紅魔館でのリアル(吸血)鬼ごっこは、神川 仁がレミリアにフラッシュバンを投げ渡したことで終わった。
吸血鬼は日光に弱い。それは博麗神社での火傷まみれのレミリアを見たため、その事は重々承知している。
そのため、吸血鬼に閃光手榴弾というのはめっぽう効果的なのは明らかだった。とは言え、やはり人工的な光というのは太陽の光とは違うようで、その閃光を浴びたレミリアはこの前のように火傷が出来ることなく、単純に目を回して倒れただけだった。
そして、無事に生きて紅魔館から出ることが出来た仁は妖夢とここで別れる事となった。
理由としては、彼女の主━━西行寺 幽々子がもうそろそろ外出から帰ってくるかもしれないとのことらしい。
見れば、太陽は段々と西に傾きつつある。どうやら、自分も家に帰らなければならない時間らしい。
割と紅魔館に滞在していた時間は長かったみたいだ。だが、得られた情報も経験も多く、その時間は決して無駄ではなかったのも事実だ。
しかし、一つだけ問題が残っている。
「……あんのヤロー、本当にどこに居るんだ?」
それは、彼の元に突然やって来て勢いのまま、共に仕事をしている月の兎である"鈴華”のことだ。
紅魔館へと来たのも、そんな彼女を探すためだった。だが、彼女はそこには居なかった。
他に宛があるとするなら、人が多く集まる人里ぐらいなのだが、買い物のため人里に出向いたという紅魔館のメイド長が言うにはそんな人物を見てはいないらしい。
外の世界の服装に身を包んだ鈴華が人里で目立たない筈がない。それか、それほど長い間滞在していなかったかのどちらかだろう。
どちらにせよ、彼女が見つかるまで外の世界へ帰ることは出来ない。
と、その時。
トントン
霧の湖のほとりを歩いていた少年の肩に小さな手の感触がした。
振り返って見ると、そこには兎の耳があった。なんだこりゃ、と視線を下に移すと。
いつだかのイタズラ兎がそこにいた。
薄いピンクのワンピースに人参のネックレス。以前、少年を罠にはめ、彼と竹林で鬼ごっこを繰り広げた少女がそこにいた。
「お前、確か……」
あん時のウサ公、という言葉が口から飛び出る前に彼の意識は彼女が持っていた一通の手紙に向けられた。
「はいこれ」
それを彼女は差し出してきた。
困惑する少年はひとまずその手紙を受け取ってみる。
貰ったのは、手紙…と言うよりはメモを半分に折っただけの簡素な物だった。
幻想郷で貰った手紙のほとんどは蝋で封がされたステレオタイプのものだったので、逆に新鮮に感じる。
そんなこんなで、これには何が書かれているか気になってしょうがなかった。
だが、手紙を開くと━━━
『お前の相棒を預かっている。返して欲しくば、迷いの竹林へと来い』
と、殴り書かれたような乱雑な時で書かれていた。
少年の呼吸が凍りつき、思考が止まる。
ハッと我に返った少年は咄嗟に口を開いた。
「おいこれ、どういうこ……と……だ?」
兎の少女は、いつの間にか彼の前から居なくなっていた。
「……どうなってやがる」
急な出来事に未だ困惑していた少年は、ひとまず竹林へと向かうことにした。今の今まで途方に暮れていた少年にとってはチャンスなのだろう。
……しかし、少年にとっては何かが引っかかるのだ。まるで誘導されているかのような、そんな感覚が湧いて出てくる。
とにかく、今は竹林に向かわなければ何も始まらない。
迷いの竹林。
名前の通りその竹林を訪れた人間は方向感覚が狂い帰り道が分からず迷ってしまうのだという。それが科学的要因なのか、妖怪などによるオカルトチックな要因なのかは分からないが、どの道この竹林に入り込んだ者は、よほどその竹林を熟知していなければ脱出することは叶わない。
前にこの竹林に仁が訪れた時は、途中で迷いはしたものの幸運にも偶然目的地である永遠亭へ辿り着くことが出来た。
今回はそう上手くはいかないと思っていた。しかし、竹林に入ること数十分、仁の目の前には何度か見たことのある一軒の和風の建築物があった。
そして、永遠亭の前には見た事のある一人の少女が立っていた。その少女は兎のような耳が生え、まるで外の世界の女子学生の服装をしている。
「なぁ、あんたが俺を呼んだのか?」
少年は鈴仙に向かって言った。
「ええ、そうよ」
返ってきたのは、それ以上は必要のないかのような機械的な感情のこもっていない返事。
予想だにしていなかった彼女の反応に少年はビクリと驚いてしまう。
少年は薄々と感じていた。彼の相棒である鈴華と、永遠亭で何度もお世話になった鈴仙には共通点があることに。そして、それになんの関係があるのかという疑問も。
兎の耳はもちろん、思い出してみれば初めて鈴華と出会った時、彼女の着ていた服は目の前にいる鈴仙と同じものだった。
そうなると、何故月にいるはずの玉兎が地上にいるのかという疑問が残る。
すると、鈴仙はおもむろに口を開いた。
「……さっきね、あの娘と話したのよ。久しぶりに面と向かってね」
「って言うことは、やっぱりあんたと鈴華は知り合いなのか?」
「戦友よ。それであの娘の話を聞いてたらね、一つ思ったのよ」
そこで初めて少年は気付いた。鈴仙から、ただ寄らぬ気配がすることに。それに感情のこもっていないと思い込んでいた彼女の言葉からうっすらと感じるのは一種の怒りのようなモノ。
そして、彼女は言った。
「あなた、一体何が目的で今の仕事をやってるの?」
「何の……目的……?」
困惑している少年の反応を気にもとめずに鈴仙は続ける。
「聞いてみれば、危険な仕事ばかりしているって言うじゃない。私達みたいな兵士ならまだしも、あんたみたいな子供がそんな危険なことに自分から首突っ込むなんて有り得ないわ。そんな事したがるのは危険を危険って思ってない未熟者か真性のマゾヒスト、それか自殺志願者ぐらいよ」
そう言って鈴仙は腰に手を回すと黒い物体を取り出した。
「それは……!?」
鈴華が持っていたはずのUSP、と少年は言おうとしたが鈴仙がUSPの銃口を向けたことによって黙ってしまった。
「それがね、怖いのよ。あなたみたいなのが幻想郷にいると何をしでかすか分からないから」
「……」
「良い? 私はあんたを殺す。昔から危険因子は早めに潰せ、って習ってたから。だから恨むなら、自分を恨んで」
突然、竹林の隙間から差し込む夕日に照らされた鈴仙の目が赤く光った。同時に彼女の体が
姿がぶれたかと思えば、彼女の体は三つに分身する。
今見えているのが現実なのか目を疑いたくなる光景に、訳の分からないまま少年は背中へと手を伸ばし刀を抜いた。
三人の鈴仙が拳銃のトリガーに指をかけて、引いた。
それぞれの銃口から放たれた3発の銃弾型の弾幕は散弾のように何発にも分裂する。
(なんだよ、それ!?)
一発や二発程度なら刀を使えばどうにかなる。だが、何十発にも分裂してしまったとなれば避ける他ない。
そして、少年は左側へと避けて、そのまま地面へと突っ伏す。
弾幕の散弾は少年の右肩を掠ると、背後の竹に吸い込まれていった。すると、竹はメキメキと嫌な音を立てながら倒れてきた。
今度は、倒れてくる竹から逃れるために横になっている体を転がす。
「逃げてばっかりじゃない。まさか、本当に被虐願望でもあるの?」
気付けば、一人になっていた鈴仙が言う。
「言っとけ……!!」
鈴仙の煽りに、少年は素早く起き上がると刀で斬り掛かる。彼女は避ける動作もせず、降りかかる刃を受け入れた。……ように見えた。
そして、刃が触れた瞬間彼女の姿が消えた。
「どうしたの? 狐にでも化かされたような顔をして」
背後から声がし振り返ってみれば、そこには斬ったはずの鈴仙が立っていた。
「狐、ってよりはマジシャンだな。まぁ、手品師にしちゃ持ってるもんが物騒すぎる、そんなもんよりステッキ持った方が百倍似合うぞ」
若干苦虫を噛み潰したような顔をしながら、仁は皮肉を吐き出す。
ここでやっと、少年の中で決心がついた。
これは戦い。殺す気でいかなければ、こちらが殺られる。
なぜ、彼女が自分を攻撃するかは分からないが、そんなこと彼女を倒してから考えれば良い。
「私が手品師、ね。ならこのマジックのタネを明かしてみなさい!」
そう言うと彼女の目が再び赤色に光る。
「幻朧月睨(ルナティックレッドアイズ)!」
鈴仙が言う。そして、彼女を中心に赤色の弾丸型の弾幕が発生し、広がった。
その多くの弾幕は先程と同じように分裂を繰り返し、再び少年に襲いかかってくる。彼女の髪と同じ色をした弾幕は、既に少年が刀を使って捌けるような数では無くなっていた。
それなら、また隙の大きな回避をしなくてはいけない。回避をすれば、彼女には"敵は、攻撃をすれば必ず回避をする。そして、回避すれば大きな隙が出来る”と感ずかれてしまうという危険性もある。
だから、なるべく回避以外にあの攻撃をどうにかする方法は無いか。と、少年が迫り来る弾幕の壁を前に考えていた、その時。
目の前の弾幕の壁が消えた。
「なんだ……?」
これが彼女の言っていたマジック、なのだろうか。しかし、殺害予告をした少年に向かってこんな無意味な事をして何になるのか。少年が疑問に思っていると、突然。
彼の体に、激痛が走る。そして同時に少年の視界は光に埋めつくされる。
「がっあぁあ!?」
何があったのか分からないまま、少年は地面へと倒される。そして、理解した。
弾幕が再び現れたのだ。
消えたはずの弾幕が出現して、彼を襲ったのだ。
「クソっ……なんだ、なにが……?」
手にしていた刀はどこかに飛んでいき、手元にあるのはホルスター内のM17のみとなっていた。だが、それだけではどうにもならないのは分かっている。楽観的に、ここはあるだけマシ、と少年は思うことにした。
「所詮、それぐらいか。……もういいわ、手っ取り早く殺してやる」
今度こそ、少年の息を止めようと彼女が近付いてくる。彼女はその際に手にしているUSPのマガジンを変えていた。その時、一瞬だがそのマガジン内部が夕日を反射して光っているように見えた。
それは、実弾のようにも見えた。
普通の弾幕弾なら、弾切れを起こした際はマガジンを一度抜いてからもう一度入れ直すだけで装填される。いちいち、マガジンを変えるという動作は必要ない。しかし、弾種を変えるというならば話は別だ。
「一応、聞いておくけど遺言はどうする」
右手でUSPを構えた鈴仙が、地面に転がっている仁に言う。
「遺言?」
「ええ、5秒の間に済ませて。敵に情が移るのは嫌なのよ」
「ふざけんな!」
そう言うと、少年は腰のベルトに装備されていたフラッシュバンを鈴仙に向かって投げた。ベルトから外すと同時にピンを抜いたため、投げてから一瞬で炸裂する。
その瞬間に少年は目を閉じ、両手で耳を覆う。
投げてから3秒ほど経って、ようやく少年は目を開いた。
鈴仙は今頃目を回して倒れているだろう、という少年の予想は裏切られることとなる。
少年の視線の先に、赤い目をした少女はいなかった、
(消えた!?)
恐らく、少女が幻覚を使ってきたのだろう。そう思っていた矢先に、仁の右肩に痛みが
混乱した少年は、左の肩の方を見ると。何かに切りつけらてたかのように、皮膚が服諸共切り裂かれていて、彼の肩部分は赤く染まっていた。
「舐めてもらっちゃ困るわ。これでも、何十年て訓練を受けた身なのよ」
鈴仙の声がした。痛みに悶えていた少年が、辛うじて目を開けて見ると。そこには、うっすらと煙を上げているUSPを持った鈴仙が少年から1mもないほどの至近距離にまで近づいていた。
少年は、分かった。いや、分かってしまった。
恐らく、鈴仙はUSPで少年が投げたフラッシュバンを撃ち抜いたのだ。オマケにフラッシュバンを撃ち抜いた弾が、そのまま少年の肩を切り裂くというのも考えながら。
そして、鈴仙はその華奢な腕で少年を持ち上げると、そのまま彼の背後にあった竹へと押し付ける。
「離せ……っよ!!!」
少年は渾身の膝蹴りを鈴仙の腹へと入れる。幸いにも、鈴仙は怯んで少年を離して、後ずさった。
少年は、その瞬間をチャンスと見て、痛む肩を気にしないようにM17を引き抜いて構えた。
しかし、それと同時に体勢を整えた鈴仙が一瞬のうちに少年の懐へと飛び込む。そして、右足で拳銃を蹴り落とすと、呆気に取られていた少年の伸びたままの腕を掴み、強引に腕の可動範囲外に曲げた。
「あっ、あぁぁぁぁぁあああ!!?!???!」
感じた事のない痛みに、少年はただ叫ぶことしか出来なかった。
再び、少年を竹へと押し付けると鈴仙は言った。
「……本当、不思議でしょうがないわ。何で、あの娘があなたと一緒に戦おうとしたのか」
嗚咽ばかり漏らす少年に向かって鈴仙は続ける。
「ねえ、教えてよ。何であの娘を傷つけるようとするの?」
━━━それは彼女の、心の奥に秘められていた本音だった。これは、あの娘のためなのは分かっているのに、つい本音を漏らしてしまう。
変わらず、嗚咽を漏らす少年に今度は、
「教えてよ!!」
と、怒鳴り付ける。
すると、言葉にならない声を上げていた少年から、
「━━━━」
言葉のようなものが彼の口から出てきたが、鈴仙は聞き取れなかった。
「え?」
瞬間、彼女の体が後方に吹き飛んだ。
「……っせえよ」
解放された少年は、膝を着くことなく立っていた。ブラブラと揺れる骨折した右腕を抑えながら、少年は言う。
「うっせえよ……少しは人の話を聞いたらどうなんだよ!」
その時、周囲から木を伐採する時のような独特な音がなった。音は一定の感覚を空けながら、コン、コン、と響いている。
「お前が、俺のことをどう思おうが勝手だ。だけどな……!」
音が止んだと思えば、異変はすぐにやってきた。
少年の背後の竹が五本ほど、宙に浮かんだのだ。根元を見れば、竹は斜めに切断されたことが分かる。
「俺が鈴華を傷つけようとする?」
竹は宙に浮いたまま、斜めに切断された根元の方を鈴仙に向く。
「ふざけんじゃねえよ! アイツは、俺の背中を任せることが出来る相棒なんだ。そんな事出来るわけねえだろ……!!」
痛みを堪えるため噛み締めていた彼の唇は裂けて、口の端から血が垂れはじめる。
「ついでに言っておく、俺がなんでこんな事してるか知りたいんだろ?」
「……!」
「そんなに知りたいなら、言っておく。俺が、なんでこんな事してるかだって? そんなの決まってるだろ、俺の為にだ」
「何を馬鹿なことを!」
「馬鹿なんかじゃねえ!!」
少年の声とともに、彼の周りに浮いていた竹の槍が一本が鈴仙の顔目掛けて飛んで行った。彼女は、人間離れした身のこなしで竹槍を避ける。
「俺は、俺は目の前で助けを欲しがってるヤツを見殺しにはしたくねえんだよ。なのに、俺の力だと手を差し伸べた時には、もう手遅れになっているんだ。悔しいさ、ああ、悔しかったよ。だけど、今は違う。新しい能力がある、今までなかった知識もある、一緒に手を差し伸べてくれる相棒もいる。これ以上ないぐらいの、状況なんだ。俺の、誰かを、助けを欲しがっている誰かが痛みを知る前に助けだすって目標のための!!」
彼は、今までに二人の存在を救ったことがある。
しかしその存在を助けようとした時には、二人とも、あるいはその周囲の人物が酷く傷ついてしまっていた。一人目は、自身の大事な”家族"を意識がないままに傷つけてしまった。彼女の恐らくはただ一人の同じ血が流れる姉が、己を犠牲にしてまで助けようとしたのだ。そこまでしてくれる存在が大切でない訳がない。彼女達が人間ではなくとも、そんな行動を起こせる程の強い気持ちがあるのなら、同じことが言えるはずだ。
しかし、彼女が大切な存在を無意識とはいえ傷つけたという事実は、何をどうしても消えることは無い。彼女自身は何も悪くはない、ただ誰かも知らぬ人物に呪いの札を貼られておかしくなってしまっただけの被害者だ。彼が彼女を助けても、それは無実の囚人を監獄から救うのと同じこと。監獄から出られたとしても、その無実の囚人が前と同じ生活を送ることが出来るのか、いいや、出来ない。たとえ、元の世界へ戻れたとしても、監獄へ入っていたというレッテルは一生付きまとうことになるのだから。
それは少年が助け出した、二人目の存在にも言えること。いつもと同じ日常を送ることが不可能となった、という点では無実の囚人と同じことが言えるのだろう。
二人目は幻想郷ではなく、その外にある世界で少年が助け出した少女。少年が少女に初めて会った時、彼女は切り傷だらけの顔に苦しそうな表情を浮かべながら『私から、逃げて』と言っていた。それは、
彼女は助けだされた後、言葉を発することはなくなってしまった。少年が聞いた警告が最初で最後の、彼女の言葉だったのだろう。それに、彼女は家に帰ることが出来ない。家がない訳ではないが、そこに家庭はない。両親は行方不明になってしまった以上、彼女はいつもと変わらぬ家庭に戻ることは不可能なのだ。
「……つまり、ヒーローの真似事をしたい、って言うの」
多少意地悪に言ったはずなのに、痛みでそれどころではない筈なのに、少年は笑った。
「こんな事して、ヒーロー扱いされるなら本望だ」
そして、鈴仙に残りの四本の竹槍が飛んでいく。
「怪我をするのは嫌だ。けど、それ以上の苦しみを知ってしまうかもしれないヤツらがいる。そいつらの事考えたら、自然と痛むことなんてどうだって良くなっちまう!」
鈴仙は、ただ立っていた。
そんな彼女の顔に、恐れはなく、怒りもなく、悲しみもなく、あるのは安堵したような目だけだった。それは、目の前にいる少年には分からないだろう。自分のやらなければならない事に夢中で、見えてる光景を理解することは難しいのだから。
そして、鈴仙の中で一つの区切りがついた。
ようやく、あの娘が知りたかった事を聞けた。
それに彼女が求めていそうな、最高の答えだった。
あとは彼がどうするか、それだけを見届けるだけ。
鈴仙の耳元を竹槍が掠めていく。
「━━━それで、どうするの?」
「お前を倒す!!」
残りの三本の竹槍が、彼女に向けて飛んでくる。三本とも全て、今度は命中するコースを辿っている。
一本目は、顔に。二本目は、脚に。三本目は、体に。
それぞれを躱し、蹴り、掴み上げて投げ返す。
投げ返された竹槍は、少年の足元に突き刺さる。
その竹の槍を見ようともせずに、少年は叫ぶ。
「こんな所で、負けたくはねえんだよ!!」
少年の叫びと共に、彼の背後から一本の刀が飛んでゆく。恐らくは、竹を槍へと加工したそれは一直線に鈴仙の顔へ向け飛んでゆく。
彼女は頭を横に傾けるだけでそれを避ける。
「子供騙しね、もう少しマシな……」
その時、バン!! という音が竹林に響いた。その音は火薬の破裂音とは違う、別の何かの様な……。
(ま、さか……?)
鈴仙はその音が響いたのと同時に、腹部に痛みを覚えた。
そして、察した。
刀が飛んできた方とは真逆の方向。つまり、鈴仙の背後に音の源があることに。
そこには、一丁の銃が浮かんでいた。
少年が持っていた拳銃━━━M17だ。
拳銃に目が向いた瞬間、再びM17は発砲した。一発、二発、三発、四発━━マガジン内にあった全ての弾幕弾を鈴仙の体に正確に撃ち込んでいく。
「あ、……?」
やがて、鈴仙の体は力が抜けたように倒れた。その際にやはり、どこか安堵したような表情をしていたが少年の目には映らなかった。何故なら、彼の目からは血が流れていたからだ。まるで涙を流すかのように鮮血が彼の目から流れているのだ。
少年の能力は物に触れずに動かすという在り来りのもの。
しかし、それには欠点があった。
それは、生き物には使えないというもの。使えば頭痛が生じ、たちまち戦闘所ではなくなってしまう。……そして、
もう1つ。
二つ目の欠点、正確には最近になってから出来てしまった弱点。それは同時に二つ以上の物体は動かせないというもの。
"程度の能力”がどういう原理か分からないが、頭を使うというのは確かだ。
それは物理的にも、精神的にも。
ただ、その物理的な面が欠点に繋がってしまったのだ。
普通の人間がこの未知の能力を扱うには、脳に負担が大きすぎたらしい。
操るのが一つだけならまだしも、二つとなると脳が高負担に耐えられなくなってしまうようだ。
いい意味でも、悪い意味でも神川 仁は人間だ。
だから、未知の能力で脳に大きな負担がかかった少年は、頭部の血管が破裂し、脳の機能が低下し、五感は失われることになってしまった。
もはや、言葉も発することが出来なくなった少年は静かに目を閉じて今度こそ膝をついて倒れる。
これは初めて幻想郷に来た時のような感覚だった。
あの時も、狼の前足の軌道を無理矢理能力で変えたため、無意識にも初めて能力を使った少年は気を失った。
……恐らくだが、最近まで問題ではなかったのは、それまで彼の身にバルが宿っていたからであろう。
使いにくい能力だが、少年にはこれしかない。
「あ、あ……」
少年の口から発せられたのは、言語にもなっていない
それが後悔なのか、喜びなのか、それとも今から死ぬという恐怖なのかは、もはや知りようもない。
そして、少年は目を閉じたまま動くことはなかった。
やりたいことが一区切り着きました…。
というわけで、筆者です。
もう少しで、この小説も二年目になるらしいです。やっぱり、昔のを読み返していると成長したな、とはうっすらと感じます。ですが、まだまだ腕と文章力は磨かなければと思ったのも事実です。
今年こそは、他の作品も出したいなと思っています。でないと、完全に詐欺ですもんね、アレ。出す出す詐欺ですよ。
というわけで、今回はこれで、
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けると幸いです!
では、今回もこんな小説を読んでいただきありがとうございました!!