東方軍器伝   作:RYUやん

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報告

 一時間後、神川 仁は紅魔館の中にいた。

 幻想郷の住民は空を飛べるのだが、空の飛び方を知らない少年は白玉楼から延々と続く長い階段を降り、トラウマの魔法の森近くを歩いて紅魔館へと向かったのだ。幸いにも、白玉楼と紅魔館の距離は割と短く、今回は心強い同行者がいたため、いつかとは違ってストレス無く無事に辿り着けたのだ。

 ……ただし、それは道中にて判明した事実を知ってしまったことを抜いての話。その事実というのは、白玉楼というのが"冥界”と呼ばれる場所にあるということ。それは長い長い階段を降りた先で、幻想郷に向かうために空に浮かぶ大きな穴から出てきたことによって湧いてでてきた疑問によって判明した。

 つまりは、ファンタジーにでも出てきそうだった空飛ぶ青白い炎のようなモノは、冥界にていづれ転生する手はずの、一般的には"魂”、極端に言ってしまえば幽霊と呼ばれるものだったということ。

 神川 仁という少年は、よく分からない存在が苦手だ。都市伝説や未確認生物に未確認飛行物体、そして幽霊が彼の基準でいう"よく分からないもの”となる。因みに、妖怪は実在する生き物の一種という考えを持つことで、少年は取り乱すことなく何とか平静でいられているのだ。

 そんな訳で、悲鳴を上げ続けたせいで声がガラガラになっている仁と妖夢は、門の横で居眠りしている門番の横を素通りし、大きな庭を通って紅魔館の中へと入った。

 最初に彼は、こんな風に紅魔館へと訪れるのは初めてじゃないかと思った。今回も含めれば、ここには三回訪れた事がある。最初に関しては、とてもじゃないがゆっくりと屋敷を見回す暇などなかった。二回目に関しては……そもそも、館内に入った時の記憶がない。

 だから、こうやってゆっくりと館内を見回すことは初めてなのだ。極端に少ない窓、紅色が目立つ内装。現在二人がいるのは、中学校の体育館程の広さがあるエントランスホール。どのくらい広いかと聞かれれば、その場所がそのまま戦闘の舞台となっても何も問題は無さそうなくらい。

「それで、紅魔館に来たのは良いのですが、何をする為に来たんですか?」

 エントランスホールの中央に立つ妖夢が、横にいるぐったりとしている仁に聞いた。

 すると、彼は顔を上げると本を読む仕草をする。

「えー……と、あ! もしかして、図書館ですか?」

 彼女の問に、仁は首を縦に振る。

「……というより、まだ声治ってないんですか?」

 今度は、すこぶる残念そうな顔をしながら頭を上下に動かす。

「相当、酷かったですもんね……、私にはどうにも出来ないので、なるべく喋らないようにしてください」

「わ"か"った"」

「だから、喋らないで下さいって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館。そこは、窓の少ない紅魔館の中でも珍しい、窓が全くない部屋。部屋、というよりは空間といった方が正しいのかもしれない。

 幾万の書籍の数々、そしてそれを収める巨大な本棚。更に、本棚を置くための空間。その空間が何層も積み重なって、紅魔館の大図書館は存在している。

 入口の大きな扉を開けて、二人は図書館へと入る。鼻にかびの臭い、それに混じるように独特な古書の臭いが入り込む。別に、不快な気持ちにはならない、それどころか、どこか一種の心地良ささえ感じさせるような不思議な感じだ。

 何層も積み重なった階層、いくつもの階段を降りた先その最下層に"動かない大図書館”ことパチュリー・ノーレッジは居た。

 最下層へと辿り着いた仁は、前回訪れた時よりも若干静かになっていると感じた。それもそのはず、前回訪れた時は大勢の妖精メイドがバタバタとしていたため、とても騒がしかったが、今はほとぼりが冷めためか、今のところ図書館内にいるのは最下層の中心にあるテーブルで本を読んでいる例の魔法使いぐらいだからだろう。

 そんな彼女は、階段を降りてくる二人に気づくと、

「あら、珍しい客人ね。半霊の剣士に、外来人なんて」

 と、読みかけの本にしおりを挟みながら言った。

「迷惑た"った"か"?」

「ちょっと待って、その声はどうしたの?」

「色々あ"った"ん"た"」

「良いから、ちょっとこっちに来なさい」

 パチュリーは、手招きをして仁を近づけると、目を瞑って右手を仁に向ける。すると彼女は何やら、小声で何かを呟くと、なんと少年の周囲が光りだした。

 数秒もすれば光は収まり、今起きた出来事について、仁は目の前にいる彼女に聞こうとして口を開いた。

 すると、

「何だ、今の……って、治ってる!?」

「あんな状態じゃ会話なんて出来たもんじゃないでしょ。だから、あなたの喉治しておいたわ」

「マジか、助かる!」

「お礼なんて要らないわよ。それよりも、何であなた達がここにいるのか教えてちょうだい。答えによっては、客人ではなく侵入者として扱うけど良いかしら」

 割と物騒なことを言うパチュリー。その様子からすれば、過去にも同じような事でもあったのだろうか? 

「んな、後ろめたいことなんてある訳ないだろ。俺がここに来たのは……」

 そう言って、仁は腰のカバンの中をゴソゴソと探ると、

「こいつを見せる為にきたんだよ。どうせ、俺達だけじゃ何も分からないし」

 中から出したのは、透明な袋に入った一枚の札だった。

 所々に赤い根っこのような物がついたソレは、先週の戦いによる戦利品ともとれる品。

 パチュリーが目を凝らして、それを見る。直ぐに、それが前に紅魔館で起きた事件で見たことがある品にとても似た物だと言うのが分かった。

「これは……確か、フランに貼られていたのと同じ……いえ、前とは違う完全な状態の?」

「そう。この前ちょっとあってな、そん時に手に入れたんだ」

「この前?」

 怪訝な顔をして、首を傾げながら彼女は聞いた。

「……フランと似たようなのと戦ったんだ。いや、別にソイツは吸血鬼じゃなかったし、そもそも人型でもなかったんだ……けど」

 確かに、あの時の"アレ”はまるでイタチのような獣の姿をしていた、吸血鬼とは呼ばれるが人の姿をしているフランとは違う別の物だった。だけど━━━━

「そいつは、フランと同じだった。なんというか、その、感じが似ていたんだ……悪い、上手く伝えられない」

 馬鹿馬鹿しい、と一蹴されるかと思っていたが、予想に反して彼女は表情も変えることなく、

「大丈夫よ、何となく分かったから。要するに、貴方はこの前のフランと同じ"妖力”を、その似たようなのから感じ取ったんでしょう」

「何で分かるんだ?」

「貴方が持ってきてくれたその札とあの札。両方から、同じ妖力が出てるの」

 あの札、というのはフランに貼られていた方の事だろう。既にバラバラになってしまってるが、彼女はそこから出ている"残滓”が、彼の持ってきた札から感じるものと同じだと言っているのだ。

「というと、怪しいのはやっぱり札か」

「そうね。どうやって、フランに貼ったのか。どうやって、フランをあの状態にしたのか。どちらにせよ、高度なオカルトの技術を使ったに違いないわ」

 それに、と彼女は続けて、

「これは完全に、悪意のある攻撃ってことにも違いない」

「……悪意のある攻撃、か」

 なんの為に彼女達を操り、このような事をしたのかは分からないが、少なくなくとも善意でやっている事ではないのは確定した。

「それと、貴方が持ってきてくれた札から分かったわ。この、"悪意のある存在"が外の世界にも何かしらの悪事をしていることもね」

 しかし、理由は未だに考察することが出来ない。なんの為に幻想郷でフランを操ったのか? なんの為に外の世界であの少女をあんな風に(、、、、、)にしたのか。

 自分の存在をアピールするなら、幻想郷だけで十分なはずだ。なぜなら、この幻想郷にはそのような不可思議怪奇な能力の価値が分かる人物が大勢居るからだ。霧雨魔理沙や目の前にいるパチュリー・ノーレッジを初めとした魔法使いには、その所業がどれほどの物か分かる知識がある。恐らくだが、妖精や妖怪と言った単語が飛び交うこの幻想郷において、魔法という言葉自体もそれほど縁遠いものではないだろう。だから、幻想郷に住む他の人間もその所業の恐ろしさが分かるはずだ。

 ……しかし、だ。

 何故、そのような物が浸透していない外の世界でそのような行動を起こす必要があるのだろうか? 

 今の社会、魔法などのような単語は、口に出しただけでも異端扱いされる。 ほとんど全てのオカルトチックな存在は、全てニセモノという扱いをされている。占い、運勢、超能力に幽霊。それらは偶然、もしくはトリックを使ったニセモノとされている。

 もし、そのような物が浸透していたならば、外の世界は、車の代わりに箒で通学し、呪文の一つで今日の運命が決まり、そこらの土からは黄金が作られているだろう。

 しかし、現実は違う。人間は翼ではなく飛行機で空を飛び、占いのランキングで決まるのは今日の気分、そこらの(土地)から生まれるのは人間同士の争い。

 犯人が外の世界で何かことを起こして、その存在が認知されても良くて都市伝説、悪ければペテン師という扱いをされるはずだ。

 そう考えれば、外の世界と幻想郷は対極の存在なのだろう。

 でも、そう考えてしまうとますます犯人の目的が分からなくなってしまう。

「というか、何で分かるんだ? ただ、触っただけで分かるものなのか?」

「そういうものよ。人間だって、触っただけで金属製か木材製かぐらい分かるでしょう?」

「そういうもんか……」

「まぁ、同じ妖力だったから直ぐに分かったのだけれど……」

「って、待て待て。妖力って、妖怪なら全員持ってるんだろ。なら、同じでも何もおかしくないじゃないのか?」

「ちょっと違うわね。いい? 確かに、妖怪は妖力を持っているわ。でも、皆が皆同じではないのよ。妖力や魔力、それに霊力は、例えるなら、生き物全てが持っている血液だと考えてみて。血液だって、A型、B型、O型、AB型、それに赤色、青色、無色透明。更に言えば、個人個人のDNA。この世界に全く同じ血が流れる他人が居ないのと同じ、妖力だって、同じものはないのよ」

「というと、あの札からは妖怪○○のB型の妖力が流れてるって感じか?」

「そもそも、妖怪かどうかさえ分からないけど、まぁ、そういう解釈で良いわよ」

「……そういうことなら、これってやっぱり誰かが意図的に起こした事件なのか」

「だから、それ以外に考えられないのよ」

 外の世界と幻想郷。決して交わることの無い二つの世界で起きた事件。そして、明らかに敵意のある行動。偶然の一言で済まされるようなことでは決して無いだろう。

「なら、その妖力から犯人を探せないのか? ほら、逆探知的なヤツで」

 刑事ドラマ等でよく見る、誘拐犯からの電話を逆探知して、誘拐犯の居場所を見つけ出すというものがある。もし、犯人が妖力を使って遠隔からフランとあの少女を操っていたのならそれを辿ることも出来るだろうか? 

「そういう魔法や術はあるけど、見つけたところでどうこうなる物ではないわよ」

「どうしてだよ? もし、犯人が外の世界にいても俺がどうにかす……」

「悪いけど、いくらあのフランを止めた貴方だとしても、博麗大結界の外から攻撃を仕掛けられるほど強力な相手に勝機があるとは思えない」

 聞けば、博麗大結界というのは外の世界と幻想郷を隔てる壁のようなものだという。物理的な事に加え、概念的(、、)なものまでも、外の世界から遮断しているのだとか。並の実力では、その壁を壊すどころか越えることさえ出来ないだろう。

 だから、それを越える力を持つ八雲 紫が連れてくる外来人、そして稀も稀な大結界側のミスにより入り込んで来る"外来人”というのは、幻想郷側からすれば奇特な存在なのだ。

「ひ、ひどいな……確かにその通りだけどさ」

 落ち込む仁をよそに、パチュリーは傍にある分厚い本の山の頂から数冊を取って重ね始める。

「とは言っても本当は逆探知なんて不可能なのよ」

 椅子から立ち上がりながら、パチュリーは言う。そして、縦に重ねた数冊の本を手に持ちながら、

「あの札からは操ってた本人の妖力は感じるけど、その本人に繋がるパイプは確認できなかったの」

「それじゃ、結局は犯人の場所は分からずじまいか……」

「相手を探すことは出来ないけど、どういう素性をしているかぐらいは分かるかもしれないわ。ほら、外の世界にもあるでしょう、えーと……確か、DM……そうじゃなくて、DNA鑑定」

「それで分かるのか? 犯人の正体が 」

「正体までとはいかないけど、それなりの結果は出すつもりよ。でないと、私の気も収まりそうにないもの。あと、レミィのもね」

 そう言って彼女が一歩踏み出しそうとした、その時。

「ケホッ……ケホッ……」

 急にパチュリーは咳き込んだと思うと、手にしていた本をバタンバタンと、床に本を散らばせる。

 ひゅーひゅー、という呼吸音から鑑みるに、彼女は喘息持ちなのだろうか? 

「おい、大丈夫か?」

「だ、大丈夫ですか?」

 仁と妖夢の二人は、彼女の元へ駆け寄るや否や言った。

「大丈夫……」

 とは、言うものの彼女の咳が止まることはない。

「その本はどこに持っていくつもりだったんだ?」

 仁が聞くと、彼女はゼェゼェと息を吐きながら、

「ここから見て四階、そこに持っていくつもりだったのだけど……それが、どうしたの?」

「俺が持っていくよ。パチュリーは休んでいた方がいい」

 と言って、彼は床に散らばった本を集め始める。

「別に良いわよ、こんなのしょっちゅうだから……」

「だったら、本の片付けは俺に任せてくれよ。こういう力仕事は、男の専売特許なんだ」

 それは、昔から健二に教わっていた『紳士になれ』という言葉から来た行動だった。それを言う時、それを教える時、その時だけ祖父の顔が菩薩から鬼へと変化する光景はいつまでも仁の脳裏に刻み込まれている。

 すると、彼女は諦めたのか深いため息と共に言う。

「……分かったわ。それじゃ、それはあなた達に任せたわよ。向こうに行けば分かるけど、同じような本が並んでいると思うから、そこら辺に入れておいてちょうだい」

「分かった。それで、他にもあるのか?」

「ええ、もちろん」

 と、彼女が指指す先、そこには分厚い本の山が連なっていた。そして、その大きさは世界で一番有名な学園ファンタジー小説の数倍はある。

「な、なるほど。これは骨が折れそうだ……」

「いつもなら、私の使い魔にやらせているんだけど、今は他の仕事をさせているから自分でやるしかなかったわ」

「使い魔? 確か、小悪魔だっけか?」

 一回目の訪問の際、大図書館の入口で霊夢と魔理沙、そして仁を出迎えたのが小悪魔だった。赤い髪に、背中から生えた悪魔のような真っ黒の羽。彼女の姿は、外来人である仁にとっては衝撃的だったのでよく覚えている。

「そうよ、あの娘は分身が出来るのだけれど、それをすると本を運べないほど力が落ちちゃうから、今は居ないわ」

「なら、尚更だな。そんじゃ、俺はこれで」

 どっこいしょ、と7、8冊の本を抱えて仁は階段の方へと向かっていく。

 そして、その後を妖夢が着いて行く。

 二人の姿が見えなくなると、一人残ったパチュリーは呟いた。

「……そう言えば、あの娘は大丈夫かしら」

 その視線は、壁際にある鉄で出来た重厚な両扉の方を向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、RYUです。
最近、初めてホラー映画というものを初めから最後までしっかりと見ました。『来る。』という映画なんですがね、初めてそういうジャンルを見たので何とも言えませんが良い映画だなとは思いましたね。そっから、妖怪の設定的なのも考えられたのでこの小説シリーズに無関係ではなかったりします。
めちゃくちゃビビりましたが、すごく印象に残る映画でしたよ。(^∇^)
…それが、遠足に行く(、、)時のバスで見たことを除いてですが。
まぁ、ともかく今回のお話では黒幕のお話が出ましたが、色々とインスパイアを受けたので、ホラー映画のような設定になるかもですので、よろしくお願いします。
それでは、今回はこれで。
誤字や脱字、おかしな文を見つけたら報告して頂けると幸いです!!
それでは、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!
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