帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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計算したらパン屋の歳が合わない事が発覚した。
対策として
パン屋を一浪させる+生年月日を761年の年末にする、で一応対応。多分どうにかなるはず?駄目ならまた考えます。

取り敢えず責任取ってリオグランデに一人で乗ってブリュンヒルトに特攻してきます。

決別電 キャゼルヌ先輩は今3年生でOK?


第二十話 認めたくない物だな、自分自身の低能故の過ちというものは

 同盟軍士官学校の朝は早い。まだ空の薄暗い0530時頃、学校全域のスピーカーから録音されたラッパ音が鳴り響く。同時に生徒達は一斉に起きねばならない。分隊単位で住み込む若人達は二段ベッドから起き上がり(1,2年生は分隊共同部屋、3年生は2人部屋、4年生は完全個室、女子は希望の場合専用部屋が与えられる)、布団をたたみ、シーツを伸ばす。少しでも皴があったり汚れていたりすると見回りの教官や上級生から情け容赦なく罰則が与えられる。

 

 尤も、私にはその心配は無かった。あ、別に私が早起きが得意ってわけではないよ?

 

「若様、時間で御座います」

「え、マジ?」

 

 ベアトに体を揺すられて私は慌てて起き上がる。時間は0525時である。既に室内の分隊員は全員……正確には私を除く……は起き上がり寝室の整理をして整列していた。

 

「あー、ヤバい。整理しないと……」

「すでに完了しております」

「あ、はい」

 

 どうやらベアトが私を起こさないように既に整理してくれていたようだ。全く気付かなかった。と、いうかそれ私の義務だよね?さらに言えばお前何時に起きたんだよ?

 

「若様……大変失礼ながら、そろそろ見回りが来ますので……」

「あ、おう。分かった」

 

 私はベッドから起き上がり背筋を伸ばして扉の前に立つ。その数十秒後、勢いよく扉が開かれた。

 

「よし、起きているなっ!分隊長、報告しろっ!」

 

入室してきた教官が鋭い目つきと大きな声で尋ねる。

 

「はッ!第4大隊(クラスの事だ)、第3小隊、第1分隊全員起床、欠員ありません!」

 

敬礼しながら私は報告する。

 

 教官は、室内に入りベッドのシーツやら家具やらを睨み付け念入りに見る。

 

「……よろしい。分隊長、隊員を率いて0545時までに第4グラウンドに集合せよ!分かったな?」

「はっ!」

 

 私は力強く返事する。教官は頷くと敬礼して部屋を出て隣の部屋に殴り込む。私達は教官が部屋を退出するまで敬礼して見送る。

 

 ……危ねえ。もう少し起こされるの遅かったら鉄拳制裁だったぞ?毎回ベアトは絶妙なタイミングで起こしてくれる。しかも私の仕事を代わりにやってくれるとか……神かな?

 

「よし……各員、洗顔その他を終え次第第4グラウンドに向かう。良いな?」

「はっ!」

 

分隊員達が一斉に敬礼で答える。凄いハモってます。

 

 10分で洗顔と洗口、着替えを迅速に終えると整列して行進しながらグラウンドに向かう。ここでほかの小隊メンバーとも合流する。

 

 0545時、500名近い学生がグラウンドに集まる。私は小隊長として5個分隊に欠員が無いのを確認すると教官に連絡。全大隊員がいるのが分かったところで国旗掲揚、国歌斉唱、軍隊体操、朝礼の4点セットが実施される。

 

 0630時、大隊教官オスマン中佐による朝礼終了と共に漸く学生達は朝食にありつける。

 

 第4食堂は800名以上に同時に食事を提供する事の出来る大食堂だ。メニューはアライアンス(同盟の伝統的な食事、つまり長征組が航海中に食べていた物が元であり糞不味い)、ライヒ(帝国風)、フェザーン風、旧銀河連邦植民地に残されていたアメリカン、フレンチ、イタリアン、インディア、チャイニーズ、ジャパニーズといった伝統料理など20種類を越える中から選ぶ事が出来る。

 

「はあああ……漸く朝食か。毎度の事ながら脱力するな」

 

 朝食J定食(ジャパニーズ・白米飯、豆腐と大根入り味噌汁、焼きサーモン、ミニトマトと千切りキャベツのサラダ、白菜浅漬け)の盆をテーブルにおいて着席。

 

「あれも一つの鍛練さ。空腹の中でも出来うる限り耐えられるように耐性をつけるためらしいよ?」

 

 答えるのは対面に座っていたチュンだ。その手元にはパン……ではなく中華粥。但し油条がこれでもかとぶちこまれどろどろになっていたが。

 

「……失礼ながら少し品の無い食べ方では御座いませんか?」

 

 私の隣に座るベアトが明らかに嫌な表情を浮かべる。従士とはいえ貴族は貴族、食べ方のマナーは完璧……いや、むしろ従士だからこそ品の無い食べ方は主家の格も落とすと考えて注意は怠らない。そんな彼女にとってチュンの食べ方は論外であった。

 

「いやぁ、けどこうやって食べると油が粥に絡まって美味しいんだよ」

 

 ニコニコと笑みを浮かべ食べるチュン。いい顔だが、それは既に油条入りの粥ではない。粥入りの油条だ。粥入りの油条だ。大事な事なので二度言う。この二つは似ているがその実態は1万光年の開きがある。

 

「それにしても珍しいな。ジャパニーズなんて随分とローカルなメニューを選んだものだね」

 

私とベアトの盆を見て心底物珍しそうにチュンは語る。

 

 実際、亡命者……特に共和派以外の者達は帝国料理以外を好んで口にする者は少ない。貧困層がジャンクフード中心のアメリカンを口にする事こそあるがそれ以外は相当珍しい。大帝陛下が制定された帝国料理以外は堕落したものとでも思っているのだろうか?

 

「好んで食べているわけではありません。ですが、同盟軍に入ればライヒ(帝国料理)を得られない事もあります。ただその場合に備えて舌を慣らしているだけの事です」

 

 ベアトは真面目にそう答える。……あ、いえ、実はただの私の言い訳です。

 

 私が漸くジャガイモパラダイスから救済されると思ったら皆で何が入っているかもわからない料理を口にするのはお止め下さいと止められた。そこで慌てて即興で言い訳したんだが……皆ガチで信じやがった。涙ぐんで自身の思慮の浅さを謝罪する奴もいた。

 

……ええ、信じるの?

 

 臣民を正しき道に導く使命を持つ門閥貴族が我欲のために大帝陛下のお決めになった料理以外食べる訳無いもんね。仕方ないね。はは、ナイスジョーク!

 

 この言葉を鵜呑みにして最近は舌を慣らすため様々なジャンルの料理をローテーションで食べている。私だけに苦労させる訳にはいかないと皆修行するように食べているよ。いやいや、お前達まで無理してやるな。食事が苦行とか娯楽皆無の癖にまだストイックさを追求するつもりか?

 

 但し、アライアンスだけは無理だ。あれは豚の餌だ。さすが半世紀も宇宙を放浪している間食っていた飯だ。最高水準の消化効率と栄養価を含み最低レベルの味に仕上がっている。食材を産業廃棄物に変える錬金術かな?

 

 それでありながら今でもハイネセンファミリーの中にはアライアンスをソウルフードとして日常で食べている家庭は少なくないという。野望を持った男がハイネセンファミリーの女性と結婚してエリートの仲間入りして飯で離婚した、なんて話は決して少なくない。

 

 多分だが、ミンツ大尉が同じハイネセンファミリーと結婚しなかったのはあの糞料理を毎日食いたく無かったからに違いない。

 

「ははは、なるほど。面白い理由だね。これは君の小隊に入って正解だ」

 

 ベアトの説明を受け、チュンは笑う。こりゃあ、私の本音を見透かしたに違いない。

 

チュンは、私の小隊(別の分隊だが)に所属していた。

 

 周囲からは亡命者でないために反対意見も出た。だが、そこは私も比較的上手く言い訳が出来た。

 

「我々が士官学校に来た理由を思い出せ!我々は同盟軍での影響力拡大のために入学したのではないか!ならば、同胞でなくとも優秀な人材と今のうちに縁を結ぶ事は将来の亡命政府にとって決して不利益ではない筈だ!」

 

 チュン・ウー・チェン士官学校一年生の入学席次は375位、トップエリート、とはいかないまでも十分秀才と言える。一年浪人(試験前日に食べたクリームパンに当たったらしい)しているものの、一浪二浪程度なら士官学校では珍しくない(ストレート合格者なんて毎年半分もいやしない)。士官学校歴代卒業生の前例で考えれば少なくとも退役前に中将には昇進する筈の成績だ。

 

 しかも出身は旧銀河連邦系市民が開拓した惑星スワラジである。惑星の英雄ファン・チューリンはハイネセンファミリーのサラブレッド、730年マフィアの一員であるが両親は早くに離婚、母方の故郷スワラジで育ち、母方の姓を使用していた(本人は自身をハイネセンファミリーの一員と呼ばれると嫌な顔をしていたらしい)。そんな歴史もありハイネセンのエリートに余り良い感情を持つ者は少ない惑星だ。亡命者達からすれば親近感を持てる星の出身であった。

 

 まぁ、本音言えば生存率上げるためにコネつくるためだ。優秀な方にはお近づきしたい。金髪の小僧を仕止めるために人材はいくらいても多すぎる事はない(下手したら返り討ちで全滅しかねない)。

 

 問題は最後に動く軍事博物館さんと民主主義に乾杯するようなお方が門閥貴族な私と小隊組むつもりがあるのか?という事だが……案外簡単に説得出来た。毎回ベーカリーの数量限定パン購入に協力するといったら即落ちした。マジか?

 

 恐らくはこの時期のパン屋の倅は、そこまで信念を持って軍人になるつもりではないらしい。よくよく考えたら当然だ。16、7の内からあれほどの覚悟を持っている訳無いんだよな。この頃は取り敢えず気楽(?)にパンライフ……ではない、学生ライフを送るただの少年だ。

 

「別に数量限定パンのためだけじゃあ無いんだけどなぁ……」

 

困ったような表情をして不本意だ、と答えるチュン。

 

「と、いいますと?」

 

懐疑的な表情で尋ねるベアト。

 

「うん、私が志望している研究科は情報分析研究科なんだけどね。そこでは集めた情報を元に相手の目標や作戦を予測するんだ。そこで、大事なのが……」

 

と、私達を指差すチュン。

 

「私達?」

「そう、君達帝国人、正確には帝国人の考え方だね」

 

その言葉でようやく私は彼の考えが分かった。

 

「どんな情報でもそれが何を意味するか理解しないと意味がないからね。相手の動きがなにを意味しているのか、帝国人の価値基準が分からないと狙いが分からない。と、なると直接聞くのが良いんだが回廊の向こうの人々に聞いてもブラスターを向けられるのがオチさ。だからと言ってこっちの亡命者といえば、言っては悪いが帝国文化を徹底的に嫌う人か、身内でしか話さない人ばかりだからね。なかなか本当の帝国人の見ている世界観が分からない」

 

 その言葉を私は肯定する。実際、同盟と帝国の価値観の違いは相当なものだ。しかも、同盟で出版されている帝国文化の説明本は結構違和感がありありだ。まぁ、書いているのが同盟人か共和派亡命者くらいだからなぁ……。

 

 なぁ、皆さんギロチンによる死刑は残虐だと思いますか?同盟では帝国の非道な処刑方法として有名だが、あれ、実は貴族階級に行う人道的処刑方法なんですよ。罪人を楽に殺すなんてとんでもない。つまり平民相手に電気鞭やギロチン使うといっていたフレーゲル男爵は帝国基準で人道主義者です。帝国において平民への拷問のデフォは指摘めや耳削ぎ落とし、処刑方法は錆びた斧や火炙りらしいですよ?

 

「その点、私みたいな保守派の癖に積極的に余所者と話す帝国人物は珍しい訳か?」

「そう言うことだね。しかも門閥貴族と来れば相当珍しいだろう?言い方が悪いけど研究対象としては丁度良いかなってね」

 

失望しているかい?と尋ねるチュン。

 

 それに対して私は少し不快そうにするベアトを宥めて、答える。

 

「いやいや気にするなよ。世の中ウィンウィンの関係が一番さ。チュンが私達を観察対象にしたいならいくらでも観察してくれれば良いさ。尤も私も大概ほかの保守派に比べれば軟派の変わり者だけどな。その代わりエリート様には私の定期試験の学習に御協力してもらいたいが、構わんね?」

 

 実際その程度であんたと御近づきになれるなら安い物だよ。パン屋の二代目。いや、英雄様。

 

 私は不敵に笑い、チュンは子供のように微笑んで、ベアトはどこか不満げにする。

 

 まぁいいさ。今のところはこれで。焦る必要はない。今は、な。

 

 

 

 

「まぁ、実のところ一番の理由は君の小隊にいれば本場の帝国風パンが食べられると思ったからなんだけどね」

「おい、待て。最後のボケの出番を私から奪うな」

 

私は急いで突っ込み役に回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ファン・チューリンの設定ついては
本人が寡黙=不遇な子供時代
家庭に恵まれない=幸せな家庭を知らないから、で連想しました。

尚730年マフィアについては小ネタ(捏造)として

ヴォリス・ヴォーリック=名門軍人と亡命者(平民)のハーフ、バロンの渾名は幼少時代半分虐めで呼ばれた事がきっかけ。成長後は本人は皮肉に皮肉で返していた。

ジョン・ドリンカー・コープ=ハイネセンファミリーの名門出身、学生時代はユリアン祖母な性格、ブルースと愉快な仲間達と夕日をバックに殴り合いでマブダチになり性格が丸くなる。
第2次ティアマト会戦での「あんたは変わったな」は昔の自分のように高圧的なブルースに失望した台詞。尚、戦後はブルースの仇討ち(帝国侵攻)を計画していたが翌年戦死。







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