なんか気づいたら人外に転生していた件について   作:神坂真之介

1 / 4
この物語はオバロ世界とD&Dとかを元に書かれています。
主人公に結構都合の良い事が起きます、原作に対して捏造をモリモリっと盛り込んでいます。
あと作者が適当なことを書いていますがあんまり信用してはいけません。


オバロ開始前100年前後から現在に至るまで

 ◆プロローグ的な

 

 私の名はヘジンマール、アゼルリシア山脈に住まう偉大なるフロストドラゴン、カッコ笑いカッコトジルの一頭である。

 ついでに言うと転生者(竜?)だ。

 前世の記憶は割とアレである、転生ものの数ある物語の様に転生トラックに跳ねられたと思ったら気が付けばドラゴンに生まれ変わっていたという、まぁ、そんな感じ。

 

 目の前にでけートカゲが居た時の私の心境は筆舌しがたい、マジビビった。

 それが我が母上であるところのキーリストランであったのだが、トカゲの性別とかわかるかい。

 ともあれ、混乱する幼年期(ドラゴリング)時代、私は名前を名付けられた所で既視感を感じた訳である。

 

 私=ヘジンマール

 母=キーリストラン

 父=オラサ―ダルク

 場所=アゼルリシア山脈

 

 あれ?これオーバーロードじゃね?と、固有ワードからアニメやネット、書籍で読んだ作品を思い出したのは必然というかなんというかな感じであった。

 

 そう、将来、やや、かかあ天下っぽい暴君の父上殿は綺麗に素材に解体され、うちの家族は極悪非道の組織の下僕になってしまうのだ!

 うーん、将来的には割と待遇は悪くないっぽいけど、どうしよう、正直私がへジンマールになってる時点で同じルートを辿るとは限らんよね。場合によってはまるっと一族郎党素材ルートですよ。モモンガ先生!!

 ドラゴンって、ドロップ素材的に凄い美味しいらしいものね、がんばって鍛えても、抵抗の余地ないだろうしね、みたいな?

 

 割とお先真っ暗ですね、ドラゴンは基本放任主義がちで子育てが育児放棄かってレベルだったが、それを良い事に私は兄妹達の卵に囲まれながら考えて考えて、最終的に思考を放棄した。

 いや、まぁ、なんか打開策はあるかもしれませんが、私は生まれたばかりだし、あんまり前世からそんな頭が良かった訳でも無いし―?

 最悪心臓掌握(グラスプハート)されれば、速やかにあの世にエスケープ出来るだろう。と後ろ向きに開き直る事にしたのだ。

 あんな絶対勝てない連中×多数に勝てるかい、武力前提で考える辺り私も異形種(ドラゴン)の精神構造に侵されてるのかもしれんね。

 

 さて、未来のナザリックショックはともあれ、私はドラゴンである。数あるゲームや物語のなかでも最強種族の一角として名だたる種族である。ゲームならレアクラス、これはゲーマーとして上を目指してみたくなる。

 最強しか目指さねぇ!ってラノベ風味な心持、え?がんばってもナザリックには無意味?

 やだなぁ、それとこれとは別だよ、目指すだけならタダだし、そんな訳で、前世の知識をもとに考察してみるのだよ。

 

 このアゼルリシア山脈最強の存在である所の父上殿オラサ―ダルクのデータを思い出してみよう。

 

 幼年《ドラゴリング》10

 若年《ヤング》10

 青年《アダルト》10

 長老《エルダー》5

 古老《エンシャント》1

 ??10

 

 ドラゴンは寿命は無く加齢とともに段階的に強くなるという。

 父上殿は種族レベルで36。それに内容は不明ながら10レベル相当の職業を所得して46レベル、あれ?イビルアイさんより弱いな。邪気眼ロリ吸血鬼さんの強さが際立つね。

 

 ともあれ、ユグドラシルに準拠すると種族レベルも職業レベルも15まで上がるのだとか、だとするとなんで父上殿は10なのかとなる、多分、年齢加算の間に15まで上げなかったのだろう。

 基本ドラゴンは強者なので戦闘よりも一方的な捕食の方が多くなる、私の知るMMORPGなんかだと、自分より格下からの経験値は入らない、またはほとんど入らなくなるのでレベルを上げられるだけの強者と対峙する機会が少なかったのではなかろうか。モモンガ先生の大虐殺では10万人殺して何万程度だったっぽいので、多分10レベル以上下の格下相手だと経験値は総1点とかそんな感じの。

 この世界では成長とレベルアップは別モノでレベル上げというのはゲーム的に戦闘に勝利し経験値(?)を得るのが最も効率が良いっぽいし

 プラチナムドラゴンロードさんが世界の理が歪められたって言ってたし、ワールドアイテム(蛇とか五行とか)でゲームな感じに法則が歪んでるんじゃないかと思う。

 まぁ、ゲーム的な法則が働いててもこの世界に実際に生きてる人達にとってはゲームじゃないのだから、わざわざ死ぬような戦いを延々と繰り返すとか狂人染みた事、普通せんよね。

 そもそも、ゲームなら経験値の元(エネミー)は多少のタイムラグは在れど無限にポップするけど、現実的には性交妊娠出産育児の過程を越えないと増えない訳でだね、何万何千をブチ転がすとか出来ても資源《エネミー》が足りない。

 そう考えると父上殿のレベル構成は数百年かけて結構な経験を積んだかなりの叩き上げとみて良いんじゃないだろうか。

 

 廃人的に見るとエンジョイ勢だけどな。

 

 さて、ドラゴンの成長、この場合は種族クラス取得条件、これは加齢か。

 五百年前に現れた八欲王に竜王は殆ど殺されたというから、そこから考えるとウチの父上殿を筆頭にそれ以降に竜王を名乗ってる竜は(プラチナさん曰く子供並)は最大で500歳前後だと思う。

 単純に考えて100年毎に種族クラスの取得条件が満たされるって所かね?

 んで、ナザリックが転移してモモンガどんが此処に来る頃私の兄妹全員100歳以上200歳未満と、うん種族レベルではどう考えても対処は出来んね。まぁ、もともと、最大年齢でもまともに戦える芽ないけど。

 

 正直、ユグドラシルの最適なクラス構成とかわからんちんな上に、検証とか再取得とかも難易度が高い、死んでレベルダウン&取り直しとか蘇生してくれる人居らんとできねーしねー

 法国なら蘇生魔法の使い手居るだろうけど、人間至上主義者だし間違いなく変なもの仕込まれるから却下、Q&A三回からのニグンさんの死にざま忘れんぞ。

 蘇生のあてはやっぱ、蒼薔薇だなぁ、善良だし、交渉の余地もありそうだし、場所も割と特定出来るし一考の価値ありか、まぁ、彼女達が活躍し始めると、ナザリックショック間近だから、時間なさそうだけど。

 

 とりあえず、何でも良いから幼年《ドラゴリング》を15まで上げる、マッチョと貧弱くんだと同レベルでも強さに違いがあるそうだから底上げに体を鍛える。

 何かドラゴンに良さそうな職業クラスをとる、とかかな?

 筋肉だけ鍛えても魔法に酷い目に合いそうだから魔法職も取れたら取りたい、ドラゴンの相性としては種族的に魔力系能力を自動取得するのだから魔力系魔法詠唱者だが、習得するなら信仰系の方がやや楽そうな気がする。

 ドラゴンは基本俺様最強主義だから、あんまり信仰とかとは無縁でだからこそ信仰系魔法詠唱者は少ないが。

 信仰系は祈りとかそゆのを繰り返して取得するっぽいのでスタートラインは割とイージーな気がする、まぁ、これは神を信じてる程度ではダメっぽいが。

 魔法詠唱者自体が才能在るのがとんでも頑張って数十年かけて第三位階、才能無いと一生かけて一,二位階らしいんで、今はなれたらいーなー程度、本格的にやる気になったら帝国のペロペロ爺古田んとこ行こう。

 

 とりあえず下準備に体を鍛え、初期種族レベルカンストの小目標を掲げた私は、鱗がある程度硬くなった頃、体力づくりの為、棲み処の洞窟からちょくちょく外出しては山脈の野山を駆けた。

 前世ではせかせかと仕事や趣味に生きた私だったがこの世界は原始の理に息づく世界、ぶっちゃけ、ネットもねぇ!ゲームもねぇ!

 やる事と言ったら食うか寝るかくらいしかない、暇に飽かせて私は体を鍛えに鍛えた。外出できない時はグラップラー烈先生にならって站椿した。ドラゴンの体型は人型じゃないから変則的な感じになったがやらないよりましだろうとかそんな感じ。

 

 その結果、季節が三回位巡った頃には別の世界線では、肥満体に眼鏡を付けるデブゴンであったとは思えない感じの細マッチョなスリムボディを私は獲得したのだ。(ばーん)

 

 さて、下準備が終了したので次はレベル上げである、なんだかんだで私はレベル1

体長も幼年故に2mも無かったりするのだ

 異形種はステータスが高いクラスでさらにドラゴンは種族レベルとして同レベル帯よりも強いらしいが

 所詮レベルは1、いや、レベルとか確認できんけど、多分レベル1、フロストジャイアントとかは相手にするには早すぎるし、モンスターというのは私よりもレベルが数倍高めの冒険者が複数で囲まないと倒せない感じでかなり強いものだ、適正レベルを倒して荒稼ぎしたいのだが結構悩むものがあろう。

 そこで私はちょっと、妥協することにした、千里の道も一歩から、普通の動物をなんとか!

 ……とりあえず熊と猪はドラゴンにとっても割と結構な強敵だったと、明記しておく。

 

 

 

 ◆とあるクアゴアの場合

 アゼルリシア山脈には様々な生物が生息しているがその中の一つにクアゴアと呼ばれる種族が居る、彼らの生息数は八万頭にも上り、数の上だけなら山脈内でも一、二を争う大勢力である。

 彼等が互いを生存競争相手に含んでいなければ、いずれはアゼルリシアに覇を唱えるだけの勢力になり得たかもしれないが、現状では大きく分けて八つ部族に分かれていがみ合い、容易に殺し合う関係だった。

 

 そんな、彼等のどこにでも起きうる情景がクアゴアの少年の目の前では起きていた。

 彼を育てた両親、昨日まで共に育った兄妹達、皆が皆既に息絶えている。原因は単純だ、彼等にとり重要な希少鉱石を奪い合ったのだ。

 当初この鉱石を発見したのは少年の両親だった、当然彼等は自身や子の為に使おうとした。

 そして周りもそれを是とした、だが、どんな種族にも善良な者もいれば無法なものが居る、特に大地の内に住まうクアゴアにとって希少な鉱石とはより強い存在に進化する為に重要なものであり、いうなれば人族が不意に一生かかっても使い切れない大金を得るようなものだった。それに目が眩む者が居ても可笑しくなく、そして、彼等の身近にそんな者が居てしまった。

 家族の瞳はもう何も映していない、それを呆然と見ながら、それでも去来する記憶がある。

 

 自分より弱いモノを守り、空腹に喘ぐものに糧を分け与える。

 この世界は根本的に弱肉強食の原理が支配する。強いものはさらに強く、弱いものは更に弱く。弱者を救い上げるような物好きは圧倒的に少数派だ、適者生存の理は強者や情を排除した者を殊の外に優遇する。

 多くの種族にとって強さこそが権利なのだ、それ故に、彼の両親の様な物好きは変わり者であり、同時に良い様に利用される都合の良いモノだ。ご多分にもれず強者も弱者も両親を利用し、時には不利を受け、時には不遇な扱いを受けた。

 それでも、両親は物好きを続け、いつしか、それを恩として少なくないクアゴアが味方となった。彼等は紛れもなく弱者だったが、両親の周りには陽性の笑いに満ち、それに彼等は胸を張る。

 

 そんな両親の記憶が少年の体を行動させた、とっさに体当たりで相手を押しのけ鉱石の一つを奪い返し全力で走ったのだ。

 略奪に浮かれる賊はこの不意打ちに対応できず無様に地を這い、そして何が起きたのかに気づくと口汚い罵声をあげる。

 賊の数は一人や二人ではない、子供の足では逃げられる範囲などたかが知れる、それでも少年は両親が見つけ、自分達の為に両親が集めたものを、奪われたままで居る事に我慢ならなかったのだ。後先を考えず少年は走り続けて、そして当然の如く追いつめられた。

 

 3体の大人のクアゴアに囲まれて逃げ場など何処にも無く。

 生存の道は閉ざされ、家族の残した貴重な宝もまたすべてが略奪される。弱肉強食の摂理。

 だがここで摂理は捻じ曲がる、絶望を前に理不尽を前に憎悪を燃やす少年の瞳がふと視界の端に白い燐光をみた。

 次の瞬間、一体のクアゴアの身長が半分になった、ビシャリと潰れ頭がお腹の当たりにまで沈み込み、出来の悪いおもちゃの様にも見えた、そして何が起こったか理解する前にもう一体の体が真横に吹き飛ぶ、不自然なくの字に折れた体が真横に吹き飛び。最後の一体は信じられない物を見て慄いた。彼には二人の犠牲の間に逃げるだけの猶予がごく僅かにあったが、その猶予を彼は思考を停止し体を硬直させるという行為で使い切ってしまった。

 鋭い呼気と共に、白い吐息が最後の一人の視界を覆いつくし、彼は一体の氷のクアゴアとなり、次の瞬間に粉々に砕け散った。

 

 少年は見上げる、見上げるしかない。それはアゼルリシアにおいて最も危険な生物、霜の竜(フロストドラゴン)の威容であった。

 呆然と見上げる少年を見下ろすドラゴンが口元を歪めた。笑ったのだと、少年は気づいた、それはどう見ても、恐ろしい形相の筈だったが妙に人懐っこそうに少年には見えた。

 

 「――む、少年、助けてしまったが、余計なお世話だったか?」

 

 

 

 ◆とあるドワーフの話

 

 「おぅ、これは……?」

 狩人を仕事にするドワーフ族の青年ドルドマはその日、珍しいものに出会った。できれば会いたくない種類の珍事であり、事件だ。

 ドワーフは大地の種族であり、地の底を好み洞窟をその手で広げ、生活の場としているが洞窟内で獲れる動物性たんぱく質はそんなに多くない。蝙蝠だとか蜥蜴だとか蛇だとか割と珍味だが、腹を膨らませるならもう少し大きな獲物が欲しいものだ。数をそろえるのも結構骨で、家畜が居ない訳でも無いが、そんなに毎回家畜を潰していたら家畜を必要とする他の仕事が困る。

 年がら年中寒いアゼルリシア山脈だがそれでも、四季があり、冬も来る、冬籠り前には必要の無い家畜を潰して保存食にする。その時期なら謝肉祭として太鼓腹の腹いっぱいにドワーフ達が舌鼓を打つ事が出来る、そうでない時期は彼ら狩人に期待がかかる。

 熊を倒せば熊鍋に、猪を倒せば牡丹鍋、そんな調子である。

 期待を背に山の地表に出た彼は、狩りの罠場を巡る最中に熊の足跡を見つけていた、熊は気質は臆病だが結構凶悪な大型動物であり、そこらのモンスターよりも強い事が往々にある。命を賭けて生存している彼等は、下手な人間種よりも戦いに生きるのでユグドラシルで言う所のレベルが結構上がっているのだ。

 若いヒグマぐらいならドルドマも倒す自信があるが、番いを得ていたりすると二対一とかもありえるしレッドヘルムな熊とかだと割と普通に危なく、灰色熊(グリズリー)などは5mを超える巨体を誇るのが偶に居たりするファンタジー故のミューテーションぶりであった、ドルドマとしても出来れば相手をしたくない相手だ。

 山の縄張りに変化があったのか、単に巣立ちした子熊と言う事もありうるが、ドルドマの経験則から言うと足跡が成獣のそれより大きい、実際の大きさは判らない、どちらかというと縄張りを広げてマーキング中という可能性の方が妥当だろう、君子危うきに近寄らずというが、この周辺はドワーフ達の都市フィオ・ジュラの近郊である、放置しておいては後々被害が出る可能性があった。だからと言って一人で退治するのは蛮勇である。半端に手負いにすると獣はさらに厄介になるのである程度調べたのちに、狩人ギルドと軍に連絡を入れる事にした。

 

 「(ドワーフ)の味を覚えた熊なんぞ洒落にならんわい」

 

 熊の足跡を頼りに風下を慎重に選び進む足跡の湿度や痕跡から出来てからそれ程時間は経っていない

 恐らく、気づかれてはいない筈、もとより、臭いに獣は敏感なので狩りをするなら体臭は極限まで落とし、泥土を混ぜた軟膏を地肌や頭髪に塗っておくのがドルドマの狩り嗜みであるが油断は禁物と己を戒め警戒は緩めない、危険は何も熊だけではないのだ。

 慎重に進む事、半刻、微かに獣の声が彼の耳に届いた。イヌ科の動物の鳴き声をより重低音にした声は唸り声と短い吠え声だ。ドルドマの経験則が正しいならこれは熊が威嚇している際の鳴き声だ。もしや、気づかれたのか?と思うも、己に対してのものにしては流石に声の位置が遠いように思えた。おそらく猪か他のモンスターと遭遇しているのではないかと当りを付ける。ならば、気づかれるのは、なおの事危険だ。獣二頭を相手取る等、自身の手に余り過ぎる、だが、仔細を説明する為にも確認はしておくべきだと思い、風の流れを慎重に読み、風下を確保しながら辺りを付けた場所に向けての視界が通る場所へと移動する。

 

 慣れ親しんだ山の地形はすぐに開け、彼はそれを見た。

 『デカい』最初の印象はこれである、それは見事な灰色の熊であった。距離感と縮尺がおかしく感じる威圧的なそれは恐らく8mを下らない巨体を誇る。明らかにドルドマの手に余る凶獣、やはり軍隊が必要な案件であると彼は再認識する。すくなくとも、何がしかの始末をつけるまで地表に出るドワーフは制限しなければならない、急いで帰還を決めた所でふと思う。

 あの熊が威嚇する必要があるほどの、相手とは何だろうかと、あまりに巨大な熊に気を取られていたことに気づきもう一頭を見て、ドルドマは割と後悔した。

 『小さい』というのが印象であった、灰色熊に比べれば大きさは半分以下である。だが、対比から冷静に目測するなら2mを超えるのでそう小さいという訳では無い。だがその白い体皮に長い尻尾、何処かネコ科の動物を思わせる体形は、彼の知る限り明らかにドラゴンの物、稀に、木々の間から空に彼が見た事のあるそれはもっと大きかったので子供かも知れない。だが、それが問題だ。

 

 ドラゴンの子供である、例えドラゴン種と言えど、巨大な灰色熊と子竜、どう見ても結果は見える。

 自然の掟に基づくなら、それで狩られるのも運命というものだが、それがフロストドラゴンの子供というのがいかにも不味い。

 ドルドマは直接見た訳では無いが、ドワーフの西の都(フィオ・ライゾ)はフロストドラゴン二体の争いの余波によって破壊されたという。

 それで、あの子竜にも親が居るだろう、それが、自分の子供を殺された場合どう出る?熊の親も我が子に危険が迫ればすさまじい狂乱状態に陥る。

 フィオ・ジュラの近くで我が子が殺された親竜はどうでる?

 親竜の怒りの矛先が熊だけでなく近場のドワーフに向かないと誰が言えるだろう、その第一犠牲者が自分になる可能性もある、ゾッとしない話である。

 

 状況は現在進行形、放置は悪手、今この瞬間にも決着はつく、何か対策を打たなければならないとドルドマは一瞬の思考の後に決断する。背負った弓からボウガンを選び、番えて弦を巻く。移動し素早く位置取り射線を通す。 狙うは熊の頭部、自己の安全性をとった間合い故に距離が遠い、だが急所は難しいが的が通常よりも大きい、頭部に当てるだけなら十分、震えは無い、迷いは無い、機械の様な正確さで一射を放つ。

 

 一拍の後、ぐぎゃうんと悲鳴が響いた、イヌ科めいた悲鳴だが可愛げはあまりない。運が良い、ドルドマの一矢は灰色熊の片目を捕らえた、視界を奪えたのは大金星だ、例え手負いの獣を作ったのだとしても。ただし、幸運は其処まで、射角が通らなかった為、脳には達していない、眼窩を通り分厚い頭蓋骨に刺さっただけなのだ。

もっとも、大型の獣は往々にして鈍い、脳や心臓に到達する傷を負ってもしばらく元気に暴れたりするので、致命傷を与えたとしても油断は出来ないのだが。

 それでも、大いに隙が出来た、視界も一つ潰した、逃走するだけなら容易だ、幼竜がこれを機に逃げてくれる事をドルドマは祈った。

 

 だが祈りは届かない、同時に予想は覆された。

 片目を潰された激痛に灰色熊が悲鳴を上げて仰け反り、四足から立ち上がる様に二足に体勢を崩した瞬間、何の躊躇もなく幼竜は爆発的な速度で前に出たのだ。放たれた弾丸の様な突進は曲線を描き、四倍の体格差を知った事かとばかりに重心が崩れた右足を強かに打ち払った、これに灰色熊はバランスを大きく失って、後方に傾ぐ。続けて流れるような跳躍、やや斜めの前回転、遠心力を乗せた尻尾が熊のがら空きの喉元を打ち付け、同時に巻き付き、2m超の体格からなる全体重と共に引きずり倒していく、さらに熊の後頭部を背後にあった岩めがけて誘導し、叩き付けたのだ。

 

 「あ?」

 

 ドルドマは自分の一射を引き金に起きたこの予想外の流れに思わず変な声を出して瞠目した。

 ドラゴンの戦いというのを見た事は無いが彼が想像する獣的なものとは大分かけ離れた戦いに思えたのだ、格闘家的と言っても良い。

 

 呆ける間にも幼竜(ドラゴリング)の動きは止まらない、遠心力×膂力×速度×体重×岩=破壊力なとでもいう様に後頭部を岩に叩き付けるという極めて殺意の高いラフファイトは熊の頑丈な頭蓋にも十分な衝撃を与えたらしく。

 灰色熊は即座の対応が不可能な様子だった、所謂脳震盪、またはそれに近い状態、動きは目標を見失い、遅く鈍い。すなわちマウント取り放題と言う事である。急所を理解するなら絶好の状況。むろん、幼竜(ドラゴリング)がその好機を逃す選択肢は何処にもないようで決着は速やかについた。

 

 灰色熊の胴体が痙攣する様子をみてドルドマは巨獣の命が尽きた事を理解する。それと同時に、幼竜(ドラゴリング)は熊から距離をとって視線を外し、おもむろにドルドマを見た。

 見られたのだ、迷う様子は無く、この竜は彼が居る事に気づいていた。むろん、灰色熊に刺さる弓矢を見ればこの場に第三者が居る事は一目瞭然ではあったが、それでも狙撃の安全の為身を隠していた彼を見たと言う事は正確にこちらの位置を把握していたと言う事だ。ドラゴン種の知覚能力は恐ろしく高く、洞窟の深奥、己の塒で微睡ながら、自身の縄張りに足を踏み入れた生き物を正確に把握するという話を聞いた事がある。話半分で聞いた話だがそれはあながち違っていないのだと彼は理解した。

 

「感謝するぞドワーフよ、流石に大物過ぎるかと思っていた所だったのでな」

 

 ドラゴンは年齢と共に高い知性を見せるが、幼い竜は獣と変わらないと聞くので、どう出るかと警戒するドルドマだったが、幼竜(ドラゴリング)の存外理性的な声に拍子が抜けた。

 

「私の名はへジンマールという、霜の竜王(フロストドラゴンロード)オラサ―ダルクの血族の末席に連なるものだ、良ければ貴殿の名を問うても良いか?」

 

 

◆とある霜の竜王の場合

 

 アゼルシリア山脈最強の生物、オラサ―ダルクは己の住まう居城の塒、ドワーフの宝物庫の前にてやや不快な変化を感じて目を覚ました。

 周囲に寝そべる三頭の妃達もその異常には気づいていたようだが、割と怠惰なドラゴン種である彼女達はあまり気にしてはいないようだった。

 

ドラゴンの知覚能力は高いが、この居城は本来ドワーフ達の王都だった場所だ。居住区はそれなりに入り組んでおり、宝物庫ともなれば最も重要な場所の一つだけに白の奥底、多数の防衛設備とドワーフがルーンを刻んだ扉に守られている。

流石に外側まで知覚するのは難しかった、ただ、温度の変化は1,2度の変化で周辺に影響を与える、普通の種族ではそれでも気づかないが、優れた感覚器官をもつ彼ら竜種には顕著にわかる。

 

「どうかされましたか?」

「気温が変わった、我が居城の外縁で火を焚く輩が居る」

「大した事ではないんじゃない?炎は嫌いだけど、小火程度では私達には些かの意味もないし」

 

「下等種族が小賢しい真似事をしているならば不快だ」

「あら、なら大丈夫よ」

 

「なに?」

 

妃の一人キーリストランが怠惰に寝そべったままに応えるのを聞き、オラサ―ダルクは眉を顰める。顎をしゃくり上げてどういうことだと話の続きを促した。

 

「火を焚いてるのは貴方の子の一人、一族の者だから気にする事でもないわよね」

「矮小な下等生物でもあるまいに、火など焚いて何をしているのだ」

 

「炎に慣れるのだとか言ってたわよ?」

「なんだそれは、わけが分からん、どの子供だ」

 

「私の一番上の子」

「へジンマールか」

 

オラサ―ダルクは渋いんだか何だかわからない顔をした。

生まれた子供の中でもへジンマールは上から数えた方が早い方だが、何処か独特の性格をしていた。いわゆる一つの変人、変竜とでも言うか。

体格面ではムンウィニアとの子であるトランジェリットの方が優れているが、強さを求める姿勢は子の中でも一際高く、良く勝手に外出しては、下等種族や野の獣を狩って帰って来る。その部分はトランジェリットと並んでオラサ―ダルク的にもかなり期待している、だが野山を走り回るのはともあれ、偶に見かけると延々と立ったり座ったり(スクワット)、左右に飛び跳ねる(反復横跳び)等の変な挙動を黙々とこなしているので、オラサ―ダルクとしては何か触れたくないタイプなのだ。

妙に勤勉で礼儀正しく、従順とドラゴンらしい怠惰さや傲慢さが見えないのも何か変な感じに思えて来る。

 

「あの奇天烈な子ね、なんでオラサ―ダルクが目を掛けるのか判らない」

「そうかしら、力だけの子より、随分マシだと思うけど」

 

ムンウィニアはオラサーダルクがトランジェリットとへジンマールに特に目を掛けているため、何かにつけてキーリストランを目の敵にしている。もともと仲が良くなかったのもあるが、不老のドラゴン族であるオラサーダルクが王である以上、子が下等種族の様に代変わりするでもないのに、何を張り合っているのか雌同士の思考はよくわからんとオラサーダルクは独り言ちる。

仲裁すると口喧嘩に巻き込まれるのだ正直面倒臭い、塒に居辛くなった彼は部屋から出る事にした。

 

「何処に行かれるのですか?」

「なんの真似か、へジンマールに直接問うてみる」

 

一番若い妃のミアナタロンに応えて、険悪な塒から脱出する。彼女には可哀想だが、女の口喧嘩はウンザリするのだ。後で労ってやろうと考えながら城外にと出ると。転げまわる我が子の姿があった。

 

「あちゃちゃっ」

 

煙を上げながら転がる姿にまたおかしな事をしたのかと独り言ちた

 

「何をしておるのだ、へジンマール」

「おや、父上殿おでかけですか?」

 

「我が居城の外で火を焚く戯けが居るので見に来たのだ、で、何をしているのだ?」

「はっ、火を焚いて手足を炙っておりました」

 

「……なんだそれは」

「我等竜族は環境に対して適応していく種族だと聞きました。故に他種族が住めないあらゆる土地に我等が竜族は根を下ろし支配しております。」

 

「ふむ……それで?」

「ならば、我らフロストドラゴンもさらに今後適応していく事が出来ると考えます」

 

「ほぅ」

 

意外と考えてんだなコイツとか思いながら続きを促すオラサ―ダルクは

二足歩行で器用にポーズを決める息子を眺めた。

 

「こうやって、火にならして何れは炎への耐性を獲得できないかと実験しているのです」

 

オラサ―ダルクは既に習得した魔法で炎への耐性を得ている、加齢とともにいずれは習得できるものなのだ、なので割と無駄な事をしている我が子を見る目に憐れみがこもる。

まだ、へジンマールは幼竜(ドラゴリング)だ、馬鹿な真似をする時期なのだ、失敗から学ぶのが子供の仕事だろう、己が子のやる気に水を差すのもどうかと思い、事実を告げるのを止めた。

 

「そうか、だが、火はもっと離れた場所で扱え、城が燃えたら許さんぞ」

「はっ、畏まりました。」

 

父の生暖かい視線を背にへジンマールは火種を片手に都市部からさらに外縁部に離れていく。

なにか、空回り気味な奴だなとオラサ―ダルクは一人ごちるのだった。

 

 

◆そんでもって主人公視点

 

なんか微妙な表情で去っていく父上殿の後ろ姿を眺めながら、良し、お墨付きげっちゅ!とか私は内心考えていた、やめれーと言われなかったので、この事実を拡大解釈して進めていこう。

どんなやくに立つかはともあれ、この辺のフロストドラゴン最高位の父上殿の許可は得ているとか言えば大抵の奴の横槍を黙らせる事が出来るだろう。

 

しかし、あの表情、耐火(レジストファイア)的な魔法を取得してるから故だろうか。なんで話さなかったのかはわからんが、なんか変な感じ。その魔法が耐性なのか無効なのかが問題だが。どっちにしろ炎が特攻で無くなってるのはアドバンテージなので切り札的に隠しているのかもしれない。

 ま、傲慢かつ尊大な父上殿がそんな小細工考えているかというと考えてなさそうな気もするのだが。

 

 ともあれ、ドラゴンの自動取得魔法は所謂ユグドラシルの原典に当たるD&Dの起源術師(ソーサラー)系列の魔力系魔法のようだ。この系統は取得できる魔法の数が魔術師(ウィザード)系列に比べると圧倒的に少ないという特徴がある。両者の差異はレベルが上がれば勝手に魔法を取得していくのが起源術師(ソーサラー)で魔法を学ぶか呪文書(スクロール)を解析するか、知ってる者に教えを請わなければ例え100レベルでも一つも魔法を使えないのが魔術師(ウィザード)だ。即戦力と大器晩成と言った感じの差異がある。

 手ごまが揃うまで待ってくれないのが現実なので、妖術師の方がこの世界には向いているかもしれない。しかし、その為の道が敷かれているなら魔術師(ウィザード)の方が圧倒的に優れる事になるだろう。

 ともあれ、魔法というのはアクティブ技能なので一手の差をなくしたい私としてはパッシブスキルの方が欲しいのだ。炎無効とはいかなくても炎耐性Ⅴを目指したい。まぁ、この手のユグドラシル能力の取得方法はよくわからん事の方が多いのでトライ&エラーを繰り返すしかないだろう。ナザリックショックまでを考えると圧倒的に時間がないが、勝つ事を考える必要はない、無理だから。単純にその辺を〆切時期と見立てて修行パートにいそしもうというのだ。

 最後に私がどうなるかはわからないが、絶対支配者モモンガ先生に何か挑んでグラスプハートされるならファン冥利に尽きる気がする。私はこれでもオバロファンなのじゃけん。

 

 さて、話は変わるが、私が孵化してより10年の歳月が流れた。日付がわりに毎日『正』の字を延々と近くの建物に刻んでいったので間違いない。なんか、変な宗教現場っぽくなったが。

 生まれたての頃は50cm程度の体長だった私もこの10年で2m50cm位になった。比較対象があんまりないので正確なものでは無いが、ドワーフの家具から逆算して何となくこれくらい?みたいな感じの目測である。

 ちなみに、その目測からすると父上殿は20mは超えているし、母上殿も15m以上はあるんじゃないかと思われる。

 若年(ヤング)辺りから5m、青年(アダルト)で10m、長老(エルダー)で15mって感じじゃなかろうか。まぁ、平均の話でこの枠に当てはまらないのは居る。裏設定によると島ほどデカイやつとか60mクラスのドラゴンも居るそうだからな、物理法則が死んでいる世界ならではと言えよう。

 

 ちなみにトランジェリットの脳筋(バカ)は同年代の中ではかなり体格が良く3m越えだ。人間に例えて言うなれば幼年(ドラゴリング)世界のシュワルツネッガーって感じ。

 兄弟の中でも一際パワフルに生まれたのと同年代なせいかやたらと絡んでくる。他竜(ヒト)の修行にケチを付けたり邪魔をするのはやめて欲しいものがある。

 頻繁に邪魔をされてイライラ来たが、少し考え方を変えてみた、割と近い体型で一応血縁だ、殺し合いにはならないと考えると、模擬戦相手にピッタリではなかろうか?

 前世では痛いのはイヤンな感じだったが、今では痛覚に耐性でも出来てるのか、痛いは痛いが、我慢しなくても絶えられる程度の感覚である。生命への危機レベルの怪我では無いからかもしれないが、殴られたり、爪で抉られても、痛みで涙が出るどころか、痛みでアドレナリンとかドーパミンがドバドバ出てるような気持ちになる。要するに闘争心に火が付く感じ?

 

 城内で大暴れした後、父上殿にマジ死にそうになるほどシバかれたのはちょっとしたトラウマものだ、あれ以後ガチる時は外に出てやるという暗黙の了解がトラ公との間で出来た。

 

 今も、都市外に出た辺りで待ち伏せされていたので一戦かます事になった。

 

 「へジンマールよぉ、そろそろ、どっちが上か決めようや」

 「トラ公、お前……よく飽きんなぁ」

 

 応えて構えると開始の合図。

 あんまり長々口上するのはだいぶ前からやらなくなった。

 

 突撃してくるトラ公、幼年としては大きい巨体の突進はそれだけで威圧感があるし、巨体に似合わない瞬発力とスピードもある。ついでにパワーは幼年(ドラゴリング)中でも突出しまくって最強。

 

 此処で怯えて逃げに入ると追尾してきて変な体勢で吹き飛ばされてマウント待ったなしである。だからと言って迎え撃つと圧し潰されるだけの力の差がある。

 割と、初見殺しで格下殺しな一撃、……だが。

 

 「なんで、お前それで来るかなぁ」

 「んぐぉ!?」

 

 十分に引き付けてからの受け流し、正確にはインパクトの瞬間を外し近い位置から押し退ける動作。スピードと重量が乗っているコイツ自身を動かせなくても、軌道修正できない状況から此方が避ければ問題ない、その速度についていける、そしてタイミングを合わせる事が出来る。それだけで出来てしまう。

 いや、こいつの相手してからこっち何度も見て来た突進攻撃なんぞもう慣れたわ。だから脳筋(バカ)と言われるのだ。

 避けるついでに突進の為に縮めた側頭部、ドラゴンの耳に当たる場所に、お椀状に固めた掌底を鞭の様に『パンッ』と打ち込む。上の悲鳴はその際に鼓膜を揺さぶられた事で出たものだ。

 

 ドラゴン種は強大な力と強靭な生命力を備える、人体には備わっていない感覚器官も備えている、だが人類に通じる生物的機能も同時に備えているのだ。その器官を一時的にでもダメージを与えて不全に出来たらどうなるか。

 ある状態が急に無い状態になれば、当然の如く感覚が一時狂う。トラ公にとっては目の前で私が消え、急に視覚聴覚が途切れ途切れになったように感じてるんじゃないかな?動きがぎこちなくなって、私を探しているのが見て取れる。

 

 戸惑っているだけに、硬く締めていた首が無防備に力を失っている。その隙を見逃す程、私は優しくはない、トラ公との実力差はそれ程開いている訳でも無いのだ、どちらかというとコヤツの方が私よりも強いのだし。

 

 「くらえ、二次創作名物、顎揺らし!」

 「あがごっ!?」

 

 側面から全力であごに向けて掌底、此処で掠るようにするのが重要。ドラゴンの骨格で出来るん?と言われるかもしれないが、そこは長年トラ公で実験済みである。私のジョーへの掌底フックは熟練(自称)の域にある。

 三半規管にショックを与え、脳を揺らして更にドン、だが此処で安易にマウントポジションをとってはいけない。

 コヤツは筋力(ストレングス)>>>耐久力(ヴァイタリティ)敏捷性(スピード)の順で特化してるんじゃね?な、脳味噌筋肉だ。どんな形にしろ掴まれたら負ける。そういう奴なのだ。なので、城門近辺に存在する外堀にポイ捨てする、この外堀、洞窟内の亀裂を利用した奴なので結構な深さがある、トラ公が回復しても直ぐには帰ってこれない程度には面倒なのだ。大丈夫かだって?こいつの耐久力(ヴァイタリティ)を信じるんだ。私は信じてる。

 

 「もうちょっと、戦術組直してこいやぁ」

 「ちょ、おま、やめ、おぼぁーーーーっ」

 

 ドロップキックで外堀に向けて蹴りこむとトラ公の姿は闇の向こうに消えていった。ドラゴン的超知覚には下の方で伸びてるのが判るし、セーフ。

 うむ、脳筋扱いでぞんざいに扱っているが割と感謝もしているのだ。死んだり大怪我したりされると私も嫌だ。模擬戦(トレーニング)相手がいなくなるのもね。

 

 一戦やらかす前に立てかけておいた火種をあらためて手に取る、松明という奴である。知り合いから物々交換で買い上げたものだ。

 特殊な油をしみ込ませた繊維を巻き付けており、地面に落としても一時間位は問題なく燃え続けるのだという、魔法関係ないのだそうな、便利なものだ、アナログも侮れない。

 あまり外堀近くだとトラ公が帰って来て再戦する事になりそうなので、遠目の場所に離れる事にした。

 一応、私的なスケジュールによると、今から六刻(約12時間)後に外の岩場で知人と会う約束があるのでそこでやるか。

 

 待ち合わせの移動先はアゼルリシア山脈の狭い山道の先にある窪地、それが待合場所だ。徒歩で行くには私の体格位で限界な位の狭い道、飛んでいけるので、徒歩で行く必要はないが、獣除けに私が頻繁にウロウロするため、この辺には普通の獣もモンスターも来ない。やっぱ、ドラゴンの臭いとか普通の生き物には嫌だよね。

 

 本日は空を飛んで早めに来訪、待ち人を待ちながら耐火修練をする。耐火修練は完全に独学な実験な為、割といい加減である。

 適当に私を中心に持ち込みの薪を円形状にならべて、火種を巻き、火打石で火をつける、キャンプファイアーな感じの真ん中で炙られながら我慢する。

 大体そんな感じ、流石にいきなり直接、炎に飛び込む程チャレンジャーではないのだ、でもこれで炎耐性を得られるかは微妙かなぁとか思ってたり。ちょっと、チャクラな感じのポーズを決めて恰好を付けてみる。こうすると何となく、習得できそうな気がしない?

 ちなみに、父上殿の目の前で転がってたのはうっかり炎が燃え移ったからだ。

 

 始めた頃を暑いっつーか熱いだったが、最近は何となく慣れてきた気がする。ふわっとした修練だったがもしかすると炎耐性Ⅰくらいは手に入ったかもしれない。ただの勘違いかも知れないが。まぁ、前向きにいこう。

 

 精神修養、心頭滅却で火もまた涼しな感じで、休憩や薪足しをしつつ続ける。気づけば無心になり、時間経過も忘れた頃

 

 「エライ暑いと思うたら、何やっとんじゃあ!?」

 「お、ドルドマか、早かったなぁ」

 

 「山火事かなんかかと思ったぞ」

 「実験的な修練だ、驚かせたか、悪かったな」

 

 「フロストドラゴンは炎が苦手じゃと思うとったが」

 「うむ、火を克服するためのものだ」

 

 どう見ても樽の様な体型のおっさん顔だが、その実三十代だというドワーフがやって来た。ドワーフにとっての三十代は人間にとっての十代っぽいのでかなり若い事になる。

 炎の中では会話にならないので適当に火種を崩して中から顔を出すと苦いモノでも口に含んだような顔をするドワーフことドルドマの顔があり、軽い会話を交わす。

 しばらく此方を眺めると、勢いのありすぎる炎から離れた位置にどっこいせと胡坐をかいて座り込む。

 

 彼は待ち合わせ相手の一人であり、命の恩人だ。出会ってから5年位の付き合いになる。彼に出会った時は命の危機を救われた後でもあったので感謝もあったが、しめたとも思ったものだ。

 ドワーフと接触する機会はそのまま人間社会に繋がる事の出来る縁だ、なんとかして関係を強化していきたいと考えたのだ。

 力で支配すればいい?それ日本人の私にはちょっとハードル高いよ。やっぱ、日本は和の心よ、相手が理解してくれるかどうかは別問題だが。少なくともフロストドラゴンには通じなかったな。下手に出るとどんどん踏み込んでくるんだよ、蛮族と変わらんな。

 ドワーフはその点、おおらかなので結構付き合いやすい、私としてはとても良いね!

 そんな訳で私は、彼との出会いの後、礼として自身の鱗とか爪をプレゼントした。ドラゴン素材は最高級らしいからな。自分自身が資源とか対価を用意し易くて楽だ。

 そしてそのまま取引相手にならないかと持ち掛けたのだ。彼は狩人らしいが、ドラゴン素材を換金して貰ったり、貴重な鉱石や道具と物々交換する分には問題ない。

 私の鱗や爪に牙等も寝床に戻れば生え変わりで抜けた奴とか結構落ちてるので在庫はある。

 いちおー、他の兄弟の分も探せば手に入るが、そちらに手を出すのは止めておこうと思っている、自分の自由にできる範囲以上に手を出すとろくなことが無いのだ、やるなら、言質はとっておきたい所。

 交換物はアダマンタイトやオリハルコンそれにミスリルに代表される希少金属や現金、物が大量に入る魔法の袋だとかそのへんがメインだ。

 

 いずれ人間の町にまで行く予定がある私としては、人族と取引できる材料があるに越した事は無いのである。

 ちなみに、アダマンタイトやオリハルコン、ミスリルは取引用が半分、後は私が食べる為。

 食べる為である、誤字ではない、クアゴアは幼少期に食した金属であとの進化先が変わるという、ドラゴンにそういう話は無いが、世界観は違えどユグドラシルの原典の一つに当たるD&Dではアダマンティンドラゴンなるドラゴンが居る、彼等はアダマンタイトの鱗を持つドラゴン種だ。

 つまり、ドラゴンにはそういう可能性もある、かも?みたいな感じのサムシング。まぁどっかのローマ皇帝見たく金属中毒とかになるかもしれんが。何事も試してみるもんさ、という感じで試しているのだ。

 念のため、敵対的なクアゴアを倒した後、鉱石を取り込む特性を持ったクアゴア種が潤滑油的な作用を出さないかなーという希望的観測により。

 お茶請けにバリバリ食べてから齧る様にしてる。ちなみにドラゴンはなんでも食べられるため、石とかでも食べて栄養に出来る。無機物よりも有機物の方を好んで食すが、土とか砂でもちゃんとエネルギーに出来てしまうのだ。

 

 ユグドラシル的にはやわらか金属なアダマンタイトだが、どんなものでもまとまった量があればそれだけ頑丈になるのでアダマンタイトな鱗になればそれだけ頑丈になれるんじゃないかな見たいな?まぁ、ヒヒイロカネだとか神鋼とかアポイダカラがあるならそっちが良いのだが、この世界まっとうな産出金属でその辺は見つかって無いみたいだし、今から探して見つかるものでもあるまい。

 

 「ところで、もう一人はまだ来とらんのか、あの獣臭い奴」

 「いや、もうそこに来ているようだ」

 

 視線を向ければ岩陰から青みがかった毛並みのクアゴアが返答の代わりとでも言うかの様に姿を現していた。

 どうも、ドルドマの影に隠れていたようだ、ドルドマ自身に気取られずに来たようで趣味が悪いのか警戒心が強いのか。

 

 「よく来たな、ラゥム」

 「来とったなら声くらいかけんかい、クアゴアの」

 「……ああ、すまん」

 

 根暗気な返答が返る、彼はラゥムと言い、ドルドマとは逆に私に恩がある筈の土堀獣人(クアゴア)である。出会った時に同族に殺されかけていたので助けた。

 偶に芽生えた好奇心で遠出している所で、出会った偶発的な遭遇からのイベントだったので、背後関係で何があったのかとくに把握しないで大人の方を滅殺してしまったのは私の若気の至りと言えよう、いや、加減したつもりだったんだよ、ドラゴンが同レベル帯に置いてでも強力な戦闘種族であるというのを忘れていたのと、対人型種族との戦闘でのノウハウが無かったんで、加減を間違えたのだ。

 でも子供を殺そうとする大人が居たら、たいていは大人の方が悪い奴って考えてもしょうがないと思うのだ。

 実際どうも、彼の血族は皆殺しになっているようなので結果オーライ。

 大義名分があるのは良い事だ、皆殺しにされた本人にとってはオーライも何も無いが、そんな経験のあるラゥムのオーラ的に暗いのもしょうがないだろう。その辺りは私の所為では無いので諦めてもらいたい。

 

 この、ラゥムは同氏族の同族に血族を殺された為、同族不信になっている。

 氏族の名である所のパピプペポ的な名前は不信感故か名乗ろうとしない

 彼の一族の財産は彼自身が確保した一部を除き残りは未だ奪われたままだそうな、その財産はクアゴアが進化するために必要な希少鉱石だとか。消耗品である為、既に盗人の腹の中の可能性が高く。また、部族に戻ったさいに血族以外に残った自らの持つ家族の遺産を奪われる事を恐れている。

 天涯孤独の子供である、人間としては(ドラゴンだが)これを「あ、そう、がんばってね」と放り出すのはちとはばかられた。だからと言って、家に連れ込むと、家族が鼠を弄ぶ猫の如く面白半分にいたぶり殺しかねない。

 故に、此処と同じく私がアゼルリシア山脈をウロウロする過程で発見して作った隠れ家の一つを提供する事にした。

 それなりに行きつけなのでドラゴンマーキングも効いており、危険な生き物はそうそう来ない感じの場所である。

 ちなみに、クアゴアは日光を目にすると失明するらしいので、光耐性の指輪をドルドマから買い取って与えてある。この指輪、別に光ダメージを軽減するものでは無く、鍛冶場等で産む強烈な炎の高温からの光は長期間見ると失明する場合があるらしくそれから目などを保護するためのグラサン的なマジックアイテムである。それなりにコストもかかるらしいが、ポピュラーなアイテムでもあるらしく入手難易度は高くないのだとか。

 

 ついでに、私がドルドマから手に入れた希少鉱石も定期的にあたえており、最近体毛が青みがかってきている、ブルークアゴアになりかかっているように思えるが、実際はどうなのだろうな?

 

 この好待遇はただの好意というだけではない、私が生きる現在、フロストドラゴンの拠点に奉仕種族扱いのクアゴアは居ない、今後父上殿が支配下に置いた後に、クアゴアから情報を引き出せる人材がいると良いかなという感じなのである。

 まぁ、ラゥムがどの程度、私に対して好意的なのかはわからないのだが、敵対的だったり憎悪されては無いと思うねん。

 私なりに教育もしてるので、教養はあるんじゃないかね、別に私の前世は教育者じゃなかったが、日本の教育制度はかなり高度だからフワッとした感じで何とか。

 

 ともあれ、私がドワーフ、クアゴア、ドラゴンの三種族で交流を繋いだ理由は単純である。

 クアゴアは前代未聞の大英雄プ・リユロが頭角を現さなければただの狩猟民族、ドワーフは種族全体の単純な戦闘力ではクアゴアに劣るが生産能力は遥かに上回る、ドラゴンは戦闘力が世界レベルで突出しているが他は全然で数も少ない。

 現在はただの敵同士であるこの三種族をそれぞれの適正に従事させつつ束ねる事が出来ればかなり、良い感じになると思うのでそのとっかかりに出来ないかなという。身の程知らずにして壮大な希望的願望的観測なのである。

 

 ドワーフとクアゴアは鉱石を奪い合う関係なので古典ファンタジーのエルフとの仲など比較にならないレベルで犬猿の仲だが、同じ大地の種族だけに、互いの歯車が噛み合いさえすれば爆発的に双方が強化されるだろう。

 

 その場合の国力は恐らく帝国を超える、でも法国とか評議国はたぶん無理だろうけどね。

 どっちも、父上殿クラス以上のアカンレベルのが多数居るので、質で数がすりつぶされる。そもそも数でも負けてるし、将来的に国力を爆上げできても世界級(ワールドアイテム)とか始原の魔法(ワイルドマジック)核爆(ティルトウェイト)でひっくり返されると思われる。

 別に評議国の真なる竜王は一体だけではあるまい、ワールドや神器級アイテムも一つだけとは限らない。

まぁ、戦争前提でやりたい訳でも無い、法国は和平交渉頑張っても将来的には戦争になりそうだけど。

 

 もっとも、アゼルリシアのドラゴンの総体は基本俺が神!みたいな連中なので従属、隷属はあっても真っ当に同盟とか出来なさそうだよね。私が門戸になればワンちゃん?

 

 私の負担が多そうなので嫌だなぁとは思うが、なぁなぁな着地点が好きな私としてはそういう未知の可能性を作っておきたいなという感じ。

 最終的には私にとって良い様になる風に調整したり、取捨択一していくと思うよ。一番やりたくない選択肢はフロストドラゴンによるアゼルリシアの全種族奴隷化とかだな。モモンガ先生が来たら、英雄が打倒するまごう事なき悪役としてブッチされるよこれルート。

 大手を振って魔導国に併呑できるよ、やったね!

 

 アカン死ぬ、下手すると、死んでも、蘇生して素材にされる無限ループとか可能性的にあるだけで地獄じゃね?

 

 ともあれ、私を仲介としてドワーフとクアゴアの交流の前例を作る、ドワーフとクアゴア種族間の思う所はともあれ、ドルドマとラゥムの間で裏切りは私の顔を潰す行為として厳禁みたいな約束事をしている。

 

 仲の良く信頼できる相手が居るなら、居ないなら作る様にとドルドマには要望し、ラゥムには発破をかけてある。

 そうやって、いずれは彼ら以外の者達を増やし交流させて和解できたらいいね!

 その為の抑止力が私です。

 

 さて、そんな感じで交流やら修行やらチャクラったりを続けてさらに十年、二十年と月日が流れた。

 これで私も二十歳を越えた、リアルなら成人だ、ドラゴン的には幼年期の半分も過ぎて居ない訳だが。細かい事は良いとする。

 

 

 

◆武者修行だぜ☆

 修行の日々にやや行き詰まりを感じるようになった。

 一考する、ゲーム的に考えると、ただ修行するよりもエネミーを倒してレベリングの方が成長効率は良いのではないだろうか。

 確か、蒼薔薇のガガーランと忍者娘もレベルダウンして下がった実力を取り戻すために狩りに出ていた記憶がある。

 そこでちょっとばかり狩りに出る事にする、強い敵の方が上りは良いのだろうが、安全マージン的に考えると、地底モンスターは地面を透過したり、泳いだりとわけの判らない物が多いし、逃げられると地形的に追えなくなることも多い、地表は狩りすぎるとゲームの如く自動ポップする訳でも無い以上生態系が崩れるので、やりすぎはいかんし、この地域の高位モンスターはドラゴン以外ならフロストジャイアントとかになる、群れるし冷気に対して耐性を持つので相性は悪い、ちょっと止めた方が良いと考えた。

 

 そうなると、自分よりも弱めで無双できて数が多いがレベル上げの条件となる、そんな都合の良い狩場は何処だろうかと考えて、三つほど候補が思い浮かんだ。

 

 一つ目、竜王国のビーストマン。

 万単位な数がコンビニ感覚で人を狩りに来るそうなので割と良さげ、後人間に好意的な私としては人の味方的評判を得るにも良さそうに思える。あと王族が竜の血を引いているのもポイントだ。

 難点は、現在はオバロ時代の百年から数十年前と言う事だ、下手するとドラウディロン女王生まれてないし、ビーストマン被害も軽微かもしれん。

 

 二つ目、アベリオン丘陵の混成獣人族。

 戦国時代らしいので、乱入して暴れてもよさそうな気がする、難点は30レベル代の強い個体がオバロ時代でもいたんだから今は今の時代の強いのが居るだろう事、多分私のレベルは10以上20以下なので返り討ちですよ

 

 三つ目、カッツェ平原。

 亡者が無尽蔵に湧いてくるアンデッドランド、知られてる最高エネミーは極レアポップのデスナイトの35レベル、これもヤバいが飛べないので飛行(フライ)が使えると一方的に攻撃できる。スケリトルドラゴンは11~12レベル打撃が弱点、相性的に厄介なのはエルダーリッチのファイヤーボールか、だが、エルダーリッチはそんなにレベル高くないので倒せない敵でもない。この辺がボスエネミーに相当し、基本はスケルトンとゾンビ系ばかりが出る。

 

 どの狩場も私の原作知識ではアゼルリシア山脈のはるか南に存在するのでそれなりに長い遠征になるが、ドラゴンの私は飛べるのでその工程はそれ程難しくもないだろう。

 それに、アゼルリシア以外の場所を見て回る良い機会かもしれないと私は考えた。

 思い立ったが吉日と私は出かける事にする、一応、同盟相手のドルドマとラゥムには連絡を入れておこう。

 

 

 

 かくて私は遥か南に飛び立ち、そしてカッツェ平原に居る。

 色々考えた結果、此処が一番安全マージンが取れると判断したのだ、ついでに言うと一番近いし、年がら年中霧に包まれた此処が目立つので目標にしやすかったのもある。

 飛行で直線距離を進んだためか、旅行日程は一週間程、この経験も今後の役に立つだろう。

 雲霞の如く沸いて出て来る不死者達を尻尾の薙ぎ払い、体当たりのトラプル等でパリンパリンと倒していく。

 濃い霧に包まれたカッツェ平原はその視界の狭さ故に遭遇戦や不測の事態に見舞われやすいのだが、ドラゴンの超知覚は此処でも大変役に立っております。

 無双を繰り広げながらエルダーリッチの気配があれば速攻で倒しに行くの繰り返しだ。

 そういえば、当初は警戒して挑んだのだが、鍛えた体とドラゴンの戦闘力は結構なものに仕上がっていたらしく、スケリトルドラゴンクラスでも左右ワンツーパンチとティルアタックによる打ち下ろしのコンボで三秒で倒せた。

 割とイージーミッションだが、それでも安全を考え、一日百体(どんぶり勘定)位をめどにカッツェ平原→安全地帯で休憩を繰り返した。

 そんなある時、日課の瞑想でチャクラってる時に私は唐突に何かを掴んだ、体内の中心線、気功とか格闘技とかでいう丹田の辺りにグルングルンと回る何かの力を感じたのだ。

 中二病的な妄想ではなく、確かな何かの力だと私のドラゴン的な本能が告げる、ただ、何を如何すればいいのかよく分からなかったのでとりあえず、渦巻くその回転を意識した。そうするとその回転を自分で操作できる事が判り……それが私がキ・マスターのクラスを取得した経緯である。

 この力は言うなればバフ系に属しており、自己強化に優れていた、ゲームなら取得できる特殊技能を選択していけるのだろうが、そいう便利なシステムが無い私は、得た力をとりあえず練熟する方向で進んだ。

 最初は身体強化、次に自己再生強化、気づけば炎への耐性の明確な上昇、疲労軽減、飲食軽減等々、うっかり一日百体の制限を軽く突破していたが、手に入れた新たな力に興奮してしまった私は、気づいていなかった。

 

 「――は、いかん」

 

 とりあえず三カ月分くらいの食料をぶち込んだ魔法の道具袋が空になり、自然ポップしたデスナイトとの死闘を制した頃に私は賢者タイムに入った。

 冷静に考えて見ればかなり無茶をした気がする、良く生きてたな私、ナイキマスター(仮名)を取得してからの記憶が曖昧である。

 いや、休憩とかはとっていたが、それまで数えていた日数経過とか倒したアンデッドの数とかが凄まじく曖昧なのだ。

 まぁ、何はともあれ、食料が無くなったのだから、帰るのが吉だろう。帰還日程分の食料は別の袋に入れてあるから安心だしな。

 そう考えて私は帰路に着いたわけだが、実に予定を大幅に超えて戦いに明け暮れていた事を知ったのは帰り着いた後の事だ。

 

 

◆帝国冒険者ダヨー

 カッツェ平原に異変在りの知らせが届いたのは割と早い時期である。

 当時はまだ、帝国は腐敗気味であり、必要とされていたため冒険者業務はそれなりに多忙であった。

 当然、カッツェ平原のアンデット相当業務の割合は冒険者に比重が多く、ワーカーの数は少なかった。

 腐敗気味とはいえ、王国に比べると随分マシな為、活力もあるのだ、そんな冒険者組合なので、情報の流通もそれなりであった。

 そんな組合に届いた情報がこれである、

 

 『ドラゴンと思われる姿を確認』

 『カッツェ平原にドラゴンと思われる魔獣の咆哮が頻繁に確認』

 『冒険者や帝国兵以外の何者かとアンデッドの群れが激しい戦闘が行われている。』

 

 これ等の報告をもとに、帝国側、冒険者側共に斥候を送りこんだが。

 カッツェ平原は日頃濃い濃霧に包まれた土地であり、尋常ならざる数の不死者が発生する土地である

 不死者達は正の生命を持つ者を特有の感知能力で捕捉し憎悪をもって襲いかかる、報告のドラゴンが居ると思われる戦闘域にはカッツェ平原にあっても尋常ではない数の不死者が密集しており、幾人もの負傷者を出した結果、斥候等は目視可能な距離までへの調査は不可能と断念した。

 

 件のドラゴンが本当にドラゴンだったのか、何の為にカッツェ平原に襲来したのかは結局のところ謎のままであった。

 帝国も冒険者も、しばしカッツェ平原への侵入を制限し、ドラゴンらしき魔獣の鳴き声が止む数か月後まで、それが災いの前触れでないことを祈るしかなかった。

 結果的には、多くのアンデッドが倒され激減したため、帝国側軍としては間引きに掛かる人件費やら負傷手当等の資金面では助かったらしい。

 

 

◆帰還してから

 さて長期不在の後だったのでその後の知り合いたちにあいさつ回りをしたことの話。

 手始めにラゥムの住居に訪問すると、なんか数が増えていた。

 今ではすっかりブルー・クアゴアに進化したラゥムは部族からはあぶれ者とはいえ、ブルー・クアゴアというエリート種である。

 各部族の偉い手は警戒するが、同じようなあぶれ者からは一心に尊敬を集めたようで、モテたらしい。

 

 その為か、ラゥムはいつの間にかリア充となっており、子供が生まれるそうなので実験に付き合ってもらう事にした。

 リア充に嫉妬した訳では無い(強弁)

 

 今まででドルドマ経由で購入し貯蔵していたアダマンタイトとオリハルコン、ミスリルを供出し特定鉱石だけで育てた場合と複数混合で育てた場合のクアゴアの成長率を記録に残そうという試みだ。

 将来的にはブルーやらレッド同士の交配後に生まれる子供とそれ以外の子供の違いとかもデータに残したい。

 

 同時に人数が増えた分だけ厄介事の発生率も増えるだろうから、未来の『ぺ』の字の大英雄にならって農業の概念を教え、従順に従い、功績のある者にはミスリルクラスの鉱石を褒美で与える事にした。今の所は少人数なので手持ちの鉱石や自己生産でこの集団は回るだろう。

 

 ドルドマとはドワーフがらみで少し進展した。

 始まりは遠征修行後のことだ、ふと気づけば、種族由来の魔法の一つ目を習得する事に成功していたのだが、その内容がまったくもって戦闘の役に立たない物だった。

 その名も『酒の泉』である、発動中延々と魔力(MP)らしきものを消費されるが、その間に滾々とお酒が湧いてくる泉が誕生する。蒸留酒とも醸造酒とも発泡酒ともつかない酒でアルコール度は高いのだが、のど越し良く仄かに甘味の利いた味も悪くない。魔力(MP)を切ると湧き止まるが現物は残るという、飲んべえにはたまらないかもしれない、戦闘の役には欠片も役に立たんけど。

 少し前、物々交換の交渉により酒精をやけに大量に手に入れたドルドマの自慢話を延々と聞く羽目になり、おかげで無性に酒が飲みたいと思っていたのだが、魔法習得の理由にこの辺が影響がありそうな気がする。

 ともあれ、気軽に酒が飲めるのは良い事だ、互いの飲みニケーションの為にホイホイ使い、残りは持ち帰りを許可したのだが、ドルドマは他のドワーフにも分け、それが飲んべえのドワーフには大層うけたらしい。

 これはなんだ、ワシにもよこせ、此処にはないわい、独り占めはいかんぞ、五月蠅いぞ欲しけりゃ自分で頼め、ワイヤワイヤ、ソイヤソイヤ。

 売り言葉に買い言葉が飛び交った結果、恐れ知らずのアルコール依存症の酔っぱらいドワーフが押しかけて来たという…………それで良いのかドワーフ。

 十年近くかけて、ドルドマ以外のドワーフとまともな交渉の席に就けなかったことを鑑みるとなんかもうやりきれない気分である。

 ともあれ、結果的にドワーフの協力者が増えたのは良い事で、別に詳しくはないが、合金の概念や複数の金属を重ねるダマスカスとか話題にしてみた。プロの鍛冶師ならそれをヒントになんか新しいモノを作ってくれそうな気がする。

 ファンタジー的なファジーさでいうなら、例えばリザードマンの秘宝、フロストドラゴンの

骨で作った鎧は魔法の効果を備えているらしいので、例えばドラゴンの吐息で打った武器とか不思議武器が出来そうだとは思う、この世界の魔法の道具生産は系統立てた魔化やルーンや、それ以外の何か仮定がふわふわなものがある。

 凍った湖の氷で作った魔法の剣とかよくわからん逸話のある剣もあるしな、思うに神秘的な過程を経ると魔法の武具や道具が発生する様な世界概念(システム)が存在するのかもしれない。

 

 

/前略中略後略

 フィオ・ジュラでは…………ん?なんか電波受信

 『おい、本編にいつまでたっても入らねぇぞ』

 しかたないんや、表現力の限界がですね

 『一話完結ものだろうが、おらぁん』

 ち、しゃーねーですな、もともと巻いてたがもっと巻いていくか。

 

 

◆えくすてんど・あどばんすどぉ!

 色々な事があったが、生まれてから約一世紀位が経過し私の体長も4m位になった、その後もちょくちょくカッツェ平原に修行に行きつつ、ラゥムとクアゴア新部族を育て、ドルドマんとこのドワーフと武器開発にいそしんだ。

 

 結果だけ言うと大体こんな感じになる。

 

 『クアゴアに『ぺ』の一族爆誕!』

 『ドワーフと生産活動DASH!』

 『プ族とドワーフ族交流開始!』

 『私、若竜(ヤングドラゴン)に進化!』

 

 

 ラゥムは50年も経つと寿命でポックリと逝った。

 その間に血族はほどほどに増え、数は300体前後、クアゴアの総数8万からするとごく一部だが、ただその一族の新生児はブルーとかレッドばかりとなかなか盛況、稀にブラック個体というさらにレアっぽいのも生まれている。

 そして、その孫の一体にブルーともレッドともつかないクアゴアが生まれ、そのプラチナ気味の白い体毛に名前がリユロだった事にビビッと来たのでクアゴア育成の集大成をぶち込み、手ずからに教育した、まだ幼いが飛び抜けた才覚を発揮している。こいつは多分大英雄やでぇ。

 

 ドルドマは健在、ドワーフは200歳くらいになっても余裕で生きてるらしい。

 酒で釣ったおかげか、順調に交流が増え、プの一族限定だがクアゴアとの仲も悪くない。

 前に思い付きで提案したドラゴンブレスで武器加工のネタも試したいというもの好きな鍛冶師が居たので武器生産をチャレンジした所、試行錯誤の結果、良質な魔法の武器の生産に成功した。

 さらにルーン武器にも興味があったので、現時点でもすでにかなり落ち目らしいが天才と言われるルーン工匠とも合作、恒常的な五文字のルーン刻印に成功、話によるといずれは六文字いけるかもしれないそうな。

 

 そして私は最近若竜(ヤングドラゴン)に脱皮したわけだ。

 進化前になるとなんかムズムズっときて冬眠状態に移行し気づけば脱皮していた。

 脱皮前と後の違いはピンとこないが、とりあえず体格が違う2m後半付近で伸び悩んでいた体長は脱皮後3m程になっていた。此処まで成長できれば、まともにドラゴンとして恥ずかしくない感じの威容ではないだろうか。

 そして、曲がりなりにも若竜であり、ドラゴン業界でも大人の仲間入りである、同時にいつオーバーロードってもおかしくない時期に入ったので私は魔法を本格的に学びに行くことにした。そろそろ帝国にフールーダが居着いたりや魔法機関とか出来ててもおかしくないだろうし。

 ただ、ドワーフ経由でリ・エスティーゼ王国やバハルス帝国の情報は仕入れるように努めていたのだが、異種族&他国という壁の所為か、今一つ原作ワードがヒットしないのが不安だ。

 そろそろ鮮血皇帝や単位のガゼフ、蒼薔薇とかが話題に出ても良いと思うのだが……まぁ、人里に降りてから改めて情報を集めればもう少し詳細も判るだろう。

 

 「とりあえず父上殿ー。」

 「……何用だ、へジンマール。」

 

 相も変わらず、宝物庫前で嫁三頭とゴロゴロしている父上殿に謁見する。

 ドラゴンとは食っちゃねしてるのが主である、齢を重ねるだけで強化されてくという、何気にチートじみた種族特徴故の怠惰さだと言えよう。そういえば食っちゃねとは言ったがあまり食事風景を見た覚えもないな、食事している場面を見た事が無い訳では無いが、その頻度がレアな様な。年下や同年代の兄弟は結構毎日狩りをして食事を確保して居るし私もそれなりに食べる。時には獲物のあまりをボウズな兄弟に分けたりもしたものだ。親竜の彼等の巨体なら洒落にならない量の食料が居るような気がする。もしかすると成竜(アダルト)長老(エルダー)辺りになると飲食不要に近い特性を獲得するのかもしれない。

 おっと、話がそれたな閑話休題。

 

 「本日顔を出したのは少しお願いしたい事がありまして。」

 「願い事?聞くだけなら聞いてやろう、言って見るがいい」

 

 「少し長めの武者修行に出たく思います、外出許可を頂きたく」

 「前にもそんな事を言うておったな」

 

 「前回は気まぐれに許したがな」

 

 「――――霜の巨人(フロストジャイアント)に近日カチコミを掛ける予定はおありでしょうか」

 「…………何故そんな事を聞く」

 

 「父上殿のお考えを重んじた故です」

 「ふん、許す、言って見ろ」

 

 「この地において父上殿の覇権の障害となるのは巨人等(あれら)ぐらいでしょう、我らの吐息に完全な耐性を持ちそれなりの力も備えている、十や二十をただ屠るだけならば父上殿や母上殿達で容易いでしょうが、それでもこの地の巨人は100頭を越えると聞きます」

 

 クアゴアの斥候に聞いた所、実際には200体は居るそうな。

 

 「逃げて再起を謀られても面倒、支配するにもやや手間がかかる、故に一族を育てておられると愚行しましたが如何でしょうか?」

 

 まぁ、正直霜の巨人(フロストジャイアント)武力(レベル)はもっと強いと思うけどね、他のドラゴンが何頭か従属させられてるらしいし、でも父上殿のヨイショしとかんと無駄にプライド高いから素直に話を聞かんだろう。

 

 「外での事が役に立てられると?」

 「北方に多数のドラゴン族が治める評議国という国があり多種多様な下層種族を支配するとか、学べるものがあるかと」

 

 睨みつけるような眼光の父上殿、ギラギラと言うかじめっとした視線の義母殿×2、義理でも息子に向ける目じゃないね。

 プライド激高だけど割と計算高いしソロ活動が本能に根付いているドラゴンにあって、群れるという手段を考えて実行する当たり、頭はそんなに悪くない筈なのだ。ダメだった時は武力を示すしかないんだが、いずれは白黒つけるにしても今は親子喧嘩とか勘弁してほしい。

 

 「……よかろう」

 「ありがとうございます。」

 

 よし、なんとかなった。

 

 「ただし……アゼルリシアの麓に雪が積もる頃には戻り、お前が得たものを示すが良い、それが取るに足らぬ無駄であると私が判断したならそこで終いとする」

 「はっ、畏まりました。」

 

 おっと、なんか釘を刺してきたという所かね、ドラゴンの年功序列は覆し難いので己の王座は揺るがないが。

 息子が余計な知恵を付けて小賢しく立ち回るのは煩わしい、変な思想に染まるならその時は捩じ伏せてやろう、みたいな?

 くわばらくわばら、でも変な思想には生まれた時から染まってるのです。いずれは息子は父親を越えて往かねばならないので、その時はお覚悟をとか考えちゃう、私なのだった。

 

 

 

 「それで、どうしても外国に出かけるのか白竜の」

 「ああ、そうなる、高みを目指すなら井戸の蜥蜴から大空の竜とならねばな」

 

 「鍛冶長が、熱烈にお前さんにアプローチをかけとるんじゃがなぁ……」

 「まぁ、偶には帰って来る、その時なら付き合わない事も無いぞ」

 

 棲み処のフィオベルカナを出て後、長年の飲み友達であるドルドマの所に立ち寄った。

 とりあえずはこれを最後にしばらく飲みおさめとなるので散々飲み明かす事にした。

 昔は此処に口下手なクアゴアが一人居た、友の隣を見れば今でもその姿が幻視出来る、出来てしまうのが、どこか寂しく感じる、長い付き合いだったんだなぁ……。

 

 「……ラゥムの奴の事か」

 「……ああ、どうにも差しで飲むと思い出すな」

 

 「あ奴、嫁が出来ても、口下手な奴だったのぅ」

 「ははは、確かに、結局あれは生来の性格だったみたいだな」

 

 「のぅ、白竜の」

 「ああ、なんだい」

 

 「……ワシらもじゃが、人族もなかなか小狡い奴らの多い連中じゃ気を付けてな」

 「ああ、忠告感謝する、そちらも他の霜の竜(フロストドラゴン)には気を付けろ、基本アレ等は自分達以外を代えの利く道具程度にしか思って居ないからな」

 

 

 酔いつぶれるまで二人で酒を傾け、目覚めた時にはドルドマの姿は無かった。

 竜よりアルコールに強いって実は凄くないだろうか、周囲にその気配が無い事から、別れの挨拶は彼的に酒の席のアレだったのだろう。

 長々と居着いてもケチがつく、人生は一期一会と日本の偉い人は言ったが、本当に最後という訳でも無いだろう、いずれの再会を良しとして帝都に私は旅立つために翼を広げた。

 

 

◆兆し

 さて、とっとと帝都編に辿り着ければいいのだが、なぜか私は旅の途中の空の上である。

 何故かというと、目下、地上で火の手が上がっているからだったり、眼下にはいかにも辺境村という感じの家屋がまばらに立ち並んでいたりする。大体30世帯という所だろうか、そして、それらからモクモクと煙が上がる中、プラスアルファで村人と武器を持った野武士的連中が右往左往と入り乱れている訳である。

 お?初登場時のカルネ村みたいなシチュエーション……?

 

 無残に切り殺される村人、切り殺す野武士的なサムシング、男は殺せ、女は犯せひゃっはー!という声が聞こえてきそうな感じである。

 所謂、野盗と言うやつだろう、ただ私が生前書物で読みといた野盗というのは、物語的な何も考えていないエネミークリーチャーではなく、例えば、税を払えずに身を持ち崩した同じ村人だったり、戦が無くなり稼ぎが無くなった傭兵だったり、野盗に扮して国力を削りに来る他国の斥候や騎士というのが定説だとか。

 

 前二例は女性が乱暴されたり、食料を奪われたり、見せしめに2,3人死んだりと被害は出るが、皆殺しとかは無い、供給元を減らして良い事は無いからだ。

 

 目の前のそれは何方かというと後者の様に見える、といっても世の中、理屈と道理が通らない事も多々あるのでただの考えなしという可能性も絶対ないとは言い切れない。

 

とりあえずは出で立ちから見ても、法国の欺瞞部隊とかではなさそうだ。もしかしたらどこか別の国の略奪部隊かもしれないが。

 

 そんな事を考えながらも、それが略奪現場だと理解した私は魔力を体に漲らせながら、ぎゅーんと降下する事にした。

そう私はこれでも善良な元人間のドラゴンである、犯罪者を制する武力を持つ以上ジャスティスリーグをすることに何の思いはばかる事も無いのである。

 

 目下では丁度、子供とその親らしき人物が襲われている所であった、何処かしこもそうなので全てを救う事も守る事も出来そうにないのが残念でもあるが……おお、子供が盗賊に体当たりを決めておる。なかなかに勇猛果敢だな。

 親の方もがんばれば良いのにと思ったがどうやらそちらは深く負傷しているようだった。

 

それらを確認しながら私は勢いのままに着地、四肢を地に打ち付け、そして漲る魔力を喉から迸らせて開放した。

 

 

◆少年

 辺境の村とは国の中心から最も遠くにある事が多い、そしてそんな場所は往々にして生命力にあふれた瑞々しい大自然に囲まれた場所にある。

 そう表現していえば、素晴らしい所の様に思えるかもしれないが実情はそんなものではない。

 強靭で原始的な生命力は往々にして人の手を拒む、野生の動物たちは人を恐れず、そして友好的でもない。森の植生の成長速度は人が森を開拓する速度を容易く上回り、逆に村が森に飲まれるなどと言う事は枚挙にいとまがない。リアルの現代社会が森を刈り尽くせるようになったのは土木機械が発達してからなのだ。人力である間は人が森に打ち勝つ事はそうないだろう。

 弱肉強食の理は長期的には成り立たなくても短期的には割と成り立ってしまう、そして人はこの世界でも弱者側から数えられる種族である。故に、多くの獣の獲物として人は狩られる側に容易くなってしまう。

 辺境を村に開拓する初期の頃であれば、それに抗える者が居る事も少なくないが、人は死ねば生き返らない。人は怪我を負えば、今まで通りには戦えない、人は老いれば弱くなる、そして辺境には人の流れは稀であり、人員の補充はまずない。

 何がしかの特性をもって、人が流入する意味を持たなければ自然だけでなくモンスターや異種族の脅威にさらされる辺境の営みとは先細りし、いずれは放棄されるのが常だろう。

 

 辺境には司法の守りは無い、建前上は存在するが、実際にはないも同然、それでも税収官は定期的にやって来る。

 辺境の開拓はそのまま国の開拓である、発展する事は国益となる筈だがそれは国家100年の計に属する、長期的にみれば利益となるが、人は目先の利益を求める、少なくともリ・エスティーゼ王国の貴族はその傾向が強い。

 要するに、利益の薄い辺境開拓に支援など少しも無かった。

 

 そんな守りも薄く、力の無い、だが税を払うために雀の涙と言えど貯蓄する村があるとする。略奪者から見ればそれはとても鴨に見える事だろう。

 

 さて、此処にとある辺境の村がある、リ・エスティーゼ王国の何処にでもある、それなりの人数で細々と暮らす貧しい村だ。主産業は農作物を作る農業、それに森への採取や狩りと言った所の何の変哲もない。

 

 その村には二人の親子が滞在していた、村従来の住民ではなく、村から最も近い(それでも遠いが)街から採取の依頼を受けてやってきた冒険者である。本来冒険者は3~6人のチームを組むが彼等は親子二人だけだった。そもそも、一人は10歳にも満たない子供で、実質的には一人だけの冒険者だ。

 辺境の寒村等は閉鎖的なものも多いが、村の者達は協力し合う事で厳しい自然を生きてた為か、存外好意的に彼らを受け入れた。

 もともと、親子は採取を専門にしているのか定期的に村にやって来る為に時間をかけて気心が知れてきていたし、親である男は、口下手だったが、その子である少年は逆に快活で年の割に気持ちのいい性格をしていたのもあるだろう。

 存外手先は器用な男が吟遊詩人(バード)の技に卓越していたのも一役買っている。

 来訪の度に、安物ではあるが村単独では手に入らない、塩や薬等の、必需品を滞在費代わりとしたことも大きく、彼等親子は村にとって無くてはならない人物になって居た。

 男が森に採取に行く間、少年を預かり、滞在する空き家を提供する事で互いに利益があり、釣り合った関係だ、もちろん好意もあった。

 

 ――さて、此処で焦点となるのは少年である。

 彼は父に連れられて旅をする根無し草だった、それはもっと小さな頃の話で今は違うのだが。

 旅は幼いながらに辛く厳しく感じたものだが、立ち寄った村で、街で、馬車で旅の空の焚火の前で父が吟遊詩人(バード)として奏でる数々の英雄譚には子供心に心躍らせたものだ。

 父は割と器用な人間で吟遊詩人(バード)野伏(レンジャー)盗賊(ローグ)等の複数の職業技術(クラススキル)に精通していた、その中でも戦士(ファイター)としての手管に特に興味を持ったのは英雄譚に憧れる少年らしいと言えるだろう。

 

 それ故に戦士の技の伝授を父に求め、厳しい世情を渡る為に父がそれに頷いたのも当然の話と言えた。

 日頃から父は口下手なりに優しい人物だったが、戦士の訓練の時には鬼の様に変貌した、手加減など無いかの様な仕打ちに少年は何度も泣き言をこぼしそうになったが、涙を堪えて食らいつく。木の枝を使った稽古は少年の手足に幾つもの痣を作り、痛みに眠れない時もあった。それでも後にして思えば随分手加減されていたのだと思う。

 

 ある時、少年は村々を襲撃する野盗の話が噂を耳にした。最初は国内を渡り歩く流れの行商人から、続けて散在する村々に定期的に訪れる街商人が、そして、焼きだされ這う這うの体で略奪から逃れた村の生き残り達から。

 噂はただの噂では無く事実である事は知れた、多くの街人は不安を覚え、被害者の村人は涙ながらに救いを求めた。

 陳情は幾度となく、この地を治める街の領主に送られた、だが、ただの一度も領主も他の貴族も挙兵する事は無かった。

 この事実を知った少年は強い失望を覚えた、そして、子供にありがちな事に義憤を燃やす、特に根拠のない自信が自分なら、無頼漢を見逃すことないと倒して見せると激情の炎を燃やしていた、もっとも、ただの少年には賊を見つける術など無かったし、父もそんな無謀を許さなかっただろうが。

 

 しかし、いかなる神の気紛れか、それとも悪魔の悪戯か、少年の正義はそれを示す機会を得る。

 何時も依頼で立ち寄る村に訪れた時の事だ、父は薬草の採取に向かい、少年は村でその帰りを待っていた時にそれは起きた。

 

 まず最初、日々の生活で鋭敏に鍛えられていた少年の耳が微かな悲鳴を拾った、それを耳にし何が起きたのかと幾人かの村人が面を上げ周囲を見回した時幾人もの野盗が既に村への包囲を狭め始めていた。

 辺境の村とは言え、この村にも非常時の為に粗末ながら櫓が組まれ、警戒を仕事とする役を持つ村人が居た、危急の際には金物を力の限り叩いて危険を知らせるのだが、既にいくつもの村を襲った野盗は手慣れた手管でこの村人を排除していた。後に粗末な弓矢で喉笛を抜かれ絶命した遺体が発見されている。

 

 馬が駆け、矢尻が飛ぶ、村人の悲鳴が響き、これ見よがしにダンビラを振るう野卑な野盗の姿、怯え逃げ惑う村人等を追い立てて行く、逃げ遅れた村人は容赦なく引きずり倒され男は切り捨てられ女は引き摺られてゆく。

 

 宿を貸してくれた老婆を連れて逃げる最中、目の前で同い年の友人が切り捨てられる様を見て、少年は頭に血を上らせた、感情のままに殴りかかる。しかし装備が違う体格が違う、そもそも、暴力者としての経験が違う。拳は厚皮の鎧に阻まれた。大したダメージにもならない。無造作な蹴りが少年の肺腑を抉り、嘔吐する。続く一太刀を避けられたのは父の教訓が体に染みついていた事と、あとは運が良かっただけだろう。二度目を避ける余裕はなく。

 

 その時、空から巨大な壁が落ちた。大型質量の突然の出現にその場の空気が烈風と化して四方に押し出される。それは衝撃波となって周囲に襲い掛かり、大地を強烈に打ち付けた質量は局地的な地震となる。

 

 転倒する野盗、倒れながらも不意加わる縦の振動に受け身すら取れない、同じく強かに尻を打ち付ける少年。だが痛みを感じる暇は無いまま事態は続けて急転する。

 感じたのは波、そして強風、思考が真っ白に吹き飛ぶほどの勢いをもって放たれたそれは咆哮だった。至近すぎて少年には音と言うよりも物理的な圧力としか感じ取れない。

 

 それはユグドラシルと呼ばれるゲームでは【咆哮Ⅰ】と呼ばれる特殊技能(スキル)のものだ。初期段階Ⅰの効果は戦闘フィールドに存在する10レベル以下のエネミーを戦闘不能状態とする効果がある、ランクは最大Ⅴ、ランク上昇と共に対象レベルが上昇し追加効果が増える、Ⅴで戦闘不能対象は50レベル、ユグドラシルの平均プレイヤーレベルを考えるとかのオーバーロードの持つ上位物理無効と同じフレーバー的な雰囲気スキルである、だがこの世界に置いてその魔力を帯びた咆哮は、同時に圧倒的な力で全てを制圧する事を可能とする、まさに鶴の一声、――否、竜の一声とでもいうべきか。

 

 少年が気づいた時、全ては終わっていた、嬌声も悲鳴も断末魔も一切が消え去り、ただ、風と自身の心臓の音だけが残された。

 見れば自分を襲い凶刃を振り上げていた野盗は白目を剥いて倒れ伏している。

 

 理解が追い付かないままに視線を動かした先に、真っ白で巨大な―――。

 

 「……ドラゴン?」

 

 それが幼き日のガゼフ・ストロノーフの大いなる出会いであった。

 

 

 ドラゴンとはこの世界に置いて数多ある種族に取って見ても強大な種族であり、最強の名を欲しいままにしている。

 もちろん、英雄に討たれたる事はある、他の強力な存在に敗れる事もあるとも知られているがそれでも、ドラゴン族が強力無比な種族であることに代わりはない。

 人族の知る中でも多くは財を求めて国を襲い、生贄を要求し、時には姫君を攫うモンスターという認識が強い。

 

 少年ガゼフが出会った白い竜はへジンマールと名乗った。

 村が襲われている所を通りがかったので助けに来たのだと、これにはガゼフも驚いた。

 

 会話もそこそこに白竜(へジンマール)に促される、咆哮の戦闘不能・恐怖/昏倒は別に永続では無いのだとの言葉に、宿の老婆をその家屋に残し、共に村の周辺を回り、野盗達を拘束する。野盗を集めるのは()の役、縛るのはガゼフの仕事となった。

 まず、本来の避難先である村長の屋敷に向かうが、村人達にも咆哮の効果は及んでおり皆が昏倒していた、襲撃の際に負傷した村人も多くそのままにするのもはばかられたが、一先ず傷の深いものは発見次第白竜の持つ道具袋から取り出されたポーションにより死なない程度に癒すにとどめ、いまは目覚めた場合や咆哮に抵抗した野盗が居た場合を危険視し野盗を優先して回った。

 

 ガゼフには判らない事だが、襲撃者に10レベル以上のものは居なかったらしく、命はあっても野盗は全滅であった。

 

 辺境の村人などそんなに多くは無く、全員がガゼフにとって顔見知りである、野盗と村人を分けるのはそう難しくは無かった。

 程なく白竜(へジンマール)により野盗は一所に集められ、ガゼフの存外手慣れた作業により全員が拘束されていく。

 次に周囲で倒れ伏していた村人を集め、手当てをする作業に入る、しばらくすると、採取に森に出かけていた父が足早に戻って来た、遠目に見ても一目瞭然の4m越えのドラゴンの姿に警戒心もあらわだが、無造作に近くで作業する息子のガゼフの姿に父も困惑を隠せない様子だった。

それでも息子の話を聞き、野盗から村が救われたことを知ると白竜(へジンマール)に感謝の言葉を漏らした。

 二人と一頭の救急医療は迅速に行われ二次被害は最小に留められた。それでも手遅れな者は出たが、それはもうどうしようもないことだった。

 白竜(へジンマール)が提供したポーションにも限りがあったし、ガゼフ親子が常備していた回復薬も値段の関係もあり本当に最小限しかないのだから。

 半日もすると昏睡状態だった村人も目を覚ます。昏倒前の記憶から恐怖に悲鳴を上げる者もいたが、ガゼフとその父の説明を受けて落ち着いた。その後、白竜(へジンマール)を見て二度目の悲鳴を上げるのだがそこは御愛嬌と言えよう。

 いくつかの事後処理が終わるまでの数日間、白竜(へジンマール)は村に滞在していた、野盗の数は延べ16名、村人やガゼフ親子が管理するにはやや荷が重かったためだ。殺してしまうのが手っ取り早いのだが、襲撃の際に数名の村人が殺害されたり家屋が燃やされたのは、この様な寒村では結構な被害であり、住民の減少は村全体にとっても死活問題なのだ。野盗を街の詰め所に突き出せば雀の涙でも報償金が出る、少しでも補填されないと困るのだ。

 

 だからと言って16名の盗賊をガゼフ親子に連行してもらうのはこれで無理がある、馬車などというものは結構な高級品である、馬も現代でいうなら自動車並みの価値があるので、辺境の村に常備している筈が無かった。

 一度街にそれなりの数の兵士を呼びに行かねばならないのだ、兵士を呼びに行く仕事は旅慣れたガゼフの父が受けたがその間、野盗達を監視する者が必要になる、もしもの時に対処する役もだ、その役を白竜(へジンマール)が受けたと言う事だ。

 

 何故そんなに村人達に利の在る仕事を受けてくれるのか、彼に何の利があるのか、ガゼフが問うと白竜(へジンマール)はこう答えた。

 

 「強き者が弱き者を守るのは当然の事だよ、誇りある者の義務という奴だな」

 

 その答えはガゼフにとってとても眩しいものだった、暗闇の中に光を見たような、幼い頃から思い描いた救いの光景、だが、一度として見た事の無い幻想だった。それが、今、目の前にある。

 

 強大な異形種であるドラゴン族はそれだけで恐ろしい存在である、真っ当な人間であれば例え助けられたとしても、恐怖や疑心に駆られるのが人の常だが。

 村人達は存外懐が広くこの異形種を受け入れていた。余程ひねくれた人生を送らない限り人族はカルマが善性に傾く傾向があるのかもしれない。特に物おじしない子供達が白竜(へジンマール)にまとわりつく姿が早い内から散見されていた。

 後日ガゼフは今更の如く、白竜(へジンマール)に父の名を問われた、自身の名も自己主張すると、何故か彼の顔色が変わったように見えた。

 

 道理で……面影が……などと言っていたが、理由は答えてはくれなかった。そもそも、ドラゴンに人間の顔の見分けがつくのか疑問だ、少なくともガゼフにドラゴンの顔の見分け方とかは判らない。

 

 ドラゴンに救われ、共に過ごす。言葉にすれば簡単だが、このファンタジー染みた世界に置いても、それはとてつもなく珍しくおとぎ話染みた出来事だ。

 遠く北の向こうの地には、ドラゴン達が作った評議国なる国があると聞くが実際に目にした事は無いし、実在するかもガゼフ達の様な下々には判らない。

 だが、彼等がこの数日間に経験した出来事は確かに現実だった。

 

 しばらくして街から兵士が到着する、その時、気づけば白竜(へジンマール)の姿は消えており、野盗達を彼らが連行していくと、いつの間にかその場に戻って来ていた。

 モンクの特殊技能『虚身』による不可視化だったが、白竜(へジンマール)自身もチャクラって空気と一体化していた程度にしか考えていない。親の夫婦喧嘩の巻き添えを避けるために頻繁に壁の振りをしていた結果習得した技術だったがそれは誰も知らなくても良い残念な事実だった。

ともあれこれは、ガゼフや村人から貴族関係の悪評を数日間聞いた白竜(へジンマール)なりの配慮だった。下手に姿を現しても、とくにこの王国では誰にとっても良い事にはならない。

 

 村を襲った出来事の処理が終わるとおもむろに白竜(へジンマール)はガゼフ親子と村人に別れを告げた。

 割と穏やかだったドラゴンが守りを買って出てくれた数日間は畏怖はあれど、妙な安心感があったのも事実で、村人たちはそれが去ってしまう事に不安気な雰囲気が隠せなかった。

 

 あわよくば、留まって貰えないだろうかという他人頼りな気持ちが無かったと言えば嘘になるだろう。

だが、ドラゴンにだって都合がある、白竜(へジンマール)はその気持ちを察しているようではあったが前言を撤回する気は無い様だった。

 

 しかし、言葉は重ねた。

 

 「――今回はその子供、ガゼフの勇気と弱者救済に私は心動かされた、だが、それは幾つかの幸運が重なったに過ぎない、いつでも救いの手がある訳では無い、どんな生き物も最後は己の足で立たねばならない、力に劣っても良い、時には逃げても良い、生き延びたならお前たちの勝ちだ、弱肉強食の理に抗うならば、その意志を持つことだ。」

 

 「心挫けそうならば、家族を思え、友を想え、己の譲れないモノを心に浮かべろ、そうすれば、もう少しだけ足掻こうと思えるはずだ、そのもう少しの差が、お前たちを救うだろう。」

 

 ちなみに、武器を持つなら弓がおすすめだ

 

 茶目っ気染みた言葉を最後に白竜(へジンマール)は空の彼方に飛び立っていった。

 ガゼフと村人は白竜の言葉を大真面目に胸に刻みながらいつまでもいつまでも、その後姿を見上げていた。

 

 

 ―――その後、やたらめったらと全員が弓に習熟する辺境の村が爆誕するのだがそれはあんまり関係のない話かもしれない。

 

 

 ◆がっぜーふ!

 

 いやっはーふー!ガゼフ発見!ガゼフ発見!!

 御年だいたい10歳位?っぽいですよ、ショタガゼフとか誰得wwwwwwwwwww!!

 

 良くわからないテンションがアゲアゲですが、第六感的なサムシングに従った甲斐があるね。

 これで、ナザリック出現の時間スケジュールがある程度詳しく立てられるよ!

 大体本編のガゼフの年齢が30代前半位とすると、あと20数年位で本編開始ですな、まぁ、何処まで物語の正史ルート通りかはその時になって見ないと判らんけども。

 

 とりあえず、僕悪い異形種じゃないよプルプルな感じに紳士的に応対しておいた。

 野盗の監視もするよ!好感度アップイベントこなすよ、ガセフボーイ!!

 とりあえずブレイブな君には私がドワーフとの間で開発したマジックアイテムをプレゼントしよう。

 私の生え変わりの牙で作った笛なのだが、この笛は吹くとかなり遠くからでもその音が私の耳に届くのだ。犬笛みたいなものである。占術の増幅起点となる効果があり、魔力的なパスを知っていると射程外でも探知(ロケーション)に感知出来たり、『伝言/メッセージ』が届いたりする様にもなる。

 伝言(メッセージ)はともかく、探知(ロケーション)の魔法は私は使えないがな。

 

 ともあれ、ガゼフとのコネは残しておくに越した事は無い、何かの縁を感じるとか、もったいぶった事を言って渡しておく。

 

 「気軽に使われても応えるとは限らないが、どうしようもない事があった時は吹くと良い、運が良ければ、手助けできるだろう。」

 

 なんかキラキラとした目で見られたが、やめて、自分本位な理由で渡してるだけだから、妙に良心的な部分にジワジワくるからその目は、やめて!

 村に滞在中は気高く(カルマ)ローフルグッドな感じのドラゴンロールで通したせいか、何処でもだいたいこんな感じだった、尊敬の視線とか天狗になるより先に、気恥ずかしさの方が先に立つよ!日本人にはアメ公みたいな、スター願望は薄いんだから、やめて!自業自得ですか、そうですか。

 

 やるんじゃなかった、ドラゴンロール、でもいまさら止められない、がっかりドラゴンロールとかした後の視線はそれはそれで怖い、日本人は恥を恐れる種族です。

 

 数日後に王国兵がやって来たけど、置物の振りをしていたら去っていった、ふふ、私の演技力もなかなかのものよ。……まぁ、流石に何の反応も無いのは可笑しいので、特殊技能効果でも発動していたのかもしれんね、ステータス確認とか出来ないのはこういう時不便だ、ゲーム仕様が一部でも残ってるプレイヤー達ってホントチートなんやなぁ。

 

 そろそろ、村人の視線が耐え難くなっていた私はガゼフとのコネの種も撒いたし、とっととトンズラする事にした。

 ええと、なんていえばいいだろう、それじゃーねー、とか言うのもアレだし、ええとなんかかっこいいドラゴンロールドラゴンロール……。

 自分でも何言ってるのかわからない感じになんか言った気もするけど割とテンパってたので何言ったのか覚えてないんだぜ☆

 変な事言ってないっすよね?振り返るのがちょっと怖くなった私は村が見えなくなるまで全力で飛んだ。

 まぁ、なんだ、その時は割と調子よくやって良い感じだと思っていても後で不安になる事ってあるよね!!

 

 

 

 ◆帝都だよ!

 ……そんな訳で私が帝国魔法学院に入学してから十数年の時が流れた。

 

 え?はしょりすぎかな、そうですか。

 入学の際には色々と些細な問題も起きたが今となっては懐かしい思い出である。

 空から魔法学院探してたら、鷲馬(ヒポグリフ)ライダーに囲まれてしこたま矢を撃たれたとか、飛行(フライト)魔法部隊に魔法の矢(マジックミサイル)火球(ファイアボール)ぶち込まれたけど、頑張ってペロぺロ爺以外は全員ノックアウトしたとか些細な事だよね。

 

 東方ぷらすバリの弾幕に思わず板野サーカスしたのも良い思い出さ。

 

 ちょっと頑張って現皇帝(ジルパパ)相手に物理的交渉を成功させて魔法学院に入学したのは良いが、やっぱドラゴンだと規格がちがって結構苦労した。

 まず本が小さい、文字はドワーフの国である程度覚えていたが、やっぱ字が小さい近視か乱視になりそうだよ。

 そういえば、本来のへジンマールも人族規格の本の読み過ぎで目が悪くなってたな。

 現代日本みたいな規格化された本とかは無いので、何か無駄にデカい本とか大きさが大中小ですまない感じだけどそれでも4mクラスの生き物である私には不便だ。

 

 次に授業を受けようにも教室に入れない、というか学院の建物のほとんどに入れない。仕方ないんで外側の窓から頭を入れてみる羽目になった、変な体勢になるんでちと体がギシギシするよ。寄りかかると体重で窓枠が壊れるしな。

 

 魔法実験も外以外だと入れない場所だったりしてね、とても不便なので困ったもんだ。

 仕方ないので、私専用サイズの本を写本してくれる様に学生に依頼した。お給金は一冊金貨3枚、紙とインク代は私もち、書き損じや誤字があると減額する感じ。

 

 講師に直接魔法の系統や成り立ち、現在の理論、実践を聞きに行くのもしょっちゅうやった。ほとんどの教師の腰が引けていたが、気にしない。

 

 魔法を学びに来たのに何度か帝国軍から勧誘が来たが、人の争いごとにはかかわる気が無いので断った。

 闘技場での賑やかしとかは受けても良いとする。あと冒険者登録もしておいた、評議国には異形種の冒険者も居るそうだし問題ない。

 

 魔法に関してだが、やはりドラゴンの魔法は論理型というより感性型の様だ。魔力系の魔法なので互換性はあるみたいだが、私が観察した限り、感性型魔力系魔法詠唱者は、近接戦闘力が論理型魔力系魔法詠唱者よりも高い。

 具体的に言うと魔術師(ウィザード)は10レベルで3レベル分の近接戦闘能力を持つが妖術師(ソーサラー)は10レベルで5~7レベル分の近接戦闘能力を持ってる感じ。

 これだけ聞くと妖術師(ソーサラー)の方が便利に思えるだろうが、その分習得魔法が少ない、こちらも具体的に言うと魔術師(ウィザード)が10レベルだと魔法を最大30種ほど習得出来るのだが、妖術師(ソーサラー)はその三分一しか扱えない様なのだ。

 

 まぁ、何事にもメリットとデメリットがあると言う事だな、元がゲームシステムだけに一方的にメリットだけのクラスは……多分、強クラス以外には無い。

 ワールド系クラスを取れればかなり凄いんだろう、でも、この世界では習得条件きっと無理ゲ系、前提を満たすことは事実上不可能だ。そもそも、条件判らんし。

 それ以外のクラスもとるのは厳しいだろうねー、もともと、この世界の住民自体がクラスの概念自体を認識してないと思われるしね。

 

 この世界の枠の中にいる身としては(半歩くらい踏み外してる気もするけど)わかる範囲でクラスを習得するよう頑張るしかにぃのよ。

 

 そんな訳で私は妖術師(ソーサラー)系の魔法部門を主体に履修し十数年ほどの時が経過した。……と、改めていう訳だ、どうしても大魔術師、三重詠唱者(トライアッド)、逸脱者等の異名を持つ古田爺さんの系統の魔術師(ウィザード)や禁術師とかの部門の方が人気で、私が選んだ方面はやや枯れ気味だったが、それでも指針になるとっかかりや資料、先達がいるならば十分だ、それらを下地に私も邁進する事が出来た、その所為かどうかは知らないが、この十年で妖術師(ソーサラー)部門も他の部門に劣らない程度には活気がある部門になったように思う。思うんだが……。

 

 

 「師よ、新たな魔術の練成について判らない所が……」

 「先生、内なる魔力と、魔法の根源についての考察を書き起こしてみたのですが」

 「竜術師(ソーサラー)科を先行します!僕、竜語秘術師(アーケイン・ドラゴンロア)志望で……」

 

 「……いや、君等、私は学生なのだが……」

 

 

 ……なんで、教える側になってるんじゃろ?

 そりゃ確かに、10年以上もダブってれば下手な教師よりも生き字引で大先輩だけどさ。

 

 いやまぁ、心当たりが無い訳では無いんですが

 ……十年前の妖術師(ソーサラー)部門って、教師が第二位階で生徒は第一位階初期か未満ばっかでさ

 最終学年で魔法3つ使えます!ってのが精々というのばっかりだったのですよ。

 その所為か魔法学院内でも肩身が狭い感じでして……私としては多くの実験素材というか観察対象が欲しくてですね、ちょっと、やる気がある奴等をカッツェ平原パワーレベリングブートキャンプ『お前等、アンデット討伐1000体がノルマな!』に強制連行したんですよ。

 

 この実験と検証は魔法職の習得実験みたいなもの。

 クアゴアのプ氏族でもそうだったけど、学習や訓練だけでのレベリングはどうしても時間が掛かるみたいだ。

 だからと言っても、戦闘でモンスターを倒すだけでは狙ったクラスのレベルが上がらない。

 私の予想では、ある程度欲しいクラスへの修練を行い、修練度的なものを蓄積する、そうすると微妙にクラスの経験値が溜まる。その繰り返しで経験値が一定水準に達するとレベルアップするという感じではないだろうか?

 第2位階に到達するのに凡人は一生をかけると言われる。第三位階に到達するのは才能があり、かつ魔法に人生賭けて何十年というのが一般常識だという。

 

 学生連中にしろ魔術師(ウィザード)にせよ、実際にモンスターの矢面に立って戦うのは極一部だ。

 彼等が伸び悩むのは単純に稼ぐ経験値がマゾいくらい雀の涙だからではないかというのが、私の推測だった。

 

 ブートキャンプ終了後、間もなく実際に第二位階に到達したのが4,5人が出た、いやぁ、やっぱ、低レベルからのモンスター討伐は経験値の実入りが良いみたいだね。

 死傷者や重傷者が出ないように、苦労して骨を折った甲斐があるというものだ。

 

 その後も検証情報が欲しかったんで、学生連中の話を聞き、それに対して対処法を提案する、結果を聞いて次の対処法を提案って感じで、オバロ知識を適度に使ってトライ&エラーにブートキャンプを繰り返し、複数対象の検証データも集めようと手を広げて試してみて行った結果。

 第三、第二位階到達者がやたら増えましてね、私が直接関わった連中だけでも7,80人位が第二位階以上になりましたとよ。正直私がチートというよりも、いい加減なオバロ知識でもきっかけさえあれば、きっちり結果を出せる此処の連中のほうがよっぽどすごいと思うのだがどうだろう?

 古田翁まで相談に来た時はどうしようかと思ったが。

 

 ……ともあれ、現状は、そういうマッドサイエンティスト的な人体実験が結構な成果を結果的に出してしまったせいかなーとか思う。

 まぁ、彼等が出した結果は私の魔法習得や修練にフィードバックさせて貰ってるから、この状況はそれ程悪くも無いと思うけれども。

 

 …

 ……

 ………

 

 しかし、思えば遠くへ来たものだ、生まれ変わって霜の竜(へジンマール)になって110年位。

 モモンガ先生のグラスプハート目指して此処まで来たよ、まぁ、頑張ったけど、やっぱ、どうしようもないよねー。

 先日相談に来てた古田爺に単純に経験不足、雑魚でも良いから数こなせってテキトーにぶん投げたら、昨日第七位階に到達してはしゃいでたけど、ユグドラプレイヤーは最低でも80レベル無いと話にならんらしいからなー。

 

 物語通りならナザリックが来るまであと10年位か、怖い様な、楽しみなような、私、ドラゴンだし……40レベル位にはなれてると思うんだが、まぁ、とりあえず、あと十年レベルリングがんばりますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これより十年後、後に白竜王へジンマールと呼ばれる彼と魔導王アインズウールゴウンの宿命的な邂逅まであと少し。

 

 

 

 

 

 




ていっと書いてみた奴。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。