帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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不良学生のスカウトは簡単な事だと思ったか?
第二十五話 マナーは大事、古事記にも書いてある


 ワルター・フォン・シェーンコップは宇宙暦765年帝国暦455年7月28日に銀河帝国皇帝直轄領惑星ハイルブロンにて帝国騎士シェーンコップ家の次男として誕生した。

 

 シェーンコップ家は元を辿れば第2代皇帝ジギスムント1世の御世まで出自を遡れる。

 

 ルドルフ大帝死後、銀河帝国全土で勃発した2年にも及ぶ大反乱。帝都オーディンにもその戦火は及び帝都に対して旧銀河連邦軍残党に帝国軍内の共和主義者、民兵や武器を持った奴隷や農奴による反乱軍300万が侵攻を開始した。

 

 帝国軍60万はノイエシュタウフェン侯ヨアヒムの指揮の下近衛軍を中核に反乱勢力を迎え撃つ。

 

 ルドルフ大帝に選ばれた貴族達は精神性はともかく、少なくともこの時代においては確かに優秀であった。ノイエシュタウフェン侯は冷静沈着な判断力で反乱軍の攻撃を7度に渡り粉砕し3ヵ月の間帝都を維持する。そこに地方反乱を鎮圧して救援に来たエーレンベルク伯爵率いる宇宙艦隊の艦砲射撃とリッテンハイム伯爵率いる地上軍100万の降下によりオーディンにおける反乱の勝敗は決した。

 

 勝利に湧く帝国軍、ノイエシュタウフェン侯は帝都を守り抜いた兵士達を賞賛し、自ら前線に足を運び兵士達に慰労の言葉をかける。

 

 だが、そこに反乱軍の残党が帝国兵に紛れ侯爵に襲いかかった。銃口を向けられた侯爵は死を覚悟した筈だ。

 

しかし……銃声と共に倒れたのはその場にいた一少尉だった。

 

 咄嗟に侯爵の盾になり撃たれた少尉。下手人を射殺した侯爵はすぐにこの士官を治療するように命じた。

 

 反乱集結後、新無憂宮で行われた論功式の場には煌びやかな礼服に身を包む若い少尉も参列していた。神聖不可侵なる銀河帝国皇帝の父にして帝国宰相をその身を挺して守った功績に帝国は褒賞を惜しまなかった。

 

 式典において新たに帝国貴族に任じられたのは500名に及ぶがその殆どは帝国騎士や従士等の下級貴族か一代貴族、爵位を持つ門閥貴族に任じられた者は僅か7名、シェーンコップ男爵家はその名誉ある家の一つであった。

 

 しかし、代々武門の家柄として帝国に厚く仕えるシェーンコップ男爵家も時代が下ると共にその武門の家としての矜持は失われ、歴代当主は芸術的な肉体の代わりに弛んだ脂肪の塊を備えるようになった。

 

 だが、何事にも例外はある物だ。あるいは遺伝子の突然変異か、シェーンコップ男爵家一門に新たな、そして優秀な分家が生まれた。第29代当主ディートリヒの庶子ミヒェルから始まるのが帝国騎士家のハインブロン=シェーンコップ家である。

 

 ミヒェルは本家の権威やコネがあったのを考慮しても優秀な軍官僚であったのは間違いない。軍務省経理局次長の地位は帝国騎士の地位から言えば望み得る最高位の地位と呼んでいい。

 

運が悪かった、としか言いようが無い。

 

 時代はオトフリート5世からフリードリヒ4世の御世に移り変わる頃である。皇帝への後継者レースを競っていたリヒャルトとクレメンツ権力闘争の直後である。

 

 フリードリヒ4世の即位と前後して粛清が始まった。尤も、両派閥の内強硬な一部の貴族家十数家の当主が殉死または自裁を命じられたほかは貴族達の血が物理的に流れる事は無かった(貴族達も血縁関係があるので族滅等の過激な処理は一部例外を除き忌避されている)。

 

 だが、官職を解任、あるいは閑職に回される者、辺境に島流しされた者、領地を没収される者、社交界から追放を受けた者は門閥貴族だけでも百近い数に上った。

 

 そして、ミヒェルの下にも一連の事件の余波は押し寄せた。

 

 

 マールバッハ伯爵家は元々2代続けて放蕩癖のある当主を輩出していたが決して無能と言う訳でも無く、蓄財こそしなかったものの官職と領地からの税収で貴族としては十分な生活を送っていた。

 

 しかし、クレメンツ皇太子を支持していたがためにミヒェルを軍務省経理局次長に推薦した伯爵は領地の大半を没収、官職も失い困窮していた。ある日、マールバッハ伯爵はミヒェルに商人への借り入れの連帯保証人となるように頼み込んだ。

 

 士官学校時代の同期であり自身の官職の推薦者であり元上司、何より貴族としての地位は格上と来ている。そんな人物に足に縋りつかれそれを振り払うなぞ帝国人にとって有り得なかった。

 

 実際、マールバッハ伯爵も返す望みはあったらしい。可愛い娘を成り上がりの下級貴族に嫁がせてでも借金を返済しようとしたのだから。門閥貴族にとってはそれは相当の覚悟がいる選択だった。

 

 だが、どうした事か。その資産家でもある下級貴族の男は嫁に迎えた娘が自殺した事を切っ掛けにマールバッハ伯爵家への送金を止めてしまった。元より政略結婚ではあったが、それは貴族社会ならばいつもの事。婿殿からすれば出来て当たり前の事すら出来ず挙句に自殺などと言う外聞の悪すぎる事をした嫁に立腹したのかも知れない。

 

 伯爵は抗議したが婿側は聞く耳も持たなかった。これが普通の門閥貴族であれば宮廷でも問題視され、婿が貴族達に連名で告訴されていた事だろう。

 

 しかし、マールバッハ伯爵家は没落しつつある家だった。縁者の貴族達も似たような困窮下にあり、長女、次女の婿は既に自裁を命じられこの世にいない身である。家臣達も必死に伯爵家を支えるが遂には従士家の中には餓死する者や絶望して自害する者、娘が身を売る所まで出ていた。

 

 そんな中でシェーンコップ家に連帯保証についた金を返せるか?出来る訳がない。

 

シェーンコップ家に商人達が返済を求めに来た。

 

 それでも、それでも唯の商人ならば貴族としての立場を使い返済の減額なり期間延長も不可能では無かった。商人の後ろ盾にカストロプ公爵さえいなければ。

 

 当時帝国の政財界で急速に力を伸ばしていたカストロプ公オイゲンは皇室の一連の事件により没落した貴族達の財産を禿鷹のように貪っていた。その魔の手がシェーンコップ家にも伸びていたのだ。

 

 本家たるシェーンコップ男爵家も家の名誉にかけて分家を守ろうとしたが公爵と男爵の差は隔絶していた。男爵家で2ダースの使用人の事故死と1ダースの従士が病死した後では男爵家は分家を助ける事を諦めざる得なかった。

 

 土地も、屋敷も、収集した美術品や工芸品も、家の婦人に代々伝わる装飾品や衣装も、縋りついてでも守ろうとした皇族から賜った家宝まで奪われた。

 

 怒り狂った息子が数名の部下とカストロプ邸に抗議に向かったきり帰らず、息子の嫁は恥辱に耐えきれず毒を煽って自決した。

 

 ここに来て最早失う物の無くなったミヒェルは年老いた妻と息子夫婦の二人の子供を連れて同盟に亡命した。

 

尤も、そこも楽園とは言い難かったが。

 

同盟の入国管理官達は冷たい視線で彼らを迎えた。

 

 当然の事だ。同盟では昔から人種や宗教、思想による弾圧を受け亡命してきた者は比較的好意的に出迎えた。だが、政争に破れた貴族、あるいは借金取りや警察から逃げる債務者や犯罪者はその限りではない。

 

 ましてシェーンコップ家の経歴と亡命理由(経済的理由と判断された)から見て温かく迎え入れられる筈もなかった。

 

 入国後、貴族社会に嫌気が差したのか、あるいは社交界に参加する費用すら無かったためか、ミヒェルは亡命政府と距離を置いて共和派の多いクロイツベルク州の小都市バーデンに引きこもった。自立党と立憲君主党の支持者の衝突に巻き込まれ投石を頭に受け死亡したのは5年前の事だ。

 

 シェーンコップ家の長男アルブレヒトは誇り高く、騎士道精神に溢れた男だった。堕ちた家名の名誉を取り戻すため彼は亡命軍に入隊し、惑星ティトラの地上戦で壮烈な戦死を遂げた。

 

 一族で残されたのは老いた祖母と次男ワルターのみ。その祖母も昨年風邪を拗らせて病院にも行かずそのまま病没した。

 

 シェーンコップ家の困窮具合を見かねた州の役人が取り計らいクロイツベルク州の郷土臣民兵団(ランドヴェ―ア)の事務職を得て一年。そこから先週自費で同盟軍士官学校第一期試験を受け見事314位の席次で合格したワルターはしかし、何を考えたのかその直後に士官学校を辞退しようとしていた……。

 

 

 

 

 

「と、いう訳なんです。背景からして口の回らない私一人では少し説得が難しそうなんですよ」

 

 休日の昼頃、士官学校の野外練習場で戦斧格闘術の個人レッスンを受けていた私は休憩時間が来ると共に重装甲服のヘルメットを脱いでベンチに座る。

 

 横合いからベアトが恭しくスポーツ飲料を差し出すのでヘルメットを置いて受けとる。

 

「ふむ、成る程な。クレーフェ侯の使いを宜のなく追い返した事も踏まえると到底我ら門閥貴族を快く思っていないだろう、と言う訳ですな?」

 

 指南役のリューネブルク伯爵(どこからか私がチュンにノックアウトされた事を聞いて個人レッスンに誘うようになった)は、同じく重装甲服のヘルメットを脱ぐと従士に渡して濡れたタオルを受けとる。

 

「まぁ、そう言うことです」

 

 私は苦笑いを浮かべて返答する。リューネブルク伯爵に私はレッスンを受けながら先程まで相談をしていたところだ。その中で話題の人物の面倒な背景が見えてきた。

 

 ……実際は亡命政府や貴族そのものを嫌っていそうだが口にしない。口にした所で同胞の大半は理解出来るとは思えない。

 

 ワルター・フォン・シェーンコップ、今でこそ16歳のただの学生だが、私はその将来を知っている。「薔薇騎士連隊」第13代連隊長、同盟軍最強の兵士、イゼルローン要塞を陥落させた男、不良中年、正真正銘の英雄であり、原作で関わりたくない人物のトップ5に入るだろう御仁だ。

 

「若様、汗をお拭き致します」

 

 恭しく濡れたタオルで私の額や首元を丁寧に拭くベアト。しかしその表情は少し不快そうであった。

 

「その者は、帝国騎士で御座いますね?由緒正しきクレーフェ侯の命に背くなぞ……信じられません。同じ帝国下級貴族として恥じ入るばかりです。まして若様に御手数をお掛けさせるなどと……」

 

 ベアトは、口調からすらその怒りが滲み出ていた。良くもまぁ会ってもいなければ危害を加えられた訳でも無い奴をそこまで敵視出来るものだ。後、豚の奴は敬わなくてもいいよ?

 

「ふむ……確かに名誉ある帝国貴族としては少々非礼な御仁らしい。だが、才覚は確かである事も事実。才覚有る者が不遜な態度を取るなぞ古今東西珍しくも無い事だよ。そう過分に反応する事もあるまいよ、ティルピッツ伯爵家の従士殿?」

 

 窘めるようにリューネブルク伯爵がベアトに語りかける。ベアトはそれに対して小さく頭を下げて応じた。

 

「しかし旦那様、家格を考慮致しますと唯でさえクレーフェ侯の誘いの後、伯爵家の本家筋二名でたかが帝国騎士を訪問するのは……」

「同意です。両家の家格が軽んじられる事になりはしませんでしょうか?」

 

そう口にするのはリューネブルク伯爵の従士達だった。

 

 この年21歳のライナー・フォン・カウフマン士官学校4年生と20歳のエッダ・フォン・ハインライン士官学校4年生は共にリューネブルク伯爵家に古くから仕える、そして最早数少ない従士家の末裔だった。

 

 カウフマンは金髪の逞しい偉丈夫だ。硬い表情をしているが決して気難しい人物では無い。むしろ動物に好かれる事からも分かるが優しい気性の人物だ。装甲擲弾兵の家柄で伯爵家の護衛として代々仕えてきた者だった。

 

 ハインラインは逆に細身の女性だった。少し癖のある黒髪に同色の瞳は鋭く光る。表情は硬いというより乏しいというべきか。無論、こちらも別に他意がある訳では無い。以前一人でクレープを食べている姿を見つけたが相当惚けていた(言ったら多分泣き叫ぶから言わないが)。こちらは狙撃猟兵の家出身だ。

 

 双方共忠誠心の厚い人物だ。リューネブルク伯爵家の従士家の多くが断絶しただけに彼らの役目は一層重要であり、その分伯爵家の家名に関わる事には敏感のようだ。

 

「そうは言うが折角のティルピッツ殿が頭を下げて頼み込んでいるのだ。無碍にも出来まい?」

「それはそうで御座いますが……」

 

 ハインラインが歯切れの悪そうに答える。従士家ならば何よりも主家の利益のために動くべきだがこの場に頼み事をしている御本人がいるので余り非難めいた事は口に出来ないらしい。別に私が嫌いなわけでは無いのだろうが。

 

「それに聞くところによれば陸戦技術の成績が随分と高いそうだ。そうでしたな?」

「ええ、運動系の評価科目は全て受験生で20位以内です。総合では10位以内に入るのは確実です」

 

あの不良中年、この頃から規格外かよ。

 

「だ、そうだ。相当に優秀な男だ。いずれ間違いなく将官になるだろう。先行投資としてはなかなかの優良株では無いか?」

 

リューネブルク伯爵が冗談気味に尋ねる。

 

「それは一理御座いますが………」

「それに……有能な陸兵の存在は今の我々には望ましい」

 

その表情には微かな憂いがあった。

 

 リューネブルク伯爵が「薔薇騎士連隊」への入隊を希望している事は承知の事実だ。そして士官学校の教官達からも、亡命政府の同胞からも反対されている事も。

 

「薔薇騎士連隊」の別名で有名な独立第501陸戦連隊は亡命者とその子弟で構成されている陸戦部隊として有名だ。

 

 しかし、亡命者子弟や投降兵からなる部隊はほかにも同盟軍内では幾らでもある。独立第64山岳連隊「帝旗連隊」、独立第108機甲旅団「鉄衛騎士団」等は人員の7割、戦闘部隊に限れば完全に帝国系の者のみで編成されている。これらの部隊は亡命政府のロビー活動で編成された部隊であり一種の軍への影響力拡大、あるいは政治宣伝を目的で結成された経緯がある。

 

 「薔薇騎士連隊」の隔絶した勇名はあくまでその比類なき戦果と消耗率から来たものだ。帝国系部隊は宣伝目的もあり危険な戦線への投入自体は一部の例外部隊を除いて当然である。だが「薔薇騎士連隊」はそんな帝国系部隊の中でも群を抜いている。

 

 半世紀の間に受章された名誉戦傷章は全同盟宇宙軍陸戦隊最多、年度末最優秀陸戦部隊賞に21回受賞、自由戦士勲章受章者は108名(死後受章含む)、戦死率は同盟地上部隊の2倍、帝国系部隊の平均でも4割増しだ。

 

 なぜそこまで激しく戦うのか?その理由は「薔薇騎士連隊」の構成員に求めることが出来る。

 

 「薔薇騎士連隊」は同盟社会における亡命貴族のイメージ向上を目的に結成された部隊なのだ。

 

 そのため構成員の多くがフォンの付く貴族階級出身者からなっていた。特に帝国騎士や従士階級が多いこともあり、文字通り騎士道精神に溢れた戦士の集団として激しい戦場でも怯まず、恐れず、戦い抜くその姿はまさに誇り高い帝国貴族の高尚な精神の体現者だった。少なくとも当初は。

 

 その戦果から同盟軍は積極的に危険な戦線に「薔薇騎士連隊」を投入した。イメージ戦略用の宣伝部隊としての役割を理解しているとしてもその扱いに隊員の中で不満が溜まるのは必然であった。しかも協同する他の同盟軍部隊から亡命貴族出身者の宣伝部隊である事、待遇や補給の面で厚遇を受けている事から敵視される事が多かった。

 

帝国軍情報部の付け入る隙がそこにあった。

 

 惑星カキンで5倍の敵に包囲された薔薇騎士連隊第1大隊は第3代連隊長ディーター・フォン・アードラー大佐以下311名が降伏、その後亡命した。亡命の理由は同盟軍司令部による度重なる危険任務への酷使と慢性的な他部隊からの嫌がらせ行為、そして帝国軍情報部からの帝国貴族復帰も含めた恩赦であったと思われる。

 

 当時両軍の壮絶な係争地であったカキンにおいて薔薇騎士連隊は何と28か月に渡り前線勤務に貼り付けられていた。それは現地司令部が彼らをそれだけ頼りにしていた事であり、同時に酷使していた事を意味する。

 

 その後は雪崩現象だった。暫定的に第4代連隊長となったデニス中佐は2週間後に逃亡、次のカスパル中佐は1個小隊の部下と共に帝国軍陣地に駆けこんだ。既に薔薇騎士連隊の士気と軍規は誇りや名誉だけでは立て直せない所にまで来ていたのだ。

 

 同盟軍上層部が事態を察して憲兵隊が監察に来た時、部隊の状況は悲惨の一言だった。派遣当初2570名を数えた連隊員の内負傷者を含めた生存者は僅か997名だった。2年以上も砲弾が雨のように降り注ぐ前線の地下基地に潜み、食事はレーションばかり、夜襲に備え睡眠は禄には取れず人員の3割がPTSDに掛かっていた。最早部隊として機能しているのが信じられない状態であった。

 

 同盟軍司令部は現地司令部を入れ替えると共にすぐさま連隊の本国帰還を命じた。戦死者は全員2階級昇進、生存者は1階級昇進、勲章の授与は惜しまず、一時金の給付が行われ、スパルタ市にある同盟軍第1軍病院で最高の待遇で療養を受けた。

 

 同盟軍としては出来得る限りの厚遇と配慮をしたのだろうが、この時点で同盟市民の連隊への疑念、そして連隊員の同盟軍への不信感は後戻り出来ないレベルであった。

 

 その後も数度の亡命事件を始めとしたスキャンダルで亡命政府の後ろ盾も消え部隊は廃止寸前の危機にあった。

 

 第8代連隊長コンラート・フォン・リューネブルク大佐が連隊の名誉を取り戻した。隊内の軍規を正し、卓越した指揮能力と政治力、そして超人的な勇気で功績を立て続けに上げ連隊を再び同盟軍有数の精鋭に、そして騎士道精神に溢れた高潔な戦士団に鍛えぬいたのだ。

 

 尤も、そのリューネブルク大佐は9年も前に戦死したが。

 

 今の薔薇騎士連隊は再び弱兵の集団に堕ちつつあると言う。連隊長席は事実上の空席、部隊は大隊や中隊単位で分割され、連隊司令部は名目上のものになりつつあるらしい。

 

「私は「薔薇騎士連隊」を再びかつての誇り有る騎士団に戻したい。父上が仰っていた。同盟市民にとってあの連隊は亡命者の象徴だと。同胞達のために私はあの連隊を同盟市民に認められる高潔な部隊にしたいのだ。そのためには優秀な陸兵は一人でも多く欲しい」

 

リューネブルク伯爵は従士達の方を向く。

 

「カウフマン、ハインライン、貴官らの危惧は理解する。だが、私は自身の名誉では無く同胞の名誉のために彼のシェーンコップと言う者を招きたいと思う。どうか分かって欲しい」

 

従士達を力強く見つめるリューネブルク。何こいつ、イケメンかな?

 

「そう仰られるのでしたら私が言う言葉は御座いません」

「は、はい!旦那様の高潔な志、感服致します!どうか、我々の浅慮な考えをお許し下さい」

 

カウフマン、ハインライン両従士は深々と心服するが如く頭を下げる。

 

「うむ、そういう訳だ。少なくとも私はティルピッツ殿と共にシェーンコップ氏を説得する用意がある。卿が家格から見て気が進まないのならばもうすぐ卒業する身であるが私一人で行っても良いが、どうかね?」

 

リューネブルク伯爵が私に話を振る。

 

「え?あ、はい。私としても伯爵の御協力を得られたら幸いの事です。どうぞよろしくお願い致します。良いな、ベアト?」

 

 私は、先程まで不満気だったベアトに聞く。尤もベアトの答えは既に決まっていた。

 

「はい、全ては若様の御考えのままに」

 

 品のある声で微笑みながら礼、そして次にリューネブルク伯爵に向け頭を下げる。

 

「リューネブルク伯爵様。このベアトリクス・フォン・ゴトフリート、大変安直な考えで反対していた事をお詫び申し上げます。どうか、若様に御助力して頂けないでしょうか?」

「そう、気落ちせずに良い。従士殿。ティルピッツ殿の申し出はむしろ僥倖です。私からもどうぞティルピッツ殿には頼って頂きたい」

 

 微笑みながら伯爵は私に向く。私は少しだけ顔を引き攣らせつつ、笑みを浮かべ答えた。

 

「はい、ティルピッツ伯爵家の跡取りとして改めてリューネブルク伯爵の助力、感謝致します」

 

門閥貴族的に私は完璧な礼節で答えた。

 

………門閥貴族間の約束事って面倒臭いなぁ、等と思いました。

 

不良中年に合う前に胃に穴空きそう。

 

 

 








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