【ラブライブ μ's物語 Vol.6】オレとつばさと、ときどきμ's × ドラクエXI   作:スターダイヤモンド

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王子と旅芸人

 

 

 

オレたちはルパスの情報を基に、ホムラの里から西の…サマディー王国へと向かった。

北側にある…『オムスビ』…いや『ホムスビ山地』…と呼ばれる山々の裾野に沿って歩く。

 

「ホムスビ山地ですか…どこかに花陽がいそうですね」

とウミュ。

 

「うん!花陽ちゃんがこの世界にいたら、きっと、ここの神様だね」

 

セーニャさんが同調する。

 

「残念ながら、ここには誰もいないけどね」

 

ベロニコさんは、ちょっとだけ寂しそうな顔をした。

 

 

 

山地を抜けると広大な砂漠に出た。

そのほぼ中央に目的地がある。

周囲は砂漠に囲まれているが、決して貧しい国ではない。

毎日、国営のウマレースが行われており、それが収入源らしい。

また、騎士の育成にも熱心で、そこかしこで甲冑を身に纏った兵士が訓練をしている。

『騎士道の心得』が書かれた掲示板も散見された。

 

 

 

虹の枝の存在は、この国の王子『ファーリス』が知っていた。

自分の頼みを聴いてくれれば、それの譲渡を国王に掛け合うという。

 

夜、サーカスのテント内に呼び出されたオレたち。

場内では、その世界では『超有名だ』という旅芸人のパフォーマンスが行われていた。

 

「わざわざ、こんなところに呼び出すなんて…何かあるわね」

 

ベロニカさんは、オレに向かってそう囁いた。

 

 

 

ファーリスの話というのは…明日行われる『ファーリス杯』というウマレースの『替え玉の依頼』だった。

「自分の替わりにレースに出て、優勝せよ」…という。

甲冑を身に付けて走るので、顔は隠せるらしい。

 

どうしてそんなことを?…というのは愚問だろう。

詮索しても仕方がない。

断ればアイテムが手に入らないことは明白だからだ。

 

 

まぁ、そこは元来運動神経のいいオレのこと。

翌日のレースはサラッと参戦し、サラッと優勝してやった。

 

ミッションクリア!

 

「さて、それじゃあ虹の枝を…」と思ったら、急に城内が騒がしくなった。

 

なんでも、この国の北に位置するバクラバ砂丘というところで、殺人サソリが現れたらしい。

 

国王が言うには、毎年この時期に現れるそうだ。

その国王が息子であるファーリスに討伐を命じる。

 

しかし…

 

ヤツは困った顔でオレたちを見た。

 

 

 

 

 

「それで?何をすればいい?」

 

場所を変えて、ヤツの話を訊く。

 

「聴いての通りです。例の殺人サソリを捕らえて欲しいのです」

 

「ん?だけど、あんたはこの国の王子…それも相当な凄腕らしいじゃないか。ファンも大勢いたぜ?」

 

ファーリスはただ単に王子というだけでなく、ルックスも悪くない。

文武両道、人徳もある…となれば、それはアイドル以上に人気があるのも頷ける。

 

「そうですね。私たちの手など借りなくても、あなたでしたら、そんなモンスターの1匹や2匹…」

 

ウミュがオレの言葉に続くと、ファーリスは泣きそうな顔をして、訴えた。

 

 

 

「実は…全部嘘なのです。この国に流れている私の噂は、捏造なのです。私は馬にも乗れなければ、剣術もできません。稽古も訓練も、全部やったこととして、部下に報告をさせていました」

 

 

 

「あぁ!?」

 

「えぇ!?」

 

昨日、レースの替え玉を依頼してきた時点で、なんとなく怪しい…胡散臭いヤツとは思っていたが…。

 

 

 

「国王はその事実を知っているのですか?」

 

「いえ…」

 

「ふん!とんだボンボンがいたものね!」

 

「なぜ、そのようなことを?」

 

「あなたたちには、わからないと思いますが…国を治める立場の人間がヘナチョコでは、国民は着いてきてはくれません!私たちは、常に強く、完璧でなければいけないのです!!」

 

 

 

「でも、嘘なんだろ?」

 

 

 

「…はい…」

 

 

 

「そんな鍍金(めっき)、すぐ剥げるに決まってるじゃない!」

とベロ二コさんは、明らかに嫌悪感を示した。

 

「まぁ、いいじゃないですか。王子には王子の考えがあるんだろし、そこはオレたちが口を出す話じゃ…。それより、とっとそのモンスターを片付けて、虹の枝とやらを貰いましょうよ」

 

オレもこんな軟弱者は好きじゃない。

できれば関わりたくない。

そんな気持ちだ。

 

「えぇ、そうですね」

とウミュ。

顔を見ればわかる。

きっとオレと同じ思いだろう。

 

「…もう、いい…わかったわ。案内してちょうだい」

 

メチャクチャ不機嫌そうなベロニコさん。

 

 

 

だが、その空気が読めないのか

「あの…」

と王子はまだ何かを言いたそうにしている。

 

 

 

「どうかしましたか?」

 

「…お願いついでにもうひとつ頼みごとが…」

 

 

 

「?」

 

 

 

「モンスターを倒した暁には、私が退治したということにしてほしいのです。くれぐれも指を咥えて見ていたなどと言わないで頂きたいのです…」

 

 

 

「はい、はい…わかった、わかった…」

 

ベロニコさんは、呆れて果てたのか彼の顔も見ずに返答をした。

 

そうじゃない

 

「では…」

と王子は『先発隊』として、城を出て行った。

 

 

 

 

 

「一緒に行ってもいいかしら?」

 

 

 

「!!」

 

「あんたは…旅芸人の…」

 

 

 

「『シルビア』よ。よろしくね」

 

…昨日パフォーマンスをしている時は、喋らなかったからわからなかったが…

 

 

 

…ひょっとして…

 

…おネエ?…

 

 

 

「そんな珍しそうな目で見ないでよ。この世界にだって、そういう人種はいるのよ」

 

「はぁ…」

 

「私も同行させてもらうわ」

 

「遊びに行くわけじゃないんだけど…」

とベロニカさん。

 

「知ってるわよ。ただ、付いて行くだけ」

 

 

 

「?」

 

 

 

「王子の後見人とでも言えばいいのかしら…」

 

 

 

オレたちは、顔を見合わせる。

 

 

 

…まぁ、王子よりは力になりそうね…

 

 

 

『彼』の醸す雰囲気が、そう感じさせた。

 

 

 

「わかったわ。ただし、自分の身は自分で守ってね」

 

「うん、そうするわ」

 

シルビアはそう言って頷いた。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、オレたちは現場に到着した。

先発隊はパルテノン神殿の跡地みたいな場所でウロウロしている。

 

「このあたりが出現ポイントなのですが…」

 

ファーリスがそう言ったか言わないかのうちに、ヤツが地中から現れた。

 

 

 

「うわぁ!出たぁ!コ、コイツが殺人サソリ『デスコピオン』です!」

 

先発隊のヤツらは蜘蛛の子を散らすように、そいつから遠ざかる。

 

 

 

「なるほど!コイツは凶暴そうだ!ウミュ、ベロニコさん、セーニャさん…準備はいいかい」

 

「はい!」

 

「任せなさい!」

 

「ちゅん、ちゅん!!」

 

 

 

 

 

「…ふう…倒したのか?」

 

「苦戦しましたね…」

 

「アタシのギラが炸裂しなかったら、アンタたちやられていたわよ」

 

 

 

…よく言うよ…

 

…その呪文がもう1ターン遅かったら、オレたちは全滅してたぜ…

 

…まぁ、確かにその威力は凄まじかったけど…

 

 

 

そう思っても口に出せないオレ。

 

「杖でポコポコ叩くだけじゃなくて…ちゃんと戦えるんですね?」

 

精一杯の皮肉を言ってみる。

 

「当たり前でしょ!アタシを誰だと思ってるのよ!ラムダの大魔法使い…」

 

「あら、リサトさん…腕から血が…」

 

「最後まで、聴かんか~い!!」

 

「セーニャさん、大丈夫ですよ、これくらい」

 

「ダメです!ケガはその時に治しておかないと。宿に着くまで…なんて、我慢してると、思わぬところでやられちゃうんですよ!…ちょっと待っててくださいね?…えい!」

 

 

 

「あぁ…超癒されるぅ…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「なんだよ、ウミュ!し、仕方ないだろ…これはこれで、そういうことなんだから…」

 

「そうですね!私は回復呪文を使えませんから!」

 

ウミュは物凄い剣幕で、オレに怒鳴った。

 

 セーニャさんに怪我を治してもらう度に、こんなことを繰り返している。

 

「ご苦労だった。トドメは城で刺すとしよう」

 

「ふん!偉そうに」

 

ベロニコさんは、相変わらず怖い顔をしてファーリスを睨んだ。

 

 

 

「王子!魔物を縛りつけました。これから、城に運びます」

 

「あ…あぁ、気を付けて帰還せよ!」

 

部下の呼びかけに、ファーリスが答えた。

 

 

 

「王子…あなたはこれでかったの?」

 

その様子を見ながら、ファーリスに問い掛けたのはシルビアだ。

 

 

 

「どういうことだ?」

 

「こんなやり方で名誉を手に入れても…虚しいだけじゃない?」

 

「どんな形であれ、国の安全が守られればいい」

 

「あんなに『かよわい女子』に戦わせておいて、あなたは高みの見物?…それで何も感じないのかしら?」

 

「彼女たちと僕とでは、ポテンシャルもスキルも違う。較べものにはならないさ」

 

「情けないわ」

 

「旅芸人風情に何がわかる?アンタも僕の立場になってみれば、理解できるはずだ」

 

 

 

「…」

 

シルビアは何か言いたそうにしていが、その言葉をグッと飲み込んだようだった。

 

 

 

 

城に戻った一行は、国民総出、万雷の拍手の中、出迎えらえた。

 

「おぉ!よくやった!さすが我が息子よ!」

 

国王も満面の笑みを称え、ファーリスを抱き寄せた。

 

 

 

だが、次の瞬間、予期せねことが起こる。

 

「うわぁ!!」

 

「た、大変だ!!」

 

悲鳴にも似た兵士たちの大きな叫び声。

どうやら魔物を縛っていた縄が解けてしまったようだ。

むっくりとデスコピオンが起き上がる。

弱っているので動きは決して早くないが、その魔物の巨体を見て、集まった人々はたちまちパニックに陥った。

 

 

 

「さぁ、ファーリス。トドメをさしてくるのじゃ」

 

 

 

「…」

 

 

 

「どうした?何を躊躇っておる。わざわざここまで運ばせたのは、国民に魔物を退治したことを直接見せる為。トドメをさして、サマディーに平和がもたらされたことを、しらしめるのじゃ」

 

 

 

「父上…私には…私にはできません!」

 

 

 

「な、なんと!?」

 

 

 

「全て偽りなのです。乗馬も剣術も…私は何もできないのです。昨日のウマレースも、今日の魔物退治も…全部彼らにやって頂いたことなのです。ですから…私には…私には…」

 

 

 

「あぁ…なんということじゃ…」

 

 

 

「すみません」

 

 

 

「騎士たる者!」

 

親子がそんな会話をしている中、突然大きな声が聴こえてきた。

 

 

 

「し…信念を決して曲げず、国に忠節を尽くす」

 

その言葉に、ファーリスは思わず反応した。

パブロフの犬状態…とでも言おうか。

 

 

 

「騎士たる者!」

 

「どんな逆境にあっても、正々堂々立ち向かう!」

 

「あなたは騎士の国の王子!卑怯者で終わりたくなければ、戦いなさい!!」

 

ファーリスを煽っているのはシルビアだった。

 

 

 

「卑怯者…僕が…」

 

「そうじゃない?見ず知らずの少年少女に魔物退治をさせて、自分の手柄だと振舞おうとした、最低で最弱なダメ王子よ」

 

シルビアの暴露に、国中がざわめきだした。

 

 

 

「卑怯者…僕が…」

 

 

 

…卑怯者…ダメ王子…

 

…逃げちゃ…ダメだ…

 

…逃げちゃダメだ…逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!逃げちゃ…

 

 

 

「ウォー!!!!」

 

 

 

「危ない!!」

 

「あっ!!」

 

 

 

電工石化だった。

闇雲に突っ込んでいったファーリスに、デスコピオンの大きなハサミが振り下ろされる。

誰もが最悪の事態を想定したが。それを救ったのは…シルビアの剣技だった。

 

 

 

「ウミュ…見えたか、今の?」

 

「いえ、私でもその太刀先の軌道がわかりませんでした」

 

ベロニカさんも、セーニャさんもポカ~ンとしていた。

 

 

 

「やればできるじゃない…結果は伴わなかったけど…まずは一歩を踏み出す勇気が大事なのよ」

 

シルビアは、ファーリスの頭を撫でた。

 

「次、戦うときは、目を瞑ったらダメよ!」

 

 

 

「あっ…あっ…あの…ありがとうございます!!」

 

 

 

「あぁ…シルビアさん、なんとお礼を言ったらよいのやら…」

 

父親は、目に涙を浮かべながら、彼に感謝の意を伝えた。

 

「国を治めるのが大変なのはわかるけど、もう少し自分の息子のことも見てあげなきゃ…ね」

 

彼は国王に、そう言ってウインクした。

 

「おっしゃる通りです」

 

「じゃあ、私はこれで…」

 

「あ、いえ…何もお礼をせずにお帰しするわけには…」

 

「いいのよ、そんなこと…ちゃんと『ここに伝わる騎士道精神』さえ守り抜いてくれさえすれば…」

 

「騎士道精神を…ハッ!!…まさか、あなたは…」

 

「しーっ…!!」

 

シルビアは人指し指を立てると、自分の口元の前に当てた。

 

 

 

そして

「ただの、しがいない旅芸人よん…。じゃあ、私はこの辺で。…リサトちゃん、またね!」

と言うと、オレたちの前から煙のように姿を消した。

 

 

 

 

 

「息子から全てを聴きました。なんともはや、お恥ずかしい限りで…」

 

国王はオレたちに平身低頭だ。

 

「それで、父上。お詫びというか、お礼というか…リサトさんたちに虹の枝を差し上げたいのです。なんでもこの方々たちには、とても大切なものなんだそうで…」

 

 

 

「なんと!虹の枝がほしいと申すか!」

 

 

 

「家宝…いや、国宝級の宝だとはわかっているのですが…」

 

「う~む…それは困ったのぅ…」

 

「どうされたのですか」

 

「実は国が財政難に陥っておってな…」

 

「はぁ」

 

 

 

「先日、とある商人に売ってしまったわい」

 

 

 

 

 

「へぇ…そうなんだ…って…」

 

 

 

「えぇ!!虹の枝を売っちゃったのぉ!?」

 

 

 

 

 

~to be continued~

 

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