。
「いや、本気で教えてくれ。これは一体どういう事なんだ?」
『これ、ってどの事かしら?』
「何で月にいるはずの鈴華がここに居るんだ?いつかの俺みたいに誘拐したんじゃねえんだろうな?」
『誘拐なんて人聞きの悪い…。彼女は、貴方宛の"慰謝料”よ』
「慰謝料?」
『そう、慰謝料よ。貴方、昨日月の民の件で色々あったんでしょう?』
「ああ、確かテロリストに襲われた…ってそれと関係が?」
『ええ、あの一件のことが
「お姫様?」
『鈴華の"元”上司よ』
「なるほど?」
『それで、話し合った結果。他言はしないしさせない、けどそちらでの有能な兵士を一人寄越すこと、という事になったの』
「そんで、その有能な兵士が、コイツだと?」
と、一瞬仁は、目の前で座る鈴華に目をやる。
『彼女は優秀よ、
「紫さーん、聞こえてますよー」
と、ピクピクと耳を動かせながら鈴華は口を挟む。
「経緯は分かった。じゃあ、何で俺の所に鈴華を?」
『彼女から聞いたでしょう?』
「聞いた聞いた…で?相棒って、どういう事だ?」
『そのままよ。良い?現状、貴方に"依頼”を任せるのには、あまりにもリスクが大きすぎる。そのための彼女よ』
「でも、人材があっても。装備がないだろ?鈴華はともかく、俺は武器がないと何にもなんないだろ?バルがあの状態だと、物資のアテが無い」
彼が相手してきた相手━━━妖怪などには、銃をもってして、やっとのこと対等に相手が出来たようなもの。武器がなければ、彼は戦うことも出来ないし、場合によっては抵抗さえも出来ないだろう。
『それに関しては問題ないわ。でも、そんな事よりも私は貴方に聞きたい事がある』
「聞きたいこと?」
『貴方の意思よ』
急に、スマートフォンの向こうから聞こえてくる紫の声の雰囲気が重くなるのが感じた。
先ほどの軽い口調とは違い、今度は重く、言うなればシリアスな声色で紫は、
『貴方は、本当に"妖怪退治”をしたいの?私の依頼を受けたいの?』
「それは……」
『貴方自身も分かるでしょう?この件に関われば貴方自身、無事では済まないことも』
「………」
少年にとって、そんな事はもうとっくに分かりきっていた。幻想郷の各地での体験で、それは嫌というほど味わされているのだから。
『だから、貴方の真意を聞きたくて。理由もないのに、ここまでする必要もないのよ?』
「分かってる…けど」
『けど?』
そして、仁は2、3秒ほど黙り込み。
やがておもむろに口を開くと、
「ここまで来たんだ、やるしかないだろ?」
そう言う仁の顔は、決意がみなぎっている。
『それを聞いて、安心したわ。正直、あそこまで痛めつけられて、そんな事を言うなんて思ってもいなかったわ、流石よ貴方』
と、紫はさっきの様なシリアスな口調から、最初の胡散臭い喋り方に戻る。
「そうか」
そんな紫に仁は素っ気なく返す。
『それでは、早速』
そう紫が言った瞬間、
ピロリンと仁のスマートフォンから音が鳴る。
『後は、メールに書いてあるわ。それじゃあ、また会いましょう』
「あっ、ちょっ待て……よ」
仁が言い終わる前に、紫は一方的に切っていった。
「ねえ、仁君。その、紫さんが言ってたメールには何て書いてあるの?」
と、今までずっと大人しくしていた鈴華が聞いた。
「その前に、お前は何でさっきから話してた内容が分かるんだ?別にスピーカーにはしてないんだぞ?」
そう、仁が聞き返す。
「何って勿論、ボクは玉兎だよ?。この耳は飾りじゃないんだって」
と、鈴華は言うとさっきと同じように、自身のウサ耳をピクピクと動かす。
「……やっぱ、お前って見た目だけ人間なんだな」
「何を今更」
そうか、と仁は言うと手に持っていたスマートフォンを、テーブルの中央に置いた。
画面には、スマートフォン内のメッセージアプリが開かれており、そこに紫から送られてきたメッセージが書いてあった。
内容は、
次の連休前の木曜日までに、指定の場所に集合せよ
そして、このメッセージの下には仁の家からさほど遠くない場所の住所と集合時間が書かれている。
「あれ?この住所どこかで見たような……」
仁が送られた住所を見て言う。少年はどちらかと言えば、住所などは覚えない人間だ。だから、行ったことある場所でも、道だけで覚えてしまう。
「知ってる場所?」
「多分な。けど、どこだったかな」
「まあ、そのうち分かるんじゃない?」
「だと、良いけどな……」
2人は朝食の片付けの後、仁の部屋に移動した。
仁は椅子に、鈴華はベッドにと、それぞれ座っている。
「お前って、月?から来たんだよな?」
と、仁が口を開く。
「さっきから、そうだって言ってるでしょ?」
「それじゃ、
「確かに
「なるほど。で、楽しいのか?こっちは」
「うん、まあまあ」
「何だ、まあまあって」
「だって、ボクはまだ地上の文化には触れてない。これじゃ楽しもうにも楽しめないよ」
彼女が見た地上の世界というのは、まだ仁の家の中というひどく限定された場所のみだ。そう思うのも無理はないだろう。
「そりゃ確かに」
「でも、さっき食べたパンとかも初めてなんだ。月じゃ同じもんしか食べれなかったし、結構新鮮な体験だった」
満足気な顔をしながら喋る鈴華に仁は、
「そんなら、良かったな」
と、笑みを浮かべるのであった。
「そういえば紫さんから伝言があったんだっけ」
「伝言?何で、さっき言わなかったんだ?」
「さあね。それはともかく、『あの、スーツは気に入ったかしら?世界にふたつもない貴重品だから、大切にね』だって」
「………なるほど、そういうこと」
「何だって?」
「いいや、ナンデモネーヨ」
という訳で、登場しましたこの小説で、細かい人も入れると4人目のオリキャラの鈴華です。
前回の話でも伏線を書きましたが、回収されるのは結構後になると思ってください。
今回はこれで。
誤字や脱字、おかしな文があったら報告して頂けると幸いです!
それでは、今回もこんな小説を読んでいただきありがとうございました!!