帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

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間違えて5月23日1時頃に投稿してしまい一度削除しました
御迷惑おかけした事を謝罪致します

次の投稿も少し遅れそう……


第百二十六話 何事も形式は大事という話

宇宙暦789年12月18日同盟標準時1000時頃、エル・ファシル本星衛星軌道上にて自由惑星同盟軍の三個宇宙艦隊は整然と隊列を整えて展開する。

 

「帝国軍は痺れを切らしたようですな」

 

 宇宙艦隊総旗艦『アイアース』艦橋に入室したヴォード元帥を敬礼で迎えた総参謀長カルロス・ビロライネン大将が戦況モニターに視線を移して呟く。

 

 それは約二か月半に渡り続いた小部隊による小競り合いを打ち切り、帝国軍が再度の大規模艦隊決戦を挑んできた事に対する言及であった。

 

「先日の地上攻勢を凌いだのが良い方向に傾きましたな」

 

 両軍が地上戦とその支援に傾注していた状況が一変したのは恐らくは一週間ほど前に生じた帝国第九地上軍の攻勢とその撃破にあるだろう。反撃を受けた第九地上軍は相当数の予備戦力と物資を喪失した筈であった。

 

 帝国軍に追い討ちをかけたのは同盟地上軍の水上軍海兵隊による側面への沿岸上陸作戦である。少なからずの損失と引き換えに揚陸作戦を成功させた同盟地上軍は今や逆に第九地上軍を包囲しつつあり、その包囲網は刻一刻と完成し、その厚みは増そうとしていた。

 

「確か地上では帝国軍が後退しているのだったな?」

「遅延戦闘です、戦線の縮小を意図してのものでしょう」

「となれば今回の挑発も地上軍の支援と言うわけか。クラーゼンめ、焼きが回ったな」

 

 苦境にあるだろう帝国軍の司令官を脳裏に思い浮かべ、ヴォード元帥は心底意地の悪い笑みを浮かべる。

 

 クラーゼン上級大将は自信があった筈の地上戦が想定外の苦境に立たされ相当焦燥している筈であろう。帝国地上軍の上層部に潜り込んだ幾人かの工作員からもたらされた陣地・部隊配置情報は同盟軍の戦略に決定的な貢献をしてくれた。

 

 唯一の想定外であった装甲擲弾兵による浸透と反攻作戦も最終的には頓挫し、逆に同盟軍の総攻撃の絶好のタイミングとなった。そこに地上軍と宇宙軍の対立、下級司令官の不満と突き上げが加わっているであろう、第一一艦隊の転進もそろそろ帝国軍司令部に伝わっている筈だ。

 

 既にクラーゼン上級大将が取れる軍事的選択肢は殆ど無かった。戦略と戦術の選択を奪われた彼に出来る事は艦隊決戦しかない。第一一艦隊がエル・ファシル星系に到達する前に下級指揮官達の高い士気(あるいは蛮勇)を持って一撃を与え、同時にそれによって地上軍の支援を行う……それ以外の手なぞ無かった。

 

 そしてそこまでの行動は全てヴォード元帥の掌の上であった。

 

 デイヴィッド・ヴォードと言う提督は、同時期の宇宙艦隊司令長官候補の中において、純粋な艦隊指揮能力では決して飛び抜けた実力を有していた訳ではない。

 

 しかし軍内政治ではほかの候補を遥かに凌ぐ才覚を有し、そしてその政治的嗅覚は同盟内部だけでなく帝国軍上層部や帝国政界の微妙な機敏を把握するのに寄与している側面があった。

 

 より意地を悪く言えば『政治的に敵が嫌がる事を嗅ぎ分けている』とも言い換える事が出来るだろう。

 

 軍需産業や政界と結託して物資と兵力を十全に揃える、その上で敵に対してはその政治的内部対立を煽る戦い方を以てして、その軍事的選択肢を奪い自らの用意したフィールドに引き摺りこむ……無骨で生粋の武人からは批判も少なくないヴォード元帥の戦い方ではあるが、しかしある意味では最も正道的な戦い方と言えるのもまた否定出来ないし、ヴォード自身はそんな政治を軽視し正面から間抜けに戦いを挑むばかりの狭量な戦争屋こそ嘲笑していた。

 

「とは言え……」

 

 余り愉快な状況だとも言えんか、と内心で呟くヴォード元帥。確かに戦局自体は優位に推移している。しているが……長征系の首魁の一人としては必ずしも手放しで喜べる状況でも無かった。

 

「……例の捜索の推移はどうなっている?」

「はっ、帝国人が独自に動かしている者を除けば二個連隊が捜索中であります」

「もう一個連隊増やすように要請しろ、流石に死体で回収されたらたまらん」

 

『アイアース』の長官椅子に座ったヴォード元帥はビロライネン大将に耳打ちする。全てが彼の計算通りに進んでいる訳でも無かった。

 

 計算外であった一週間前の帝国軍の反攻……それが頓挫し司令部の当初作成の計画が守られ、一部は前倒しにすらなったのは偶然その場に展開していた部隊の奮戦にある。

 

 それ自体は良かろう、仮に同じ長征系部隊でなかろうともヴォード元帥とてイメージ戦略の価値は理解している。例えそれが敵対派閥の部隊であってもカメラの前で社交辞令の礼を伝え、笑顔を貼りつかせて叙勲を推薦する精神の図太さ位はあった。だが……。

 

「……よりによってこの立場で行方不明とはな」

 

 元帥は人事ファイルに目を通して心底うんざりとした溜息を吐く。皇族の血を引く亡命貴族の一人息子なぞその時点で地雷以外の何物でもない。しかも上位の保護者はあの頭のネジが飛んでいる皇族軍人と来ている。そんな立場の坊っちゃんが行方不明と来れば……。

 

「……流石に死なれてはな」

 

 そんな輩に欲しくもない貸しを作らされたのだから面倒この上ない。死体袋で帰還した日には何が起こる事やら……考えるだけでおぞましい。ヴォード元帥個人としては亡命貴族がどうなろうが知った事ではないが、後々のトラブルを考えると救助しない訳にもいかない。

 

「いっそこんな前線ではなく後方にでも留まっていたら良いものを、身勝手にでしゃばられては此方が困る……!」

 

 顔を心底嫌そうに歪ませてぼやき、元帥は一旦この問題を隅に追いやる。ローデンドルフ少将の執拗なまでの要求に『配慮』して同盟軍も貴重な戦力を割いて捜索協力しているのだ、これで見つからなければ知った事か!

 

「第六艦隊の動きが少し鈍い、叱咤してやれ」

 

 再度戦況モニターに視線を向け、元帥は不機嫌そうに命じる。理由は大体予想がつく。先日の会議でふくよかだった第六艦隊司令官が目元に隈をつくり、げっそりと痩せ衰えていた。どうやら貴族共からかなり詰められているらしい。

 

「帝国人共め、時と場所を考えろ……!」

「司令官、敵艦隊との射程二〇光秒の接近……!」

「ちっ。全艦、砲撃開始……!!」

 

 思い出したくもないものを思い出したように苦虫を噛みしめてから、ヴォード元帥はその鬱憤を吐き出すように全艦に砲撃を命令していた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てくれると信じてたぞ、ベアト……!」  

 

 エル・ファシル東大陸の平原地帯、シャンプール騎兵と帝国兵が激しく戦う中、私は目の前でひざまずく従士を労うようにそう呟いた。

 

 ……良かった、本当に良かった……!!私ですら生きていたのだ、きっと無事だとは思っていたが殆ど怪我もなさそうだ。それどころかこのような援軍まで連れてきてくれたのだから彼女の働きは満点といえるだろう。

 

(後で褒美でも与えるべきだろうな……)

 

 或いは母ならば「当たり前の義務も果たしただけよ?」などと詰まらなそうに意見するだろうがそれでも私にとってはどれだけ感謝の意思を伝えても伝えきれない。それほどまでに彼女が駆けつけてくれたのは救いだったのだ。

 

「若様、ここは未だ危険で御座います。どうぞご避難をお願い致します。こちらのトリウマで御座いましたら相乗りは可能です……!」

 

 一方、ベアトは粛々と自身のこれから為すべき事を理解していた。私の右手を見て瞳に憂いを含むがすぐにこの乱戦の中、流れ弾に当たらないように避難する事を進言する。

 

「分かった、その意見に従うとしよう。テレジアが足を負傷している。誰か彼女を一緒に乗せて……」

 

 私の言葉遣いにベアトが少しだけ怪訝な表情を浮かべたのは気にしなくて良いとして………私はふと何か違和感を感じた。そうだ、何か大事な、忘れてはならない事があった筈だった。

 

 緊張と恐怖から解放された弛緩した私の脳細胞は、しかしほんの僅かに頭を回転させるだけでその忘れかけていた重要な事実に気づいた。

 

「そうだっ!思い出したぞ!?あの双璧野郎共、ぶっ殺してやる……!!」

 

 殆ど気違いの奇声に近い叫び声を上げていた。ビクッとベアトや周囲の部下達が反応する事は気にせず、私は乱戦の中であの二人を探し始める。そして直ぐにその姿を見つけ出した。

 

 背中合わせで銃剣を着剣したブラスターライフルを持って騎兵隊を寄せ付けずに戦う二人の帝国軍士官の姿。その片割れ、金銀妖瞳のキザ男が次の瞬間槍を構えて突進する騎兵の一撃を避けてその槍の柄を掴む。

 

 そのまま槍を引っ張り騎乗する騎兵を鞍から引きずり落とす帝国騎士。御免、騎乗した遊牧民相手にあしらうように無力化するとかちょっと意味解んない。  

 

って、そんな事どうでも良くて………。

 

「誰でもいいっ!今すぐあの帝国兵を殺せっ!!首持って来たら報酬はいくらでも払うぞ!何としても殺せっ!!」

 

 次の瞬間、私は周囲が少しドン引きするような必死の形相で大声をあげて叫んでいた。そうだ、私が破滅を回避する最大のチャンスは金髪の小僧含む英雄共をひよっ子の内に仕留めるしかない。つまり何が言いたいかって言うと……逃がすかテメーら!!

 

 相手はあの原作最強クラスの戦略と戦術、そして何故か無駄に陸戦技能にまで優れた二人組である。だが現状、私の立場はあの二人に対して圧倒的な優位を維持していた。ここまでの千載一遇のチャンスは最早来ないと言っていい。奴らを殺るなら今しかない。今ならレーヴェンハルト家の糞パイロットに逆レされるのと引き換えでも喜んで取引するね。

 

「わ、若様っ……!?」

 

 私の目の前でひざまずいていたベアトが私の豹変に唖然とする。うん、言いたい事凄く分かる。さっきと全く雰囲気違うもんね?ムードぶち壊しだもんね?済まん、これだけは譲れねぇ。

 

 私の宣言に反応したのか周囲の数名のシャンプール騎兵が手綱を手にトリウマの向きを変える。

 

「あいつだ!行け!やっちまえ!!報酬はいくらでも弾むぞ!ぶち殺せ!特にキザ男の方!!」

 

 序でに顔に傷つけてやってもいいぞ!!等と付け加える。

 

 報酬目当てに数名のシャンプール騎兵が駆け出し、その後方を数名の私の部下(正確にはその生き残りが)が続く。

 

 このままあの二人を始末してくれたら有難いのだが……どうやら現実は甘くなかった。

 

「はぁ……!!」

 

 先程無理矢理鞍を空けさせたトリウマに騎乗した金銀妖瞳の帝国騎士は、次の瞬間鞍に備え付けられていた鞘からサーベルを引き抜き擦れ違い様に襲い掛かるシャンプール騎兵二騎を斬り捨て、次いでその二騎の後ろから突進してきた従士の斬撃を回避するとその腕を斬り落とした。

 

「なっ……!!?」

 

 その余りにも鮮やか過ぎる手際に後続の騎兵達は思わず手綱を引き、トリウマの足を止める。その戦いぶりは気性の荒い南シャンプール遊牧民や勇敢な従士達ですらたじろぐ程のものだったのだ。

 

「ふっ……」

 

 その様子に端正な美貌に冷笑を浮かべた後、帝国騎士はこちらに射貫くような視線を向ける。私は『あの』オスカー・フォン・ロイエンタールと視線を交差させる。

 

「………」

 

 剣呑で、敵対的で、不快げで不躾な、しかし僅かの賛辞と警戒の色を含んだ表情を浮かべた未来の名将にして反逆者はしかし、次の瞬間視線に気づいたベアトが割り込むように私の前に立つと興味を失ったように身を翻し奪ったトリウマを走らせる。その先にいるのは歩兵として次々と襲い掛かる騎兵隊と戦う彼の親友であった。

 

 交差する一瞬のうちに蜂蜜色の髪をした士官の襟首を掴み、ロイエンタールはトリウマの駆ける勢いを乗せて一気に自身の背中に相乗りさせた。恐らくはロイエンタールは馬術を学んでいるものの、ミッターマイヤーの方は殆どその手の技術がないのだろう。

 

 二人を乗せたトリウマは戦闘の間隙を縫ってそそくさとその場を離脱する。そして私はその後ろ姿を苦虫を噛みながら見送る事しか出来なかった………。

 

 

 

 

 

 

 事は数週間前の帝国軍の攻勢にまで遡る。我々と同じく別の戦線の前線・後方を結ぶ中間拠点にて警備任務についていたマロンシェ族の部族兵……書類上の部隊名称は『エルゴン星系警備隊第三〇五五独立警備大隊』……は我々と同じように主力部隊から孤立した。

 

 彼らが我々と違った所は戦場を放浪中に偶然遭遇した帝国軍から大量のトリウマ……恐らくは山岳部等の移動に利用していたものと思われる……を強奪し、遊撃隊と化した事だ。

 

 彼らは特に誰に命令された訳でもなく騎兵として帝国軍の後方部隊や哨戒部隊、補給部隊を襲撃した。とは言えその目的は同盟軍全体の勝利への貢献よりもどちらかといえば生存と戦利品獲得のための物資集めに近かったようだが。

 

 恐らくは私とテレジアを迫撃するのに注意が向いていたのだろう、辛うじて帝国軍を振り切ったベアト以下幾名かの私の護衛部隊はオマル・サラージ名誉少佐(此度の従軍に際して部族兵の幹部に仮の階級が与えられている)率いる騎兵隊と遭遇、状況が状況だけに本来ならば無視されても可笑しくなかったが……ベアトが面識があったので合流に成功、私の捜索協力を依頼していたらしい。

 

「それでシェルターの救難信号を拾って駆けつけた、という訳ですね?っ……痛てぇ……」

 

 帝国軍臨時陸戦隊の大半を撃破させるか四散させ、私は騎兵隊が展開する平原地帯の一角で右腕の治療を受けていた。ベアトと同じく生き残った護衛部隊の軍医に私の右腕の傷を麻酔をした後に縫ってもらっているのだ。

 

「申し訳御座いません、これ以上の麻酔は……」

「いや、分かっている。気にせずやってくれ。………ベアト、テレジアはよくやってくれた。余り責めないでやってくれないか?」

 

 私は痛みに耐え軍医に容赦なく治療を進めるように言った後、ベアト以下の従士達がちらちらとテレジアを見るのを注意する。

 

 彼女達もまた私と逸れたので責任の一端があるとはいえ、テレジアは最後まで傍にいながら私に深手を負わせてしまったのだ。テレジアの責任にに対して何か言いたくなるのも理解出来ない訳ではない。実際テレジアは何も言わないが俯き気味で口元をきつく閉じ切っている。言い訳するつもりはない、という事を意思表示しているのだろう。だから代わりに私が弁護してやる。

 

「ですが……いえ、差し出がましい事を申しました。お忘れ下さいませ」

 

 ベアトは何か言おうとするが思い出したように言葉を切る。ベアトの表情からその理由はある程度予想がついた。彼女は自身がテレジアに何か言える権利も立場もない事を理解していた。まして庇う私に物申す事の出来る訳が無い事も……。

 

 ベアトを宥めた後、私は改めて正面を向く。地面に敷いた絨毯に座る私は対面するサラージ少佐と手慰みにホースマニアをしながらこれまでの話を聞いていた。

 

 因みにすぐ傍には焼き立てのトリウマ(食用)の焼き鳥も置かれている。どうやら先ほどの戦闘で死んだので腐らないうちに食べてしまおうとの事だ。視線をずらせば彼方此方で同じように焼き鳥を焼いている遊牧民達の姿を散見する事が出来る。香ばしくて良い匂いだ。

 

「此度は危急の所、助太刀頂きかたじけなく思います、少佐」

「知己の困難には力を貸すのが礼儀だ、気にすることはない」

 

 一通りの事情を聴き終えた私の礼に対して、串刺しのトリウマ焼き鳥を口にし水筒の水で喉を潤わせながら淡々とサラージ少佐は答える。

 

 決して豊かな環境ではない荒れ地の遊牧民は縁や人脈を大事にする。苦難にある身内や知り合いを皆で助け、助けてもらう事は常識であり、寧ろそうしなければ厳しい環境では生きていけない。

 

 故に私の救助のためにベアト達に手を貸した事にもちろん打算はあるだろうが、半分程度は純粋な善意のようだった。その辺りは身内や臣下を大事にする帝国人と似通った価値観とも言える。尤も、無関係な同盟人から見ればコネやら縁故主義、依怙贔屓あるいは身内贔屓だと排外主義的な考え方に見えるかも知れない。中央宙域の市民は特に自由主義と個人主義の傾向が強いから尚更だろう。

 

「成る程、それで……卿の方はどうしてここにいるのかね?」

「まるでいるのが具合が悪いみたいな言い方ですな、心外ですよ」

 

 そう慇懃無礼に答えたのは重装甲服を着て護衛として傍に控えるワルター・フォン・シェーンコップ上等帝国騎士様である。てめぇ、いたのならあの双璧野郎追いかけて殺ってこいよ。

 

「無茶言わないで下さいな、私も色々大変な目に遭いながらここまで来たのです。まして貴方の仰る復讐相手の戦いぶりを拝見しましたが、あれは中々の手合いでしょう?今の私では体力的に少し厳しいですよ」

「抜かすな」

 

 ふんっ、と態とらしく私は鼻で笑う。全く困った表情で言い訳を並べる薔薇の騎士である。

 

 とは言え、正直絶好のチャンスをふいにした気がするが内容自体は真っ当なので内心では不承不承で納得してやる。私も流石にあの状況で双璧にシェーンコップ少佐を一人でぶつけるのは万が一のリスクから考えると判断に困るだろう。どちらかと言えば私の態度は子供が臍を曲げて八つ当たりしているようなものだ。

 

 ……さて、何自然にお前ここに居るんだよ!と突っ込みが入りそうなのでそろそろ説明するべきだろう。

 

 ワルター・フォン・シェーンコップ少佐がこの場にいるのは別に部隊を捨てて戦場から逃げ出した訳ではない。寧ろ逆であり、連隊司令部の命令に従い渋々離脱したと言う方が正しい。

 

「これが例の光ディスクか?」

「正確にはそのコピーですがね?」

 

 私が手にする光ディスクを掲げると不良士官殿は補足説明する。

 

 話によれば先日、帝国地上軍第九野戦軍司令部所属のある高級士官が第五〇一独立連隊戦闘団の立て籠る要塞に亡命を果たした。より正確に言えば、ほかの同盟軍部隊との合流が不可能なため最も近場の彼らの下に避難した、という事らしい。

 

 どうやらその高級士官とやらは普段は良くいる門閥貴族の道楽息子を装い、その実裏では同盟軍、そして亡命軍と内通している一種のスパイ、隠れ共和主義者……つまりは亡命前のジークマイスター名誉中将のようなものだ……として度々同盟軍に情報を提供していた重要人物らしい。だが『レコンキスタ』開始直前に憲兵隊等から嫌疑が掛けられ、密かに監視対象に指定されてしまい前線に異動させられたという。

 

「大方、名誉の戦死扱いで謀殺、といった所か」

 

 その伝え聞く状況から私はそのスパイの置かれていた立場についての推測を呟く。軍務省所属の門閥貴族出身の高級士官、それを表だって内通者として処断するのは相手の家名からも、まして帝国軍の名誉からも難しい。故に最前線に派遣してから後ろから反乱軍のそれに見せかけて撃ち殺す、なんて事は決して珍しい事ではない。

 

「そして戦闘の混乱に紛れて殺害される前にその手土産を持って避難と言うわけです」

 

 尤も、その途上で監視も兼ねていた追っ手と銃撃戦となり重傷を負ったそうだが……。

 

「問題はこの情報を本隊に送信出来ないって事か」

 

 薔薇の騎士達の立て籠る要塞は帝国軍に包囲されている。妨害電波も激しく本隊にデータの送信は不可能である。 

 

「ですので司令部からの命令で私を含め二個分隊程が要塞を脱出して本隊に合流しようとしたのですがね」

 

 当然迫撃を受けて半数近くの兵士を失い、森をさ迷っている内にシェルターの救難信号を受信、現在の座標も不明瞭なために取り敢えずそのシェルターに向かおうとしてベアト達と出会したそうだ。

 

 さて、これで不良騎士達の任務も達成……とはいかない訳で……。

 

「未だに我々は敵の通信妨害を受け無線通信が出来ません。データリンクも同様に電波妨害を受けておりますので……残念ながら此方のデータ通信システムは未だ本隊には伝えられない状況にあります」

 

 ベアトの言う通り、我々もまた敗残兵の群れに過ぎない。ここは未だに敵地であり、我々は逃げ惑うべき放浪者に過ぎないのだ。このままデータを送信して仕事は終わり、という訳にはいかない。

 

 しかも不良少佐の脱出が相当てこずった事からでも分かるが、第五〇一独立陸戦連隊は包囲殲滅の危機にある。このまま見殺しにも出来まい。何よりも私自身、今後の事を考えると言い逃れするための『功績』が欲しかった。

 

 故に、私に取れる選択肢はといえば……。

 

「分かっているさ、無線は使えないな。……無線は」

 

 私は反芻するように呟く。そして暫し逡巡しながら即興で台本を書き上げると……サラージ少佐に向けて意味深な笑みを浮かべた。

 

「手持ちの鷹は何羽おられますか?」

「……八、いや少し前に一羽戻って来たからな。九羽だ」

「では全羽御借りしても宜しいでしょうか?」

「……正気でいっているのかね?」

「勿論ですとも」

 

 若干不機嫌そうにするサラージ少佐に、しかしここで引く訳にもいかないので気付かない振りをする。

 

 無線通信やデータリンクが使えない?それくらい戦場では良くある事だ。そしてカプチェランカが良い例であるがそれらが使えなくても連絡のやりようはある。つまり……。

 

「伝書鳩ですか」

「正確には本来それを狩るための鷹を、だけどな」

 

気付いたように呟く不良騎士に私は訂正を入れる。

 

 宇宙暦8世紀になろうとも、未だに伝令犬に伝書鳩、あるいは目の前のトリウマの大群や馬、駱駝等様々な動物が軍務に利用されている。

 

 そして何時の世でも対処手段は作られるものだ。無線通信やデータリンクの代わりの伝書鳩、それに対処するために両軍共に何と鳩狩りのための訓練を積んだ鷹(中には軍用犬向けの訓練を積んだ個体もある)も飼育されている。

 

「しかも南シャンプールの遊牧民直々に訓練したものと来たら軍の納入品の中でも優良品だからな」

 

 現在ならば兎も角、少なくともアルタイル星系を脱出したばかりのハイネセンファミリーは動物の軍用訓練のノウハウなぞない。建国以来同盟軍や同盟警察はそれらの軍用動物をどう確保し、訓練を施していたかと言えば少なくとも建国初期は外注である。

 

 即ち同盟に加盟していた旧銀河連邦植民地から輸入して対処していた。パルメレントの山岳民族から軍馬や毛長牛を買い取り、レムリアの廃業した空賊からは伝書鳩を、軍用犬の多くは旧ネプティス共和国の軍犬警察が飼育していた闘犬を輸入していた(これは後に帝国産の有角犬と取り替えられた)。ルテシアやアシハラで利用されていた剣虎に着想を得た地方配備の剣虎兵はその外見の威圧感と多少の銃撃ならば無視して相手を食い殺す事の出来る獰猛さから植民地弾圧時代のある種の象徴と捉えられ、607年の妥協以降運用を禁止された。

 

 現在もこれらの地域の現地人は同盟軍にインストラクターを始めとした人材と『装備』を提供しており、南シャンプール人もまたその例に漏れない。ほかの幾つかの惑星の遊牧民と同じくトリウマや伝書鳩狩りないし偵察・伝令用の鷹を調教し、その運用する人材共々提供していた。この時代まで人材と『装備』を提供している、それだけで彼らの調教技術の高さが分かろうものだ。

 

「我々には教えて下さいませんでしたな?」

 

 不良騎士がサラージ少佐に向けて若干不機嫌そうに尋ねる。

 

「そうは言うが……我々にとっても今手元にある鷹は貴重な連絡手段だ。それに何よりもそこの主人の救出が最優先といっていたではないかな?」

 

 つれなく答えるサラージ少佐。まぁ、彼らからすれば貴重な連絡手段失ったら本当に詰むからね。まして愛国心で従軍しているわけでもなく出稼ぎ感覚だ。とは言え……。

 

「そこを何とかお願いしたいのですがね……」

 

 光ディスクの内容を幾つかの情報チップに書き写して鷹に括りつけて地上軍本隊や司令部に向けて放鳥する。何羽かは途中で迷子になるか狩られるだろうが、一羽でも合流出来ればこちらとすれば万々歳だ。光ディスクの中には帝国軍の今後の展開計画や部隊配置も記録されている。一進一退の戦いが続く中、同盟軍にとってここまで貴重な情報もない。次いでに私の伝言も添えておけば下準備は整うだろう。

 

「だが……」

 

 尚も渋る表情をつくるサラージ少佐。まぁ、予想はしていたけどね。

 

「無論タダで、とは言いませんよ」

「………」

 

 私のその言葉に浅黒い日焼けした肌の少佐は僅かに目の色を変える。どうやら話を聞くだけ聞いてくれはするらしい、なりよりだ。

 

 私は敢えてすぐには話さずに目の前の小さな容器の中に、同じく木彫りの可愛らしい木馬を二頭投げ込み、暫しの沈黙の後漸く口を開く。

 

「……光ディスクの中身は携帯端末で少しだけ目を通しました。部隊展開に地下施設の設計、後退計画の概論、それに……司令部の撤退計画も」

「………?」

 

 私の言葉に、その意味を図りかねたように怪訝な表情を浮かべる少佐。私はその反応に含み笑いを演じて応える。

 

「何事も褒賞や謝礼が必要ですからね、とは言え今の私には御支払い出来る物はない。なので………」

 

 そこまで言って一旦言葉を切り、私は木馬を含んだ容器を良く振り、絨毯の上に置いた。そしてどこか態とらしく間を置いて私は不敵な笑みを浮かべ、囁いた。

 

「儲け話があるんですが、一口乗りませんか?」

 

 さて、それでは今回の帳尻合わせといこうかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 12月20日0530時、まだ暗がりの強いエル・ファシルの冬の明朝の事であった。

 

 エル・ファシル東大陸に展開する帝国地上軍第九地上軍司令部要員の主力約一〇〇名はその護衛部隊等を含めた計八〇〇名の隊列を以てフラウエンベルク要塞陣地からの離脱を開始していた。車両と人の列が森に囲まれた山道を進む。

 

「……砲撃跡で山道が荒れているようです。工兵部隊が補修を致しますので少しお待ちを」

 

 サイドカー付きオートバイで駆け付けた護衛部隊の隊長が前後を装甲車に護衛された軽量軍用乗用車(キューベルワーゲン)の下で跪き報告する。軽量軍用乗用車(キューベルワーゲン)、その深紅のベルベット生地張りの後部座席に鎮座する老境の軍人はその報告に深い溜息をついて瞑目する。

 

「……やはり何事も予定通りにはいかぬものだな」

 

 杖を立てて椅子に座るツィーテン将軍。反乱軍の砲爆撃により予定を過ぎても第九野戦軍の移転作業は停滞していた。仕方なく宇宙軍の支援を受ける事で反乱軍宇宙艦隊の注意を逸らし、その間に森林地帯や山岳部に隠れ移動を開始した。

 

 この時点でツィーテン大将は司令部内にいた叛徒のシンパが亡命を試みた事に気付いていなかった。だが、それを非難するのは酷というものである。

 

 一つには司令部は全滅を避けるために幾つかのグループに分かれて撤収を行っており、件の人物が別のグループに所属していた事、更に言えばシンパを監視していた憲兵隊や査閲士官がスキャンダルを避けるためにその事実を隠匿、密かに始末をつける予定であったためだ。

 

 連座や血の復讐を回避し、宮廷闘争の流血を最小限に留めるために渦中の人物が反乱軍との戦いで『名誉の戦死』を賜る事は帝国社会では珍しい事ではなく、しかし武門貴族を始めとした現役高級軍人達の中には宮廷の陰謀を前線にまで持ち出される事を快く思わない者も決して少なくなかった。そのため上層部には詳細が知らされず、戦火の中で密命を授かった者達がどさくさに紛れて人知れず任務を果たす例もまた珍しくない。

 

 故にツィーテン大将以下の第九野戦軍司令部主要メンバーは、未だにカール・マチアス・フォン・フォルゲン主計准将の行動を把握していなかった。

 

 だが、それだけならばまだ決定的なミスとはならなかったであろう。密命を受けていた者達は決して宮中のマネキン人形ではなく、少なくとも技術の面でいえば謀殺を成すのに十分な実力を有していた筈であったのだから。

 

 誤りがあるとすれば乗馬とビリヤード、そして麻薬の密売以外に見るべき物がないと思われていた伯爵家の三男が思いがけない射撃の技量と頭のキレを有していた事であり、それが巡り巡って致命的な破局に繋がった。

 

「仕方あるまい、この際時間は金剛石よりも貴重だ。徒歩で行くとしよう」

 

 副官であり付き人でもあるキルバッハ中佐に支えられて老将は後部座席から降りる。黒い軍服の胸を飾る数々の勲章が朝焼けの光に鮮やかに輝く。

 

「調度品も荷台から降ろせ。ゆっくりと運び出すんだ。傷一つつけるなよ……!」

 

 ツィーテン公に仕える別の従士が後続のトラックに命令する。司令部の高級士官達が前線で不自由ない生活を送るために持ち込んでいた数々の高級家具や調度品を叛徒共の手に明け渡す訳にはいかない。護衛の兵士達にトラック荷台に乗せたのそれらを慎重に運び出す。

 

「落すなよ……?絶対に落とすなよ……?」

「これ割ったら大変だぞ……俺らの給金何年分だ……?」

「流石御貴族様って所か、俺らが汚ねぇ寝袋にくるまっているのにこんな上等なベッドで寝やがって………」

「無駄口なんか叩くなよ、それよりも早く運ぶぞ……!」

 

 輸送を命じられた兵士達は戦々恐々と、あるいは若干の反発や羨望を湛えた表情で家具と調度品を持って移動を始める。マホガニー材のベッドにドロワー付きのチェスト、黄金色に輝くロココ調のソファーは四人がかりで慎重に運ばれる。鮮やかな陶製の花瓶を運んでいる軍曹は生きた心地がしないであろう、その価値は彼の給金の半年分であった。

 

 漆喰細工に金縁の壁掛け鏡に孔雀石で作り出された鷹の置物、鈍く輝く銀食器にザイリッツ=ヴィーダー・マイセン工房のティーセット、あるいは象嵌細工の文箱に細密画の描かれたペルシア絨毯……それらは一目見ただけで一般庶民の手に入らない熟練の職人が仕立てた逸品である事が分かろう。

 

 帝国暦469年物のノイエ・ヘッセンの白にカルステンの455年物のキルシュヴァッサー、なによりもクヴァシルの帝国暦433年物のエーデルフォイレ……それらの銘柄のボトルを運んでいた兵士達は本来ならば一生それを目にする機会すらなかった筈だ。

 

 どれも平民達にとっては贅沢の極みであっただろう、だがこれでも門閥貴族全体から見た場合ツィーテン大将以下の首脳部が司令部から持ち出した財貨は決して道楽を貪る程の物ではなかった。寧ろこれだけの贅を尽くしていてなお、帝国の門閥貴族社会の価値観に照らせば『清貧』で『質実剛健』と扱われるぐらいである。

 

「徒歩ですか、この険しい道を……」

 

 ツィーテン将軍に続くように腹部の脂肪を揺らして降車したシャフト技術中将が砲撃で荒れた道を見つめ、若干呻くように呟く。

 

「こんな事でしたら減量するべきでしたな、シャフト技術中将殿」

「私はデスクワークと研究が仕事でしてな、貴方方のように鍛練に取れる時間が無いのです」

 

 野戦軍参謀長ヴァルブルク中将の若干冗談を含んだ言に僅かに不機嫌そうに、それ以上に脱力気味に技術中将は答える。

 

 本来武門貴族ではない赤っ鼻の男爵は別に特別に暴飲暴食に励む人物でもなかったが、科学者であり技術者、哲学者であり執筆家として多忙を極めているがために特に運動面において健康と言える生活を送っている訳ではなかった。そこに貴族階級としての付き合いがあり会食や酒宴への参列もあれば肥満体になるのもある意味ではやむを得なかった。

 

「ははは、それは大変な事ですな。むっ、あれは……随分と体躯の良い鷹だな」

「鷹?ああ、あれですかな?」

 

 一方、ヴァルブルク中将の方は険しい道を悠々と登り、空を飛ぶ猛禽の姿にそんな事を呟く。ヴァルブルク中将は怪訝な表情を浮かべる技術中将に説明を始めた。

 

「我が家でも鷹狩りのために何羽かイヌワシを飼育していましてな、シーズンになると狩猟園で義父や息子と狐や貂を狩りにいくのですよ。だがあれは中々……」

 

 天を見上げ、感嘆するような視線を向ける中将。それだけ今彼らの上を通り過ぎていく鷹が大物であり、鮮やかな色合いを持った上物であったのだ。

 

 「どうやら思ったよりも良い森らしいですな、こんな時でなければ狩猟をしたい程です」

 

 そう言って然程疲労を感じさせない足取りで足を再度動かし始める第九野戦軍参謀長。

 

 掘りの深い鋭い顔立ちに十二頭身の均整の取れた体型、背筋は反ったサーベルのように伸びている。軍服を脱ぎ捨てれば四〇を越えたとは思えない鍛え抜かれた鋼の肉体を拝む事が出来よう。ヴァルブルク中将の立ち振舞いは一目でこの手の山登りに手慣れている印象を見る者に与えていた。

  

 門閥貴族階級全体が長い時間をかけて腐敗しつつあるとは言え、特に地方在住の武門出身の小諸侯は比較的古き善き貴族階級の気風を残している事で知られている。そして古き善き貴族の嗜みと言えば山や森での狩猟や乗馬も含まれる。

 

「狩りですか、やれやれ、武門の御家は元気なものですな……」

 

 一方インドア派の技術中将は呆れ気味に肩をすくめ、ハンカチで額の汗を拭きながらその後に続いた。

 

 第九野戦軍司令部本隊は兵士から将官まで結局ほぼ全員が徒歩での移動を余儀無くされた。工兵部隊が山道の復旧を急ぐが、その間同じ場所に留まり爆撃の対象となっては敵わない。車両が追い付けばそれで良いが、当てにせずに徒歩で目標の中継地に向かうのが最善であろう。

 

「うぬっ……」

「将軍、御休息なされますか?」

「……いや構わん。儂のせいで足を止めさせる訳にもいくまい。このまま進もう」

 

 老境であるが故にだろう、ぜいぜいと肩で息をしながら山道を進むツィーテン大将に参謀や従卒達が進言する。肩車を勧める声も挙がるが将軍はそれらを全て拒否した。彼にも軍人としての誇りと貴族階級としての矜持がある、自らが足を引っ張る事も、まして兵士達の前で情けなく背負われるのも許せるものではなかった。

 

 地雷や不発弾がないか調べながら慎重に、しかし可能な限り迅速に目的地に向かう軍列。ツィーテン大将の傍に控えるキルバッハ中佐は時たまによろめく主君を支えつつ抜け目なく周辺を警戒する。

 

「………ん?」

 

 ふと、かすかに何かが崩れる音がした。振り向くと上方から砂粒が落ちてきたのを確認する。

 

「………!」

 

 キルバッハ中佐の眼に急速に警戒の色が浮かび上がった。腰のハンドブラスターを引き抜き上方を見上げる。

 

「敵襲だっ………!!」

 

 そして山道の両脇の崖から飛び降りて来た巨大な影の群を視界に映し出すと共に、キルバッハ中佐は叫び声を上げつつ手に持つハンドブラスターを発砲する。そしてほぼ同時に彼らの頭上から火薬銃に装備されたグレネードランチャーが火を噴いたのだった。

 

 

 

 

 

「予想通りに獲物が来たなっ………!!」

 

 突撃しながらグレネードを隊列に撃ち込み帝国軍を混乱させた前衛部隊に続いて、私も数メートルはあろう崖を片手で手綱を引き白馬ならぬ白トリウマで駆け降りた。偵察に飛ばした鷹の足首に装着したカメラから隊列を整えて進軍する帝国軍の写真が撮れていたので十中八九この道を通ると見込んでいたが……本当に通ってくれる事に何故か感動を覚えている私がいる。漸く私にもツキが回ってきたぜ……!!

 

 光ディスクには第九地上軍司令部の退避計画も記録されていた。当のスパイ本人逃亡後の事であるから対策をされているか道が変更されている可能性も否定は出来なかったが……事が事だけにやはり上層部までは知らされていなかったらしい。

 

 そうとなれば後はこちらのものだ。帝国軍がそうしたように此方も険しく警戒網の薄い山岳部を通り、第九野戦軍司令部の脱出ルートに先回りし、身を伏せて隠れる。そして目的の集団を見つけると共に上方から奇襲を仕掛ける訳だ。

 

 崖から次々とトリウマに騎乗した騎兵隊が躍り出て帝国軍の細い隊列に突貫するのが見えた。狭い道に大重量のトリウマはそれだけで脅威であり激突と同時に挽き殺される兵士が続発する。辛うじて抵抗しようとしたり、兵士達を落ち着かせようとする下士官は狙撃兵により優先的に排除される。

 

「車両は置いていったな……!好都合だ……!!」

 

 先遣部隊に続いて帝国軍の軍列に突入した私は周囲を見ながら喜色の笑みを浮かべた。流石に装甲車相手に騎兵突撃は無謀過ぎる。相手が徒の歩兵のみなのは幸運だ。

 

「若様っ!余り突出しては……!!」

 

 すぐ傍で轡を並べるベアトがすれ違い様に私に襲いかかろうとする敵兵をサーベルで斬り捨てる。

 

「お怪我がありますので前進するのはお控え下さいませ……!!」

 

 そう語って慌ててベアトを含め数名の騎乗した従士が私を囲む。

 

「あー、分かってはいるのだがな………」

 

 私は戦闘で興奮するトリウマを落ち着かせながら謝罪する。此方は片手が怪我で使えないので戦闘なぞ不可能だ。轡を引きトリウマをいなす事位しか出来ない。 

 

 とは言え、私が参戦しなくても殆ど問題にはならない。歩兵に対しての騎兵隊の奇襲、数はほぼ互角であり、しかも相手の何割かは精々拳銃しか装備しない司令部要員である。更に言えば……。

 

「糞っ!反乱軍め……!」

「馬鹿っ!撃つな!荷物に傷をつけるつもりか!?」

 

 案の定、調度品や装飾品を輸送していた一個中隊近い人員は包囲するシャンプール騎兵達に対して録な抵抗もしないし出来なかった。輸送のために両手を使っているし、銃器を使えば最悪傷がつく。そうなればどうなるか………輸送する兵士達や指揮官は大貴族達の財貨が傷つく事とその結果自分達に降りかかる可能性のある罪状に恐怖して狼狽えるのみだ。

 

「テイコウスルナ……!ウッタラソノニモツニウチカエスゾ!!」

 

 彼らを囲むシャンプール騎兵達は火薬銃やサーベルを構えて片言の帝国公用語で警告する。はっきりそう言われれば勇気を振り絞って抵抗しようとしていた兵士達も引き金から指を離すしかない。そしてほかの護衛部隊も既に大半は切り伏せられ死亡か負傷し、その戦闘能力を急速に失いつつある。

 

「順当だな。それではベアト、私達の仕事をするとしようか?」

「はっ……!」

 

 弾除けのベアト達に密集して護られながら私は軍列の一角にトリウマを走らせる。

 

 そこではほかの場所とは違い、歩兵隊は銃剣付きのブラスターライフルや火薬銃を構えて古式ゆかしい菱形密集隊形を取っている。その周辺に倒れる騎兵の数を見るにどうやら宇宙暦8世紀でもこの陣形はそれなりの効果があるらしい。

 

「若様、僭越ながら……」

「ああ、構わん。こちらも早く勝負を決めたい。……働きをみせてもらおうか?」

「はっ!」

 

 私の命令に敬礼を持って返すとベアトは一人トリウマを駆けさせる。そして途中斃れる帝国兵から軍旗を奪い取るとそのまま密集陣形に突っ込む。

 

「こっちに来るのか!?」

 

 ベアトの存在に気付いた数名の帝国兵が銃口を向けるが発砲と共にトリウマは跳躍していた。流石に元を辿れば駝鳥の遺伝子も配合されているだけあって馬を超える跳躍能力である。

 

「はぁ……!」

 

 そのまま軍旗を投槍のように投擲し帝国兵の一人を串刺しにする。それに驚愕して視線を逸らした傍のもう一人をその顔面から踏み潰した。

 

「穴が開いたぞ!突入しろ……!」

 

 サラージ少佐の命令に応えてシャンプール騎兵達がベアトが無理矢理こじ開けた隊列の亀裂に突進する。先程まで接近も困難だった陣形は急速に崩壊して狩る側と狩られる側が逆転する。

 

 そして兵士達の壁が崩壊した先には煌びやかな軍装と勲章に身を包んだ一団がその姿を公衆の面前へと晒していた。

 

「さて……漸く私も役立ちそうだな」

 

 私は足で腹を叩きトリウマを走らせる。ベアトが佐官が向けた拳銃をサーベルで切り払ったのと私が彼らの目の前に現れたのはほぼ同時だった。

 

「第九野戦軍司令官、エーバーハルト・フォン・ツィーテン将軍とお見受けする!使者として皇帝陛下の御意思を伝えに参った、武器を下げられよ!!」

 

 拳銃やサーベル、ハンドブラスターを構えて抵抗しようとしていた高級士官の一団は、私の流暢な宮廷帝国語の宣言に意表を突かれたように目を白黒させ、次いでその内容に怪訝な表情を浮かべる。

 

「………皇帝陛下とは何者か?この銀河に君臨なされる唯一絶対の支配者は唯一人、開祖ルドルフ大帝とその子孫のみである。貴官の口にする皇帝とは一体何者であるか?」

 

 暫く互いに視線を交差させた後、恐らく参謀長であるのだろう、中将の階級章を保持する中年の軍人が堂々と尋ねる。

 

「無論、全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる初代銀河帝国皇帝ルドルフ一世陛下が子孫にして、御所たるアルレスハイム星系に住まわれる賢明かつ慈悲深き吾等が臣民の父、グスタフ三世陛下であらせられる!!」

 

 私もまた内心呆れつつも堂々とそう宣言する。傍ではベアト達もいるからね、主君として余りヘタレな様子も見せられない。

 

「……成程、亡命軍か、卿の名は?」

 

 そこで漸く合点がいったように老将軍が口を開く。老人が警戒するように私を射抜く。私の「家格」を試されているな。

 

「これは失敬。権門四七家が一つにして武門十八将家が一つ、ティルピッツ伯爵家が本家、ヴォルターと申し上げる。始祖はコレリアが軍人家系のオスヴァルト、家紋は赤の盾に百合、帝室を支える鷲獅子。父は直系のアドルフ、母はバルトバッフェルが娘ツェツィーリア!!」

 

 その宣言にその場にいた貴族階級の全員が驚く。半分は私の家柄に対して、もう半分はそんな家格の人物が態々軍使としてこの場に来た事に対してであった。

 

「……宜しい、それではこちらも礼を尽くして名を名乗ろう。権門四七家が一つにして武門十八将家が一つ、ツィーテン公爵家本家、エーバーハルトである。始祖はカストルが星系軍の長ヨアヒム、家紋はフュルストを冠した銀のボーデュアの盾、中央にはランパルトの白獅子である。必要であれば家族の名も答えようか?」

 

 試すように尋ねる将軍。その手には乗らんぞ。家格も歳も上の相手に普通の貴族はそこまで出自を追求しない事位知っとるわ!

 

「いえ、結構。ツィーテン公、返答は如何に?」

 

私は内心の緊張を誤魔化しながら堂々とそう尋ねる。

 

「……ふむ、試すような真似をした事を謝罪しよう。さて返答の前に……中将」

「はっ、総員戦闘止め!!」

 

 そう呼ばれた参謀長が大声で何度も周囲に宣言する。それに注意が向き騒がしかった周囲の敵味方の兵士達が戦闘の手を止め始め……いつしか静寂がその場を支配した。

 

「……さて、場が整ったな」

 

 ツィーテン公は付き人らしい佐官に椅子を用意させるとゆっくりとその椅子に座り込む。

 

「……まずはアルレスハイム『公王』からの伝令、痛み入る。軍使に相応しい礼を出来ない事心苦しいが許して欲しい」

 

 『公王』を殊更強調する老将軍。銀河帝国のアルレスハイム=ゴールデンバウム家の扱いは曖昧で、公式資料内では『大公』とも『藩王』とも『公王』とも呼ばれている。

 

 反逆者扱いされないのは間違い無く帝室の血を引いている事もあるが、初代皇帝ユリウス・フォン・ゴールデンバウム(ユリウス二世)が亡命時に帝権を象徴する五つのレガリアの内の二つと戴冠宝器の幾つかを持ち逃げした事、亡命貴族達にティルピッツ伯爵家を含む相当数の名家が含まれ彼ら全てを反逆者として処罰するとなると連座で貴族社会が壊滅してしまう事、マンフレート亡命帝時代に国璽を持ってアルレスハイム=ゴールデンバウム家の存在を認める書面を認可しそれを亡命政府が確保しているためなどである。

 

 尤も、帝国政府からすればアルレスハイムの分家を『王』としてならば兎も角『皇帝』と認めるつもりはない。皇帝は銀河に一人だけ、それが帝国政府の公式見解なのだから。

 

「……まぁ宜しいでしょう、私とて徒で後退せざる得ない苦境にある将軍方にそこまでの要求をしようとまでは致しませぬ。公爵方の名誉のため『配慮』致しましょう」

 

 この場で優位にあるのは自身である、というように私は答える。相手をブチ切れさせないギリギリの表現だ。まぁ、こちらも仕えるべき帝室(アルレスハイム=ゴールデンバウム家)を王扱いされているから多少はね?

 

「……では御意思をお聞かせ願いましょうか、伯爵公子殿?」

 

 若干不機嫌そうになりつつもその程度想定内であったのだろう、悠々と公爵は本題に入る。なので私もまた気を引き締めて本題を口にする。

 

「宜しい、ツィーテン公。ではお答えしよう……偉大なるグスタフ三世陛下は慈悲深くも同じ高貴な血の流れる悲劇をお求めにはなられぬ」

 

 と私はわざとらしく周囲を見やる。既にツィーテン公爵達の周囲は武器を持ったシャンプール騎兵達が包囲していた。

 

「故に勝敗が決した現在、私は騎士道精神と貴族精神を以て貴公らにこれ以上の私戦権行使の停止と『名誉ある降伏』を勧告しに参った次第である!」

 

 私は貴族らしく高慢に、そして胸を張って宣告する。少なくとも帝国軍において亡命政府軍との戦いは反逆者との戦いでなければ国家間戦争でもなく、言うならば帝室の名誉をかけた『私戦』であった。無論、私戦自体は第一一代皇帝リヒャルト二世忌血帝の時代に全面禁止され決闘にとって代わられたものの、それでも散発的に発生はしているし行った家が根こそぎ大逆罪やら不敬罪で処断される程のものではない(罰金や当主の隠居、一部領地没収はあり得るが)。

 

 亡命軍に対する対応も同様であり、公的にはアルレスハイム=ゴールデンバウム家及びその影響下にある諸侯と帝室の『私戦』という認識が宮廷にはある。故にこれは同じ『高貴な血』の流れる者達の対等な戦であり、力及ばず降伏しようとも少なくとも叛徒共の手に落ちるよりは遥かに名誉あるものであった。少なくとも建前上は。

 

「我々がそれに従うと?」

 

 しかしながらツィーテン公爵は目を瞑り、腕を組み静かに尋ねる。尤も、それがブラフである事は私も百も承知だ。既にこれは交渉ではなく儀式の段階であった。

 

「従う事を切に願います。そうでなければ、私は貴方方を不名誉な方法で処断せねばならない」

 

 その言葉に公爵の後ろで控える高級士官達が緊張に表情を強張らせる。

 

「……理由をお聞かせ願おうかの?我々も武人として帝室にこの身を捧げる立場、まして同じく高貴なる者に討たれるならば本望、しかして不名誉なる方法で処断せねばならぬとはそれは如何なる理由か?」

 

 ツィーテン公爵の落ち着いた、それでいて厳粛で重々しい質問に私は答える。

 

「お答え致しましょう。一つはこれ、我が身の恥を晒しますが先日の戦いで深手を負った身なれば、貴公らをこの場で自ら討つを能わざる事を御理解願いたい」

 

 トリウマの上に乗ったまま私は右腕を掲げる。あの糞帝国騎士のせいで利き手が使えないのだ、門閥貴族たるのがこの場で私だけであるから彼ら全員の処断をするのは少々手間取る。

 

「第二に、今の私は自前の兵が少なく、不本意ながらこのようにランツクネヒトを雇う身、私としては彼らに早急に代金の支払いを為さねばならないのです。故に、貴公らの降伏が入れられぬ際には彼らが彼ら自身の実力を以て代金を徴収せねばならなくなるのですよ。……その意味、御分かりでありましょう?」

 

 ランツクネヒト……即ち傭兵は帝国社会にも存在する。ベテルギウス子爵家やモルガルテン男爵家のように領民を殆ど持たず、傭兵業を家業として貴族の私戦や御家争い、警備、教官や食客の派遣に帝室への近衛兵派遣を以て生計を立てる門閥貴族家もあるし、その場合は傭兵団とはいえ軽視される事はない。最強の近衛軍司令官であった『獅子のレオンハルト』やコルネリアス帝の親征において最前線で千人斬りを達成した『剣姫』クリームヒルト・フォン・ミッドガルド准将、『旅団潰し』のゲルゼン兄弟と言った帝国の伝説級の戦士達も実家はランツクネヒトをする武門貴族であった。

 

 とは言え、平民主体、それどころか貧民や自治領民主体のランツクネヒトもあるし、そちらは正直卑しい集団として認識されている。下手すればフェザーン傭兵より蔑視されているだろう。多くの場合、貴族主体の歴史あるランツクネヒトを利用したくない成り上がりの富裕市民が自前で立ち上げた自衛兼営利集団だ。

 

 私と共にこの場を襲撃したシャンプール騎兵達も帝国貴族目線でいえばある種のランツクネヒトという認識で見られる事であろう。彼らはイデオロギーでも愛国心でもなく報酬と略奪品目的で出征している。そしてこの場で私についてきた理由も………。

 

「故に、私は貴方方の名誉のために降伏を勧める次第です」

 

 私は『善意』として彼らに忠告する。ここで卑しい出自の傭兵共に切り捨てられるか、曲がりなりにも名家の嫡男に降伏するか、という二者択一を迫る訳だ。そしてツィーテン公爵も私の言わんとする事をすでに察しているだろう。公爵は不安そうに部下や兵士達の視線が自身に向くのを敢えて無視し、暫し考えるように沈黙する……。

 

「……名誉のため、か」

 

 目をゆっくりと見開き、こちらを見つめる公爵。私は人好きするような笑みでそれに答える。それに対して少しわざとらしく不服な口調で、しかし我慢するように、公爵は返答した。

 

「……分かった。不本意ではあるが我が部下達に不名誉な最期を命じる訳にもいくまい」

 

 そして公爵は立ち上がると正に名門の一族に相応しい惚れ惚れとする立ち振る舞いで礼をして堂々と嘆願する。

 

「ティルピッツ伯爵家のフォン・ヴォルター殿、御頼み申す。このエーバーハルト、今持つ資産を身代金として貴公に寄進し、それを以て我が部下達の名誉を御守りして頂きたく願う。どうか彼らに階級に相応しき処遇が与えられん事を」

 

 それはある意味では出来レースであり、予定された行動であっただろう。ツィーテン公爵にとって奇襲され、包囲された時点で討ち死にか降伏かの選択肢しかなく、前者は討たれる場合の相手が反乱軍相手でありしかも多くの門閥貴族の部下を共に死なせる事になる。個人でなら兎も角司令官として、公爵家の当主としては選べなかった。

 

 だが、すぐ様降伏する事も、卑しい奴隷共に降る事もまた有り得ぬ選択肢だ。それ故に彼にとって私の存在は僥倖であるし、私も自身の最大の価値がそこにある事を理解していた。

 

 つまりは『ヴォルター・フォン・ティルピッツ』の『善意と厚意』に応え、不名誉な討ち死にではなく『公爵が部下を慮り』、『公爵が手元にある資産』を身代金として『仕方なく降伏する』、という体裁を整え公爵が阿吽の呼吸でそれに応えた訳である。これならば誰も公爵を……少なくとも表立っては……責められない。

 

 そしてこれは私にとっても非常に助かる。私の怪我は恐らくテレジアや多くの部下が責められるだろう、下手をすれば自裁を命じられる可能性すら有り得る。私としてはそのフォローのための影響力を手に入れるために大きな軍功が欲しかった。そしてそのためにサラージ少佐のシャンプール騎兵を動員したがそのための飴たる司令部の運んでいた調度品を合法的に押収し、しかも同盟軍の勝利に寄与する。正に三方良しと言う訳である。

 

 後は薔薇の騎士達の方は上手くいっていれば良いが……彼方は不良少佐がいるから大丈夫だろう。私が気にする必要はない。私よりも遥かに上手くやってくれる筈だ。そうでなくてはかなり困る。

 

「……宜しい、ツィーテン公。貴方の勇気と名誉ある選択を賞賛致します」

 

 一抹の不安を拭い去り、我に返った私は慈愛の言葉を口にする。そしてこの出来レースの喜劇を、その最後の飾るべくトリウマを下りた。勝者として敗者の名誉を守り、賞賛するのは当然の事である。……少なくとも同じ門閥貴族の間では、ね?

 

「どうぞ頭をお上げ下さいませ、公爵。私の名誉にかけて貴方方に相応しき待遇を約束致しますればどうぞ御安心を」

 

 こうして内心で貴族文化を嘲笑し、口元に浮かぶ呆れの笑みを必死に隠しながら、私は友誼を結ぶ握手のために左腕をツィーテン公爵に対して恭しく差し出す。

 

「………宜しく頼む」

 

 公爵が僅かに躊躇し、沈痛な表情で、あるいはそのように見せて私の手を受け取った。それは抵抗を諦めるものであり、戦いの終わりを意味するものであった。

 

 次の瞬間、騎兵隊はサーベルとライフルを掲げて勝利の雄叫びを上げ、一方、帝国兵は武器を捨て、天を仰ぎ嘆き号泣する。瞬く間に山道は何千という喜びの歓声と嗚咽の声で満たされた。

 

 宇宙暦789年12月20日同盟標準時間0830時。こうして帝国地上軍第九野戦軍司令部は同盟軍……いや、銀河帝国亡命政府軍の降伏勧告を受諾したのであった……。


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