帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第二話 どう見ても同盟では無くて帝国です

 アルレスハイム星系第4惑星ヴォルムス北大陸は、かつての地球で言う所の欧州地域を思わせる冷涼な気候帯に属している。惑星ヴォルムスの経済の中心地でもあり惑星人口の半分が集まり、金融街、歓楽街、工業地帯、宇宙基地も置かれている。特に惑星首都のアルフォートは人口800万を数え、それだけで周辺のほかの辺境惑星の総人口を越える。これだけでイゼルローン回廊同盟側出口宙域におけるこの惑星の重要性は分かろうものだ。

 

 十歳になった私は首都アルフォートにある亡命軍幼年学校に入学した……いや、させられた。

 

 まぁ、原作を知っていれば分かると思うが軍人になるなんて正気じゃない。原作では銀河帝国正統政府はともかく、銀河帝国亡命政府なんて出てきていないからパラレルワールドの可能性もある。だが、もし原作主人公、常勝の天才ラインハルトが現れたらどうなるか?

 

……うん、死ぬわ。

 

 唯の同盟軍人ですらかなりの確率でラインハルトに屠殺される(特に帝国領侵攻作戦で)。

 

しかもだ。我らが亡命軍の実態を見るとさらにやばい。

 

 まず常に最前線でやばい。そもそも拠点が前線だ。エルファシルあるだろう?帝国軍の侵攻受けている癖によく300万人も住んでいるんだよなんて思ってごめんなさい。あれの御隣さんだ。30光年ぐらい天頂方向だ。遭遇戦が日常だ。

 

 次に装備がやばい。装備の大半が帝国軍の鹵獲品だ。痛んでいる物とか旧式多すぎだ。2線級部隊とか第2次ティアマト会戦時の帝国軍旧式戦艦が普通にいる。モスグリーンに塗っているけどそれだけだ。ふざけてんのか?

 

 最後に任務がやばい。亡命軍は同盟正規軍と共に帝国軍と戦闘するのだがその仕事が地味に過酷だ。防衛戦ならまだいいんだよ。後方警備とかが仕事だ。攻める側の時?最前線だよ?帝国人だから同盟人より道を知っている、という論理で露払い役だ。ほかにも現地の帝国軍や住民の宣撫や工作員の派遣、同盟軍地上部隊の通訳やらとにかく前線の危険な地域で仕事させられる。ブラック過ぎる。はい、亡命軍は笑顔溢れる職場環境です。

 

……これ、帝国領侵攻作戦でも最前線だよな、多分。帰れるのか?

 

 幼年学校入学に反対したら家族一同驚愕された。父は怒り、母が号泣した。親不孝者だと嘆かれた。

 

 私は命惜しさに10歳で家出を決め、家出の30分後に近所の元農奴と帝国騎士に拘束された。この惑星では元貴族から元農奴まで、帝国との戦いから逃げる者は非国民扱いしてきます。

 

 そのまま両親に丸まる2日に渡り言葉攻めを受けた。歴代の帝国軍との戦いで戦死した御先祖様の遺品や遺影を持ち出して、帝国軍の蛮行を記録したドキュメンタリー映画を飲まず食わずで延々と見せつけてきた。洗脳かな?

 

 私はついに逃亡は不可能と確信し、幼年学校に入学するといった。10歳児の精神にはこの責め苦はえぐ過ぎる。

 

 

 

 

「……で、来てしまったんだよなぁ」

 

 どう考えても民主国家のそれとは思えない煌びやかな装飾の為された建物の門前で私は呟く。

 

「銀河帝国亡命政府軍幼年学校」、同盟公用語と帝国公用語の両方でそう表記された看板が目に映る。

 

 宇宙暦773年帝国暦464年4月1日、入学試験を見事合格し……というか合格しないと命が無かった……私は妙に煌びやかな制服に身を包みながら正に幼年学校の入学式を迎えていた。

 

「ついにですね、若様!名誉ある幼年学校に入学出来るなんて……しかも若様の御傍仕えをしながらなんて私、感激ですっ!」

 

 私の傍に控えるように佇むのは少女だった。ゲルマン系を表す金糸のような金髪、紅玉のように美しく瞳は太陽の光に輝いていた。小柄で可愛らしい顔立ちは、今はまだ幼いが成長すればきっと美女に化ける事間違いない。

 

 ベアトリクス・フォン・ゴトフリート、愛称はベアト。ティルピッツ家開闢以来5世紀近くに渡り仕えてきた従士、ゴトフリート家の長女だ。

 

 従士、と聞いてもピンと来ない人も多いだろうがどうやら帝国貴族の中でも代々特定の貴族に仕える最下級の隷属貴族の事らしい。ラインハルトの家、ミューゼル家は帝国騎士だったがそのさらに下だ。

 

 従士の家は主家に代々文官や武官として仕えるらしい。例えば文官ならば主家の領地の代官や市長、武官ならば私兵艦隊の参謀や艦長、特に盾艦の艦長なぞ確実にこの階層の出らしい。さらに下級の職務となると執事やら使用人の中にも従士階級の者は多いと言う。

 

 彼女の家はティルピッツ家従士団の筆頭であり、彼女自身長女かつ私と同い年のために物心ついた頃から私に献身的に仕えてくれていた。

 

 まぁ、彼女も他の人と同じく賊軍殲滅フリークさんなんですけどね?

 

「はぁ、……ここで若様と共に戦いを学び、将来若様の下で卑劣で野蛮な賊軍共を滅ぼし故郷を奪還すると思うと……」

 

 凄いな、涙流してるぞ。皆さん見たかね、信じられるか?これ、この惑星の住民のデフォなんだぜ?

 

「あ、そう……ベアト、とにかくそろそろ式が始まるから、行こうか?」

「あっ……申し訳御座いません若様。私、一人で感動してしまい……」

 

 私が苦笑いを浮かべながら催促するとはっと我に返った彼女が恐縮しながら答える。悪い娘では無いんだけどなぁ……。

 

 幼年学校の式典場の上位合格者席に私達は座る。うん、天井シャンデリアだし、壁が金箔塗りだ。会場の傍らには煌びやかな軍楽隊が控えている。凄く……帝国です。

 

 着席する教官達こそ同盟軍の深緑の軍服にベレー帽だが、よく見るとところどころ独自の装飾が為されている。原作を知る身からすると違和感しかない。

 

 入学生の保護者席なんてもっと違和感しかない。皆豪華絢爛なスーツとドレスだ。見る限り殆どが亡命貴族の出だろう。

 

「マジでこれ帝国だろ……」

 

一応同盟領なんだけどなぁ。この星。

 

 そんな事を考えていると軍楽隊の演奏が始まる。つまり、入学式の始まりである……。

 

 

 

 

「春麗かなこの季節、この幼年学校に諸君達、若く、理想と情熱に溢れる戦友を迎え入れる事が出来た事、真に光栄に思う」

 

 式典場の壇上では恰幅の良い軍人が演説を続けていた。幼年学校校長たるエアハルト・フォン・レーンドルフ中将は元同盟軍少将、同盟軍を早期退役後、帝国亡命政府軍名誉中将として校長に就任した人物だ。

 

 だが、それよりも重要なのはあの「薔薇の騎士連隊」の元連隊長である事だろう。

 

 原作のうろ覚えでは元連隊長の内退役したのは2名……だった筈だ。第2代連隊長たる校長はその片割れの一人らしい。

 

「諸君達に私は事実を伝えねばならん。知っての通り、第2次ティアマト会戦以降、回廊の向こう側の賊軍共は大規模な軍の改革が進んでおる。新兵器の導入だけでは無い。軍制の変更に人事評価の変更……賊軍共の上層部に少なくない実戦派将校が就任している。それだけでなく奴らはアルテナ星域に巨大要塞を築きよった。同盟軍の攻略軍がどうなったかは……ここで語る必要もあるまい」

 

 場が静まる。式典出席者達の表情は揃って深刻そうであった。

 

 帝国軍の築いた要塞……イゼルローン要塞の存在が発見されたのは凡そ2年前の事だ。先年同盟軍は2個艦隊を持って要塞に攻撃を仕掛け、不用意な接近の果てに要塞主砲の前に消し飛ばされた。恐らく後世、第1次イゼルローン要塞攻略戦と称されるだろう戦いである。

 

 この要塞の存在は衝撃的な物であった。特に回廊付近の有人惑星群にとっては。

 

 コルネリアス1世の親征以来、同盟は回廊国境線に強固な防衛網を設けた。警戒地帯としてシヴァ星系やアルトニウム星系に偵察衛星や哨戒艦隊を展開、ダゴン星系を始めシャンダルーア、フォルセティ等を迎撃地に、その後方のエルファシルやこのヴォルムス等有人惑星を迎撃部隊・警備部隊の拠点としたのだ。同盟主力艦隊はこれら有人惑星で最終補給を受け帝国軍を迎え撃つ。

 

 だが、イゼルローン要塞の建設によりその防衛体制が維持不可能になった。警戒地帯は帝国の勢力圏となり事前察知が困難になった。会戦の舞台はティアマトやアスターテといった有人惑星に近い星系となった。これまで同盟有人惑星が帝国軍の攻撃対象になる事は極めて稀であったが、今後は国境有人惑星の周辺でも戦闘が起こる事になるだろう。

 

そしてそれはこの惑星の住民にとって他人事では無い。

 

「諸君、これから戦争の様相は変わるだろう。我々はこれまでよりもより苦しく、より激しい戦いをする事になる」

 

 幼い顔立ちの新入生達が緊張しながら校長を見上げる。ごくり……誰かが唾を飲む音が響く。

 

「諸君、戦いに備えよ!諸君、一刻も無駄にせず学び鍛えよ!諸君、我らの先祖の無念を思い出せ!我らが先祖の故郷を、権利を、誇り、財産を取り戻すために戦うのだ!我らこそが回廊の向こう側の正当な統治者なのだ!我らが友邦自由惑星同盟と共にオーディンの堕落した偽帝と誇りと義務を忘れた馬鹿貴族共を追放するのだ!そして帝国全土の臣民を解放し、正当なる皇族と我ら臣民の範たる真の貴族の下、民を保護し、帝国を正しき道に導くのだっ!」

 

 校長の声はいつしか猛り声に変わっていた。大きく腕を振り情熱のままに叫ぶ。

 

「亡命政府万歳!自由惑星同盟万歳!民主主義万歳!帝国に自由と解放を!」

 

 校長の叫びと共に教官達だけでなく生徒も保護者達も立ち上がり万歳と叫ぶ。私?一応合わせるけど内心ドン引きだよ?

 

 御分かりと思うがこれが亡命政府の思想であり方針だ。彼らはいつか帝国に帰還するのを夢見ている。目指すのは立憲君主制、皇帝の下に貴族院と庶民院を作り、同盟と講和、回廊の向こう側を統治するつもりらしい。

 

 恐らく立憲君主制は同盟の支援を受ける口実だったと思う。だが、いつしか世代が下るにつれ支援の建前を亡命貴族達自体が信じ切ってしまったようだ。少なくとも我が家に伝わる御先祖様の手紙とか見る限り初期の者達は確実に内心共和制を馬鹿にしていた。

 

 それにしても凄い情熱である。これ原作だと絶対帝国領侵攻作戦支持してただろ。絶対先鋒に立って侵攻してたよ。絶対帝国軍の反撃で壊滅していただろ。

 

続いて幼年学校の首席合格者の答辞である。

 

 新入生席の先頭にいた少年が歳に似合わぬ毅然とした表情で立ち上がると惚れ惚れするような動きで壇上に上がり式典参加者達を見渡し、口を開いた。

 

「まず、この日、この場所で、私が答辞を読み上げる事が出来る事を大神オーディンに感謝致します。歴史と伝統ある帝国亡命政府軍幼年学校に入学出来る事は私の人生最大の名誉です」

 

 端正に整えられた茶髪に海のように鮮やかな瞳の持ち主は会場全体に響き渡るような声で語り始める。凄い演説慣れしているな。到底同い年とは思えん。というかどこかで見た覚えがあるな……。

 

 そんな事を思っていると隣のベアトが目立たぬように耳打ちしてくれた。ああ、アイツか。

 

「私の胸の高まりをここで言葉にするのは難しい事です。これから始まる幼年学校での日々に不安を、そしてそれ以上に興奮を感じずにはいられません。私はこの学校で多くを学ぶ事になるでしょう。そこには喜びと、そして多くの苦難もあります。当たり前です。我々はこの学校で戦う術を学ぶのですから」

 

一呼吸を置いて少年は再び演説を再開する。

 

「その苦難は決して生易しい物では無いでしょう。しかし、私はそれを乗り越え栄誉ある亡命軍の一員となれる事を確信しています。なぜならば私は一人では無いからです。そう、ここで巡り合った300名の同級生、未来の戦友達、彼らと協力し、肩を並べ、支え合えばどのような苦難も乗り越えられるからです」

 

少年は胸に手を当てる。

 

「私はここで同席して頂いた教官方、保護者の方々に宣言致します。我々は一人として欠ける事無く、名誉と伝統を固持し、帝国臣民の模範となる亡命軍軍人となる事を」

 

 そこで少年は私の姿に気付く。少しだけ口元に笑みを浮かべる。

 

「そして私の同輩達にお願いしたい。どうか私を支えて頂きたい。そして私に君達を支えさせて頂きたい。戦友として、同胞として。共に先祖の悲願を叶えるために。帝国亡命政府幼年学校第114期生代表アレクセイ・フォン・ゴールデンバウム」

 

 頭を下げ答辞を読み終える。同時に割れんばかりの拍手が巻き起こる。

 

 同時に軍楽隊が帝国公用語での同盟国歌の演奏を始める。

 

 出席者全員が立ち上がりまるでオペラ歌手の如き声で歌い始める。

 

 私もまた彼らと共に歌う。だが、同時に退席する学年主席殿をからかうような目配せをする。彼は、それに苦笑しながら席に戻っていく。

 

歌は式典会場にいつまでも鳴り響いていた。

 

 








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