【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI 作:スターダイヤモンド
…結局、セクシーコンビのところに行きそびれてしまった…
勇者として一仕事したオレだが、男としてのそれは出来ずに夜を明かした。
結局、悶々として寝付けないまま、集合時間となった。
「おはよう、リサトちゃん!…どうしたの?機嫌悪そうね」
「ん?シルビアか…アンタにゃ関係ないよ」
「これから表彰式なのよ、もっと晴れやかな顔で行きましょう!」
「まぁ…それはそうだけど…」
「…おはようございます…」
「おぉ、ウミュ!昨晩はお疲れ様!」
「…不覚にも、ほとんど覚えておりません…」
「マジか!?」
「無理矢理、起こされたことは記憶しておりますが…」
「あぁ…そう…」
…あんだけ暴れておいて…
…ある意味、恐いな…
「どうかしましたか?」
オレが不思議そうな顔をして見ているのに、ウミュは気が付いたようだ。
「いや、なんでもない」
ヤツが眠っているときは、おとなしくしていようと心に誓ったのだった。
会場に着くと、スタッフが忙しそうに、右往左往していた。
表彰式…ただそれだけのはずなのに、かなり慌しい。
…何かあったか!?…
それはオレ以外のメンバーも感じているようだ。
全員が警戒モードに入った。
「ホークさんは、こちらへ」
と係員に促され、オレは控室へ…ウミュたちは観客席へと向かった。
「そっか…ホーク=リッサートって名前で出てたんだっけ…」
この大会は仮面武闘会だった。
故に表彰式だけ「素顔」というわけにはいかないらしい。
「リサトちゃん、用心してね」
シルビアは別れ際に、そう囁いた。
控室にはすでに、ハンフリーがマスクを付けて待っていた。
昨日の今日のことだ。
こういう時はなんて言っていいものやら…バツが悪い。
それはヤツもきっと同じだろう。
ただ一言
「昨晩のことは…」
とだけ、呟いた。
「あぁ…」
…みなまで言うな…
そんな感じだ。
お互い無言のまま、時間だけが過ぎる。
そうしているうちに、オレは大事なことを思い出した。
「なぁ…ハンフリー…ひとつ相談があるんだが…」
「?」
「優勝賞金は全てお前にやる。その代わり…賞品の方は、オレにくれないか」
「賞品?」
「虹の枝ってヤツだ」
「あぁ…あれか…」
「確かにキラキラ光っていて綺麗だし、飾り物としての価値がないわけじゃないが…アレの本来の使い道は別にある。大袈裟に聴こえるかも知れないが、世界を救うための重要なアイテムなんだ」
「…」
「実は…オレがこの大会に出場した理由も、アレが目的だった。一応、優勝したわけだし、その権利があると思ってるんだが…悪いけど、譲ってくれないか」
「…今の私に断る権限はない…」
「まぁ…弱みに付け込んだみたいで、オレもいい気はしないだけどさ…」
「あぁ…」
「では、そろそろ時間です」
係員の呼び掛けに、オレたちは腰を上げた。
…ようやくこの重苦しい空気から開放されるぜ…
「皆様、大変長らくお待たせ致しました。これより表彰式を行います!まずは準優勝チームから!!…えっ?来てないの?…辞退?それもわからない…あ、そう…困ったな…仕方ないから、先に優勝チームに行けって?…わかりました…ごほん!すみません、手違いがございまして…準優勝チームは会場に来ていないようです」
…これか?スタッフがバタバタしてた原因は…
…ってか、どこ行ったんだ?あの2人…
…あっ!まさか、オレたちに賞品を譲るために…
…姿を消した?…
なるほど。
それはありえる。
詳しくはわからないが、どっちもオレの素性を知ってるようだった。
ならば、オレたちがそれを必要としていることも、わかってるハズだ。
…エリティカさんは、ああ見えて意外と恥ずかしがりやなのかな?…
オレはじいさんの存在を無視して、勝手にそんなことを考えていた。
「では、改めまして…優勝チームの発表です!!」
結果はわかっていても、場内は一瞬静かになった。
「並みいる強豪を退け、見事連破を果たしたのは、わが街グロッタの英雄…ハンフリー!!」
どぅ!!と湧き上がる歓声。
ヤツは『外連味(けれんみ)』たっぷりにクルクルとターンをかましながら、両腕を上げた。
…なかなか、役者じゃねぇか…
これまでのクールなイメージとは違った派手なアクションに、オレは少し驚いた。
だが、直後、もっとびっくりすることが起きる。
ヤツは進行役の手からマイクを奪うと、オレに対してこう言い放ったのだ。
「ホークよ!この街でチャンピオンを名乗るのは1人でいい。この賞金と賞品が欲しくば…オレを倒してみろ!!」
「…」
開いた口が塞がらない…とはまさにこのことだ。
まったく予想もしていなかった展開。
WWEも真っ青だぜ。
シルビアたちを見てみると…ヤツらも一様に目が点になっていた。
「てめぇ、どういうつもりだ!!」
「どうもこうもない。どこの馬の骨ともわからない者に、チャンピオンの座を譲るつもりはない。それだけのことさ」
「けっ!!昨日のことを、悔い改めたのかと思いきや…」
だが、事情を知らない観客たちは、このヤツの言動に盛り上がっている。
「その通りだ!!ハンフリー!この街を守るのはお前だぁ!」
「お前が最強だってことを、知らしめてやれぇ!!」
…おいおい、一転してオレがヒールかよ…
「まだ、呪縛が解けてないのか?」
「なんのことかな?」
ヤツはニヤっと笑うと、いきなり拳を振り回してきた。
「おわっ!!」
オレと組んでの戦いは、どちらかというと後方支援を主としてきたハンフリー。
『受けが強い』というのは、これ以上ないほど知っている。
だが…
「ふんっ!はっ!とあっ!!」
カンフー映画ばりの速さで、突きや蹴りを繰り出してくる。
ベロリンマンのパワーと、エリティカさんのスピードを足したような攻撃だ。
表彰式ということで、油断した。
主力武器である大剣は、今、手元にない。
オレは丸腰である。
かわすのに精一杯だ。
…バカヤロー、強ぇじゃねえか!…
大会前に「オレひとりでも充分だ」と言っっていたのも理解できる。
…だったらなんで、あんなことに手を染めた!?…
フツフツと怒りが沸き上がってきた。
オレは勇者になってから日が浅い。
…というか、今、この場においてもその自覚はない。
だが、日々の闘い…その1戦1戦において、着実にレベルアップしていることは感じている。
それは、この大会の1回戦より、2回戦…2回戦より3回戦…ということもそうだし、昨日の巨大蜘蛛での闘いでもそうだ。
だから…
「一昨日までのオレだと思ったら、大間違いだぜ!!」
ヤツの攻撃を見切ったオレは、ゆらりと上体を揺らして…カウンターで蹴りをブチかました。
「なんだ!今のは…」
「元カノの得意技…『エラシコ』の応用編!ってとこかな?まぁ、元々はオレが教えたんだけどね」
「何をわけのわからぬことを」
「おっと…お次は…『マルセイユルーレット』からの…ジャンピングボレー!!」
「ぬおっ!!」
「もうひとつ!左のローキック!!と見せかけての…『ラボーナ』!」
オレが繰り出す『足技』に、ハンフリーは完全に翻弄されている。
そりゃ、そうだ。
この世界には、そんなもの存在しないのだから。
「すまん!『トリッピング』の反則だ!」
足首の辺りを蹴って、ヤツをよろめかせた。
オレは素早く離れて距離を取る。
そして一気にダッシュして…ロンダート!…からのバック転!からの…バック宙!からの…
「オーバーヘッドキック!!」
キャプテン翼でアルゼンチン代表『ファン=ディアス』が決めた大技だ。
もちろん、オレは試合で披露したことなど一度もないが…ここでは完璧にヤツの脳天にヒットした。
「ぐぁ!!」
…手応え…いや『足応え』はあった…
「倒れろ!!」
オレは心の中で念じる。
すると…
ドスン…と音を立てて、ヤツは前のめりに倒れた。
しかし、よろよろとしながらも起き上がる。
「ちっ!そう簡単にはいかないか」
やはりディフェンス力は並じゃない。
「さて、ここからどうやって仕留めるか…」
ところが、そう思った矢先のことだ。
ヤツはポケットから例の小瓶を取り出したのだ。
「わっ!バカ!まだそんなものを!!」
「ふふふふ…」
そう笑って高々と、それを観客に見せた。
…何をする気だ…
そこからの行動が、予想外だった。
「私は…私は今まで、この小瓶の力を借りて闘ってきた。この中身は…悪魔に魂を売って手に入れた『禁断の液体』…」
突然始まった『演説』にざわめく観客たち…。
「この小瓶の力がなければ…私の優勝などありえなかった…私の強さは…魔物の力を借りた、嘘、偽りのもの」
みんな事態が飲み込めないでいる。
「私はこの街の英雄でもなんでもない。こんなことをしなければ何もできないインチキ野郎なのだ」
ここまで喋って、ようやくヤツが何を言っているか理解したようだ。
すぐさま
「裏切り者!」
「卑怯者!」
「金返せ!!」
などの罵声が飛ぶ。
「だが!!」
それはその野次を黙らせるには充分なほど、威圧感のある声だった。
「それも今日でサヨナラだ」
ヤツは持っていた小瓶を、そのまま握り潰した。
「おっ?」
オレはまさかの展開に、呆然としてしまった。
「ホーク…お前が一昨日までのお前でないように、私も一昨日までの私でない。あんなものに頼らなければ勝てないような私は、今、この瞬間に捨て去った…」
「あ、あぁ…」
「だが…同時に…これ以上闘う力も…失った…」
「あぁ?」
「私の…負け…だ…」
そこまで言うと、ヤツは再び身体を地面に沈めた。
「ハンフリー!!」
「格好付けんじゃねーぞ!!」
「そうだ!そうだ!」
一度は静まった観客だったが、すぐさま怒声に変わる。
場内はハンフリーに対する『帰れコール』で埋め尽くされた。
「うるさいわよ!!」
そこに立ちはだかったのは…ベロニコさんだった。
「自分たちは闘うこともしないで…やれ裏切り者だ!やれ卑怯者だ!…なんて、そんなこと言える立場なの!」
「なんだ、このチビ」
「おぅ、よそ者の癖に、知ったかぶりしてるんじゃねぇよ!」
そんな声が聴こえた。
「人を見た目で判断するんじゃないわよ!!」
怒鳴ったのはシルビアだ。
砂漠の国の…ファーリス王子…彼を蔑んだ時と同じ、悲しい目をしている。
「…」
その一喝で、場内は水を打ったような静けさとなった。
「悪いのは…オレだ…何を言われても…仕方ない…」
ハンフリーは倒れたまま、呟いた。
「ハンフリーはねぇ…孤児院を守る為…この街を守る為…強くなろうと決めたのよ!魔物に魂を売ってまでしてね!今、この会場に、それだけの覚悟を持って、誰かを守ろうっていう人がいる?いないでしょ…」
シルビアの言葉に観客は聴き入った。
「いや…そんな慰めはいらない…」
そんなハンフリーにベロニコさんは
「いい?アイドルっていうのは笑顔を見せる仕事じゃないの!みんなを笑顔にさせる仕事なの!」
と告げた。
「ん?」
「英雄だって同じでしょ!強さを見せるのが仕事じゃないんじゃない?みんなを強くさせるのが仕事…そうでしょ?それをよ~く自覚しなさい!」
…さすがベロニコさん…
…身体は小さくても、言うことは大人だ…
「…そうだな…」
ハンフリーは彼女の言葉に、大きく頷いた。
「改めてみんなに謝罪する。オレは…一度は魔物に魂を売った男だ。だが…今、それとは決別した。許して欲しい…とは言わないが…イチから身体も精神も鍛え直し…これからも孤児院とこの街を守っていきたい…だから…」
そして、ヤツは言葉を失った。
観客席からは歓声と、ブーイングが入り雑じっている。
それはそうだろう。
全ての人が許すとは思えない。
逆に全てが拒否するとも思えない。
割れて当然だ。
ヤツのこれからは茨の道だ。
重い十字架を背負って生きていくことになる。
だが、真に悔い改めたのなら…いずれ…自ずと彼らに受け入れるだろう。
「じゃあな、ハンフリー。さっき控え室で話した通りだ。賞金はくれてやる。だから…」
「いや、その約束は受け入れられない」
「!?」
「賞金も持っていけ…オレにはその資格はない」
「ハンフリー…」
「裸一貫やり直すさ。無駄な賞金など無い方がいい」
「そうか…わかった…。それじゃあ、その言葉、ありがたく頂くぜ」
「それが…その…」
オレとヤツの会話に割り込んできたのは、進行役の男だ。
「ん?どうした?」
「実は…」
「なにぃ!?賞品が盗まれただぁ!?」
~to be continued~
この作品の内容について
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面白かった
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ふつう
-
つまらない
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ドラクエ知らない
-
続編作れ