【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI   作:スターダイヤモンド

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冒険と現実の間(はざま)で…

 

 

 

 

 

『ノゾミアの遺言』をもとに、俺たちは三度(みたび)彼女が棲んでいた島へと船を進めることとした。

海底王国へのヒントを与えてくれる『マーメードハープ』とやらを取りに行くためだ。

 

その前に、一旦、このあとの航海に向け、体勢を建て直す。

 

村はクラーゴンを討伐したことにより、漁が再開され、新鮮な魚が入荷するようになった。

そこでシルビアの指示のもと、メンバーはそれらを買い込むなどして、食料を補給…出航の準備を整えている。

 

 

 

ところで…

 

 

 

活気を取り戻した漁村だが…男どもは、別の意味で元気になっていた。

 

それを名付けるなら『セーニャフィーバー』とでも言おうか…。

 

キッカケは彼女が『クラーゴンにやられて負傷した、あるひとりの漁師』を治療してあげたことだった。

それがいつの間にか「オレも、オレも」となり…気が付けばセーニャさんの前には長蛇の列…。

中には治療が終わったにも関わらず、再びその列に並び直す者さえいた。

 

 

 

気持ちはわかる。

 

 

 

パーティーでは、回復呪文を駆使して、基本、後方支援に徹してもらっているが…戦闘中だけでなく、オレに癒しを与えてくれるセーニャさん。

見た目はもちろん、その穏やかな性格と優しい笑顔…そして『脳トロボイス』と呼ばれる甘い口調に、オレも『やられそう』になったからだ。

 

下手すれば、どこかで『間違いを犯していた』かも知れない。

サッカーでイングランドに留学中、彼女が訪ねてきた時は、本当にヤバかった。

「あれ?この人、オレに気があるのかな?」って真剣に悩んだもんだ。

 

 

 

…少なからず『あった』らしいけど…

 

 

 

寸でのところで思い留まったのは『この人と一緒にいたら、きっとオレはダメになる』という自覚があったから。

いや『ダメになってもいい!』って何度も思ったけど…最終的には海未ちゃんを裏切ることはできなかった。

 

あ、いや…オレのことはともかく…ここの連中もすっかり彼女の魅力に心を溶かされ、恋に堕ちたようだった。

 

エリティカさん、ビビアンジュさん、サイエレナさんのセクシートリオも充分魅力的ではあるが、ちょっと『一見(いちげん)さん』には、近寄りづらい。

高嶺の花と言っていい。

 

その点、セーニャさんは違う。

自ら近寄っていってしまうのだ。

それで相手を勘違いさせてしまう。

 

かつて『伝説のメイド』と呼ばれていたらしいが、クラブなんかで働いていたら、間違いなくNo.1ホステスに登り詰めていただろうと思う。

 

 

 

反して…

 

 

 

そんな状況に腹を立ているのが、彼らの女房衆…。

元来、漁師の嫁だ。

ちょっとやそっとのことじゃビクともしない、気丈夫な人が多い。

 

しかし、この状況は看過できないらしい。

デレデレしている男衆を見て、あちらこちらで顰(しか)めっ面をしている。

 

その反動からか…そんな彼女たちの心を捉えたのは『勇者であるオレ』…ではなく…『クールな美男子ウミュ』である。

 

そう、みんな忘れていると思うが、ウミュは『男装の麗人』なのだ。

もちろん、オレたち以外はそのことを知らない。

 

『あの事故』の『ケジメ』として、自慢のロングヘアをバッサリと切って以来、今日に至るまで、ずっとショートのままだが…蒼い髪の毛を無理やり逆立てていて…その姿は『スーパーサイヤ人ブルー』みたいで…男のオレから見てもカッコいい。

 

そんな『彼』は…ガタイが大きく、荒くれ者も多い海の男の中にあって、群を抜いて『シュッ』とおり、どう見てもこの村にはいないタイプ。

その容姿は中性的な魅力…例えて言うなら『タカラヅカの男役』の様な雰囲気…を醸しており、それが奥様方の心を鷲掴みにしてしまったようだ。

 

どうやら『追っかけ部隊』みたいなのが発足されたらしく、それを知ったウミュは…「破廉恥です!」…とは言わないが…「こういうことは、未だ慣れません!」…と島内を逃げ回っていた。

 

 

 

男衆にセーニャさん、女衆にウミュが大人気なら、子供たちに引っ張りだこなのがベロニコさんだ。

 

もっとも彼女は『仲間だと思われるのがイヤ』で、気配を消しているのだが、子供たちはそれを『かくれんぼ』と勘違いしてる様で、あちこち探し回っている。

 

オレは疲れきってゲンナリとしているベロニコさんの姿を、船の上から見て苦笑した。

 

 

 

 

 

「悪いが…少しの間、独りにさせてくれないか…」

 

オレはみんなにそう断りを入れ、時間をもらった…。

 

まだ、出航はしていないが、甲板に立ち、思いきり潮風を受けている。

ここにいれば…泣いているところを人に見られることもないし…仮に見られたとしても『波しぶきを浴びたんだ』と誤魔化せる。

誰であれ、涙を流しているところなんて見られたくない。

感情の整理が付くまで、そうしてようと思った。

 

 

 

だが、どこの世界にもお節介な人はいるものだ。

 

 

 

「どうかした?…」

 

 

 

「…!?…あっ…ベロニコさん…『かくれんぼ』だか『鬼ごっこ』だかは終わったんですか」

 

 

 

「勝手に鬼にしないでほしいわ」

 

「船の上…ってのは、反則じゃないですかね?さすがに子供たちは見付けられないでしょ」

 

「少しは休ませなさいよ…っていうか、そういうイジリはいいから」

 

「…へい…」

 

「…で…アンタは仕事もしないで、何、ひとりで黄昏てるのよ」

 

「見ての通り…落ち込んでるんですよ…」

 

「ノゾミアのこと?…」

 

「はい…」

 

「…ふん…勇者のクセに女々しいわね…」

 

「その自覚はまったくないんですけどね」

 

「そっちはなくても、こっちはアンタを護るのが役割だってことは、忘れないでよね!」

 

「まぁ、そうなんですけど…ということなので、もう少し放って置いてくれないですか?」

 

 

 

「それで気持ちは落ち着くの?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「仕方ないわねぇ!このベロニコさまが、話を聴いてあげるわ。ひとりで抱え込んだって解決なんかしないでしょ?だったらアタシに話しなさいよ」

 

「ベロニコさん…」

 

「ふん!別にアンタの為とかじゃなくて、それがアタシの役割だから、しょーがなくよ!しょーがなく!」

 

 

 

「さすがベロニコね!」

 

 

 

「あっ…エリティカさん…」

 

 

 

「ぶっ!な、何しにきたのよ」

 

「あら、釣れない返事ね。あなたと同じことをしにきたのよ」

 

「ずいぶんと世話焼きじゃない」

 

「それはお互い様…でしょ?」

 

ふたりはそんなことを言ったあと、お互いの顔を見て…バツが悪そうに目を逸らした。

 

「っていうか、この仕事は本来『海未』の役割でしょ?」

 

「そうね…それは確かに…」

 

「それがどうも…彼女のラブアローシュートが、奥様方のハートを撃ち抜いちゃったみたいで…なんか大変な状況になってるらしく…」

 

「そうだったわね」

 

「助けてあげなくていいの?」

 

「放置プレイ中です」

 

「あとで怒られても知らないわよ」

 

「…そうかも知れませんね…」

 

 

 

「それで何を落ち込んでるわけ?」

と『絵里』さんが、改めてオレに問うた。

 

「えっ?それはやっぱり…ああいうものを目の前で見ちゃって…ショックが大きいというかなんというか…」

 

「それはみんな一緒よ。『梨里』さんだけじゃないわ」

 

「そう。だからアンタがひとり悲しんでたって、どうしようもないでしょ」

 

『にこ』さんが下からオレを見上げる。

 

「そんな言い方します?」

 

「するわよ。そんなことをしたからって、彼女が帰ってくるわけじゃないでしょ」

 

「にこの言う通りね」

 

「それはそうですけど…でも、もしあの時『キナイは居ない』じゃなくて『居た』って答えてたら…この結果にはならなかったんじゃないかって」

 

「そうね。いつまでも彼を待ち続けていたかも知れないわね」

 

「…その結論出したのはオレですから…」

 

「悔やんでも悔やみきれない…とでも言うつもり?」

 

「じゃあ、にこさんなら…どう回答してましたか?」

 

「さぁ…」

 

「ノーコメントは禁止です」

 

「まぁ…アンタと一緒のことを言ってたと思うわ。アタシは『嘘』と『辛いもの』が嫌いなのよ」

 

「初耳です」

 

「ふん!『小庭沙耶』こと元μ'sの小悪魔担当…宇宙一のスーパーアイドル、矢澤にこさまの好き嫌いを知らないとは、ファンの風上にも置けないわね」

 

「すみません」

 

「絵里さんの好きな食べ物はチョコレート、嫌いな食べ物は梅干と海苔…ってことは知ってるんですけどね」

 

 

 

「ぬゎんでよ!!」

 

 

 

「絵里さんだったら…どっちで答えてましたか?」

 

 

 

「お約束のスルーね」

 

 

 

「私?…私もきっと梨里さんと同じように話してた思うわ」

 

「絵里さんもですか?…だけど、それって正解だったんですかね?」

 

「正解かどうかは私たちにはわからない…でも…そうね…私は…キッカケ待ちだったんじゃないか…って思うの」

 

「キッカケ待ち…ですか」

 

「そう。…理由までは知らなかったかもだけど…もうキナイが来ないことはわかってた…。だけど、それを認めるには…誰かの後押しが必要だった」

 

「それが…オレたち?…」

 

絵里さんは黙って頷いた。

 

「それで…彼女の人生を終わらせちまった…」

 

「…梨里さんだったら…まぁ、海未と『いつか会いましょう』って約束して…『今日来るかな?』『今日は来なかった。でも明日ならきっと…』なんて想いながら、あと400年も待てる?」

 

「400年?あぁ…人魚の寿命が尽きるまでってことですか…」

 

「人の寿命に直せば…ノゾミアは20歳前後ってとこかしら?だとすれば…あと80年…」

 

「アンタは無理ね…すぐ他の女に乗り換えるタイプでしょ?」

とにこさん。

 

「いや、オレ、こう見えて結構一途なんです…」

 

「どうだか」

 

「意外と信用ないんですね」

 

「海未がいつも言ってるわ。アンタと希、絵里、ことり、あんじゅ…あと水野めぐみとは二人きりにさせられないって」

 

「あ、惜しいです!そのセリフ…花陽ちゃんが抜けてますね」

 

「はぁ?そういうこと自分で言う?」

 

「ふふふ、いいじゃない正直で。…とはいえ、海未だって言ってるだけで、本気じゃないないんでしょ」

 

「いや、結構マジですよ…。まぁ、それについてはオレが悪いんですけど…つい、言っちゃうんですよね…海未ちゃんの前でも『あの人、きれいだよね』とか『あの娘、可愛いね』とか」

 

「焼き餅を焼かせたい?」

 

「いや、絵里さん…オレもにこさんと一緒で、ウソが嫌いなんですよ」

 

「ふ~ん…」

とにこさんは腕組みして唸った。

 

「納得してないですか?」

 

「別にアンタの性格について、どうこういうつもりはないんだけど…」

 

「…はぁ…」

 

「ただ、アイツのそのあとの行動までは、読めなかったわ…」

 

「…ですよねぇ…なにも自ら命を絶たなくても…」

 

「悟ったんじゃない?…絵里の言う通り…人と人魚が結ばれることなど…ない…ってことを」

 

「そうね…」

 

 

 

「それでも…あの時の選択肢が逆だったら…って思わずにいられないんですよ」

 

 

 

「…」

 

「…」

 

ふたりはしばらく黙りこんだ。

 

 

 

「それは…私だって辛いわよ…」

 

「あ、当たり前じゃない。目の前であんなもの見せられて…人が死んで悲しくないわけがないじゃない」

 

「でも、私たちにどうにもならないことだってある…」

 

「そうよ…あれがノゾミアの…運命だったのよ…」

 

 

 

「運命…ですか…。二人は…オレと海未ちゃんが出会ったキッカケが、あの交通事故だってことは知ってますよね?」

 

「えぇ…まさかそれが結婚に至るとは思ってもみなかったけど…。詳しく知りたい人は『オレとつばさと、ときどきμ's』を読んでみてね」

 

「さらっと宣伝をぶっ込んだわね…」

 

 

 

「それでね…いまだに思うんです。オレがスポーツクラブを出るのが、あと1分でも30秒でも遅かったら、オレたちは事故に巻き込まれることはなかったんじゃないか…って」

 

 

 

「…」

 

 

 

「少なくとも…前を歩いていた海未ちゃんは別だとしても…オレは事故に遭ってなかった」

 

「でも、そうしたら、海未がひとり被害に遭ってたかもしれないわ」

 

「かもしれないです。だから…結果として、海未ちゃんを助けられて良かったとは思ってるんでけど…その一方で…もしかしたら、事故自体、起こらなかったんじゃないかと思ったりもするんですよ」

 

「いや、アンタの歩くスピードとは関係なく事故は起こったでしょ」

 

「…どうなんですかね…」

 

「意外とアンタ、ネガティブなのね」

 

「そうでもないですよ…『反省はしても後悔はしない』が信条なので」

 

「…のわりには、うじうじしてない?」

 

「海未ちゃんにはよく話すんですけどね…オレ、サッカー始めた頃から『あの時ああしてれば、どうだったのかな』『この時こうしてたら、どうだったのかな』って考えるのが凄く好きで」

 

「はぁ?」

 

「わかるわ。私も『もし、穂乃果たちに誘われなかったら…』っていつも思うもの」

 

「はい。…最初は自分のプレーについてだったんですよ。上手くいった時はそんなことも思わないですけど…失敗したときとかは『パスを選択すべきだったのかな』とか『シュートを打つべきだったのかな』とか…そんな感じで。突き詰めていけば、その積み重ねが『勝敗』につながるわけじゃないですか」

 

「スポーツの世界…特にサッカーみたいな競技は、一瞬の判断が求められるものね」

 

「はい。だから、そのプレーが上手くいかなくても、選択したのは自分だから、誰にも文句の付けようがないワケで…自分が選択した以上、そのプレーに責任を持つことが大事なんです。『ドリブルの選択肢は間違ってなかった。ただ、オレに抜き切る技術が足りなかった。でも、次は必ず抜いてやる!』って」

 

「それが『反省しても後悔しない』ってこと?」

 

「まぁ、簡単に言えば、そんなとこです」

 

 

 

「それで?」

 

にこさんは、少しつまらなそうに呟いた。

 

 

 

「それからですかね…オレが『IF』の世界に興味を持つようになっていったのは」

 

「『IF』の世界?あぁ…なんか、海未がそんなこと言ってたわね」

 

「例えばですけど、オレがサッカーの試合を観に、スタジアムに行ったか行かないかで、結果は変わっていたのだろうか…とか」

 

「変わらないんじゃないの?」

 

「じゃあ、観客が1万人と3千人の場合ならどうですか?」

 

「それは…まぁ、少ないよりは多い方が選手のモチベーションが違うだろうから…」

 

「つまり、そういうことなんですよ。オレが…あなたが…誰かが、試合を観に行く、行かない…ひとりひとりのそういった…ちょっとしたことの積み重ねが、結果に何かしら影響を及ぼすわけです」

 

「はぁ?…」

 

「ふふふ…面白いわね」

 

「わかりますかね?例えば絵里さんが欲しいと思ってるチョコを、にこさんが買っちゃったとします」

 

「なんでアタシなのよ」

 

「そのせいで売り切れてしまい、絵里さんは買うことができなかった」

 

「にこ、ひどいわ」

 

「関係ないから」

 

「絵里さんは1日ブルーになり、ミスを連発…大事な商談をしくじってしまう」

 

「ひどいわ、にこ」

 

「だから、関係ないから」

 

「…ってことを考えると、自分ではまったく意識してなくても、その行動ひとつが、誰かしらの人生に影響を与えているんじゃないか…って」

 

「ふ~ん…」

 

「にこ、チョコ返して」

 

「返すか!ってかアタシが買ったんだから、返せはおかしいでしょ!…違う、そもそも買ってないから!!」

 

「人世の岐路…ターニングポイント…みたいなことってあると思うんですけど、それはきっと、目に見える大袈裟なことじゃなくて、1分、1秒、常にそうなんじゃないか…って」

 

「わかったような、わからないような…アンタ、いつもそんなこと考えてるの?面倒くさっ!」

 

「だから…あの時、ノゾミアさんに、本当のことを伝えてよかったのかどうか…ってなるわけですよ」

 

「誰もそれはわからないわ。でも、それを受けてどうするかも、また、自分の判断…」

 

「はい」

 

「今回の判断については、みんな、リサトに一任したワケだし…誰も文句は言わないわ。それが運命だった…そう割り切るしかないと思うの」

 

「…そうですね…」

 

 

 

「…まぁ、そういうこと。ほら、みんなも、戻ってきたみたいだし、船を出すわよ!」

 

ベロニコさんがオレに発破をかける。

 

 

 

「そうそう。まだまだ、オーブも2個しか手に入れてないんでしょ?ドンドン進むわよ!」

とエリティカさんも、手をパンパン!と二度ほど叩く。

 

 

 

「了解です!」

 

気持ちの整理が付いた訳ではないが、今は前を向くしかない。

 

 

 

オレは急いで出港の準備を始めた…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

この作品の内容について

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