トリップ先のあれやこれ(完結)   作:青菜

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第30話

 買い物カゴを見る限り煮込み料理しか作っていなさそうな大学院生と出会ったり、爆弾を発見したり、警察に追いかけられた銀行強盗犯がなぜか立て篭もろうとしたりしていたが、菜々と中村は無事にデパートから出ることができた。

 渚とあかりの取り調べの合間に行われるらしい闇鍋パーティーの材料を片手に、駅に向かって歩く。

「あの沖矢昴って人、本当に大学院生? 工学部博士課程って言ってたけど、あそこって大学に泊まるはめになるくらい忙しいって聞いたことがあるんだけど」

「米花町民なんだから怪しいところが全くない方がよっぽど怪しいよ。米花町ではあれくらいが普通」

「あと、なんで小学生が爆弾解体してたの? それにあの子、数時間前は殺人事件解決してなかったっけ?」

「米花町だから仕方がないよ。ところで、くじで当たったベルツリー急行の乗車券いる? 米花町のくじの賞だし鈴木財閥関連だから間違いなく事件が起こるけど」

 菜々は厄介なものを押し付けようとしたが、にべもなく断られた。

 

 

 *

 

 

 この前、熱愛疑惑をかけられてマスコミで大きく取り扱われた磨瀬榛名が一般人男性との婚約を発表した。同時に結束力が卒業式前日と同じくらい高くなったE組全員の都合が合う日に旧校舎に集まることが瞬時に決められた。殺せんせーも地獄で暗躍していたらしい。

 手を繋いで旧校舎までの道を歩く渚とあかりとて、急遽開かれることになった同窓会で何が起こるのかは予想できている。

 だからこそ、全てを包み隠さず話すことに対する気恥ずかしさ、それよりももっと大きな皆に祝福してもらえることへの嬉しさがごちゃ混ぜになっていた。

 

 が、皆が集まってすぐに尋問が始まると、二人の心を埋め尽くすものが恐怖に変わることとなる。

 

 教室に舞うホコリが窓から差し込む日の光を反射し、キラキラと輝く中、一回目の質問役である菜々が口を開いた。

 並んで座る渚とあかり。机を挟んで二人の正面に腰掛ける菜々。彼らを囲むようにして、元クラスメイト達が様子を伺ってくる。

 もちろん実物を見たことはないが、刑事に取り調べを受けている犯人を、マジックミラー越しに観察する刑事達みたいだと渚は感じた。

「まず、これは殺せんせーのアドバイスブック36巻。アコーディオンみたいになってるから死神さんが殺せんせーに進言してくれたらしく、電子書籍化もしたけどそれはひとまず置いておくね」

 検索機能も付いていて、必要な時に必要な部分だけをピンポイントで閲覧できる優れものだ。

 皆は死神に感謝しつつ、菜々が大きな音を立てて机に置いたアドバイスブックをちらりと見る。あれを片手で持ち上げる彼女の筋力が怖い。

「問題は別冊に載っている新婚に向けて知っておいた方が良いこと一覧。たくさんある項目の中に相手の性癖の考察が載っていて、長い上に多分ドンピシャで当たってる」

 経験者は遠い目をして語る。

 相手がいる者――委員長コンビやスナイパー二人――は相手のアドバイスブックと電子書籍バージョンをこの世から消滅させる方法を模索し始めた。

「で、さらに厄介なことに、殺せんせーは生徒をモデルにして恋愛小説を出版する夢をまだ諦めていないらしいんだよ。しかも、試作品を知り合いに見せたら好評だったせいで、何年も前からイベントで薄い本を販売してる」

 殺せんせーの作品は人気だし、登場人物は名前しか変えておらず設定はいじっていないので読む人が読めば誰の話かが分かる。

 知り合いがあの世に住むことになれば、事実に限りなく近い自分が主人公の恋愛話を知られるはめになるのは明白だ。

「最近、公式が燃料投下しちゃったから、しばらくは渚君とあかりちゃんの本ばっかり書くだろうね」

「お願いやめさせて……。そして本もデータも闇に葬って」

「私からしたら止める理由がないんだよね。殺せんせーに情報が一番行きやすいせいか、私達が最も被害に遭ってるし。イベントに襲撃したり脅したりして、今のところなんとか食い止めてるけど、あれ結構負担だし、被害が別の方向に向くのは願ったり叶ったりで。せめて見返りがないと……」

 鬼灯はこれがきっかけで獄卒志望者が増えればある程度のことは許すという態度を取っているため、菜々には仲間がいない。だから余計に渚とあかりが目をつけられる方がありがたい。

 殺せんせーを止めて欲しいのなら渚とあかりが婚約発表に至ったまで出来事を語れと暗に提案する。

 ここで全てを語るか、あの世中に殺せんせーの本が出回るか。あかりはあの世でも有名人らしいし、本はよく売れるだろう。

「渚、早くゲロちゃったほうがいいよ。烏間先生……じゃなくて烏間さんとビッチ……も話を聞きに来てるくらいだしさぁ。あの世に殺せんせーの本が出回ったら、ネットとかにも載るよ、多分」

 カルマが鍋に大量のチョコレートを入れながらあおってくる。

「ちょっと、ビッチって何よ⁉︎ ついに敬称すらなくなってるんだけど⁉︎」

「俺たちが来たのはこのためではないんだが……。あと、せめて先生呼びしてやれ。どうせまた先生に戻るんだ。その話は後でする」

 

 

 *

 

 

 全てを語り終えた渚とあかりが屍のようになったところで、烏間が口を開いた。

「五年前のことだ。ロヴロさんから接触があり、こう告げられた。『七年前の事件の続き、お前達夫婦は知らなくてはならない』と」

 十二年前。色鮮やかな思い出が皆の脳裏を駆け巡る。

 適当な椅子に腰を下ろして烏間の話に耳を傾けていた一同は思わず背筋を正す。結局誰も手をつけなかった闇鍋を咀嚼する菜々以外、全員がピタリと動きを止めた。

「ってことは、殺せんせーと何か関係が?」

 代表して尋ねる磯貝に、烏間は一つ頷いてみせる。

「そうだ。ロヴロさんに触手について調べている組織があると告げられてな。その組織とやらに乗り込んで確かめたところ、奴の遺伝子が保管されていた」

「……生物兵器の可能性が捨てられてなかったのか!」

「ああ。その後、俺が調べた場所が指示を仰いでいた施設を発見して踏み込んだんだ。そしたらそこにいないはずの奴がいた。触手を植え付けた状態でな」

「それは……」

 誰ですか? と尋ねる声は烏間にかき消された。

「鷹岡明。防衛省の独房に入れられていたはずなんだが、どうやら秘密裏に釈放されていたらしい」

 目を鋭くして考え込むカルマ、顔色を悪くする木村。隣の友人と話し合い始める者達もいる。

「それで、鷹岡はどうなったんですか⁉︎」

「取り逃がした。どうやら俺たちが踏み込んだ施設も別の場所から指示を受けていたらしく、鷹岡は裏社会の人間と思われる者に連れていかれたんだ」

 教室内が静まり返る。闇鍋を完食した菜々が箸を置く音がやけに大きく響いた。

「調べてみたら、触手の研究を行っていたのが国際的な犯罪組織だと分かった。通称黒の組織。謎に包まれた組織で、世界各国の機関が潜入捜査員を送り込んでいるが未だに実態が掴めていない」

「なるほど。烏間先生が言いたいことは分かったよ」

 カルマが烏間を見据えて予想を述べる。

「上層部としては殺せんせーについて知ってる人間をこれ以上増やしたくないはずだ。だからこの件で動いたのは、十二年前に動いていた人達だけ。鷹岡を取り逃がしてしまったのも関わっていたのが少人数だったせい。で、このままだといけないと思った上層部の人間が俺たちを使えと言ってきた。違う?」

「ああ、その通りだ。目的は鷹岡の捕獲と触手生物のデータの処分。君達には昔みたいに俺たちから訓練を受けてもらい、黒の組織に攻め込む手伝いをして欲しい。武器も防衛省が用意する。だが、もちろん拒否権はある。危険なことに首を突っ込みたくないのなら、俺たちがなんとしてでも上層部を説得すると約束しよう」

 烏間が口を閉じる。強い意志を宿した瞳は昔のままだ。望めば彼は必ず生徒達を守ってくれるのだろう。

「だれか、抜けたい奴はいるか」

「いるわけないだろ、磯貝」

「そーそー、これは私達で終わらせないといけないことだし」

「俺ら動きも鈍くなってるし、指導よろしくお願いします!」

 口々に話し始めた生徒達を見て、イリーナは顔をほころばせる。

「言ったでしょ。私達の生徒なら絶対こう言うって」

「ああ」

 烏間は、確かに十二年前と同じ光景を見た。

 

 

 *

 

 

 黒の組織について今現在分かっていることを烏間から聞き、皆で所有している山で訓練が行われる事を確認した後解散となった。

 菜々が靴に履き替えて旧校舎を出ると、同級生は誰もいなかった。お前しか食べていないのだからと鍋の片付けを押し付けられたせいだろう。

 空を見上げれば太陽は沈んでしまったらしく、暗くなる一歩手前の蒼が広がっている。

 あの世への入り口に向かおうとした菜々は人影を見つけて足を止めた。

「あ、烏間先生。ちょっと良いですか?」

「どうした?」

「黒の組織の存在は日本地獄でも問題視されています。というか、国際会議で対処を押し付けられました。研究内容が研究内容なので、何とかしないとあの世のシステムが崩れる可能性があるんです。なので、全面的に協力できますよ」

「そうか。後で律を通して情報を送ってもらえると助かる。それと、触手生物に対抗するための武器が日本地獄にあると考えていいんだな?」

「はい。でも、黒の組織の調査には様々な組織が関わっているみたいですし、下手に武器を使うと疑問を持たれそうなので、日本地獄の武器は最終手段です。もし使うとしても、烏間先生にごまかしてもらうことになります」

「ああ、分かってる」

 話すことがなくなり菜々が再び足を動かし始めると、烏間が思わずといった様子で口を開いた。

「……十二年前と同じだな」

「そうですね」

 すっかり冷たくなった秋風が頬を撫でる。

「気がついているのは君を含めて数名だけだろうな。加藤さんは地獄にある不思議グッズとやらで知ったのか?」

「いえ、私はあの件について地獄からも突っ込んだ話は聞いてません。私が復讐にかけられるのを危惧したのか、あの時はまだ、ただの子供だったから知る必要がないと判断されたのか。どっちかは分かりませんけど、殺せんせーの目があるし、私は自分で裏を取ってませんよ」

「裏なら取っただろう。九年前に俺に確認して。で、俺を恨むか?」

 それでも仕方がないと思っているのがよく分かる。重苦しい雰囲気があまり得意ではない菜々は一つ息をついた。

「別に恨んだりしませんよ。私がその立場でも、同じ判断をすると思います」

「……そうか」

 自分の返事を聞くと歩き始めた菜々を見送りながら、烏間は九年前の出来事を思い出していた。あの日もここであの生徒と話していたはずだ。

 

 

 *

 

 

 烏間とイリーナの結婚が決まった時、式とは別に祝いたいと生徒達が言ってきた。

 パーティー会場は旧校舎。食べ物も用意することとなり、生徒達だけでは大変だからと居酒屋を営んでいる、殺せんせーと知り合いだった梓とその娘の蛍の手も借りた。

 梓と蛍が生徒達と打ち解けたり、アドバイスブックに載っていた烏間とイリーナの恋愛記事についての考察が始まったりしている中、烏間は旧校舎から離れた場所に移動していた。

 旧校舎の声が聞こえるか聞こえないかという位置まで来たところで、気配を感じて降ってきた道を振り返る。

「加藤さんか。君も抜けてきたんだな」

「結婚おめでとうございます。烏間先生に聞いてもらいたい独り言があったので」

「独り言?」

「はい。私のたわいもない妄想です。柳沢の研究資金、国家が出していたんじゃないかって」

 

 

 復讐を果たした犯人、快楽殺人犯などの殺人事件を起こした人物から、下着ドロや万引き犯、一種の変態、その他諸々。ありとあらゆる人間の独白を日常的に聞いている菜々は、殺せんせーが語った過去に違和感を覚えた。

 柳沢の研究については触れる程度で、あぐりとの関係性に重きを置いた話し方。何かを隠そうとしているように感じたのだ。

 ――「殺せんせーはどういう理由で生まれてきて、何を思ってE組に来たの?」

 殺せんせーとイトナが初めて戦った日、渚が口にした言葉だ。この質問に、殺せんせーは自分を殺せばいずれ分かるとだけ返した。

 時は経ち、あかりがあぐりの妹だと判明してやっと殺せんせーは頑なに閉ざしていた口を開いた。しかし、殺せんせーが語った内容は渚の質問の半分にしか答えていなかった。

 

 茅野カエデの正体、渚とあかりのキス、殺せんせーの重い過去など、衝撃的な展開について行くのがやっとで、大半の生徒の盲点になった事実の数々。

 なぜ人体実験を充実した設備の中行うことができ、世界一の殺し屋を被験体として使えたのか。

 なぜ研究所の職員達やあぐりは通報しなかったのか。

 柳沢の研究資金はどこから出ていたのか。

 財力も権力も持った大きな組織が柳沢の後ろについていたとしか思えない。

 ここまで考えると、死神が研究所を脱出してから各国の重役が動くまでが早すぎることに目が行く。

 とある科学者が行なっていた実験のせいで月が七割消滅し、月を破壊したネズミに埋め込まれていた細胞の持ち主が異形となり、来年地球が滅びる可能性がある、だなんていくら高名な科学者が言っていたとしても、疑ってかかられるだろう。

 検証に検証を重ねてやっと世界中の重役達が話を信じたと言われた方が納得できる。

 国、またはその重役が反物質の研究に一枚噛んでいた。これが菜々が出した結論だった。元々柳沢の研究について知っている人物が上層部にいたからこそ、殺せんせーへの対策が早めに取られたのだ。

 

 

 菜々の言葉を聞き、烏間は視線をわずかに泳がす。かと思うと目を瞑って思案し、ゆっくりと口を開いた。

「俺はあの時、そこまで情報を貰っていなかった。だから、明確なことは言えない」

 否定しなかった。そのことが烏間の考えを示唆していた。

 

 

 *

 

 

 男は何度目かのため息をついた。視線を目の前のパソコンから逸らせば上司と年上の同僚が話しているのが見える。正確に言えば、同僚が上司に報告をしている。

 できることなら耳を塞いで大声でわめきながらこの場を後にしたい。徹夜が続いているし正気を失ったということにできないだろうか。この件には関わりたくないのだ。

 虚ろな目をして現実逃避をしているのに、しっかりと手を動かして仕事をこなしているのは木村正義。警察官である。表向きの所属先は警視庁地域企画課。本当の所属先は警察庁警備局警備企画課。

 やけに事件が起こる米花町を訝しんだ上層部の命令で、四六時中事件が起こる原因を地域企画課で探りつつ、公安の仕事もしている。事件が起こってこそ米花町なので、自分が二つの顔を持つ意味はないと木村は考えているが、社会人なのでそうは言ってられない。上司の命令は絶対だ。

 

「風見、まだ終わらせていないのか? 時間はあっただろう」

「それが、調査対象の関わった事件数が多すぎて……。刑事部の人間に聞いた話と、警察中で噂になるほど有名な話の裏は取れたのですが……」

「もう一人の方はそこまで時間がかからなかったんだろう?」

「ええ。中村莉桜の経歴は真っ白でした。優秀で、外交官として数多くの成果を残しているそうです」

「確か、あの二人は中学の同級生だったな」

「はい。中学三年生の時に同じクラスだったようです」

 

 自然と耳に入ってくる会話のせいで木村は頭が痛くなった。自分はあの二人が話している人物の同級生である。風見が降谷にそのことを告げる前に家に帰りたい。しかし、目の前には一向に終わらない仕事が大量にある。

 

「ところで、いくつか突っ込みたいんだがいいか?」

「はい」

「まず、カルト集団に拉致されたとか、麻薬取引の現場を定期的に目撃しているだとかは置いておく。米花町ならありえる。で、きのこたけのこ戦争を巻き起こした張本人だというのは間違いないのか? この時、彼女はまだ小学生だろう」

 きのこたけのこ戦争。きのこを押す有名な暴力団の若頭と、たけのこを押す謎の人物が口論を始め、殴り合いに発展し、相次ぐ事件で心がやさぐれていた米花町民も騒ぎに便乗し、途中からマスコミや鈴木財閥が関わり始めたせいで日本中に影響を与えた事件だ。

「あの事件のせいでFBIからは『日本は菓子で動く国なんだろう?』などと言われているんだ! おのれ赤井!」

「降谷さん、それは赤井捜査官のせいでは……なんでもありません」

 降谷の顔を見て風見は反論するのをやめた。

 

 光が消えた目を血走らせ、一心不乱に仕事をこなしていた公安職員は一瞬手を止める。

 アイコンタクトとジェスチャーで意思疎通を行い、降谷の対処法について意見を出し合う。

 ここにいるのは優秀な人材ばかりだ。その証拠に、ジェスチャーは何気ない仕草に見えるしアイコンタクトも誰も気がつけないのではないかと思うほど自然な動きで行なっている。

 

 木村は周りを一瞥して再び仕事に戻る。

 あの一瞬で打つ手なしとの判決が出た。いくら優秀でも、身分を偽装した状態であの米花町と黒の組織を行き来していてもまだ生きている降谷の裏をかけるわけがなかった。

 

 風見と降谷の話はまだ続く。

 木村は好奇心半分、自分に話が振られる時が来る恐怖半分で耳を傾けた。逃げるのは諦めた。

「はい、彼女がたけのこ一派を率いていたのも、騒ぎの元凶なのも間違いありません。『米花町は呪われてるから事件が起こるんだ』と主張して町中にファ◯リーズを吹きかけたり、高名な祓い屋に弟子入りしようとしたりしていたようですし、やけに行動力があるんでしょう」

「……彼女は国家機関にでもぶち込んで、有能な者が手綱を握っておいたほうがいいんじゃないか?」

「彼女くらいじゃないと米花町で正気を保つのは難しいのでは? 実際、米花町出身の刑事は幼少期から手柄を立ててますし」

「この資料に載っている交通課の三池苗子と捜査一課の千葉和伸か」

 降谷はまだ作成中の資料に視線を落とす。

 山に籠城を決め込んだきのこ派と山の麓に陣取るたけのこ派という構図ができあがり、一触即発という言葉が自然に浮かんで来る空気を放っている騒ぎの中心。固唾を飲んで見守る野次馬。オロオロしたり、白目をむいたり、娘がたけのこ党であることに憤慨したりしている帝丹小学校の教師達と保護者達。

 そんな中にポッ◯ー片手に突撃した小学生四人は「激しい修行を経てポッ◯ー帝国と同盟を結び、戦争を終結させたすぎ◯こ村」と一部のマニアの間で語り継がれている。

「……まあ、米花町で生き残るばかりか、大したトラウマもなく事件に関わる確率が上がる道を選んだくらいだからな……。でもその小学生達の中に家政婦やってる人間と若年無職者がいるのには納得がいかないな」

「降谷さん、真面目に考えちゃダメです。ドツボにはまります。あと、詳しい話は木村に聞いてください。彼は調査対象二人と同じ中学出身で、中学三年時は同じクラスだったようです。米花町の調査もしていますし、話を聞くにはもってこいでしょう」

 風見は逃げた。先輩としてどうにかしてやりたかったが、理性を失いかけている降谷とか米花町の闇とかでダメージが大きすぎてそれどころではない。木村は警察学校で公安に抜擢されるほどの好成績を残しているし、並外れた機動力や殺し屋とのコネを持っている。多分大丈夫だ。

「木村、話してくれるな?」

「アッハイ」

 有無を言わせぬ笑みに、木村の表情筋は仕事を放棄した。

 

 

 降谷の問いに答えながら、木村の心は宇宙の彼方をさまよっていた。体と頭は動かしているし問題ない。

 ――「鷹岡明。防衛省の独房に入れられていたはずなんだが、どうやら秘密裏に釈放されていたらしい」

 先程旧校舎で開かれていた同窓会で烏間が告げた内容を木村は思い出す。

 鷹岡はあれほどのことをしておいて防衛省の独房に入れられていただけ。彼がしでかしたことを公にできないのはわかるが、秘密裏に裁かれたのならもっと重い刑罰が待っているはずだ。

 つまり、大きな力が働いて鷹岡の刑は軽減されている。しかも秘密裏に釈放されて悪の組織に匿われ、触手を植え付けている。

 国だろうな、と木村は結論を出した。

 昔は予想だにしなかったが、烏間の言葉を聞いた今なら、柳沢の属していた組織に援助していたのかさらに上についていたのかは分からないが、とにかく反物質の研究に関わっていた第三の存在が理解できる。

 それと同時に、烏間が自分達にそのことを伝えるためにわざとあのような言い方をしたことも理解する。

 

 問題は、黒の組織が触手に手を出していたこと。昔、触手の研究を行っていた施設は国から投資を受けていた可能性が高いのだ。黒の組織が国とつながっている可能性がある。

 そして、その国にとって自分たちは邪魔だ。もしも行っていた不正に気がつかれ、復讐されたら。その国の重役はそう考えるはずだ。

 自分達は暗殺訓練を受け、超生物を十五歳で殺したのだ。危険なのは間違いない、だから事故に見せかけて殺してしまおうと考えられるのは明白。

 

 今回の任務は三つ。

 鷹岡の捕獲。

 触手についてのデータの破壊。

 そして、黒の組織と繋がっている権力者をあぶり出し、捕まえること。

 

 

「加々知菜々は親の会社が潰れて借金が残り、十六歳の誕生日に入籍しているんだが、結婚相手は金を持っているわけではない。しかし、借金はすぐに返済している。何かあるとは思わないか?」

「……懸賞金がかかった犯罪者を捕まえた時の金があったとかじゃないですか? 入籍は米花町民だからでしょう。明日を迎えられるも分からない環境なので、早くに入籍する人が多いみたいですよ」

「だが、彼女はバイトを増やしているんだ。高校三年になるまで続けている。まるで、一時期誰かに借金を肩代わりしてもらったようじゃないか?」

「そうですね……」

 木村は頭を動かし続けた。一方で心は別の場所にある。こんな風だから、人間から鬼になったというとんでも経歴を持った同級生は過労死の多さを嘆いているのだろう。

 

 

 *

 

 

「感触、臭い、色、形。全てが本物のう◯こそっくりな物体Xだ!」

「なんでそんなものを作ろうと思った」

「屎泥処の例からも分かる通り、う◯こを使った拷問は非常に有効なんだ。そこで俺はう◯こを投げつけることで精神的苦痛を味わせる拷問を思いついた。が、いくら仕事だと言ってもう◯こ触るのは嫌だろう。だから偽物を作ったんだ」

「なるほど、言いたいことはわかりました」

 菜々が閻魔殿に戻ると鬼灯と烏頭が顔を付き合わせて話し合っていた。不穏な雰囲気である。

 烏頭が手に持っているのはどう見ても糞だ。丁寧なことに臭いは屎泥処の鍋に入ったヘドロ状のものと同じ。

 菜々は米花町を訪れる時や工藤家の人間と接触するときは必ず持っている道具入れの中から小型酸素ボンベを取り出して装着した。

 土産を忘れていたことに気がついて地獄へ通じる場所へ向かう途中にもぎ取ってきたマツタケ数個を握りしめつつ菜々は成り行きを見守る。

「ゴム手袋でもつければいいでしょうし、そもそもそんなに実物そっくりだったら触りたくありません。まあ、百歩譲ってそのことに気がつかなかったと仮定しましょう。なんでその物体を噴出する機械を記録課に入れた」

「ちょっと資料室で研究してたら『技術課はろくなものを開発しない』とか言われたから、そのろくなもので慌てふためかせてやろうと思ったんだ……」

「またう◯こ送りになりたいんですか」

 鬼灯がため息をつき、烏頭から視線をそらす。その一瞬で烏頭は殺せんせーに目配せし、懐から雑誌を覗かせた。

 殺せんせーの目が極限まで見開かれる。見たところエロ本らしい。プレミア価値でもついているのだろう。

「律さん、今進めている現世視察の件で何か報告することがあったのでは? 菜々さんも帰ってきたので今から行いましょう」

 殺せんせーはさりげなく話題を逸らし、鬼灯の目を盗んで烏頭と親指を立て合った。

『厨二組織の件なので、別の場所で行いましょう!』

 律が元気よく提案した。

 

 黒の組織の情報や若返った人間がいることは一部の者しか把握していない。地球滅亡の可能性はないので殺せんせーの時よりは情報規制が緩いが、一般獄卒に知られるのは良いとされていない。

 今まで黒の組織やパンドラについて話すときは、周りに一般獄卒や亡者がいないことを確認し、誰かいた場合は人気のない場所に移動していた。

 今の時間帯は多くの獄卒が閻魔殿にいるので、今は使用されていない会議室に移ることになった。

 

 機密事項みたいだし俺は席を外すぜ、という体を装って烏頭は逃げ出す。鬼灯は彼の思惑に気がついたが、黒の組織の情報の方が先だと判断した。

 

 

 *

 

 

『幹部の会話を元に黒の組織について調べたのですが、一部の幹部が不思議な言葉を話していて解読不能でした。具体的にいうと、殺し屋の時の殺せんせーや、盗一さんや、小学生の時の菜々さんが犯人に対してカッコつけてた時のような感じです』

 殺せんせーのスマホ画面に映ったモバイル律が告げる。予想外の攻撃に菜々は胸を押さえた。ツッコミ初心者の盗一は一瞬迷ったが、触れないことにしてくれた。唐瓜との特訓で周りに配慮するツッコミ技術を身につけてくれたようだ。

「そういえば、義母からその時の名残を受け渡されましたね。カッコいい(と勝手に思っていた)セリフ一覧とか」

「なっ……あれは処分したはず……!」

「残念ながらコピー取られてますよ」

 さらに母と鬼灯との連合軍による打撃。

 普通は姑VS嫁が主流だが、菜々は大抵「母+夫VS父+自分」である。菜々を育て上げ、割とやらかす夫を尻に引いている母はいつも強いのだ。

『なので、厨二語の解読を盗一さんにお願いしたいんです! 菜々さんは前もってセリフを考えておいて、その時が来たらドヤ顔でセリフを言うタイプでしたし、殺せんせーは……』

「ちょっとその含みなんですか⁉︎」

「暗に厨二病って言われているような……」

「あれ? これってさりげなく嫌がらせされてる? 律に何かしたっけ?」

 思わず尋ねた殺せんせー、疑問を呟く盗一、心当たりがありすぎて困惑する菜々。鬼灯は三人を無視して、律に話しかけた。

「律さん。詩ジンの言葉は解読を待つしかないですが、それ以外にも情報はありますよね? 何かわかったことは?」

「あ、そういえば黒の組織触手の研究もしてるみたいですよ。律、烏間先生に情報送っといて」

 烏頭の発明品の衝撃が強すぎて、頭から消えていた内容を告げ、菜々は再び自分が何をやらかしたのか考え始めた。詳しく説明するのは面倒なので、律に映像を見せて貰えばいいだろう。鬼灯も同じ考えらしく、何も言わずに律の言葉を待った。

『本名、宮野志保。偽名、灰原哀。コードネーム・シェリー。彼女がベルツリー急行に乗るという情報を掴んだ黒の組織の幹部が、彼女を殺そうとしています。そして、確か菜々さんがクジで乗車券を当てていました』

「あ、じゃあ行ってきてください」

「え、嫌です」

 菜々は思考を止めて反論する。

「キッドが予告状出してますし、盗一さんに行かせてあげては?」

「彼は前回やらかしたので駄目です」

 盗一は崩れ落ちた。ベルツリー急行の名前が出た時からソワソワしていたので狙っていたのだろう。

『ベルモットとバーボンが乗車するみたいです。バーボンこと降谷零さんはシェリーを公安で保護するつもりみたいですし、江戸川さんもキッドまでもを味方につけて対抗する準備を整えています』

「ライバルを手助けする快斗……。鬼灯様、私を行かせてください!」

「駄目ですって」

 盗一はバッサリと断られ、殺せんせーに慰められ始めた。

「私もお盆以外は全然現世にいけないんですよ。お盆も霊体だから生徒達には見えないし……」

 絶対やらかすし、殺せんせーや初代死神を知っている人間にあったらまずいので、殺せんせーは見える状態で生徒達に会うことができていなかった。変装という手もあるが、うっかり米花町の探偵と鉢合わせしたら変装を疑われる可能性もある。

 そんな二人のことを気に留めることなく、律は公安、コナンサイド、黒の組織の目論見を説明していた。

『なので、菜々さんは江戸川さんのサポートをするだけでいいです』

「え、なんで私が行く流れになってるの?」

「一番こういうことに慣れているからに決まっているでしょう。行かないんだったら急遽全獄卒参加の集会を開いてあなたの負の遺産を読み上げます」

「喜んで行かせていただきます」

 菜々は即答した。

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