はあ、毎年のことながら年度替りは忙しいわ。しかも今年は世界でたった二人の男性操縦者が入学してきたんだもの、いつもの倍は忙しく感じるわね
「でも、かわいい生徒なんだしケアしてあげなくちゃあねえ。」
「うむ、その通りですな。エイミー先生。」
「ジェイミー先生、い・・まお帰りで?」
危ない危ない、もう少しでジェイミー先生を少し落ち込ませるところだったわ。
「ええ、ちょうど書類が終わりまして。」
うん、一人で夜道を帰るのも寂しいし、このまま一緒に話しながら歩くのもいいでしょう。
「しかし、私たちもかなりの重役を任されたものよね。」
「そうですね。織斑兄だけでなく男子慣れしていない女子にも気を張らなくてはなりませんからね。」
「そうねえ、でもよかったじゃない。意外と皆、グイグイいってたし。もしかしたら私たち教師よりも男性慣れしてたりして。」
「ああ、たしか1組には・・・。」
山田先生、大丈夫かしらね。
「でも1組はいいんじゃないかしら、織斑先生は姉なんだし、慣れてるなんてもんじゃないでしょ。」
「厳格な人ですからね、変な肩入れや依怙贔屓はしないでしょう。」
「逆に肩入れしなさすぎるのも問題だと思うけどね、今までISの勉強なんて一切してなかったみたいだし。」
「そう考えると二人とも才能あふれる人間で良かったかもしれませんね。その辺の男子高校生では今の時点で潰れていたかもしれません。」
「ああ、ずっとIS学園で教鞭とってると忘れがちになるけど、うちって倍率100倍越えの超実力主義の軍事学校みたいなもんだったわね。」
でも私、その辺の男子高校生のことなんてさっぱりわからないわ。もう少し若者の流行とかに敏感になったほうがいいのかしら。
「その点、織斑兄はよく食らいついてると思います。しっかりと努力を積み、争いを避け、問題も起こさない穏やかな性格。立派な模範生ですよ。」
「ホント、いい子よね。皆あんな子なら楽なんだけどねえ。」
「闘争心の類がないのが少し残念ですね。」
「そんな子なのになんで兆秋君と仲が悪いのかしらね。」
「どちらかと言うと織斑弟が一方的に嫌っているようでしたね、兄以外には気のいい性格らしいのですが、不思議な話です。」
そうなのよねえ。現に一触即発にまでなったオルコットさんともすでに仲直りしてるらしいし、あの様子じゃあかわいい女の子限定ってわけでもなさそうなんだけど。
「もしかしたら一夏君にも原因があったりして。」
「どちらに原因があるにしても、更識姉の話では暴力沙汰になりかけたらしいですからね。そうなれば私たちも首を突っ込む必要があるでしょうね。」
だから二人のクラスを離したのね。それで気の強い兆秋君を姉の織斑先生が面倒を見ると。
「相性そのものは悪くないんでしょうけどね。」
「聞いた話では、険悪な仲になっていたオルコットと織斑弟は試合を通して仲直りをしたとのことですが、織斑兄もその方法ではダメでしょうか?」
「うーん、難しそうねえ。一夏君は授業や行事でもない限りそういう争い事は嫌がると思うわ。」
戦わなきゃいけない時は全力を出すと思うけど、戦わなくてよさそうなら絶対避けるでしょうね。極端に争い事が嫌いそうなのよねえ。
「・・・もしや、その気質のせいで拗れに拗れているわけでは無いですよね。」
「いやそんな・・・まさかね。」
なんだろう、一夏君をやる気にさせて兆秋君と戦わせたら全部解決しそうな気がしてきたわ。
「負けん気や闘争心が無さすぎるのも、考え物ですね。」
「この件は例外中の例外よ、多分。」
「いえ、世界でたった二人しかいない男性操縦者ですし、もしかしたら各国から転入生がくるかもしれません。」
「ええ、でもうちに転入なんて、それこそ代表候補クラスの実力者じゃない限り無理よね。」
「そうです。そして代表候補生となるとプライドが高く、加えて1年生となれば実力だけあってもまだ精神的に未熟な娘の方が多いでしょう。」
そうねえ、オルコットさんなんて正にそれだったものねえ。そういうところを直していくのが私たち教師の仕事でもあるのよねえ。
「そして国の指示で来たとなれば織斑兄と接触するでしょう。そして機体のデータを採るために模擬戦を挑もうとするかもしれません。そうなれば・・・。」
ああ、何となく話が見えてきたわ。
「一夏君がその模擬戦を断ったら角が立つと。」
「そうです、普通に挑むならともかく挑発をされるようなことがあれば、喧嘩を売られたと判断して引き下がるでしょう。しかもあいつは卑屈に断るのではなく飄々とかわしていきますからね。そしたら第2第3の織斑弟が出来上がるかもしれません。」
うーん、自信満々の娘は上から目線で挑みかかるでしょうねえ。
「シャレにならないわねそれ。」
相手にもされないっていうのは転入できるような娘にはさぞ屈辱でしょうねえ。
「ほとんどが憶測にすぎませんが、決してあり得ないことではないと思います。」
ジェイミー先生も昔はそれはそれは獰猛だったらしいものねえ。
「ええ、ご想像の通り、昔の私だったらどうするかを考えた結果が今の憶測です。」
「・・・顔に出てたかしら。」
「何となくそう思われている気がしまして。」
「しかし、どうしたものかしらね。問題がわかっても多分本人は悪気があってやってるわけじゃなさそうだものね。」
むしろくだらない争いを避けるとかいって善意でやってる節があるものねえ。
「無自覚ゆえに、かえって相手の神経を逆なでするでしょうねえ。」
「そしてそれを理解させてやるのも骨が折れそうですね。」
お、そうこう言ってるうちに分かれ道になったわね。
「では、私はこっちなので失礼いたします。」
「あら、一緒に居酒屋にでも酔っていかないかしら?」
「ああ、申し訳ありません、今日は夫の誕生日なんで外せないんです。」
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「あ、そうだ、これどうぞ。」
「・・・これは?」
「夫の誕生日プレゼントを買ったときにくじ引きがありまして、それに当たって貰った和菓子セットです。本来1000円くらいになるものだそうで、いつもエミリー先生にはお世話になっているのでお礼に差し上げます。」
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「そう、ありがとうねジェイミー先生。」
「どうなされましたエミリー先生?そんな沈んだ顔をして。織斑兄弟のことなら心配せずとも私も微力ながら力になりますからきっとどうにかなりますよ。それに男心も私の夫に聞けば力になってくれると思いますし、安心してください。」
「あ、うん・・・ありがとう、頼りにしてるわ。後、お菓子、おいしく食べさせてもらうわね・・・。」
「ええ、私たち二人で1年3組を立派なクラスにしていきましょう。」
そう言って彼女は歩いて行った。
悪気がなくって無自覚ゆえに・・・かあ。
重たいなあ、この和菓子。
「・・・結婚したいなあ。」
我が家で独りぼっちで食べた和菓子は、どこか色あせた味をしていた。
余談ですが、ジェイミーは今でもちょくちょく連絡を取り合っているオーストラリアの代表(独身)に、無自覚で惚気てメンタルにダメージを与えています。