帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第十七話 ハイネセンもきっと自分の名前を星に付けられて恥ずかしいと思う

 バーラト星系、アーレ・ハイネセンに率いられたアルタイル星系の強制労働者の子孫が半世紀の時間と半数以上の犠牲(実は殆どは老衰だったりする。物資の節約のため出産抑制したため人口が減っただけなのは言ってはいけない秘密だ)の果てにたどり着いた「約束の地」である。

 

 サジタリウス腕と130億の人口を支配する星間連合国家『自由惑星同盟』の首都星系に相応しくバーラト星系の活気と繁栄は驚嘆の一言だ。

 

 特に栄える第4惑星ハイネセンは言わずと知れた同盟首都星だ。極めて安定した居住可能惑星であり10億人もの人口を有する銀河第3の人口を有する惑星でもある。

 

その地表に築かれた都市もまた圧巻の一言だ。

 

 ルデディア市は惑星第3の都市、同盟中の大企業本社と銀河第2位の金融センターを有する経済の中心地である。スパルタ市は統合作戦本部ビルを始めとした軍の最重要施設が軒を連ねる軍都、南大陸の芸術の都ヌーベル・パレには地球・銀河連邦・銀河帝国・自由惑星同盟の歴史的芸術作品が鎮座し、その種類と華やかさはオーディンのリヒャルト1世帝立美術館に匹敵する。ハイネセン最古の都市ノアポリスは古都にして観光名所、学園都市パルテノン・シティは国立自治大学を始めとした有名大学が軒を連ねる学問の都だ。

 

 そして惑星ハイネセンの星都、ハイネセンポリスは正に国家機能の心臓部である。

 

 人口3500万に及ぶこのメガロポリスには最高評議会ビル、各行政庁舎ビル、同盟最高裁判所といった行政の中心である第1区を始め全27の区画が放射線上に設けられた計画都市である。歓楽街、ビジネス街、飲食街、工業街、電気街、高級住宅街……サジタリウス腕の政治と金融、物流、ファッション、メディア、ありとあらゆる方面の最先端の情報の発信地である。「ハイネセンポリスは世界の半分」、と言ったのは同盟出身のフェザーン商人にして第3代自治領主ユーリ・ハミルトンだったかな(残りの半分はフェザーンだそうだ。おいオーディンの立場……)?

 

「で、今まさにそこに降りようと言うわけだが……」

「大丈夫ですか、若様……?」

 

 ダース単位のワープによりベッドの上で死にかけていた私は、ベアトに支えられながら艦橋の貴賓席に腰を据える。

 

「若様、御安心くだされ。後は大気圏への突入のみで御座います。これ以上は御気分を害するような事は無いでしょう」

 

 亡命軍宇宙軍、人員輸送船「ラーゲンⅣ」艦長エメリッヒ・フォン・ウルムドルフ少佐が微笑みながら私を安堵させようと説明する。従士ウルムドルフ家の軍人、御歳68歳の白髪のじいさんだ。座右の銘は「生涯現役」、良い歳なんだから無茶しないで……。

 

「うー、よりによって何で代表なのかなぁ……?」

 

 そもそもなんで私が艦橋に座っているかというと私が受験生代表として引率者役だからだ。うん、伯爵家の跡取りですからね。先導者たる門閥貴族として航海の責任があるのだ。生徒として艦長の指導下にいるのに伯爵家の跡取りとして艦長の上にいて航海の責任を取るらしいですよ?何これ意味わかんない。事故ったら?艦長の責任で自決するよ?無事終わったら?選ばれし門閥貴族たる私の功績らしいですよ?ははは、毎度思うが平民や下級貴族に刺されないのが不思議だぜ!!

 

「若様……」

 

 ベアトの耳打ち。それを伝えられ視線を移動すればそこには亡命軍広報部の兵士がカメラを向ける。私の背後には照明を持った兵士。私は死にそうな顔を涼しげに誤魔化し頬杖し、足を組む。え、格好つけるな?いや、目の前のカンペに書いてあるんだもん。

 

 パシャパシャとフラッシュが眩しいなぁ。きっと明日の亡命軍ネット広報記事に出るんだろうな、と私は遠い目をして考える。文章の中身に到っては考えたくもない。

 

「まぁ、そう言わずに。若様は伯爵家の長子として堂々としていただけば良いのですから~。さささ、御帽子が御ずれしておりますのでこの不肖レーヴェンハルト軍曹、御直しさせ……」

「ベアト~?」

「はい、直ちに」

 

 私の目の前に現れた劣悪遺伝子排除法適用対象者をベアトが速やかに私の視界から排除する。

 

「ちょっ……ギブギブ!ベアトちゃん?うぐぐぐ……お姉さんの関節が抜けちゃう……!?」

「御許しください。レーヴェンハルト軍曹。若様の御命令は従士の命に優先致しますので」

 

 悲鳴を上げる軍曹を床に押し付け淡々と関節技を実行するベアト。容赦の言葉は無いらしい。

 

 え、レーヴェンハルト軍曹が何でここにいるか?護衛部隊の一員として乗り込んでいるのだよ。パランティアの一件以来亡命軍上層部は随分と神経質になったようで要人輸送等の護衛を増やしている。今回も輸送船一隻に対して帝国軍型戦艦12隻の護衛が警護を固めていた。おかげで先行く先で目撃した民間船がパニクったり通報受けた同盟軍が迎撃に出たりと大変だった。特にレサヴィク星系の警備隊との交渉が大変だった。軍使役のマスカーニ大尉とか言う人相当疲れた顔していたし。なんかすみません。

 

 まぁ、同盟領のド真ん中で帝国軍艦艇を見ればこうもなろう。ちゃんと敵味方識別信号出ているよな?それとも出ていても欺瞞かもと思うのかね?

 

「一応聞くがさっき何しようとしていた?」

 

私は冷たい表情で軍曹に尋ねる。

 

「若様の御帽子を……」

「主家の長子として命じる。本音を言え」

「はい、若様は可愛いからこのまま座位でもいけるかと……」

「……一層清々しいな。やれ」

「はい」

 

私の命令と同時に年下食いが獣に近い悲鳴を上げる。

 

「さてと……艦長あれ、こっち撃ってこないよな?」

 

悲鳴をBGMにして私は一応先導者としての仕事をする。

 

「は、航路局からも確認を取りましたので御安心くだされ」

「そうは言うがなぁ……」

 

 輸送船がハイネセン衛星軌道を回る人工衛星のすぐ隣を通る。鏡のような表面装甲は恒星の光を反射して虹色に輝いていた。

 

「……案外、でかいんだな。あれ」

 

 ちらりと横目で見る全長1キロ近いそれの名は俗に「アルテミスの首飾り」と呼ばれている。

 

 帝国領遠征派だったコープ中将がパランティアで戦死した後、遠征用に積み立てられた予算を官僚的思考で使いきるために建設されたのがハイネセンを守る12個の無人防衛衛星だ。

 

 尤も、裏の理由として第2次ティアマト会戦の結果、帝国の脅威減少による旧銀河連邦植民地の分離独立や内戦に備えたものだという暗い噂もあるが……。

 

 さて、ハイネセンポリス港湾部の人工島に建設された民間のハイネセン宇宙港には流石に戦艦を入港させる訳には行かないため大気圏突入するのは輸送船のみである(軍事宇宙港はスパルタ市に置かれている)。

 

 大気圏を突破した輸送船がハイネセン民間宇宙港に辿り着く。帝国系のデザインの輸送船と言う事で職員や一般客が物珍しそうに見ている事だろう。尤も、大半の人々はフェザーン商人が帝国軍から盗んだか買った物と思うだろうが。いえ、これは血みどろの白兵戦の果てに亡命軍陸戦隊が占拠した奴です。

 

「よくぞ、おいで下さいました。私はハイネセン亡命者相互扶助会のエーリッヒ・フォン・シュテッケルです。ティルピッツ殿、どうぞ宜しくお願い致します」

 

 引率の教官と共に100名を超える生徒を引き連れた私が宇宙港を出ると20代前半だろうか、スーツを着た若いはつらつとした男性が佇み、自己紹介をした。

 

「ヴォルター・フォン・ティルピッツだ。受験期間中は宜しく頼む」

 

 私は貴族として相手に頼みこむ。え、敬語使え?相手は帝国騎士だからね。仕方ないね。

 

「はっ、それではこちらに車を用意しております。どうぞ」

 

 微笑みながら案内する先には黒塗りの乗用車とバスの車列。周囲にはいかついグラサンに黒スーツの護衛が佇む。

 

 ……いや、別にそちらの方の御兄さんじゃないよ?亡命軍の兵士だよ?ハイネセンで戦闘服着て市街地に出る訳にはいかないからね。仕方ないね。

 

 生徒をバスに誘導し、私自身はベアトを従卒につけてシュテッケル氏と共にリムジン風の車に乗車する。

 

「申し訳御座いません。近年は予算不足でして……手狭ですが御容赦下さい」

 

 社内で向き合うように座るシュテッケル氏が済まなそうに語る。

 

「いや、別に気にしていないから構わんよ」

 

 ……いや、広いよ。中に使用人が控えているのにまだスペースに余裕あるとか。無駄にインテリア凝っているし、テレビモニターとカクテルキャビネットが当然にあるんだよね。

 

「御寛大な対応ありがとうございます。……領事館までは1時間程になります。その間どうぞ御寛ぎ下さい。可能な限りご要望にお応え出来るよう対処致します」

 

 貴族らしい完璧な所作で礼をするシュテッケル氏だった。

 

「あ、そう。じゃあ取り敢えずこいつ摘まみだして?」

「ちょっ……若様、冗談はほどほどに……ちょっ…シュテッケルさん窓開けないでください……落ち……マジすみま……!?」

 

 なぜか同席しているレーヴェンハルト軍曹がシュテッケル氏と格闘している所を尻目に外の風景を見る事にする私だった。

 

「これがハイネセンポリスか……」

 

宇宙港と市街を繋ぐ全長2キロに及ぶ鉄橋を走破するとそこは文字通りの摩天楼だ。

 

 帝国風の赤煉瓦の屋根や大理石、木造の屋敷ばかり見てきた身としては近代的ビル街がとても懐かしく思えた。立体モニターの看板、テレビモニターがCMを垂れ流し、地上では大量の車が行きかい、スクランブル交差点にはビジネススーツを着た男性や日傘を指したマダム、学生の群れがお喋りしながら繁華街を回り、極稀に奇抜過ぎる服装の通行人もいた。尤も、帝国的感性ではこういった街並みは混沌として、雑多過ぎる、不健全文化の極みに思えるだろうが。実際ベアトが不快そうな表情で外を見ていた。

 

 当然ながら向こうの同盟人達もこちらを見て似たような事を考えているだろう。黒服黒塗りの車の群れ、まるで機械のように表情を表に出さない(同盟人基準、帝国人にとっては普通にしているつもりだ)姿は気味が悪かろう。実際今隣の車の窓から子供がこっちを見ていた。手を振ったら怖がって隠れたよ。……悲しいなぁ。

 

 1時間ばかり走行するとハイネセン郊外に出る。高級住宅街である第17区(メイプルヒルとも呼ばれている)を抜けた先の第21区……そこに入ると同時に街並みが変わった。赤煉瓦の屋根に、帝国語表記の看板、街を歩く住民の服装は古風なものに変化していた。

 

 第21区……別名シェーネベルク区は惑星ハイネセンにおける最大の亡命者街だ。

 

「ティルピッツ様、御着き致しました」

 

老運転手が豪奢な屋敷の門前で車を停める。

 

「ああ、ありがとう。シュテッケルさん、もういいですよ。ありがとう」

 

 1時間以上に渡りもみ合いをしていたシュテッケルさんにそう言って車を降りる。同乗していた使用人が恭しく車の扉を開けてくれた。感謝の言葉は言いたいが言えない。それが当然の事だからだ。

 

「よーし、集合しろよー」

 

 同じように停車していたバスから降りる受験者達が整列していく。流石幼年学校生徒だ。あっという間に並んで見せる。

 

「若様……」

「ん、分かっているよ」

 

さて、嫌だがこれが引率者としての最後の仕事だ。

 

 懐から古風な手紙を取り出すと門前の執事に上から目線で渡す。恭しく執事が受けとると優美な所作で手紙を拝見、読み終えると共に懐からベルを取り出す。

 

おう、様式美だな。

 

ベルを鳴らしながら執事は叫んだ。

 

「ティルピッツ伯爵家長子、ヴォルター様及びその随行人の御入来で御座います!」

 

大声で叫ぶな。恥ずかしい!

 

 こうして私達はクレーフェ侯爵邸兼ハイネセン亡命者相互扶助会本部に入場したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








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