帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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前半については原作者の短編集にあった作品が元ネタです



第二十三話 中の人の経歴から見て肉弾戦も強いのは当然

 宇宙空間における初の大規模な戦争が発生したのは西暦2689年に勃発したシリウス戦役……より正確にいえば同年12月7日に開始された地球統一政府軍によるシリウス星系第4惑星ロンドリーナへの奇襲攻撃である。そして、宇宙暦8世紀に至るまで技術的要因や地理的要因で若干の修正こそ為されているものの大規模宇宙戦闘のセオリーはこの一連の戦闘で既に確立してしまった。

 

 植民星連合軍は、地球統一政府軍を過小評価していた。より正確には地球統一政府軍の人材の厚みを甘く見ていた。

 

 良く言われるのが、シリウス戦役開戦時に植民星連合軍は地球軍の奇襲攻撃で壊滅的被害を被った、と言う説明である。

 

だが、この説明は正確ではない。

 

 そもそも、万単位の艦艇と惑星一つを制圧するだけの地上軍が動いてその動向が掴めない、ましてや奇襲攻撃を許し主力部隊が壊滅するものだろうか?シリウス側とて当時の緊迫した情勢は理解していた筈であるのに。

 

 答えは否だ。植民星連合軍は地球軍の攻撃の意図は把握していた。そしてそれに勝利する計画も建てていた。

 

 植民星連合軍は地球軍の攻撃に対して焦土戦術で対抗するつもりだった。

 

 当時の航海術では未だに大兵力を支えるだけの物資を他星系に送るだけの能力が無かったのだ。しかも地球軍は少なくとも建前上では外征軍ではなく治安維持軍であり規模こそ強大ではあったが殆どが歩兵部隊や小型哨戒艦艇、補給能力も不足していた。植民星連合軍首脳部は地球軍の攻勢と同時にロンドリーナの放棄と物資の収奪、そして補給線へのゲリラ戦を実施する予定だった。例えるならば原作の帝国領侵攻作戦に対してラインハルトのとった作戦に近い。或いはこの前例からラインハルトは迎撃作戦を組み立てた可能性もある。

 

 仮にこの作戦が成功していれば地球軍は数百万の兵士が捕虜となり、膨大な兵器が鹵獲されていた事だろう。

 

 植民星連合軍の首脳部は無能ではなかった。しかし問題は当時の地球軍に傑出した三名の名将がいたことだ。

 

 航海術のコリンズ、砲術のシャトルフ、揚陸戦のヴィネッティ……後世に地球軍三提督と呼ばれる彼らの手によって地球軍は植民星連合軍の作戦を打ち砕き、現代にまで残る宇宙戦闘の基本が確立された。

 

 特に初期の奇襲攻撃におけるコリンズの働きは素晴らしいの一言だ。彼によって地球軍2万隻の大艦隊(それ以前で地球軍の最大の動員は3000隻であった)は当初1カ月かかるとされた大航海の日程表をその半分で走破して見せた。

 

 彼の編み出した航海術、艦隊運動理論は正に天才と呼ぶに相応しい。近年ですらその戦術の研究は続いており、昨年にも帝国軍士官学校教官にして新進気鋭の戦術理論家として知られるエルンスト・フォン・シュターデン少佐が500ページに及ぶ論文を発表している。

 

 あの頑固で有名だったジョリオ・フランクールが遂に自身の手で討ち果たすのを諦めて、チャオ・ユイルンに謀殺を頼む程の才能、多分今甦ってても双壁辺りと互角の勝負をしかねない。こいつら転生者じゃなかろうな?

 

「ともかくも、艦隊運動の基本を学びたければコリンズの理論を学べ、というわけか」

 

フィッシャー教官の講義を受けながら私は小さく呟く。

 

 艦隊運動にとって最も重要な事はいかに簡単な指示で艦隊を望みの動きをさせるか、である。戦場では目前の敵との戦闘に集中してしまうだけでなく敵艦の砲火、友軍艦の航路や爆発等の妨害などのアクシデントにより訓練中ならば簡単に行える運動もスムーズに実施出来ない。

 

 其ゆえに艦隊運動の指示は簡略かつ最小限の動きで速やかに実施しなければならない。

 

「流動的な戦局においていかに最短の手順で艦隊を動かすか、それが艦隊運動の速度を決め、ひいては戦闘の主導権を握る事になります。攻撃であればこちらが絶えず敵の急所を狙い、あるいは火線を集中出来る位置を取ろうとし続ける場合に相手はそれに対応を続けなければならず、その攻撃を抑える事にもなります。あるいは防備に徹する場合は戦線の穴を如何に防ぐか、敵の火点を受け流すか、それによって戦線の破綻を防げるかが決まります」

 

 フィッシャー教官は、スクリーンに写し出される荒れのある第1次ヴェガ星域会戦の戦闘記録映像を別の戦闘記録に変えて説明を続ける。

 

「そしてもう一つ大事な事は艦隊間の連携です。陣形の変更や移動においてはこれは極めて重要です」

 

 当然ながら全艦が一斉に動けば敵に隙を与える。特に同盟軍の場合はその隙を衝かれ実弾兵装に優れる帝国軍の接近戦に巻き込まれる訳にはいかない。艦隊の陣形変更や部隊間の交代、方向変換に際しては戦隊以下の部隊の連携は必要不可欠だ。

 

「第2次ティアマト会戦時のカイト艦隊に対する第5艦隊の戦闘、カルテンボルン艦隊に対する第4艦隊の戦闘が代表的な対照例でしょう。カイト艦隊、第4艦隊共に敵前で反転したもののその結果は正に正反対の結果となりました。カイト艦隊は強引な方向転換を狙い打ちされ戦列が崩壊、司令官が重症を負うと言う結果に終わりました。一方第4艦隊はカルテンボルン艦隊の火力の限界点に合わせて個々の部隊が絶妙な連携をしつつ反撃したために反転時の混乱も損失も殆んど出る事はありませんでした。ここからも各部隊間の連携が艦隊運動の結果に大きな影響を与える事が分かるでしょう」

 

 教官がそういっている間、スクリーンには第2次ティアマト会戦時の記録映像が流れる。反転中のカイト艦隊はしかしそこに第5艦隊の集中攻撃を受け次々と爆散して火球と化す。そしてその爆発が隊列に更なる混乱を生み出し不用意に隊列から外れ味方の援護を得られなくなった艦艇は中性子ビームの集中砲火を受け宇宙の塵となった友軍艦の後を追う。

 

「うわっ……エグいな」

 

 艦列が崩壊した艦隊は悲惨だ。下手にビームを避けるとほかの艦艇に衝突する(双方とも高速で動いているため結構距離があると思ってもすぐに衝突するほど距離が近付くのだ)。あるいは、シールドのエネルギーが無くなっても交代部隊がいないために持ち場から離れられない部隊が蜂の巣にされる。先程まで互角の戦いをしていたのがあっという間に入れ食い状態だ。

 

 均衡していた戦局が次の瞬間には一方的な蹂躙にジョブチェンジする。それが宇宙における艦隊戦の現実だ。

 

「さて、次は……おや、もう時間のようですね。ふむ……では、次の講義までに課題を出しましょうか。第2次ティアマト会戦最終局面におけるアッシュビー提督の帝国軍背部からの強襲について、その艦隊運動の合理性と効果について各員レポートを提出して来てください」

 

 英国紳士的な、教官はポケットの懐中時計の針を見やると微笑を浮かべ課題を出した。

 

 私は他の学生と共にうげっと小さな悲鳴を漏らす。当然ながらその声が考慮される事はなかった。

 

 

 

 

「と、いう悲劇があったんだ」

「レポートをお貸しください」

「普通の事じゃないのかな?」

 

 食堂に座る私の真横と正面から同時にそんな言葉が響く。

 

「チュン慰めてくれても罰は当たらないと思うんだ。後ベアトはそこまでしなくていいから」

 

愚痴いっているだけだから。

 

「従士ちゃんも甘やかしすぎだと思うんだけどね~。君こそ課題が随分と出ている筈じゃないかい?」

 

 腐っても艦隊運用統合研究科は三大研究科の一角だ。複数分野の専門知識を要求する程のレベルとなると課題の質量共に馬鹿にならない。まぁ、追い付けない奴は要らんと言うことだろう。ベアトの成績的にはギリギリ追いすがっている状況だろう。私の手伝いわする暇なぞある筈がない。

 

「何も問題有りません。私の成績より若様の健康の方が遥かに重要です」

「いや、健康を害する程ではないから」

「私としては従士ちゃんの健康の方が心配だよ。そんなにジャーマンポテトとザワークラフトばかりで栄養大丈夫かい?」

「いや、お前も大概だからな?」

 

 従士の盆を見ればライ麦パンにオニオンとベーコン入りジャーマンポテト、豚の血入りヴルストの添え物に山盛りのザワークラフト。典型的かつ伝統的なライヒの献立である。私に見習って様々な料理を口にしているがさすがに耐えられないのか週一でライヒを頼むベアトである。本当に楽しそうに食べやがって……どんだけ苦行していやがる。いや、アライアンスとイングリッシュの時は共感するけど。

 

 因みににライヒ以外で気に入っているらしいのがアメリカンのフライドポテトとジャパニーズのトンカツ定食だった。前者はじゃがいもだから、後者はシュニッツェル(ドイツの子牛のフライソテーだ)に似ているのと千切りキャベツのおかげだ。白飯と味噌汁への拒否反応が凄いが。

 

まぁ、チュンに比べれば随分とまともだが。

 

「何でしょうか、その禍々しい物体は?本当に食べ物なのですか……?」

「いやぁ、慣れると結構美味しいんだよ?」

 

 チュンが困った表情で答える。彼の盆に置かれているのは納豆トースト(納豆・マヨネーズ・シーチキン・チーズ乗せ)、ニシン入りエイブルスキーパー、コオロギパン……おい、誰だよ宇宙暦8世紀までメニュー伝えたの。もっと伝えるべき文化あったと思うんだけど!?

 

「お前、ゲテモノ好きだったのか?」

「いやぁ、私もメニューにあって驚いたのだけどね。恐る恐る食べてみたら結構いけるみたいだよ。一ついるかい?」

 

 私とベアトは息ぴったりで首を振った。当然ながら縦にではない。

 

「連れないなぁ。そう悪い味でもないんだけどね」

「パンばかり食べて味覚が逝ってないか?」

 

 そもそもパンだったらヤバそうでも手を出すのか?一体何があったんだよお前の食生活に。パンの神にでも転生させられたのか?

 

「酷い言いようだなぁ。この分だと次の陸戦格闘講義の実技は手加減出来ないよ?」

 

冗談とも本気ともつかない口調でチュンは語る。

 

「おいおい、無理するなよ?こっちは陸戦格闘戦は結構自信あるんだぜ?」

 

 地上戦の機会が多い事もあり、亡命軍は陸上戦闘を重視しており、幼年学校でも戦斧術に狙撃、砲術、爆発物、野戦通信、車両運転……どの分野もそれなりに嗜んでいる。簡単に負けるつもりはない。

 

「それはやってみないと分からないよ?」

 

しかし、チュンは妙に自信ありげに語った。

 

 

 

 

 

 

 同盟軍の装甲服といえば原作の白色基調の重装甲服が思い浮かぶだろう。しかし、同盟軍の中においてあれを使用しているのは宇宙軍陸戦隊と地上軍の機動歩兵隊くらいの物だ。実はあれ結構高級品なんですよ。低出力ブラスターを弾き真空を含めた全地形対応型の重装甲服は一部の精鋭部隊用だ。大抵の歩兵部隊は西暦時代と同じく防弾着に迷彩服、鉄帽、あるいは熱帯や寒冷地用にそれぞれ特化した軽装甲服だ。戦斧振り回しているのはエリートなんだぜ?まあ、そうでもなければあんなグロい斬り合いなんて出来ねぇしな。

 

 そしてこの重装甲服……地味に重いし着心地悪い。原作で2時間程度が装着の限界と言っていたのも納得である。

 

「よおし、次のペア上がれっ!」

 

 重装甲服に身を包んだ陸戦技の若手教官、ジャワフ中尉が訓練用トマホーク片手に命令する。

 

 訓練場では重装甲服を着た学生達が訓練用トマホークで楽しく戯れていた。訓練用のためフリカッセが生産される事こそ無いが戦端には電流が流れる仕様だ。死亡は当然として怪我する程では無いが静電気で痺れるくらいには痛い。まして静電気と違い攻撃を受ければ連続でその痺れが襲い掛かってくるので地味に皆本気だ。

 

「はっ、チュン、本気か?いや、正気か?これでも幼年学校での戦斧術は28位なんだぜ?」

 

 私は相対するチュンに尋ねる。亡命軍幼年学校では、数少ない私の戦績上位の科目だった。実家に装甲服と戦斧が完備、現役の装甲擲弾兵が子供の私にガチ目で訓練相手していたからな。厳しくて涙目だったぜ。

 

「私も別に馬鹿にされるのは構わないんだけどね。ゲテモノは承知でもパンが馬鹿にされるのは許す訳にはいかないさ」

「お前出る作品間違えてね?」

 

 東洋の島国で最高のパン職人を目指す漫画に出た方が良いぞ?

 

戦斧を構え私はチュンと相対する。

 

「まあいいさ。この訓練の結果も成績に反映されるんだ。精々私のポイント稼ぎの相手になってもらうぜ!」

 

 そう言って私は戦斧を振り上げ襲いかかる。帝国軍の地上部隊の精鋭装甲擲弾兵にみっちりしごかれた私の格闘戦技術を存分に見せて……。

 

「や……る…?」

「遅い」

 

斧を振り下ろした先にチュンの頭は無かった。

 

「はっ!?」

 

 横合い、ヘルメットの死角から襲いかかるチュン。アレっ?ちょっと動き早すぎ……。

 

「うおっ!?」

「良いセンスだ」

 

襲い掛かる戦斧の連撃を私は紙一重で受け止めていく。

 

「うおっ!?ちょっと待て、早、いやガチで…!?」

 

私は咄嗟に後退して距離を取ろうとする、が……。

 

「スネエエエェェク!」

「あかん!それ以上はあかん!」

 

本人だけど本人がじゃないから!?

 

「ふっ、タフな男よ……」

 

 嵐の如き攻撃を防ぎきる私に斧を振り回しながら語るチュン。いや別のキャラならいいわけでもないから!

 

「だが……甘いっ!」

 

足技を使い押し込まれる私の姿勢を崩すチュン。

 

「うおっ!?」

 

 転んだ私に振り下ろされるトマホーク。体を回転させてギリギリで避ける。

 

「それで良く10年も生き残ってこられたな」

「ちょっ……それ以上は無しで!世界観壊れる!」

 

そんな私の懇願は聞き入られる事は無い。

 

「沈めェ!」

 

 どこぞのソロモンの悪魔な台詞と共に顎に衝撃を受けた私は気を失った。

 

 

 

「いやぁ、実は酔拳を嗜んでいてね。訓練の前にウィスキーボンボン食べまくって良かった。どうだい?記憶無いけどなかなかの腕だっただろう?」

「ガチで次元が曲がるから止めて下さい」

 

 一つだけ分かった事はチュンに陸戦をやらせるな、と言うことだ。実力では無く世界観的に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「オケアノスにいってもいいのだぞ?」
「ドーピングコンソメスープだ」







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