トリップ先のあれやこれ(完結)   作:青菜

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誤字脱字報告ありがとうございました! すごく助かりました。


※ルポライターの藤岡が酷い目にあいます。少数派だとは思いますが、彼のファンの方はご注意ください。



第28話

 ウェイターに変装していたキッドは蘭に正体を見破られてしまった。飛行船に乗る前に蘭が作業員に渡した、「新一LOVE」の文字が小さく書かれた絆創膏を肘に貼っていたからだ。

 とっさに素顔を見せて、自分は工藤新一だと言い張るキッド。素顔が瓜二つであることを利用したのだ。

 盗み聞きしたコナンの思い出話を語ったおかげで蘭に信じてもらうことができ、キッドは難を逃れる。

「じゃあな……」

「ねえ……」

 蘭の声にキッドは足を止めたが、ルポライターである藤岡の姿を見てウェイターとしての仮面を被りなおした。

 キッドが藤岡に頭を下げると、蘭が目を伏せて伝えてくる。

「私、信じてないから……」

「では失礼します」

 キッドは踵を返して階段を降り始める。緊急事態だったとはいえ、訳ありらしい工藤新一の名を借りてしまったのだから、後でなんとかしなくてはならない。どうするべきかとキッドが思考にふけっていると、蘭が飛びのいた気配がした。

 どうやら、藤岡が勝手に蘭の両腕を掴んできたらしい。すぐに距離を取ったので何もされなかったようだが、彼の目的は分からないし気に留めておいた方がいいだろう。

 キッドは歩みを止めずに、新たにビックジュエルを盗み出す算段を練り始めた。蘭に正体を見破られたことで計画に狂いが生じたのだ。

 

 

 *

 

 

『天界に問い合わせてみたら、豪福寺にある複数の仏像に神が宿っていることが分かりました! それと、赤いシャム猫を名乗る組織の目的――仏像を盗み出す計画を告げたら、飛行船ごと犯人達に天罰を与える方向性で話が進み始めたので、こちらで後始末すると提案しました!』

 黒の組織を潰し、寿命を狂わせる薬を闇に葬るには、コナンに動いてもらうのが一番だ。天罰が下る前に飛行船を脱出することはできるが、コナンが巻き添えで死んでしまうのは痛い。

 盗一に割り振られた部屋の中央に置かれたソファーに腰掛けて、鬼灯達は携帯電の画面に映った律からの報告を受けていた。

「なるほど。では役割を決めましょう。盗一さんは一応休暇中なので自由行動。菜々さんは爆弾の解体および、主犯格である藤岡さんが雇った傭兵の無力化。金で雇われた傭兵達が乗り込んできた時、私は人質になって灰原哀さん達を観察します」

「私の仕事多すぎません?」

「だって金棒ないし、あったとしても使ったら相手が死んでしまいますし……」

「金棒使う以外に選択肢ないんですか⁉︎」

「六十三点!」

 盗一のツッコミに菜々がすかさず点数をつけた。反応速度は新人にしては良かったが、表情が物足りない。

 

 

 *

 

 

 部屋を後にした三人はダイニングに戻り、出されたケーキを頬張っていた。ケーキは乗客全員に振る舞われ、小五郎に至ってはビールを飲んでいる。

 ウェイターに扮したキッドを工藤新一だと思い込んでいる蘭は、彼の様子をチラチラと伺っている。園子に指摘されるまでは穴があくのではないかと思うほどしっかりと見つめていた。何かあるのだろうが、面倒なので菜々は気に留めなかった。

「時間ある? できれば話し相手になって欲しいんだけど」

「ええ、良いですよ」

 盗一がキッドに話しかけた。八年ぶりの息子との会話だ。

 当たり前だが篁の姿を借りているので突っ込んだ話はできず、自然と世間話をし始めた。アルセーヌ・ルパンについて、マジックについて。

 怪盗キッドを彷彿とさせる話題だというのにコナンから疑われていないのは、前回彼が出会った「小野篁」という人物と怪盗キッドが結びつかないからだろう。「おさるのお尻は!」「真っ赤っか!」という合言葉をを菜々と叫び合い、「キッドがこんな事するはずがない」と中森にゴリ押しした後だったため、コナンはキッドの変装という線も除外している。

 

「マジックなら私もやりますよ。誰かに箱に入ってもらい、刀を刺すアレなら何回か成功しています」

 鬼灯が親子同士の会話に入った。

「それって何回か失敗しているって事だよね⁉︎」

 鬼灯から少し離れた場所にある椅子に腰掛けていたコナンがとっさに立ち上がる。

「入ってたのが菜々ちゃんだったら何にも問題ないだろ」

「かすり傷一つなく出てきそうだ」

「多分刀が折れる」

 中森と小五郎、次郎吉が三人して何か言っていたが、菜々は空耳だと自分に言い聞かせて席を立った。

 もうすぐテロリストの仲間が飛行船に乗り込んでくるはずだ。

 

 

 *

 

 

 菜々がダイニングを後にし、本物の小学生である探偵団のメンバーも部屋でトランプをすると言って、わざとらしく退出する。

 駆け足でどこかに向かう子供達の足音が聞こえなくなったと思ったら、携帯電話の着信音が鳴り響いた。着信音が聞こえてくるのは次郎吉が不思議そうな顔をして画面を眺めているスマートフォン。登録されていない番号からの電話なのだろう。

「……もしもし」

『飛行船の喫煙室に殺人バクテリアをばら撒いた』

「何⁉︎」

 次郎吉のすぐ横にいた中森が眉を歪める。

「何をたわけた事を!」

『左側のソファーの下を見てみろ』

「おい、待て!」

 電話は一方的に切られた。

 ただのいたずら電話だとごまかすと、次郎吉は中森に目配せをする。中森は小さく頷いた。キッド対策でガスマスクは持ってきている。

 

 

 喫煙室に向かった刑事と次郎吉はダイニングに戻るとすぐ、電話の内容とその話は本当らしいと皆に伝えた。

 本庁に確認し、喫煙室のソファーの下に落ちていたアンプルは研究所を襲った者達が落としていったものと同じだと判明したらしい。マスコミにはこの話を伏せているので模倣犯の可能性はない。

「ともかくさっきも言ったように、Bデッキの喫煙室は封鎖――」

 中森の声は情けない悲鳴にかき消される。顔、首、両腕、手のひらと体全体が赤くなった藤岡のものだ。

「発疹⁉︎」

「まさか感染したのか⁉︎」

「そういえばあの方、さっき喫煙室に……」

 具合が悪い、死にたくないと呟きながら、藤岡はヨロヨロと中森に近づいていく。

 声をかけても止まらなかったので、蘭は藤岡の鳩尾を殴って気絶させた。

 よく見かける光景なので米花町民はなんとも思っていないようだが、江古田町民の中森はちょっと引いた。

 しかし、己が刑事である事を思い出し、中森は現状確認に努める。なぜか小五郎は二つ名の通り眠りこけているため、彼が率先して動かなくてはならないのだ。

「他に喫煙室に入った者は?」

 阿笠が蘭に消毒を勧めていると、今度は女性の悲鳴が上がった。

「ほ、発疹が……右手と左腕に……」

 倒れているポニーテールのウェイトレスを見てコナンは顔色を変えた。先程、元太が彼女にくしゃみをかけられていた事を思い出したのだ。

 研究所から盗まれたのは飛沫感染でうつる殺人バクテリア。嫌な予感しかしない。

 一方、鬼灯は蘭の容赦のなさに獄卒としての適性を見出し、盗一は息子と接触できる喜びを噛み締めながらポーカーフェイスを保っていた。

「どこか二人を隔離できる場所は?」

「それなら、診察室の奥にある病室がある。今回医者は乗せとらんが、そこなら外から鍵をかけられる」

 そんな会話を中森と次郎吉がしている頃、コナンはダイニングを抜け出し、元太達を探していた。

 

 

 *

 

 

「元太! オメー、体は大丈夫か⁉︎」

 立入禁止区域で探偵団の皆を見つけたコナンは、すぐさま元太に駆け寄った。発疹はまだ出ていない。

 コナンは安堵の息を吐いてから何が起こったのかを掻い摘んで話そうとしたが、遠くに怪しげな人影を見つけて小声ではあるものの声を荒げる。

「隠れろ!」

 犯人追跡メガネのズーム機能で確認すると、飛行船の真上に出ることができる扉のロックを開ける者がいた。遠目なのでよく分からないが、おそらく男だろう。

「誰ですか、あの人?」

「キッドの仲間か?」

 光彦と元太が口々に尋ねる。

「いや、あれは多分赤いシャム猫の……」

 答えかけてコナンは男の目的に気がついた。できるだけ早く扉に向かう。子供の小さな歩幅が恨めしい。

 しかし、一歩遅かった。コナンが扉に続くハシゴを登ろうとしたところでヘリコプターの羽音が耳に届いたのだ。

 ヘリコプターに乗った何者かがたどり着く前に扉を閉めるのは無理だと判断し、仲間が身を潜めている場所に戻る。

 やがて入り込んで来た武装集団に、コナンは彼らの目的を察する。おそらくハイジャックだ。ハイジャックをする理由は展示してある宝石目当てか、目立ちたいのか、何か他の目的があるのか。はっきりしないが、一つだけ分かることがある。彼らに見つかるのはまずい。

 男達の動きを読んで、どう動くべきかコナンが指示を出し始めた。

 

 

 *

 

 

『乗務員全員に告ぐ! 至急ダイニングに集まるように!』

 そんな放送が聞こえた。やはりハイジャックだ。灰原と探偵団バッジで連絡を取ったが間違いない。この推理は外れていて欲しかった。

『警察に連絡しろ。ただし、少しでも妙な動きがあれば飛行船を爆破する。そう伝えろ。間違っても俺達を捕まえようと思うなよ。喫煙室だけでなくこのキャビン全体に殺人バクテリアが飛び散ることになるからな』

 探偵団バッジから聞こえてきた犯人の要求にコナンは眉をひそめる。殺人バクテリアと爆弾。どちらか一つだけでも十分乗客を言いなりにできるはず。

「どうします、コナン君?」

「それよりもまず爆弾の解除だ」

 コナンは思考を一時止め、指示を飛ばす。

「それと、オメーら喫煙室に入ったりしたか?」

 コナンは探偵団の反応から入ってしまったのだと悟る。

 ちょっと覗いただけだ、中には入っていない。コナンを安心させようと笑って声をかけてくれるが、コナンは不安をぬぐい去れなかった。歩美と光彦はともかく、元太は感染者にくしゃみをかけられている。

「爆弾は全部で四つだ。そのうち二つは、下の通路の後ろ半分、燃料タンクの近くが一番怪し……菜々さんなんで居るの⁉︎」

「爆弾は全部解体したよ。でも、コナン君達が居るとは思わなくて、犯人達をおびき寄せるような行動しちゃった」

 皆は爆弾が全て解体されたことに喜んだが、コナンは菜々が何をしたのか気が気でなかった。

「何やったの⁉︎」

「厨房からこっちに来るときに見かけたハイジャック犯を気絶させて簀巻きにしただけだよ」

 この場に続くようにハイジャック犯が転がされているのだとしたら、その仲間がここに来るのも時間の問題だろう。子供達が危ない。コナンはどうするべきか一瞬で答えを出した。

「分かった。元太達は隠れてろ。俺は戦う。で、菜々さん、厨房で何やってきたの?」

 探偵団からブーイングが起こるが、コナンは気に留めない。菜々が厨房で何をしてきたかの方が重要だからだ。

 菜々の性格上、相手が親しい者でない限り、人の食べ物をくすねるようなことはしない。つまり、厨房で何をやってきたのかが謎なのだ。

「安心安全な拷問ができるかどうかの確認」

「拷問⁉︎」

「もしもの時はちょっと脅して情報吐いてもらうだけだよ。米花町ではよくあることだから大丈夫」

「……来た!」

 複数の足音が聞こえたので、コナンは会話を中断して小声で告げる。

「コナン、俺達も……」

「足手まといになるだけですよ、元太君」

 菜々は彼らの会話を聞いて戦慄した。「足手まとい」なんていう言葉を知っている六歳児はどれだけいるのだろう。そもそも、このような状況で平静を保っているだけでも異常だ。

 菜々は彼らくらいの歳の時の自分を思い出してみた。う◯こう◯こ言っていた記憶しかない。

 今度は、二度目の小学生生活を思い出してみる。やっぱりう◯こう◯こ言っていた。違うのは、高校物理の内容を用いて教師にいたずらをしようとしていたことくらいだ。

 少年探偵団は主人公の周りにいるから頭が良いだけだという説を思い浮かべたが、よくよく考えると、小学生が斜方投射云々言っていても気に止められない環境だ。多分米花町ごとおかしいのだろう。

 友人の幼少期を思い出してみる。そこらへんの大人よりも正義感が強かった小学生、ハッキングができる小学生、日本中を巻き込んだ騒ぎを止めた小学生。

「米花町やっばい……」

 菜々は無意識のうちに呟いた。しかしすぐに思考をハイジャック犯に対するものに切り替え、小学生の時の友人が少ないことからは目を背けてコナンに話しかける。

「コナン君も皆と隠れてて」

「でも……!」

「相手は銃を持っている。流れ弾がどこかに当たるとまずいから銃を撃たせる前に敵を倒さなくちゃいけない」

「……分かった」

 菜々が負けるとは考えられない。銃弾は避けるか掴むかするし、もしも当たっても気にせず動くような奴だ。

 コナンは、菜々に任せるのが最善だと判断して探偵団と物陰に隠れた。

 

 

 *

 

 

 仲間から通信が途絶え、不審に思ったリーダーから様子を見て来るように頼まれた。通信が途絶えた彼らが居たはずの場所には、簀巻きにされて転がされた仲間。

 罠だとすぐに分かった。それと同時に、こちらが舐められているのだと思った。

 自分は命を懸けて戦ってきた傭兵だ。人を殺したことがないような奴に舐められる筋合いはない。

 男――キャットAは誰にも告げず、仲間を倒した人間がいるであろう場所に向かった。

 相手は仲間を倒した。しかし、キャットAにとってそのことはどうでも良かった。

 

 彼には誰にも話したことがない過去がある。自分たちを雇った男――藤岡と昔出会ったことがあるのだ。きっかけは、とある傭兵から錯乱担当として雇われたことだった。

 傭兵集団「群狼」のリーダーである、「神兵」の二つ名を持つ伝説の傭兵――クレイグ・ホウジョウ。彼にほんの短い間だけ雇われ、作戦の一部に協力した。

 傭兵の中で知らない者はいない程腕が立つ男に認められたのだと、キャットAは歓喜した。しかし、その感情はすぐに消し飛ばされた。

 ホウジョウと「群狼」のメンバーにとって自分達は取るに足らない、ただの使い捨てだった。自分達は殺されることで時間を稼ぐために雇われたのだと気がついたのは死と直面した時。

 それは藤岡達も同じだったのだろう。偶然に偶然が重なって九死に一生を得た時は、様々なことに気がつかされた。死にかけたことは何度もあったが、この時ばかりは全身が絶望に染まったのだ。

 生きていることの素晴らしさ、自分の弱さ。眠って次の日に起きれることが、綺麗な空気でなくとも息を吸っても死なない環境にいることがどれほど素晴らしいのか、死線を共にくぐり抜けた藤岡達と語り合ったものだ。

 その繋がりで今自分が所属しているグループに仕事が回って来た。

 

 キャットAは藤岡達と出会ったことを仲間に話していない。彼らに出会った時のことを話すなら、自分の最も情けない経験を話さなくてはならないからだ。

 あの日から、彼は足掻いた。暇を見つけては訓練をした。

 おかげで、今所属しているグループの中では一番戦闘能力が高い。他の能力にばらつきがあるためリーダーではないが、彼はいわゆるエースなのだ。

 そして彼は思う。

 あのような経験をした自分よりも強い奴が、平和な世界に生きていて金持ちと繋がりのあるような人間の中にいるわけがない。

 そんな驕りは一瞬で吹き飛んだ。

 

 息ができない。毒ガスの中を突っ切った時とはまた違う感覚。彼は喉がしまったのだと気がつくよりも早く、意識を手放した。

 

 

「もしもし? 私メリーさん。今、ダイニングにいないあなたの仲間を全員倒したところなの」

 銃を握っていた男の通信機に向かって、菜々はふざけた口調で話しかけた。

 

 

 *

 

 

「俺が行く! お前らはここに居ろ!」

「了解」

 女性の声に乗客は息を呑む。ハイジャック犯のリーダーに答えたのはボブカットのウェイトレスだったのだ。

「あの様子だと爆弾も解体されちゃたんだろうし、見張りが一人だけだと変な気を起こされるかもしれないじゃない」

 リーダーは舌打ちをすると、ダイニングから出て行った。女性の勝手な行動に苛立っているものの、彼女は正論を言っているだけなので言い返せないからだろう。

 

「ねえ、こっちには銃があるの。見張りが二人だけとはいえ、変なことはしなーー」

 拳銃を弄んでいた女性が吹き飛んだ。

 ものすごい速さで壁まで飛んでいき、頭を打って気絶する。

「……こいつッ」

 女性を殴り飛ばした鬼灯に男が銃口を向けるが、彼は引き金を引く前に蘭にかかと落としを食らわされて倒れこんだ。

「ありがとうございます」

「いえ。こちらこそありがとうございました」

 鬼灯と蘭が呑気にお礼を言い合っていると、上の方から小さな爆発音が響いた。

「菜々ちゃん何やってるんだ……」

 爆発音の原因が菜々だと信じて疑わない中森。

 敵が制圧されたことに沸き立つダイニング。そこから、ウェイターが一人消えたことに誰も気がつかなかった。要するに、宝石が展示してある場所をキッドが堂々と爆破したのに誰も気がつかなかった。

 

『ちょっと、やめてください!』

 敵が制圧されたことに乗客が喜び、万が一のために菜々の元に行こうと刑事が提案しようとした時。怯えた女性の声が聞こえて来た。

「菜々さんはリーダーの男も倒したみたいですよ」

 携帯電話を握った鬼灯の言葉を聞いて、中森は思考を巡らす。

「おい、声が聞こえて来た方向にあるのって……」

「ああ、診察室の奥にある病室じゃろう」

 神妙に告げる次郎吉。殺人バクテリアに感染したらしい藤岡とウェイトレスを隔離した場所だ。

 中森が一つの仮説を思いつくと同時に、女性の声がまたもや聞こえて来た。十八歳以上にならないと見ることができない動画で聞くことができる類の声だ。

「次郎吉おじさま、病室って何があるの?」

「そりゃ、ベッドとか……」

 ダイニングが何とも言えない空気に包まれる。

「とにかく、病室に向かった方がいい! 幸いテロリストは全員拘束されているんだから行動できる!」

「あの、私も行きます! ウェイトレスさん、あんなことされてるんだから、男の人には入って来て欲しくないかもしれないし……」

「……そうだな」

「あの、私も! 蘭みたいに強くはないけど、菜々が勝手に開いていた護身術教室にはたまに出席していたし」

「ああ、じゃあ先に君達が病室に入ってくれ。危険を感じたらすぐに知らせること。いいな!」

「「はい!」」

 蘭、園子、中森を含めた刑事数名が病室に向かうことになった。

 盗一は必死に笑いをこらえていたが、全く顔に出さなかった。

 

 

 *

 

 

「ウェイトレスさん、大丈夫ですか⁉︎」

「殺人バクテリアに感染してもうすぐ死ぬからか分からないけど……女性をお、襲うなんてサイテー!」

「待て! 誤解だ!」

 見ず知らずの女の人に手を出しやがった最低な奴――藤岡が何か言っていたが、蘭と園子は聞き流してウェイトレスに向き直った。

 服は乱れていないが手足を縛られ、猿ぐつわをされている。きっと藤岡の性癖だ。そうに違いない。

 性犯罪も多い米花町に住んでいる二人は慣れた手つきでウェイトレスの拘束を解き、安否を確認する。

「大丈夫ですか? 怖かったですよね……。どこか傷んだりとか……」

 ウェイトレスの背中をさすりながら声をかける園子。藤岡に向き直って構えを取り、睨みつける蘭。

「あなた……私だけじゃなくこの人にも変なことして! 絶対に許さないんだから!」

「蘭、何かされたの⁉︎」

「腕を掴まれていい筋肉だねって……。すごく気持ち悪かった!」

「俺は何もやってない! なぜか携帯の着信音が変な音声になっていただけだ!」

「じゃあなんでこの人縛られてるのよ!」

「なるほど、未成年に手を出そうとした筋肉フェチか……」

「菜々⁉︎」

 園子がいきなり現れた菜々に驚きの声を上げる。敬称をつけてくれないのはあいかわらずだ。

「でも、あれが携帯の着信音だったってのは本当だと思う。二人とも、ダイニングにいたけど女の人の声を聞いて駆けつけたんでしょ? 普通、ここからダイニングに聞こえるくらい大きな声を出せるかな?」

「「あっ」」

「そう。あれは携帯の着信音だった。それは本当。そして、それを設定したのはこの男。きっとあの着信音は自宅用だったんだろうね。誰かと電話をする直前、女性のあんな声を聞いて背徳感とかで快感を得ていた変態なんだ!」

 ドヤ顔でとんでもない推理をしている菜々だが、彼女が藤岡の着信音の変更を提案し、律が実行した。つまり、元凶はコイツである。

 バレないだろうし藤岡が無実の罪を着せられてもなんとも思わないし、これくらい酷い目に合わせておかないと盗まれる手はずだった仏像に宿った神の怒りを買うかもしれない。これらの理由から、菜々は藤岡に変態のレッテルを貼ることにしたのだ。

「蘭ちゃんの腕を掴んだのは、きっと後で思い出して汚らわしいことに使うため! ウェイトレスさんを縛るだけに留めたのは多分性癖!」

 女子高生から生ゴミと犬のフンのちゃんぽんを見る目で見られている藤岡は、自分の無実を証明しようと頑張った。

「あの着信音は俺じゃない! 設定を直そうとしてもできないんだ。見てくれ!」

 藤岡が突き出してきた携帯電話を菜々は手に取った。

「この携帯の待ち受け画像……!」

「待ち受け画像?」

 不思議そうな顔をした藤岡は、律が画面の写真も変更してから携帯画面を確認していないのだろう。

「裸の女性だ!」

「やっぱり変態!」

「近寄らないでよ!」

 自分の体を抱きしめ、女子高生たちは藤岡から距離を取る。

「ウェイトレスさん、男性が入ってきても大丈夫ですか?」

「ええ……」

「中森刑事! このケツアゴの人かなりやばいですよ!」

「ああ、全部聞こえてきた」

 中森はすでに手錠を取り出していた。

 

「あの、この人ハイジャック犯のボスですよ」

 面白そうだったのでここまで来た鬼灯が話に入ってくる。

「それと、この人達もハイジャック犯です」

 鬼灯は手を縛って連れてきたレポーターの西谷とカメラマンの石本をあごでしゃくる。

「ケツアゴさんが着信音をちゃんと変更していたら、かなりやばいことになっていましたよ」

 犯人達はそもそも殺人バクテリアを盗んでおらず、チラつかせていたのはジュースかなにかだという事を説明してから、菜々は律から聞いた話をあたかも自分で考えたかのように話し始めた。

 

 まず、ウェイトレスに扮していた女性が離陸してすぐ漆を喫煙室に撒き、ソファーの下にアンプルを置く。その後、藤岡はわざと漆にかぶれ、細菌に感染したのだと皆に信じ込ませた。

 また、後々邪魔になりそうな人物を感染者にして身動きを取れなくさせようとした。空手の実力者である蘭の腕を掴んだのもそのためだ。と言っても、八割はただの趣味だと菜々は睨んでいる。小五郎は喫煙室に誘おうとしたが、上手くいかなかったので、園子あたりに使ってイイコトをするために用意していた睡眠薬をビールに仕込んだ。

 藤岡以外の人の発疹は、喫煙室で何かに触れたために出たもの。

 おそらく、蘭達に発疹が出たら喫煙室まで運ぶ係の人間がいたはずだ。

 

「その人物こそキャットA。爪が黒ずんでいたので、元は漆職人だったんでしょう。どんな経緯でハイジャックをするに至ったのかは謎ですが、きっともの凄いドラマがあったはずです。多分映画作れます」

 鬼灯の脳内に存在する、裁判が楽しみな人間リストにキャトAの名前が加わった瞬間だった。

「そして、あの時かかってきた電話はリーダーからのもの。私に倒される前、彼が誰かに電話をかけていました。携帯電話を調べれば分かると思います」

「分かった。認める。確かに俺は奈良にある大仏を盗み出すためにこの騒ぎを起こした」

 藤岡はポツポツと話し始めた。

「なるほど……。この事をネットに流して、飛行船が煙を出しているかのように工作すれば、大阪付近の人間は逃げ出す。寺はセキュリティーが低いしな」

 中森が納得したことを表すかのように一つ頷いて呟く。

「でも、あの男が拘束している二人は仲間じゃない」

 どうやら藤岡は仲間思いのようだ。菜々の中で、彼のあごの割れ目に対する好感度が僅かに上がった。

「言い逃れはできませんよ。貴方達三人が傭兵チームを組んでいるってグレイス・ホウジョウさんから証言を得ています。中森刑事、あとで本庁に確認してみてください」

「グレイス・ホウジョウ⁉︎ どんな関係なんだ⁉︎ 言え!」

 藤岡は昔、彼の策略で死にかけた事を思い出して強い口調で問い詰める。部下の二人は顔面蒼白になっていた。

「部下を使って私の友達にセクハラしやがった奴で、昔戦った敵で、今では連絡先を知っている知人程度の関係です。あの人の部下が友達にセクハラしたのは仕事だったのでそこはいいんですけど、問題は私と鉢合わせた時に素通りしやがった事です。結局彼らが選んだのはクラスの中で一番発育が良い子でした」

 菜々から不穏な空気が流れ始め、藤岡は身構えた。お前友達いたのか、という感想は聞こえてこない。思っても皆口に出さなかったからだ。

「そういえばあなた、ホウジョウさんと知り合いなんですよね? やっぱり変態は変態を呼び寄せるのか……」

「おいコラどういう意味だ」

「あなたがこの飛行船をハイジャックした理由は分かっています! 蘭ちゃん、園子ちゃん、ウェイトレスの皆さん、歩美ちゃんに哀ちゃん。この飛行船は美形ばっかりですもんね。変な気起こすのも納得できます」

「おい、何か勘違いしてないか⁉︎」

 藤岡の昔からの部下であるはずの西谷すら、靴の裏にこべりついた茶色い排出物を見るような目で見てくる。藤岡はせめて無実の罪は晴らそうと頑張った。

 

 

 *

 

 

 菜々と藤岡の攻防は空が赤く染まっても続いていた。

「蘭ちゃんの腕を掴んだ。いい筋肉だと褒めた。これは加点ポイントだけど、蘭ちゃんの発育が良いことも踏まえると……。あなたは百点満点中二十五点です」

「何がだよ⁉︎」

「私が経験則に従って考え出したロリコン度診断」

「……その点数は高いのか? 低いのか?」

「ロリコンの可能性が高いが、ロリコンなのではなく好みが特殊、ストライクゾーンが広いなどの可能性もある」

「なんてもん作り出してんだ……。で、それだとお前の旦那はどうなるんだ?」

 睡眠薬の効き目が完全に切れた小五郎が口を挟んでくる。

「自称ルポライター()と同じ二十五点ですよ」

「は?」

 怒気を含んだ声が空気を震わす。いつも身を置いている戦場で何度も感じた形容しがたい存在を瞬時に認識した傭兵達の拍動は、心臓が耳の裏についているのではないかと思うほど強くなった。

「なんでそんな結果になったんですか」

 鬼灯のただでさえ低い声が余計低くなる。小五郎は、やはり彼は裏社会の人間なのではないかと思った。刑事達が散々調べたので、そんな事実は存在しないと頭では分かっていても、やはり可能性として考えてしまう。

「私に好意を持った時点で二十五点入るんですよ。今まで私が好意を寄せられたのって、鬼灯さんとドM野郎を除くと全員ロリコンでした」

 ちなみにドMの方は、菜々のバイト先の店長であり彼女の鞭の師匠でもあった女性とゴールインしている。人生何があるのか分からないものだ。

「ああ、確かにお前、見た目も中身も十四歳だもんな……」

 年頃の娘がいるせいか、どう見ても変態である藤岡が変な行動を起こさないようにと率先して彼を見張っている中森が呟いた。

「十四歳の時より身長は伸びてます。せめて十六歳って言ってください。あと、成長期はこれから来るはずなんです」

 無理だろ、と思ったが誰も口に出さないでおいた。突っ込むと意味のない口論が始まってしまう。

 

「私が初めて告白をされたのは六歳の時。町が夕日に染まる中、強引に裏路地に引きずり込まれ、息が荒くて目が血走ったヤベーおっさんから想いを告げられた後、犯罪臭ダダ漏れの提案をされました。全然嬉しくなかった」

 この時、菜々は男に目潰しを食らわせ、股間を蹴り上げた。哀愁を漂わせて語ってはいるが、そうしたいのは犯人も同じだろう。

 余談だが、菜々は駆けつけてきた巡査に「殺るかヤられるかだと思った」などと供述していた。巡査は目の前の六歳児が意味を理解して言っているのか悩み、意味を理解しているのだとしたらどのような反応をするべきか悩んだ。

「だろうな……」

 小五郎が相槌をうつ。

「しかもその時、恩師の殺害現場を目撃した数日後だったんですよ。私がどれだけ精神的にダメージを負ったか分かりますか? さらにその日から、定期的に同じようなことが起こる。このケツアゴも放っておいたら私みたいに哀れな子供を作りまくるんですよ!」

 藤岡を勢いよく指さした菜々。それを合図に、ずっと部屋の端で事の成り行きを見守っていた女子高生達が堰を切ったように話し始めた。

 米花町に住んでいるので他人事ではないし、変なことをされそうだった(ように見えた)ウェイトレスに感情移入しているので、藤岡逮捕のために協力を惜しまないようだ。

「目つきが気持ち悪かった」

「やけに胸を見られた」

「やっぱりロリコン」

 藤岡の精神をゴリゴリ削る女子高生達。

 自分の飛行船に変態が乗っていたことが許せないらしく、「落とし前はワシがつける!」と言い張って、この場に居座る次郎吉。

 たまに口を挟み、一言発するだけで藤岡に大きな精神的ダメージを与えてしまう鬼灯。

 拘束されているものの、さり気なく藤岡から距離を取ろうとする元部下。

 中森と一緒になって、藤岡の行動に目を光らせている小五郎。

「何このカオス……」

 大阪県警に今回の結末を伝え、西日本が混乱に陥ることを未然に防いだ中森の部下は思わず言葉を漏らした。

 

「ねーねー、刑事さん! おじさん達こんな所で何やってるの?」

 可愛らしい、メガネをかけた男の子が上目遣いで尋ねてくる。刑事は胃に穴があくのではないかと思った。

「向こうに行ってお友達と遊んでようね。子供はこんなもの見ちゃいけないよ」

「大丈夫だよ! 僕、死体とか見慣れてるし」

「米花町って……」

 これで三度目だ。

 刑事は心の中でため息をつく。

 毛利小五郎にいつも付いて回っているせいか、江戸川コナンと名乗った子供は疑問があると解決してしまいたくなるらしい。

 騒ぎの中心に行こうとする少年を見つけては「子供は見ちゃいけません」と刑事達がつまみ出していると、その対応が余計に好奇心を刺激してしまったのか、何度も来るようになってしまったのだ。

 ともかく、未来ある子供にこんな様子を見せてはいけないと、コナンを追い出そうとする刑事。負けじと、刑事達の隙を見つけては突進して来るコナン。

「コナンくーん! 何やってるの?」

 他の子供達も来てしまった。

「お、ちょうど良かった。オメーら、刑事さんが何か隠してるみたいなんだ。知りたいよな?」

「君さっきとキャラ違いすぎない⁉︎」

 こうして、少年探偵団と捜査二課の刑事達との戦いが幕を開けた。

 高校生探偵がその頭脳を無駄に使った結果、刑事達を翻弄する作戦ができあがる。しかし、捜査二課はエリートコースである。戦いは白熱した。

 

 

 この中で怪盗キッドの予告状の存在を覚えていたのは鬼灯だけだったが、彼は「まあいいか」で終わらせた。

 

 

 *

 

 

「なあ寺井(じい)ちゃん、誰もいないのは罠なのかな?」

「本当に忘れ去られているんじゃないですか?」

「俺達、結構派手にやったよな」

「ええ……」

 

 

 ハイジャック犯が倒されたどさくさに紛れて、ウェイターに変装していた怪盗キッドこと黒羽快斗はダイニングを抜け出した。

 身を潜めていたキッドの補佐役である老人の寺井と合流し、キッドはこれからの作戦を練り始めた。

「阿笠さんに最近作ってもらったカメラで、宝石を守る罠の説明を撮っておきました」

 取付工事不要、単三電池を入れるだけで使用可能。動作検知、録画機能あり。威圧感を与えないインテリアのようなデザインで、スカイデッキに置いておいても気がつかれない、使い勝手が良いカメラだ。

 快斗は思わず冷や汗をかく。これを作った寺井の知り合いの発明家はその気になれば世界征服ができるのではないだろうか。

 

 相手の手の内が分かったというのに暗い声を出す寺井に疑問を覚えつつ、キッドはカメラの内容を確認した。

「無理ゲーだろ、これ……」

 

 宝石を覆うガラスケースは機関銃の弾丸をも跳ね返す。ガラスケースを開けるには暗証番号を入力しないといけないが、次郎吉の指紋でないとバネが取り付けられた拳を模した鈍器が勢いよく出てくる。

 さらに、センサーが取り付けられていて、電気が流れる仕組みまである。窓から脱出するためにワイヤー銃を撃ったキッドを捕まえるためのものだろう。

 極めつけには、暗証番号を入力するタッチパネルにも仕掛けがある。宝石が展示してある場所の床は赤と白の正方形のタイルで均等に埋め尽くされている。敵が立っているタイルを表す数字を押し、特定の操作をすると、その部分の床が抜ける仕組みだ。

 

 指紋認証式のガラスケースという読みは当たった。蘭に発見される前、ちらりと見たタッチパネルと床の模様から、落とし穴の仕掛けも予想してあった。

 

「まあ、何も知らなかったらだけどな。電撃はさすがに予想していなかった」

 キッドは不敵な笑みを浮かべる。

寺井(じい)ちゃん、事前に用意しておいた次郎吉さんの指紋シールを使って落とし穴を開け、そこに小型爆弾を放り込む。そうして通路を開けた後、俺が入って、予告時間まで待つ。寺井(じい)ちゃんは予告時間になったら煙幕を張ってくれ。そこで俺が下から宝石を盗み、寺井(じい)ちゃんが再び開けた穴から脱出。できるか?」

「もちろん」

 小型爆弾を作って一般人に渡してしまう阿笠もだが、前もって練ってきたいくつもの作戦が全てパーになってもすぐさま別の作戦を思いつく快斗も恐ろしい。

「問題はバレずに爆発させられるか……」

「多分大丈夫です。盗一様がまだ現役だった頃、今ハイジャック犯と戦っている女性に出会ったことがあるのですが、彼女ならやらかして何か爆発させたと思われるでしょうし」

「あの人何者⁉︎」

 

 こうして、キッドは宝石を盗み出した。誰も宝石を守りに来なかったのであっけなかった。

 スカイデッキの窓を開け放し、ハンググライダーを取り出しても誰も現れない。

「帰って、良いよな?」

「はい。多分……」

 快斗と寺井が何度目か分からないやり取りをしていると、男性の声が聞こえて来た。

「あなたが怪盗キッドですか?」

 やっと誰かが現れたことに二人は喜ぶが、顔に出さないようにする。と言っても、寺井は覆面マスクをかぶっているし、快斗は片眼鏡の光の反射で顔を隠している。

「すみません。私の連れがちょっと騒ぎを起こして、私以外あなたの事忘れてます……」

「あ、やっぱり?」

 思わず素が出てしまった快斗に、天パの男性が笑みを浮かべた。

「ポーカーフェイスを忘れるな。ちゃんと教えたはずだが?」

 本来の口調と声で話しかけると、二人は目を見開く。

「逢魔時。昼と夜が交わる時で、この世のものではないなにかと出会うことがあるとされている」

「お、親父……⁉︎」

 その後、盗一はよく分からない言語で話したが、息子である黒羽快斗と長年盗一の助手を務めてきた寺井は意味を理解できた。彼ら以外に理解できるのは、ジンとウォッカ、赤井秀一くらいだろう。

 

 

 *

 

 

「あー! キッドの存在忘れていた!」

「クソ! 宝石が盗まれている!」

「なんか爆発させて下から入ったみたいです!」

「だから私、何も爆発させてないって言ったじゃないですか!」

「あれ? この爆発の仕方、まさかワシの発明品?」

 夜になって急に騒がしくなった飛行船の個室で、盗一は自分の正体を匂わせるようなことを言った件について鬼灯に叱られていた。

「しょうがない。菜々さんがいざとなったらやるつもりだった、某映画に出てくる安心安全な拷問の実験台になってもらいましょう」

「それって本当に安心安全なんですよね⁉︎」

 

 

 *

 

 

「これから米花町で役に立つ小技について説明します。組織的犯罪に巻き込まれ、敵の一人を捕まえて情報を得たい時に役に立つよ!」

 司会:菜々

 質問係:鬼灯

 敵役:小野篁(偽名)

「ねえ、なんで私、椅子に座らされて拘束されているの⁉︎ そして鬼灯さんが持っている熱しすぎて真っ赤になっている鉄の棒は何⁉︎」

 普段ならキャラ的にポーカーフェイスを保たなくてはいけない盗一だが、篁の姿なので全力で喚いていた。

「用意するものは熱した鉄の棒、目隠しの布」

「いや、まずそんな物、滅多に手に入らないよ⁉︎」

 思わずコナンが突っ込むが、菜々は平然と答えた。

「米花町でなら簡単に手に入るよ」

 鬼灯が一瞬で盗一に目隠しをする。

「手慣れてません⁉︎」

「まあ、割とよくやってるので」

「誰に⁉︎」

「蘭ちゃんの方が篁さんよりツッコミ上手いね」

 観客である少年探偵団、蘭と園子、小五郎は菜々に突っ込むのを諦め、真っ赤になったそれなりに太い鉄の棒をヤットコで掴んだ鬼灯が何をするつもりなのかと恐々と見守っていた。

 すると、菜々が紙を掲げる。

『敵に内緒で用意するもの:アイス、焼肉セット』

「は?」

 思わず声が漏れる。

 菜々の後ろでは、アイスキャンディーを盗一の頬に当てている鬼灯がいた。

「知っていますか? 何千度にもなる熱が与えられると、皮膚が麻痺して冷たく感じるらしいですよ」

 米花町でよく見かける裏社会の人間よりも凄みがある声で、鬼灯が語りかける。

「うわぁぁぁー!」

 菜々は紙を置くと、だいぶキャラ崩壊している盗一の近くで肉を焼き始めた。

「自分の肉が焼ける匂い、分かりますか?」

「多分アイスを当ててるだけだろうけどすっごい怖い!」

「おや、気づいてたんですか」

 

「と、まあこのように、情報を仕入れるわけです。情報を聞きながら肉を食べれます」

 盗一の拘束を解きながら、何事もなかったかのように鬼灯が締めくくる。

「へ、へえー……」

 小五郎はちょっと青くなっていた。やはりこの二人の仲を切り裂いておいた方が良かったと思い始める。

 盗一がぐったりとしているのを見て、灰原は疑問を口にした。

「それにしても、こんな大掛かりなことするなんて……彼、一体何をやったの?」

「分かりやすく言うと約束を破ったんだよ」

 その後、菜々はいつものように受講料を要求し始めた。もちろん誰も払わなかった。

 

 

「小野さん、確かウェイターの男の子とアルセーヌ・ルパンについて話してましたよね?」

 豪華な夕食を済ませ、食後のデザートであるアイスキャンディを舐めながらーー盗一の分は使用してしまったので無かったーー蘭は口を開いた。

 藤岡とか自称ルポライターとかケツアゴとかのせいで、キッドが工藤新一かもしれない事をすっかり忘れていたのだ。

 そして、この質問の答えによって、キッドが自分の幼馴染か否かが判明すると蘭は考えている。

「ああ、話してたよ」

「それで、ホームズの話になりましたか⁉︎」

 疲れ果てている盗一とは対照的に、蘭はやや前のめりになって尋ねる。

「いや、なってないけど……」

「やっぱり! あ、なんか変なこと聞いちゃってすみません……」

「蘭姉ちゃん、嬉しそうだけどどうしたの?」

「別に、なんでもないわよ」

 コナンの問いを適当にはぐらかし、蘭は鼻歌を歌い始めた。

 キッドは工藤新一でないことが確定した。新一にアルセーヌ・ルパンの話をすると、必ずルパン対ホームズの話になり、最終的にいかにホームズが素晴らしいかを延々と聞かされることになるからだ。

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