他のヒロインたちがアンチされる作品はいくつも見たことがあるけれど、簪アンチだけは見たことがないなあ。いや別に見たいわけじゃあないけど。
side一夏
「たっちゃん先輩も人が悪いなあ。第3世代兵器が未完成とはいえ、更識さんの専用機が出来上がってる事をを黙ってるなんて。」
俺は園山さんと共に次の対戦相手になるであろうペアの対戦を見に来ていた。(普通ペアのボーデヴィッヒさんと来るんじゃないのか?とか言ってはいけない。)
「うんうん、荷電粒子砲といい薙刀といい、素人目に見てもかなり綺麗に使ってるよね。」
こりゃ次の試合に青天の実戦経験を積むなんて嘗めた真似できないよなあ。
「この洗礼された戦い方。これは才能じゃなくて、地味な反復練習や体力作りといった努力の賜物だな。」
これは参ったな。オルコットさんや兆秋みたいな特化型なら色鋼のフォームチェンジで弱点を突き続ける事もできたんだろうけど。
「万能型相手じゃあ少し慣れられたら効果半減だな。」
「一夏くんと更識さんって相性悪いの?」
「相性が悪いっていうか、操縦者として完全に負けてるって感じかな。今まではフォームチェンジや特殊武装でテクニック不足を誤魔化してきたけど、多分更識さんには通用しないだろうな。」
それぞれのフォームの特殊武装も1回は効くだろうけど、零落白夜と違って極端な火力はないし、押し切ることはまず不可能。ただ、積極性が足りないのが傷だな。これでもう少し強気な戦い方ができていれば、文句なくオルコットさんや鳳さんより強敵だって言えるんだけど。
「それにペアの布仏さんもいい動きしてる。実力は飛びぬけてはないが、あれだけ更識さんの力を引き出せるのは優秀な証拠だ。」
「一夏くん、何か作戦はあるの?」
「俺らにできるのはもう分断からの各個撃破ぐらいなもんだから。いっそ更識さんはボーデヴィッヒさんに丸投げしちゃうっていうのも・・・ん?」
「どうしたの?」
「いや、一瞬更識さんがこっちを見たような・・・?」
それも、割と強い目線を。
「もしかして会長と同じ部屋だから意識されてるとか?それともクラス対抗戦での戦いをこのトーナメントでやろうとしてるとか?」
会ったことがないってだけで、俺と更識さんってそれなりに因縁はあるんだな。
「それとも第3世代兵器、『マルチロックオン・システム』の最初の実験機を打鉄弐式から色鋼・黄土にしてしまおうっていう倉持技研の考えのせいかな?」
「それだ!確実にそれだ!!」
そんなことになれば更識さんはさぞ屈辱だろう、努力も何もしてこなかった男にテストパイロットっていう栄誉を奪われるのだから。
「っていうかなんでそんな動きが出てるんだ?俺の色鋼の第3世代兵器はフォームチェンジのはずだろ?」
「何でも、黄土のミサイルとマルチロックオン・システムはそこそこ親和性が高いらしくて、他の武装を減らしたら搭載できる可能性があるんだって。そうしたら一機のISに2つの第3世代兵器を積めるって言う話が出てるとか。」
成程、そんなことが可能なら色鋼は3.5世代、実験がうまくいけば第4世代にもなり得るかもしれないな。
「そしてなんで園山さんがそんなこと知ってるんだ?」
「ああ、私の両親は倉持技研で働いてるんだ。」
「へえ、共働きなんだ。ところでそんな仕事の話ししちゃってよかったの?」
「大丈夫だよ、お父さんもお母さんも言いふらしてもいいことしか私に話さないから。多分、バレなくてもよし、バレてもそれでやる気を出してくれればよしみたいな感じで考えてるんじゃないかな。」
それに私以外にも倉持技研の社員を親に持ってる人、多いし。と付け加えて園山さんは席を立った。
「それじゃあ私、ペアの娘と作戦会議があるから。」
「ごめんな、付き合わせちゃって。」
「いいよいいよ、会議って言ってもそんなに話すことなんてないし。」
そう言って彼女は出口のほうに歩いて行った。
「さて、どうしたものかな?」
俺が勝ったら第3世代兵器の話、更に進んじゃうよな。
重いなあ~。
「って言う事があったんですよ。参っちゃいますよね。」
「それで一夏くんとしてはどうなってほしいのかな?」
俺は寮でたっちゃん先輩に観戦中の出来事について愚痴っていた。
「出来れば受けたくない話です。かと言って、ド素人なのに最新鋭の機体を貰ってる身としては断りづらいですね。」
別に確定したことなわけでもないし、まだ話が出てるって程度なんだろうけどさ。
「ふーん。まさかとは思うけどさ、タッグ戦で簪ちゃんと戦う時に適当に流して終わらせようとか思ってないよね。」
たっちゃん先輩は険しい目線で俺を射抜いた。
「試合には勝つ気で行きますよ。」
「答えになってない。簪ちゃんとまともに戦う気はあるの?」
はぐらかすことは許されなさそうだな。
「まともに戦っても勝てるかどうか分からない強敵ですからね、本気で戦いますとも。ええ、一方的に負ける気はありません。」
「つまり、最後の最後に負ける気はあるんだね。」
はあ・・・
「そうですね、ここだっていう局面になったらわざと負けるかもしれません。俺としては更識さんからやっかみを買うのも、2つ目のの第3世代兵器を背負うのも御免です。今だって2人きりの男性操縦者だとか第3世代機の色鋼だとかで一杯一杯なんですから、これ以上なんて想像もできません。」
そう、それが・・・
「それがたとえどんなに低い確率でも、自分から上げに行くなんて考えられません。」
「・・・」
たっちゃん先輩は手を顎に当て考え込んだ。
「なら・・・」
「たっちゃん先輩?」
「ならその話が来たら私のほうから断わっておくから、真剣に戦ってくれないかな?」
「いや、そこまでしてもらうのは流石に「いいから!」はあ・・・。」
なんだかやけに余裕がないな。
「何か事情でもあるんですか?」
「・・・前にも言ったでしょ?妹と仲が悪くなったって。」
ああ、色鋼を受け取った日にそんなこと言ってたなあ。
「私は簪ちゃんと・・・その、仲違いをしちゃってさ。昔、あの娘を傷つけちゃって、それでもうまともに話も出来なくて・・・だからせめてこうゆうところの手助けぐらいはしてあげたくて、一夏くんと本気で戦うのは簪ちゃんにとってプラスになるはずだから。」
「・・・ボーデヴィッヒさんじゃダメなんですか?」
「簪ちゃんが戦いたいのは多分一夏くんだし、彼女に任せたら絶対に叩き潰されちゃうから。」
まあ、そう言うことなら。
「分かりました、ならありがたく甘えさせてもらいます。」
「うん、お願い。全身全霊で簪ちゃんと戦って。」
そのためにはフォームチェンジに磨きをかけなくちゃな。
「それで次の相手の更識とやらを貴様に譲れと。」
「いいでしょ?俺だって決勝では絶対に兆秋に手出ししないわけだし、そのくらいの役得があっても。」
次の日の休み時間中、俺はボーデヴィッヒさんに直談判していた。
「ふむ、まあいいだろう。所詮は有象無象、それに貴様の実力を試す良い試金石になるだろう。」
意外とあっさり了承をもらえた。
「但し、余りにも惨めな戦いをした時にはその更識ごと貴様を叩き潰す。」
怖!
そうして・・・。
「織斑一夏、私にはあなたと戦う理由がある。」
「らしいね。」
「らしいってことは知ってるんだね。」
「ああ、聞いたよ。」
「そうなんだ・・・私の機体があなた達兄弟の機体を準備するために放置されたことも、私が受け取るはずのマルチロックオン・システムをあなたに渡されそうになってるってことも、そもそもフォームチェンジ機能付きの色鋼のせいで打鉄弐式の計画そのものが凍結されかかったことも知ってるんだね。」
「え?なにそれ、2番目以外の話聞いてないんだけど!?」
「!?、絶対に許さない!!」
「聞いてた話と違うぞ!」
試合が始まった。
文字数の驚きの少なさ!