翌年、四月のことだった。
いつものように、部屋主のベッドの上で本を読んでいた鈴華の耳に飛び込んで来たのは、扉の開閉音と憂鬱そうな少年の声だった。
「……突然ですが、山に行くことになりました」
「なにゆえ?」
「じいちゃんから連絡があったんだよ」
ほら、と少年は手に持っていた携帯の画面を見せる。
そこにはいつものように、ここに行ってくれ、とだけ書かれたメッセージと目的地の座標がメッセージアプリに送られていた。
メッセージと目的地の座標だけなのは、いつもの事だった。しかし、問題はその座標の場所だった。
「……思いっきり、山の中じゃん」
「だから、山に行くって言っただろ? スマホの方に交通費も送られてるはずだから……今回は自力で行けってことだ」
そう言われて、鈴華は最近手に入れた自分の携帯を見てみる。ちょうど"保護者”からお小遣いとしてデジタルマネーが送られてきたところだった。
「……やだ」
「何だって?」
「行きたくない!」
「わがまま言わないの。じゃないと、今日の夜ご飯は抜きですよー」
「それは嫌だけど! でも、山でしょ? ボクの中の山に関する記憶に、1度も良い記憶は無いんだけど!!」
「大丈夫だ。今回は山は山だけど、ちゃんと建物がある所らしいぞ」
「建物? それ、バレちゃうんじゃないの?」
「問題ない。なにせ、その建物が俺たちの目的地らしくてさ。写真でこの座標の場所見たら、他の建物も無いみたいだし」
「なる、ほど?」
と、その時。
ピロリン
という電子音が少年の携帯から鳴った。
「ん? じいちゃんからだ」
少年が送られてきたメッセージを読むのを、鈴華も横から画面を覗き込む。
内容は、『住職に会ったら、私の名前を言うのを忘れないように』
少年は、少々怪訝な顔をする。
「住職ぅ……?」
何故だか、猛烈に嫌な予感がする。
住職、というのだから十中八九、目的地の建物というのは寺なのだろう。
だから、決して悪い要素など無いはずなのに。
この胸騒ぎはなんなのだろう?
「とにかく、準備をしよう。出発は……明日の朝の八時ぐらいかな」
「了解。あ、武器とかどうする?」
「今回は拳銃メインで。じいちゃんが送ってくれるならアサルトライフルとかショットガン辺りが持ってけたんだけどな、バスとかで移動するなら目立たない方がいいかと思ってさ」
「サブマシンガンは? あれなら、持っていけそうだけど」
「あれ以外とデカいし、弾も持ってくなら結構重くなるだろ。スコーピオン辺りなら持ってけそうだけど、
「まぁね。じゃあ、ボクはいつもの45口径を持ってく」
「なら、俺は9mm辺り持ってくかな……妖怪相手に使えるかは分かんねえけど」
「頭か目に当てれば変わんないでしょ」
そう言うと鈴華は、部屋の押し入れの戸を開ける。
押し入れの壁には様々な種類の銃火器が掛けられていて、何も知らなければそれはサバイバルゲームをやっている人間の部屋を連想させるだろう。
だが、その全ての銃火器は本物だった。
そして押し入れを上下ふたつに別ける台には軍隊が使うような弾薬箱が並べられている。弾薬箱の中身には実弾がギッシリと詰め込まれている。
「……もうちょっとマシな置き場所なかったのか?」
「分かるけど、これなら、わざわざ健二さんのとこに行かなくても済むでしょ?」
「そーだけどよ……このまんまだと、家に誰も呼べなくなるな」
そんな愚痴をもらしながら、二人はそれぞれの装備を押し入れから取り出す。
バッグに弾薬を詰め込み、上着の下に着けるベストにも換えの弾倉やフラッシュバンやスモークグレネードを装備する。
肝心の銃は、そのベストにあるホルスターに入れている。
「そういやさ、鈴華」
「なに?」
「最近、じいちゃん家行った?」
「行ったけど。それがどうかしたの?」
「いや、……ちょっとな」
仁はこの数ヶ月、多忙も多忙な生活を送っていた。受験に卒業、妖怪退治や高校への入学。そのため、幻想郷に行くことも彼の祖父の家にも行くことが難しくなっていた。
「大丈夫。祥なら、元気だったよ。最近はちょっとだけだけど喋るようになってきてるみたい」
祥、というのは去年の十二月に少年が助け出した少女の名前だ。
彼女も、年度が変わったのと同時に近くの中学校に入学している。
しかし、少年には一つの心配なことがあった。少年が会う時の彼女は表情は豊かであるのものの何故か言葉を一言も発していなかったのだ。
だが、鈴華が言うには最近は徐々に言葉を話すことが多くなっているらしい。
体が悪かったのか、心が悪かったのかは分からないが、どちらにせよ、今の彼女が元気にしているのは確かなようだ。
そして、新しい生活を楽しんでいる事も。
「そうか。じゃ、俺の心配は要らなそうだな」
「ダメ。あの子はまだ、大丈夫とは言えない。問題が全部解決した訳じゃないのよ。だから、私達が見守って、心配して、ちゃんと成長を助けけてあげないと、何のために助けたのか分からなくなるよ」
「それも、そうだな……って」
と、仁が隣にいる少女の目を覗くと、
「そういやお前も何か変わったよな。なんというか、その……人間みたいになってきたっていうか……」
そういうと、鈴華は頬を膨らませて、
「それはどういう意味? まさか、ボクが
「違う違う! そういう意味じゃなくてな……」
「……分かってるよ。ちょっとからかっただけ。確かに、自分でも変わってきたと思う。
「うん、俺が言いたいことと違うよね。それって変わったってより、沼にハマってるだけだよな!?」
少年の言葉に、あははと笑う鈴華。
そして、彼女はねじれた腹を戻すように息をつく。
「……はぁ、で今回は刀は持ってかないの?」
「そのつもり。だって、刀デカいじゃん。あからさまに怪しいじゃん」
「そうだけど、ホントに拳銃だけで足りるの? なんなら、アサルトライフルを分解すれば……」
「分解するのは良いけどよ、俺たち組み立てること出来ねえだろ」
「分かってる。一応、言ってみただけ」
と、鈴華は多くの銃が飾られている押し入れの壁に見慣れない銃があることに気づいた。
それは、他の銃よりも飛び抜けて古臭く、傷が目立つリボルバーだった。
「あれ? こんなんあったっけ」
そう言って、リボルバーを手に取ってまじまじと見てみる。
シリンダーはスイング式で装弾数は六発。ダブルアクションのリボルバー。まるで、西部劇に出てきそうなそれを見ていると、
「あれ、どうした? そんな銃はてっきり触らないもんかと思ってたけど」
仁が横から覗いてくる。
「これ、君の?」
「ああ。そいつは幻想郷の方で見つけてきたヤツでさ、なんでもSAAのカスタム品らしくて」
「待った」
そう続けようとした少年を、鈴華は静止させる。
「これがSAA? 嘘よ、嘘」
「え、? だって、見た目が……」
「そもそも、これはSAAじゃない。M1877よ、……分からないなら”サンダラー”って名前なら知ってるかも。……にしても、こいつ、グリップもバレルも丸々交換されてるから、見分けがつかないのも当たり前だよ。それにこれ……バレルにはコンペンセイターが取り付けられてるし、サイトなんてゴーストサイトに改造されてる。バレルにはピカニティーレール、塗装も黒に染め直されてる。触られてないのは機構ぐらい……ごめん、訂正する。何よ、このシリンダー!? なんで、この時代の銃にスイングできるようなシリンダー付けてるの!? ここまで、こんな古い銃を改造するなんて、やった人間はきっと変態ね」
「そこまで言うか……。曲がりなりにも、そいつは俺の命を救ってくれたんだぜ?」
「言うよ。こんな古い銃の何が良いんだか、ボクには分からないね。大人しく新しい世代の銃を使えば良いのに」
「じゃあ、レイジング・ジャッジはどうなんだよ。あいつだって、新しい世代のやつだぜ? なのに、最近使ってないじゃんか」
「アレは使い方が根本的に間違ってる」
「……ですよねー」
思い出されるのは、散弾や照明弾に焼夷弾が装填されていたリボルバー。思い返せば、あの銃、ドラゴンブレス弾ぐらいしか、まともに使えなかった気がする。
散弾は飛び散る弾が少なすぎて散弾の意味が無くなっていたり、照明弾は小さすぎてライトで照らした方が明るいたり……ゴム弾なんてものもあった気がするがあんなBB弾の事は知らない、思い出したくない。
だったら、ドラゴンブレス弾だけ使えば良いだろうが、生憎とあれはコストが多すぎるためそんなバカスカ撃てるものではなかった。
よって、ジャッジにはしばらく倉庫番を任せることとなった。
それが最善の策だった。
と、仁が考え事にふけている横で、再び少女がその手の中にあるリボルバーをマジマジと見つめていた。
(命を救われた……かぁ。……ふぅん、そういうこと)
そして、彼女は少年に気づかれないようにリボルバーをバッグの中に詰め込んだ。
お久しぶりです、どうも筆者です。
約五ヶ月間ぶりとなりますが、決して失踪ではなく、他サイトの方でオリジナルの小説を投稿していたので、なかなかこっちに手がつかなかっただけです。(´Д`;)ヾ
では、本編のお話ですが、前回から約五ヶ月ほど時が経っております。何故、その間を書かないかと言われるとあれですが、理由としてはこの話の大筋とは全く関係のない出来事ばかりになるからです。仁君は雑用ばっかやってたんです。まぁ、例えるなら、ゲームの周回を五ヶ月間ほどやっていたようなものです。経験値は貯めていたけど、ストーリーは全く進めない、もしくは進めていない、そんな状態だと思っていてください。
とまあ、今回はこのぐらいで…、
誤字や脱字、おかしな文があったらご報告して頂けと幸いです。
では、こんな小説を読んでいただきありがとうございました!!