&Ⅱ   作:水代

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インサイドツー

 

 

「あー本日の練習の前に紹介しておきたい人がいる」

 

 余りあれこれと言わない会長の角谷杏に代わりいつも前に立って皆に指示を出している河嶋桃がいざ練習の直前になってそんなことを言った。

 戦車道の練習も回数を重ね、皆ようやくその動かし方も板について、練習が楽しくなってきたタイミングでの突然の話に皆一様に首を傾げ。

 

「以前より戦車を探してもらっていて合流が遅くなったが、ある程度見切りもついたため本日より合流してもらうこととなった……」

 

 紹介しようとする桃の発言を肩を叩いて止め、振り返る桃にいつの間にかそこにいた少女が一つ頷く。

 一瞬悩む素振りを見せた桃だったが頷き返し、一歩下がる。

 

「今日から合流する角谷李だ……一応戦車道経験者だ、まあよろしく頼む」

 

 そうして生徒会たちの前に立ち、そう自己紹介する少女の姿にチームメンバーの面々がざわめいた。

 会長である角谷杏ととてもよく似た姿をしていながら、どこか違う少女はけれどそれを気にした様子も無く生徒会のほうへと戻っていき、再び桃が前に立つ。

 

「彼女の所属は生徒会チームとなるので覚えておくように、以上だ。よし、では今日の戦車道の訓練を始めるぞ」

 

 そうして何事も無かったかのように始まる練習に、けれど皆どこか戸惑いを隠せなかった。

 

 

 * * *

 

 

「みんな今日はぎこちないね」

「皆さん、新しい人が入って緊張してらっしゃるんですよ」

 キューポラから顔を覗かせながら呟いたみほの一言に照準を覗きこみながら五十鈴華が答えた。

「会長にすっごく似てたね、あの人」

「従妹らしいよ?」

 砲撃の練習のため特にやることの無い通信主の武部沙織が呟いた一言に、みほが返す。

「そうなの? ていうかみぽりんもしかして知り合い?」

「え……あ、うん、まあ少しね」

 その話を辿ると去年の全国大会の話にまで続いてしまうため思わず言葉を濁したみほだったが。

「あの方、去年の全国大会ベストフォーまで進出した知波単学園戦車道の隊長さんでは?」

 続いて呟いた装填主、秋山優花里の一言でそんな淡い目論見もあっさりと砕け散った。

「え? ベストフォー? 全国大会で? すごいじゃん」

 当然のように食いつく沙織と。

「はい、残念ながら準決勝で敗退してしまいましたが、角谷李殿と言えばあの王者黒森峰学園をあと一歩のところまで追い詰め、万年初戦敗退だった知波単学園を一年で大躍進させた凄い方ですよ」

 そして聞き手がいて、語りたがりの優花里が口を留めるはずも無く、出るわ出るわ、角谷李の武勇伝。

「何と言っても去年の全国大会で黒森峰学園の隊長車を撃破した唯一の学校で、隊長車同士の一騎打ちであのティーガーⅠを相手に正面から戦い、撃ち勝った瞬間は感動物でした……まあ、その後やられちゃったんですけど……あっ」

 自分で語っておいて、どうしてみほが言葉を濁したのかようやく気付いたらしい優花里が硬直し、気まずそうにみほを見やり、試合とは言え後ろから撃った当の本人であるみほは苦笑して誤魔化すしかなかった。

 

「というか、なんで他所の学校の戦車道の隊長がうちに来るんだ?」

 

 操縦席から顔を覗かせた操縦主の冷泉麻子が疑問を発する。

 それに答えようとして、全員が首を捻った。

 

「あれ? 何でだろう?」

「うちの学校で戦車道を始めるから?」

「でも他所の学校の隊長さんがわざわざ転校してきますか? いくら会長の従妹だとは言え」

「確かに、特に今年の知波単学園は今度こそ決勝進出、或いは優勝も狙えるのではないかと関係者の間で噂になっているそうですし、その立役者である隊長がいきなり転校してくる、というのは少し考えづらいですよね」

 

 改めて考えるとおかしな話だ。

 みほだって昨日は自分のことで手一杯で気にしていなかったが、或いはみほのような特殊な事情でも無い限りいきなり転校、というのも違和感がある。

 基本的に中学生となった子供たちは皆学園艦で生活するため昔、まだ陸に学校があったころならともかく、今となっては親の転勤について行き転校、というのもほぼ無くなっている。

 

「前の学校で何かあったとか?」

「恋人がこっちにきたからとか」

「ここ女子高ですよ?」

「いや、そんな理由で戦車道止めたりしないと思いますが」

「まあ考えても分からんな」

 

 さて何故だろう。そんな疑問を皆の頭に残しつつ、それでも練習時間が刻々と過ぎていく。

 

 

 * * *

 

 

「まあ分かってはいたが、まだまだ素人に毛が生えた程度だな」

「あちゃー……まあ授業の一環として時間を取ってるから、やっぱり足りないよねえ」

 38(t)戦車内部で練習中の他の面々を見ながら李が零した言葉に、杏が苦笑する。

 戦車も旧式なら、人員だって寄せ集め。それが大洗女学園の戦車道チームであり、そんなチームで全国大会の優勝を目指そうというのだから周りの人間に聞かれれば鼻で笑われるか正気を疑われるかのどちらかだろう。

 

「大会まであともう二月も無い……多少早くはあるが、試合をする必要があるな」

「んじゃまた全員で森の中で追いかけっこでもする?」

「ああ、蝶野教官だったか……オレも知ってれば見に行ったんだがな。まあそれとは別だ。身内同士でやったってどうしても限界がある。他校の人間に頼むしかないだろうな」

 

 どんなことでもそうだが、練習と実践はまるで異なる。

 得られる経験の質が段違いなのだ。とは言え、実践の中で経験を得ることができるのは相応の実力があってこそであり、その実力は練習によって培われる。

 そして練習で得た実力は実践の中で経験を掴み、そこで得た経験をまた練習の中で実力へと昇華することで初めて成長できるのだ。

 故に本来ならばもう少し、せめてまともな試合になる領域まで全員の実力を高めてから望みたいのだが、最早時間の無い大洗女学園戦車道にとってそれは高望みというものだ。

 

「この時期まだ新入生が入ってきたばかりでごたごたしている時期だからな、逆にメンバーの実力を見るために練習試合を受けてくれるところもあるだろ」

「おっけー、んじゃ、そうしよっか」

 

 大会本番で試すようなことはできない、逆に今だからこそねらい目なのだと告げる李の杏が軽く了承を出す。

 まあかと言って実行するのは杏では無いのだが。

 

「かーしま」

「はっ、練習が終わり次第各校に連絡を取っておきます」

「よろしく~」

 

 お前やらないのかよ、という李の視線に気づいた様子も無く杏が大きく口を開けて大好物の干し芋に齧り付く。

 そんな二人の様子を副会長の小山柚子が苦笑しながら見つめていた。

 

 

 * * *

 

 

「というわけで、急な話だが今度の日曜日、練習試合を行うこととなった」

 

 李の合流から数日後、練習が終わり最後の全員で整列したその場で河嶋桃がそう切り出した。

 試合など皆一番最初の碌に戦車の動かし方も知らなかった時一回きりの経験だったため、誰もがざわめき立ち。

 

「相手は聖グロリアーナ女学院だ」

 

 続けて告げたその言葉に、李がほうと口角を上げ、優花里が息を飲み、みほが僅かに視線を落とした。

 その様子に気づいた沙織が疑問符を浮かべ、それに答えんと優花里が口を開く。

 曰く、聖グロリアーナ女学院はかつては全国大会準優勝の経験もある強豪校であり、戦車道において黒森峰、プラウダ、サンダースと並べられて優勝候補とされる四強の一校である。

 ほぼ初めての実戦でそんな強敵が相手と知って沙織と華も僅かに驚き。

 

「日曜は朝六時に学校集合だ」

 

 続けて告げられた桃の言葉に、麻子が眠そうに半分閉じかかった目を僅かに見開き。

 

「……止める」

 

 ぽつり、と呟いた。

 

 

「あそこは何やってんだ?」

「あー……冷泉ちゃん、朝弱いからねえ」

 踵を返しそそくさと去っていくⅣ号戦車の操縦主の少女、麻子とそれを追う同じ戦車に乗るメンバーたちを見やりながら思わず呟いた李の言葉に杏がそう返した。

「朝練も取り入れなければならんのに朝が弱いじゃ困るぞ」

「こればっかりは本人の体質の問題だしね~」

 おいおい、と内心で呟きながら去っていく面子の中にみほがいるのを確認し。

 

「杏」

「何かな?」

「隊長どうする気だ?」

「私としては李か西住ちゃんに頼みたいところなんだけどねえ」

 

 当然の話だが、戦車道にもリーダー……つまり隊長がいる。

 現状桃が全体に声をかけている状況だが、桃とて結局戦車道の素人には変わりない。

 つまり実戦の中で全体に指示が出せるかと言われると疑問を呈さざるを得ないわけだ。

 現状でそれができる人間は二人しかいないだろう。

 

 一人は実際に別の学校で戦車道の隊長をやっていた角谷李と。

 

 あの黒森峰で副隊長をやっていた西住みほの二択となる。

 

 とは言え。

 

「どうせなら西住妹にしようか」

「……モモはやんないの?」

 李の提案に、一瞬きょとんとした表情になった杏が少しだけ砕けた口調で返してくる。

「この面子にオレのやり方が合うとも思えんからな」

「そんなもんなの?」

「ああ」

 

 角谷李の戦車道は結局知波単学園戦車道のそれだ。

 正確には少し違うのだが、根本的には突っ込んで真正面から敵を食い破る、それだけだ。

 性格的に正面突破というのが好きなのもあるし、作戦を立案し戦場を支配するような繊細さも頭抜けた頭脳も無い李にとって、真っすぐ突っ込んで突き抜けるという知波単学園のやり方が結局一番馴染んだ。

 だがこの素人集団を相手にそれを強いても真正面から突っ込んでそのまま玉砕するのがオチだろう。

 知波単学園ならばそれでも良かったのだが、大洗女学園には残念ながら後が無い。

 公式戦で一度でも負ければそれで終わりな以上、李のやり方は余りにもリスキーだった。

 

「腐っても西住だ……どうにかしてくれるだろ」

 

 それでもどこまでやれるのかは李としても未知数だ。

 残念ながら黒森峰の隊長は西住まほであって西住みほではないのだから。

 角谷李は西住みほが直接指揮を執る姿を見たことが無い。

 だからこそ、練習試合でそれを試すのだ。

 

「良くも悪くも、オレたちが勝ち抜けるのかは西住妹の出来次第ってことだ」

 

 遠く、帰って行く麻子を追いかけるみほの姿を見ながらそう告げた。

 

 

 * * *

 

 

「というわけで相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を生かした浸透戦術を得意としている」

 生徒会室に置かれたホワイトボードに書いたイラストや張ってある資料を元に河嶋桃がその場にいる各戦車長へと説明をする。

 内容は後日の聖グロリアーナ女学院との練習試合に向けての作戦説明。

 

「んで、何で河嶋がやってんだ?」

「本人がやる気だったからね」

 そしてそんな桃を眺めながら呟いた李の疑問に杏が返す。

「河嶋が作戦立案って無謀過ぎ無いか?」

 決して桃が無能だというわけではない。というか杏の補佐としては行動力もあって物事をはっきりと言える性格も幸いして有能だと言えるだろう。

 ただ桃本人は完全にサポート向けというか、前に立ってリーダーシップを発揮できるようなタイプではない……本人の性格は別として。

 ついでに言えば成績も悪い。物事を深く考えず、目の前の状況に対してどうにかしようと無暗に突っ込む、知波単学園の場合、状況を理解し把握した上で突撃一択なだけで、桃の場合状況がどうにも見えていない、つまり視野が狭いのだ。

 李だって決して頭が良いとは言えないが、それでも桃の立てた作戦を見ればダメだろうことも簡単に予測できる。

 

 そして李に分かること程度、みほに分かっていないはずも無く。

 

「西住ちゃん、どうかした?」

「あ、いえ……」

 

 俯くみほに、杏が声をかける。

 

「いいから言ってみ?」

 

 遠慮するみほを杏がさらに促すと、やはり李が思っていたような作戦上の欠点が述べられ。

 

「黙れ! 私の作戦に口を挟むな! そこまで言うなら()()()()()()()()!」

「賛成だな」

 

 勢い余って桃が口走った言葉に、即座に李が賛同を示す。

 え、と誰かが李へと視線を向け。

 

「西住妹……お前が隊長をやれ」

「んじゃ、そういうことで、西住ちゃん、よろしくね~?」

 

 李の言葉を、杏が即座に決定事項とする。

 半ば強引ではあったが、けれど戦車道経験者であるというのは事前に皆知っていたので特に反対意見も無く、杏が手を叩けば釣られるように皆拍手を返した。

 

「え、え?!」

 

 当の本人だけは状況についていけなかったが。

 

「頑張ってよ? 勝ったら素晴らしい商品上げるから」

「え、で、でも隊長なら角谷……えっと李さんのほうが」

「オレの出身は知波単だぞ? 基本的に突撃以外に指示なんてせん……がそれじゃ聖グロには勝てんだろ。というわけでお前に任せた、西住妹」

 

 李の返答にまだまごついた様子のみほだったが。

 

「もし負けたら……大納涼祭りであんこう踊りでも踊ってもらおうか?」

「「「「え?!」」」」

 

 次いで呟いた杏の一言に、みほと李以外の全員が絶句した。

 

 

 

 




シスコンニキ出せないととんでも無くネタに詰まるな(白目)
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