帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第十話 その歴史は一繋ぎの大秘宝から始まったらしい

 西暦2706年8月16日午前6時55分、ラグラン・グループの一員にしてシリウス政府の国防相の地位にあったジョリオ・フランクールはウィンスロー・ケネス・タウンゼント首相へのクーデター実行直前にシリウス政府公安警察特殊部隊により射殺された。

 

 射殺する直前、特殊部隊はフランクールにある情報を問い質したという。それは黒旗軍の地球総攻撃の際、軍が発見・隠匿したと言われる地球政府の秘密基地に眠る莫大な資産の在処についてである。

 

 受話器から決起の連絡を入れようとして撃ち抜かれた腕を握りしめがらフランクールはその時不敵な笑みを浮かべ死に際にこう叫んだ。

 

「黒旗軍の遺産か?欲しければくれてやる。探してみろ!この世の全てをそこに置いてきた!」

 

 その一言に触発され、銀河の荒くれもの共が夢を追いかけ、宇宙を駆ける!世はまさに大海賊時代………!

 

……と、このような事を叫んだかについては諸説あるが、ともかくフランクールの死後、タウンゼントは黒旗軍の隠匿資産を探していた事、そのために十提督を初め多くの黒旗軍の幹部が処刑や拷問にかけられたのは事実だ。

 

 そして首都ロンドリーナ中心街で中性子爆弾で彼が派手に爆発四散した後、分裂した黒旗軍や地球軍残党、各星系政府は其々に合い争いながらこの遺産を探し回った。

 

 この戦乱の中でシリウス戦役時の仮装巡航艦を利用した私掠船による通商破壊戦術が模倣、大々的に実施されそしてその中から各国の統制から外れ独自に略奪や黒旗軍の遺産探しを始めた者達が最初期の宇宙海賊だと言われている。

 

 西暦2707年から2801年の銀河連邦成立までの1世紀……『銀河統一戦争』の時代は宇宙海賊の黄金時代だ。

 

 プロキシマ通商同盟、テオリア連合国、レグルス=カペラ人民共和国、プロキオン=オーディン教国……列強諸国の戦争と策謀の中でこの時代の宇宙海賊は肥え太り、銀河通商航路に強大な影響力を与えていた。

 

 最終的にこれら列強諸国は長期に渡る戦争で疲弊、全銀河的国際会議による妥協と打算の末アルデバラン星系第3惑星テオリアを首都とした星間連合国家『銀河連邦』が成立、これに合わせて各国で下請けで私掠船として働いていた宇宙海賊組織は解体、銀河連邦通商航路安全管理局の一部に再編され、銀河連邦の決定に従わない一部海賊は各国軍を再編した銀河連邦軍により殲滅された。

 

 『銀河連邦』はその体制の初期こそ抗争に明け暮れたものの宇宙暦20年を過ぎる頃にはその統治は安定化、同時に軍事技術の民間移転、兵器開発のリソース・資本の民需移転により恒星間航行技術は急速に発達、所謂宇宙開拓時代の到来を迎える事になる。

 

 だが、同時にそれは新たな宇宙海賊の時代を告げる事にもなった。

 

 宇宙開拓時代を支えたのは連邦内の各財閥群だ。当然だ。惑星開発を個人レベルで行える筈もない。そしてそれら財閥の多くがかつての戦争中の列強諸国の指導層でもあった。

 

 連邦成立以前より敵対関係にあった彼らは辺境開拓による富の生産の傍ら、かつての敵への妨害活動を当然の如く実行した。

 

 この敵対財閥の企画する事業移民団への襲撃のための企業の私兵部隊が銀河連邦時代前半の宇宙海賊の主力となった。ハイネセン記念大学歴史学科シンクレア教授が著書『銀河連邦史』にて、そして後に銀河連邦議員に選出されたクリストファー・ウッドが自伝で指摘するところの『政治と海賊の癒着』である。当時の有力者が宇宙海賊と癒着していればそりゃ根絶出来る筈もない。

 

 最も、銀河連邦初期から中期の宇宙海賊はある意味では行儀の良い集団でもあった。あくまでも事業妨害のために海賊行為を行うのであって移民船団の住民を人質にする事はあっても殺人や人身売買をするような凶悪犯は殆んどいなかったのだ。中にはウッド提督の永遠の宿敵にしてエンターテイメント映画のスターにもなったフィリッポス海賊団等、所謂義賊として市民の人気を博した者達もいた。

 

 それに変化が訪れるのは連邦後期である。銀河経済の停滞と相次ぐ大不況が統一国家の屋台骨を揺るがした。社会不安は多くの犯罪組織を産み、当然その一部は宇宙海賊に合流した。

 

 宇宙海賊の犯罪行為の凶悪化した時期である。古き善き時代の海賊は急速に駆逐され、残るのは文字通り盗賊集団だけであった。

 

 その凶悪さに長らく温い戦いしか知らなかった連邦軍や連邦警察は摘発にたじろぎ、同時に不況によるこれらの組織の縮小が能力とモラルの低下も招いた。

 

 そこに現れたのが後のルドルフ大帝であり、これまで多くの利権と残虐な報復により名前を馳せたベテルギウス方面の宇宙海賊を容赦なく撃滅する勇姿は連邦市民に希望を与えるものであった。

 

 銀河帝国成立から現在までのそれを後期宇宙海賊と呼ぶ。この時代の宇宙海賊の特徴は高い練度と重武装を伴う事だろう。

 

 帝政初期、帝国軍はその圧倒的武力を持って旧来の宇宙海賊を壊滅させた。

 

 だが、同時に帝政に反発する銀河連邦軍共和派の一部勢力が分離、辺境で対帝国抗争を始めることになる。

 

 また、止血帝の時代には前皇帝の横暴に加担して一部爵位剥奪を受けた貴族が反逆、以後も権力抗争に敗れた貴族を中心に帝国の体制に対立・挑戦する宇宙海賊が辺境で跋扈する事になった。無論、それは帝国の支配体制を屋台骨から揺るがすものではなかったが、それでも帝国軍にとって軍用艦艇や元軍人を中心に構成された宇宙海賊は決して軽視出来る存在ではなかった。

 

 そして、事態はダゴン星域会戦以後急速に悪化する。銀河を二分する星間国家同士の戦争は特にこれまで厳しい制約を掛けられていた宇宙船造船の分野で巨大な需要と艦艇の値崩れを発生させた。

 

 同時に長きに渡る両国の戦争は少なくない逃亡兵の発生と大量に遺棄された武器の山を産み出した。それのために宇宙海賊はその勢力を肥大化させ、両国は宇宙海賊に対して弾圧を加えつつ一方敵国に対する工作の一環として両国は相手側の宇宙海賊に様々な援助をしていた。

 

 特に帝国側は拿捕した宇宙海賊に対して極刑と引き換えに同盟領への島流しが行われていた。彼らは武器を持ち、言葉が通じず、まして帝国政府側から同盟に対して極度に歪曲された情報を与えられていた。島流しされる彼らの多くは宇宙海賊の中でも特に重罪者であり、その殆どが同盟領においても多くの重犯罪行為に手を染めていた。

 

 以上が宇宙暦8世紀末における宇宙海賊の現状である。さて、そろそろ私がこんな長々と説明する理由は御分かりだろう。

 

 ようは、私達が遭遇したのは宇宙海賊の中でも特に質の悪い種類だと言う事だ。

 

 

 

 

 

「畜生っ!ふざけんなっ……!?禄でもねぇ!?」

 

 曲がり角に飛び込み私達は海賊共の銃撃を避ける。通路の向こう側から数条の青白い光線が発射される。通路角に掠れ焼け焦げる臭いと共にプラズマの光が弾け飛ぶ。

 

「若様っ!御下がりをっ!!」

 

 ブラスターを構えたベアトが通路の曲がり角に身を伏せながら応戦する。

 

 ベアトの応戦に海賊側もブラスターと実弾銃で反撃を開始する。互いに物陰に隠れながら銃撃戦が始まる。

 

「ベアト、構うなっ!逃げるぞっ!」

 

遭遇戦に備えていてよかったよっ!

 

「これでも食らいやがれっ!」

 

 銃撃の間隙をついて私は火炎瓶を投げつける。医療用高純度アルコールを硝子瓶に入れてライターで発火させたものを通路のど真ん中にぶちまける。案の定、通路に硝子が四散し、アルコールが通路を燃え上がらせる。学生運動でもしている気分だ。

 

 海賊共が炎に一瞬怯む。宇宙暦8世紀になろうとも火は相変わらず危険な存在だ。ましてこんな狭い通路で火炎が燃え上がれば容易に突入は出来ない。

 

 と、帝国と同盟の装甲服をニコイチにして装着している海賊が正面から消火器を持ち出す。ただちに消火剤を撒く海賊。……ですよねぇ。これくらい対策出来ますよねぇ。

 

「くそ、どうせ邪魔になるんだ。全部くれてやる!」

 

 足止めに残りの火炎瓶をがむしゃらに投げつける。そしてそのままベアトと共に通路の奥へと走る。

 

「若様っ!」

「分かってる!」

 

 走りながら私は通路に設置されている消火器を引き倒して後ろに蹴りつける。すかさずベアトが走りながら消火剤に数発発砲。海賊が曲がり角を曲がり我々と後方から見て直線状に出たところで消火器が小さな爆発と共に中の消火剤が鉄片と共に巻き散らかされる。最も、相手の視界を一時的に潰す程度の効果しか無かった。

 

 あいつらと戦うのは御免被りたい。奴らは文字通りの盗賊集団だ。武器・麻薬・人間、金になるならどんな犯罪にも手を染めるし、軍事基地だって襲うだろう。報復や見せしめのために捕虜の惨殺くらい普通にするメンタルの集まりだ。中南米やロシアのマフィアを狂暴にしたと思えば想像出来る筈だ。この前もライガール星系方面で同盟軍が同盟警察と共に宇宙海賊の掃討作戦を実施していたが、その報復として捕虜の同盟警官の指と耳を切り落とし皮を剥がされた動画がアライアンスネットワークの大手インターネット動画サイトに投稿された程だ。奴らの精神を日本人は当然として、現代同盟人の価値基準で考えてはいけない。武器だけ未来的だが思考は世紀末モヒカンと思った方がいい。

 

後方から銃声。閃光が私達のすぐ横を通り過ぎる。

 

「ひっ……!?」

 

 私は少しでも命中率を下げるために体を低くして全力で走る。文字通り命がけで走る。

 

「ベアト、左だっ!」

「はいっ……!」

 

 海賊共に数発ブラスターを撃ちながら叫ぶように返答するベアト。御返しとばかりに撃ち込まれる熱線の洗礼を辛うじて潜り抜けて私達は殆ど滑りこむように左側の通路角に入る。既に緊張と疾走で息絶え絶えだがまだ休めない。そのままさらに通路を数度走り、曲がる。

 

そして………。

 

 

 

 

廊下を走る足音が響き渡る。

 

「あの餓鬼共どこに行きやがった……!」

 

 非情に訛りの強い……それは、辺境の下層民らしい荒く,また癖の強い帝国語の叫び声だった。恐らくはシャンタウ方言であろう。

 

「糞がっ、撒かれたぞっ!?」

「ドジがっ……!逃げられやがって!だからさっさとぶち殺してやればよかったんだよ!」

 

 私服姿の海賊が苦虫を噛み、伸びきった帝国軍歩兵の軍装の者が罵りながら舌打ちをする。

 

「仕方ねぇだろうがっ!まだ若かったんだ!とっ捕まえりゃあ良い売り物になるんだぞ?特に雌の方は結構磨けば上玉になったぜ?ありゃあ」

 

 トマホークを肩に乗せだるそうに語るのは装甲服の男だ。

 

「はっ……それで逃げられたらざまあねぇなぁ」

 

私服姿の海賊が嘲笑うように鼻を鳴らす。

 

「遠くにはいってねぇ筈だ。てめぇら、探すぞっ!」

 

 足音が遠ざかる……それを私達は通路のすぐ下の配線口で耳を澄ませて聞いていた。

 

 私達は基地の配線設備の保守点検用のシャフト内で身を寄せあって息を潜める。上の通路にあるハッチを開いて少々強引に入った。さすがに子供とはいえ、本来なら大人一人が辛うじて回線点検出来る空間である。根本的には狭い空間内で隠れるのは一種の賭けに近かった。

 

「行った……」

「まだ、お静かに……!」

 

 私の言葉をベアトが低い声で遮る。すぐ、後に足音が私達の上を通りすぎる。

 

「………」

「………」

 

 沈黙が場を支配する。聞こえてくるのは自身の心臓の高鳴りと互いの呼吸のみだった。緊張感からかやけに心臓の鼓動が騒がしい。

 

 見つかれば録な事にならない。命の掛かった状況……その事が分かるから私は臆病にも震えるような息継ぎをしていた。手元がかすかに震える。

 

 逃げるよりも隠れる間の方が一層恐ろしいものだ。体を動かさない分、思考の余裕があり、それだけ恐ろしい未来を考えさせられる。

 

 宇宙服無しで生きたまま宇宙に蹴りだされる、核融合炉に投げ込まれる、裁断機でスライスにされる、流血帝の注射器で狂死させられる……恐ろしいのは全て実際に海賊が捕虜に実行した前例がある事だろう。身代金目当てでも、見せしめの拷問を受ける事もある。当然だがそんな事ご免だ。

 

「………」

 

 恐ろしい未来を幻視して顔を青くする私をベアトは心配そうに見つめる。そして思い立ったような表情を浮かべると……ぎゅっと抱きついた。

 

「………!?」

 

 鼻腔から微かな、爽やかな香水の匂いが感じられた。多分、柑橘系のそれだった。突然の事に体を震わせる私に、しかし忠実な従士は小さく、しかし優しい声で耳元で囁く。

 

「ご安心くださいませ。若様の御身はこの私が一命に賭けてお守り致します」

 

慈愛と優しさに満ちたその言葉に私の震えはゆっくりと止まる。

 

「………ああ、済まない」

 

 未だに心に余裕の無い私はそう、短くしか答えられなかったがベアトはそれで満足したのか優しげな微笑みで返す。

 

 本当に情けない。主人として失格だ。内心呆れられていても文句は言えない。正直、性別逆転すべきだなんて思ってしまう。私、ベアトが男だったら男同士で掘られてもいけると思う。イケメン過ぎるもん。……こんな冗談を考えられるのも目の前の従士のおかげだ。

 

暫し共に身を寄せあって隠れ続ける。

 

「……私が先行致し……!?」

 

再び足音が響き私達は止まる。

 

「………」

 

足音がこちらに近付く。恐らく2名。私達は微動だにせずやり過ごそうとする。……だが。

 

ガタガタ、といった乾いた音と共にハッチが震える。それは決して振動によるものではない。

 

「………!」

 

気付かれたか………私達は同時にそう考えた。

 

「………必ずや、御守りします」

 

 盾になれるように私を抱き寄せながら、決死の形相でブラスターを構えるベアト。何も出来ないまま私は見ている事しか出来ない。

 

上部のハッチの蓋が開く。照明の光が注ぐ中、ベアトはブラスターの引き金に指を添え………!

 

「あっ………」

 

ブラスターを構えるアレクセイと目が合った。

 

「………」 

「………」

「………」

 

三者共に沈黙。そして………。

 

「ごめん、取り込み中か」

 

そっとアレクセイが蓋を閉めた。

 

私は急いで蓋を開けて弁明を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




主演 ジョリオ・フランクール(役・大塚 周夫)
提供歌 「ウィーアー」







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