帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

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第十二話 フラグの回収はまだ早いと思うんだ

 自由惑星同盟宇宙軍、補給基地アモン・スールⅢの一室における銃撃戦はその激しさを増していた。

 

「くっ……エネルギーパックが切れそうだ!済まない、給弾の援護を頼む!」

 

 苦々しくそう連絡しながらアレクセイが一旦戦線から後退する。

 

「了解致しました……!」

「ちぃ……分かった、早くしろ!」

 

 ベアトが礼節を持って、ホラントが舌打ちしながら了承し、アレクセイの抜けた分一層激しくブラスターを発砲し、弾幕を形成する。

 

「……!隠れろ!」

 

 海賊の一人が無骨な大型銃を持って飛び出す。ホラントは直ぐ様その正体を理解して叫んだ。

 

 同時にブラスターとは比較にならない騒音と共に重機関銃が薬莢を吐き出しながら鉛弾をばら撒いた。

 

「くっ……!?実弾銃なんて古びたものを……!」

 

 身を伏せながら、ベアトが吐き捨てるように言った。

 

 所謂個人携帯型ブラスターが開発されたのは、宇宙暦80年頃の事である。

 

 無論、それ以前にも所謂レーザー兵器は存在していた。原始的な殺傷能力の無いレーザー兵器が実戦配備されたのは西暦の20世紀後半、後の三大陸合衆国の母体となるソヴィエト社会主義共和国連邦であると言われている。

 

 21世紀の13日戦争直前には低脅威目標迎撃用に海上艦艇用レーザー砲の配備が開始されていたし、地球統一政府軍においても恒星間移住時代を迎える頃には、大型宇宙戦艦の主砲として利用されレールガンを仕様とする小型艦艇に対して命中精度・威力・弾薬数等あらゆる面で圧倒していた。

 

 だが、それでもシリウス戦役時には地上戦の主役は実弾兵器であり地上軍の保有するレーザー兵器は基地施設等の防空用等に限定されていた。それは単純に小型化が容易で無いこともあったがそれ以上にコスト・機械的信頼性の問題があったと思われる。

 

 シリウス政府崩壊後の動乱の最中の技術革新で大型艦艇の主砲は緩やかに中性子ビーム砲に移り変わり、レーザー砲は小型艦艇の装備や対空兵装へと格下げされた。

 

 それでも歩兵の装備は実弾兵器のままであり銀河連邦発足から暫く立ってもそれは変わらなかった。

 

 ブラスターが実弾銃に代わり歩兵の永遠の友の座を獲得したのは宇宙開拓時代の始まりと共である。この時代、宇宙海賊と連邦警察・連邦軍との衝突や植民地の自衛用として対人用低出力レーザー兵器……つまりブラスターが急速に広まった。

 

 技術的に対人殺傷可能なレベルのレーザー照射器の携帯可能な程の小型化に成功した事もあるが、やはり最大の理由としては仮想敵の宇宙海賊の特性によるだろう。

 

 宇宙海賊との戦闘は艦艇同士の砲撃戦よりも艦内での白兵戦や辺境での戦闘が主な舞台であった。

 

 艦内での実弾兵器の使用は時に艦への大きな被害を与えるのに比べブラスターは威力の調整が容易であり、また無重力空間での戦闘では火薬式銃の衝撃は運用上大きな問題となった。そのほか、弾薬補給の面でも実弾に比べエネルギーパックで済み、充電による再使用可能な点はいつでも補給の出来ない辺境にとっては大きな利点であった。

 

 これらの理由からブラスターの急速な普及が始まり、生産が軌道に乗ればそれは機械的信頼性向上とコストダウンも招き、それが更なる普及に繋がった。

 

 斯くしてブラスターは火薬式銃から主力小火器の座を奪い取った訳である。

 

 だが、それは実弾兵器の没落を意味した訳ではない。

 

 実弾兵器……特に重火器は重量が嵩張るが対人戦闘に限ればその破壊力・衝撃力はブラスターよりも強力だ。

ブラスターは貫通力では優れるもののその分傷口が綺麗に出来、破壊される細胞面積も少ない。人体の急所や動脈を狙わなければ案外即死しないのだ。

 

 また、装甲服に対しても対レーザーコーティングされている事もありブラスターよりも実弾銃の方が効果は高い(ゼッフル粒子の散布下では念のためクロスボウを使う場合も多いが)。

 

 それら以外にも、高い技術が不要で構造が単純な点も過酷な戦場での使用に適している。

 

 そのため、現在でも宇宙海賊や過酷な環境で活動する特殊部隊の一部、対装甲部隊用に少なくない実弾銃が戦場で散見されている。

 

 ブラスターと違い威力と連射性の高い機関銃弾の嵐の前にベアトとホラントの射撃が止まる。

 

「よし、行くぞ野郎共!!」

 

 怒鳴り声に近い声を上げる海賊。防盾を持った装甲服装備の海賊達がゆっくりと接近を試みる。

 

「ち……舐めるなよ。海賊風情がっ!」

 

 ホラントが銃撃の嵐の中、ブラスターライフルで狙撃。青い光条が先頭の海賊の頭部を撃ち抜いた。

 

 装甲服も無敵の存在ではない。トマホークでなくとも重火器ならばさすがに貫通するし、そうでなくとも関節部分の稼働やヘルメットの視界確保のためにはさすがに隙間なく装甲で包む事は不可能だ。

 

 無論ノーガードと言うわけではなく、関節部分は対熱性と防刃性に優れた超硬特殊繊維、ヘルメットには対衝撃性を重視した特殊プラスチックを使用しているもののさすがにブラスターライフルの狙撃の前には敵わないようだった(つまり原作のブラスターの雨の中突撃する薔薇騎士達はクレイジーだ)。

 

 先頭の海賊が殺られた事に動揺したのか、海賊集の足が止まる。恐らくは立場として分隊長のような立ち位置だったのだろう。

 

 そこに給弾の済んだアレクセイが戦列に復帰して3名が再び攻勢を掛ける。

 

「糞っ!怯むんじゃねぇたかが餓鬼相手だぞ!」

「しかし、こいつら……思いのほか射撃の腕が……がっ!?」

 

 不用意に防盾の影から出た若い海賊が肩の関節部分を撃ち抜かれ悲鳴と共にのたうち回る。その姿に一層海賊側の動揺が広がる。

 

「いいぞ……騒ぎ立てる痛がりは好都合だ」

 

 ホラントが小さく呟きながら再び狙撃……次は装甲の無い踵を撃ち抜かれた海賊が防盾を落として倒れこむ。

 

「ナイスだホラントっ!流石狙撃評価1位なだけある!!」

 

 笑みを浮かべ賞賛の声をかけながらブラスターを連射するアレクセイ。

 

「当然だっ!そちらこそ無駄弾撃つなよ!!?」

「ホラント……貴様無礼だぞ!」

 

 悪態をつくホラント、そしてそれに噛み付くベアト。険悪な空気が流れるが、その体は両者共海賊への射撃を止めない。正確な射撃が海賊の進軍を阻止していた。

 

 問題は弾薬だろう。ブラスターのエネルギーパックの予備は殆んど無い。弾が切れる前に陸戦隊が到着しなければ待ち受けるのは死だ。

 

「……おい、ティルピッツ!後どのくらいだっ!?」

 

 ブラスターライフルを撃ちながらホラントは怒気を強めて問い質す。

 

「まだ少しかかるとよ!!どうやら通路の途中でバリケードが出来ているらしい!!」

 

 私はイヤホンからの基地司令部の連絡を聞きながら答える。

 

「えっ!?こっちの状況!?最悪ですよ!!弾切れになったらすぐにでも獰猛な海賊一家が雪崩れ込んできて全員の頭がトマホークでカチ割られる事請け合いだ……!!」

 

 司令部から状況報告を求められイヤホンマイクに半分泣き言を叫ぶように報告する。

 

「畜生、糞みてぇな初陣だ……!!」

 

 せめて幼年学校くらい卒業させてくれよ!!ラインハルト達でもそれくらいは許させていたぞ!?……いや、まぁあの二人は初っぱなの任地で暗殺されかけるけどさぁ。

 

「泣き言言う前にやる事をやれ!!」

「分かってるわい!!」

 

 ホラントが吐き捨てるように叱責し、私はぶっきらぼうに言い返す。ホラントを睨み付けるベアトを諫めながら私は自身の仕事を再開する事にする。

 

「糞……重いなこの野郎!!?」

 

 私の役目はこの荒れた室内の備品でバリケードを作る事だ。机や椅子を運んで室内に第2次防衛線を構築する。今もまた机を引き摺ってそのための作業の途中だ。

 

 既に銃撃戦は40分……本来ならばもう救援が来てもいい筈の時間だが世の中上手く行かないものだ。彼方も戦闘中だ。糞、海賊位で怯むなよ税金泥棒め!!

 

「本当……マジで情けねぇな」

 

 すぐ傍で戦う同僚達を見て苦虫を噛む。だが、内心戦わずにいられる事に安堵しているのも事実だ。

 

 これは遊びではない。相手が帝国軍では無いだけでれっきとした殺し合いなのだ。これ迄最低限戦う訓練はしてきたがいざその場に立つと……。

 

「ははは、止まれよ。この野郎」

 

震える腕を強く握り締めて、私は呟く。

 

「……強いよなぁ。この世界の奴らは」

 

 戦争が当たり前の世界だとやはり覚悟が違うのだろう。ラインハルト達程でないにしろベアトもアレクセイも、ホラントだって内心はともかく外面では冷静に戦いを続けている。信じられるか?14、5歳なんだぜ。

 

「所詮は小市民か……」

 

 だとしても、少なくとも今は自身の役目を果たすのが先決か。自身の境遇を嘆いて悲劇のヒーローやる暇なんて有りやしないのだから……。

 

 

 

 

 

「く……っ!申し訳御座いません!弾切れですっ!」

 

ベアトが遂に最悪の報告をする。

 

「っ……!ホラント!そちらの残弾はっ!?」

「もう、こいつが最後だっ!」

 

 急いでブラスターライフルのエネルギーパックを交換しながらホラントが答える。

 

「ヴォルター、救援はっ!?」

「上手く行けば、後10分かそこらだそうだ……!どうするっ!?バリケードはこしらえたが……!?」

 

 首で指し示す先には机や椅子、棚、その他の備品で作った即席のバリケード。

 

「上出来だっ!私が殿になる。皆先に後退してくれ!」

 

アレクセイが私達に先に後退するように勧める。

 

「し、しかし……!」

 

 ベアトが渋るような表情をする。当然ながら皇族を置いて逃げるなぞ従士にとっては想定する事すら有り得ない。

 

「いや、俺が殿になろう」

 

そこにホラントが進言する。

 

「しかし……!」

「勘違いするな。お前の立場を考慮したわけじゃない。ライフルのこちらの方が足止めに適しているだけだ。射撃の腕もこちらが上だしな」

 

むすっ、と顔を顰めながらホラントが補足説明する。

 

「………分かった。じゃあベアト、最初にバリケードに」

 

アレクセイが隣のベアトに指示する。

 

「いえ、それならば若様の方を……」

「いや、ベアト。お前が行け」

 

私の方を見やる従士に、しかし私は否定の言葉を吐く。

 

「ですが……」

「いやいやいや、ここで真っ先に避難とかさすがに恥ずかしいからな?こっちは戦闘してないから疲れても無い。余り情けなくさせてくれるなよ?」

 

 実際ベアトは女子の分疲労も溜まっている。一番先に後退させるべきだ。

 

「……御命令承りました」

 

暫しの逡巡、がすぐにベアトは指示に従い後退する。

 

「……んじゃ、行くか私達も」

「そうだね。……走ろう!」

 

 ベアトがバリケードの中に入ると共に私とアレクセイは駆ける。飛び込むようにバリケードの内側に入ると私は最後の一人に叫ぶ。

 

「いいぞ!お前も早く来い!」

 

 その言葉と共に身を翻したホラントがこちらに向け走り出す。既に海賊が部屋の入り口に右折して入り込もうとしていた。

 

 ホラントの背にブラスターの銃口を向けようとした所で私が医務室から拝借した薬瓶が顔面に命中する。柊館宜しく本当なら女神像が良かったのだが仕方ない。

 

 さすがに予想外の痛みだったのかのけ反って折れた前歯を抑えたところにアレクセイのブラスターから照射された光線がその首を貫通した。

 

「よし……」

「間抜けっ!さっさと頭を下げろ!」

 

 バリケードに躍りこんできたホラントが私の頭を押し込む。同時にレーザーの嵐が私の頭上を通り過ぎる。

 

「痛えだろ!?」

「死ぬよりマシだろ!馬鹿貴族が!?」

 

そこからはバリケード越しの銃撃戦だ。

 

「うわぁ、この場面凄い既視感あるわ……」

 

具体的には某作品全体で最大の衝撃回……つーか魔術師死亡回。あれ……今私フラグ建てた?

 

「もう少しだ!押し込め!!」

 

ある海賊がそう叫びながら防盾を構えて突進する。

 

「ちぃ!!」

 

 ホラントのブラスターライフルが火を噴くが対レーザーコーティングの成された盾に弾かれる。

 

「うおおお!!!」

 

 バリケードに乗り掛かり海賊は盾を捨ててトマホークを振りかざす。

 

「……!!」

 

 ホラントは頭を伏せる事でそれを回避し、ブラスターライフルの銃底を逆にその頭に叩きつける。怯んだ所に近距離から胸に一撃をくれてやる。

 

だが、次の瞬間ホラント自身が頭部に衝撃を受ける。

 

「ぐっ……!?」

 

 撃ち殺された者の後ろにいた新手が持っていたブラスターライフルで正に先程のホラント同様に殴りつけてきたのだ。

 

 額から流血してよろめくホラントに向け海賊はブラスターライフルの銃口を向け残虐な笑みを浮かべ引き金を引く。

 

「ちぃ……!!この餓鬼が!!?」

 

 撃たれる直前に銃口を掴み上に向ける事で辛うじて射殺されるのを防ぐホラント。だが、このままでは寿命が数十秒伸びる程度でしかない。

 

 そのまま揉み合いになる二人……が、ホラントの体力は既に疲労し尽くしておりすぐに押される。

 

 海賊は腰のナイフを抜きホラントの喉元に突き立てる。それを寸前の所で受け止める状況。

 

「ホラント……!?くっ……!?」

 

 アレクセイはホラントを助けようにもほかの海賊相手に精一杯だ。ベアトもまた最後の悪あがきで向かって来る海賊に室内の投擲出来るものは何でも投げつけていた。即ち……。

 

「……私が殺るしかない、よな?」

「あがっ……!?」

 

 ホラントを襲っていた海賊が小さい悲鳴と共に息絶える。

 

 ホラントが、倒れこむ海賊をどける。そして……ブラスターを手に持つ私を見た。

 

 私は、ホラントの危機に、バリケードに乗り掛かり死んだ海賊の腰にあったブラスターを拝借した。そして震える手で、ホラントにも当たらないように狙いをつけて……引き金を引いた。そして次の瞬間には呆気なく海賊は死んでいた。

 

暫し私とホラントの間に沈黙が支配する。

 

「あっ……」

 

 次の瞬間、私に雷を打たれたかのような衝撃が走る。同時に胸に焼けるような痛み。

 

「………?」

 

 私は、痛みの疼く場所に手をやる。……触れた手は真っ赤だった。

 

「………はは、マジかよ」

 

次の瞬間、私は生温かい何かを吐き出した。

 

「若様っ………!!?」

 

 どこからかベアトの声が聞こえた。それに対して、しかし私は一切の返答の余裕は無かった。

 

 激痛からか、動悸と吐き気が私を襲う。……ブラスターの傷は実弾より痛みは少ないと聞いていたが、何だよこれ。普通に死ぬ程痛えじゃねぇか。

 

膝をついて私はそのまま倒れこむ。再び血液を嘔吐。

 

 視界がぼやけ、耳が遠くなる。……あ、これ普通にヤバいな。

 

 次の瞬間、視界の端から多数の人影が現れる。同盟宇宙軍陸戦隊の姿だった。プロ染みた動きでブラスターライフルを発砲しながら海賊を制圧していく。……遅えよ、税金泥棒め。

 

「……!!?………!!」

 

 ベアトが見えた。何か騒ぎながらこちらに向かうのを装甲服の集団に止められていた。

 

どんどんぼやけて行く視界の中で私は周囲を見やる。

 

 アレクセイは……無事か。ホラントも怪我を負っているが大丈夫そうだ。ダセェ……私だけ重傷かよ。

 

 急いでこちらに駆け寄る陸戦隊員、何か話し掛ける。わるいけど耳聞こえねぇよ。あ、これ……本当にヤバい。眠くなってきた。あぁ、糞。これは駄目かも知れないな………。

 

 ああ……本当、死亡フラグしか無い世界だよ。クソッタレめ。

 

 そして、私は睡魔に襲われそのまま意識を失ったのだった………。

 

 

 

 

 

 

 

 


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