傭兵二人と少女剣士(庭師)
「はぁ……」
仁は、中学校からの帰り道の途中で大きなため息をついた。
あの日から、一週間後。現場にいた二人の兵士はいつもとは変わらない日常を過ごしていた。
妖怪を撃退した少年は、来たるべき高校受験に向けて勉学に励み、彼の相棒である玉兎の少女は"探検”と称して今日も町のどこかを放浪していた。
そして、例の黒の少女は健二の屋敷で保護することとなっていた。あの家なら、窮屈はしないだろうと、家主の孫は思っている。目が覚めた少女はとても無口で、彼らの応答にも頷くか首を振るかのどちらかだった。でも、あの時彼女はハッキリと彼に言ったはずだ"私から逃げて”、と。それが彼女なりに精一杯の一言だったのかは分からない。健二によれば、彼女は鎌鼬という妖怪と人間のハーフらしい。だからあの時、妖怪は目に見えない斬撃を飛ばしていたんだと、仁は勝手に解釈していた。
幻想郷には、明日向かうことになっている。
(行くとは言ったけど、何を調べればいいんだか)
手がかりは、今のところ限りなく少ない。しかし、無いわけではない。その手がかりを調べているうちに、自然と次への手がかりは見つかるのだから、心配は不要だろう。
(フランドール・スカーレット、ねえ……)
ただ、気がかりなのは"フラン”と呼ばれていた吸血鬼の少女のことについてだ。彼女についてある程度の知識がある自称"普通の魔法使い”によれば、数ヶ月前までフランは一種の狂気……言い換えれば情緒不安定だったという。それと今回の出来事と何か関係があるのか、それを調べるのも今回の幻想郷訪問の目的のひとつとなるだろう。
「お、仁じゃん」
不意に、背後からそんな声が聞こえた。
声のした方へと視線を向けると、そこには鈴華がいた。
「偶然だね」
「街の中ならまだしも、ここ家の前だろ、何言ってんだ」
彼の言う通り、そこはもう見慣れた家だった。
時間は午後八時をまわり、仁は夕飯を食べ終わりリビングでくつろいでいた。
そこへ、鈴華か風呂から上がったばかりなのかタオルで頭を拭きながらリビングへとやってきた。
「次、どぞー」
「あいよー。……って、そういやお前、明日の準備はしたのか?」
と、ソファから起き上がりながら仁は聞いた。鈴華は、自信満々に、
「もちろん。水筒でしょ、タオルにメモ用紙やら色々と入れといた」
そう言って、ソファまで近づくとそこにあった肩掛け用のバッグを持つと、それを仁に見せた。
「じゃあ、銃は?」
「それも用意済み。健二さんに頼んで、こんなのを」
と、今度はバッグと同じ所に置いてあったのか、ホルスター付きのベルトを見せつけてきた。
ホルスターに入っていたのはH&K"USP”。サイズが少し大きめなので、恐らくは45口径仕様のモノだろう。
「替えの弾倉はバッグに五個。あとは、ベルトに二個入れてある」
「完璧だな」
「当たり前でしょ。それで君は?」
「俺も準備はしてある。あとは、向こうに行くだけ」
残る疑問も、幻想郷に行けば解決する。彼は、そう信じていた。
「最後の確認だ」
翌日、少年と兎の少女は、その少年の部屋にいた。
二人とも外の世界では一般的とされている格好をしていた。だが、二人ともその腰に黒色のベルトを装着していて、ベルトに着いたホルスターには拳銃が収められている。
「拳銃」
と、仁が言うと、彼と鈴華はホルスターから拳銃を抜き、一度弾倉を抜き取り中身を確認すると、再び弾倉を装填してホルスターに戻す。
「OKだな」
「よし! なら、行こう!」
彼女の言葉を皮切りに、仁が扉を開けた。
扉を開けた先、そこには和の雰囲気が漂う幻想郷の玄関━━博麗神社が、
「って、どこだここ!?」
その扉の先には、博麗神社ではない、白いモヤと薄暗い雰囲気が特徴的な和風の平屋の屋敷だった。
「ここが博麗神社なの?」
キョロキョロと周りを見回しながら鈴華が言った。勿論だが、こんな所が博麗神社の訳が無い。
「違う。本気で、どこなん……」
そこで彼は言葉を止めた。なぜなら、約二ヶ月ほど前にこの場所を訪れていたことを思い出したからだ。
あの時は半日程しか滞在していなかったのだが、一分一秒鮮明にその時のことを彼は覚えている。
なぜなら、その時は……
「あれ、仁さん来てたんですか」
右の廊下から少女の声がした。その声に少年は聞き覚えがある。しかし、彼にとってはこんな穏やかな声としてでは無くもっと大きな声で、そして厳しさが混じっているバージョンの方が聞き慣れている。
仁が恐る恐る、右の方を見てみると、
「ど、どうも妖夢」
やはりそこには、銀髪の少女剣士、魂魄妖夢がいた。
そして、少年は一つ確信した。この和風の屋敷は、やはり"白玉楼”だということに。
彼女は何やら嬉しそうな表情を浮かべると、
「来てるなら、来てるって言ってくださいよ。準備しておいたのに……」
「い、いや妖夢、今日はちょっと予定があ、あるんだ」
「ここに来る用事ですよね?」
有無を言わせないこの圧は一体何なのだろう。などと少年が考える暇さえ与えず、妖夢は彼の手をとってどこかへ連れていこうとする。
「ちょ、ちょっとキミ、彼をどこに連れてくのさ?」
鈴華は妖夢を止めようとして、そう言った。
「どこって、庭ですよ。稽古をつけるんですから当たり前じゃないですか。というか、貴女誰ですか?」
「ボクは、彼の同行人」
「そうですか。なら、すみませんが彼は少し借りていきますよ。ちょっと、いやだいぶお灸を据えなければいけませんからね」
すると、手を掴まれてる、否、拘束されている仁から視線を送られていることに鈴華は気づいた。彼の目には涙が浮かんでおり、よほどその
彼女にできるのは、彼にとっての良薬がただ苦いだけでなく、きちんと彼の身に染みるように、そしてその良薬が劇薬にならないようにと祈るだけだ。
「何があったのかは知りませんが、よろしく頼みますよ」
その言葉は、意外に初対面の人には敬語なんだー、と感心していた彼を絶望させた。その時の顔は、俺に救いはないんですか、とでも言いたそうだった。
「分かりました。……ところで、あなたの名前は?」
既にどこかへと歩き始めた妖夢は、横を歩く鈴華に聞いた。
「鈴に難しいほうの"はな”で鈴華」
止めてくれ、と泣きそうな声で呟き続けている仁を横目に、
「鈴華さんですね。私は魂魄 妖夢と言います。気軽に下の名前で呼んでください」
彼女達は笑顔のままだ。
「なら、よろしく妖夢」
数ヶ月前のこと、ある少年はスキマ妖怪こと八雲 紫からの紹介で一人の剣士から、刀の稽古をつけてもらっていた。
何故、基本銃で戦うスタイルの彼に刀の稽古をつけさせたのかは未だ謎だが、その時の経験が間違いなく無駄ではなかった。
……なのだが、はっきり言って神川 仁はその稽古が苦手だった。理由はと言えば、稽古をつけてくれる"先生”が少々、いや、かなり怖いから。自分と同年代の少女に怖がってどうするんだ、と言うかもしれないが、考えてみてほしい、剣を持った少女が物凄い剣幕で指導しているのを。
「たった一ヶ月前のことなのに、もう忘れたんですか? あんなに、刀を雑に扱わないでと言ったはずですよ!」
「はいいぃっ!」
と、仁は叫びながら刀を振った。
しかし、その渾身の振りも完璧には程遠いらしく、またも妖夢から雷を食らっていた。
そんな彼らの様子を、屋敷の縁側に座っていた鈴華は見ていた。彼らの稽古風景を見ていると鈴華は、何年も昔、まだ彼女が兵士になりたての頃のことを思い出す。
その時の彼女も目の前で怒られている彼のように未熟で、そして彼とは違って弱かった。しかし、そんな彼女を一人の女性が拾ったのだ。
その女性の名前は
と、仁と妖夢の稽古の様子を見ていた鈴華は、自身が受けていた厳しい訓練を思い出してため息を吐いた、
「はぁ……」
しかし、それは人間でいうと数十年も昔の話。 弾幕の一つさえろくに放つことが出来なかった玉兎は、今では月の使者の一分隊を指揮する隊長へと成長していた。
勿論、彼女を育ててくれた二人のリーダーには感謝しているのだが。
……なのだが、
(そういえば、辞表を出すだけ出して、依姫様達になんも言ってないや。次会った時、なんて言われるかな……)
彼女はそう思ってはいるが、実は何も心配はなかったりする。
もとより、彼女の立場は月と地上とのちょっとした争いによる月側からの
「あいたっ!?」
と、仁の頭に刀の峰が振り落とされた。
「ほら、もう一度! 立ち上がって」
どうやら、刀の扱いに関しては合格したらしく、今度は実際に刀を交えた実戦練習をしていた。最も、方や木刀、方や峰打ちで戦っているため怪我の心配はないだろう。
だが、
(……つまらない)
スポーツは見る方が好きか、それとも実際にやるのが好きかと聞かれれば、彼女は迷いなく実際にやる方を選ぶ。そんな彼女にただでさえ彩りのない稽古の風景を見せられても、楽しくも、そして感じることは何もない。
そして、彼女は一つ決心した。
(━━━けど、丁度いいや)
数十分後、鈴華という玉兎は幻想郷内にある人里の近くにある森の近くを歩いていた。"白玉楼”という建物のが幻想郷のどこにあるかは分からないが、晴れた空を眺めるために空中にある穴から出なければいけなかったのを考えると、白玉楼がある場所は幻想郷とはまた別の空間なのだろうか。
そんな疑問も捨て去り、彼女は幻想郷を見物しながら歩いていた。
道中で出会ったのは、氷のような羽をもったいやに好戦的な妖精や謎の空飛ぶ黒い球体などなど。事前情報とは、少し違うがそれでも彼女なりに楽しんでいた。
そんな時、
「ん?」
一応の目的地として設定していた人里が、木々を挟んだ向こうに見えた。
地理的な事はあまり知らず。知っているのは人里という場所が幻想郷のだいたい中央にあるということだけ。なのに、こうもスムーズに着いたことに鈴華は幸福感を感じた。
そして、彼女は人里の方へと足を向けた。
「つ、疲れた……」
約1時間ぶっ通しの稽古で疲れ果てた仁は、白玉楼の縁側へと倒れるようにして寝転ぶ。
季節は冬、夏のような熱気はないため汗はあまりかかないが、息は切れるため疲労は溜まる。
「お疲れ様です」
そう言って、隣に座っている妖夢はタオルを差し出す。
少しだけ額に浮かんだ汗を拭いながら、彼はふとした違和感を感じた。
「ありがとう……って、鈴華は?」
「私たちが稽古を初めてすぐにどこかに行ってしまいましたよ」
「何してんだ、あの野郎」
「まぁまぁ、良いじゃないですか」
「良くないの。あいつとは一緒に幻想郷を回る予定なんだ、一人でどっかに行かれちまうと探す手間がかかるのによ……」
「……それなら、私も鈴華を探すのをお手伝いしましょうか?」
「良いのか?」
「ええ、今日なら幽々子様も一日不在ですし。外来人のあなたを一人で幻想郷内を歩かせるのは少々危険ですから。(……それに、せっかく出来た弟子を失う訳にもいけませんからね)」
何か聞こえた気がするが、特に気にせずに、
「助かる!」
と、ここで彼はある重要なことに気がついた。
それは、
(って、今更だけど妖怪相手に拳銃一丁だけで良いのか……?)
そこで彼は先程まで稽古で使っていた木刀を手に取ると、
「妖夢、これ借りていいか?」
「何に使うんです?」
「守ってばかりは嫌だからな、俺も武器を持った方が……」
「そんなもの、戦闘では何の役にも立ちませんよ!」
すると、妖夢は立ち上がるとスタスタと白玉楼の奥へと消えていった。
数分後、戻ってきた彼女は一本の刀を手に持っていた。
「これ、使って下さい」
妖夢は、その手に持っていた刀をタオルで顔を拭っていた仁に渡した。
ありがとう、と仁がタオルを置いて、代わりに刀を手に取る。刀が想像していた重量とは違ったため、グラりと体が傾く。
そして、体勢を整えると仁は彼女に確認を取った。
「本当に良いのか?」
「ええ、倉庫にあったなまくら同然のものですが妖怪を切る分には十分でしょう」
少年は刀の方へと目をやる。刃の長さは70センチほどで、重さも刀自体が鉄の塊というのもあってそれなりの重さがあった。
試しに刀を鞘から抜いてみると、その刃はなまくら同然とは思えないほどの鋭さを持っていた。人の肌程度なら容易く切り裂けるだろう。家にある包丁よりもよく切れるのではないか? と彼は思う。これがなまくら同然と言うなら、妖夢が携える二本の刀、"楼観剣”と"白楼剣”はどれほどの切れ味なのだろうか。
「一緒に行動するつもりだったのなら、鈴華さんが行くところに心当たりはあるんですよね?」
そして、仁は刀を腰に携える。これによって彼の服装は外の世界の服に、腰には刀が収まった鞘と拳銃が収められたホルスターと幻想郷でも、そして外の世界でも奇怪なものとなった。
「ああ。無いわけじゃない……けど」
「何か問題でもあるんですか?」
「行く場所は決めてたんだ。……だけど、どの順番から回るか話してなくてな」
「じゃあ、どこから探すんですか? 場合によっては入れ違いがあるかも知れませんよ?」
「うぅん……あっ!」
突然、仁は何かを思い出したように顔を上げた。
「そういや、ずっと行きたかった場所のことを鈴華に言ってたからもしかすると……」
彼が、幻想郷に来てから絶対に訪れたかった場所。そこは彼にとっては忘れようとも忘れられない出来事があった場所。
この場所での出来事が、彼にとっての一種のターニングポイントとなったのだ。忘れていいものか。
「行きたかった場所? それって、どこです?」
そこは幻想郷の中でも有数の実力者が住まう紅い館。
幼い見た目をした主がおさめる、その館の名は━━━
「━━紅魔館、俺はあそこに行かなきゃいけないんだ」
また、投稿間隔が1ヶ月になってきています、どうも筆者のRYUです。そろそろ、東方の二次創作らしく幻想郷での話へと移ります。前に出てきた妖怪のようなモンスターに関しては後々分かると思って下さい。
あとは、GGOとウルトラマンの二次創作の一話をそれぞれ書いたので、添削やらを終わらせて投稿するので宜しければそちらも見ていただけると嬉しいです。
それでは、今回はこれで…、
誤字や脱字、それにおかしな文を見つけたら報告していただけると幸いです!
では、こんな小説を読んで頂きありがとうございました!
…ちなみに、最後の文ってコピーじゃなくて毎回最初から書いてたりします。(だから、たまに違ってたりする)
どーでもいいっすけどね(・ω<)