帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

176 / 199
今回はちゃんと出番のある再従妹のイラストです。


【挿絵表示】



【挿絵表示】



【挿絵表示】





第百六十八話 門閥貴族「貴様はこれまで取ったマウントの数を覚えているのか?」(キャラ画像あり)

 宇宙暦791年の九月上旬頃より、自由惑星同盟軍は五回目の要塞攻略に向けた下準備を開始した。即ち、国境地帯における帝国軍偵察衛星・通信基地・哨戒部隊等によって構成される多重早期警戒網の破壊工作及びハラスメント攻撃である。

 

 国境に置かれた四つの軍管区及びシャンプールの第二方面軍司令部は宇宙艦隊司令本部及び地上軍総監部より直轄部隊を派遣され、各軍管区及び第二方面軍司令部の部隊と共同で作戦を開始する。

 

 目標となる星系はシャンダルーア星系にアルトミュール星系、ダゴン星系等全三三星系、大軍を動かせば帝国軍により作戦の意図を気取られる。それ故、選抜された少数の精鋭が縦横無尽に遊撃戦を行う。

 

 恐らくではあるが、原作で中尉となった金髪の孺子の大立回りの舞台となるハーメルンⅡが遭遇した戦闘は、この同盟軍の軍事行動であったと思われる。待ち伏せして帝国軍哨戒部隊を削り取っていこうとしたのだろう。

 

 私としてはここで獅子帝を仕留める事が出来れば最高なのだが……残念ながら私は遠征軍総司令部勤務であり、アルトミュール星系での軍事活動を担当する第一〇九独立戦隊司令部に足を運ぶ事は出来ないし、足を運んだ所で百戦錬磨の戦隊司令官マルコ・パストーレ准将に命令を下す如何なる権利も無かった。

 

 そもそも、既に私のせいで孺子の最初の勤務先が変わっているのだ。となれば今回もアルトミュール星系の哨戒任務に参加しているとは限らなかった。というか確実に参加してなかった。えっ?何で分かるか?

 

 九月中に第一〇九独立戦隊は一一回の軍事行動を実施し、偵察衛星二一基、地上通信基地二つ、哨戒艦艇三〇隻を撃沈し、六隻を降伏させた。捕虜の総数は一〇〇〇名近い。その投降させた艦艇の中に『ハーメルンⅡ』という名前があり、私は大急ぎで捕虜のファイルに目を通したのだが………。

 

 

 

「何でいねぇんだよ、糞ったれが……!!」

 

 ソファーの上で足を組み頬杖をする私はその事実を思い出すと同時に苦々しげに呟いた。残念ながら『ハーメルンⅡ』の乗員名簿にはラインハルト・フォン・ミューゼルという名も、ジークフリード・キルヒアイスという名も存在しなかった。念のために全員の顔写真を確認し、諦めきれず他の船の捕虜のデータも閲覧したのだが……見事に空振りだった。超光速通信で二人の存在を知っていそうな数名に事情聴取をしたが結果は同様、どうやら奴らの勤務先は原作とは違うようだ。ふざけやがって……!!

 

「……はぁ、悩んでも仕方ないか」

 

 怒りを吐き出すように深呼吸をして、私は苛立ちを沈静化させる。現実は受け入れるしかないのだから。

 

 カプチェランカが空振りした時点で覚悟はしていた。寧ろここは前向きに考えるべきだろう。確かにアルトミュール星系で奴らを仕止める事は出来なかった、だが態態現地に向かって無駄な時間を浪費せずに済んだとでも考えよう。

 

 その代わりにイゼルローン要塞攻略作戦に関われるのだから結果として満足するべきであろう。原作における影響力、そして私が昇進する上でのキャリアのためにも遠征軍総司令部勤務は喜ぶべき事の筈だ。そうとでも思わなければやってられない。

 

「……さて、それはそうとシルヴィア。お前さん、いつまで人の顔を蔑むような目付きで見ていやがる。親戚のお兄さんに失礼過ぎるとは思わないか?」

「ちぃーす、糞従兄!凄い難しそうな顔してたけど自分の罪を数えてた?もし覚悟決めたんなら私が切腹の介錯してあげよっか?」

「罪のない人生なぞ、香辛料を使わない料理のように味気ないとは思わないかな?」

「ははは、チョーウケる。恰好つける余裕なんてあんの、従兄?」

 

 宇宙暦791年一〇月二二日の昼頃、忙しい作戦会議が続く中でどうにか有休を捻じ込んで顔を見せた私に対して笑顔で容赦ない現実を叩きつけてくれる従妹であった。止めろ、その言葉は私に効く……。

 

「シルヴィア、流石に口が過ぎますわよ。再従兄様、御機嫌麗しゅう御座いますわ」

 

 シルヴィアの後を追うように広間に入室してきたユトレヒト子爵家の長女は、従妹よりも遥かに常識人だった。フォーマルなドレスを着た彼女はスカートの先を摘まみ上げ、宮廷儀礼に基づいて目上の親族に礼を尽くした優美な挨拶を述べる。うんうん、良い娘には後でお小遣い上げちゃうね。再従兄ちゃんは味方になってくれる家族がいて嬉しいよ。

 

「いえ、まぁ流石に再従兄様のやり口は酷過ぎるとは思いますが……」

「ははっ、ですよねぇ!」

 

 視線を逸らして困り顔で答えるディアナ嬢に私は諦めたように叫ぶ。うん、知ってた!流石にあのやり口は酷いよなぁ!

 

 クレーフェ侯の御屋敷にて合流した彼女達が糾弾した内容が私の婚約者に向けた仕打ちの数々なのは明らかだった。おう、流石に情で縛って油断させてからのファーストキス略奪、家主様連れての帰還は酷過ぎるよな!傷物にして返品出来なくなってからのこのマウントだもんな!完全に銀河帝国の卑の意志が為せる所業だよ!門閥貴族の卑劣な策略だよ!

 

「流石にアレはないわぁ。そもそもこれまでの所業すら結構ギリギリアウトだったのに、あのタイミングでナウガルトの女なんか連れて来るとか完全に擁護出来ないわぁ。狙ってんの?鬼畜過ぎない?女ならいくらでもいるっしょ?何で態態地雷だけ踏みにいくの?マジあり得なくない?」

 

 最早塵を見るような目付きで私を詰る従妹である。止めてっ!従兄ちゃんのライフはもうゼロよっ!

 

「御願いだから死体蹴りは止めてくれよ……。そういうお前達だってどうなんだ?この前プライベートビーチで写真撮られて騒ぎになってたが大丈夫か?」

 

 私は話題逸らしと共に反撃に移る。ハイネセン記念大学の夏期休暇中にハイネセン西大陸のプライベートビーチで過ごしていた従妹達が水着姿を激写されてゴシップ誌に掲載されたのは記憶に新しい。プライベートビーチ自体は一応ガチガチに警備されていたのだが……やはりアルレスハイム方面の戦闘でハイネセンの警備要員が不足していたのが不味かった。相手のパパラッチが元フェザーン警備隊の特殊部隊出身なのも理由だろう。というか何故特殊部隊からパパラッチに転職を……?

 

 ビーチに設けられたパラソル付きのテーブル、そこで向かい合って食事しながらお喋りしている時を捉えたのだろう写真は、再従妹の方こそ水着の上に上着をかけていたので然程素肌が見えなかったが、従妹の方は水色のビキニにパレオ姿なのでまぁ、大事な所は兎も角深い谷間なり太股なりが完全に丸見えだった。

 

 因みに記事の内容はアルレスハイム方面で多くの兵士が犠牲となり、平民が徴兵と増税に苦しむ中でハイネセンに逃げ込んだ貴族達がどんな贅沢三昧をしているのか、という実態を探り糾弾する内容だったのだが……他の貴族達の記事もあったが特に従妹の写真がネットでお祭り状態になっていた。理由?そりゃあアイドル顔負けの美女の水着姿だからねぇ。

 

 取り敢えず亡命政府やヴァイマール伯爵家、その本家筋たる我が家がブチキレたのは言うまでもない。出版された雑誌の買い占めと焚書、ネットに流出した画像は削除しまくった。一部民間の個人用パソコンへの不正ハッキングとデータ削除、出版社の建物へ謎の武装集団がバズーカ砲を撃ち込んだ凶悪事件(死亡者はいないものの大量の資料喪失)が発生したのは偶然と思いたい。パパラッチ?送り込んだアサシン達からギリギリ逃げて行方眩ましてるってよ。何でそんだけの技量あってパパラッチなんかやっているんですかねぇ?

 

 当然ながらどれもこれも超法規的な行動である。同盟警察が頭を抱えたのは言うまでもない。明確な犯罪行為を無視すれば世論から突き上げを食らうし、だからといって調査なり起訴すれば亡命政府がマジギレしかねなかった。事態の収拾をさせられた上層部の苦労が忍ばれる。

 

「えー、見て見てよ。上手く撮れてるっしょ?結構可愛いじゃん!」

「シルヴィア、それ再従兄様に見せるの止めて下さい!」

 

 私の前でその件のゴシップ誌を開いて写真のページを見せる従妹、ディアナの方は然程露出している訳ではないが、それでも恥ずかしいのか顔を真っ赤にして従姉妹に蛮行を行うのを止めるように叫ぶ。というかこの従妹、自分の水着姿晒されてるのに良く平気な顔してるな。

 

「下着なら兎も角水着だしねぇ、それにネットだと結構大人気じゃん」

「ポジティブなのは良いが婚約者が良い顔しないだろう?」

「大丈夫大丈夫、あいつ性格ちょろいから。嘘泣きしてもうお嫁に行けないっ!て電話越しに言ったら『一生君を離さないっ!』って叫んでさぁ。いやぁ、正直笑い堪えるのに苦労したわぁ」

「うわっ!性格悪っ!!」

 

 この小娘、新無憂宮でもないのにこれ程の卑遁を……信じられん!

 

 ……冗談抜きで正直な話、ハーゼングレーバー子爵のお孫さんに私は心底同情した。こんな小娘と何十年も連れ添う事になるとか罰ゲームかよ。

 

「従兄、それブーメランしてるんですけど?そもそも、私達がまだ結婚出来ないのは色々理由はあるけど、地味に従兄にも責任があるんだからね!」

 

 もう!と頬を膨らませて拗ねる従妹である。子供か。いや、まぁ言いたい事は分かるがなぁ……。

 

 シルヴィアもディアナも、共に今年二一歳を迎えた身であるが未だに結婚をしていなかった。正確には出来なかったというべきか。

 

 今年の三月には帝国軍が来寇しており、あわや本土決戦まで亡命政府は覚悟していたのだ。当然結婚をしようにも式を行う時間も予算もないし、それをクリアしたとしても参列者がいない。

 

 というか、相手が典礼省に勤めているディアナの方は兎も角、シルヴィアの方の婚約者は同じ門閥貴族とは言え軍人だ。万一にも戦死する可能性を考えれば、彼女の家の立場では急いで結婚なぞするべきではなかった。仮に結婚して直ぐに夫が死んだらこの先何十年も未亡人として過ごす事になりかねない。

 

 その上に、目上の人物となる私が結婚していないのに先に結婚するのは一族の面子からして少し憚られるのも理由だった。しかも私のこれまでの仕出かしでジリジリと結婚も様子見で何度か後ろ倒しになり、止めは昨年のフェザーンからの帰国の一件だ。

 

「本当っ!ティアちゃんが可哀想だよね!!人質同然に嫁がされるのによりによってその相手が鬼畜で放蕩で外道な我らが従兄様なんだからね!あの娘、人のいない所で何度も泣いてたんだからっ!」

「うぐぐぐっ………!!?」

 

 ぐぅの音も出ない正論である。どこまで取り繕おうが究極的には私と婚約者……グラティア嬢との婚姻は援助と引き換えの人質受け渡しなのだ。

 

 無論、政略結婚の人質とは言え、必ずしも不幸になるとは限らない。そもそも大なり小なり門閥貴族の婚姻は政略的なものであるし、だからと言って一切の愛が無いかと言えば、流石にそういう訳ではない。普通は血縁関係や容姿、性格等について慎重に吟味した上で顔合わせをさせるし、可能な限り婚約期間を長く設ける事で当事者達に互いに理解し合い、どうしても不可能であれば婚約破棄をさせるための猶予を作っている。

 

 私の場合は流石に長過ぎる所があるが……それでも逆説的には本来ならば仲を深める時間が多くあったとも言える筈なのだ。……本来ならば。

 

 おう、やっぱりあの掌返しはエグ過ぎるよなぁ……。いや、別に私だって態とした訳じゃないんだが……。

 

 そう自己弁護に走るが、当然親戚の娘達にそんな言い訳が通じる筈もなく、私は冷たく非難がましい視線から目を逸らし気付かない振りをする。うん、辛いわ。コープ辺りから普段から塵を見るような目で見られているがやっぱり身内だと効果もひとしおだわな。

 

 私が溜め息をつきながら近場のソファーに力なく座りこんだのと、この劣勢の戦況を挽回し得る切り札が参戦してきたのは同時の事だった。

 

「おにいさまー?あっ!シルヴィアおねえさまにディアナおねえさまだっ!!」

 

 侍女達に扉を開いて貰いてくてくと広間に入ってきたのはこの歳六歳になる妹だった。可愛らしいフリルのドレスを着た少女は笑顔で両手を上げて親戚の姉達に駆け寄る。

 

「よーし、ナーシャ大きくなったわねぇ!にひひ、ほれほれ捕まえたぞぅ?高い高いしてやろーかっ!!」

「きゃー!!」

 

 態とらしくにやにやと笑うシルヴィア。駆け寄る妹を抱き寄せ、脇に手をやって持ち上げれば本人は楽しそうな悲鳴を上げる。

 

「あぁ!もう可愛い奴めぇ!!」

 

 純粋で素直な妹の反応に従妹は頬擦りして、額や頬に親愛を示す口づけをしていく。ナーシャもまた御返しのように従妹の頬に拙い口づけを一回行った。

 

「……ナーシャ、二人と待っていなさい。私は他の人と挨拶しにいくからね」

「はい、おにいさま!あ、おちゃかいまでおねえさまたちとあそんでいていい?」

「ああ、構わんとも。怪我したり服を汚したりしないようにな?」

「はいっ!」

 

 シルヴィアとディアナに挟まれて可愛がられながら妹は健気に答える。私は優しい笑みを浮かべて妹の質問に答えると、扉の向こう側に控える親族への応対を考えその場を後にした。

 

 極自然に広間を退出した私は、直ぐ様直立不動の姿勢で待ち構えていた人物に対して敬礼した。

 

「バルトバッフェル中将殿、ティルピッツ中将殿、御壮健で何よりで御座います!」

 

 一人はカイゼル髭を生やし背筋を伸ばした初老の紳士であり、今一人は眼鏡を掛けた強面で気難しそうな中年男性であった。共に自由惑星同盟軍の礼服で、胸元に勲章を飾り付ける。

 

 前者の官姓名を自由惑星同盟軍第六地上軍司令官アルフォンス・フォン・バルトバッフェル中将と言い、後者のそれを自由惑星同盟軍統合作戦本部情報部部長ゲルハルト・フォン・ティルピッツ中将と言った。

 

 その肩書きから分かる通り、双方共にたかが同盟軍将官の端っこに過ぎない私と違い軍中枢の大物で、同時に私の同盟軍における後ろ楯であり、亡命政府から同盟軍に送り込まれた代理人であり、何より私の親類に当たる。正確に言えば前者が私の母方の伯父に当たり、同時に次期バルトバッフェル侯爵家当主。後者は父方の再従叔父に当たり、マイドリング=ティルピッツ子爵家の当主であった。

 

「ふむ、ヴォルター君も壮健で何よりだ。それはそうと君は自由戦士勲章を授与されているのだ、先に敬礼はしなくて良いのだよ?年長者を敬うのは良いが軍規は大事なのだからね」

 

 紳士らしく髭を擦りながら甥である私に宮廷帝国語でそう優しく忠告するバルトバッフェル中将。所謂高慢で細身の優美で知識人的な要素を濃縮した伯父は、母の兄妹である事が瞬時に分かる程その言葉遣いも優雅であった。

 

「壮健、というのは少々不適切ではありませんかな、バルトバッフェル侯世子殿?……若様、義手と義眼の方の調子は如何ですかな?今日は重要な日でございます、具合が悪ければ直ぐにでも取り替えた方が宜しいかと」

 

 神経質で細かい再従叔父はバルトバッフェル中将の言葉にそう指摘し、彼なりに私の身体を労る言葉をかける。決して酷薄な人物ではないが、元々感情を表に出さない性分なのと話し方のせいでこの親族は冷たい人物のように思われがちであった。

 

「いえ、問題ありません。無論、体調の方も万全ですよ。流石に御二人も来てもらうとなれば私としても健康には気を使います」

 

 実際、二人共その立場から見てどう考えても暇な訳がないし、亡命政府の、帰還派の大物軍人である。幾ら親族とは言えそんな二人に父の代わりとして来て貰うともなれば、私も当日に寝込んだりしないように健康に最大限気を使う。彼らはそう気楽に休日を取れる訳もないし、取れたとして普通ならば態態休日に頼まれ事を請け負う余裕がある筈もない。その負担を思えば私も誠心誠意の態度を取るのは当然だった。

 

「それよりも母と祖母にはもうお会いになりましたか?二人とも今日の機会を心待ちにしておりましたが」

「妹にならもう会ったよ。ティルピッツ伯のようにとは行かぬが伯父として役割はきちんと果たすようにと念押しされたね。やれやれ、ツェツィはまだ不満があるようだね。あの子らしくはあるが……」

 

 困り顔で苦笑するバルトバッフェル中将。母の兄であるこの伯父は、妹がどれだけ頑固な性格をしているのか良く知っているようだった。

 

「困りましたな。確かに睨みを利かせるのは良いのですが、限度があります。如何に卑しい血が混ざっていようともそれをネタにいびり過ぎられては、それはそれで彼方の家の権威が堕ち切ってしまいますからな。それでは婚姻を結んだ意味がない」

 

 ティルピッツ中将も渋い表情を浮かべる。確かに下賤の血が幾分か混じっているのが不満なのは分かるが、今の宮廷の序列と秩序が乱れる方が余程亡命政府には問題だ。だからこそ婚姻で梃入れしようというのに伯爵夫人は全体の利益よりも身内のみの都合を優先し過ぎて困る……という訳だ。当然、再従叔父も彼方側の血が下賤だという前提条件は一切否定する積もりはないようだった。

 

「前代のケッテラー伯も困ったものですな。気に入った娘なぞ、適当に妾にでもして飼っていれば良かったものを。全く、悪い意味でアムレート殿の影響を受けたからねぇ」

「ローラント殿はアムレート様の後輩でしたからな。ある意味、宮廷から見れば尻拭いなのかも知れませんが……」

「あー、それはそうと御二人方の都合がついて幸いでした。私も統合作戦本部で仕事をしているとちらほらと噂を聞きますので。次の人事異動で異動されるとか?」

 

 私は会話が不穏な方向に向かいそうな事を本能的に察してそう話題を逸らす。幼少期時代からちらほらと噂で前ティルピッツ伯……即ち祖父の代に面倒事があったらしいのは知っているし、祖父と父の兄が纏めて戦死した事に暗殺説等がある事も一応知っている。余り知りたいとも思わないし、それがどう繋がって私の婚約相手選びに関係したかも理解したくなかった。今ちらほら聞こえた内容だけで何故か覚えのない罪が増えそうだった。世の中知らない事の方が幸せな事があるって事が良く分かる。

 

 尤も、私が逸らした話題も決して適切なものとは言い難かったのだがね。

 

「ふん、蛙食い共の姑息な事よ。我々が領地を守るべく奮闘していたというのに奴ら、浅ましくも我々の足を掬いに来ておる……!」

 

 情報部部長は眼鏡をかけ直し、忌々しげに呟く。カイゼル髭の叔父も同じく不愉快そうに顔をしかめる。

 

「ハーゼングレーバー子爵もそろそろ御引退だからね。グッゲンハイム伯は悪くないポストに収まっているが、私は余り期待出来そうにない」

 

 呻くように溜め息を吐く伯父。同盟軍内部における亡命政府の立ち位置は微妙に劣勢だ。

 

 アルレスハイム方面での戦闘に亡命政府が注力している間に、溺れる犬に石を投げるかの如く他の派閥……特に長征派は軍中央で勢力を拡大した。ヴォード元帥が統合作戦本部長に昇進したのはその一環であるし、シトレ大将が近い内に宇宙艦隊副司令長官の役職から副が消えると囁かれるのも幾分かはそれが理由と言える。

 

 特に来年六月には同盟地上軍副総監でもあるハーゼングレーバー子爵が大将昇進と同時に予備役に編入される事が既に内々に決定していた。長年亡命政府出身の貴族将官達の中で中心的役割を果たして来た四人の内の一人であり、最年長の大人物である。これは痛い。更にはバルトバッフェル中将は第六地上軍司令官から水上軍総監に、ティルピッツ中将は統合作戦本部情報部部長から第五方面軍司令官にそれぞれ転任する事が半ば決定していた。

 

「左遷と言った方が適切ですがね。本当に忌々しい。特に私は兎も角、バルトバッフェル侯世子の異動は痛い」

 

 ティルピッツ中将は再度憎らし気に呟く。水上軍総監は地上軍における水上部隊の管理・育成を受け持つ部署であり決して窓際部署ではないが、番号付き地上軍の司令官に比べればやはり見劣りするのが現実だ。第五方面軍に至っては同盟軍の設ける五個方面軍の中で一番辺境というに相応しい宙域を管轄する方面軍である。何せイゼルローン回廊からバーラト星系を挟んで真反対側の宙域である。管轄領域は探索が途上のせいで航路は長大で悪路が多い、人口希薄で低開発な星系政府ばかりと来ていた。都会と言えるのは司令部が置かれるネプティス位のものだろう。

 

 因みにティルピッツ中将の現所属先は統合作戦本部情報部であるが、同盟軍、正確には同盟政府が保有する諜報機関はそれだけではない。寧ろ、諜報機関としての情報部の権限と掌握範囲は比較的狭いものだ。あくまでも統合作戦本部の情報部が把握するのは主に帝国軍との戦闘における情報収集と整理・分析であり、国外に対する軍事的なものに限定されている。

 

 国内部門においては同盟警察公安委員会が、国外の軍事的のみならず政治的な要因まで内包する分野では国防事務総局中央情報本部の方が遥かに権限も予算も、人員も豊富だ。統合作戦本部情報部はその意味では下位に置かれていると言って良い。因みにいつぞやのクレメンツ大公の御息女の回収は国防事務総局中央情報本部からのものであるし、恐らくはバグダッシュ少佐も含められた任務の性質からいってそちらの所属であると考えられた。

 

 その意味ではバルトバッフェル中将の異動よりはマシではあるが……それでも統合作戦本部の部長職から飛ばされるのは十分に左遷であるし、亡命政府から見ても痛い。

 

「来年の遠征でヴォルター君を司令部の参謀に捩じ込めたのは幸いだった。ロボスも存外使えるものだな」

「『薔薇の騎士連隊』も思いの外軍功を挙げておりますしな。雇い入れた食客共も良く戦っている。いやはや、若様の見立てには感服致しますよ」

「うむ、鑑識眼もあるし、人の使い方も随分と上手くなったものだな。伯父としても喜ばしい限りだ」

 

 そこで第五次遠征計画と私の従軍の話題となり、両中将は途端に機嫌を良さそうにする。その表情は心から喜んでいるように思えた。

 

 とは言え、私の立場からすれば余り喜べないんだがね。……特にその言葉の裏側の意味を思えば。

 

(やはりどれだけ昇進しても、功績を上げようと、血統への拘りが優先か)

 

 バルトバッフェル中将の言い様からも分かるが、二人共、ロボス中将を明確に一段下げた存在として認識していた。それはケッテラー伯爵家に対するものと同様に混ざり者に対する蔑視であった。

 

 幾ら遠縁に帝室の血が流れていようとも、所詮妾腹の上に父親は帝国貴族ですらない。無論、同盟国内にも長征派やパルメレント王家等の非帝国系王侯貴族、あるいは地元の名家等有力者は幾らでもいるし、場合によっては帝室も諸侯も婚姻を結んでいる。それでも亡命政府の中ではまるで古代中国の華夷秩序的な侮蔑意識があるのもまた事実だった。それは銀河帝国の推し進めた民族・文化的同化政策や帝王教育の齎した負の側面であり、今でも長征派を始めとした諸派閥が亡命政府を公的であれ潜在的であれ、警戒している一番の理由であった。

 

(原作ではどうだったんだろうな)

 

 この世界が原作と寸分違わぬのか、よく似たパラレルワールドなのかは分からないので完全に比較は出来ない。しかし仮に同じようにロボス中将がその血統から同盟政府と亡命政府双方から潜在的に差別されていて、アルレスハイム星系での戦いで亡命政府が大打撃を受けていたとしたら………それ以降の彼の行動は一体どのような内情からのものであったんだろうか?

 

「………」

「若様?」

 

 思考の海に沈む私を怪訝に思ってか、再従叔父は奇妙そうに私に声を掛ける。私は中将の方を向き、次いで廊下の向こう側から近寄って来る足音に視線を移す。

 

「……どうやら、着いたようですね」

 

 私は、態々そのだらしない図体を揺らし汗をかきながら客人の到来を告げるクレーフェ侯を見つめつつ、二人の親戚に向けて声をかける。

 

 ………さて、腹痛どころか胃潰瘍になりそうな時間の始まりだな?

 

 

 

 

 

 クレーフェ侯の屋敷の一角に設けられた広々とした客間にて、それは主催される事になった。

 

「あー、それでは両家共、今日は私の主催する茶会に参加してくれた事に謝意を表したい。ぶひっ……まぁ、今日は私的な催し、然程格式ばる事はせずに気軽に交流を深めていこうかの?ぶひっ!」

 

 養豚場の豚のように汗臭いクレーフェ侯が間に立ち参列する両家の者達に向けてそう申し出た。同時に侯爵は額の汗を夫人に拭いてもらい、使用人から差し出されたアイスティーをストローで飲み干していった。これを切っ掛けに双方の家が形式がかった挨拶を始めた。

 

「おおっ!これはこれは、随分と手厚い御出迎えですな。クレーフェ侯、それに伯爵家の丁重なご厚意と持て成し、痛み入りますぞ」

 

 皴枯れた声で白髪に白い髭を生やした老人は慇懃に、そして若干卑屈に頭を下げた。元ヴィレンシュタイン子爵家当主であり、今は隠居した身であるルーカス・フォン・ヴィレンシュタインである。

 

「これは大奥様、御無沙汰しておりますわ。御会いするのは御久し振りの事で御座いますね?以前御会いしたのは確か宮廷の……典礼省での事でしたでしょうか?」

 

 そう小鳥のような穏やかな声で祖母に尋ねるのは亜麻色の髪をした貴婦人だった。黒いピルボックス帽に紅色のゆったりとしたドレスを着た未亡人、ヴィレンシュタイン子爵夫人ドロテアは扇子を開いて口元を隠すとにっこりと意味深げに笑った。無論、目は笑っていなかった。続くように数名のケッテラー家分家筋の付き添い人が挨拶をしていく。

 

 帝国軍の侵攻に備え、武門貴族の男子を除く多くの貴族達がハイネセンを始めとする各地の帝国人街に疎開し、そしてヘリヤ星系での勝利で危機こそ脱したが未だに予断を許さないためにその大半が未だに領地に戻る事が叶わなかった。祖母は逆にこの機会を通じて少々拗れ気味なティルピッツ伯爵家とケッテラー伯爵家の親睦を深めるためにクレーフェ侯爵を仲介役として細やかな御茶会を主催させたのだった。

 

 とは言え、父は軍務で参加出来ないし、母は未だに不満を持って兄を連れて来るし、婚約者の祖父は兎も角母親は一物抱えていそうであって、恐らくは今日だけで関係が改善する事は無さそうだった。いや、それくらいは祖母も理解しているだろうが。

 

「あっ………。……ヘルフリート、貴方もご挨拶しましょうね?」

 

 ソファーに小さくちょこんと座る少女……私の婚約者であるグラティア・フォン・ケッテラー伯爵令嬢はまず私の顔を見ると何かを思い出したかのように気まずそうに視線を逸らした。そして、暫く黙り込むと傍らに共に座る少年を思い出したような表情を浮かべ、優しい口調でそう勧める。

 

「………」

「……ヘルフリート?」

「……ヘルフリートです。どうぞ宜しくお願い致します」

 

 少年は、一瞬私の方を若干睨み付けるような眼光で射ぬくと、しかし姉が困惑するようにもう一度名前を呼んだ時には短く、最低限の礼節で持って挨拶をする。

 

 私の婚約者の弟にして、ケッテラー伯爵家の次期当主である事を定められた亜麻色の髪の少年の名前はヘルフリート、ヘルフリート・フォン・ケッテラーと言う。歳は先月一四歳になったばかりである。

 

 故ケッテラー伯爵が第二次イゼルローン要塞攻防戦にて戦死する直前に作った……より正確に言えば戦死した時に夫人の腹の中にいた一人息子である。銀河帝国亡命政府軍幼年学校にも通っているらしく、成績はかなり上の方であると聞いていた。

 

「………」

 

 直ぐにあからさまな敵意を隠したのは歳と私の姉に行ってきた所業の数々を思えば寧ろ良く出来たと評価出来るだろう。少なくとも私はそう思った。しかしながら他者へのマウント取りと粗捜しを当然の義務とすら考える生粋の門閥貴族な身内達はそんな甘い評価はしてくれない。

 

「随分と良く躾が行き届いておりますな、子爵夫人殿?」

 

 バルトバッフェル中将の言葉はその内容とは裏腹に相手を嘲るような口調で放たれていた。子爵夫人は扇子で顔の下半分を隠したままにこりと微笑む。

 

「お褒めの御言葉有り難く頂きますわ。……伯世子殿こそそのお歳で随分と良く教育されているようで、私のような身では到底これほどの指導は出来ませんので羨ましい限りですわ」

 

 売り言葉に買い言葉であった。私がフェザーン旅行に行く直前の所業を念頭に入れたものである事は明白だった。

 

「ちっ、忌々しい淫売の雌猫共が……」

 

 舌打ちと共に放たれた言葉を聞き取れたのは私だけであり、同時に耳を疑った。傍らの椅子に座る母が慈愛の笑みを浮かべつつ扇子の影で呟いた言葉とは到底思えなかった。表情と口にした内容の落差が余りに激しすぎた。

 

 クレーフェ侯と夫人を間に挟んで出席者達は険悪な空気を纏いつつ社交辞令的な微笑みを浮かべ続ける。間の侯爵はその空気に唯でさえ多い汗を更に流し、使用人達は状況から逃避するように自らの気配を限界まで薄めていた。侯爵夫人だけがニコニコと状況を理解しているのかしていないのか怪しい笑顔で紅茶を注文していた。

 

 ……そんな余りにも重苦しい場の空気を、しかし最初に破ったのは放蕩者な私の従妹であった。

 

「ティアちゃん、おひさー!ねぇねぇ元気してた?そのドレスやっば!ちょー可愛いじゃん!写メ撮っていい?」

「シルヴィアっ!何しているのですかっ!!?」

 

 奥の方のソファーに居座っていた従妹は大人勢の険悪な空気なぞ何処吹く風とばかりにはしゃぎながら婚約者の下に駆け寄る。共にソファーで妹をあやしていたディアナは同い年の親戚の暴挙に悲鳴を上げていた。

 

「ごほん。……シルヴィア、楽しむのは結構ですがここはクレーフェ侯の御屋敷です。礼節を持って騒がないようにしなさい。分かりますね?」

 

 何事か言おうとした両家の大人勢を、しかし祖母は咳一つで黙らせた後、賑やかな笑みを浮かべてそう注意した。

 

「ちぃーす。婆ちゃん、ティアちゃんあっちに連れていって良い?」

「宜しいですとも。そうねぇ、ヴォルター?そちらの弟さんを連れて貴方も彼方にお行きなさい。妻を傍で見守るのも夫として大切な事ですよ?」

 

 顔を赤くして何か口にしようとした母を、一瞥して沈黙させた祖母は私にも場を離れるように言った。

 

「ほほほ、それは宜しいですな。いや、どうせでしたら親睦を深めるためにもいっそ御二人で別室でいても……」

「そうそう、侯爵夫人。貴女も宜しければどうでしょうか?友人のツェツィと御話ししたい事は沢山御座いますでしょうけれど……失礼ながら今は侯爵閣下を交えた仕事のお話をしたい所でしてね。御迷惑でしょうけれどその間孫達の面倒を見てやって頂けませんか?」

 

 前子爵家当主ルーカスの提案を切り捨てるように祖母はクレーフェ侯爵夫人にそう申し出る。次いでちらりと婚約者の祖父を見やる祖母の目は完全に冷たく、相手を蔑んでいた。尤も、卑屈気味に笑う老貴族にどこまで効果があるかは不明であったが。

 

「はい、構いませんよ?ツェツィちゃん、じゃあ私は子供達と一緒に彼方の方に行かせてもらいますね?」

「……えぇ、侯爵夫人、宜しくお願いしますわ」

 

 ほわほわとした口調でクレーフェ侯爵夫人は祖母の申し出を受け入れた。母は若干不満気にするが、最終的には苦虫を噛んだ表情で女学院時代の友人に懇願をする。

 

「それじゃあシルヴィアさんにヴォルター君、グラティアちゃん、後は……ヘルフリート君ね?おばさんと一緒に行きましょうか?あ、そうそう……」

 

 到底おばさん、と言えない見かけの夫人がそう催促の言葉を口にし、そして思い出したかのように夫人はグラティア嬢の右手を掴むと次いで当然のような自然な所作で私の左手も掴む。そして、まるでそれが当たり前とでもいうように私の手の上に婚約者の手を重ねる。私とグラティア嬢は同時に身体を震わせて互いを、次いで侯爵夫人を見据える。少なくとも私が夫人の方を向く瞳には困惑と非難と若干の怒りの感情が含まれていた。無論、そんなもの侯爵夫人には大して効果は無かった。

 

「うふふ、お似合いですよ?近い内に夫婦になるのですから、二人共照れたりせずに今の内に慣れましょうね?……ではシルヴィアさんとヘルフリート君はおばさんと手を繋ぎましょうか?」

「えー、私ティアちゃんが良いのにー!」

「こらこら、駄目ですよ。我儘を言われては……」

 

 不満気にする従妹を宥める侯爵夫人。そして同時に彼女の左手は余りにも自然な手つきで婚約者の弟と手を結んでいた。

 

 当の弟はその事に不本意そうで、次いで私の視線に気付くとすぐに恥ずかしそうに視線を逸らされた。弟にとっても侯爵夫人の行動は不本意なのであろうが……今目の前でヘルフリート少年を即時に降伏させ、次いで奔放なシルヴィアまで宥めすかして誘導していく侯爵夫人の姿は何処か幼稚園の園長のように思えた。

 

「えっと……」

「フロイライン、行きましょうか。妹も待っておりますし」

 

 困惑する伯爵令嬢に対して、取り敢えず私は恭しく申し出る。ここは私がエスコートするのがエチケットであったし、何よりも周囲の年長勢の注目の視線からさっさと避難したかった。

 

「……はい、そう致しましょう」

 

 婚約者も私の思惑に気付いたのか賛同の声を口にする。特に私の母の剣呑な視線が恐ろしいようで肩を震わせていた。うん、凄い分かる。

 

 そそくさに退避する私達。と、背後から声がかけられた。

 

「伯世子様」

「……何でしょうか?子爵夫人?」

 

 追撃するように私を呼ぶヴィレンシュタイン子爵夫人に私はよそよそしく答える。母や伯父殿がまだ何か文句があるのか?とばかりに子爵夫人を睨む。

 

 子爵夫人はふふふ、と怪しげな含み笑いを浮かべ母達を一瞥すると、私の方に視線を戻して思い出したかのように語りかける。

 

「風の便りですが近々……そう遠くない内に出征があると御聞きしましたが本当かしら?」

「……軍機に属する内容ですので詳しくは御伝えは出来ませんが、事実です」

 

 僅かに左手の上に震える感触を感じた。僅かに視線を動かし、しかし私は直ぐに子爵夫人に注意を向ける。子爵夫人は口元を扇子で覆い隠してにこり、と微笑み返す。

 

「少し早いですが、同じ武門貴族の家として此度も伯世子様の武運長久を御祈りさせて頂きますわ。どうぞ、御無事に、そして先祖に恥じぬ武功を立てられます事を」

「……恐縮で御座います」

 

 何処か意味深げに、そして若干威圧感のある声でそう口にする子爵夫人に対して、私は短くそう返すと逃げるように踵を返した。

 

 左手に感じる震えは、結局手を離すその瞬間まで止まる事は無かった。

 

 

 

 

 

「あー、漸く来た!従兄、ティアちゃん返して!」

「少なくとも彼女はお前のものじゃないだろ。ていうかもう取ってるし……」

 

 私がグラティア嬢と共に妹達の待つソファーの場所に来たと同時に、従妹は既に強奪するように人の婚約者を引っ張って抱き寄せていた。

 

「シルヴィア義姉様!?御戯れはお止し下さいませ……!!?」

「ふふふ~!良いではないか!良いではないか!」

 

 背中から抱きしめられて頬擦りされる婚約者は従妹の手の内で細やかな抵抗を試みるが、残念ながら従妹の前では無意味なようであった。

 

「はぁ、何てみっともない事を……」

「シルヴィアおねえさま、グラティアさまいじめてるの?」

 

 従姉妹の行為に眩暈がするように疲れた表情を浮かべるユトレヒト子爵令嬢。妹は二人の行為を見て、心配そうな表情を浮かべる。うん、やっぱり我が家の妹は天使だわ。

 

 ディアナ達を対面、クレーフェ侯爵夫人と半ば強制的に一緒に座らされた義弟(予定)が左側のソファーにいる位置に設けられた長椅子(ベルベット生地に腕掛け付き)に私は座ると若干怒気を含めて従妹を注意する。

 

「シルヴィア、遊ぶのもそこまでにしなさい。フロイラインはお前の玩具じゃないぞ」

「従兄、その言い方まるで私がお嬢様(フロイライン)じゃないみたいなんですけど?」

「お前さんはお転婆娘(ヴィントファング)……いや、精々じゃじゃ馬娘(ヴィーダーシュペンスティゲ)だろうが。お嬢様(フロイライン)と呼ばれるのは百年早いな」

「うわ!辛辣っ!!」

 

 渋々とグラティア嬢を手放した従妹は口を尖らせて私に文句を垂れるとすぐ傍のソファーに座り込み、置かれていたソファークッションを抱き枕のように、あるいは婚約者の代替品のように抱きかかえ、べーっ!と舌を出す。二〇過ぎの大人が実に呆れた行動であった。

 

「はぁはぁ……え、えっと私は……」

「グラティアさんはヴォルター君のお隣が空いているから其方に座ったらどうかしら?さぁさぁヴォルター君、グラティアちゃんが座れるように寄せて頂戴ね?」

 

 ほんわかした表情で提案するのはクレーフェ侯爵夫人であった。グラティア嬢は一瞬迷うが、周囲を見渡して空いている席が他にないのを確認すると私の方を見やる。私が位置をずらして婚約者の座れる空間を作ると申し訳なさそうに頭を下げながら彼女は横にちょこんと着席した。

 

「さぁさぁ皆さん、お昼になって小腹も空いているでしょう?折角だから食べながら御話しましょうね?」

 

 ホスト役のクレーフェ侯爵夫人がそう言えば控えていた使用人達が恭しく手前のテーブルに菓子類を中心に料理の盛られた皿を置いていく。別の使用人達は飲み物の方を入れていた。

 

「はぁ、おばさま!もう食べていい?」

「えぇ、勿論ですよ。たぁーんと食べて下さいね?」

 

 子供であるが故にすぐに空腹になるナーシャは、出された料理に目を輝かせ、クレーフェ侯爵夫人に許可を貰えばすぐに手を伸ばし始める。蜂蜜とバターとクリームたっぷりのスコーンを女中から貰い受けると心から嬉しそうな表情を浮かべ、小さな口でぱっくりと齧りつく。傍らのディアナはナプキンでそんなナーシャの口元や手の汚れを拭きながら世話をし始める。困り顔ではあったが少なくともシルヴィアの世話をするよりは楽しそうではあった。

 

「私もお腹減ってたんだよねぇ。あ、私はアイスミルクティーでお願いね?」

 

 使用人に飲み物を注文した後、キャラメルコーティングしたアーモンドスライスをまぶしたフロレンティーナを口に放り込む従妹。心底美味しそうな笑みを浮かべ、使用人からミルクティーを受け取るとその性格からは想像出来ない優美な所作で口に含み始めた。

 

「ヘルフリート君も沢山食べて下さいね?男の子は成長期ですからね、御代わりも用意してますよ?」

 

 傍らに座る少年に慈愛の笑みを浮かべてそう勧めるクレーフェ侯爵夫人。その声に一瞬身を竦ませ、次いで内容に困惑し、縋るようにヘルフリートは姉を見た。同時に私とも視線が合い、顔を僅かに歪ませる。

 

「……折角の侯爵夫人のご厚意です。失礼のないように楽しみましょうね?」

 

 少しだけ逡巡した後、グラティア嬢は弟に諭すようにそう微笑んだ。ヘルフリートはその言葉に小さく頷いた後、遠慮がちにテーブルの上の料理に手を伸ばす。サンドイッチを一切れ掴むと周囲を上目遣いで見渡してからハムスターのように一口食べ、二口食べ……と食事を始める。

 

「……フロイラインは何を御飲みになりますか?」

 

 弟の大人しく食事をする姿を暫し見つめてから、私は婚約者にそう尋ねた。グラティア嬢はびくり、と身体を一瞬震わせる。そして伺うように私の方向を向いて顔を見上げた。

 

「……そうですね。旦那様は何を御飲みになるのでしょう?」

 

 短く、しかし酷く悩んだ末に、緊張気味の顔を無理矢理笑わせたような表情を浮かべる婚約者。私はその表情の裏側に複雑に絡み合った感情が隠されている事を直感的に理解していた。

 

「そうですね。この時期のハイネセンはまだまだ暑いですから、冷たいレモンティーを頂きましょうか?同じもので宜しいですか?」

「はい、宜しくお願い致します」

 

 私は彼女の意思を尊重して敢えて同じもので良いかと確認だけをした。使用人が恭しくグラスに紅茶を注ぎ、砂糖とレモン汁を加えて、差し出した。

 

「……そういや従兄ってさ。次いつ仕事の休暇取れんの?」

 

 私とグラティア嬢の会話を詰まらなそうに見ていた従妹がぶっきらぼうに私に尋ねる。それはどこか私を非難する言い方のように思えた。いや、事実非難しているのだろう。

 

「いつって言ってもな……。余り部外者に口外出来ないからはっきりとは言えないけど、来年の五月一杯位までは忙しくなる事はあってもその逆は無いんじゃないかな?」

「何それ、最悪じゃん。気が利かなすぎない?」

 

 私の返答に心底失望したかのように吐き捨てる従妹。その理由については大体予想はついていた。シルヴィアは婚約者の事を良く可愛がっているし、私と婚約者の関係が微妙なのも良く理解していたのだから。

 

「おにいさま、またおしごといっちゃうの?」

 

 スコーンを食べていた妹が会話を聞いて寂しそうな表情を浮かべる。妹もハイネセンに来て随分慣れて来た所であるし、母は無論、祖母や他の親戚、使用人や友人がいるために我慢出来ているが、父とはかなり長く会っていなかった。その分幾分打ち解けた兄である私がいる時は甘えてくれるのだが……逆に私がいなくなる事に不安を抱いているようだつた。

 

「家に帰らない位忙しくなるのはもっと後だからね。今はまだまだ大丈夫だよ」

 

 私はそんな妹を宥め、安心させるようにそう答えるのだが……。

 

「こんどのおしごとはけがしない?」

「……ああ、大丈夫だよ。多分」

 

 心底心配そうに尋ねる妹の言葉に私は若干表情を引き攣らせながら答える。おう、帰って来る度に腕なくなったり、目玉潰れている兄貴なんて軽くホラーだもんね、仕方ないね!

 

「ほんと?」

「本当だとも。嘘だと思うのなら指切りしようか?」

「うん、する!」

 

 ディアナが口元を拭いているのも忘れてぱっと立ち上がり、テーブルを迂回しててくてくと私の下にナーシャがやって来る。そして小さな小指を差し出して来た。

 

「ゆーびきーりげんまんうそついたらはりせんぼんのーます!ゆびきった!」

 

 小指を交えながら御機嫌そうに指切りの掛け声を口にするナーシャ。うん、可愛い。指切りの掛け声の内容は物騒だけど。これ絶対意味理解していないよなぁ……。

 

「ねぇねぇ、グラティアさまもしんぱいならゆびきりする?」

「えっ……?」

 

 私と指切りして満足そうな笑みを浮かべた妹が隣に座るグラティア嬢を見て尋ねる。不意打ちだったのだろう、グラティア嬢は驚いたように小さく声を上げる。

 

「い、いえ。私は……以前も思いましたが旦那様はアナスターシアさんととても仲が宜しいのですね?」

 

 少し動揺して、次いで話題を逸らすようにグラティア嬢はそう尋ねた。

 

「うん、おにいさまとね、ナーシャはね、とってもなかがいいの!」

 

 にこにこと笑いながら私の足に抱き着いて答える妹。糞、天使かよ。……いや、少し前まで寧ろ怖がられていたんですけどね?子供は昔の事なんてすぐに忘れるからなぁ。

 

「……グラティア嬢こそ、弟さんとは大変仲良さそうですね?」

 

 話題に出されたヘルフリートが侯爵夫人から勧められたパイを食べるのを止めて、此方を若干警戒気味に見ているのが分かった。

 

「そう……見えますか?」

「ええ、弟さんの事を良く見ていましたから」

「その……弟は少しやんちゃな所があるので……」

「男の子はそんなものですよ。私も人の事は言えません」

 

 恥ずかしそうに答えるグラティア嬢に対して私は擁護するように答える。そして視線を侯爵夫人の傍らに座る少年に移す。

「確かヘルフリート君は、幼年学校に通っているのだったかな?」

「はい、幼年学校四年生であります」

 

 私の質問に軍人的かつ義務的な形で答えるヘルフリート。

 

「別にここは学校でなければ基地でもない。もっと柔らかい言い方で良いよ?」

「いえ、ティルピッツ准将も軍人でありますし、軍服を着ていない時でも規律は守るべきかと」

「そ、そうか………」

 

 私の進言は義務的に却下された。うん、内容は間違ってはいないけどさぁ………いや、まぁ立場的にも階級的にも格上なマウント取り野郎相手に気楽に話そうなんて言われて信用する奴なんているわけないだろうけどね?

 

 明らかにヘルフリートは此方に対して形式を盾に壁を作っていた。いや、警戒しているのかな?まぁ、それはそれで構わないのだが。

 

「話は聞いているよ。かなり成績優秀な生徒だとか。羨ましい限りだよ。私は中々微妙な成績だったからね」

 

 私は自分の幼年学校時代を思い出しながらそう口にする。アレクセイやホーランドは当然としてベアトにも普通に負けていた。全体としては辛うじて上の下に食い付けた、といった所かな?

 

「御謙遜でしょうか?」

「事実だよ。幼年学校を卒業した後の進路は決めているのかな?」

 

 若干、本当に若干棘のあるヘルフリートの返答に苦笑しつつ、私は尋ねる。幼年学校を卒業した後はそのまま准尉として任官するか、同盟軍ないし亡命政府軍の士官学校に入学するか、珍しいが全く別の方向の学校に進学すると言う手もある。

 

「同盟軍士官学校に進学するのを目標としています」

 

 義理の弟になる予定の少年が口にした答えは若干意外だった。私としては亡命政府軍士官学校に進学する可能性が一番ありそうだと思っていたからだ。

 

「そうか。同盟軍の士官学校は入学するのは難しいし、その後も厳しいぞ?覚悟しなさい」

「従兄が言っても説得力なくない?」

「おいシルヴィア、横から茶々入れるな」

 

 私でも入学出来て卒業出来た、と言われると急に同盟軍士官学校の格式が落ちる気がしないわけでもない。いやいや私だって結構真面目に、死ぬ気で食らいついていたんだぞ?

 

「あー、まぁ人の目標に口を挟む資格なぞないからあれこれ言う訳には行かないが……。彼方の士官学校は同胞以外も多いからな。勝手や常識が多少変わっているから注意しなさい。ちょっとした擦れ違いが大事になって退学なんて事になったら笑えないからな」

 

 どの口が言っているんだか、等とシルヴィアのいる方向から小さな小言が聞こえたのは無視しておく。ブーメランなのは分かっているが、だからと言って言わない訳にも行かないだろう?

 

「……御忠告、感謝致します」

 

 本当に僅かに不快そうに表情を動かして、しかし直ぐにそれを打ち消したしおらしい態度でヘルフリートは謝意を述べる。これは警戒されているかな……?

 

「ふふふ、士官学校に入学するのならまたヘルフリート君にはお会い出来ますわね?ヴォルター君もそうでしたけど受験の時も、それに学校が休日の時も、屋敷はいつでも自由に使ってくれて構いませんからね?」

 

 クレーフェ侯爵夫人は賑やかにそうヘルフリートに声をかける。クレーフェ侯爵はハイネセンにおける亡命政府最大の支援者の一人であり、アルレスハイム星系や他の帝国人街から士官学校等に入学しようとする生徒を毎年のように援助してきた。私の時も受験生達に屋敷の部屋を貸し与え生活の面倒を見ていたし、合格して学生寮での生活になった後も休日や夏季や冬季休暇の時に利用させてもらった覚えがある。恐らくはヘルフリートも士官学校を目指すのならクレーフェ侯爵家の世話を受ける事になるだろう。

 

「は、はい……」

 

 子供のような笑顔を向ける侯爵夫人から視線を逸らして、婚約者の弟は小さく答える。どうやら彼には侯爵夫人に何処か苦手意識があるらしかった。

 

「ヘルフリート……」

 

 一方、婚約者は弟の進路を聞いて心配そうな表情を浮かべる。そこには単に弟が家を離れる事、あるいは軍人になる事を心配する以上の何かがあるようにも感じられた。

 

「御姉様、心配する御気持ちは分かります。ですが私も伯爵家を継ぐ身です。御姉様に恥をかかせない……いえ、御支え出来るような存在になりたいと考えております。ですから、どうか御許し下さい」

 

 姉の憂うような表情を見て罪悪感を感じているらしいヘルフリートは、しかしそう言い切る。文面だけを読み取れば姉思いの善き弟にも思えるだろう。だが、ケッテラー伯爵家の立場やこれまでの騒動を考えて、穿つように読み取ればまた微妙に違った意味合いも感じ取れるかも知れない。

 

(姉を守るための栄達か、いやはやこりゃあ私は悪役だね)

「ひよっとしなくとも従兄って元から悪役じゃん?」

「おい止めろ。人の心を読むな」

 

 耳元でぼつりと囁く従妹に対して苦々しげに私は突っ込みを入れる。事実だとしても身内としてそこは否定するべきだろうが。

 

「グラティア嬢も私に対して含む所があるようだし、お前から何とか取り成し出来ないか?」

「はぁ?人の取り成しを悉くふいにした従兄が言えんのそれ?自分の尻は自分で拭いてくれない?」

 

 小さく私は依頼したが速攻で却下された。うん、理由が理由だから文句言えねぇ。

 

「と言ってもな……」

 

 実力不足とは言え、私もイゼルローン要塞攻略作戦の参謀要員なのだ。そんな今日みたいに休暇を取れる暇なんかそうそうない。とは言え、遠征が終わったら直ぐにでも式が控えている訳で……結構キツいな、これ。

 

「おにいさま?」

「……ナーシャ、ディアナの方に戻ろうか?寂しがっているからね」

 

 私の考え込む顔を見て首を傾げる天使にそう告げる。私の言い付けに元気に頷き又従妹の所に戻る妹を見ていると後方……離れた場所で親御陣営のみで茶会をするテーブルから笑い声が響いていた。それは楽しさから来ると言うよりも形式的な、あるいは互いに相手を嘲るような不穏な印象を受けた。

 

 私は視線を隣に移す。恐縮するように、そして怯えるように小さく縮こまりながら座る少女の姿がそこにあった。私と視線を交えると此方の機嫌を窺うような微笑みを浮かべる。

 

「グラティア嬢。その……この前の事についてですが………」

「そちらの話については伺っております。私の勘違いで随分と御迷惑をおかけ致しました。申し訳御座いません」

 

 私が弁明する前に謝罪の言葉を口にする婚約者。しかし、それが必ずしも心からのものだと思える程私も楽観的ではなかった。

 

(とは言え、何を言えばいいのだか)

 

 良く良く考えれば彼女にとってこの場で謝罪なり何なりされるのも不本意だろう。従妹達は彼女に友好的とは言え、結局はティルピッツ伯爵家一門だ。クレーフェ侯爵夫人は母の友人である。私がこの場で謝罪しても、アウェーである以上受け入れないという選択肢はない。私が何を言っても形式的なものに過ぎない。

 

(シルヴィアの言う通り休暇でも作ってイーブンな場所で謝罪するのが良いのだろうが……)

 

 母は無論、祖母も流石にそこまでサービスする積もりはないだろう。仲が険悪なのは良くないが、力関係が微妙に此方が優位なのは寧ろ望む所な人だ。警戒もあるのだろう。

 

 何よりも物理的に私に時間があるかと言えば………。

 

 助けを求めるように私は視線を移動させる。最初に映りこむのは此方を非難するような目付きの従妹、次いで触らぬ神に祟りなしとばかりに妹に付き合い視線を逸らす又従妹、そして良く分からずに、しかし何か違和感を感じてきょろきょろと周囲を見渡す妹がそこにいた。

 

 更に視線を移せば微笑みつつも困り顔の侯爵夫人がいて、その傍らには悔しげに俯き此方を窺うケッテラー伯爵家の次期当主の姿。あぁ、うん。ここで誰かに頼れるなんて考えていた私が甘ちゃんだよね?正直今すぐこの部屋から逃亡してベアトにでも膝枕して慰めて欲しい。……そんな事したら本当に畜生だけど。

 

(全く、カプチェランカの空振りといい、この前の食事の時といい、中々上手くいかないものだな)

 

 私の脳裏に過るのは会議の後に校長殿とした食事の際の会話であった。言うべき事は言ったが……提案を口にする事は出来る。だが、問題はそれが実際に起こりうる可能性と、それに対してどこまで対策出来るかだった。

 

 無論、シトレ大将も無策ではないのだが……分かってはいるが提案のみでどうにかなるものではないのが辛いものだな。

 

「旦那様……?」

「……すみません、少し考え事をしてまして」

 

 私が険しい表情で考え事をしている事に気付いたのだろう。婚約者が恐る恐ると呼び掛け、私はそこで我に返り、誤魔化しの笑みを浮かべた。答えるように目の前の少女は優しく、微笑み返し労りの言葉をかける。

 

 それは此方の望んでいた態度だった。従順で、しおらしく、そして都合の良い女の態度………それが彼女の本音でない事位は私でも分かる。同時にこんな状況でも私が目の前の傷つけられまくっている少女よりも、仕事の事で悩んでいる事実に軽い自己嫌悪も感じていた。というか、私が婚約者の事以外を考えていたのを察したのだろう、従妹は明確に不機嫌そうに此方を見ていた。私は視線で従妹に謝罪するが見事に顔を背けられた。まぁ、残当だわな。

 

(……本当、碌でもねぇな)

 

 私はこれからの事を思い嘆息しつつ、内心で小さくそう呟いた。半分程自業自得ではあるが、縒りを戻すのは一筋縄ではいかなそうだった。

 

 

 

 

 ……シャンダルーア星系にて帝国軍早期警戒網への破壊工作に従事していた第一〇六独立戦隊が、取り逃がした哨戒部隊からの通報で駆けつけたシュムーデ少将率いる帝国軍一個悌団の前に戦わずに撤退したのはこの翌日の事である。

 




糞どうでも良い裏設定

幼少期に好感度をMAXまで高めるとヒロインをシルヴィアにするルート解放可能。
尚そのルートでグラティアと婚約したら本作ルートとは真逆にシルヴィアが学校で生徒や教師まで抱き込んで陰湿な虐めを開始します。トイレでバケツの水ぶっかけたり、ロッカーや鞄に画鋲とかゴキブリを入れたりしてきます。人気のない階段で後ろから突き落としとかもしてきます。多分足を挫いて怯えてながら見上げる婚約者を猫なで声でクスクス嗤います。因みにユトレヒトの方の好感度をMAXにしても似たような事になります。

主人公の所業含めてやっぱりティルピッツ家一門は帝国貴族の卑の意志を継いでますわ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。