帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第二十二話 赤信号も皆で渡れば怖くない

 同盟軍士官学校において日曜日は、原則休日だ。無論朝に教官が乗り込んで来るがそれを誤魔化してしまえばその後は二度寝しても構わない。

 

「つまり!日曜日は労働者にとって天国っ!二度寝の時間っ!一日14時間睡眠だイェイ!!」

「それでは若様、親睦会の御支度を致しましょうか?」

「………はい」

 

 休日はだらけて過ごせる?残念、休日の貴族も普通に働くんだよ?

 

 

 

 

 士官学校内には幾つもの多目的ホールが存在している。特殊な講義や討論会と言った真面目なものから学生達の私的なパーティー等でも、予め学校職員に申請すれば比較的簡単に使用可能だ。

 

 同盟軍士官学校北第7校舎第4多目的ホールにおいて細やかな……とは言えないパーティーが行われていた。パーティー主催者は「士官学校亡命者親睦会」である。

 

「招待状はお持ちでしょうか?」

 

 ホールの入り口に士官学校学生服を着た少女が恭しく尋ねる。

 

 先輩に当たるのだが、そこで私は口を開かない。応対するのは傍らの従士だ。

 

「代表からの招待状です。ご確認ください」

 

 学生服の懐から手紙を差し出すベアト。相手はそれを丁重に受け取ると中身を確認する。

 

 そして次にこちらを見据えると心から歓迎するような表情で会釈し、扉を開く。

 

 ホールの中は同盟軍士官学校内とは自信を持って言える物ではなかった。

 

 洋画の飾られた室内、床にはレッドカーペット、純白のテーブルクロスの上には鮮やかな銀食器や陶磁器に盛られた料理。当然ながら添えられる料理は学生が馬鹿騒ぎするときに頼むピザやフライドチキンといったジャンクフードではない。部屋の端では音楽を嗜む学生達がピアノやバイオリンでクラシックな演奏会を始めていた。

 

 ここまでならば「はは、またかよ。贅沢自慢しやがって貴族のぼんぼんめ」と言われるのがオチだ。だが、同盟軍士官学校の中に大帝陛下の肖像画があるのはたまげたなぁ。

 

 グスタフじいさん、アーレ・ハイネセン、ルドルフ大帝の順番でホールに飾られる肖像画。おい、皇帝にサンドイッチにされているハイネセンが少し悲しそうだぞ?なんかこっちを見つめて何か訴えようとしてね?

 

 以前に話した通り民主主義の守護騎士を育成する同盟軍士官学校内において学生達は派閥間で軽い……とは言えない冷戦関係にある。同じ出自同士でより集まり身を守る訳だ。そしてその関係は横だけでなく縦にもある。

 

 各派閥は新しく入学した同胞を温かく(それ以外には冷たく)迎え入れる。

 

 ここまでいえばこのパーティーの意図も分かるだろう。ようは身内同士の結束を固めるイベントである。「士官学校亡命者親睦会」は帰還派が同盟軍士官学校に作り上げた相互扶助組織だ。定期的に学生間でこういったパーティーを行うだけでなく卒業して軍人になった者も講演等のイベントで訪問してくる。場合によってはそこで卒業予定者の人事での取りなし等も相談される。

 

 え?士官学校学生が政治活動はあかんって?ヘーキヘーキ、どこもやっているから。今頃ほかのホールで共和派とか長征派(ハイネセンファミリーの中で一番話の通じない奴らだ)も盛大にパーティーしているって。ははは、シトレが軍人が政治に関わらない方が良いと思うのも納得だ。ちなみにあの人はハイネセンファミリーですよ?

 

「それにしても、一応士官学校内だろうに」

 

 帰還派の学生達による親睦会、とはいうが扉を潜ったここでは士官学校の常識は通じない。さっきの入り口にいた先輩は平民階級(富裕市民ではあるが)だ。

 

 ようはここでは学年や年は関係無い。家柄で上下関係が決まる。さっきから召し使い同然に働いている生徒が何人もいるが実際、文字通り彼らは召し使いなわけだ。私の先輩なのにね。

 

 さて、ここでぼさっとするわけにはいかない。ここは最早自由と民主主義の息つく士官学校ではなく帝国の宮廷とお考えください。

 

「つまり、礼儀からいって会長に会わんと行けなくてだね」

 

 ベアトを控えさせて私は堂々と人混みを進む。何人かが頭を下げて礼をするが私は爵位、あるいは身分的に上なので手を上げて軽く答えるだけだ。因みに大抵先輩だ。あとで顔合わせるのが辛い。目上の人に下手に出られる側の気持ち位わかってくれよ。彼方は一切葛藤なんて抱いていないだろうけど。

 

 パーティー会場を回り目的の人物を発見した私はそちらに向けて駆け寄る。

 

「ここにおられましたか。会長、いえ、伯爵。ティルピッツ伯爵家の長子ヴォルター、参上いたしました」

 

 私は、にこやかに貴族的な微笑を浮かべ優美に一礼。側に控えるベアトも深々と会長に頭を下げる。

 

 それに対してワイングラスを手に持つ(アップルジュースだけど)会長は妙に印象に残る某映画の警官のごとき声で答える。

 

「これはこれは……武門の誉れ高きティルピッツ伯爵家の御入来とは、誠に名誉なこと。士官学校亡命者親睦会会長として、いや、同じく武門の家門たるリューネブルク家の当主として心から歓迎致しますぞ?ティルピッツ殿」

 

 ヘルマン・フォン・リューネブルク士官学校4年生が恭しくそう答えた。

 

 ………いや今、死亡的なフラグ的な物が立つ音しなかった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 リューネブルク伯爵家が自由惑星同盟に亡命したのは、宇宙暦708年帝国暦399年、マンフレート2世、別名マンフレート亡命帝の死去の直後の事である。

 

 前皇帝ヘルムート1世の庶子の1人であったマンフレート亡命帝は幼少期を同盟で育った事で有名だがその際に亡命を手伝ったのはリューネブルク伯爵家を始めとした帝国宮廷内の和平派であり、匿い育てたのがアルレスハイム星系政府……つまり銀河帝国亡命政府であった。

 

 当時苛烈な暗殺合戦の様相を帯びていた帝室の現状を機会と見た同盟政府、亡命政府、和平派は水面下で協力体制を取った。皇室内での闘争に油を注ぎつつ財務官僚や軍役に苦しむ帝国貴族達がマンフレート2世の即位のための工作を開始する。

 

 同時に同盟と亡命政府はその間、後のマンフレート亡命帝になる少年を丁重に持て成し、立憲君主として入念に帝王教育を施すと、当時の亡命政府代表ゲオルグ・フォン・ゴールデンバウム(ゲオルグ2世)の長女と婚約させた。

 

 帝国に帰還したマンフレート亡命帝は三者の期待通りの行動を始めた。彼は帝国に帰還するやいなや5つの方針を宣言した。1つ目に自由惑星同盟との和平、2つ目に亡命政府に対してアルレスハイム星系からイゼルローン回廊帝国側出口を下賜し帝国に従属する藩王国として帝国・同盟間の緩衝地帯・交易地帯とする事、3つ目にアルレスハイム=ゴールデンバウム家のから皇妃を迎える事、4つ目に同盟に亡命した帝国臣民への全面的恩赦と帰還の許可、5つ目に帝国への議会設立・憲法公布による段階的な立憲君主制への移行である。帝国諸侯は長年の皇位争奪戦で疲弊し、マンフレート亡命帝の後援には帝国の和平派・亡命政府・同盟政府がついていた。叛旗を翻そうとすれば同盟軍と亡命軍が国境に展開した。

 

 長年の抗争で諸侯間の不信感は根深く、一丸となって対抗は不可能。さらには同盟政府は抗争で疲弊した帝国に対して人道主義の面から援助も申し出るという飴も使った。ここについに長きに渡った戦争は終わりを迎えようとするかに見えた。

 

 宇宙暦708年帝国暦399年4月1日、同盟政府、亡命政府からも代表団を迎えた帝国再建会議の最中マンフレート2世は喉の渇きを癒すために一杯の白ワインを口にした。

 

 直後、彼はワイングラスを落して苦しみだした。議会に集まった同盟政府・亡命政府の代表団、帝国の官僚、各地の貴族達の前で大量の血を吐いて倒れたマンフレート2世に会議場の一同が唖然とし、次に騒然とした。

 

 誰が言ったのかは不明だが一人の同盟使節が叫んだ。「狡猾な貴族共の陰謀だっ!奴らは我々をここで皆殺しにするつもりなのだっ!」と。

 

「馬鹿なっ!?貴様ら賤民共こそ我らを陥れるつもりか!?」

 

帝国貴族は反論する。

 

 言い争いはすぐに乱闘になった。マンフリート2世の死体に誰も目もくれずに騒ぎは大きくなる。そして悲鳴が上がった。

 

 若い帝国貴族の一人が頭から血を流して倒れていた。傍には水晶と黄金で出来た置物が血に濡れて落ちていた。誰かに殴られたらしかった。

 

 彼はその時まだ死んではいなかったが頭部の傷口からは血を垂れ流し、気を失っていたため傍から見たら息絶えているようにも見えただろう。

 

 この事態に際して帝国保守派貴族の私兵と代表団護衛としてオーディンに来ていた同盟軍・亡命軍の地上部隊が議場に突入し、それぞれの主人を守るように前に立つ。すぐに発砲音と悲鳴が上がる。時の帝国貴族の盟主リンダーホープ侯アルベルトが叫んだ。

 

「この者共を殺せっ!彼奴らの甘言に乗った我々が愚かだった!」

 

 この言葉が本格的な戦端を開いた。オーディンの地上では社会秩序維持局武装治安維持隊と帝国貴族の私兵が代表団と和平派貴族、護衛の同盟軍と亡命軍に襲い掛かる。衛星軌道でも宇宙艦隊同士の戦闘が始まっていた。

 

 この時点では皇帝の意を受けていない帝国正規軍は出動していなかったが、それでも多勢に無勢。同盟側の代表団団長ロバート・サンフォード上院議会議長を始め同盟使節28名と亡命政府の使節16名が死亡、軍人の死者はその千倍に達した。

 

 和平派の貴族も粛清対象だった。混乱の中、貴族邸宅が襲撃され、女子供、家臣も、只の使用人まで貴族平民の貴賎も問わず和平派の縁者は殺された。略式裁判があれば幸運な方で殆どがその場で処理された。その数は2万名に及ぶとされる。襲撃者の中には騒ぎに便乗した貧民階級の強盗や暴徒も少なくなかった。

 

後に言う「イースターの大虐殺」だ。

 

 時のリューネブルク伯爵は会議場から辛くも抜け出すと自宅に文字通り裸足で向かい家族や家臣達を連れて帝都脱出を図ろうとした。

 

 そこに社会秩序維持局武装治安維持隊と暴徒に屋敷を包囲された。リューネブルク伯爵家は武門の家柄、従士や警備の私兵達は主人一家を逃がすために文字通り包囲網に殴り込んで血路を開き、そこに同盟軍特殊部隊からの救援が来た事で辛うじて伯爵は脱出に成功したものの家臣団は文字通りほぼ壊滅していた。

 

 4月2日、事態を把握した同盟政府はただちに宇宙軍4個艦隊及び地上軍3個遠征軍を投入して使節団救助に向かう。

 

 4月5日、オーディンの貴族達の間で何等かの交渉がまとまり皇族の末端であるウィルヘルム1世が第28代銀河帝国皇帝に即位、ウィルヘルム1世は脱出した使節団の捕縛を帝国正規軍に命令、3個艦隊が迫撃に向かう。

 

 4月27日、数度に渡る襲撃を切り抜けたものの最早艦隊の体も為していない使節団を乗せた同盟・亡命軍部隊はレージング星系で同盟軍救援部隊と合流、そこに帝国軍の追撃部隊と会敵し、第1次レージング星域会戦が勃発する。7日間の間に両軍とも100万近い犠牲を払ったこの戦いの後、両国の間で和平を口にする者は皆無だった。

 

 同盟に亡命した和平派貴族の多くは亡命政府に合流した。リューネブルク伯爵家もまたその一つ。そして当時の当主から3代経たヘルマンが現在のリューネブルク伯爵家の当主として今現在同盟軍士官学校に在籍していた。

 

「ん、どうかしたのかねティルピッツ殿?」

 

 ソファーの上でシロン製茶葉を使った紅茶を一口口に含むとリューネブルク4年生、あるいはリューネブルク伯爵は怪訝な表情で尋ねる。

 

「いえ、伯爵。少々物思いに耽っていたようです。御容赦ください」

 

 同じくパーティー会場に置かれたソファーに座る私は宮廷帝国語で軽く会釈しながら答える。

 

 リューネブルク同盟軍士官学校4年生……いや、伯爵は銀色の髪に端正な顔立ちの青年であった。一見細く見える体は、しかしその制服の下には無駄のない鍛えぬかれた一種の芸術作品がある。原作では性格が悪そうだが、意外なことに少なくともこの時点では、なかなかの好人物だった。

 

 リューネブルク伯爵家の当主、という立場からも分かるが彼は身内がいない。元々限りなく身一つで亡命した立場だ。親類は殆んど脱出出来ず、臣下も壊滅状態、亡命後は武門の家柄らしく前線で戦い多くの一族の者が戦死した。今となっては親代わりに育ててもらった母方の叔母に当たる老男爵夫人が一人いるだけで他の親族はいない(というか大抵戦死した)。御家断絶一歩手前である。

 

 そんなわけで何事も自分で行う独立独歩の気風の強い人物、それでいて武門のお家柄に相応しい威風と高潔さを兼ね備えている。

 

その名声を確固たるものにしたとは去年の事件だろう。

 

 去年、新入生の亡命者が深刻な虐めに合っていた。派閥色の薄い人物であるがために報復の危険が無いと考えたのだろう。

 

 ある日、リューネブルク伯爵が学内のトイレで集団で虐めの的になっていた同胞を見つけると直ちにその解放と教官への自首を相手方に提案した。その態度は決して尊大なものではなかった、といっておく。

 

 だが、学生はそれに怖じ気づくどころか自身の家柄を盾に反発した。どこぞの政治家やら軍人の家庭だったという。それどころか却ってリューネブルク伯爵を脅迫した程だ。

 

 そしてリューネブルク伯爵がその脅迫を拒否すると彼らはそのまま襲いかかった。

 

事態が教官達に知れるまで1時間がかかった。

 

 教官達が来た時、そこにいたのは全身怪我をした伯爵とトイレの床に倒れる10名ばかりの学生(武器持ち)だ。

 

 取り調べの結果分かった事はリューネブルク伯爵はエコニアの捕虜収容所に赴任しても反乱を心配しなくて良い、と言うことだ。

 

 この事件の結果として伯爵と襲いかかった学生達の両方が指導対象になり(教官曰く、やり過ぎであるためだと言う)、全員が一年留年という結果となった。

 

 余りに不公平な対応ではないか、との意見も出たが学校側はこの指摘に対して黙殺している。顎を砕かれた学生の中に国防委員会議員の子息がいたからだ、という噂がどこまで真実かは不明である。

 

 当然ながら士官学校や同盟軍に対して亡命者とその師弟の抗議が襲いかかった。一方、リューネブルク伯爵に対しては文字通り拍手喝采である。

 

「いや、遠慮する必要はありませんよ。去年の事については皆気になるみたいでしてな。いやはや、面倒な事態を引き起こして多くの同胞に迷惑をかけてしまったと考えると恥るばかりです」

 

 マクレーンな声で話す伯爵のそれはしかし、決して遠慮してでも、演技臭いものでもなかった。心底そのように思っているように見える。

 

「いえ、お気になさらず。むしろあの件は我々同胞を勇気づけるものでした。伯爵はただ正義を成しただけの事、誰が伯爵を非難出来ましょうか?」

 

 しかし、リューネブルク伯爵は複雑な笑みを浮かべ苦笑いをする。

 

「いえ、実の所個人的な事なのですが……ザルツブルク男爵夫人にあの件で随分と叱られましてな。伯爵家の当主として自覚が足りないと説教されてしまいましてな」

 

 その声は少しばかり気落ちしているように思える。え、マジ?あんたお婆ちゃん子だったの?

 

「それとて伯爵の身を案じての事でしょう?仕方ありませんよ」

「そうは言いますが、我が家は武門の家、戦場に出て祖国と同胞のためにこの身を捧げる以上、あの程度の事から逃げる訳にもいきません」

 

 祖父はカプチェランカの雪原で戦死、叔父はイドリスの沼地で戦死、父はフォルセティ星系の第3惑星において薔薇騎士連隊の3人目の戦死した連隊長だ。代々陸戦隊に所属して来た先祖同様、彼もまた陸戦士官を目指す身である。将来、直接身一つで敵兵と戦うのだ。この程度に臆しては貴族として先祖に申し訳が立たない、と言うわけだ。

 

「あの人は過保護な所がありまして、この前も文官の席が余っていると資料を送られましてな。武門の者が文官等と、余りに恥ずかし過ぎますな。あの人とて昔は女性の身で戦斧片手に突撃していたような御人だというのに」

 

 困ったような笑い方をする伯爵。自分の筋を曲げられないが叔母を心配させたくもないらしい。

 

「その点ではティルピッツ殿は羨ましい。御家族も前線で戦う事を誉れとして軍人となるのをお喜びであると聞きます。同じ武官の身として羨ましい限りです」

 

 おう、欲しいなら代わるよ?私好きで学校入った訳じゃないよ?限りなく強制だよ?

 

「いやはや、身に余る御言葉ですよ。私こそ伯爵のような才覚が羨ましい限りです」

 

 士官学校席次107位、研究科は地上戦の権威である陸戦略研究科である。地上戦部門に限れば学年でも五指に入るだろう実力者だ。学内対抗格闘戦競技会では二度準優勝、一度優勝と来ている。そりゃあ薔薇騎士連隊長にもなれますわ。

 

「ははは、地上戦の才児などと持て囃す方もおりますが、所詮は地上戦です。艦隊戦の才能はからっきしでしてな。その点では提督職を受け継ぐティルピッツ伯爵家が羨ましい。確かもう研究科はお決めに……?」

「ええ、お恥ずかしい事に席次が決して高いとは言えないものでして三大研究科はさすがに不可能でした。艦隊運動理論研究科に所属しております。こちらのベアトリクスは艦隊運用統合研究科です」

 

私が伝えると傍らで直立不動で立つベアトが再度頭を下げる。

 

「おお、今期の同胞から三大研究科にいった者がいると聞いていましたが彼女ですか。流石ティルピッツ伯爵家の家臣団は人材の層も厚い」

 

関心したように頷くリューネブルク伯爵。

 

「今期の人材の層は悪くは無いですよ。特に平民ですがホラント……失礼、ウィルヘルム・ホラント一年生は優秀ですよ。何せ学年次席ですから」

「ああ、話は耳にしている。ふむ……優秀ではあろうが少し気性の荒い人物らしいな。此度のパーティーでも席を用意したのだが……」

 

周囲を見渡し肩を竦める。

 

「欠席のようだな。ティルピッツ殿はそれなり仲が良いと聞いたが誘ってもらえなかったのかな?」

「あれは、こういうイベントを好まない人物ですから。決して悪い人物では無いのです。どうぞ御容赦を」

 

 私は複雑な表情で答える。あいつは所謂貴族様が御嫌いだからなぁ。別にそれでも良いんだが時と場合を考えて必要な時は隠して欲しいものだ。有能な人物が詰まらん理由で退学とか御免だぞ?私の生存率的に。

 

「……ティルピッツ殿がそこまで仰るなら仕方あるまい。それだけ彼を買っているという訳か」

 

やれやれ、とばかりに首を振る伯爵。私はそれに対して苦笑いするしかなかった。

 

同時に私は頭の片隅で思う。これ程人当たりが良く、同胞意識の強い人物がどうして逆亡命したのだろうか、と。

 

宇宙暦779年5月21日の事であった。

 

 

 




「国父アーレ・ハイネセンはどう思っているでしょうか?」
「泣いているさ。墓の下でな」







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