トリップ先のあれやこれ(完結)   作:青菜

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第12話

 ホテルに戻ってすぐ、烏間は作戦の報告のために部屋に籠った。

 その隙にロビーで話し合いが行われていた。

 鬼灯は居ても話をややこしくするだけなので菜々によって追い出された。山頂のホテルに帰ったのだろう。

「意外だよなー。あんだけ男を自由自在に操れんのに」

「自分の恋愛にはてんで奥手なのね」

「仕方ないじゃない‼︎ あいつの堅物っぷりったら世界クラスよ‼︎」

 文句を言っているイリーナを見て、菜々は目を細めた。

 皆が一箇所に集まり、本格的に話し合いを始める。

 作戦決行は夕食の時間に決まった。

 

「では、恋愛コンサルタント3年E組の会議を始めます」

 七三分けのカツラをかぶり、四角い眼鏡をかけてスーツを着込んだ殺せんせーが司会を始めた。

 烏間、イリーナくっつけ計画と書かれたホワイトボードまで用意されている。

「ノリノリね、タコ」

「同僚の恋を応援するのは当然です。女教師が男に溺れる愛欲の日々。甘酸っぱい純愛小説が書けそうです」

「明らかにエロ小説を構想している‼︎」

 そんな会話を聞きながら、菜々は「烏間先生×ビッチ先生」と表紙に書かれたノートをめくっていた。

「今まで私がそれとなく二人をくっつけようとした方法を話しとくよ。全部失敗したけど、実験結果を知っとくと計画に役立つかもしれないし」

「今実験結果って言ったぞ……」

 誰かが呟いたが菜々は無視した。

「ロミオとジュリエットについて話した後、二人っきりにしたけど何も起きなかった」

「どんな状況⁉︎」

 突っ込まれたので簡単に説明する。

「『ああロミオ。あなたはどうしてロミオなの?』っていうセリフあるじゃないですか。親がつけたからだと思うんですよ。って烏間先生に言った後、ビッチ先生と二人っきりで教員室に閉じ込めた」

「なんでそれでくっつけれると思った⁉︎」

「恋愛の話をして意識させた後、二人っきりにすればなんとかなるかなって」

 コイツ駄目だ。全員の心の声が一致した。

「まずさあ、ビッチ先生。服の系統が悪いんだよ」

 これ以上菜々の話を聞いても意味がないと判断したのか、話を戻された。

 もっと清楚な感じで攻めた方が良いと言われ、イリーナは神崎の服を借りることになった。

 数分後、イリーナが着替えて戻ってきた。

「ほら、服一つで清楚に……」

「なってないね」

 そもそもサイズが合っていなかった。

「烏間先生の好みを知っている人は?」

 これは無理だと判断した殺せんせーが尋ねる。

「あ! そういえばさっき、テレビのCMであの女の事べた褒めしてた‼︎」

 そう言って矢田が指差したテレビを全員が見る。

 理想の女性ではなく、理想の戦力だった。

 強い女性が好きという可能性もあるが、イリーナの筋肉では絶望的だ。

「じゃあ、手料理とかどうですか?」

 今度は奥田が提案する。

「ホテルのディナーも豪華だけど、そこをあえて烏間先生の好物で」

 しかし、皆烏間がハンバーガーとカップ麺を食べているところしか見たことがない。

「なんか烏間先生の方に原因があるように思えてきたぞ」

「でしょでしょ?」

「先生のおふざけも何度無情に流された事か……」

 打つ手を無くして烏間がディスられ始めた。

「と、とにかく。ディナーまでに出来る事は整えましょう。女子は堅物の日本人が好むようにスタイリングの手伝いを。男子は二人の席をムード良くセッティングです」

「「はーい」」

 殺せんせーに言われて皆が元気よく返事をする。

 

 午後9時。ディナー開始時刻。

「なんだこれは」

 烏間は辺りを見渡して呟いた。

 夕食を食べるためディナー会場に来てみれば、教え子たちが席を占領していたのだ。

「烏間先生の席はありませーん」

「E組名物先生いびりでーす」

「先生方は邪魔なんで、外の席でどうぞ勝手に食べてくださーい」

 そう言われたのでおとなしく外に出る。

「なんだいきなり? 最近の中学生の考える事はよく分からん」

 そんな疑問をこぼしながら外にあるテーブルの方に歩いて行くと、同僚が座っている事が分かった。

 いつもよりも露出が少ない格好をしている。

 彼女も追い出されたのだろうと思い、尋ねてみる。

「何で俺たちだけ追い出されたんだ?」

「さあ」

 そんなやりとりを二人がしている頃、他の者は野次馬と化していた。

 菜々に至ってはノートを取り出している。

 いつもの事だし突っ込むのも面倒なので、誰も何も言わなかった。

「フィールドは整った。行け、ビッチ先生‼︎」

 誰かがそう言った時、菜々は倉橋を盗み見ていた。

 彼女の気持ちはクラスメイトには周知の事実だ。

 今度彼女が好きなヨーグルトベリーパフェでも奢ってあげるかと考えながら、イリーナの方に視線を戻す。

 野次馬たちがいる場所だと声は聞こえないがイリーナは楽しそうだ。

 しかし、前もってテーブルのそばに仕掛けておいたシャー芯型盗聴器のおかげで、菜々は二人の会話をイヤホン越しに聞けていた。

『いろいろあったな、この旅行は。だが収穫もあった。思わぬ形だが、基礎が生徒の身についている事が証明出来た。この調子で二学期中に必ず殺す。イリーナ、お前の力も頼りにしてるぞ』

 その言葉にイリーナは反応した。

『どうした?』

 烏間に尋ねられ、彼女はポツポツと話し始めた。

『昔話をしてもいい? 私が初めて人を殺した時の話し。12の時よ』

 彼女が語った話に菜々は耳を傾けていた。

 知らないうちにメモを取る手が止まっている。

『ねえ、カラスマ』

 昔話を終えたイリーナはナイフで、髪を一つに結んでいたゴムを切った。

()()ってどういう事か本当に分かってる?』

 一瞬静寂が訪れる。

『湿っぽい話しちゃったわね』

 そう言いながらイリーナは立ち上がり、烏間に近づいていく。

『それと、ナプキン適当につけすぎよ』

 彼につけられたナプキンを手に取り、唇を落とす。その場所を烏間の口に当て、踵を返した。

『好きよ、カラスマ。おやすみなさい』

 そう言い残して帰って来たイリーナは、一斉にブーイングを浴びせられる。

「何よ、今の中途半端な間接キスは‼︎」

「いつもみたいに舌入れろ、舌‼︎」

「あーもー。やかましいわ、ガキども‼︎ 大人には大人の事情ってもんがあるのよ‼︎」

 そう言い返すイリーナを殺せんせーがフォローする。

「いやいや。彼女はこれからいやらしい展開にするんですよ。ね?」

「ね、じゃねーよ。エロダコ‼︎」

 騒がしい声が聞こえてくる中、烏間は考えていた。

 イリーナの問いかけについて深く考えるつもりは無い。超破壊生物の殺害が自分の任務である以上、二学期はなお一層ビシビシ鍛え、絶対に殺す。それだけだ。

 そんな中、菜々はこっそりその場を去ろうとしていた。

「どこに行くつもり?」

 ソラに声をかけられ、菜々は足を止める。

 言い訳を考えていると、ソラが口を開いた。

「どうせ、園川さんと鵜飼さんをくっつけようとか思ってるんでしょ。悪い事は言わないからやめといたほうがいいよ。菜々が関わったら絶対こじれる」

 その後、ソラの必死の説得によって菜々は作戦を決行しないことにした。

 

 

 *

 

 

 8月15日。つまり送り火の日の朝。

 菜々の部屋には二人の客が訪れていた。

「先生。毎回私のところに来るのやめてもらえません?」

 菜々は藍木に言った。

 部堂藍木。菜々がトリップして初めて巻き込まれた殺人事件の被害者だ。(第1話参照)

 勘違いのせいで息子に殺されるまでの一ヶ月間、菜々に合気道を教えていた人物でもある。

 同時に、玉宝粉砕(ぎょくほうふんさい)(男性の股間を蹴り上げる技)や砂弾魔球(さだんまきゅう)(砂を相手の目に投げつける技)などのやられる側にとっては、はた迷惑な技を菜々に教えた人物でもある。

「私のところ以外に、もっと行く場所無いんですか?」

 そう言ってしまってすぐ、菜々は口を塞いだ。

 彼の息子は今、監獄の中だ。

 失言だった。顔を青くした菜々を見て、藍木が声をかける。

「大丈夫じゃ。奏の罪も問われないことになったし」

 話を聞くと、彼がしつこく閻魔殿に通ったおかげで、死後の裁判において、藍木を殺した事で奏を裁かない事が決まったらしい。

 このまま何も起こさなければ転生が妥当な判断だそうだ。

 彼の性格を考えると大丈夫だろうと菜々は思っていた。

 菜々はため息をつく。

「どうした? 悩みがあるなら聞くぞ」

「先生がいるせいでため息をついたんですけど」

 そう言って、菜々はもう一人の客であるあぐりを見る。

 藍木がいるせいで殺せんせーや茅野について話せない。

「だいたい、先生のアドバイスって役に立たないし」

 菜々は昔の事を思い出していた。

 

 小学六年生の時に彼のアドバイスで痛い目を見たのだ。

 お盆だったため現世に戻ってきていた藍木が友達が少なかった菜々を見かねて提案をしてきた。

『子供と友達になるには()()()を連発すればいい』

 そんな事を聞いていないのに言ってきた。

 その後、聞いちゃいないのにどうでもいいウンチクを語り始めた。

 事件が起こったのは学芸会の時だった。

 ちょっとしたハプニングが起こり、準備が整うまで菜々が時間稼ぎをしなくてはいけなくなった。学芸会の実行委員の仕事を押し付けられていた事が原因だろう。

 とにかく、その時菜々は選択を誤った。

 時間稼ぎとして藍木に聞いたう◯このウンチクを語ってしまったのだ。

 ほとんどの生徒から白い目で見られた。

 その時から三池からの呼ばれ方が「菜々お姉ちゃん」から呼び捨てになったのだ。

 

 なんか思い出したらムカついてきた、と菜々が思っているとソラになだめられた。顔に出ていたのだろう。

「まあまあ。命の恩人なんでしょ?」

 藍木は毎年菜々の部屋に来ているため、ソラは去年のお盆に藍木に会っている。

 その時、ソラに話した内容を思い出して菜々は怒りを鎮めた。

 

 小学四年生の時、菜々はいつも通り事件に巻き込まれた。

 その流れで事件の真相を探り、重要な証拠を手に入れてしまったがために犯人である暴力団に拘束された。

 その時、彼女を助けたのが藍木だったのだ。

 自分の身が危ないと気がついていた菜々は、例のごとくお盆で現世に帰って来ていた藍木に頼み込んで、いざという時にはポルターガイスト現象を起こしてもらう約束を取り付けた。

 実際、藍木のおかげで助かり、少数派の暴力団を壊滅した実績を手に入れてしまった。

 

「それにしても、あぐり先生と先生が知り合いだったとは思いませんでした」

 菜々はずっと思っていた事を呟いた。

 天国で知り合い、仲良くなった流れで共通の知り合いがいる事が発覚し、一緒に菜々の部屋に押しかけて来たらしい。

 話を聞くと、あぐりに金魚草の存在を教えたのは藍木だった事が分かった。

「そういえば私、地獄に引っ越す事にしたのよ。また教師をやりたいし、あの人と一緒に暮らしたいし」

 どうやら良い就職先が見つかったようだ。

 あぐりと藍木が話に花を咲かせ始めたので、二人の話に適当に相槌を打ちながら菜々は考えにふけった。

 殺せんせーを殺すと決めたが、それでも躊躇してしまう。

 殺せんせーを殺すとクラスメイト達は死ぬまで彼に会えない。

 しかし、自分は頻繁に会える。そこまで考えると毎回、菜々は息がつまったかのような錯覚に陥る。

 どうすればいいのか分からなくなったので考えを放棄し、彼女は別の事を考え始めた。

 

 あれは桜子と遊びに行った時の事だ。

 三池は少し前に引っ越してしまったので来ていなかった。

 引っ越し先は米花町から結構近いので、来ようと思えば来れるはずだが、彼女は来なかった。

 桜子によると千葉和伸に会いたくないかららしい。

 その理由というのが、転校する際、彼からラブレターを貰い、返事をしたからだそうだ。

 その上、恥ずかしくてしばらく会えないからなのか、遠くに引っ越すと言ってしまったようだ。

 その返事というのが、小学六年生には分かんないだろ、そんなの、と菜々が呟いてしまうような内容だった。

 それと同時に、菜々は年下のくせに自分よりも進んでいる事に驚いたり、精神年齢ならとっくに成人してるのに……と落ち込んだりした。

 まあ、それは置いといて、あの二人このまま行くと大人になるまで何も進展しないんじゃないかと菜々は心配していた。

 

 

 *

 

 

 送り火の日の亡者捕獲も無事に終わり、夏休み最終日となった。

 殺せんせーから夏祭りに誘われたので、午後七時に菜々は会場に着いた。

 暗殺技術を使って荒稼ぎしていると、殺せんせーが出店を出したりしていた。どうやら金欠らしい。

 そんなこんなで新学期になり、竹林が本校舎に戻ったが、すぐにE組に戻って来たりした。彼なりに色々考えたのだろう。

 すぐにいつも通りの日常が戻ってきた。

 そんな時、グラウンドで烏間から集団で暗殺に成功した場合は賞金が三百億になると告げられた。

 その後、これからの暗殺に火薬を取り入れる事も伝えられる。

「そのためには、火薬の安全な取り扱いを一名に完璧に憶えてもらう」

 そう言って烏間が生徒達に見せたのは分厚い参考書。

 菜々は顔を引きつらせた。簡単な爆弾の解体くらいなら出来るんだけどな、と考えているあたり、彼女も相当米花町に染まってきている。

「勉強の役に立たない知識ですが、まあこれも何かの役に立つかもね」

 そう言って烏間から参考書を受け取る者がいた。

「暗記できるか? 竹林君」

「ええ。二期オープニングに変えればすぐですよ」

 ――僕にとっては地球の終わりより、百億より、家族に認められる方が大事なんだ。

 この前、彼が言っていた言葉が菜々の脳裏をよぎる。

 親にもいろいろあるんだな、と菜々は竹林の背中を見ながら思っていた。

 彼女の四人の親は全員、子供の意見を尊重してくれた。

 もし、戻れるとしたら私はどうするんだろう?

 親について考えていたせいか、そんな疑問が浮かんだが、菜々は頭を振ってごまかした。

 元の世界についての考えを頭の中から追い出す。

 今、向こうで自分がどうなっているかも分からないのだ。

 もし、元の世界に戻れるとしたらなんて、考えるだけ無駄だろう。

 根拠はないものの、二〇一七年九月二日――トリップした日と同じ日に何か起こるのではないかと思っていたが、何も起こらなかった。

 あの世界にはもう戻れないんだ。

 そう結論づける事で菜々は自分の気持ちに蓋をした。

 

 

 *

 

 

 プリン爆殺計画。

 それが茅野が提案した暗殺だった。

 巨大プリンを作り、プリンの底に対先生弾と爆薬を密閉しておく。殺せんせーが底の方まで食べ進んだら、竹林によって爆破。

 と言う事で、殺せんせーがいない3連休で巨大プリン作りがスタートした。

 予算は国から出されるらしい。

 これはカモフラージュだろうな、と菜々は考えながら手を動かしていた。

 それにしてもこの計画、よく考えられている。

 大量の卵はマヨネーズ工場の休止ラインを借りて混ぜてもらう。

 巨大プリンが自分の重さで潰れないように、凝固剤にはゼラチンの他に寒天も混ぜる。寒天の繊維が強度を増すからだ。

 しかも寒天はゼラチンよりも融点が高い。つまり熱でも溶けにくいため、今の暑い季節でも溶けにくい。

 茅野がオブラートで包んだ味変わりを渡したり、カップの中に冷却水を流す説明をしている時、菜々は浮かれていた。

 ついにこの時が来た、と喜んでいる菜々を見て、ソラはどうせなんか企んでいるんだろうなと思ったが何も言わなかった。

 

 三日後。ついに巨大プリンが完成した。

「……こ、これ全部先生が食べていいんですか?」

 連休明け、グラウンドに出来た巨大プリンを見て、恐る恐る殺せんせーが尋ねた。

 廃棄卵を救いたかっただけだと伝え、教室で起爆を見守るために全員が移動する。

 殺せんせーは無我夢中で巨大プリンを食べていたが、結局、仕掛けていた爆弾が見つかってしまい、茅野の暗殺は失敗に終わった。

 その後、殺せんせーが特にきれいな部分を取り分けておいたため、皆で食べることになった。

 菜々の予想通り、皆で食べた後にも余ったプリンはいくつかあった。

 このプリンをお土産だと言って地獄に持って行ってやろうと菜々は考えていた。

 鬼灯がプリンが苦手だと言うことは調べ済みだ。

 今こそ、精神的運動会の恨みを晴らす時だ、と菜々が息巻いているのを見て、沙華と天蓋は呆れ返っていた。

 

 

 地味な嫌がらせがバレ、情報提供をした烏頭と一緒に菜々が叱られた後(物理)、暗殺の訓練にフリーランニングが取り入れられる事が発表された。

 それからしばらくして、裏山全てを使ったケイドロが行われたりした。

 ケイドロが終わり、菜々は考え込んでいた。

 ケイドロ中に拾い読みした新聞に、椚ヶ丘市で下着ドロが多発している事が書かれていた。

 犯人の特徴を見る限り、犯人は殺せんせーだとしか考えられない。しかし、証拠を残しすぎだ。

 これが柳沢達の計画か、と菜々はお盆後に行われた会議の内容を思い出していた。

 

 

 *

 

 

 数日後、殺せんせーは生徒達から汚物を見るような目で見られていた。

「多発する巨乳専門の下着ドロ。犯人は黄色い頭の大男。ヌルフフフ……と笑い、現場に謎の粘液を残す。これ完全に殺せんせーだよね」

「正直がっかりだよ」

 殺せんせーが慌てて否定するとアリバイを尋ねられた。

 しかしアリバイというのが、高度1万から3万mの間を上ったり下がったりしながらシャカシャカポテトを振っていたという証明しようが無いもの。

 第一、 殺せんせーのスピードなら一瞬で椚ヶ丘市に戻ってこれる。

「待てよ皆‼︎ 決めつけてかかるなんてひどいだろ‼︎」

 そう言って殺せんせーを庇ったのは磯貝だった。

「確かに殺せんせーには小さな煩悩ならたくさんあるよ。でも、殺せんせーがやった事なんてせいぜい――」

 そう言って、彼は殺せんせーがやった事を挙げ始める。

 エロ本の拾い読み。

 水着生写真で買収される。

「手ブラじゃ生温い。私に触手ブラをさせてください」と要請ハガキを出す。

「……先生、正直に言ってください」

 結局、クラス一のイケメンにまで殺せんせーは見放された。

 殺せんせーじゃないだろうと菜々は思っていたが何も言わなかった。しばらく傍観していた方が面白い。

 一方、殺せんせーは身の潔白を証明するために、エロ本を全て捨てると宣言した。

 準備室の殺せんせーの机に皆が行くと、殺せんせーが机の引き出しを漁っていた。

「見なさい‼︎ 机の中全部出し……」

 手に覚えのないものが当たり、殺せんせーは恐る恐る取り出す。それは女性ものの下着だった。

 緊迫した空気が流れ始めた時、岡野が駆け込んできた。

「ちょっと‼︎ みんな見て、クラスの出席簿‼︎」

 そう言われて覗き込んで見ると、女子の名前の横に全員のカップ数が書かれていた。しかも最後のページに町中のFカップ以上者のリストが。

 一気に殺せんせーへの信頼が薄まる。

 慌てた殺せんせーはまたもや墓穴を掘った。

 バーベキューをやろうと提案し、串を取り出したが、全ての串に女性ものの下着が刺されていたのだ。

「やべえぞこいつ……」

「信じられない」

「不潔……」

 

 ど変態疑惑のせいで、今日一日、殺せんせーは針のむしろだった。

 放課後、殺せんせーが教室を出て行った後に渚が呟いた。

「でも、殺せんせーが本当にやったのかな? こんなシャレにならない犯罪を」

「そんな事したら、千年も地獄の大釜で茹でられるのにね」

「地球爆破と比べたら可愛いもんでしょ」

 カルマの言葉に対して、渚は肯定するしかなかった。菜々の言葉は無視された。

「でもさ、仮に俺がマッハ20の下着ドロなら、急にこんなボロボロ証拠を残さないけどね」

 そう言って、彼は下着が巻きつけられたバスケットボールを取り出す。

 殺せんせーにとって、E組の信頼を失うことは殺されるくらい避けたいことだろう。

 カルマの言葉に渚も頷く。

「でも渚、それじゃあ一体誰が……」

「偽よ」

 茅野の疑問に答える声があった。後ろに座っていた不破だ。

「偽殺せんせーよ‼︎ ヒーロー物のお約束! 偽物悪役の仕業だわ‼︎」

 そんなわけで偽物を捕まえに行く事になった。

 

 

 辺りが暗くなった頃、殺せんせーを信じたメンバーと、カルマに連行された寺坂は住居侵入を行なっていた。

 不破によると、真犯人は次にこの建物を選ぶようだ。

 全員、干してある洗濯物が良く見える場所に陣取る。

 下着類が干してある場所を取り囲むように、シーツのようなものが干されていた。

 あれだと風通しが悪くならないのだろうかと菜々は疑問に思ったが、すぐにあれが罠なのだろうと思い直す。

 彼女は他にやらなければいけない事があったため、浄玻璃鏡で詳しい事を確認していない。

 持っている情報は、夏休みに行われた会議の内容だけだ。

「ここは某芸能プロの合宿施設。この二週間は巨乳を集めたアイドルグループが新曲のダンスを練習してるって。その合宿は明日には終わる。真犯人なら極上の洗濯物を逃すはずないわ」

「なるほど」

 そんな会話をしていると渚が殺せんせーを見つけた。

 サングラスをかけてほっかむりをしているせいで、犯人にしか見えない。

 そんな事を全員が思っていると、壁を登って来る人影があった。

 鬼灯と同じくらいの身長で黄色いヘルメットを被っている。目撃情報と同じ特徴だ。

 身のこなしから只者ではない事が分かる。

 彼が干してあった下着に手を伸ばすと、殺せんせーが襲いかかった。

「捕まえたー‼︎」

 相手を地面に叩きつけ、身動きを取れないように押さえつける。

「よくも舐めた真似してくれましたね‼︎ 押し倒して隅から隅まで手入れしてやる。ヌルフフフ」

 殺せんせーは真犯人を捕まえているだけなのだが、下着ドロより危ない事をしているように見える。

「顔を見せなさい、偽物め‼︎」

 そう言ってヘルメットを取り、彼の顔を見て殺せんせーは固まった。見覚えのある顔だったからだ。

 烏間の部下としてたまにE組に顔を見せる、鶴田博和。

「なんで、あなたがここに?」

 殺せんせーがそう問いかけると同時に異変が起きた。

 下着類の周りに干してあったシーツが急に大きくなったのだ。

 と言っても、シーツが掛けてあった棒が伸び、たたんであったシーツが伸ばされたため、そう見えただけだ。

 一瞬で殺せんせーが囲まれる。

「国に掛け合って烏間先生の部下をお借りしてね。この対先生シーツの檻の中まで誘ってもらった」

 聞き覚えのある声が聞こえた。

「君の生徒が南の島でやった方法だ。当てるよりまずは囲むべし」

 真っ白な対先生用繊維で出来た服を身にまとった男の声だけが聞こえる。

「さあ、殺せんせー。最後のデスマッチを始めようか」

 そんな言葉が聞こえると同時に、一つの影が夜空に現れた。

 シーツの檻を飛び越えて入ってくる人影。

「イトナ‼︎」

 誰かがそう叫ぶと同時に、殺せんせーにいくつもの攻撃が襲いかかる。

 対先生シーツで囲まれてしまい、身動きが取れない殺せんせーはイトナから一方的に攻撃されていた。

「まずフィールドを劇的に変化させ、それから襲う。当てるよりまずは囲うが易し。君達の戦法を使わせてもらったよ」

 柳沢が生徒達に何が起こったのかを解説していた。

 寺坂に詰め寄られ、柳沢はあっさりと自白する。

 街で下着ドロを働いたのも、殺せんせーの周囲に色々仕込んだのも自分の仕業。

「そこの彼を責めてはいけない。仕上げとなるこの場所だけは、下着ドロの代役が必要だったもんでね」

 柳沢は鶴田を見てそう言った。

「すまない。烏間さんのさらに上司からの指示だ。やりたくないが断れなかった」

 このような話はよくある。菜々は鶴田を責められなかった。

 生徒の信頼を失いかければ殺せんせーは必ず動く。そこに来て巨乳アイドルの合宿という嘘情報。

 十中八九ターゲットは罠にかかる。

「くっそ。俺らの獲物だぞ」

「いっつもいやらしいところから手ぇ回して……!」

 そう言われてもそれが大人というものだと、柳沢は返すだけだ。

「大人? こんな作戦を考えるのが大人なんですか?」

 菜々はポツリと、いつもより1オクターブほど低い声で言った。

「ああそうだ。現にあのモンスターは追い詰められている」

 その答えを聞くとすぐ、菜々は持っていたカバンから資料を取り出す。

「この作戦を考えたと認めるんですね? これ、下着ドロの慰謝料および罰金の書類です」

 律に調べてもらったのだ。

「刑法にのっとっておおよその計算をしました。それと私達にしたセクハラの慰謝料もプラスで」

「これは地球の未来のため」

「そんなの未成年に変態行為を働いて、精神的に痛めつけていい理由になりません」

 柳沢が何か言いかけたが菜々が遮った。

「だいたい、町中のFカップ以上の女性を調べ上げるなんてプライバシーの侵害です‼︎ それ以前にこの計画を思いついた時点で人間としてどうかと思います! 黒縄地獄落ちろ。もしもこの方法で殺せたとしたら、私はこの方法を七割くらい盛ってマスコミに話します」

 払うもん払ってさっさと塵になれや、と語っている菜々の目を見て、柳沢は話題を逸らそうとした。

「あの怪物の事は気にならないのかい?」

「今は殺せんせーなんかより、国家権力を盾にして未成年に違法な生体実験をしているツェツェ蠅の駆除の方が大事です」

 ついに柳沢は菜々に人間と認定してもらえなくなった。

 戦術を細かく解説してやろうと思っていたらこの扱い。

 柳沢は予想が外れたことに面食らったが、すぐに気を取り直す。

 そういえば、未成年女子の法的な強さを思い知らせてやるとか言ってたな、と渚は菜々を見ながら思い出していた。

「違法な生体実験ね。触手はイトナが自分からつけたいと言い出したんだ」

「普通、自分の子供にそんなものつけたがる親はいません。調べてみたら、イトナ君の両親は会社が倒産した関係で、今は債務の整理で忙しい事が分かりました。誘拐ですか?」

 散々プライバシーについて語っていたくせに、菜々はそんな事を言っていた。

 彼女の言葉を聞いて、巨大ブーメランだろ、それ、と全員の心の声が一致した。

「誘拐? イトナは自分の意思でついて来たんだよ」

「という事はもしかして無断⁉︎ どう考えても誘拐ですよ」

「おまわりさんこっちです」

 カルマも菜々の調子に合わせる。

 ボウフラが湧いた水たまりを見るような目で生徒達は柳沢を見た。

 いくら本人が一緒に行きたいと言っても、保護者の同意を得ずに未成年を連れ去るのは誘拐だ。

 ましてやイトナは未成年者どころか義務教育の途中。

 そんな態度を取られれば、いくら相手がガキだといっても傷つく。

 柳沢が地味に落ち込んでいると、対触手シーツの檻が光り始めた。

「な、なんだ⁉︎ このパワーは⁉︎」

 殺せんせーは全身ではなく触手の一部を圧縮してエネルギーを取り出した。

 それをイトナに向かってぶっ放す。

 なんであれは出来るのに、かめはめ波は出来ないんだろうかと菜々は考えていた。

 合宿所の窓ガラスが、殺せんせーが放ったエネルギー波の影響で割れる。

 周りを囲んでいた檻も木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 落ちて来たイトナをキャッチし、優しく地面に下ろすと、殺せんせーは柳沢に向き合う。

「そういう事です、シロさん。この手の奇襲は私にはもう通じませんよ」

 そういう事ですと言われても、柳沢は菜々のせいで何が起こったのか見ていなかった。

 しかし、自分が負けたという事は分かる。

「彼をE組に預けて大人しく去りなさい。あと、私が下着ドロじゃないという正しい情報を広めてください」

「私の胸も、詳しくはび、Bだから‼︎」

「私もまだ成長の見込みがはある‼︎ 多分、おそらく……きっと」

 殺せんせーの言葉に茅野と菜々も続ける。

 全員が出席簿に書かれていた内容を思い出す。騒いでいる女子二人の名前の横には、「永遠の0」「A(今後成長の見込みなし)」とそれぞれ書かれていたのだ。

 菜々がやけに柳沢に突っかかっていた理由を全員が悟った。

「い、痛い。頭が痛い。脳みそが裂ける‼︎」

 一瞬流れていたのどかな空気が、イトナが頭を抑えて発した言葉によって壊される。

 そんな彼の様子を見て、柳沢は見切りをつけた。

 たび重なる敗北のショックで触手が精神を(むしば)み始めたらしい。

 イトナの触手を一ヶ月維持するためには、火力発電所3基分のエネルギーが必要だ。

 これだけ結果を出せないのだから、組織は金を出さなくなるだろう。

「さよならだ、イトナ。あとは一人でやりなさい」

 そう言って踵を返した柳沢を呼び止める声があった。

「待ちなさい‼︎ あなたそれでも保護者ですか‼︎」

「ちゃんと慰謝料払ってくださいよ‼︎」

 どんなに犠牲を払ってもお前だけは殺すと殺せんせーに告げ、柳沢はその場を後にした。

「それよりいいのかい? 大事な生徒を放っておいて」

 その言葉を聞いて、急いで殺せんせーはイトナを見る。

 暴走したイトナの触手が寺坂に向かって振るわれた。

 間一髪で殺せんせーが寺坂を突き飛ばす。

 その隙にイトナは走り去ってしまった。

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