帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

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注意 主人公は出ませんが主人公が出ます(誤字にあらず)
後、藤崎版の一話を見てから読むのをお勧めします


幕間
そして歴史学者は暫し微睡み、詩人は叙事詩の筆に手を伸ばす


『以上が現在公開可能な遠征資料と私の私見だ』

 

 デスクに備え付けられた固定端末に映るふくよかな同期がアライアンスネットワークシステムの軍用回線からデータを送信するとぶっきらぼうにそう口にした。

 

「済まないロボス、恩に着る」

 

 宇宙暦785年9月上旬、テルヌーゼン同盟軍士官学校校長シドニー・シトレ中将は校舎の校長室でそう答える。

 

『ふんっ、統合作戦本部の遠征評価はもう出ているだろうに、態々それとは別に私から評価資料をまわせとはな、何を考えているのだ?』

 

怪訝な表情でロボスはシトレに尋ねる。

 

「ふっ、そう訝しがらなくてもよいだろう?統合作戦本部の公開分析資料なぞ前線に出た事も無い奴らが数字だけで制作した参考書だ、文字通り参考になろうともそれ以上の物ではないさ。実際に現場で戦いを経験した者の見識程役立つものもあるまい」

 

 シトレは決して統合作戦本部の参謀や分析官を軽視している訳ではない。だがそれでも現場と経験を重視する傾向の強いシトレは統合作戦本部の発行する公開分析資料と同じかそれ以上に自身の好敵手の私見を重視していた。

 

 尤も、シトレのその性格と立ち位置から最新の分析データが手に入りにくい、という事情がある事も否定出来ない。

 

「それにしても驚いたよ、駄目元で頼んだつもりなのだが、まさかここまで綿密に分析した資料を送ってくるとはな」

『借りは返す、私を受けた恩を忘れるような恥知らずと同じにするな』

 

 むすっ、と顔を顰めつつ腕を組んだロボスは吐き捨てる。二年前、彼の親族が士官学校における戦略シミュレーション、その敗北に際してその三文芝居のおかげで窮地から脱したのだ。

 

 正直決して好意的な感情がある訳ではないが身内が受けた恩は自身の恩であり、それを返すのは当然の事であるとロボスは認識していた。それ故にロボスは不承不承ながら自らの第四次遠征における分析資料を提供したのだ。

 

「それにしても……やはり補給が難題であったようだな」

 

受け取った分析資料を基にシトレは尋ねる。

 

『散々に宣伝してくれたおかげで帝国軍は万全の状態であったしな。それに要塞の補給能力も脅威だ』

 

 事実、遠征の最終局面ではその回復能力が勝敗を分けたと言っていい。もし万全の状態の第一一艦隊であればたかだか一個分艦隊の奇襲に対してあそこまでの醜態を見せる事は無かった。

 

「やはりあの要塞を落とすには短期決戦、それも奇襲によるしかないか……」

 

 長期戦では同盟軍は不利となる、過去四回の攻略作戦で最も成功に近づいたのは奇襲による第三次遠征、となればその結論に至るのは自明の理である。

 

『問題は艦隊と要塞主砲を抑え、かつどのようにあの外壁を抜くかだよ』

「どのように抑えて、か」

 

 艦隊と要塞砲、この二つの脅威は相互に補完し合う故にその対応は極めて困難な課題だ。

 

 そしてこの時点においてシトレとロボスはそれぞれ朧気にではあるがその課題に対する一つの解答を見出しつつあった。

 

「ロボス、確か今お前がいるのは……」

『ケリムだよ。全く、まだ遠征の損失を補填出来ていないというのに航路警備の増援とはな。地方部隊を弱体化させてまで正規艦隊を増強しておいて、その正規艦隊で航路警備とは本末転倒としか言えんな』

 

不機嫌そうに鼻を鳴らす少将。

 

「そうか、またハイネセンに帰港した時には連絡を入れてくれると助かる。今度作る要塞攻略作戦の出来を評価して欲しい」

『評価?なぜ私が貴様の作戦を評価してやらねばならん?』

「してくれたら飯を奢ってやる、オリンピアの「チェシャ猫亭」でどうだね?」

『むっ……』

 

 政府高官も使う高級レストランの名を出したシトレの言葉に暫し迷うように顎を摩り、最終的に苦々しげに答える。

 

『飯を奢られる程度で説得される、と思われるのは不愉快だが……貴様の金で食うと考えるならばまぁ良かろう。一番高いコースで予約しておけ』

「がめつい奴め、太るぞ?」

『生憎、最近痩せ気味でな。多少大食いした所で問題無いわ』

 

 その返事に僅かに驚きの顔を見せるシトレ。確かに良く見れば以前見た時に比べ少しスリムになっているようであった。

 

『そこまで驚かんで良かろうに……』

 

 その反応にジト目で不機嫌になるロボス。シトレはそんなロボスの機嫌を取りなし、ニ、三言会話した後通信を切る。

 

「ふぅ………」

 

 通信を終えたシトレは肩を揉み、首を鳴らす。士官学校の校長という立場は思いのほかストレスが溜まるものである。

 

「今回は駄目だった……せめて次で墜としたいものだ………」

 

 校長室の窓から見えるグラウンドを見つめるシトレ。昼食兼休憩時間のようで早々に食事を胃袋に詰め込んだ学生達がサッカーに興じているようであった。ボールを追いかけ歓声を上げるのはまだ成人もしていない幼さの残る生徒達、しかし彼らもまた数年もすれば学校を卒業し戦場に向かう事になる……。

 

「出来るだけ、一日でも早くあの要塞を墜とさねばならぬ」

 

 それで一五〇年続く戦争が終結するとは限らない、だが今よりは彼らが、兵士達が死ににくい時代にする事は出来る筈である。士官学校の校長と言う立場になる事でシトレは元々その傾向があったが、一層この戦争の終結を望むようになり、そのためにはイゼルローン要塞の攻略が不可欠であると結論づけていた。

 

 そしてそれは唯待つだけで来るものではない、願うだけでも駄目だ、それ故に……。

 

「私がやり遂げねばならんな……」

 

 他に誰もいない校長室で、シトレは学生達を見つめながら、苦渋の表情で静かにそう独白した。

 

 

 

 

「結局の所いつも通り散々に打ち負かされて逃げ帰ったんでしょう?親父の雑誌に書いてありましたよ。全く、我らが同盟軍は言葉の言い換えばかり上手くなる」

 

 シトレ校長が自室で同期と通信をしていた頃、士官学校の食堂で定食(イタリアン)のトレーを置いた錆びた鉄色の髪を持つ学生が呆れるように愚痴る。

 

「おいおい、事実は事実としてそこまで堂々と言うべきじゃないぞアッテンボロー一年生。唯でさえお前さんはドーソン教官に睨まれているだろうに、自分から敵を増やしてどうする?」

 

 珈琲を飲みながら呆れ気味に後輩に忠告をするのはジャン・ロベール・ラップ四年生である。尤も動く反骨精神のような後輩がこの程度の忠告でそれを直すとも思えなかったが。

 

「だってそうじゃないですか?勝った勝った言ってこっちの方が沢山死んで、しかも要塞は健在と来たものだ。子供でもどちらが勝ったか分りますよ。司令官が戦死したから勝ったというのなら第二次ティアマト会戦は帝国軍の圧勝ですよ」

 

 周囲の鼻白むような視線を気にもせず歯に衣着せぬ言い様のダスティ・アッテンボロー士官学校一年生。士官学校における純粋な意味での成績は極めて良好な彼であるが、父親の影響からか反骨精神と批判精神旺盛でそれ故に教官への反発や校則破りを多々行うために減点される事も多く、差し引きで最上位グループに入れない成績で推移している事で有名な生徒であった(そしてそれ故に一部の生徒からは敵視されている)。

 

「まぁ、確かに良好な結果ではないのは確かだけどな。えっと……確か補給不足が決め手だったか?となると補給体制の強化が改善点と考えるべきか……」

「残念ながらそれは間違いだな」

 

 ラップ四年生の言葉を否定したのは通りかかった一人の軍人だった。

 

「軍隊にはその部隊規模に相応しい補給規模がある。異様に補給体制だけ強化した所で効率が悪い奇形な軍組織が出来るだけだ。食い物が余って腐ってしまう。予算も有限だしな、正直あの補給体制は完璧ではなくても十分合格点を与えるに足るものだ」

 

 事務員として士官学校に赴任していたアレックス・キャゼルヌ中佐は教員、あるいは銀行員のような口調でラップ四年生の意見を否定する。

 

「キャゼルヌ先輩も飯ですか?」

 

 中佐と言う雲の上の階級の先輩に、しかしアッテンボロー一年生は特に意識する事なく飄々と尋ねる。キャゼルヌ中佐の手元にはフレンチの定食が乗せられたトレーがあった。

 

「見て解らんのか?俺だっていつまでも電卓片手に書類と向き合っている訳じゃないぞ?飯位食うさ」

 

 そういって席に着くとメインのクリームシチューをスプーンで掬って食べ始める。

 

「……それにしても今回の作戦の何と高い出費な事か。聞いているかも知れんが三〇〇〇隻も自爆させたらしい」

 

 第一線では性能が不足しつつあるとはいえ宇宙艦艇一隻の建造費と維持費は馬鹿にならない。

 

「自爆した軍艦一隻一隻でこの定食何千万食分か……考えるだけで卒倒しそうだ。地方部隊では日用品の予算も削られていると言うのに、正規艦隊は豪勢な事だよ」

 

 スプーンで掬ったシチューを見つめて神妙な表情でそう語る中佐。普段数字と格闘している補給士官らしい言い草であった。

 

「ははは、耳に痛い台詞です」

 

 その言葉に苦笑いを浮かべるラップ四年生。第四回遠征が長征派を中核としたものであり、彼の親族も参加している以上、決して他人事ではなかった。

 

「ん?ああ、確かラップ四年生は……いや、お前さんは気にしなくていい。お前さんに会計書を見せた所で遠征軍の作戦が変わった訳でもないしな、それを言ってしまえばそこの一年生の親父さんのせいで志願兵が減っているのでそちらの方が問題だ」

「いやぁ、それほどでも」

「誉めたつもりはないのだがな……」

 

 頭を掻いて照れる一年生に呆れ顔で肩を竦める中佐。と、キャゼルヌ中佐はここまでで会話に参加してない約一名の学生に気付き、若干意地悪そうな表情で話を振ってみる。

 

「そうだ、ここは学年首席を破った戦略研究課所属の魔術師殿に参考意見をもらってみようじゃないか?ヤン、どう思う?」

「………はい?すみません、何の話でしたっけ?」

 

 話を振られた童顔でイースタン系の顔立ちの青年は物思いに耽っていたのか、話を聞いていなかったらしくバツの悪そうにそう尋ねる。

 

「この前のイゼルローン遠征についてだよ。どうすれば良かったかって話さ」

「ああ、そう言う事ですか……」

 

 話を振られたヤン・ウェンリー四年生はその質問の内容を理解すると気の抜けた表情でトレーの上の定食(イングリッシュ)をフォークで弄びながら何やら考え出す。

 

 途端に、その場にいた者達は特に理由も無く黙って彼の意見を待つことになる。傍から見れば少し滑稽にも見えそうだが、しかしこの青年のぼんやりとした瞳は何故か人を惹き付ける印象を与えていた。そう、言うならば昔話か童話に出て来る森に住む老哲学者のような雰囲気も纏っていた。どこか世俗を超越したような深い深淵を覗く眼差し……。

 

「……そうですね、強いていうならば遠征しないことが一番の改善点じゃないですかね?」

 

 困ったような沈黙の後に青年は他人事のようにそう答えた。

 

 青年のその言葉に、その場で返答を待っていた者達は一瞬奇妙な物を見るように目を丸くし、次いでまず一年生が思わず爆笑した。

 

「ははは、確かに!そもそも遠征しなければ負けませんからね!いやぁ、上手く頓知が利いた返答ですねっ!!」

 

 どこか笑いのツボに入ったのか笑いこけるアッテンボロー一年生。

 

「やれやれ、ヤンらしい」

「まぁ、後方勤務で予算と睨み合いする身は助かるが……」

 

 ラップ四年生は仕方無い、とばかりに頭を掻き、キャゼルヌ中佐は複雑そうな表情を向ける。

 

「そんなに変な回答ですかね……?」

「「「変だな(ですね)」」」

 

 三者同時にして同様の返答に青年はどこか困ったような表情を浮かべ、黙々とトレーの上のポークビーンズをスプーンで口元に運びこむ。

 

 ほかの三人はそんなヤンを見て呆れながら食事に戻る、それ故に彼らは彼がポークビーンズを口の中に輸送する作業を行いながらも、その意識を思考の海に深く、深く沈めている事には気付かなかった。

 

(まぁ、艦隊戦以外の手段と言ってもそう言うのは情報部の管轄だしなぁ、過去の極秘作戦の資料を閲覧出来なかったらそれを元に作戦を構築出来ないし……大枠ではアイデアは幾つかあるのだけれど)

 

 尤も、所詮は学生が思考実験として片手間で考えた作戦だ、もし今この場でやって見せろと言われれば彼は全力で拒否する程度には穴だらけの策ばかりである。もしこれらの策を実践に耐えうるレベルに昇華させるには、より多くのデータを元に分析とシミュレーションを重ねる必要があるだろう。そしてそのためには多くの人員とデータを閲覧するための地位がいる訳で……。

 

「所詮は空論だよなぁ」

「ん?どうしたヤン?」

 

ぽつりと言った一言にラップ四年生が反応する。

 

「いや、やっぱりイングリッシュは朝食以外取るべきじゃないと思ってね」

 

 次昼食を選ぶ時は外れの少ないチャイニーズにしようとヤンは思い、淡々と食後の紅茶と次の講義に向け栄養補給に専念する事にしたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サジタリウス腕の中心地惑星ハイネセンが銃後の平和を謳歌していた頃、サルガッソ・スペースを挟んで約一万光年を隔てたオリオン腕の一角、そこは人類社会を二分するもう一つの星間国家の中心地があった。

 

 ヴァルハラ星系の第三惑星オーディン、人口一二億、銀河第二の人口を有するその惑星は、しかし銀河帝国の成立直後は辺境の一惑星に過ぎなかった。

 

 開祖ルドルフ大帝がテオリアを始めとする銀河連邦中央宙域の旧勢力の影響力排除のため中央と辺境の連結点にあるオーディンを帝都に定めた時、その人口はせいぜい五〇〇万程度であり、その後の難民の受け入れと精緻を極めた都市開発によりオーディンはオリオン腕の中心へと成長した歴史を有する。

 

 そのようにして銀河帝国の中心地となったオーディンであるが、その地表に目を向ければ惑星上の中心地が宇宙空間からでも確認する事が出来るであろう。オーディン北大陸東部北ウルズ海に面した惑星の名と同名の都市、帝都オーディンの姿が。

 

 オリオン腕を支配する大帝国の中心都市の人口は約六〇〇〇万に及び、その郊外には国家機能の集約する省庁街、貴族達の帝都別邸、そして人類史上最も広大にして華美な宮殿「新無憂宮」の荘厳にして壮麗な姿を見る事が出来る。

 

 宮殿は政務と国事を行う東苑、皇帝と皇族の生活の場となる南苑、帝国中の選りすぐりの美女を集めた西苑、広大な狩猟場となる北苑の四つ、その外側にある数倍の敷地を有する外苑からなる宮廷は、主要な四つの内苑のみで六六平方キロメートル、外苑を含めると一八八平方キロにも及ぶ。

 

 独立した、あるいは互いに連結された大宮殿が三〇、小宮殿が八八、その他総合病院、動物園、植物園、水族館、スタジアム、舞踏場、劇場、映画館、美術館、図書館等の施設の数は五〇余り、無数の噴水、自然と人工の森、沈床式の薔薇園、彫刻、花壇、四阿、芝生の際限なき連なり……それらにより内部は構成され廊下の総延長は六〇〇キロ、部屋の数は四〇万を超え、従事する女官・侍従は約五万、その他の使用人を含めた数は二〇万近い。

 

 宮殿を守護する近衛軍団は宮廷内部を華美な軍服で警邏する二万名の衛兵隊、そしてより実戦向きの戦車・航空機・水上艦艇まで保有する四万名の親衛隊を合わせた六万名の精鋭からなり、そのほか内苑こそ人力による警備ではあるものの外苑を含む宮殿への主要出入口は無数のセンサーと監視カメラ、無人防衛システムが鉄壁の警備体制を敷いていた。

 

 銀河においてここまで華美でいて、広大で、そして安全な場所は他にないであろう。銀河の美と富を集約させたそこは正に地上の楽園と呼ぶに相応しい威容を誇る。

 

 尤も、そのような楽園の住民が必ずしもそれに相応しい精神性と才覚を有するとは限らない。北苑の一角、両手の数ある皇帝の謁見室の一つ「黄玉の間」にて報告を聞く至高の存在を見ればそれは明らかだ。

 

 豪奢で格式ある椅子に座るその存在は、しかしその華美に彩られた空間の出で立ちと正反対に酷く陰気な人物に見えた。

 

 顔立ち自体は悪くはない、寧ろ平均を遥かに超える水準で端正に整っており、仮に活力と暖かい微笑みをその容貌に称える事が出来れば振舞い方次第では多くの女性の心を射止め、顔を合わせる名士達に好印象を与える初老の紳士に変貌する事であろう。

 

 だがその表情は奇妙なほどに困憊し、無気力で、虚弱で、陰鬱そうな印象を謁見する者に与えている。老人、とまでは言えない年齢ながらその疲れ切った姿は見る者に実年齢より二〇は歳を重ねているようにも窶れて見えた。

 

 何よりもその瞳は今世に関心が無いかのように冷淡で、何事にも無関心なように見えた。

 

 至高の玉座に座りながらそこに何の感情も無く、寧ろ不満すら感じられそうな態度、それが却って一部の者達の反発ないし侮蔑の原因にもなっているように思われる。

 

 ゴールデンバウム朝銀河帝国第三六代皇帝フリードリヒ四世はこの年五二歳。政務にも戦争にも、狩猟にも、芸術にも音楽にさえ関心を示さず、唯々薔薇の世話と漁色のみを趣味として生きる男は頬杖をしながら今一つその感情を伺いしれない表情でその報告を受けていた。

 

「……陛下?僭越では御座いますが御聞きでいらっしゃいますのでしょうか?」

 

 余りに反応が無いために国務尚書リヒテンラーデ侯は不敬である事を承知でも、ついそのように確認してしまう。内務・宮内・財務尚書を歴任し、前任の国務尚書ノイエ・シュタウフェン公の引退と共に昨年その職務についた彼は、しかし門閥貴族の出ではあるものの決して名門中の名門と言う訳ではなかった。

 

 リヒテンラーデ家は帝国開闢期の権門四七家に含まれない、三〇〇年余りの歴史しかない新興の伯爵家でしかなかった。だが本人の保守的で独創性は無いが誰もが無難と認める仕事振り、そして長らく帝国の国政を支配していた四七家も断絶、あるいは没落や亡命によりその半数近くが有名無実化しているがためにその役職に任じられていた。

 

「……うむ、聞いておる。確か………式典であったか?」

 

 そんな背景を持つ新任の国務尚書の質問に我に返ったかのように瞬きをした皇帝は、しかし倦怠感を隠そうともせずに、緩慢にその頭脳を働かせ、ようやく思い出したかのようにその報告の内容を答える。

 

「その通りで御座います、陛下。先日の叛徒共の侵攻の阻止と懲罰から軍が帰還致します。つきましては此度の戦勝を祝し、帰還部隊の閲兵式と祝宴が御座いますればその報告を」

「そうかそうか、祝宴であったな。相分かった、そちらの準備については卿に任せる。関係各所と良く話して形式と進行を決めよ。………はぁ」

 

 心底詰まらなそうにそう欠伸すると、皇帝は気怠そうに席を立ち歩き始める。

 

「陛下?」

「おお、伝え忘れていたな。まだ薔薇の世話をしていないのだ。一日でも手入れを怠れば薔薇園はすぐに荒れてしまう」

 

 そう口にしてフリードリヒ四世は傍らに控える初老の侍従武官グリンメルスハウゼン准将を連れ若干危なげな足取りで「黄玉の間」より立ち去る。国務尚書リヒテンラーデ侯にそれを止める権限は無く、残る報告は薔薇園の世話の後にと判断して少なくとも形式的には敬意を込めて、恭しく頭を下げそれを見送った。

 

「……陛下、此度の落胆心中をお察し致します」

 

 暫し庭園の回廊を歩き、周囲に聞く者がいない事を確認した上で初老の侍従武官はふとそう答える。

 

「……あれには特に期待をしていたのだがな、どうやら『今回も』駄目らしいな」

 

 心底幻滅するような、儚むような口調で溜息を吐く皇帝。これまでも幾人も自身を睨みつけるその目を見て来た、そして期待をかけて来たがその悉くが途中で脱落した。しかしブランデンブルグ伯爵、彼はその野望に釣り合うだけの才覚と幸運が確かにあり、皇帝としてもそれに期待していたのだが………所詮はここまでの人物であったらしい。

 

「なかなか、上手くはいかんものだな」

 

 自嘲気味にうっすらと、陰気な笑みを浮かべる皇帝。幾らその柱が腐り、屋台骨は軋んでいるとはいえ五〇〇年もの間続いた体制は強固、という訳か。それとも……。

 

「確か同盟とやらにも居たな、確か………」

「ブルース・アッシュビー、で御座いますかな?」

 

 言葉に詰まるフリードリヒ四世に、グリンメルスハウゼン子爵は尋ねる。

 

「おお、確かそのような名であったな。はて、アッシュビーにせよ、伯にせよ、真に幸運の女神に見放されたが故の末路か、それとももっと恐ろしい悪神の悪戯か、気になる所ではあるな」

 

 ブランデンブルク元帥(死後二階級特進)は確かに前線に向け移動を開始していたし、盾艦も喪失していた。だがそれなりの護衛を周囲に置いており、乗艦自体も旗艦級の大型戦艦、たかが電磁砲一発で司令官が戦死する確率は決して高くはない。そして伯爵はその早い出世と領地の返還のために清濁織り交ぜた手段を使い大貴族より敵意を買っていたし、その出自から叛意も極一部では囁かれていた(そしてそれは完全に流言という訳でもない)。果たして全ては偶然であるのか……。

 

 皇帝と侍従武官が薔薇園に着くと、園の一角に置かれたベンチにその老人の姿があった。侍従武官は急いで駆け寄り、麗かな日差しを浴びて昼寝するその人物の肩を揺する。

 

「アイゼンフート伯、起きて下され。皇帝陛下の御前で御座いますぞ」

「ん…んんっ?……ふあぁぁ……おお、これは陛下、本日は実に良い昼寝日和で御座いますなぁ」

 

 グリンメルスハウゼン准将に起こされた典礼尚書ヨハン・ディトリッヒ・フォン・アイゼンフート伯爵は至高の存在の前で情けなく涎を垂らしながらぼんやりとした口調で答える。

 

「ふむ、誠にその通りであるな、アイゼンフート伯」

 

 皇帝に対して非礼とも言える伯爵の態度に、しかしフリードリヒ四世は朗らかに微笑みながら応じた。グリンメルスハウゼン子爵と同じくその皇太子時代に何度も世話になった恩義ある老人に、人目に触れるなら兎も角このような他者の視線が無い場所でそこまで厳しく礼儀を求めるつもりは無いようであった。

 

「して、何ようかな伯爵?形ばかりの典礼尚書とて決して暇ではなかろう?」

 

 貴族間の養子縁組や婚約、財産相続、爵位の授与、紋章の管理、貴族年鑑の作成、一部の裁判等を司る典礼省は世間一般で言われる程軽視される部署ではない、寧ろ宮廷という貴族だけの社会においてはその格式や権威にも関わるために重要な役職と言えた。

 

 そしてそれは形ばかりの尚書と裏で嘲られるアイゼンフート伯とて例外ではない。門閥貴族だけで四〇〇〇家を超え、その他帝国騎士・従士・一代貴族等を含めれば彼らに関わる業務が無い日なぞ無く、判子を押すだけとは言え最終決定をするべき事案は幾らでもあった。

 

「ほぉ……?ああ、そうでしたな。忘れておりました、陛下に御伝えしたい事がありましてな。……ブランデンブルグ伯爵家の財産相続についてで御座いますれば」

「……ふむ、宜しい。薔薇の世話の前であるからな、手短に頼むよ」

 

 恭しく礼をして内容を口にしたアイゼンフート伯にフリードリヒ四世は余り感心は無さそうに、しかし話を進めるように催促する。

 

「はい、伯爵家の財産についてでありますが、その妻の身分が低いために爵位と共にその財産を直系に相続させるのは避けるべきでは、との事です」

「ふむ、誰がそう意見しておる?」

「カストロプ公とブラウンシュヴァイク公で御座います」

「ほぉ、公爵達がか。……ははは、成る程な。分りやすいものだな」

 

 宮廷の禿鷹として有名なカストロプ公爵家は一時期没収されたブランデンブルグ伯爵領の管理を行っていた事から少なからず領地の権益に食い込んでおり、ブラウンシュヴァイク公爵家は随分遡るがブランデンブルグ伯爵家と遠縁であり、養子を送りこめばその財産の相続権を得る事も不可能ではない。

 

 一方、故人となった伯爵の夫人は帝国騎士(尤も四〇〇年は続くそれなりに格式のある家ではあるが)であり、没落したとはいえ大貴族であるブランデンブルグ伯爵家とは寵姫としてなら兎も角、夫人として迎えるには少々格式が不釣り合いであった。当時の彼が如何なる理由でそのような下級貴族を娶ったのかは不明であるが、その結果本人の死後にこのような騒動となってしまったようであった。

 

「如何致しましょうか?」

 

 アイゼンフート伯は皇帝の意志を尋ねる。典礼尚書は皇帝が死した伯爵になにがしかの期待をしており、極めて迂遠で内密にではあるが便宜を計っていた事に気付いていた。まして今回口を挟んできたのは大貴族二人であり、一人は皇帝の娘婿となれば至高の存在の意向を窺うのはある意味当然であった。

 

「……良い、その夫人とやらに全てくれてやると良い」

 

 皇帝は暫しの沈黙の後、皇帝は詰まらなそうにそう答える。

 

「宜しいので?」

「……夫人の姿を見たことがある。もう熟れた未亡人は好みではないが、このままあの美しい伯爵夫人が困窮するのは寝覚めが悪いしな。よいよい、爵位や領地なぞくれてやれば良い」

 

 皇帝らしくない私情に溢れた理由でフリードリヒ四世はそう理由を伝える。

 

「……では、その命の通りに」

「うむ、世話をかけるな」

 

 そうアイゼンフート伯爵の応対に礼を述べる皇帝。

 

 アイゼンフート伯爵は世間では賄賂でその地位につけただけの勘が悪く、感性も鈍い無能な人物と言われる。その評価は事実であるが、同時にだからこそ大貴族の陰謀の片棒を担がせられる事も、その地位を乱用する事もなく、またその意向に反しようとも過剰な敵意を抱かれる事が無かった。そしてその鈍さは時として皇帝の意向をその事実を隠しつつ実施するのに極めて適していた側面も否定出来ない。

 

 退出するアイゼンフート伯爵を一瞥した皇帝は、しかしすぐに無気力な表情で黙々と薔薇の手入れを始める。

 

「のう、グリンメルスハウゼン」

「はっ、何でございましょう皇帝陛下?」

「余の望むような存在は、いつになれば現れるのであろうかな?」

「陛下……」

 

 侍従武官が皇帝の言葉の意味を理解し、力無く呟く。フリードリヒ四世はそんな侍従武官の顔を一瞥すると穏やかな表情で独白する。

 

「腐りきって醜悪に崩れる位ならばの、いっそ華麗に業火の中で焼き尽くされる方が美しい、と余は思うのじゃ」

「………」

 

 侍従武官は、皇帝のその言葉に答える言葉が無く、唯静かに皇帝の傍に立ち続けるのみであった………。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、「新無憂宮」より百キロ余り離れた地、鳥達は歌い、草木は瑞々しい青色から黄金色に染まりゆく季節……そんな秋を感じさせる帝都郊外の丘を少年は駆けていた。

 

 少年にとっては今日という日は特別であった。この時期の帝都は夏から秋に変わろうという麗かな季節であり、絶好のハイキング日和である。毎年この時期になると少年は姉と共に美しい帝都を見下ろせるこの丘でハイキングするのが習慣であり、幸福であった。まして今回は初めて少年の友人も交えての事、興奮せずにはいられなかった。

 

「遅いぞっ!早く来なよ!」

 

 少年は自身を追いかけようとして、しかし息を切らして疲れ果てる親友を見ると、振り返りながらそう叫ぶ。

 

「ま、待ってよ……!」

 

 少年の親友は肩で息をしながら呼び掛ける彼に顔を向けた。そして一瞬その姿に息をする事を忘れた。

 

 それは決して異常な事ではない。その姿を見た者は誰もが同じようになる事であろう。

 

「熾天使」、誰もがまず第一に少年の容貌をそう形容する事になるだろう、美しい黄金色の髪に氷蒼色の瞳は鋭く、力強さと快活さと自信に満ちていた。それは正に一流の彫刻家が丹念に大理石を削り取って産み出した彫像であり、美神の寵愛を一身に受けた芸術品であったと言えよう。

 

「?どうしたんだ?ぼっとして……寝ぼけているのかい?」

 

 見惚れていた親友の姿を見やる少年は心底不思議そうに首を傾げる。自身の美貌に頓着しない少年はそれ故に親友の受けた衝撃を理解する事が出来なかった。

 

「貴方が急かすから疲れてしまったのよ?もう少し私やジークの事も考えて下さいね、皆貴方のように元気が有り余っているわけではないのですよ?」

 

 小鳥の囀ずりのような美しい声音であった。赤毛の少年はその声に誘われるように振り向く。そこには白いつば広帽子に同じく白いワンピースを着てバケットを手にさげ、ゆっくりと丘を登る女性が微笑みながら佇んでいた。

 

「女神」そう形容するに相応しい姿であった。少年との血の繋がりを感じさせる豊かな金髪に氷蒼の瞳は、しかし少年のそれよりも慈愛の優しさと柔らかさを感じさせる。服装こそ大貴族の娘が着こなすドレスよりも粗末な物であるがそのような物、所詮は飾りでしかない事が彼女を見れば分かるだろう、寧ろ飾らない姿が彼女の清楚な印象と見事に調和する。

 

 美女神の生まれ変わりを彷彿させるその美貌の前に純朴で幼い赤毛の少年はその頬を髪の色と同じくらい赤く染め上げていた。

 

「だって姉さん、早く登らないと時間がなくなっちゃうじゃないか!ほら、キルヒアイス、もう少しだから頑張ろう?」

 

 金髪の少年は赤毛の親友に手を差し出して共に行こうと急かす。まだ朝から昼に変わる前ではあるが少年にとってはそのような時間はあっという間に過ぎ去っていく事を自身の経験からよく知っていた。楽しい時間というものはいつだってその体感出来る感覚では風のように過ぎ去ってしまうものなのだ。

 

「もう、無理を言わせないの!貴方はそうやっていつも無理矢理……」

「いいよ、行こう!」

 

 押しが強く独善的な面のある弟に姉が叱ろうとするが、赤毛の少年は弟の提案を受け入れた。この天使のような姉弟が喧嘩をする姿なぞ見たくなかったし、それ以上にその上気する顔を走って誤魔化したかったのだ。

 

「ほらっ!キルヒアイスもこう言ってる!さぁ行こう!」

 

 若干不満気な姉の姿を気にせずにその輝く美貌を綻ばせ金髪の少年は親友の手を取り丘を駆け上がる。赤毛の少年はちらりと後ろを覗き込むと溜息をつく姉に心の中で謝罪した。

 

 三人は丘を登り切ると、その頂で彼らは宇宙時代には似つかわしくない近世ゲルマン時代の趣を漂わせる赤煉瓦の帝都を一望する事が出来た。

 

 約五〇〇年に渡り人類社会の過半数を支配してきたゴールデンバウム朝銀河帝国は神聖不可侵なる銀河帝国皇帝を頂点に、人口の〇・一%にも満たない門閥貴族が帝室を支え、細分化すれば一〇〇を超える階級により厳格に臣民が区別される専制君主国家である。少なくとも建前上は質実剛健を旨としておりかつての銀河連邦の如き堕落した生活様式や娯楽は排斥される。高度な科学技術は存在するもののそれに頼り切るのは惰弱とされ、人々の生活空間はさながら地球時代の中世から近世欧州を意識させるものだ。

 

 尤もそれが完全に悪であるか、と言えばそうは言い切れない。人々の生活は厳しく制約されているがそれ故に犯罪発生率は決して高い訳でもなく、社会保障制度は十全ではないが国家の方針でアルコールや煙草の販売には規制が多く、また運動や病気に対する予防・健康診断・早期治療の制度は潤沢であり、規則正しい生活を強制されている。その甲斐があってか臣民の健康寿命ではサジタリウス腕の反乱勢力やフェザーンよりも良好とも言われている側面もあった。

 

「あっ!姉さん見て!宇宙戦艦達が帰ってきた!」

 

 青々とした空を見やげた金髪の少年は姉に対して雲の隙間から現れるそれを指差した。

 

 唸るような轟音を響かせて天空より降下した巨大な鋼鉄の群れが彼らの視界を横断した。それは戦艦であり、巡航艦であり、駆逐艦であった。もしより詳しい者がいればその艦に刻まれた紋章からその所属がグライフス大将率いる第二猟騎兵艦隊の先遣部隊である事が分かったであろう。第四次イゼルローン要塞攻防戦とその後のダゴン星系征伐作戦に参加しその勝利に貢献した功労艦隊である。

 

 尤も少年は然程国営テレビ局のニュースを見るような性格ではないためにそこまでの事は知らない、唯漠然と辺境の共和主義者への懲罰から帰ってきたのだろうと推測し、親友の赤毛の少年もまた頷いて肯定する。赤毛の少年の方は一か月程前に軍務省が発表した布告を覚えていたし、それ以上に印象深い出来事があったためだ。

 

「うん…二軒隣りの軍人だったお兄さん今回戦死したって」

 

 二軒隣のフォスター家の軍人の息子とは決して深い関係ではなかったが小さい頃からの馴染みであり、挨拶や交流があった彼の事を赤毛の少年は少なくとも嫌ってはいなかった。帝国軍からの通達官が青年の家族に「名誉の戦死」を伝えた時、その初老の母親の泣き叫ぶ声は少年の部屋からでも聞こえ、そして「共和主義者」に恐怖を抱いたのを覚えている。

 

 帝国の辺境を占拠し、退廃的で冒涜的な「共和主義思想」を布教する反乱軍は帝国の秩序を壊乱し、人類社会を堕落させる悍ましい敵であるとギムナジウムでは教えられている。ついこの前も帝国の豊かな富を略奪するためにイゼルローン要塞に大軍を以て攻め入り撃退されたと伝えられていた。

 

 しかも不逞な反乱軍は散々に打ち負かされた後、逃げたと見せかけてから闇討ちを仕掛け侵攻を防いだ帝国軍司令官を殺害したという。優秀な指揮官であり大貴族であったらしく皇帝陛下はその報告に涙し、哀惜の念を込めその指揮官に元帥号と勲章を送ったという。

 

 少し怯え気味の赤毛の少年に対し、しかし金髪の少年はどちらかと言えばより陽性な反応であった。寧ろ男の子らしく笑みを浮かべて艦隊を見やり口を開く。

 

「僕らにも二十歳になったら兵役がある、皇帝陛下の御ために共和主義者と戦うんだ!」

 

 目を輝かせて艦隊を見て語るそれは、どちらかと言えば心からの帝室への忠誠というよりかは戦隊物のヒーローに憧れるそれに近いように思われた。それ程に少年は恐れ知らずであり、純粋無垢であり、自信に溢れていたのである。

 

 無論、少年は兎も角その姉まで弟程に物事を楽観的には見てはいない。兵役と言っても選抜徴兵制の帝国で全ての青年が軍役に就く訳でもなく、広大な帝国内において共和主義者と争うのは辺境の辺境だ。選ばれるか分からない徴兵の中で更に優先的に志願兵が配属される前線勤務に徴兵された弟が送り込まれ戦死する可能性は十に一つ程度しかない。それでも姉にとっては大きすぎる可能性であった。そして気の強い弟の気質ならば進んで前線に出てしまう可能性も無くはないのだ。

 

 姉の表情に陰りが見えた事に赤毛の少年は僅かに気付いた。しかし姉はすぐにその不安げな表情を隠して弟とその友人に笑顔を向け呼びかける。

 

「……さぁ、二人ともお昼にしましょうか?サンドイッチに、温かいフェンネルのポタージュもあるわよ?」

 

 その呼びかけに二人の少年は先ほどの会話も忘れて歓声を上げる。まだまだ食い気が第一の年頃なのだ。

 

 シートが野原に敷かれ、バケットから御馳走が取り出される。最もシンプルなバターパンは当然として厚切りソーセージを挟んだレバーケーゼ、ホイップクリームと果物を挟んだフルーツサンド、そのほかにもザワークラウトやトマト、玉葱にベーコン、エッグディップ、塩漬け鰊にスモークサーモン等、種類は豊富だ。

 

 姉が取り出した魔法瓶にはフェンネルのポタージュが含まれ、カップに注がれるとそれは出来たばかりの時と同じく湯気を湛え豊潤な香りが漂う。そのほかポテトパンケーキにチーズ、焼き栗、二人の御馳走にして姉の得意料理の一つ巴旦杏のケーキは早い者勝ちだ。

 

 金髪の少年はシートの上で姉の愛情一杯の料理にかぶりつく。そして上空を飛ぶ軍艦の群れを笑みを浮かべ見つめ続ける。そして期待と冒険心、そして僅かの英雄願望を含んで小さく口ずさむ。

 

「いつか……僕も、あの船に乗って……星の大海へ………!」

 

 少年のその呟きは彼の赤毛の友にも、最愛の姉にも聞こえなかった。そして少年にとってもこの時点ではそれは純粋な子供の夢と好奇心に突き動かされただけの言葉であった。

 

 しかしこの数か月後、少年はより激しい意志に突き動かされ星の大海に向け歩み始める事になる。この頃よりもより強固で、より激情的で、より苛烈な意志を含めて……強い、そう誰の言い成りにもならないための力を求めて。

 

 だがしかし……少なくともこの時点ではそのような事を考えず、屈託の無い笑みを浮かべ、永遠のような幸福の中で少年ラインハルト・フォン・ミューゼルは呟いたのだった……。

 

 




原作キャラの再現が難し過ぎぃ

皇帝は現在はノイエ版で原作の頃にはOVA版位に老け込む予定

グリンメルスハウゼンとの会話はつまり獅子帝以外にも候補は沢山いたって話(尚クリア出来たのは獅子帝のみの模様)、典礼尚書は日向ぼっこ提督と同類な油断出来ない無能枠です


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