【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI 作:スターダイヤモンド
昨晩、学園の生徒と先生からお願いされた『依頼』は、みっつ。
ひとつは片付いた。
残りはふたつ。
そのうち『女王のムチ』の件については、ロウとエリティカさん、ビビアンジュさん、サイエリナさんの4人に任せることになった。
一方、ウミュとベロニコさん、セーニャさん、シルビア…そしてオレを含めた5人は、身支度を整え『会長の優子君』ならぬ『怪鳥の幽谷』へと向かう。
もちろん怪鳥が持つと言われてる『シルバーオーブ』の奪還が目的である。
その道中に『壁新聞』が発見できれば儲けもの…ってとこだ。
うねうねとした、細く長い崖沿いの道を歩いた後、谷底を流れる川を上る。
しばらく進むと、洞窟にぶち当たった。
恐らくこの先に源流があるのだろう。
中に入ると、ひんやとした冷気が身体に身体にまとわり付いてきた。
虹の枝が光り出す。
オーブが近くにある証拠だ。
薄暗がりの中、物陰に潜むモンスターたちを警戒しながら、前へと進む。
ある時は滝の中に入り、ある時は蔦を伝って絶壁をよじ登り…右に左に…途中行き止まりに引き返したりして迷いながら、ようやく目的地に辿り着いたた。
そこにいたのが『ごくらくちょう』だ。
「その両隣にいるのは、ヘルコンドルね」
シルビアが解説してくれた。
ヤツの足元には、まるで卵を温めているかのように『銀色に輝く球』が鎮座ましましている。
「砂漠で会った巨大サソリや、孤児院の地下で会った巨大クモに較べれば、随分と弱そうじゃない」
確かにベロニコさんの言う通りだ。
身体は大きいが、化け物染みてない。
怖さという意味では、ヤツらの方が数倍上だ。
「もっと言うと、あの巨大イカに較べれば、恐くもなんともないわ」
「いえ、油断は大敵ですよ」
ウミュは警戒心を解かず、オレたちの気を引き締めた。
「一応、ものは相談なんだが…お前さんが持ってるその『玉』をさ、こっちに譲ってくれないか?替わりに…そうだな…『つけもの石』をあげるから」
ヤツは言葉がわからなそうなので、ジェスチャーで尋ねてみたが…答えはNOだった。
…やっぱり、つけもの石じゃ不服か…
「リサトちゃん!!」
シルビアな叫び声に
「おう!」
と呼応したオレ。
交換条件に怒ったわけじゃないだろうが、ヤツはいきなり襲い掛かってきた。
それを剣で防ぎ、ステップバックする。
「できれば、争いごとは避けたいんだけどねぇ…」
「話がわかる相手じゃなさそうね」
シルビアはムチを構えた。
「こうなったら止むを得ません」
ウミュもブーメランを手にする。
「まぁ、目当てのオーブは、元々は『こっちサイド』のモノだからな…じゃあ、遠慮はいらねぇな?」
「先手必勝です!」
「そういうこと!」
言うが早いか、ウミュのブーメラン攻撃『デュアルカッター』が、ヤツらを2度切り裂いた。
続いてシルビアのムチが唸り『縛り打ち』が炸裂。
これで両端にいるヘルコンドルは眠りに就いた。
「次はアタシね!」
少し遅れてベロニコさんが『イオ』の呪文を唱える。
おっ!
会心の一撃!
あっという間にヘルコンドルを消し去った。
そうとなれば最後はオレの『渾身斬り』で…トドメを…させなかった…。
それでも、その後2、3回の攻撃で圧勝!
ほぼ被害もなく、シルバーオーブを手に入れることに成功した。
「やっぱり、クラーゴンの足元にも及ばなかったわね」
どうだ!と言わんばかりのシルビア。
「やっぱり実力はクラーゴン以下ね…イカだけに…」
「う~ん、ニコちゃ~ん…ごくらくちょうさんは鳥だから、それはちょっと違うかも…」
「はい?一体なんの話でしょう?」
…ギャグや駄洒落を説明することほど不毛なものはない…
ウミュの疑問を無視して、来た道を戻ることにする。
「だけど、あまりにアッサリしすぎて…逆に何かのワナじゃないかと疑いたくなるなぁ」
「はい…手に入れたのが、偽物とかでなければよいのですが…」
「充分ありえるわね」
「まぁ、その時はその時でしょ?」
「そりゃそうだけど…」
「あっ!リサトさん!あれってもしかして…」
とセーニャさんが何かを見つけて、斜め上を指差した。
その先には木の枝に引っ掛った、大きめの紙がプラプラと風にたなびいていた。
「おっと…これは?」
「例の壁新聞ではないでしょうか?」
「なるほど…コイツか…」
オレは腕を伸ばすと剣の切っ先で紙を突き刺し、手元に引き寄せた。
「ズバリだ」
「本当にここに飛んできてたのですね」
「あぁ、そうらしい」
「じゃあ、回収したなら、さっさとここから引き上げるわよ!」
「あ、だっだら…ベロニコさん、オレ、この呪文を使ってみたいんだけど」
「呪文?」
「リサトさん、呪文が使えるのですか?」
「リサトちゃん、いつの間に覚えたのよ」
「少し前に。不思議とは、知らない間に呪文が頭の中にインプットされてるんだよねぇ…とはいえ…今まで使うチャンスがなくて、成功するかどうかはわからないけど…」
ひゅ~ん…
オレは『ルーラ』を唱えて、メダ女へと、ひとっ飛びした。
…
「そっちはどうだったかのぅ」
学校に戻ると、既にじいさんたちの姿があった。
「おう、手に入れたぜ。シルバーオーブ」
と、オレはポイッとそれをトスする。
「ほほう…それはご苦労じゃった」
「そっちは?」
「ほら、この通り」
サイエリナさんがオレに『小さなメダル』を3枚見せつける。
「それが…女王のムチ?」
「…のワケがないでしょ」
ビビアンジュさんが笑う。
「いや、知ってますけど」
「ムチはもう彼女に手渡した。そのお礼に…って言ってもらったのが、これだ」
「なるほど…」
「また、貯まったら、ここに来てアイテムと交換しましょ」
「はい、エリティカさん。じゃあ、ありがたく頂いておきますか」
そんなやりとりをしてる時だった。
「勇者さま~!!」
オレたちの姿を見かけて、校舎から1匹の…いや1人のリップスが叫びながら走ってきた。
「確か…ブリジット…って言ったっけ?」
「あら、名前を覚えていてくれてるなんて、うれしいわ」
そう言って、彼女はオレの腰元に身体を摺り寄せた。
「新聞委員のメープルから聴いたわ。風で飛ばされちゃった壁新聞を、わざわざ探しに行ってくれたんですってね」
「あぁ…まぁ…」
「ここに戻ってきた…っていうことは…見つけてくれたのかしら?」
「これだろ?」
と彼女にそれを差し出した。
「そう!これ!」
「怪鳥の幽谷の…木の枝に引っ掛ってたよ」
「ありがとう」
「礼には及ばないよ。別件で出掛けて、たまたま見つけただけだし」
「それで…」
「ん?」
「読んでくださいました?」
「なにが?」
「私の恋愛相談への…回答…」
「いや…読んでない…。そういうのは興味ないし…」
「あぁ!?興味ないだと!?」
彼女の口調が厳しくなった。
その勢いに押され
「へっ?いや…ほら…そもそも人の秘密を覗き見るみたいで、悪いかな…って」
と慌てて言い訳をした。
いや嘘ではない。
「…!!…あぁ!そういうことですか!さすが勇者さまです」
何がどうしたものか…さっきのドスの利いた低い声から一転して、ブリジットは猫撫で声を出した。
「では、私が許可しますので…これ…読んでもらえます?」
とオレに壁新聞を突き返してきた。
「はい?」
「恥ずかしくて…読めないから…」
…乙女か!!…
…いやいや、見た目はこうでも…乙女なんだろうなぁ…
「わかるわぁ、その気持ち!」
と同意したのはシルビアだ。
…乙女か!…
…いやいや、コイツも見た目はこうだけど…
「じゃあ、私が読んであげるわ」
とヤツは、オレの手から壁新聞を手に取った。
》悩み相談
》勇者さま♡
》あぁ、勇者さま♡
》勇者さま♡
》…と言うわけで、以前、外出先で勇者さまを見掛けてから、私の胸の奥に、その姿が消えることはありません。
》寝ても覚めても、想うのは、凛々しくも、優しげなあの人のことばかり、
》一体、私はどうすればよいのでしょうか?
》お答え
》果報は寝て待て。
》やがてあなたの願いが叶う時が訪れます。
》彼はきっと、優しく抱き締めてくれるでしょう…。
「…だって…」
読み終えたシルビアがオレを見た。
「ハラショー…」
「…これはどっかの誰かのことを言っているようじゃのぅ…」
「はい、なぜか私のすぐ傍にいるような気がします」
「あぁ、私もなぜかそんな気がする」
「完っ全にフルハウスね」
「♪ちゅんちゅん」
替わるがわるにみんながオレの顔を見る。
誰もが、すこし口元が緩んでいた。
「…」
…待て待て…
…こんな時、オレはなんて言えばいいんだい?…
…きっとオレ以外にも勇者はいるに違いない…
「えっと…その…」
「ブリジット…って言ったっけ?」
オレも心の声を聴き取ったのか…助け舟を出してくれたのでは、ベロニコさんだった。
「はい♡」
目も声も♡マークが付いている。
「あなたが想っている人は…今、とても大きな仕事をしようとしている…それはわかるよね?」
「…はい…」
「だから…待てる?世界に平和が訪れるまで」
「!!」
「今、その勇者さまは…恋だ、愛だ…なんて浮かれてる状況にないの。…だから…アンタの想いが届くのは…まだ先のことよ」
「…わかって…ます…」
彼女の♡マークは急転直下、涙マークへと変わった。
「そう…」
ベロニコさんは、小さく頷いた。
「そうね…何か希望を持って生きることは悪いことじゃないわ。それが、いつかわからなくても…どうしても果たせぬ夢だとしても…」
不意にシルビアが放った言葉に…オレは…ある人魚の姿を思い浮かべた。
…それは本当に幸せなことなのか?…
「え…えっと…その…ブリジット…その『想い人』に会ったらさ、オレから伝えておいてやるよ。『アンタを好いてる人がいる』ってね。それが誰であれ、そう言われて悪い気はしないだろ…」
「…勇者さま…はい!よろしく頼みますわ」
「お…おう…きっと喜ぶと思うぜ…。じゃあ、オレたちはそろそろ…ブリジットの為にも、一刻も早く、世界平和を取り戻さなきゃいけないからな」
「そうじゃのぅ」
「あの…これ…」
「ん?」
「渡してもらえますか?その人に…私の気持ちです!」
「えっ?…あぁ…」
…メダ女の制服…
「私の替わりだと想って、大事にしてください…と伝えてください」
「りょ…了解!預かっておくよ…」
「勇者さま…ご無事で…」
「ありがとう…」
「最後に…握手をしてもらっていいですか?」
「握手?…いいけど…ちょっと待って…今、グローブ脱ぐから…」
「えっ!あっ…」
「また、来るよ」
「はい、楽しみに待ってますわ…」
オレは生まれて初めて人間ではない生き物と握手を交わした…。
「では、さようなら…」
美的感覚なんてものは、地域によっても違うし、時代によってもどんどん変わっていくものだ。
お世辞にも、彼女の外見が『美しい』とは思わないし、子孫を残したいという気持ちにもならないが…涙を流して校舎へ走っていく彼女の姿を見て…オレはとても切ない気持ちになっていた。
人は見た目じゃないってことか…。
いや、彼女は人間じゃないが。
何百年、何千年したら、オレたちの、その美的感覚なんてものは変わってるかもしれない。
でも正義とピャアな心は変わっちゃいけないんだ。
「…モテる男はつらいのぅ…」
「ぬかせ!…っていうか、こんなことは日常茶飯事だから」
「ほう…」
「こう見えて、サッカーの日本代表だよ?ちょっと街を歩けば、勝手に向こうから寄ってくるわけで…」
「なるほど。それで…ニヤけて鼻の下を伸ばすのですね?」
「えっ?ウミュ…」
「リサトさんの、そういう破廉恥なところだけは、いつまで経っても許せません!!」
「いや、あくまでも真実を述べただけで…だからと言って浮気してるわけじゃないし…」
ドスッ、ドスッ、ドスッ…と大股で学校を出て行くウミュを、オレは弁解しながら後を追うのだった…。
~つづく~
この作品の内容について
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面白かった
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ふつう
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つまらない
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ドラクエ知らない
-
続編作れ