【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI 作:スターダイヤモンド
「…」
「…」
「…助かった…のか?…」
オレはしばらく気を失っていたらしい。
崖が崩れ、エリティカさんと抱き合ったまま落下した…というところまでは覚えている。
しかし、そのあとは…。
どうやら川に落っこちたようで、着衣はビッショリと濡れている。
それほど、深さがあるわけじゃないが、こうして無事だということは運がよかったのだろう。
…それとも、これが勇者の血を引く者の力なのか…
少し流されて、川原に辿りついたらしかった。
…エリティカさんは!?…
オレは全身に痛みを感じながらも、上体を起こし、周りを見渡す。
「エリティカさん!!」
すぐ隣に、仰向けになって横たわる彼女の姿があった。
「エリティカさん!!エリティカさん!!」
慌てて名前を呼ぶ。
今から思えば『彼女のそれ』はとても色っぽいもので、アレコレしようと思えばできなくもなかったわけだが…このときはそんなことをする余裕などまったくなかった。
生きているのかどうか、まずはその確認が最優先だ。
まぁ、このシチュエーションでそれをしちゃったら、人間として終わりなんだろうけど
かろうじて保たれた理性の中、彼女の口元に耳を寄せた。
…息はある…
『標高差のある胸元』も、微かではあるが上下しているのがわかる。
オレはそのことを確認すると、少し彼女の身体をゆすりながら、名前を連呼した。
すると何十回目かの呼びかけで、彼女は「…ん…んん…」と子猫が喉を鳴らすような小さな声を出しながら、ゆっくり目を開いた。
「…よかった…無事だったのね…」
エリティカさんは開口一番、そう言った。
偶然なのか…オレたちは近くにあった小屋…に身を寄せた。
住民はいないようだが、少しの間過ごすだけのアイテムは揃っていた。
この世界では、他人の家に勝手に入っても、あまり怒られることはない。
心の中では「勝手にごめんよ!」と思いつつ、しかし、そのルールに乗っかることにした。
オレは1月生まれだが、かなりの寒がりだ。
冷え性だと言ってもいい。
早くこの状況から脱却したかった。
そして思わず
「エリティカさん…こういう時は、お互い抱き合って身体を温める…ってのがセオリーなんじゃないですかね」
なんて言葉を口走ってしまう。
「バカねぇ…こんなびしょ濡れのまま抱き合っても、冷たいだけじゃない。余計、風邪をひくわ」
「だから、これを脱いで、裸になっちゃえばいいんじゃないですか?」
「ふふふ…そういうところは、ロウにそっくりなのね」
「じいさんに?」
オレの頭に『?』が浮かぶ。
だが彼女は、それには答えず
「ここに薪があるわ。火を起こして、急いで濡れた衣服を乾かしましょう」
と微笑んだ。
『炎』をジッと見ていると、不思議なもので心が穏やかになっていく。
しばらくの間、オレたちは無言のまま暖炉の中を見つめていた。
どれくらい経っただろう…服もだいぶ乾いてきたところで、彼女が口を開いた。
「あなたを助かって…本当に良かったわ…」
「そういえばあの時…『今度は離さない』って聴いたような…」
「そうね…」
そう言ったまま、また、しばらく彼女は黙りこんだ。
色々と想うことがあるようだ。
「私が、あなたのお母様に面倒をみてもらってた…ってことは話したんだっけ?」
エリティカさんは、オレの顔は見ず、正面の暖炉の炎に目をやりながら、話を再開させた。
「えぇ…そこまでは。その先を訊こうとしたら、ヤツらが現れたんですけど」
「そうだったわね…。じゃあ、その続きを話すわ」
「はい」
「16年前…デルカダールでは、ある会議が行われてたの。主要な王国が集まって、これからの世界をどう動かしていくか…っていうとっても重要な会議」
「はぁ…」
「その会議には、ユグノアの国王夫妻も参加していたの。あなたを連れてね」
「オレを連れて?」
「まだ、あなたは…生まれて1ヶ月も経っていなかったわ」
「へぇ…」
「でも、その日に…本当にその日を狙ったかのように、魔物が現れたの」
「魔物が…」
「デルカダールの騎士たちが必死に抵抗して…なんとか城は守られたけど」
「…けど?…」
「あなたのお父様…アーウィン様…は私たちを城から避難させる際に…」
「亡くなった?」
「それは、あとから聴いた話なんだけど…」
「そうですか…」
エリティカさんはコクリと頷いた。
「あれ、ちょっと待って?今『私たち』って言いました?」
「そう…私たち…。奥様のエレノア様…あなた…そして私…」
「エリティカさんもそこにいた…ってことですか?」
「いたわ…」
そう言ったあと、彼女は少し間を空けた。
そして
「なぜなら…私はデルカダール国王の娘だから」
とオレを凍りつかせるような言葉を吐いた。
「!?」
「安心して。私はあなたの敵ではないから…」
「あっ…は、はい…」
その話を聴いて、これまでのことが少し理解できた。
ロウやグレイグが、彼女に使っていた『姫』という呼称。
つまり、それは『デルカダール王国の姫』だったということだ。
…なるほど、それで…
グレイグのあの態度の理由はこれだったのか。
そりゃあ、国王の娘じゃ、そうそう逆らうことはできない。
「でも、それじゃ、なんで、オレのじいさんなんかと…」
「エレノア様は私とあなたを連れて、城の外に脱出したの。恐らく向かう先は…ここ、ユグノア城だったと思うわ」
「その時、こっちは襲われていなかった?」
「それはわからない。もしかしたら手遅れだったかもしれない。でも、その時の選択肢はきっとそれしかなかった」
「…なるほど…」
「でも…魔物から逃げ切ることはできず…」
「…」
「その時、エレノア様が囮(おとり)になって、私たちを…」
「犠牲になった?…」
彼女は黙って頷いた。
もちろん、オレの中にそんな記憶はない。
だが、彼女の話を聴いているうちに、脳裏にその時の様子が投影されてきた。
酷く暗い空。
強い風。
冷たい雨。
光る稲妻。
轟く雷鳴。
そして追っ手が駆る馬の足音…。
まるで、今、起こったことかのような感覚に襲われる。
「…じゃあ、エリティカさんはオレを連れて…」
「だけど…私はあなた守れなかった…」
「えっ?」
「途中で転んで川に流されちゃって…その拍子にあなたが入ったバスケットを手放してしまったの」
…そういうことか!!…
「オレは『イシの村』の村長に拾われて育ったということを、ついこの間知ったんです。その時、初めて聞きました。『お前は川から流れてきたのだ』と。まさか、桃太郎じゃあるまいし!なんて思ってましたけど…」
「だから、今回は…絶対、あなたを放しちゃいけないって…」
「それがあの時の言葉の意味ですか…」
「…うん…」
「できれば、あの時だけでなく、一生オレのことを放してほしくはないですけどね」
「えっ?」
「…な~んてね。あっ、今の言葉はウミュたちには内緒ですよ!アイツら冗談だって言っても、すぐ目くじら立てて怒るんで」
「あら、今のは、冗談なの?」
「えっ?」
「…な~んてね…」
彼女はオレのマネをして、ウインクをした。
「さて、服も乾いたみたいだし、みんなを探しに行きましょう」
「えっ?あ、あぁ…あ、いや、まだわからないことが」
「何かしら?」
「エリティカさんはそのあと、どうしてたんですか?」
「私は…あなたのおじいさん…ロウ…に偶然拾われて」
「マジっすか!?そんなことって…」
「あるみたい…」
「事実は小説より奇なり…ですね」
「そうね…」
「それで?城には戻らなかったんですか?」
「魔物が巣食う場所になんかに、戻れるわけないでしょ?」
「そりゃあ、そうですが…」
「それ以降は、ロウと共に、邪悪な世界を作り出す元凶…その正体を探るべく、これまで旅を続けてきたの」
「オレがじいさんに訊いた『魔物ハンターか?』っていう質問も当たらずとも遠からず…ってことか。…それにしても、また、随分と長い間…」
「もちろん、あなたを見つけることが最大の目的だったわ。何しろ、この世界を救うのは『勇者の血を引く』あなたしかいないんだから」
「それはそれは、お疲れさまでした…って、こんな労いの言葉は変ですね…」
「うふふふ…」
「とりあえず、今の話を聴いて、これまでの謎が解けました…」
…!?…
「…って、エリティカさん!誰か来る!?」
オレはこの小屋の外に、数人の足音を聴いた。
彼女もそれは感じたようだ。
二人の間に一気に緊張感が走った。
~ to be continued~
この作品の内容について
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ドラクエ知らない
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続編作れ