トリップ先のあれやこれ(完結)   作:青菜

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スコッチ生存説とか、スコッチが破壊した携帯が入れ替わっている説とかは無視してください。

※黒の組織の捏造があります。
※スコッチがNOCバレした理由も捏造しています。
※書いている人は機械に弱いです。どう考えてもおかしい内容があったら修正します。教えてください。しかし、話の流れに関わるので変更できない場合は、「コナン界だから」で押し切ります。

※一応変換サイトで訳しながら書きましたが、大阪弁が間違っている可能性があります。


第32話

「風見。見通しが甘すぎるぞ。計画書は作り直しだ」

 濃い隈を作った降谷に問題点を数個指摘され、警察庁まで足を運んできた風見は目を見開いた。

「確かに! すみません、気がつきませんでした。まさかこの計画がチョコレートケーキにチョコレートシロップを大量にかけたもののように甘かったとは……! 頑張って硬派なビターチョコを目指します!」

 

「なあ、風見さんってどれくらい寝ていないんだ?」

 同期に尋ねられ、木村は書類から目を離さずに答える。

「三日はぶっ通しで働いてるな」

「じゃあ降谷さんは?」

 同期の質問を「おのれ赤井ィイ!」という雄叫びがかき消す。

 聞こえなかったが、同期が尋ねたいことを察した木村は答えてやった。目はせわしなく動かしている。

「二週間、一日の睡眠合計が三時間の状態だ」

「合計か……」

「しょうがないだろう。今が大詰めなんだから」

「ああ、俺も仕事片付けてくる」

 今が大詰め。その言葉に目の光を取り戻した同期は机に向かったが、足がふらついていた。彼はまるまる二日間寝ていないはずだ。

 

 警察庁警備局警備企画課は魑魅魍魎の集まりを彷彿とさせる有様だった。発狂する者、いきなり笑い転げる者、人形に話しかける者。中には、出会った時から「こいつ僕の日本で好き勝手やりそうな臭いがする」と本能的に感じ取っていた相手の恨みつらみを五分に一回のペースで叫んでいる者もいる。

 殺せんせーが現れても「あれ? なんか幻覚が見えるな」で終わらせられそうな状況だが、この場にいるのはまだマシな者たちだ。極限まで働いて理性が吹き飛んだ者たちは仮眠室に運び込まれている。仮眠室には息すらせずに泥のように眠る人間が山のようにいるらしく、「返事がない。ただの屍のようだ」とは、彼らが窒息死しないように見張りに行かされた人間の言葉だ。

 

 

「降谷さん! 阿笠さんから連絡がありました。スマホのデータ復元が成功したそうです」

 同期の声がして、木村は目線をパソコン画面から移動させた。

 嬉しそうであるが同時に悲しそうでもある上司の顔を見て、木村は苦いものが込み上げてきた。最近協力者となった発明家がデータ復元をした携帯を破壊したのも、その携帯に組織のデータを移したのも降谷の親友なのだ。

 

 諸伏景光。かつて潜入捜査官として黒の組織に潜入していたが命を落とした彼がNOCバレしたのはとあるデータを盗み出したからだと言われている。

 危険を冒してまで盗み出したデータはよほど重要なものだったのだろうと考えられ、データの復元が試みられたものの失敗に終わった。

 

 景光が手に入れたデータは諦めるしかないと結論づけられ、潜入中の降谷に全てが託された。

 それから数年。降谷はラムから直々に指示を受けるようになり、確実に組織の中核に近づいていた。そんな時、白馬警視総監から警察庁警備局警備企画課に連絡が来たのである。有能な発明家から協力を申し出られたから、そちらにまわすと。

 その発明家は、怪盗キッドに発明品を使用されたことが原因で、古い知人が「絶対警察に手綱を握ってもらっていた方がいい」と言いながら渡して来た警視総監の連絡先の存在を思い出したらしい。

 この話が降谷の部下たちに知らされると、警察庁警備局警備企画課は一気に騒がしくなった。

「なんでその知人は警視総監の連絡先を知ってたんだよ」

「なんだこの発明品の資料。ガラクタとヤベーものしかないじゃないか」

「盗聴器とか過剰防衛になりそうな護身道具とか作ってるぞ。なにこのマッドサイエンティスト」

「この阿笠博士って人、米花町在住だぞ」

「米花町民なら仕方がない」

「米花町だもんな。これらの護身道具持ってても死ぬ奴は死ぬもんな」

 

 米花町は魔境。1と1を足せば2になることや地球は丸いことと同じように誰もが知っている。

 昔から定期的に事件が起こっていた米花町では強い者しか生き残れない。そして、人口が減ることを恐れた役人が米花町から出ていくのを禁止する。当たり前だが米花町に引っ越す物好きはいない。

 結婚相手を見つけて来て、相手が住んでいる地域に移り住まれると困るので、江戸時代の頃は米花町だった場所に住んでいる人間が遠出することも許されなかったという。こうして米花町民同士が結婚し、二人の間に生まれた子供が親から様々なものを受け継ぐのだ。

 米花町で生き残るために必要な怪力、頭脳、運。それと同時に米花町特有の低すぎる沸点も受け継ぐ。

 

 阿笠博士という人物は突出した頭脳を持っていたがために生き残ったのだろう。物証な発想は米花町民だからだし、米花町民ならこれくらいしていないと生き残れない。

 皆が阿笠の経歴に納得した。

 それと同時に、警視総監が警察庁警備局警備企画課に話を持って来た理由も理解する。彼の発明品は違法捜査や潜入捜査をすることが多い場所でこそ役に立つ。

 

 

 諸伏景光のスマホのデータ復元に成功した。これは、彼が死ぬ直前に握った情報が明らかになったというのと同じだ。

 機械のように仕事をこなしていた職員は動きを止め、成り行きを見守る。そのデータが黒の組織の真相に近く大きな一歩となるのは明白だ。

「前回組織に潜入していた捜査官が手に入れたデータは、黒の組織と黄金神教の繋がりを示唆するものでした」

「黄金神教。……確か、半世紀以上前から存在しいていた新興宗教で、三十年ほど前に人体実験などを行っていたことが原因で幹部たちが逮捕されていなかったか? それに、この宗教を始めたのは半世紀前に謎の死を遂げたという大富豪、烏丸蓮耶。烏丸グループを一から作り上げた人物だ……まさか⁉︎」

 顔色を変える降谷。部屋にいるすべての人間が顔色を変えた。ここには黒の組織の調査に関わっている人物しかいない。

「その通りです。人体実験の結果が事細かく記録されていました」

 報告をしていた男が青い顔で頷く。

 死んだはずの大富豪が組織のトップなのではないか。誰もがあり得るはずがない内容を思い浮かべた。

「待ってください。烏丸蓮耶は他界しているのでは?」

 冷静さを取り戻そうと木村が尋ねる。しかし、彼は口では否定しながら直感していた。烏丸蓮耶は生きている。死を克服した人間よりも、自分たちの恩師の方がよっぽどありえない存在なのだから。

「いや、そうとは言い切れない」

 すぐさま木村の問いを否定した部下に、降谷は短く訊く。江戸川コナンがただの子供でないことには気がついているが、そのことを目の前の男が知るのは不可能に近いのだ。

「根拠は?」

「スマホに入っていた人体実験のデータには、若返った人間の情報が入っていました。被験者の名前はネットに流れている黄金神教の被害者一覧と一致しています」

 黄金神教事件に関わった刑事は皆他界している。ある者は事故に巻き込まれ、ある者は自殺し、ある者は不審死を遂げているのだ。

 さらに、警視庁に保管されていたはずの黄金神教事件のデータは雲散霧消している。

 これだけでも不可解なのに、この黄金神教にまつわる事件の謎に拍車をかけているのが何者かがネットに事件の詳しい情報をばら撒いていることだ。どれだけ削除されてもすぐに情報が載せられる。

「だとすると、ネットの情報は正しい可能性が高いな……」

 考え込む降谷。ネットに情報を載せている人物の正体と目的。突如発覚した若返った人間の存在。考えることは多い。

 ここで、はたと降谷は気がついた。

 何かがあると判断して風見に調べさせた加々知菜々という人物。彼の夫の名前が、黄金神教に関わった人物リストの「生贄予定」の欄に載っていたはずだ。加々知鬼灯なんて珍しい名前の人物がそうそういるとは思えないし、間違いないだろう。

 加々知菜々は黄金神教、もしかしたら黒の組織にも関わりがある。

「木村、加々知菜々と同じクラスだったんだろう? ちょっと探って来い」

 木村はサボれることに喜べば良いのか、ややこしいことになったと嘆けば良いのかわからなかった。

 

 

 *

 

 

 浅野學峯は椚ヶ丘中学校の理事長を辞めた後、世界中を歩き回った。私塾を開く前にもっと見聞を広げようと考えたのだ。株で生活費を確保しているので気兼ねなく旅をしていた。

 しかし、理事を務めている学校に米花町でも有名な問題児が入学してきたり、超生物を雇う羽目になったり、生徒が自殺に追い込まれたりと彼は大事に関わることが多い。

 旅行中にテロ組織に拉致されたり国際的な事件に巻き込まれることが多々あった。

 敵を洗脳して警察まで連れて行ったり、襲われたので軍人上がりの犯罪者を倒したり、犯人にされかけたので密室トリックを解いたりしているうちに、彼は世界中の警官の間で有名になってしまった。

 

 だから、日売テレビ局爆破事件に學峯が関わっていると刑事の間で話題になっているのも、何か関係があるかもしれないからと刑事が京都で起こった殺人事件について連絡をしてきたのもおかしな事ではないのだ。

 

 

 被害者は矢島俊弥。造り酒屋の御曹司で、殺害現場である豪邸には一人で住んでいた。死亡推定時刻は午前六時ごろ。遺体発見時刻は午後二時。

 現場で指揮をとっていた刑事に状況を説明してもらいながら學峯は矢島の遺体が発見された部屋に向かっていた。

「足元気ィつけてください」

 綾小路の注意を聞き、學峯は床を見てみる。足の踏み場がないほど物が散らばっていた。

「鑑識の作業も終わってますんでお好きなように」

「ちょっと質問いいですか? 肩に乗っているシマリスは?」

「ペットです」

 學峯は元教え子の言葉を思い出す。彼女は警視総監の息子のペットが鷹だと言っていたはずだ。昔は笑い飛ばしたが、今になってあの話は真実だと思えてくる。

 

 果たして日本警察は大丈夫なのだろうかと學峯が考えていると、毛利小五郎の姿が見えた。彼が事件ホイホイだという噂は本当らしい。ネット上では毛利小五郎死神説と江戸川コナン死神説で争っていると聞いたこともある。

 現場を覗き込めば、避難所で出会った高校生と小学生がいた。

 色黒の高校生は服部平次。大阪県警本部長である彼の父親とは面識があり、写真を見せてもらったことがあるのですぐに分かった。

 小学生はキッドキラーとして有名な江戸川コナン。工藤家の親戚らしいので、小五郎よりも彼の方が死神である可能性が高いかもしれない。

 學峯はそんなことを考えながら、未成年が死体がある部屋を物色していることに対する疑問に蓋をする。平蔵が「学校のスキー教室から帰って来た日から息子の事件遭遇率が米花町の探偵並みに高くなった」とぼやいていたし、コナンは米花町民だ。彼らの事件遭遇率を考えれば感覚が麻痺してくるのは当たり前だ。

 

 凶器の刀は回収した後だと言い残して綾小路は部屋を後にした。

 學峯は部屋を見渡してみる。部屋中に散らばったカルタを見ると、被害者はカルタをしている最中に殺害されたのだと予想がついた。

「オレらは阿知波はんが京都県警から連絡を受けとるトコに居合わせたからこの事件について知ってここに来たんやけど、アンタはどうしてここに?」

 コナンが血がついたカルタの写真を撮っているのを眺めていた學峯は平次に尋ねられた。

 京都県警から連絡が入ったと正直に話すと、写真を撮り終わったらしいコナンが声をかけてきた。

「ねえ、あのリモコン、血のつき方から見て被害者の近くにあったはずだよね? テレビ見ながらカルタやってたのかな?」

 平次は刑事に許可を取ると、手袋をはめて倒れていたテレビを起こす。用意の良さが事件の遭遇率を物語っていた。

 

「大岡紅葉や……」

 テレビの電源を入れると映った映像を見て平次が先に声を出した。

「ああ、未来のクイーンと言われている……」

 カルタが好きというわけではないが、「知らないよりも知っている方がいい」という理論でカルタについても精通している學峯は呟く。

 現場に到着していた阿知波が、決勝戦は見るだけで参考になることを伝え、殺人事件には関係ないのではないかと述べた。

「えっでも」

 コナンが反論しようとしたところで、小五郎が未成年二人を現場からつまみ出してしまった。

 

 

 *

 

 

「狙われてるんは皐月会の主要メンバーやな」

 皐月会。一代で阿知波不動産を築いた阿知波研介が会長を務める、百人一首を牽引する団体だ。殺された矢島は皐月会の一員だし、テレビ局爆破は皐月会に恨みを持つ者の犯行だと考えられている。

 平次が口にした推理にコナンも同意を示した。

「ああ、マークするべきは二人。阿知波さんは俺が見張る」

「ほんなら、オレは大岡紅葉や」

「ちょっといいかい?」

 屋敷の外に出て平次と会話をしていたコナンを呼ぶ声がした。

「浅野さん、どうしたの?」

 コナンはいつもよりも多くの猫をかぶって尋ねる。相手は背後に巨大なムカデが見えるほどの恐怖を感じされることができる人物。只者ではないのは明白だ。

「さっき撮ってたカルタの写真、誰かに解析してもらって、被害者が握っていたカルタを特定するつもりだろう?」

 被害者の右手についた血痕と右手の形を見ると、彼はカルタ札を握りしめていたことが分かった。犯人、もしくは犯人の犯行を隠そうとした何者かによって、ダイイングメッセージであるカルタ札は他のカルタ札と混ぜられたのだと學峯は推理したのだ。そして、カルタの写真を撮っていたコナンの目的も察しがついた。

「よく分かったね」

 コナンは6歳児とは思えない、好敵手に向けるような笑みを浮かべる。横目で確認すると服部も同じ表情をしていることが分かった。目の前の男は自分たちと同等、もしくはそれ以上の推理力を持っている。探偵としての血が騒ぐのは、彼らにとって当然だった。

 

 學峯が被害者が握りしめていたカルタ札が分かったら教えてもらう約束をコナンと交わした時、まばゆい光が三人を照らした。ヘッドライトの光が射している方向から、警官の慌てる声がした。

 咎める警官に、車から降りてきた男は反論する。

「皐月会のもんや。通してくれ」

「待ってください、今確認を取りますんで」

 警官が言い終わった直後に男性の声が割り込む。

「関根くん!」

 先ほどの声の主である阿知波が今まで何をしていたのだと聞くと、関根は頭をかきながら答えた。

「夕べ深酒してもーて……。携帯の充電切れにも気づかんと寝てしもたから……」

「まったく……」

 阿知波があきれ声を出すと、関根は辺りを見渡しながら何事かと問う。

「目ェ覚ましたらテレビ局が爆発したとか言うてるし、会に連絡したら会長は矢島のことでボクを探してる言うし、慌ててきたらこの騒ぎ出し……。こない警察が集まって……矢島はどないしましてん?」

「矢島君は……殺されてしまった」

 重々しく告げられた内容に、関根は大げさに驚いてみせた。

「強盗の仕業っちゅうことらしい。渡り廊下にあった刀で……」

「刀で⁉︎」

「阿知波さん、こちらの方は?」

 刑事に尋ねられ、関根は自己紹介を始めた。阿知波がたまに補足する形で語られたのは、関根が皐月会の会員であり、矢島と決勝杯をかけて戦っていたことだった。カメラマンというよく分からないポジションについてもいるらしい。

 二年決勝戦で戦ったが一度も勝てなかったので今年こそはと思っていたのだが、それはできないのか、と寂しそうに語る関根に、探偵達は疑いの目を向ける。彼には矢島殺害の動機がある。

「それで、大会は予定通り開催するんでしょうか?」

 皐月杯。皐月会が開催するカルタの全国大会だ。

「ああ、それがどないしたもんかと……」

 言い淀んだ阿知波に関根は強く反論した。

「会長! あきませんで‼︎ 矢島の死で伝統ある皐月杯が中止になってしもたら、矢島は無駄死にどころじゃない! 殴られ損や!」

 

 その言葉で探偵達は犯人を確信した。

 関根は凶器が刀だと聞いただけなのに、撲殺だと断言した。普通、遺体を見ていない状態で刀で殺されたと言われれば、斬殺を思い浮かべるはずだ。刀が錆びついていて抜けないことを知っているのは犯人しかいない。

 

 一方、學峯は考える。

 関根が遺体発見前に殺害現場に訪れたのは間違いない。しかし、彼が犯人だと断言できるわけではない。

 頭の切れる二人が関根犯人説を追うのなら、自分はもう一つの可能性を追求するべきだ。犯行後に現場を訪れた関根がダイイングメッセージを見て犯人に気が付いてしまい、犯人を庇うために屋敷を荒らした可能性を。

 

 

 *

 

 

 未来のクイーンと言われるほどの実力者である大岡紅葉と、平次に告白する権利をかけてカルタ大会である皐月杯で戦うことになった和葉が、カルタの特訓をしているホテル。別の階にある部屋で、菜々は木村正義と携帯越しに会話をしていた。律の検査を受けているので、携帯が盗聴されていることはない。

『お前と黒の組織との繋がりが疑われていて、調べてくるように言われたんだけどどうすればいいと思う?』

「烏間先生に押し付けよう」

 菜々は淀みなく答えた。

「それっぽいこと匂わせた後に烏間先生に丸投げすれば、相手が勝手に勘違いしてくれると思う」

『烏間先生大変すぎるだろ』

「まあ、同窓会に出席して私のことを探るって名目で、明日行われる訓練に出席すればいいんじゃない? それと、烏間先生は烏間先生だしなんとかすると思う」

『確かに……』

 木村の呟く声が鼓膜を叩くとすぐ、通話相手は一言断ってから電話を切った。これ以上休憩するわけにはいかないらしい。同級生の一人は立派な社畜になっていた。

 

 時の流れって残酷だなぁ……などと、阿笠の頭を見ながらよく口にしていた言葉を菜々が発していると、騒がしい音声が聞こえてきた。

 鬼灯が携帯をスピーカー設定にしたので、通話内容が菜々まで届くのだ。聞けということらしい。

『米花町民の勘ヤベーな、全部当たってたじゃねーか』

『まあ、米花町だしな……』

『そうだな。適当にほっつき歩いてれば事件(しごと)がやってくる町だもんな』

『あそこはヤバイ。拳銃密造場所やら麻薬栽培やってるところやら色々あるからな……』

 駄弁っている同期に変わって、伊達が簡単に説明をしてくれた。

『鬼灯様! 現世で確保した亡者の様子がおかしかったので、話を聞いてみたらテレビ局爆破事件の犯人と動機がわかりました』

 

 

「辞めて、あなたがそんなことする必要はない! 早とちりして、名頃はんを殺してしまった私が悪いんや!」

「皐月はん、ちゃんと事情を説明しんかった俺も悪かったし、少し考えればわかることに気がつかんかった俺にも非がある! 自分を責めちゃいかん!」

「名頃はん、私はあなたを殺したんよ。恨むのが普通なんやで?」

「それでも、あなたは俺の憧れなんや!」

 亡者捕獲実習のために現世までやってきた亡者の烏天狗警察たちは、ややこしそうな状況に目頭を押さえた。

 必死になって一人の男性に声をかける女性の亡者と、彼女をたしなめるキツネ目の男性。女性の言葉や、亡者二人の様子から察するに、亡者の女性が説得しようとしている生者の男性は彼女の夫であり、キツネ目の男性は女性の亡者に殺されたらしい。

 取り敢えず、伊達は亡者に話を聞いてみることにした。

 

 

『一連の事件の犯人は阿知波研介さん。妻である皐月さんが起こしてしまった殺人事件を隠蔽するために犯行に及んだそうです』

「それはそうと、名頃さん不憫すぎません?」

 名頃鹿雄。キツネ目の男性で、色々あって初恋の女性に殺されてしまった人物だ。一連の出来事を聞き終わった鬼灯が呟くと、伊達が強く同意した。

 

 

 *

 

 

『白た……白豚さん、今何してますか?』

「薬の納期はまだだろ? なんで電話して来たんだよ」

『いえ、あなたのことなので仕事を忘れて花街で遊び歩いているのではないかと……』

 話し方も低い声も癪にさわる。白澤は不機嫌であることを隠そうともせずに言い返した。

「お前、僕をなんだと思ってるんだ」

『ろくでなし色魔』

 瞬時に返ってきた返答に、白澤は眉をひそめる。

「あのなぁ、江戸川満月に製薬・生薬を補充し終わったらちょっと休憩して、その後に取り掛かる予定だからな?」

『ちゃんと間に合うんですか?』

「間に合わせるに決まってるだろ」

 疑われたことに対してぐちぐちと文句を垂れ流していると鬼灯に遮られた。

『じゃあ今は現世にいるんですね?』

「うん……なんか嫌な予感がするんだけど」

『ちょっと米花町の事件発生率の多さの原因を探ってきてください。事件が起こるのは呪いのせいである可能性が出てきたんです』

 要件を伝え終わった鬼灯に一方的に電話を切られ、白澤は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の奇人にやり返そうと決意した。鬼神ではなく奇人だ。誤字ではない。しかし、その決意は来店した女によってあっけなく打ち砕かれた。

「マングースのホルマリン漬けちょうだい」

 彼女は美しかった。流れる黒髪に知性を感じる瞳。なにより雰囲気が他の人とは違う。人類の頂点に立つべくして生まれてきたと言われても信じられるほど、堂々とした佇まいだ。

 白澤はすぐさま動いた。

「君綺麗だね。成人したら遊びたいから連絡先交換しない?」

 瞬時に相手が未成年だと見破り、下心を一切隠さずに連絡先を訪ねる。長らくナンパを続けてきたからこそなせる技だ。

 

 紅子は目を見開き、目の前の男をまじまじとみつめた。信じられなかった。服装も奇妙だが、それよりも自分を前にして「遊ぶ」と宣言したことにど肝を抜かれたのだ。

「その爺くささマックスの服と、私に対する態度。……まさか神獣・白澤⁉︎」

「あれ、僕のこと知ってるの?」

「ええ、私の持ち物である魔法の鏡が言ってたのよ。神獣白澤は女好きで女性に優劣をつけなくて服装が散歩中のおじいちゃんだって!」

「うわぁその鏡失礼だな。それはそうと、魔法の鏡を持ってるってことは魔女?」

「ええ、そうだけど……」

「米花町行かない? 実はーー」

 知識はあるものの実技はてんでダメな白澤は、魔女に力を貸してもらおうと考えた。完璧に頼みをこなすことで鬼灯に嫌がらせをし、綺麗な女子高生と一緒にいられる。合理的だ。

 しかし、紅子は話を聞く前に全力で拒否した。

「嫌よ、あんな呪われた町に行くなんて! ただ、呪いといっても神聖なものの呪いのような感じがするわ。米花町には行ったことがないからなんとなくしか分からないけど」

 

 

 *

 

 

「ビッチ先生、烏間先生は?」

「黒ずくめの組織との決戦が近づいている関係で、打ち合わせとかがあるから、今日は来ないわ」

 旧校舎の前でイリーナが教え子たちに説明を始めた。

 触手の研究をしている組織を潰す手伝いをしてもらうための訓練が今日も行われる予定だったのだが、急遽烏間に仕事が入ってしまったのだ。

「じゃあ今日の訓練どうするの?」

「皆で、昔みたいにチーム戦でもやるか?」

「いいえ、実践を行わせるように言われているわ」

「実践? どこで?」

「米花町よ!」

 木村の目は死んだ。

 公安の仕事の一環で米花町の調査をしている木村から言わせれば、自ら米花町に行くなんて正気の沙汰じゃない。高い場所に行けば一般人でも簡単に爆弾を手に入れることができる米花町だ。

「ビッチ先生、頭大丈夫?」

 心配気に尋ね、相手の神経を逆なでするのはカルマ。忙しい彼が訓練に出るのは珍しいことだ。

「何言ってるの、米花町は対人戦の練習に最適よ。犯罪者なら半殺しにしても罪に問われないし、必ず遭遇する犯罪者を倒せば訓練できるし人から感謝されるじゃない」

 確かに筋は通っている。しかし、あの町で喫茶店店員をしている上司がいる上に米花町の恐ろしさを嫌という程理解している木村としては、足を踏み入れたくない。

「探偵に疑われるだろ。あそこの探偵はかなり面倒だし……」

「大丈夫よ。盗聴器や発信機はよくつけられるけど、それくらいなら気をつければいいし。警察の知り合いに頼んで調べてもらおうとすれば防衛省が圧をかけるから」

 反論の手が尽きた木村はがっくりとうなだれた。

 

 

 *

 

 

「死にたくない死にたくない死にたくない」

「なんで俺はこんな場所に生まれなくてはならなかったんだ……」

「殺される殺される殺される」

 空虚を見つめてブツブツと呟く、青白い顔をした男たちを前に、カルマは顔を引きつらせた。

「なに、これ……」

 E組一行は米花町に着くと二人一組に分かれ、犯罪者相手に対人戦の経験を積むべく、犯罪者を探しに行った。そんな中。木村とペアになったカルマは裏路地に入ることにしたのだ。不良狩りを行なっていた頃、よく足を踏み入れていた場所を選択するのは当然だった。

 死体や血がついた刀が降ってきたり銃弾が飛んできたりしたので、その都度足を止めながら進んでいたのだが、この光景は予想外だった。

「ねえ木村。なんであの人たちこんなところで誰にでもなく命乞いしたり、嘆いたりしてるの?」

「あんた、米花町民じゃないだろ? こういった場所には近づかないほうがいいよ。社会の闇を垣間見れるから」

 後ろから声がかかり、二人は振り返る。元気そうな少年がそこにはいた。高校生くらいだろう。

「ボクは世良真純。赤髪のお兄さん、米花町を歩く以上、最低限気をつけないといけないことが全く守れてないからボクが教えてやるよ。木村さん、警察の人でしょ? ちゃんと教えておかないと」

 表向きは地域企画課に属していることとなっている木村は、企画を行った防犯イベントで起こった殺人事件が原因で何度か世良に会ったことがあるのだ。

 

 

「いいかい? 防犯グッズを持っていなかったら自殺希望者だと思われるよ。犯人くらい返り討ちにできるんなら、自分の強さをアピールするためになにも持たない手もあるけど……。事件現場で見たことがいない=米花町民じゃないってすぐにばれちゃうから、それはやめておいたほうがいいと思う。米花町民じゃないなら事件にも慣れていない、つまり殺しやすいって考えられるだろうから。知人も執念深い米花町民じゃない可能性が高いから、復讐の心配も少ないしね」

 昼食時だったので喫茶店に入り、腰を下ろして世良の話を聞いていたカルマは顔を引きつらせた。

 一方、木村は心拍数が異常に速くなっていた。しかし、彼も公安の端くれである。顔に出したりはしない。

 喫茶店のキッチンで先程注文した料理の調理を行なっているのが上司なのだ。気まずすぎる。

「木村さん、お久しぶりです」

 知り合いかと尋ねる世良に、事件現場で知り合ったのだと説明してから、今は安室透である降谷は尋ねた。

「確か、今日は同窓会だっていってませんでした?」

 上司が聞きたいであろう内容を相手に伝えることができ、訓練のことは悟られず、カルマと世良に疑われない返答を木村は一瞬で導き出す。

「ええ、同窓会だったんですが、米花町で解散ということになりまして。同窓会っていっても、忙しい奴が多いので参加人数も少なくて……。会うのを楽しみにしていた友人も来れなかったんですよ。しかも、同窓会に来てた奴らは全員カップルで、自然に別行動になったんです。だからあぶれ者の俺たち二人でぶらついてたら世良さんに会って、米花町の心得を教えてもらうことになりました」

 菜々は同窓会に来なかったことを降谷だけに分かる形で伝え、カルマには訓練のことを隠すための嘘だと思わせる。

 

「世良さん?」

 カルマが不思議そうに口にした言葉を、世良は聞き逃さなかった。

「ああ、こんな見た目だけどボクは女だよ」

 驚いたものの、勘違いしていたことをカルマが謝ろうとした時。ポアロの扉が勢いよく開けられた。

「安室透はいるかー!」

 全体的にくすんだ色合いが多い服装は、(見た目だけ)若い男が着るには違和感がありすぎる。

 上下している肩から、走って来たことが分かる。店内に入ってきた男が足を動かすと右耳に付けられたピアスが揺れる。

「えーと、どなたでしょうか?」

 困惑気味に尋ねる降谷。

「この人の彼女さんを一方的に惚れさせちゃったとかじゃないですか? 安室さん、顔がいいんですから気をつけてくださいよ」

 梓が言い終わるか言い終わらないかのうちに、白澤は彼女の目の前に移動した。驚くべき速さだ。

「君可愛いね。僕と遊ばない?」

「あ、コイツ駄目男だ」

 世良は悟った。

「木村、あの人どっかで見なかったっけ?」

「ああ、俺も見覚えが……」

 

 

「あ、僕は白澤(しろざわ)(じん)です。安室透! お前に話がある!」

 母親が若返っている関係で黒の組織について知っている世良は、ジンという名に警戒心を強めたが、すぐに解いた。彼は組織に全く関係がないだろう。現に、バーボンである安室透も現状を把握できていない。

「えーと、何かしましたっけ?」

「四人ナンパして、四人全員に『私には安室さんがいるから』『ごめんなさい、私は安室さんを信仰してるから』『チャラそうに見えて実は誠実な安室さんの方がいい』『つり目よりもタレ目派。安室さんみたいな』って言われて断られた僕の気持ちがわかるか⁉︎ 過去にも似たようなことがあったせいで軽く地雷なんだよ!」

 

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