原作を読んでいるとこうヤーナムな感じがするんですよね・・・

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〇月✖日 獣狩りの夜に 清滝桂香の日記より

先ず私は姉弟子 空 銀子に礼を述べねばならぬ。

 

彼女は、ただ盤上で彼と会話をしたいと言う一念により真実に辿り着いたに違いあるまい。

 

が…優れた棋士は時に救いようもない程破滅的な其れを意識の片隅に与えてしまう事がある。

 

第〇回 賢王戦 八段予選 八一君と山刀伐先生との一局。

 

そこで八一君は三連続限定合という宇宙的真実の一端を見せてくれた、

 

この時、私は心の片隅で否定していた姉弟子の教えが正しかったのだと認識できたのだ。

 

将棋星人という上位者が存在することを、彼らは人間には無い別の感覚器官をもって

 

盤上真理を視る事が出来るということを・・・

 

彼女はその感覚器官を「瞳」と呼称し、彼らに近づきたいという私に警句を残した。

 

「我ら智によって人となり、人を超え、また人を失う 知らぬ者よ

 

 かねて智を恐れたまえ よ。」 

 

ああ、何故私は今まで気づくことができなかったのだろう。

 

清滝剛介 九頭竜八一 雛鶴あい という上位者 

 

そして人を超え今や上位者の赤子にならんとする空銀子 夜叉神天衣

 

最高の環境に置かれているのにこの体たらくとは、情けない。

 

その後、私は知った者の義務として関西奨励会、研究会員に啓蒙を授けた

 

そして皆理解したのだ、我々は30年前から夢に囚われていたのだと

 

「青ざめた智」、「盤のフローラ」・・・呼び名は多々あるが

 

知らぬ者のために「名人」と書かせてもらおう。

 

名人の手により宇宙悪魔的な智の意志が盤上で生み出され、

 

テレビやモニターを通して私たちに注がれ続けてきた影響だ。

 

私が啓蒙を授けた多くのものは姉弟子の警句を軽んじ

 

それぞれの方法で上位者への道を模索し始めた

 

上位者の棋譜を音として記録し、脳内将棋駒に焼き付ける者、

 

「瞳」を曲解した結果、時代が悪ければ上位者を生体解剖する勢いで

 

医学の力を持って探求を続ける者・・・

 

その中でもわが師、清滝剛介主催の清滝道場生、鏡洲三段率いる一派は

 

対局の際に六角柱の鉄檻を被り上位者との交信を試みる異端中の異端だ。

 

 

棋界の外も最近では様子が変わってしまった。

 

「獣狩りの夜」

 

第30期竜王戦の後生まれた、警察関係者の隠語らしい、

 

なんでも、上位者同士の対局日は視聴者が暴れだすと言われており

 

体のいい点数稼ぎになっているらしいが、とんでもない話だ

 

我たちはただ、その日生まれた真理の一かけらを世間に伝えようと

 

門戸を叩き、啓蒙を授けて回っているだけだというのにだ。

 

私たちが獣ならば、真理を理解しようともしない彼らは虫けら以下ではないか。

 

いや、これは私たちの努力が足らないのだろう。

 

今日は竜王戦以降初めての八一君と名人の対局日、知らぬ者の言葉を借りるならば

 

あの第4局に匹敵する獣狩りの夜が生まれるはずだ。

 

私も気合を入れてモニターの向こうの上位者達に交信を送らなくてはならない。

 

対局時間は近い。検討室からコウコウコウと唄が聞こえる。

 

脳に多数の瞳を詰め込んだ彼女の唄だ。邪魔はすまい。

 

名人の初手が! 7六歩に! 7六歩に!

 




上位者の棋譜

上位者の智の意思を宿した遺物

記録係により遺されたその原本

使用により宇宙悪夢的な智の遺志を得る

それは天啓にも似て、だが到底理解などできぬものだ


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