〜10分後〜
たったの一時間程度しか時は経っていないのにも関わらず、空の色は気持ちの良い青から、今すぐにでも降り出しそうな灰色の空へと姿を変えていた。
そして、とある山道を一人、少年━━神川 仁は逃げるように走っていた。
「はぁはぁ…」
荒い息をたてながら全力で、だ。仁はTシャツとジャージのズボンを履いており、まるで部活のトレーニングでもしてるかのようだ。まあ、彼は半年ほど前に部活の方は引退しているのだが…。
そして、彼は別に逃げているわけではない。だってここは、平凡で静かな山の中だ。妖精も、妖怪も、神様もいない。
そして目の前には、彼をここまでして走らせる
「あれ?もう疲れたのぉ?」
目の前には、ニヤニヤとした笑顔を浮かべて仁を見ながら鈴華が同じように走っていた。彼女は、Tシャツに短パンに身を包んでいる。そして仁とは違い、その足取りは軽く、まるでランニング気分で楽しんでいるような様子だ。
「うるさい。こちとら部活引退してから、まともな運動してないんだぞ!」
どうして2人が山の中を走っているか、それを知るには約三十分前に遡ることになる。
『まずは、基礎体力をつける。なに、単純に裏にある山を一周するだけで良い。……いや、それだとつまらんな。そうだ、こうしよう。二人で競走して、負けた方はペナルティーね』
『ペナルティーって何を?』
『何を?』
『秘密』
そういう訳で、二人は真昼の山の中で競走している。
当初は意気揚々と挑んでいた仁だったが、コースが中盤くらいに差し掛かると二点ほどの問題が出てきた。
一つは、自身の体力不足。数々の戦いに末に、多少はついているだろうと思っていた体力は思っていたほど…いや、全くついておらず、数十分たてば息は切れ、足の疲れや痛みが出てくるなどの救いようのない悲惨さだ。
二つ目は、競走相手が強すぎるということ。何せ、鍛え上げられたスポーツマンでさえも疲労するだろうこの山中のコースを、彼女は汗の一滴も流さず、呼吸さえも乱さず、それどころか余裕しゃくしゃくの顔で、先程から仁をからかい続けている始末。
だが、よく考えてみれば、彼女は元?軍人だった。そりゃ、それなりの体力があるのは当たり前だろう。(そもそも彼女が人間ではないからかもしれないが)
「鈴華…」
と、仁が聞く。そう言う言葉にも疲労が現れており、今にも倒れそうなほど、弱々しい声になっている。
「ん?どうしたの?」
「残り…どんくらいか分かるか?」
時間にして一時間、体感的には小学校高学年の遠足並みの距離は走っただろうとは思っている。ここは郊外の近くの山だ、そんな山奥じゃあるまいし距離はそんなにないだろうと仁は思う。そして仁的には、走り続ければ残り十分もしない内に終わるだろうと━━━━━━
「半周ぐらい走ったから。このペースだと、あと四十分ぐらいかな?」
「………」
うん、だろうと思った、と仁は心の中で呟く。それ以前に、今喋ったら肺の痛みが増しそうだからか。
「大丈夫?休もうか?」
鈴華が先程のような挑発するようなニヤニヤとした顔から心配するような表情に変え、腰に携えていた水筒を仁に渡そうとしながら言うが、
「いい。このまま…走る…」
と、仁は強がりを見せるが、鈴華にはもうお見通しのようで、今度は水筒を仁に押し付ける様に突き出すと、
「ダメ。こんな所で脱水症状になって死ぬようじゃ、この先ボクが不安になる」
「お前が不安になるんかい。……あー分かったよ、分かったから、休みゃ良いんだろ?」
観念したように両手を上げて、仁は立ち止まる。そう、別に時間内にゴールしろとか、ではない。単純に競走しろ、とだけ言われたのだ。もう負けが決まったようなものだ、こうやって休もうが、問題はないだろう。
「鈴華はキツくないのか?」
木に背中を預けて、鈴華から渡された水筒片手に仁が聞く。
「別に何ともないよ。だって、あの時に比べりゃ…」
「あの時?」
「……いや何でもない」
そして、鈴華は「それよりも…」と、話題を変え、
「キミの方は大丈夫?」
「大丈夫…じゃない。正直に言うと、もう立ちたくない」
すると急に、鈴華が両手を合わせて、
「ゴメン!!調子に乗っで走り過ぎ…」
「バカ」
鈴華の言葉を遮ると、仁は持ってた水筒で、頭を下げている鈴華を小突く。
「あいたっ」
「真剣勝負の時に、そういうことは言わないの。こういう勝負とかで謝るなんて以外と傷つくんだぜ、人間は」
人間とは、だいたいの勝負の時、手加減や謝罪などの勝負の相手を気遣うような行為は、人にもよるが大抵、自分の事を貶されたと思ってしまう。
「うぅん…。分かった。勉強になった」
「なら、よろしい」
そして仁は、水筒を鈴華に投げ渡すとよろめきながら立ち上がる。
「どうせなら、歩いていくか?ゆっくり見たいんだろ、こっちの森」
と仁が聞くが、鈴華は首を横に降って、
「いいよ別に。それに、キミが走るのが嫌なだけじゃないの?」
「可愛げのねえヤツ。間違っちゃいないけど」
「でしょ?…まあ、良いよ。歩いてこう。謙二さんには怒られそうだけど
そう言う彼女の顔には、再びニヤニヤとした笑顔が戻っていた。
「違いない」
と、仁は笑いながら答える。
「さて、行こうか」
「了解。次はお手柔らかに頼む」
「……ごめん、やっぱり無理そう」
そう鈴華は、空を見上げて言う。仁も同じように空を見上げると、
ポツン
と、仁の鼻頭に何かが当たった。そのちょっぴりと冷たいソレは頬、額と続けざまに降り注ぐ。
「…残り、どんくらいかかりそうだっけ」
「一時間だね。認めたくないけど」
「うん、急ぐか」
「すぐ止むかな」
「分からん」
そして二人は、全力で走りだした。
二人は降り注ぐ雨で全身を濡らしても、水溜まりに引っかかっても、泥で足が取られようとも、その足を止めることは無かった。
数十分後、屋敷の玄関にて待機していた健二の前に現れたのは、泥と擦り傷まみれの仁と、泥まみれとなっている鈴華だった。
二人とも、雨水により全身がずぶ濡れだ。
「どうしたんだね、君たち!?」
健二が聞くと、はぁーと鈴華が溜息とともに吐き出すように、
「仁君が、雷の音に驚いて森の中で転んじゃってねぇ」
「すんません…」
「茂みの中で動けなくなった仁君を助けたのは誰だっけかな?そんで、また滑って転んで誰を巻き込んだのかな?…」
「ほんと…ほんっとに、すんません」
そして最後にもう一度大きな溜息をつくと、そのまま膝から崩れて座り込んで一言、
「あぁもう疲れたぁ…」
走ってた時には疲れてそうに見えなかったのに、という野暮な疑問を喉の奥に押し戻すと、仁は聞く。
「で、次はどうすれば良いのさ?」
「時間も時間だ。まずは風呂にでも行って、心と体を休めると良い」
健二は、廊下の向こうのドアを指差しながら言った。
すると、鈴華がガバッと顔を上げて、
「ボクが最初で!!」
と、言って。靴を脱ぎ捨てると、廊下の向こうにあるドアの方向へと駆けて行った。
「カーペットに泥が……あぁ、また母さんに怒られる」
健二は虚しく、そう呟いた。ここで、健二が言っていた"母さん”というのは仁の祖母のことだろう。
「そういや、ばあちゃんはどこ?」
「…あぁ、今はお前の父母らといる」
「何で、父さんと母さんと一緒にいんだよ…」
そう現在、仁の両親は
「さぁ、どうだかな」
現在、時刻は午後五時をまわったところ。外では、天候が雨と、季節が冬だからとあって窓の外は真っ暗になっている。
仁らがいるこの屋敷は、幻想郷にある紅魔館とは違い窓は多くあるが、今は外から来る雷の青白い光と、窓に打ち付ける雨の音のせいで、同じ洋館である紅魔館よりも不気味な…そう、まるでゾンビでも出てきそうな雰囲気だ。
「はぁ…。で、じいちゃんは妖怪を監視するのが、俺たちの役目って言ってたけど、じいちゃん一人でどうにかなんないの?」
「無理だ。この老いぼれが、役に立てるとも思えん」
「なるほど…」
外では、変わらず雨粒が窓に打ち付けられ、空では雷鳴が絶え間なく鳴っている。
「あぁ、そうだ」
と、急に健二が何かを思い出したように言った。
「どうかしたのか、じいちゃん?」
「君たち、どっちが先にゴールしたのかね?」
「さあ?鈴華に肩借りながら来たから覚えてない」
「じゃあ仁、お前がペナルティーだな」
「んな、理不尽な…」
「つべこべ言わずに早くしろ。鈴華君に迷惑掛けたのはお前だからな。終わらすまで風呂は入れんぞ」
「クソっ…不幸じゃねえか!」
と、仁は決して狭くはないこの玄関で腕立て×100、腹筋×50のセットを、戻ってきた鈴華に止められるまで延々と続けるのだった。
〜幻想郷〜
同時刻、幻想郷の博麗神社では二人の少女が話をしていた。一人は博麗霊夢、この博麗神社の家主でもある自称"楽園の素敵な巫女”。もう一人は霧雨魔理沙、霊夢の友にして魔法使いの少女。
二人は、最近起きた"とある異変”について話し合っている。
「はぁ、最近は異変異変って休ませてくれる暇さえないわね…」
と、霊夢がテーブルについた手に頬を置きながら言う。
「そう言うなって。むしろ私としては退屈しないから良いんだけどな」
「あのねぇ、異変のせいで二回も神社を壊されたこっちの身にもなってみなさいよ」
「あはは、悪い悪い」
博麗神社の柱を見れば、それが新築された様に真新しい木材で建てられているのが分かる。
「ねぇ、魔理沙。あんた最近、
と、霊夢が聞いた。
「ソイツって、頻繁に人間を襲って、見たことない姿で、弾幕が効かないようなヤツのことか?」
「やっぱり、魔理沙も見たのね」
「まぁな。……で、その様子だと相当痛めつけられたらしいな」
そう言う魔理沙の視線の先、霊夢の腕には包帯が巻かれている。そして彼女は知っている、霊夢には並の妖怪程度が挑んでも傷一つ付けられないことを。そして、包帯が巻かれる程の傷を彼女が一度も負ったことが無いことも。
「まさかラストスペルまで使わせられるとは思わなかったわ…。あんた的にはどう思う?」
「どう思うって聞かれてもな…。まぁ、危険だと思うな。私のマスパでしかダメージが入らないとなると本格的にマズい」
「そうね。…まさかとは思うけど、そんな得体の知れない妖怪に何度も戦いに行ったんじゃないでしょうね?」
「なんだ、バレてたか」
そう言うと、魔理沙は白黒の大きな帽子を頭から外した。帽子の下では、彼女の金色をした髪の上から、生々しい血が滲んだ包帯が乱暴に巻かれている。
「どうしたのよ、それ!?」
「いや、ちょっと頭を打ってな。大丈夫だ、あとで永遠亭に行くつもりだから」
と、魔理沙は平気そうな表情を浮かべようとしているが、その口元のヒクついているのを見れば必死に苦痛を堪えようとしているのが見て取れる、、
「そういう問題じゃないでしょうが…」
呆れたように言う霊夢。
「まぁ、良いだろ。…そうだ、思い出した」
「思い出した、って何を、?」
「その変な妖怪、何か似た感じがすると思ったら…フランだ。あの妖怪、いつかの時のフランと様子がまるっきり一緒だ」
いつかの、とは紅魔館であった紅霧異変のことではない。それは、異変とは違う何かが原因だった例の事件のこと。
「やっぱり魔理沙も思った?」
「あぁ。てことは、霊夢も感じてたか?」
「当たり前よ、あんな異様な妖気は今までで二回しか感じたことはないもの」
「そんで、どうする?紫にでも相談してみるか?」
「そうしたい所だけど、紫から来てくれないとどうにもならないのよ」
紫は神出鬼没だ。それ故に、彼女がどこから来るのか、どこへ現れるかなんて誰にも分からない。そして、彼女の住む場所も、同じく誰も知らない。
「今は、情報を集めるしかなさそうね」
「そうだな」
「アンタはまず、その怪我を治してからにして」
「分かってるって」
彼女達は知らない。これから先、彼女らが遊びとして片付けることが出来ない"異変”が起こることを。
平成最後の、小説投稿となります。
べ、別に、GWで浮かれて投稿するのをわ、忘れていたわけじゃな、ないですよ。
…すいません、夢の国行ってました。
まあ、今週中に出来たら投稿しようかと思うので大目に見ていただけると嬉しいです。
では、今回はこれで…。
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告やアドバイスをいただける幸いです!!
それでは、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!!
……Twitterで、投稿報告ってしたほうがいいんでしょうかね?