『ちょっと待って、どういうこと!?』
仁の耳のイヤホンから、鈴華の声が聞こえてくる。
「妖怪だ! 女の子が妖怪に変身しやがった!!」
と、仁が目の前にいる妖怪を見て後退りながら言う。しかし、それでもスリングで掛けてある銃には手を触れもしない。
仁を見たまま動かない妖怪は、まるでイタチのような細長い体に、馬ほどの大きさの体高と体長。そして顔にあたるだろう部分には横に裂けたような口に、赤く光る爪痕のような形の眼孔。どう考えても、"異様な姿”。まだ、ここが幻想郷だったら、その姿は少しは許容できただろう。しかし、ここは、全てが人間によって形作られた街の中。それが何よりも異常に見える。
「今から、そっちから見える位置に移動する。着いたら直ぐに援護してくれ!!」
『分かったから、急いで!』
「クソっ!!」
仁は悪態をつくと、サッと身を翻して妖怪に背を向けて駆けだした。
少し振り返ってみれば、妖怪がこちらに向かって駆け出しているのが見えた。
(あぁ、どっちだ……
どっち、という言葉には、彼がなぜ先ほど銃に手を触れなずにいたかも関係している。それは、背後から猛スピードで迫ってくる妖怪が、はたして"少女が妖怪になった”のか、それとも"妖怪が少女になっていた”のか。
どちらにせよ、背後から追いかけてくるソレが危害を加えてくるなら全力で抵抗しなければならない。だが、もし彼女が普通の少女だとしたら、と考えてしまう。それが少年の銃を握る手に力を入れさせなかった。
そんなことを考えてるうちに、気づけば、彼は公園中央の大広場に辿り着いていた。周りを見回せば、円形の広場を囲むように木が植えられており、ベンチや街頭、それに噴水などが広場にはある。見晴らしが良く、これといって、遮蔽物はない。つまり、逃げることも隠れることも出来ない。
(やるしかない……やらなきゃ、こっちが殺られる!!)
そう頭の中で呟くと仁は振り返り、手にしたG36を妖怪に向け連射する。
放たれた銃弾は丸く、そして鮮やかな赤色だ。もし、外の世界にあったら、間違いなく非殺傷兵器として活用されるだろう、その鮮やかな"弾幕”は仁を追いかけていた妖怪の体に吸い込まれるようにして命中した。
妖怪は、弾幕をその身に受けるとよろめき、そして止まった。
「効いてるの……か?」
と、仁が呟いた直後。
「■■■■■■■■!!!」
イタチ型の妖怪が、遠吠えのように天を仰ぎながら叫びを上げた。その動作や、叫びには明確な怒りが込められているように、仁は思えた。
直後、妖怪が跳び上がる。
「まずい!?」
仁は右に走って逃げようと体の向きを変えるが、遅かった。
ドンッ! と仁の体に衝撃が来た。そして少年の体は、そのままバランスを崩して横に倒される。
突然の衝撃によって湧いた痛みに閉じていたじていた目を、開けると、
妖怪の顔が、仁の顔を覗いていた。
「っ!?」
必死に立ち上がろうとするが、仰向けになった体は一向に動かない。胴も足も力を入れれば動くのに、何故か腕にだけ力を入れても動かない。
見れば、妖怪の前足が腕を押さえつけている。もがいてももがいても、仁の腕から妖怪が離れることはない。
「どけってーの!!」
妖怪は、まるで仁を"観察”するかのように見つめる。しばらくすると、唸り声のような声を発した。そして、妖怪は頭を下ろし、歪な形ばかりの歯が並ぶ口を広げながら、少年の顔に近づける。
(そろそろだろ……早くしてくれ!)
そう心の中で願った、直後。
『移動完了。動かないで!』
ガンッ!! という音と共に妖怪が横に吹き飛ぶ。
「ナイスショット!」
『軽口叩く暇あるなら、早く退いて!!』
すぐさま仁がその場から離れると、左方にある陸上競技場の方から青色の弾幕が続けて三発飛んでくる。
弾幕は、ふらふらとしている立ち上がったばかりの妖怪を襲う。しかし、今度はその体躯ではありえないほど軽々しい身のこなしで、次々と弾幕を避けてしまう。
仁はそのまま、妖怪から隠れるようにベンチの裏へと逃げ込む。
『どうする? 全く、効いてないけど』
「考えはある。だけど……」
『けど?』
「確証がないんだ。だから、ちょっと手伝ってくれ」
仁は体を隠しながら、ベンチの陰から顔だけを出して妖怪がいる方向を見る。
『分かった。で、何をすればいい?』
「アイツの動きを止めてくれ、そっから先は……」
と、言葉を言葉を続けようとした仁は、不意に妖怪を見ながら、急な違和感を感じて言葉を絶たせる。そして"嫌な予感”が的中した。妖怪が、
自分自身の顔や喉を引き裂かんとばかりに、前足で掻きむしり始めたのだ。
『何……あれ?』
上からでもしっかりとその光景が見えるのだろう。不気味がるように鈴華が言う。
「分からない。けど、動いてないなら……!!」
と、仁が呟くとベンチの陰から、勢い良く飛び出した。
『待って、今飛び出すのは危険!』
戦場において、一番怖いものは銃や爆弾や戦車でもなく、
例えば、待ち伏せという戦術がある。待ち伏せ、というのはあらかじめ自らが相手にとって有利な立ち位置に陣取り、近づいてきた敵に奇襲を仕掛けること。だが、その戦術は敵が目の前に現れることを前提としている。故に、その前提が崩されてしまうことに対して、戦う人間は非常に脆い。敵が自分たちに気づかずにやってくるかと思えば、逆に背後から奇襲をかけられたりすると、咄嗟の判断で対応出来る者はごく少数だろう。皆が皆、機転の利く性格では無いのだから。右に進むか左に進むか、という質問に対して、壁を壊して真っ直ぐ突き進む、なんて訳の分からないことを言う者は少ないだろう。だからこそ、そんな人物はいないだろう、と思ってしまう。だからといって、そんな人物がいない訳ではない。行動が分からない相手と、いつ爆発するか分からない時限爆弾と一緒だ。
そして、そんな時限爆弾に少年は向かおうとしている。
鈴華としては、全力で止めたい。次に、会う時にはズタズタにされた死体としては絶対に会いたくはないのだから。
「ああ、もう馬鹿!」
やれることは二つ。
一つは、その馬鹿を呼び止めること。だが、最初の警告に耳を貸さなかった少年がそう簡単に止まることはないだろう。もう一つは、先程の例を用いるなら、爆弾を爆発する前に無効化すること。つまりは妖怪が事を起こす前に、倒してしまうということ。ただ、それは少々リスキーだ。そして、それは散々危ないと思っていた少年の行為に加担することにもなる。
時間はない。
もちろん、迷っている暇も。
息を吐き、息を大きく吸い、そしてスコープ内の十字に走るレティクルの中央を妖怪に合わせ、
少女は引き金を引く。
少年は、腰のホルスターから"レイジング・ジャッジ”を抜く。そして、シリンダーを回転させる。
少年は首にG36をかけて、近距離用にレイジング・ジャッジとガバメントを両手に持つ。
少年の推測では、目の前の妖怪は"背中”が弱点なのだろう。なぜなら、彼が知っている他の"異様な程の不気味な存在”とあまりに共通点があり過ぎている。だからこそ、彼はその"異様な程の不気味な存在”が、
あと、十数メートル。
覚悟を決め、右手のジャッジを構えようとすると、
突如、夜空を青色の弾幕が横切った。弾幕はそのまま、いまだ自傷行為に及んでいる妖怪の後ろの右足を吹き飛ばす。支えを失った妖怪は横に倒れる。
『援護するから、早く!』
「悪い……!」
そして、今度こそ右手のジャッジを構える。
そして、その銃口の先は妖怪に。
そして、引き金に指をかける。
妖怪までの距離はもう5メートルもない。だが、
足が吹き飛んだはずの妖怪は、平然と立ち上がる。見れば、後ろ足が元通りになっている。
今回も、
体力無限チート、というものがある。それはゲームの中で使われる"ズル”の一つ。無限、とはいっても正確には自身が受けたダメージを一瞬で回復するだけ。それでも、無敵には変わりない。それなら戦わなくて良いんじゃないか? と思うかもしれないが、大抵の
だが、この妖怪には体力無限チートしかないと見える。回復時間も長く、動きは見た目こそ素早さが取り柄のイタチだが、この妖怪はそのイタチと比べれば鈍足だ。妖怪としての力も
そして、体力無限チートにはひとつの弱点がある。
それは、一撃でHPを全て削りきること。
詳しい説明は省くが、なんでもいいから爆発やヘッドショットなどの一撃死などが、体力無限チーターをキルする唯一無二の方法。
だからこそ、この一発で決めなければならない。
「鈴華、もう一度足を撃ってくれ!!」
返事の代わりに飛んできたのは、四発の青色の弾幕。今度の弾幕は、足の再生を終えたばかりの妖怪の左後ろ足だけでなく、その四肢全てを吹き飛ばす。
巨躯を支える足を奪われ、妖怪は右に倒れる。
その直前。仁は左方向から、妖怪の下部に向かって滑り込む。
妖怪の腹の下をくぐり抜けると、素早く後ろを振り返る。
そして、手に持つジャッジの狙いを、自身の方に倒れてくる妖怪の背中の"中心”につけ、引き金を引く。
その銃から放たれたのは、弾幕でも銃弾でもない。
銃口からは、強烈な閃光と共に赤色の炎が吹き出した。
前編後編に分けると言ったな。
あれは嘘だ。
中編です、ハイ。
まぁ、今更言うのもアレですが、戦闘シーンは次です。
グダグダになってる気がしなくもないですが、多分大丈夫でしょう。
それでは今回はこれで…。
誤字や脱字に、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!では、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!!