【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI 作:スターダイヤモンド
オレたちを襲ったのは…デルカダール王国からの刺客…二大巨頭のひとり『ホメロス』だった。
ヤツは少し離れたところから、こちらを眺めている。
血の気のない肌。
人を蔑むような視線。
辺りにに漂うひんやりとした…しかしドス黒く重たい空気。
悪魔の姿がそこにあった。
不意打ちを喰らった影響は少なくない。
上体を起こそうと試みるも、まったく身体が動かない。
「ホメロス…てめぇ…汚いマネしやがって…」
やっとの思いで、声を振り絞った。
「ホメロスちゃん…あなたには…騎士道精神ってものがないの?」
と毒付いたのはシルビアだが、見ればヤツも地面に横たわっている。
無事なメンバーを探すのは難しいようだ。
「なんとでも言うがいい。あとを付けられていたことに、気付かぬ貴様らが悪い」
ホメロスは意に介さぬ…と表情を崩すことなく冷淡に答える。
「うむ…まさかここに現れようとはのう…油断したわい…」
じいさんが悔しそうに呻いた。
「しかし…悪魔の子と呼ばれたお前の最後が、このようなものだとはな…呆気ないものだ。もう少し楽しませてくれると思ったが…」
「勝手に殺すなよ。『正義は必ず勝つ!』って言葉を、お前、知らないだろ?」
ヤツの言葉に反発しながら、オレは痛みを堪えて必死に立ち上がろうとした。
だが、思うように身体が動かない。
「ふははは…戯れ言はそれまでだ!」
「!?」
「死ね!!」
悪魔と化したホメロスがその一言を発した瞬間、オレの前から全てが消え去った。
無。
…
海未似のウミュ。
ことりちゃん似のセーニャさん。
にこさん似のベロニコさん。
絵里さん似のエリティカさん。
あんじゅんさん似のビビアンジュさん。
英玲奈さん似のサイエレナさん。
そして、オレの祖父だと言うロウ。
結局、正体がわからずじまいのシルビア。
誰の姿も見えない。
波間に泡となって消えた希さん似のノゾミアさんも、ホムラの里の元気な看板娘も…村に残してきた彼女も…もちろん、いない。
漆黒の闇の中。
気付けば、オレは暗い海の中を漂っていた…。
よくわからないが、どうやら『魚』になったらしい。
「これが輪廻転生ってヤツなのか?」
オレは昔読んだ「火の鳥 鳳凰編」の『我王と良弁僧正』の話を思い出した。
「…なら、前世はなんだったんだろう?」
オレは占いの類は一切信じていない。
幽霊なんてのも信じていない。
だから、自分の前世がどうだったかなんて、考えたこともない。
まぁ、常に「あの時ああしていたら、どうなっていたのか」…ってことは考えているが…。
残念ながら、今のオレは『鉄板の上から逃げてきた鯛焼き』ではない。
故に、お腹にあんこが詰まっているわけでもなく、海が広くても心は弾まない。
桃色珊瑚など、その存在すら確認できない。
ただ、どうしようもなく途方に暮れているだけである。
行く当てもなく、潮の流れに身を委ねているだけである。
南洋の…陽射したっぷりの海なら、それでも少しは気分も軽くなろうが、それとは真逆の、真っ暗な海の中。
ホメロスに破れたこと。
仲間を失ったこと。
これから先のこと…。
そんなこともまったく考えられず、ただ、この状況を受け入れることができず、茫然としていた。
しかし…
「…ん…」
「…さん?…」
「…とさん!!」
「…さとさん!?…」
「…りさと…さん…」
どれくらい経っただろうか…かすかにオレを呼ぶ声が聴こえてきた。
「…梨里さん?…」
それは聴き慣れた女性の声だった。
………
……
…
「梨里さん?」
「…!?…」
「梨里さん、ソファで寝ると首に負担が掛かりますよ」
「ウ…ウミュ、無事だったのか!?」
「ウミュ?…私は海未ですが…」
「!?…えっ…あっ…」
目の前にいたのは…オレの奥さん。
キョトンとした顔でオレを眺めている。
さっきまで逆立てていたハズの青い髪は、美しく艶やかなセミロングに…レベルアップさせて手に入れた『大海賊のコート』は、シンプルなブラウスと丈の長いスカートに変わっていた。
手にはブーメランではなく、スマホが見える。
「『無事だったのか』…とは、私が言いたいセリフです。買い物から帰ってきたところですが、梨里さん、呼んでも全然起きないので、どこか悪いのかと…もう少しで救急車を呼ぶところでした」
…なるほど…そういうことか…
その様子に、少しずつ状況を理解し始めてきた。
「安心してください、私は無事ですよ」
彼女はニコリと微笑んだ。
「あっ…あぁ…よかったよ…」
「!!…また『あの時のこと』を思い出してしまったのですか…」
「あの時のこと?…あぁ、それは違う。大丈夫だ、そういうことじゃない」
「…そうですか…なら、よいのですが…」
…
確かにあの時のことは今でも鮮明に覚えている。
歩行者信号の赤。
車同士がぶつかったときの衝撃音。
スローモーション…いやコマ送りのようにこっちに向かってくる黒のレグサス。
ヘッドライトの眩しさ。
硬直して動けない、華奢な美人の…蒼白い顔。
5年近く経った今でも、恐ろしいほど鮮明に覚えている。
夢に出てくることもある。
その度に寝言で「ふざけるなぁ!」と『アイツ』に怒鳴っている。
自分のその声で、目を覚ますことも多々ある。
結婚して、彼女と寝室を共にするようになってから、それで何度起こしてしまったことか…。
あの事故については彼女にだってトラウマだ。
夢に出てくることもあるだろう。
その後のことを考えれば、オレ以上に精神的に辛い時間を過ごしてきたハズだ。
ないワケがない。
しかし、オレみたいに寝言で叫ぶようなことはない。
寝てる最中にムリヤリ起こして、ブチギレされたことはあるけど…彼女は一旦寝たら、泥のように眠ってくれるので、ちょっとの音でも目を覚ましてしまうオレにとっては、とてもありがたい奥さんだといえる。
そんな彼女でも、さすがにオレが寝言で怒鳴っているのを聴くと「何事か」と起きてしまうらしい。
「…また『その時のこと』が甦ってきてしまったのですね…本当に申し訳ございません…」
どれだけ忘れろと言っても、これだけはどうにもならない話だ。
だから、いつしか『その時の夢』を見て魘(うな)されたとしても、
「いや…チームメイトがどフリーだったのに、シュートを外しやがったんだ…」
などと、オレはその内容を否定するようになった。
嘘つきは朝○人の始まりというが、世の中には『嘘も方便』という言葉もある。
もっとも、それが彼女にバレていることは百も承知なのだが。
「…まぁ、世の中上手くいかないことの方が多いから、夢の中で不満をぶちまけてたんだろうね。きっとこれが、オレのストレス解消ってヤツなのかも」
極力、彼女に心配掛けないようにと振舞ってるいるつもりだが、それでも彼女は
「すみません。私が至らないばっかりに…」
と項垂れてしまう。
「そんなことないよ。海未ちゃんは、よくやってくれてるって!本当、頼むから、そんなことは言わないで…」
「すみません…つい…」
「うん、じゃあ…罰として…お互いに、そういうことも考えられなくなるらいグッスリ眠れるよう、いっぱい『しよう』?何もかも忘れてバカになるくらい」
「…と言いつつ…昨晩もとても激しく『された』のですが…あっ♡…待って…あっ…ください…心の…準備がぁあん♡…」
「身体の準備は出来てるみたいだけど…」
「…は、破廉恥で…す……」
…
…という与太話はさておき…
「いつもはどんなに熟睡してても、何かあったらすぐ飛び起きる梨里さんが、さっきは呼んでも呼んでも全然起きなかったので、凄く心配したのですよ」
「それは悪かった…ゲームをしてたら、そのまま寝落ちしちゃったみたいで…」
「ひょっとして…そのゲームの夢を見ていたのでしょうか?」
「多分ね…あはは…25歳にもなってガキだねぇ…オレも…」
「はて…では、先ほど私を『ウミュ』と呼んだのは…」
「呼んだっけ?」
「はい…私の顔を見て『ウミュ、無事か!?』…と…夢の中で私に何かあったのですね」
「…だったかな?」
「覚えてないのですか?」
「詳しくは…多分、オレが主人公で…みんなと冒険に出る…って話…」
「…だとすると私に何かしらのピンチが訪れて梨里さんが助けてくれたのでしょうか」
「ってことかな?」
「ふふふ…真っ先に私の心配をしてくださるなんて…とても嬉しいです」
…ふぅ…
…エリティカさん!と叫ばなくてよかったぜ…
「夢というのは不思議ですね…」
「不思議だね…」
…そうか…
…そうだな…
…あれは夢だったんだ…
…しくじった…
…どうせ夢なら、ことりちゃんや、絵里さんたちに『あんなことやこんなこと』をしておけばよかったぜ…
…あぁ!もったいないことをした!!…
「どうかしましたか?」
「ん?…いや、別に…あっ、ほら、これってセーニャってキャラなんだけど、ことりちゃんっぽくない?」
と、オレがゲームの箱を指差すと、彼女は視線をそちらに移した。
「はい確かに…雰囲気は似てますね」
「…で…こっちは…にこさん」
「ふふ…さすがのにこでも…ここまで小さくはありませんが…」
「名前はね、ベロニカって言うんだよ。ベロニカ…ベロ…ニコ…」
「なるほど…いささか強引でが、そう言われるとそんな気もしてきました」
「でしょ?この絵と名前を見たときからずっと思ってたんだよ。あと、これが絵里さん」
「そうでしょうか?似てるのは髪形だけじゃないかと」
「胸の大きさも…」
「すぐ、そういう話になるのですね」
「このキャラの名前はマルティナ…絵里さんは?」
「エリーチカ…ですか?」
「マルティナ…エリティカ…」
「かなり無理があります」
「…かな?…」
「はい」
「あとは…ここには載ってないけど、希さんと、あんじゅさんと英玲奈さんも出てきたかな…あ、穂乃果さんもいたかな?ゲームの中で『ホムラの里』ってとこがあって」
「『穂むら』ですか。ふふ…それは穂乃果が出てこないわけにはいきませんねぇ。やはり和菓子を売っていたのでしょうか」
と彼女は笑みを見せた。
「…ところで…ウミュというのは、この中のどれでしょうか?」
さっき見せた彼女の穏やかな表情に、オレの警戒心が緩んだのか
「正確にはウミュ…じゃなくて、カミュ…なんだけどね…これがそう」
とつい『本当のこと』を教えてしまった。
「はい?この男性が…私…ですか?」
「えっ…あっ…」
「ことりと…にこと絵里は女性ですよね?」
「…だよね…」
「…であるのに、なぜ私は男性なのでしょうか…」
「…なんでだろう?…」
「私が訊いているのですが…」
「う~ん…う~ん…」
「り~さ~と~さ~ん!!」
…どうか、これも夢でありますように…
だが、その願いも虚しく、これは現実であるらしい…。
オレは決して大きくない新居のリビングを、右へ左と逃げ回ることになったのだった…。
オレとつばさと、ときどきμ’s×ドラクエXI
~完~
何年ぶりかにドラクエを手にして、セーニャとベロニカを見た時、「あっ、ことりとにこじゃん」と思った。
プレイをしているうちに、ますますその印象は強くなっていく。
そしていつしか、彼女たちのセリフは『ウッチーとそらまる』の声と口調に脳内変換、再生されていた。
ホムラの里、ホムスビ山、人魚姫(マーメイド)…ゲームを進めていくうちに、μ'sっぽいワードがどんどん出てくる。
これは!?
オレは作品を書こうと決めた。
誤算は…想像以上に話が長くなってしまったこと。
オレの悪い癖だ。
結局、ラストまでいけずに、何ヵ月も放置してしまった。
登場するハズだったキャラとしては
ニマ大師 → 真姫(キマ大師)
マヤ → 凛(ニャ)
などがいたのだが、残念だ。
そこまで引っ張ることが出来なかった。
また機会があったら、出演してもらうこととしよう。
最後に「なんだ…夢オチか」という批判もあろうかと思うが、最初からそう書いていたつもりだ。
第1話を見直してみてくれ。
では、また会おう。
追伸
暇があったら、他の作品も読んでくれ。
この作品の内容について
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面白かった
-
ふつう
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つまらない
-
ドラクエ知らない
-
続編作れ