帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第十五話 獅子帝のフラグ回避能力は異常だと思うんだ

 森林地帯用野戦服を着た私は苦虫を噛みながら机の上の地図を凝視する。

 

「A-16防衛線突破されました!」

「D-3より1個分隊、K-5より2個分隊が浸透中です!」

「第10分隊より定時連絡途絶えました!」

 

 天幕内の通信士が絶望的な戦況を通達し、それに合わせて地図上の駒が移動し、あるいは撤去される。

 

「右翼からの攻撃は陽動だったな……」

 

 舌打ちしつつ私は思考を巡らせる。折角教本に忠実な防衛陣地を構築したがこう浸透されてしまったらな……。

 

「おい、このままだと各個撃破されるぞ。参謀長としては後退と再編を進言するが……」

「それが至難の技、て事だな?だが、やるしかねぇよ。多少の犠牲は覚悟の上だ」

 

 私は同席する参謀長ホラントの進言に同意を示す。背に腹は代えられない。このまま実働部隊を殲滅されて司令部をゆっくり料理されるよりはマシな筈だ。

 

「方針を決めたならさっさと命令しろ。上が優柔不断だと下が困る」

「分かっているさ。各部隊を後方に下がらせろ!場所は……この丘陵地帯なら防衛に適している筈だ。防衛線を再構築するんだ!ホラント頼む」

「了解した」

 

 舌打ちしつつホラントが資料や戦況状況を整理し、通信士越しに各部隊へ具体的な後退指示を出していく。後退といってもただ引けばいい訳でもない。後退時が追撃によって一番損害を受けやすいのだ。つまり敵味方の位置から追撃進路を予測し、各部隊が連携して敵軍を牽制しつつ後退しなければならない。

 

「そこを細かく詰めるのが参謀の役割なんだよなぁ」

 

 複数人でやるとはいえ、私にはそんな短時間の間に分析して細やかな作戦を詰める能力はない。戦場で、追い込まれれば尚更だ。正直そんな中で冷静に対処出来るホラントは普通にヤバい。

 

「さて、問題はどれだけ守り切れ………」

 

 其処まで言って、私は口を止める。そして事に気付いたホラント以下、天幕内の人員に目配せすると懐のブラスターを抜き取る。

 

 え、どうしてかって?そりゃ天幕の外で警備していた奴の影が無くなっているんだから残当よ。

 

 私とホラントを含む天幕内の十数名がブラスターを構える。

 

 数秒の沈黙。皆が緊張の中その時に備える。そして………。

 

「ちぃ!!セオリー通りかっ!!」

 

 天幕の入り口に投げ込まれたスタングレネードに悪態をつく。

 

「目を瞑れっ!入り口に発砲っ!」

 

ホラントが叫ぶ。

 

 皆、体を伏せるなり物陰に隠れるなりして被弾面積を減らすと共に目を瞑ったままブラスターを乱射する。命中させる必要はない。相手の侵入と狙撃を防ぎ、視界が回復するまで時間稼ぎ出来ればいいのだ。

 

発砲音が次々と響き渡る。これで牽制出来れば……。

 

「ぎゃっ!?」

 

 小さな悲鳴と共に人が倒れる音……その声に聞き覚えがあった。こちらの後方参謀のそれであった。

 

「ちぃ!!全員屋内戦闘用意っ……!」

 

 スタングレネードの閃光がおさまると共に私は叫ぶ。私が目を開けた時には既に数名の部下がバラクラバを被った侵入者達と近接戦闘に入っていた。

 

「うがっ……!?」

「は、早っ……!」

 

 侵入者の先頭の者が私を守ろうと人壁になる部下に襲いかかる。一人の頭部と腹部にブラスターを撃ち無力化するとそのまま首もとを掴んで盾にする。そして弾除けにすると共に手榴弾を投げ込む。

 

「伏せろ!」

 

 手榴弾の存在に護衛達は慌ててしゃがむ。爆発音。護衛が体勢を建て直す前に先程の侵入者によって一人また一人と無力化されていく。

 

「まだ生きているかっ!?」

 

ブラスターを構えたホラントが駆け寄る。

 

「こ、ここだっ!!」

 

私が手を振って答える。……同時にどつかれた。

 

「痛え!?」

「目立つ行動するな!馬鹿野郎め!」

 

 同時に後方から襲いかかる敵の頭部にブラスターをお見舞いして無力化するホラント。

 

「裏口から急いで逃げろ!司令官が生きていればまだ建て直せる!!」

「っ……分かった!後ろ頼む!」

 

背中撃たれたら堪らないからな。

 

 と、ホラントに守られながら逃亡を図ろうとした所でホラントが身を翻す。同時に先程まで立っていた場所にレーザー光が通りすぎる。

 

「……やはり避けますか。小賢しい……!!」

 

その声に聞き覚えがあった。綺麗な女性の声。相手はブラスターを再びホラントに向けさらに発砲しようとするが……。

 

「……!!」

 

 早打ちではホラントの方が上だった。ホラントのブラスターの弾が相手のそれに命中する。使用不能になるブラスターをしかし、相手はすぐにそれをホラントに向け投げつける。

 

 ホラントのブラスターに命中させ第2撃の射線を剃らすと共に腰のサバイバルナイフを抜き踏み込んで接近する。

 

「舐めるなよ……!!」

 

 ブラスターの第3射線を発砲のタイミングに合わせ咄嗟に腰を下げて回避した相手はそのまま襲いかかる。

 

「ちぃ……!!おい、ティルピッツ!!さっさとそのケツ捲って逃げろ!……早くしろ!」

 

 その声に私は素早く反応して天幕の裏口に向け走り出す。

 

 天幕を出る前に一瞬振り返った。そこに有るのはナイフを構え合い互いに牽制し合う2人の軍人の姿だった。

 

 

 

 

「糞っ……はぁはぁはぁ……此処まで来れば安全か!?」

 

 息を切らせながら私は呟く。10分以上森の中を走り回った。一応、足跡で追跡されないように欺瞞しながらの逃亡だ。さすがにすぐには見つけられまい。

 

「と、思ったかい?」

 

旧友の声に私は振り向く。

 

 そこにはバラクラバを被りブラスターライフルを構える1個分隊の兵士。そして彼らに守られるように立つアレクセイ。

 

「アレクセイ、お前……」

「ヴォルター、こんな結末になったのが残念だよ……」

 

沈痛そうな表情をするアレクセイ。

 

「ははは……だったら見逃してくれないか親友?」

 

私はおもねるように命乞いをする。だが……。

 

「それは許されない。分かるだろう?親友だからと言って許せる事と許されない事がある」

 

首を振って私の命乞いを却下する旧友。

 

「……糞っ!」

 

私は悔しさと無念さにそう吐き捨てる。

 

「……私も辛いよ。どこで間違えてしまったんだろうね?私達は」

 

その言葉に私は怒気を込めて答える。

 

「何処でだと!?他人事のように言うなっ!教えてやる!何処で間違えたか?それはな……!」

 

そして私は叫ぶ。

 

「何でお前、敵チームの籤引いてんだよっ!畜生めぇぇ!」

 

 心の底からそう叫びながら私は懐からペンを取り出し地面に叩きつけた。

 

 宇宙暦778年12月4日、亡命軍幼年学校5年次生実技試験総合野戦実演……学年生徒を2分しての大規模陸戦演習、そのチーム分けで私は指揮官として目の前の学年首席と戦う事になり……この様だよ!!

 

「この馬鹿っ!てめぇ少し位容赦しろよ!余りにも結果が悲惨過ぎるわ!!」

 

 こちとら何週間かけて参謀役の奴らと作戦考えたと思ってやがる!?それを戦線崩壊・司令部強襲・指揮官包囲だと!?ここまで酷い結果はさすがに辛すぎる!

 

「知っているかいヴォルター、獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすんだよ?」

「私は兎!?」

 

 そもそもなんで私が指揮官役なんだよ!!ほかにも成績上の奴いただろう!?家か!?家柄だなっ!?おう、知ってたよっ!!ホラントの奴愚痴ったもんな、私の指揮が遅すぎるってな!!

 

「そろそろ、終わらせよう。私もチームの皆の成績に責任があるからね」

「ガッデムっ!」

 

 そういってアレクセイは腕を振り下ろす。同時に訓練用非殺傷レーザーの雨が私を襲ったのだった。

 

 

 

 

「お前のせいで野戦実習の成績評価が8だ。どうしてくれる?」

「おう、良かったな。こちとら5だ」

 

 その日の夜、幼年学校食堂で対面に座るホラントの文句にそう返答してやる。ちなみに10段階評価だ。どうやら私の補佐で随分と点を稼いだらしい。まぁ、こいつは自分が指揮すれば勝てたと思っているのだろう。勝てたかは兎も角相当良い勝負をしただろう事は認める。

 

「貴様、毎回の事ながら礼儀がなってないぞ。そんな非常識な事では到底軍務なぞ満足に出来まいに」

 

 私の隣に座るベアトが鋭い視線で睨み付ける。その手には銀製のフォークが握られ今にも投擲しそうだ。

 

「ふん、隣の間抜けに救われたな。後20……いや、10秒もあればお前を戦死させてやったものを……」

 

 戦闘の終盤、この二人は訓練用ナイフで壮絶な近距離戦闘を演じていたらしい。その激しさから周囲のほかの生徒が手を出せなかったとか。

 

「よせベアト。飯食っているときに人体からトマトケチャップが出るところなんざ見たくない」

 

 そっとフォークを掴むベアトの手を押さえる。今にもフォークを投擲しそうだったからだ。まぁ正面の次席は普通に避けてくると思うが。どちらにしろ私の近くで殺し合いするな。巻き込まれて真っ先にケチャップ出して私が死ぬ。

 

「ご安心下さい。若様は私が命に代えて御守り申し上げます」

「おう、ナチュラルに心読むな。後、曇り無き眼で言うな」

 

見ているこっちが怖いわ。

 

「ははは。まぁまぁ、落ち着いて。そろそろ昼食時間が終わる。早く食べてしまおうじゃないか」

 

 微笑みながら口を開くアレクセイ。おまえ、本当に動じないな。すげえよ。あんだけお前嫌っているホラントの隣座れるとか。

 

 何の因果かこの4人で飯を食うことが多くなってしまった。いや、正確にはアレクセイが勝手に引き合わせている訳だが。アレクセイからすれば伯爵家の跡取り(プラスその従士)と学年次席と食事を共にするのは当然らしい。

 

「おかげで毎回飯の度に胃に穴が開きそうになる訳だ」

 

 そう愚痴って食事に戻る。主食はライ麦パン(おかわり自由だ、やったぜ!)、ジャガイモスープ、添え物にマスタード付きソーセージ3本、チーズ、ザワークラフトとオニオン・ベーコン入りジャーマンポテト、飲み物にホットミルク……まぁドイツ風料理の夕食だ。質として貴族として実家やパーティーで食ってきた物には及びもしないが一般人の食べる内容としては適正な質だ。多分原作の帝国軍幼年学校のそれよりは上だと思う。

 

 最もカルテス・エッセンの文化があるのならあちらの方がゲルマン文化としては正しいのだろうが。

 

「どちらにしろ飽きるな。ジャガイモと酢漬けキャベツばかりだ」

 

 帝国人はジャガイモで百種類の料理を作れる、と同盟では言われている。実際はそれ以上なのだが、逆説的にいえばそれだけジャガイモばかり食っている事を意味する。

 

 ルドルフ大帝の遺訓の結果所謂ドイツ系料理が推奨されたからだ。一応理由としては銀河連邦末期、貧困の増大に対して憐れんだ大帝が価格の安いジャガイモで飢えを満たせるようにジャガイモを多く利用出来るドイツ系料理を奨励したそうな。

 

 まぁ、絶対嘘だろうけど。だったら何で宮廷料理が殆んどジャガイモ使ってないんだよ。何で晩年痛風なってんだよ。

 

「贅沢言うものじゃないさ。前線だと食べたくても食べられない、なんて良く有ることだよ。それに栄養価は計算されているからね。寧ろこの時期の食事としては下手に豪奢なもの何かよりも余程体作りには良い物だよ?」

「いや、分かってはいるんだよ、分かってはな。だがなぁ……」

 

 たまにはドイツ料理以外食べたいの。と、いうか洋食以外食べたいの。この際和食じゃなくていいから。アジアンなら何でも良いよ?

 

「だから同盟軍士官学校に行くのかい?あちらはこっちと違って食事のジャンルが豊富だし」

 

 亡命軍幼年学校や亡命軍士官学校と違い多文化主義の同盟軍士官学校では食事のジャンルはやけに豊富だ。さすがに民間に劣るがそれでもジャガイモパラダイスではない。逆に亡命軍幼年学校から入る奴がジャガイモ欠乏症になるけど。嘘か本当か、希に士官学校から血文字で「ジャガイモ」の単語ばかり書いた手紙が送られてくるという。

 

「いやいや、飯のためだけに士官学校行くとか意味分かんないんだけど?」

「けど、それだとこっちの士官学校に行く事になるよ?」

「あれ、選択肢が士官学校しかない?」

 

 士官学校に行ったらそれこそもう逃げ場なんかないだろうが!私はまだ死にたくない!!

 

「と、いうかだからって何?凄く嫌な予感するんだけど」

 

恐る恐る私は旧友に尋ねる。

 

「ああ、この前の進路選択に同盟軍士官学校って記入されてたから。てっきり覚悟決めたのかと……」

「え、何それ知らないんだけど?」

 

ニート、と書いてたんだけどなぁ。

 

「それ、教官が書き直していたぞ」

 

ホラントが横合いから捕捉説明。はは、ワロス。

 

「若様がハイネセンに行かれるのでしたらこのベアトもどこまでも御供致します!」

 

目を輝かせて言うな。行きたくねぇよ。

 

「ティルピッツ、貴様の成績だとギリギリだろう?同盟軍士官学校はそんな簡単に入れるような場所じゃないぞ?」

「そういうホラントはハイネセンに?」

「……そうだ。文句あるのか?」

 

アレクセイの質問にむすっとした顔で答える学年次席。

 

「いや、むしろ尤もさ。もちろん、亡命軍で共に戦うのも良いけど、同盟軍に入ればここに残るよりより大局に影響を与える地位につける。ホラントのような英才ならそちらの方が活躍出来るだろうしね」

 

心からそう思っているかのように答えるアレクセイ。

 

「……ふん。口ばかり達者な奴だ」

 

 不愉快そうにフォークでヴルストを突き刺し口に放り込む学年次席。

 

「はぁ……気が滅入る」

 

それを見ながら私は溜息をつく。

 

「本当、どうしようかねぇ……」

 

 優柔不断と思われるかも知れないが何だかんだ言いつつ私は自身の将来を決断出来ないでいた。私自身命は惜しい。死にたくない。だが……将来の故郷や身内がどうなるのか、原作に記述は無いが余り愉快な未来は予想出来ない。

 

 私のおぼろげな記憶から考えて帝国領侵攻作戦、皇帝亡命、ラグナロック作戦……細やかな内容は忘れかけているがこの辺りのイベントが危険そうだ。リヒテンラーデ侯の事実上の族滅or島流し、レムシャイド伯爵の自決……ほかの銀河帝国正統政府メンバーの運命は知らないが身内のリヒテンラーデ一族であれならば愉快な目に合っているとは考えにくい。

 

 さて、我ら亡命政府(皇族及びその血縁者ばかりな門閥貴族)が獅子帝に寛大な処遇で遇されますか?味方のリヒテンラーデ一族基準で考えてね?ああ、黄金樹嫌いの義眼さん事、オーベルシュタインもいるね。

 

……いや、これ駄目だろう。

 

 万一にも獅子帝が恩赦を与えると言っても信じる訳無いわな。リップシュタット連合軍とか、最低でもリヒテンラーデ一族より寛大な処置が為されているとは思えない。焦土戦術やヴェスターラント見殺し(疑惑であろうとも信じそうだ)も含めると、最後の一隻、最後の一兵、住民の最後の一人まで徹底抗戦選びそうだ(というかさその前例有りだし)。

 

 獅子帝に許しを請う事が許されない。そして身内を守るためには……。

 

「殺るしかないよなぁ……金髪の小僧さんを」

 

 故郷と家族の説得なぞ無理に決まっている以上、破滅を回避する手段は一つ。金髪の小僧……もとい、ローエングラム侯、あるいはその部下共を階級の低い内に抹殺するしかあるまい。特にローエングラム侯は何度も暗殺の手が伸びているし、昇進のため結構無茶な行動もしている。先に生まれた優位を生かし階級を上げて権限を高めたところで新兵同然の小僧をどさくさに紛れて暗殺、取り合えずあいつを殺れさえすれば大体破滅を回避出来る筈だ。

 

 ……返討ちに合いそうな気がするのは言ってはいけない。

 

「……やるしか無いのかねぇ」

「?何でしょうか?」

 

私の小さな呟きにベアトが尋ねる。耳いいね君。

 

「いや………。ベアト、もし危なくなったら、無理しない範囲でいいから助けてくれる?」

 

 私が質問する。嫌らしい質問だよな。答えがどう返ってくるかぐらい知っているのに。

 

「はい、若様の御命はこの私が御守りします。……必ず」

 

優美な礼と共に予想通りに答えてくれる従士。

 

「……行くか、士官学校」

 

私は小さく決意を固めたのだった。

 

 

 

 

「で、学力的にはいけそうかい?」

「それを言うな」

 

旧友の指摘に私は真顔で答えた。

 

 

 








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