【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI   作:スターダイヤモンド

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Marmeid Festa vol.5

 

 

アリスの操縦する船が、ノゾミアさんの『棲む』島へと近づくと、彼女は「待ってました!」とばかりに水面から顔を出した。

 

期待に胸を膨らませている…いや、元々、胸は大きいのだが…その笑顔が切ない…。

 

 

 

「どうやった?キナイに逢えた?」

 

 

 

その瞬間、みんなが一斉にオレの顔を見た。

 

イエスと言うべきか、ノーと言うべきか…。

事前に決心して、ここへと来たのに、彼女の顔を見たら心が揺らぐ。

 

 

 

『チョモ』と別れた時の事を想い出した。

直接、顔を見て話すことができず、結局、電話という手段を選んだオレは『小心者』で『卑怯者』だと思っている。

 

結果論として、ヤツはサッカー選手と大成功を収めたし、オレも海未ちゃんと…。

だから、それはそれで後悔していないが…果たして、オレは彼女の目を見て伝えることができるのか…。

 

 

 

オレが言葉を発するのを躊躇っていると

「ノゾミア殿、隠しておったが…」

とじいさんが、切り出した。

 

 

 

…何を言い出す!?…

 

 

 

「ワシがキナイじゃ!」

 

 

 

「…」

 

全員の目が点になった。

 

あのアリスでさえ、口を開けて呆気に取られているだろう事は、ヤツがマスクをしていてもわかる。

 

 

 

「なんやぁ…そうやったん?…そんなら、はよ、言ってくれたら良かった…って…なるかぁ!」

 

彼女は『その事実』を悟っているのか、いないのか…明るい声でノリツッコミをした。

 

 

 

「ん?みんな、どうしたん?顔が暗いんやけど…」

 

 

 

「ノゾミアさん…。キナイはいたよ」

 

オレは、やっとの思いでそう告げた。

 

 

 

…嘘じゃない…

 

…嘘じゃない…が…

 

 

 

「なんや、ドッキリやったん?みんな深刻な顔をしてるから、すっかり騙されてしまったわ」

 

彼女はニヒッと笑った。

 

 

 

「だけど…それはアナタの探しているキナイではなかった」

 

みんなは…「リサト、あなたは『そっちの選択』をしたのね」…そんな風にオレを見た。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「キナイはいた。だけど、オレたちが会ったのは、ノゾミアさんが探しているキナイの…孫だった」

 

 

 

「孫?…」

 

 

 

 

「…」

 

ノゾミアさんの問い掛けに、全員が無言で頷いた。

 

 

 

 

「いや~…リサトさんも冗談キツいわ。そんなわけないやん!」

 

「ノゾミア…アンタが探してるキナイはもういないの…」

 

「キナイがいない…むふっ!…ってベロニコッチ…寒いで…」

 

「こんなときに、そんな冗談なんか言うかぁ!」

 

「な、なに…なんで泣いてるん?」

 

「ノゾミア、アナタの願いは叶わなかったの…残念ながら…キナイさんは…この世に…」

 

「な、なんやて…エリティまで…ウソやろ…」

 

「いえ、ウソではございません」

 

「ウミュちゃん…」

 

「これが…お孫さんから預かった『形見』です。あなたに渡して欲しい…と…」

 

 

 

「形見?」

 

オレからヴェールを受けた彼女は、しげしげとそれを眺め、その言葉の意味を考えた。

 

 

 

「それじゃあ…キナイは…」

 

 

 

「私たちと…あなたの世界と…流れる時間が違うのです。キナイさんは50年ほど前に亡くなられておりました…」

 

ウミュが、自らの気を落ち着かせるように説明した。

 

 

 

「50年前?…そんなん言ったら…ウチ、何歳なん?」

 

 

 

「知らないわよ!」

 

ベロニコさんが、怒鳴る。

 

 

 

どうも、ノゾミアさんは掴み所がない。

いや、現実が受け止められなくて、混乱しているのか…。

 

 

 

「信じてもらえないですか?」

 

「当たり前やん。あの人は、必ず来るって言ってくれたんよ。そんな、いきなり、亡くなりました…なんて…にわかに信じられへんやん!」

 

 

 

「ノゾミア…気持ちはわかるけど…これは事実なの…」

 

 

 

「エリティ…」

 

 

 

「いくらアタシだって、こんな悪趣味な冗談は言わないわよ」

 

 

 

「ベロニコッチ…」

 

 

 

「本当に残念ですけど…」

 

 

 

「リサトさん…ウソや!ウソや!そんなんウソに決まってるやん!」

 

 

 

「ノゾミア!いい加減にして!…私だって、こんなこと伝えるのは辛いのよ!…『元気にしてたわ』『もうすぐ来るわ』って言ってあげたいわよ!…でも…でも…」

 

「だいたい、普段、スピリチュアルがどうこう言ってるのに、なんで自分のことに対しては、そんなに無頓着なのよ!人のお節介ばっかり焼くクセに!!…」

 

 

 

「エリティ…ベロニコッチ…それじゃあ…ホンマにあの人は…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「そっか…そうなんや…。ウチ…バカみたいやね…。50年も…来るハズのない人を、今日か今日かと待ち続けて…」

 

 

 

「いえ…とても素敵なことだと思います。好きな人を一途に愛す…それも、何年も…何十年も…。なかなかできることではありません。あなたのその気持ちは、きっとキナイさんに伝わっていたハズです!」

 

「ウミュちゃん…」

 

「うん…ノゾミアちゃんの『純愛レンズ』は、正しかったと思うよ。なにより、そのウェディングヴェールが、ふたりの愛の証しなんだから」

 

「ことりちゃ…セーニャちゃん…」

 

「この事実を…受け入れてもらえますか?…」

 

「…そうやね…これだけ、みんなが言うんやから…」

 

「はい…」

 

 

 

「そやけど…この目で確かめさせてくれへん?」

 

 

 

「?」

 

 

 

「ウチを…あの人の孫に会わせて欲しいんや…」

 

 

 

「…」

 

どうする?…とみんなで顔を見合わせる。

 

 

 

誰もノーとは言わなかった。

当然だ。

言う権利も資格もない。

 

 

 

「アリスちゃん、船を出す準備をしてちょうだい!」

 

「がってんでやんす!」

 

『部外者』であるシルビアは、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、船長に指示を出す。

 

 

 

「ノゾミアちゃん、着いてこれる?」

 

「もちろんやん!」

 

「全速力で行くわよ!」

 

「そこは『全力で行っくにゃ~!』とか言ってくれるとありがたいんやけど…」

 

「はぁ?アンタ、こんな時に…」

 

ベロニコさんが、ため息をついて呆れる。

 

エリティカさん、セーニャさん…そしてウミュも同じようなリアクションをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレたちがナギムナー村に戻った頃には、すっかり日が暮れていた。

 

 

 

「じゃあ、ちょっと時間をください…」

 

「ほ~い!」

 

緊張感のない返事をしたノゾミアさんを待たせて、船を降りた。

 

 

 

「突然悪いが…キナイ…アンタに会わせたい『人』がいる」

 

「オレに?」

 

事情がわからず戸惑っているキナイを、無理やり引っ張って、船を停めたしじまヶ浜へと連れてきた。

 

 

 

「どういうことだ?」

 

 

 

「ノゾミアさん…彼がキナイの孫だ」

 

「ノゾミア?ノゾミアだって…」

 

「そうや…ウチが…ノゾミア…」

 

 

 

「本物の…人魚…」

 

 

 

「あなたがキナイのお孫さん?」

 

「あ…あぁ…アンタがノゾミア…じゃあ、あの話は…本当だったのか?」

 

「あなたのおじいさまからのプレゼント…ちゃんと受け取ったで。ありがとな…ずっと大事にしててくれて…」

 

「あ、いや…あっ!そうだ、ちょっと待っててくれ。まだ渡さなきゃいけないものがある」

 

「ん?」

 

キナイはそう言うと、走って戻っていく。

 

 

 

ほどなくして、彼は布に包まれた荷物を抱えて帰ってきた。

 

「キナイ…それは?」

 

「アンタたちが人魚に会いに行くって話を聴いて…改めて祖父の遺品を確認していたんだ。そうしたら…これを見つけた」

 

彼がその布を捲る…。

 

 

 

「これは!?…」

 

 

 

現れたのは油絵。

そして描かれていたのは…

 

 

 

「ノゾミアね…」

 

「ヴェールを着けてるわ…」

 

「きっと、あなたのこんな姿を夢見ながら、想い描いたのでしょう」

 

 

 

「…こんなサプライズ…卑怯やって…ずっと我慢してたのに…ウチ泣いてしまうやん…」

 

 

 

「実は…この油絵の裏には…こんな手紙もありました…」

 

「手紙?」

 

 

 

『愛するノゾミアへ』から始まるその内容は…

 

 

 

 

まず、自分がここに幽閉されるまでのことが綴られていた。

 

「だが、私はいつかきっと君に会いに行く。その気持ちは忘れていなかった。いや、それを生き甲斐にしていたと言っていい」

 

そこにはノゾミアへの熱い想いが認(したた)められとていた。

 

 

 

そして次に書かれていたのは…悲しきあの出来事…村長とその娘婿の海難事故の件。

 

「そのショックで村長の娘は…赤子を抱いたまま…崖から飛び降りてしまった…」

 

「私はそれに気付き、慌てて海に飛び込んだが…残念ながら…子供を助けることしかできなかったのだ…」

 

「そして決心した。私はこの子を育てていこう…と」

 

「これは自分に課せられた人生の十字架。出会ってはいけないハズのふたりに与えられた運命」

 

「私だけが君のもとへと行き、幸せになってはいけない…そう思ったのだ…」

 

 

 

 

「そうだったんや…」

 

「この村では…人魚という存在は…怖いもの、恐ろしいもの…として伝えられているのだが…もしかすると、それを流布したのは祖父自身でないかと、この手紙を見て思いました」

 

「なんの為に?」

 

「それはリサトちゃん…村人が自分のように悲しい想いをしないように…よ…」

 

「うむ…自戒の念も込めて…警告したわけじゃな…」

 

「ただ…今、あなたを目の前にしても…このことが現実だなんて、信じられません」

 

「事実は小説より奇なり…って言うやん」

 

そう言うと彼女は、得意気に悪戯っぽく微笑んだ。

 

 

 

「エリティ…このヴェール、着けるの手伝ってくれへん?」

 

「えっ?えぇ…いいけど…」

 

エリティカさんが、海面をバシャバシャと歩き、彼女のもとへと向かった。

 

 

 

「こんな感じかな?」

 

 

 

「うわぁ~すごく綺麗!」

 

「はい!とても似合ってますよ!」

 

「ま、まぁ…そうね…」

 

「ふふふ…ベロニコったら素直に誉めてあげればいいのに…」

 

月明かりに照らされたその姿は、神々しく…魂を吸い取られそうなくらいの美しさだ。

 

 

 

「キナイ『くん』…」

 

「は、はい!」

 

「ひょっとして…あれがおじいさまのお墓なん?」

 

ノゾミアさんが、波打ち際にポツンと建つ、墓石を指差した。

 

「は、はい…祖父はそういう環境下に置かれてましたので…墓もあんなところにしか許されず…」

 

オレも気にはなっていたのだが…やはりあれはそうだったのか。

 

 

「堪忍してな…ウチがそんなに苦しめてたとは、知らんかったんよ…」

 

「いえ…あの…その…」

 

「ホンマに『キナイが亡くなった』って言われても、信じられなくてな…そやけど、人間と人魚では、寿命が5倍くらい違うんよ。そんなん考えなくてもわかることやけど…現実を受け入れられへん自分がいて…気が付かないフリをしてたんやろね…」

 

「…」

 

「みんなもありがとさん。こうして色んな物を見たり聴いたりして…キナイには会えへんかったけど…ウチ、ちゃんと愛されてたんや…って実感できたで!」

 

「…そうね…アナタはとても愛されていたわ…」

 

「そやから…ウチ、ケジメをつけてくる…」

 

「ケジメ?」

 

 

 

ノゾミアさんが浜辺へと、スーっ泳いでくる。

ウェディングヴェールが、波に揺らめいた。

なんとも幻想的だ。

 

 

 

だが不意にベロニコさんが

「ば、バカ!やめなさいよ!」

と叫ぶ。

 

 

 

「!!」

 

 

 

その声にみんな、彼女が何をしようとしているか気付いたようだ。

 

 

 

「ノゾミア!」

 

「ノゾミアちゃん!」

 

「ダメです!!」

 

「アンタ、そんなことしたら…」

 

 

 

「もう充分やから…」

 

 

 

浜辺にたどり着いたノゾミアさんは、水面から身を起こすとスクッと『立ち上がった』。

 

その下半身には…2本の脚…。

 

彼女はその瞬間『人間』となったのだ。

 

 

 

辿々(たどたど)しい足取りで砂浜を歩く。

そしてキナイの墓前に立ち止まると…腕をまわし…優しくキスをした…。

 

 

 

誰も…彼女の行為を止めることができなかった。

ただ、時間だけが止まった。

彼女が唇を離すまで…オレには打ち寄せる波さえも、止まっていたように思えた。

 

 

「あ、そうそう…約束を忘れるところやった。ウチのいた島に、マーメイドハープってのが置いてあるんよ。それを使えば海底王国にいけるハズやから…面倒かもやけど、またあとで取りに行ってな…」

 

 

 

「いやだよ、ノゾミア…」

 

「ノゾミア、行かないで…」

 

 

 

「リサトさん、ベロニコッチ、エリティ…みんな…ウチのわがままに付き合ってくれて…ありがとう!」

 

 

 

「ノゾミアさん?」

 

 

 

「ほな、…元気でな!さよならさん…」

 

 

 

「ノゾミア!」

 

「ノゾミアちゃん!」

 

 

 

「あ…あぁ!…うわぁ…」

 

 

 

…ウソだろ…

 

 

 

海へと『還っていった』彼女の身体は…瞬く間に泡となり…溶けて…オレの目の前からいなくなった…。

 

本当に一瞬の出来事…。

 

キナイもなにが起きたのか…と呆然としていた。

 

 

 

「ノゾミア~!!…」

 

「うぅ…ノゾミア…」

 

 

 

ベロニコさんやエリティカさんたちの泣き叫ぶ声だけが、虚しく海岸に響き渡く。

 

 

 

彼女が消えたその場所を見ると…あのヴェールだけが、海面を漂っていた…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 






♪No,とめないで あなたから熱くなれ

「まだ夢を見てるの?あどけない夢…」
耳に囁いたら
目を閉じて溜息…
あなたのせいよ
海に溶ける
ムーンライト浴びて

飛びこむ前の愛しさは伝えたりしない…ひ・み・つ
話せば泡となるような
わたしは人魚なの

波が連れてきた
夏の恋は二度とこない切ないフェスタ
波と踊るから激しく鳴らしてよ、音の魔法
今年のフェスタ

動揺してるの?
緊張してるの?
なんだかわかる
振りむいたらわかる
あなたから
熱くなれ



「なぜこっちに来ないの?意識してるの?」
少しいじめてみる
苦しげな言い訳があなたらしくて
さらに心
テンションあがる

裸足で書いた砂の記号
さかさまにすれば I love you
気付いた時はどうするの?
わたしを見ているの?

次は抱きしめて、軽く逃げて
今が恋の始まりだから
次に抱きしめて欲しいの
優しいのね
知りたいのは強引なしぐさ

動揺してるよ?
緊張してるよ?
なんどもすねる
寄りそってもすねる
わたしには甘えてよ…



「ごきげんよう」
「楽しかったよ!」
「ありがとう!」
「また、会えるよね?」
「寂しいよ…」
「これっきり、かもね」
「До свидания(ダ スヴィダーニァ)
「もう会えないの?」
「じゃあね…」



波が連れてきた
夏の恋は二度とこない切ないフェスタ
波と踊るから
激しく鳴らしてよ、音の魔法 今年のフェスタ

動揺してるの?
緊張してるの?
なんだかわかる
振りむいたらわかる
鳴らしてよ
夏の恋鳴らしてよ

No,とめないで あなたから熱くなれ



さよなら…

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  • ドラクエ知らない
  • 続編作れ

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