トリップ先のあれやこれ(完結)   作:青菜

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第24話

 体感シミュレーションゲームであるコクーンのお披露目パーティーは、日本の権力者達が一堂に集まる豪華なものだ。

 しかし、照明が落とされたコクーンが設置された部屋には不穏な空気が流れている。

 ノアズ・アークと名乗る声が、コクーンの体験者に選ばれた権力者の血縁者の子供達に命懸けのゲームを行ってもらうと告げたからだ。

 お迎え課に菜々が連絡し終わった頃、会場が騒がしくなり始めた。

 ノアズ・アークがゲーム内の音声を聞こえるようにしてくれたため、子供が脱落してしまった事を知った親が悲痛な声をあげている。

 会場を見渡してみると、顔がこわばった者がほとんどだと分かる。

 平静を保っているのは、いざとなったら律がなんとかしてくれると知っている菜々達だけだ。

 妻と思われる女性に叩かれて笑っている男性のような物体をつけたメガネもいるが、あれは平静を保っているとは言えないだろう。メガネの付属品に手を挙げている女性が学生時代のバイト先の店長だと気がついたが、菜々はスルーする事にした。

 

「そういや、寺坂の元上司の孫もコクーン体験者だよね」

「ああ、小百合か。あいつなら大丈夫だろ」

 全てのステージの声が聞こえてくる中、会場の端に移動しているカルマと寺坂は知り合いの少女の声を聴き分けようとした。

 意識を研ぎ澄ましたところで横槍が入ってくる。

「すみません、その子の事詳しく教えてもらって良いですか?」

 普段よりも数段目つきが悪い鬼灯だ。自分で切っているせいで少し長めの髪はオールバックにされており、真っ黒なスーツを身にまとっている。第一印象は裏社会の人間だった。

「そういや加々知さん、すごい眠たそうだけどどうしたの?」

「一時的に人間っぽくなれる薬の副作用です。眠くなる成分が入っていないやつはあることはあるんですが一時間分で四十万で……」

「ふーん」

 

「でも、菜々は眠そうじゃなかったじゃない。私と会った時は既に鬼だったんでしょ?」

 カルマと寺坂が小百合という少女について鬼灯に説明している横で、イリーナが菜々に尋ねる。

 一つに束ねられた金髪と体のラインが分かる真っ赤なドレスがよく似合っていた。とても二桁の娘がいるようには見えない。

「あの時は稲荷の狐に化かして貰ってたんですよ。地獄としては私なんかにわざわざ高い薬代を払うメリットが特になかったので、本来なら地獄に移り住まなくちゃいけなかったんです」

「なるほど。まだ子供だったから強くは言われなかったけど、大したメリットもないのにバカ高い薬代は出してもらえなかったと」

「はい。だから解決策として狐の化かしを使わして貰ったんです。理由は他にも色々ありましたけど」

「今ではちゃんと仕事で現世に来てるから薬を使ってるのね。でも、狐に化かしてもらった方が楽なんじゃない?」

「でもその狐、かなり偉いんですよ。毎回崇めてお供え物を用意する必要がありました」

 実際は、無理な頼みをする時に土下座をし、賄賂の高級ケーキを渡していただけだ。

 ただ空狐であるソラが偉いのは本当で、妖力は妖狐の中で最上位でありその気になれば何百年と続く祟りだって起こせるらしい。

「でも、どうせアンタの事だからぞんざいに扱ってたんでしょ」

 菜々は笑ってごまかした。

 

 

 *

 

 

 (まゆ)のような形をしたコクーンに入って目をつぶった座敷童子達が次に目にしたのは、五つの分かれ道と自分達と同じコクーン体験者、先に広がる闇だった。

 あぐりが善意でくれた洋服の着用を断り、駄々をこねてまで服を買いに連れて行ってもらった甲斐があって彼女達は普通の洋服を着ている。

 一子は小さなリボンがついた真っ白なワンピースの上に灰色のパーカーを羽織っており、スパッツを履いている。一方、二子は黒と白のボーダーシャツに胸当てとサスペンダーの付いた短いズボン。黒いニーハイソックスを履いている。

 共通しているのは動きやすさ重視のスニーカーを履いていることと、小さなリュックサックを背負っている事だ。

 

『今から五つのステージのデモ映像を流すから、自分が遊びたいと思う世界を選んで欲しい』

 コナンが、彼を心配して園子から参加券を譲ってもらった蘭と、交渉によって参加バッジを手に入れた少年探偵団と落ち合った時。ノアズ・アークと名乗る声が説明を始めた。

 これから始まるゲームへの期待で輝いていた子供達の顔は、次の言葉を聞いて凍りつく。

『でも一つだけ注意しておくよ。これは単純なゲームじゃない。君達の命がかかったゲームなんだ』

 

 全員がゲームオーバーになるとプレイヤーは特殊な電磁波を流され、頭を破壊されるらしい。

 情報を脳で処理し切れていないのか、呆然と立ちすくむ子供達のことはお構いなしにノアズ・アークはステージの説明を始めた。

 七つの海に繰り出して数々の冒険に挑戦する「ヴァイキング」。

 カーレースで優勝を目指す「パリ・ダガール・ラリー」。

 優れた武器や防具を手に入れて殺し合いをする「コロセウム」。

 トレジャーハンターになって宝を探す「ソロモンの秘宝」。

 ジャック・ザ・リッパーを捕まえる「オールドタイム・ロンドン」。

 

 デモ映像が終わると、水面に石を投げ込んで波紋が広がるように子供達が反応を示し始めた。不平不満を垂れる者、助けてくれと泣く者。

「皆元気を出して! 勝負する前から諦めちゃダメ!」

「そうだよ! たった一人ゴールにたどり着けばいいんだから。これから自分が生き残れそうなステージを選んで!」

 状況適応力が高い蘭とコナンが真っ先に指示を出す。伊達に米花町で十七年間も生き抜いてきたわけではないらしい。

「どうする?」

「第一優先が江戸川コナンの観察なんだから、あの子が選んだステージを選ぶべき」

「うん。そうだね」

「おい! これは私の意見だけど、オールドタイム・ロンドンを選ぶべきだと思う。あのステージが最も危険性が低い!」

 小声でヒソヒソと話し合っていた座敷童子に声をかけた少女がいた。

 硬質で黒い髪は肩までの長さで、今回のために無理やり整えられたのだろうが本人の手でグチャグチャにされてしまう。

「悪い。いつも通りじゃないと落ち着かなくて……」

 長ズボンのポケットからとりだしたゴムで今さっきグチャクチャにした髪を適当に一つに縛りながら少女は話し続ける。

「私は小百合って言うんだ! 二人とも迷っているように見えたからつい……」

 ニカッと笑い、手を差し出してくる小百合。

 釣り上がり気味の彼女の目を見てから、座敷童子達は順番に差し出された手を握った。

「私、一子」

「私は二子」

 コナンがオールドタイム・ロンドンを選んだのをさりげなく確認してから、座敷童子は自分達も最後のステージを選ぶと告げた。

 

 

 ステージの名前が書かれている岩で作られた門の前に三人が行くと、他の者は既に到着していた。

 少年探偵団達と蘭以外にも参加者がいるようだ。

「これはこれは小百合さん、お久しぶりです」

 ナヨっとした印象を受ける少年が、小百合に(うやうや)しく頭を下げる。彼の名前は菊川清一郎。狂言師の息子だ。諸星の取り巻きの一人でもあり、先程会場でサッカーをしていた。

 小百合は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「政治家の孫だからってそんな事されるの嫌いなんだけど……」

「え⁉︎」

「小百合ちゃんって政治家の孫なの⁉︎」

 一子と二子が反応したが、小百合は嫌そうな顔を隠せなかった。普通に接してくれていた相手でも、祖父の職業を知ると急に距離を置いてくることがよくある。率直な感想はまたか、だった。

 しかし、二人の反応は小百合の予想の斜め上を行った。

「だったら将来は政治家?」

「おじいさんのコネで高い役職について、ゆくゆくは影で日本を操ってよ」

「「そして社畜ばかりの日本をどうにかして欲しい」」

「は?」

 小百合は間抜けな声を出した。

「私の保護者達も仕事が大変なの」

「文字が3Dに見えちゃう人もいるし、上司を叩いて仕事させてる人もいるの」

「ガンダム作ろうとする大人やストーカーっぽい事やってるタコもいるけど、基本的には皆良い人なの」

「だからちゃんと休んで欲しい」

「やばい奴らの集まりじゃねーか」

 無表情で語っている座敷童子に小百合は思わず突っ込んだ。

 

 諸星とその取り巻き達は顔色を悪くする。

 ずっと周りが守ってくれていたのでやばい大人の対処法を知らないのだろう。しかし、彼らで無くとも恐怖を覚えるのは当然とも言える。現に、歩美達小学一年生もなんとも言えない顔をしている。

 

 一方、コナンは考え込んでいた。

 一子、二子と適当すぎる名前を聞いた時からどこか彼女達に既視感を覚えていたのだ。

 その理由がやっと分かった。この前出会った加々知鬼灯と名乗った男性と彼女達がどことなく似ているのだ。

 それに、先程彼女達が語った保護者の仕事も気になる。

 ブラック企業に勤めていることは間違いないが、ガンダムを作ろうとしたりタコがいたりと理解できない内容も多い。

 ストーカーっぽいタコとは人体実験の被害者で、組織から逃げるために情報を集めているのでははないか。現実味のない予測が思い浮かぶ。

 だとすると彼女達は何なのか。

 親がいないかのような発言、保護者が二人以上いるであろう発言。大きな組織で養われている可能性が高い。

 ガンダムを作ろうとしていると言っていたが、それは幼い子供達に対する嘘で本当は兵器などの危険物の可能性も十分ある。

 

「……灰原」

「ええ。分かってるわ」

 双子の少女には十分警戒すべきだ。短いやり取りでそう伝える。

 

 加々知鬼灯と双子の少女の共通点である、表情の乏しい顔と恐怖すら覚える真っ暗な瞳。

 彼らは黒ずくめの組織と何か関係があるのではないか。コナンは結論にたどり着き、目を見開いた。

 気になって加々知にたくさんの質問をぶつけた朝(もっと前かもしれないが)彼は違和感を感じたのだろう。

 そこでコナンについて調べた。もしかしたら工藤新一に辿り着いているかもしれない。

 一つ言えるのは、加々知は組織の人間に「江戸川コナン=工藤新一」だと伝えていないという事だ。

 まだ組織からそれらしい探りを入れられていないためそれは間違いない。

 

 コナンは座敷童子を盗み見る。

 彼女達は組織の実験に利用されているのだろう。もしかしたら人体実験の被害者かもしれない。

 表情の乏しいのは、過酷な環境で生きていく上で表情筋が仕事をしなくなったから。

 ここまで考えて、もしかして加々知も人体実験の被害者ではないかとコナンは思いついた。

 

 モルモットだったが、才能を見込まれて組織の仕事をするようになった。

 同じ境遇のため人体実験の被害者である子供達に慕われており、江戸川コナンの観察に協力してもらっているのだ。

 コナンの頭の中ではありもしない男の壮大な人生が構成されていた。菜々に昔から変な事を刷り込まれてきた結果かもしれないし、思春期特有の反応なのかもしれない。

 

「ちょっと江戸川君、大丈夫⁉︎」

「必ず尻尾を掴んで、元の体を取り戻してやる! おっと、今はゲームのクリアと殺人事件のヒントを探さないといけないんだった」

 灰原の声を聞いていないのか、コナンはブツブツと独り言を言っていた。彼の中では「鬼灯=黒の組織の人間」「座敷童子=黒の組織によってなんらかの実験をされている子供」という式が出来上がっていた。

 

 

 *

 

 

 いきなり光り始めたゲートをくぐると、レンガ造りの家が並ぶ街に出た。ゲームの中に入ったのだと実感できる。

「なんか空気も汚れているみたい」

「臭いもするぞ」

 嗅覚もゲームに支配されるというのは本当らしい。少年探偵団が疑問をこぼすとコナンが、ロンドンの霧とはスモッグの事だと答える。

「へー。こんな時代からスモッグってあったんだ」

 小学一年生が当たり前のようにスモッグという言葉を使っていることに座敷童子は戦慄した。これが米花町クオリティー。

 だべりながら歩いていると、遠くから耳をつんざくような女性の叫び声が聞こえてきた。

「ジャック・ザ・リッパー!」

「おい! 単独行動は危険だ!」

 一人で駆け出したコナンに小百合が声をかけるが、彼は足を止めなかった。

 

 慌てて追いかけた皆が真っ先に目にしたのは足を抑えて痛がっているコナンだった。

「阿笠博士の発明品もゲームの中では使えないってことね」

 数メートル先に落ちている空き缶と、もはや姿が見えなくなったジャック・ザ・リッパーから灰原は結論を出す。

「ああ、このメガネもアンテナは伸びるけどただのメガネで、この時計もただの時計ってわけだ」

 武器を常に持っている事をあっさりと認めたコナンに突っ込むことはせず、座敷童子はリュックに入れていた、菜々に渡された武器を一つ一つ確認し始める。

「これも使えない」

「これもダメだ」

「なんでそんなにも危険物持ってんだ?」

 小百合の質問には答えずにチェックを終えた座敷童子は一度外に出した持ち物をしまう。それが終わり、二人がリュックを背負った時には一度移動しようという話になっていた。

 

 目の前を歩いている小百合の首筋に、一子はボールペンの形をしたものを当てる。

「駄目だ。このスタンガンも使えない」

「私で試すな!」

「小百合ちゃんなら使えたとしても大丈夫かなって」

 無表情で笑う座敷童子達。

「昔聞いたことがある。たしかあれは博士の発明品だ!」

「え?」

 小声で呟いたコナンに灰原が聞き返す。

「なんであの子達がそんな物持ってるの?」

「……さあな。博士って変な知り合いが多いから多分知り合いの知り合いとかだろ」

 もしかしたら阿笠がそうとは知らずに黒ずくめの組織に発明品を売っているのかもしれないとコナンは思ったが灰原には言わないことにした。座敷童子や加々知の正体の予想も伝えていない。下手な心配はかけたくないという彼なりの気遣いだった。

 

「ったく。犯人を捕まえろったってどこを探しゃいいんだよ!」

 橋で休憩していると諸星秀樹が文句を垂れる。

 コナン、光彦、元太が薄着だった歩美、灰原、蘭に上着を貸した時、阿笠の声が聞こえてきた。通信に成功したのだろう。

『よく聞くんじゃ! そのステージでは傷を負ったり敵や警官に捕まるとゲームオーバーになるぞ‼︎』

「他のステージにも連絡とってるのかな?」

「取ってないんだったら明らかにこのステージにいる誰かに肩入れしてるよね」

 座敷童子の話し声に、阿笠は一瞬言葉を詰まらせたがすぐに話し始める。

『今君達がいる場所はイーストエンドのホワイトチャペル地区じゃ! そこからお助けキャラがいるベーカー・ストリートまではーー』

 急に声が聞こえなくなり子供達が問いかけた瞬間、橋が壊れ始めた。

 

 一目散に駆け出すが、走るのが遅かったのか菊川清一郎が落ち始める。

 とっさにコナンが左腕を掴み、小百合が右腕を掴んだ。

「つかまって!」

 菊川の腕を掴んだ二人を皆が支えて、なんとか菊川を引っ張り上げる。

 ただ傍観するだけだった警視副総監の孫である諸星秀樹、銀行頭取の孫である江守晃、与党政治家の息子である滝沢進也の三人は言葉を失っていた。

 友人であるはずの菊川を助けようとしても我が身が可愛くて動けなかった。

「あいつら何もしなかったね」

「うん。後で鬼灯様に叱ってもらおう」

 土偶のような目で三人を見つめる座敷童子。

 様呼びであることから、やはり彼女達は普通の家庭で暮らしているわけではないと確信するコナン。彼は勘違いを加速させていた。

 

 

 *

 

 

 阿笠の言葉と、先程「レストレード警部」という名前を聞いたことによってここはホームズがいる世界だとコナンが気がつき、ホームズを訪ねることになった。

「おい、あの時計ちょっとおかしくねえか?」

 ズボンのポケットに両手を突っ込んで取り巻き達に囲まれて歩いていた諸星秀樹はビック・ベンを見上げている。

「そうか、あれはゲームに参加している子供の数だ!」

 五十から四十八に戻ったのを見てコナンは時計の仕組みに気がついた。

「二分戻ったってことは」

「誰か二人別のステージでゲームオーバーになったのね⁉︎」

 

 再び歩き出すが警官があちこちうろついている。物騒な世界にきてしまったのだと、皆が実感しているとアコーディオンを弾きながら歌っている薄汚い男が現れた。

 死にたくなければ血まみれになれという物騒な歌。コナンは頭の片隅に留めておく事にした。

 

 無事ホームズの下宿先にたどり着いたが、ノアズ・アークに先手を打たれてホームズが出かけていた。

 しかし、その事を教えてくれた下宿の女主人であるハドソン夫人は、コナン達をベイカー・ストリート・イレギュラーズ(ホームズの手伝いをする浮浪者の少年達)と間違え、中に招き入れてくれる。

 

 赤を基調としたホームズの部屋はまるで本の中から飛び出してきたかのようだった。

 壁にある銃弾で刻み込まれたVRの文字。実験器具で埋まっている小さな机。積まれた本。暖炉のそばにある丸い机と二つの肘掛け椅子。

 ハドソン夫人がお茶を淹れに行ってもなお部屋を散策する少年探偵団達に対し、一子が口を開く。

「今のうちに資料を探すべき」

「ホームズが犯罪者の資料を集めている事を知ってるってことは、お前もホームズ読んだ事あるのか⁉︎」

 黒の組織がどうだとかいう推理を忘れてコナンは嬉々として問いかける。彼はシャーロッキアンに悪い奴は居ないと考えている人間だった。

「読んだことはないけど、ホームズについて話は聞いたことあるよ」

「事件解決のために依頼人の目を気にすることなく這い回ったり、自分の信じる正義のためなら法を破る事もためらわなかったり、ある意味やばい人だって聞いた」

「ちょっとその話を聞かせてくれた人について教えてくれ。決闘を申し込む」

「いや、何やろうとしてんだよ。つーか資料探せよ。ちゃんと文字が日本語になってるぞ」

 資料を漁りながら小百合が突っ込む。

「大丈夫だ。俺たちの学校に伝わる伝説の人物が週一で教師と決闘してたらしい」

「え、何その学校……」

 権力者の子供達は全員引いた。

「そういや帝丹小学校って伝説多いよな」

「知ってますか? その伝説作ったのってたった一人だったって噂があるんですよ!」

「えー、すごいけどその人には会いたくないよね」

「江戸川君、あの話って本当だったの⁉︎」

「ああ、本当だ……」

 楽しそうに話す少年探偵団。蘭は昔を思い出して遠い目をしていた。

「とにかく資料探そう」

「まずはベッドの下とタンスの引き出しの下だね」

「なんでエロ本の隠し場所あるあるを真っ先に調べようとしてんだ……。お前らも突っ込めよ! サッカーボールは置いておけ!」

 諸星秀樹は興味を示さなかったが、その取り巻き達は会場にサッカーボールを持ってきていただけあって、百年前のサッカーボールを前にはしゃいでいた。

「うん。確かにずっと突っ込んでると疲れるよね。私もそうだった……」

 蘭と小百合が不思議な絆で結ばれた時、探し始めたばかりのコナンがジャック・ザ・リッパーの資料を見つけた。探偵とは探し物が上手いらしい。

 

 ――一番最近起こった事件は九月八日。二人目の被害者はハニー・チャールストン。一人暮らしの四十一歳の女性。

 遺体発見場所はホワイトチャペル地区のセント・マリー教会に隣接する空き地。

 殺人現場の遺留品は二つのサイズの違う指輪。

 ロンドンを恐怖のどん底に突き落としたジャック・ザ・リッパーは、前代未聞の社会不安を引き起こした点から悪の総本山、モリアーティ教授につながっていると私は確信している。

 

「モリアーティ教授⁉︎ アイツまでゲームに登場するのか⁉︎」

「誰だよそいつ。自分だけ納得するなよ」

 資料の最後の一文を読んで驚きの声をあげたコナンに滝沢進也が文句を垂れると、すかさず二子が答えた。

「確か滝に落ちたラスボスだよ」

「間違っちゃいねーけど……。ホームズの宿敵で、ロンドンの暗黒街を支配下に置き、ヨーロッパ全土に絶大な影響力を及ぼしていると言われている、犯罪界のナポレオン! それがモリアーティ教授だ」

「でも、モリアーティ教授は裏で糸を引いているけどなかなか姿をあらわさない人物よ。どうやってたどり着くの?」

 新一のせいで準シャーロッキアンになってしまっている蘭が尋ねるが、コナンは自信満々といった様子だ。

「教授が姿を現さないのなら、彼につながる人物と接触するんだ。セバスチャン・モラン大佐に!」

 その後、灰原が見つけたメモによって、大佐が根城にしているのはダウンタウンのトランプクラブだと判明した。

 

「うっひょーっ!本物の銃だぜ!」

 早速モラン大佐の元へ向かおうという話になった時、机の引き出しから元太が拳銃を見つけた。

 はしゃぐ元太とは対照的にコナンは険しい表情をする。

「戻すんだ! 元太!」

「でもよー、おっかない奴に会いに行くんだろ?」

「使い慣れていない武器は役に立たないし争いの元だ! 置いていけ!」

「お、お前の方がおっかねえなぁ……」

 そう言いつつ、元の場所に拳銃を戻す元太。

「ナイフくらいは欲しいよね」

「どこかにないかな」

「おい、話聞いてたか⁉︎」

「大丈夫。私達使い慣れてるから」

 小百合は彼女達が持っていた数々の武器を思い出して納得した。

 コナンは殺人現場の遺留品である二つの指輪の写真を剥がしていたので、三人の会話に気がついていない。ホームズの部屋に居るのではしゃぎすぎて警戒心が緩んでいるようだ。

「さあ、早く行こうぜ!」

 コナンの声に従って皆が部屋を後にし始めた時、諸星秀樹が人目を盗んで拳銃をベルトに挟んだ。

 滝沢進也が咎めるような声をあげるが諸星秀樹はどこ吹く風。

「自分の身は自分で守らないとな」

 

 コナンがハドスン夫人に今から出かけることを伝えている時、座敷童子達は話し合っていた。

「なんか増えてるね」

「うん増えてる。ゲームが終わったらすぐに報告しないとね」


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