帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第三十二話 運転免許くらいは就職のために取得しよう

「………」

 

 薄暗い部屋の中で少女……ローザライン・エリザベート・フォン・クロイツェルは緊張しながら周囲の様子を伺う。両手首と足首に電磁錠を掛けられ柱に固定された形で座り込む彼女は酷く震えて、さながら嵐の夜に雷に怯える小動物のように縮こまっていた。

 

彼女は朧気な記憶を辿る。

 

 あれは今日の事か?それとも昨日?もっと前?少なくとも半日以上は経っている筈だ。

 

 朝早くから侯爵様の屋敷から出て例のレストランに向かっていた。場所もそうだが時期が時期だけに止めた方が良いのではと屋敷の使用人が言っていたが彼女は気にも止めていなかった。もう何度も歩いた道であったし、惑星ハイネセンの治安は……特にテルヌーゼンの治安は下町であろうとも悪いわけではない。少なくとも重犯罪がそう頻発する街ではない。

 

 どこぞの街でテロがあったなんて話もあるが所詮は別の大陸の話だ。そもそもハイネセン以外ではアルフォードしか住んだことの無い彼女は治安に関する関心自体が低い。

 

 唯でさえ星系刑法が厳罰主義の上、それこそ曲がり角事に一台監視カメラがあり、普段から馬に騎乗したり行進しながら星系警察が街を巡察するヴォルムスの治安は同盟においても相当良い方だ。社会の安寧と秩序を乱す恐れがある者は秩序教育法の下子供の内から矯正される。一部の共和派自治体を除けば浮浪者や孤児は救貧法や奉仕法の下で警察に労働施設に連行されるので貧困から犯罪を犯す者も滅多にいない。

 

 星系の外では監視国家やら刑務所惑星、人権制限社会などと言われているとも聞いた事があるが少なくともクロイツェル個人からすれば特に不満は無かった。

 

 それこそ余程の事……帝室や門閥貴族の馬車に生卵を投げるような加害行為でも無ければ令状無しで逮捕される事はまず無いのだ。電話の盗聴や郵便や荷物の検閲もあくまでテロや犯罪対策のためである。善良な一般人が謂れの無い罪で拘束される等そうそうある事では無い。同盟メディアが勘違いしている事が多いが労働施設だってかつて社会秩序維持局が異常者隔離法の下に放り込んだ強制収容所のような劣悪な環境では無かった。年齢や健康状態の下に適性な労働(平均10時間)が割り当てられ、休日と娯楽こそ少ないが栄養価の計算された食事とシャワー、狭いが冷暖房のある個室も提供される。同盟辺境のスラム街での暮らしよりは遥かにマシだ。

 

 少なくとも星系政府の施政の恩恵により星民の大半は昔から犯罪に巻き込まれる、などと考えた事も無かった。

 

 故にいきなり後ろから捕まえられた時恐怖から叫ぶよりも先に何が起こったか分からず茫然としていた。尤もすぐさま口元を布のような物で塞がれ、気を失ったが。

 

 次に気付いた時には薄暗い部屋でこのように囚われていた。周囲には黒い三角帽子を被った人々がカメラを見ながら何やら話していた。同盟語であるのは何となく分かったがその意味は今一つ分かりにくかった。目覚めたばかりで頭が回らなかった事もあるがその言葉が古い文法であった事もある。アルレスハイム星系では帝国公用語と同盟公用語が共に必修であるので田舎はともかく、大抵の都市市民は少なくともある程度の意思疎通が出来るくらいには同盟語が扱える。

 

 だが、それはあくまで俗にベーシックとも呼ばれる政府公文書や国営テレビ放送で使われる同盟公用語である。

 

 同盟語も2世紀半の間に口語や文法、綴りが変化している。現在の同盟公用語はアルタイル星系の長征組の使っていた旧銀河連邦に認可された連邦公用語の一つであるグリームブリッジ語(旧グリームブリッジ民主共和国公用語)と呼ばれるものを基に旧銀河連邦植民地の各方言、帝国公用語等の影響も受けたものだ。そのため実の所、現在の同盟公用語は、300年前にアーレ・ハイネセン達の使用していたそれとは似ても似つかないものだ。

 

 耳に入る言葉が古臭く(さらに言えば彼女には奴隷や強制労働者のような下層民の使う汚い言葉に聞こえた)、正確にその意味合いを理解する事こそ出来なかったがそれでも断片的に読み取れる単語だけで自分が余り良くない状況にある事が分かった。

 

同時に血の気が引いた。

 

 自分を人質にしている事は分かった。だが……その事を皆が考慮してくれるとは到底思えなかった。

 

 帝国人の考える有能な警察官は潔癖であり、秩序の維持と早急な回復する実行力、その壊乱者への徹底的弾圧と見せしめによる追従者の防止するという固い信念である。恒久的な平和の維持のためには犯罪者への配慮も妥協も一切不要、長期的な社会秩序と臣民の保護のために少数の不運な人質の犠牲は考慮に値しない。

 

 かつてカッファーで左派系テロリストが帝国人街にあった市民会館にて行われていた右翼市民団体の集会に乱入して300名以上を人質となった事がある。交渉を求めたテロリスト側に対してカッファー星系警察の現場指揮官はその要請を無視して即座に特殊部隊による突入を指示した。装甲車が市民会館に何台も突入し、警官隊は催涙ガス弾が雨あられのように撃ち込んだ。完全武装の特殊部隊には抵抗する者の警告なしの射殺が命じられていた。

 

 最終的に21名のテロリスト全員と3名の警官、11名の市民が死亡したこの事件は、同盟マスコミの現場指揮官に対する激しい非難に繋がった。犯罪者とはいえテロリスト全員を降伏を認めず射殺した事、市民の巻き添えによる死亡者が出た事がやり玉に挙げられた。

 

 帝国系移民の血を引く現場指揮官の謝罪会見における発言内容は聞いた者を驚愕させた。彼は犯罪者の中から情報を聞き出すための相手グループ指揮官の確保失敗、及び3名の警官死亡の責任について鎮痛な表情で深々と謝罪したが残りのテロリストと市民の犠牲については気にする事すらしなかったのだ。

 

 その現場指揮官が星系警察でも優秀かつ汚職とは無縁であり部下の人気が高かった事、帝国系市民から数十万に及ぶ擁護の電子メールが来た事が一層同盟主要マスコミを唖然とさせた。

 

 ようはそれが通常の帝国人メンタルなのだ。最低限門閥貴族でなければ人質とすら認識されない。

 

 彼女が家族と住んでいた頃、先ほどの事件をテレビで聞いていた時人質について運が悪いなぁ、等と思っていたが御近所や友人には優しい性格だと良くいわれたものだ。

 

そんなわけで……確実に助けなぞ来ない事をこの時点でクロイツェルは確信してしまった。

 

 故に彼女の生還のためには独力での脱出が必要であったのだが……それが出来るかと言うと不可能と言えた。

 

 電磁手錠は力づくでどうにかなるものでは無い。引き千切る前に腕が千切れる事請け合いだ。そもそも、薄暗い部屋の入り口に見張りがいた。傍の小さなテーブルと机に座る二人組。黒い衣服に三角帽を卓上において、古臭いテレビを見ながらカードゲームに興じていた。耳を澄ませば微かに会話が聞こえる。

 

「こ……慌て……老害……後は………」

「まだ……おい、それ………動員………」

 

 現代風の同盟公用語だった。あの古い同盟語はカメラの前だから言っていたのだろうか?

 

「……どうしよう」

 

 そう口にしても実際問題出来る事は無い。プロの軍人ならともかく、唯の子供に何を求めると言うのか?

 

「……あぁ、本当なんでこうなるのぉ?」

 

 今にも泣きそうな声で呟く。今度御払いしてもらおうかな?などと本気で思った。尤も、今度があればの話ではあるが……。

 

 

 

 

 

 

 自動車の自動運転技術は枯れた技術だ。西暦時代の13日戦争以前には既に原始的なAIを用いた自動運転は実用化されており、トラックやタクシー、バス等の公共性の高い分野では少なくない車両で使用されていた。その誕生から約1600年経った現在においてはプログラムは洗練に洗練を重ねており通常どのようなアクシデントが起ころうとも事故が起きる事は、それこそテロでも起きない限り滅多に無い。

 

 その信頼性は黎明期には機械に運転させるのは危険だ、等と言われたと言うが宇宙暦8世紀においては逆に人間に運転させるのは危険だ、と言われている程である。

 

 だが、それでも軍用車両は全て、民間車両でも半数以上は緊急時のマニュアル運転用運転席があるし、同盟軍人は所謂運転免許の取得は軍務につく上で今でも必須となっていた。

 

 幾ら完成されたプログラムもそれは何らの妨害の無い状況に置いての事だ。現在の無人運転においては惑星上空の地上観測衛星、惑星地上の交通管制センター、周辺車両等との相互干渉ネットワークによる情報交換が不可欠であった。そしてそれらはいざ惑星上で戦闘になると電波妨害やハッキング等の電子戦、或いは施設の物理的破壊により機能の大半を失ってしまう。スタンドアローンでも運転可能ではあるがその信頼性はかなり下がる。自動運転技術はあくまで平時の、あるいは銃後の安全地帯であるからこそ使用可能な技術であった。

 

 尤も、日常で好んで車を運転したがるのは帝国人くらいのものだが。

 

「ん?シェーンコップさん、どうしました~?お姉さんの顔に何かついていますか~?」

 

 運転席から後部ミラー越しにこちらを見る視線に気付き、レーヴェンハルト曹長はニコニコ笑みを浮かべながら尋ねる。

 

「……いえ、直に運転する人は珍しいものでしたから」

 

 淡々とシェーンコップは答える。嘘では無い。一般的な同盟人は軍務でも無ければマニュアル運転なんて録にしない。

 

 元々旧銀河連邦末期から高級ホテルやリゾート地では富裕層向けに機械に代わって人を使うクラシックな……悪くいえば原始的で非効率的なサービスを行うのが一種の流行であった。

 

 そこにルドルフ大帝の「機械に頼るのは惰弱の証左、真の強者は自身の体で全てを為す」と言う遺訓が加わり帝国人は同盟人と違い自動運転を嫌い自身や臣下に運転させる傾向が強い。自動車の普及率では同盟の方が圧倒的なのに運転技術を持つ者は帝国人の比率の方が上という調査結果もある。

 

 尤も、シェーンコップのどこか警戒的態度は別の意味もあったが。帝国には運転中に使われる自動車戦闘術や自動車暗殺術がある。自動車事故で政敵が死亡する事は帝国ではちらほらある事であった。

 

「……安心して欲しい。レーヴェンハルト曹長は航空機だけでなく各種の車両運転技能も完備している。一般乗用車の運転技術も特級だ」

 

 だから警戒しているんだ……そんな本音を殺して不良学生は隣の席に座る男を見やる。

 

 身長は190センチメートルはあるだろう、中年の肩幅の広い男だった。皴の深い顔に刃物のように鋭い視線、険しい表情、良く見れば顔の所々の肌の色が僅かに違う。それは負傷した皮膚組織を人工皮膚細胞に張り替えた跡であった。

 

『……同盟公用語が苦手でしたら帝国語を御使いになっても宜しいですが?』

 

 流暢な宮廷帝国語でシェーンコップは答える。相変わらず惚れ惚れするような言葉遣いであった。

 

『……失礼致します。恐縮ながらレーヴェンハルト曹長と違い私は無学な物で御座いますので同盟公用語に精通していないのです。無礼な言葉遣いがあれば御容赦頂きたい』

 

 男……銀河帝国亡命政府軍装甲擲弾兵軍団・第1親衛師団「エインヘリャル」所属ヨルグ・フォン・ライトナー大尉は頭を下げ同じく丁寧な宮廷帝国語で礼節のある、しかし極めて義務的口調で答える。

 

 ワルター・フォン・シェーンコップは今現在、亡命軍のハイネセン活動のための人員輸送用の車の中にいた。外面こそ同盟の一般的大衆用乗用車であるがそれは同盟の大手自動車メーカーから車両デザインのみレンタルしたものだ。車体は実弾銃やブラスターにもある程度耐えられる強靭性があるし、タイヤだって大口径対物ライフルを受けても数時間は走れる。エンジンの性能は大衆用のそれにしては余りにも過剰だ。マジックミラーで隠れた車内が確認出来ればそこには各種のデジタル液晶画面がずらりと並んでいる。電波妨害やハッキング対策が為され、強力な通信妨害にも耐えうる軍用無線機が添え付けられている。到底善良な一般市民の乗り回すものではない。

 

『……別に構いませんよ。それより、何の風の吹き回しですかな?御協力は嬉しいが、貴方方は今ハイキングの準備に御忙しい筈ですが?』

 

ここでシェーンコップは彼らが自分に協力する理由について疑問をぶつける。

 

 カチコミに行く相手はかつて警察の抜き打ち調査で火炎放射器に地雷、対戦車ロケット弾や肩落ちとはいえ軍用装甲車まで隠し持っていた相手だ。目の前の輩も大概ダミー会社の倉庫に物騒な道具を隠し持っているだろうが少なくとも自分に構う暇なぞ無い筈だ。

 

『我々の行動は相互扶助会の、当然亡命軍の指示でもありません』

 

 淡々と、少し敵意を含んだ言い方でライトナー大尉は疑問に答える。

 

『我々はヴォルター・フォン・ティルピッツ様の個人的指示に従い行動中です』

 

 その答えに対して不良学生はさほど驚かなかった。亡命者相互扶助会や亡命政府の命令で無いのなら帝室か有力な門閥貴族階級の個人的指示でなければ彼ら実働部隊が動く事はあり得ない。それに運転手と大尉の顔には見覚えがあった。前者は店の窓硝子に張り付いていたし、後者は店のテーブル席で黙々と護衛として控えていた者の中にいた。と、なれば指示した人物でその可能性がある者は限られる。

 

尤も、想定していたとしても少し意外ではあったが。

 

『ティルピッツ様の御指示に従い我々はシェーンコップ様に協力し、クロイツェル様の救助をするよう仰せつかっております』

 

 実際既に彼の麾下の2個小隊の人員は同盟一般市民の服装と偽装車両を持ってシェーンコップの目星をつけた地域一帯を探索中だ。

 

『シェーンコップ様御一人では荷が重すぎる事です。どうぞ我々をご自由に御使い下され』

 

その言い回しにシェーンコップは鼻白む。

 

『別に無理してそのような事仰らずに良いのですぞ?その内心の不快な本音は良く認識しているのですから。どうです?もっと砕けた口で話しませんかな?』

『いえ、そのような事は御座いません。我々は軍人です。御命令に対して唯粛々と従うのみです。そこに感情の入る余地は皆無です』

 

顔の表情を動かす事なくライトナー大尉は答える。

 

『……戦場では、特に地上戦においては味方同士の信頼関係が重要と学んだのですがね。私としても貴方を信用していない。貴方も同様の筈だ。どうです?せめてわだかまりを解してから仕事をしたいでしょう?』

『いえ、そのような事は……』

『別に罵倒しようとも気にしませんよ?貴方の上司に報告しませんし、当然何を言おうとも貴方方の手を借りないなぞ言いませんよ。こっちも体面を気に出来ない立場ですからな』

 

 そう言って試すように大尉を見つめる不良学生。両者は静かな車内で数秒間互いを睨み合う。ミラー越しにレーヴェンハルト曹長はその様子を監視していた。

 

『……そうですか。では大変恐縮ながら御伝えしましょう。………余り粋がるなよ、糞餓鬼が』

 

 流暢な宮廷帝国語は平民階級の訛りを含んだ物に変化し、ドスの効いた声でシェーンコップを罵倒した。

 

『俺達はあくまで若様の御指示があるからてめぇに協力してやっているだけだ。本来ならばこれまで散々無礼を働いてきたお前さんを八つ裂きにしてやってもいいんだぞ?』

 

 貴族階級の使うものとしては非常に汚い言葉でライトナー大尉は答えていく。同じ貴族としても下級貴族、しかも従士家の中でも地上戦を担う家であるライトナー家の分家出身である。やろうと思えば主家や本家の名誉のために流暢な宮廷帝国語を話せるが地が出ればこのような荒々しい言葉遣いになる。

 

 ティルピッツ伯爵家に仕える従士家ライトナー家は代々衛星軌道上からの降下作戦や宇宙要塞攻略用の陸戦部隊を司る。その歴史は帝政初期にまで遡る事が出来、歴代の本家は陸戦隊の旅団長や連隊長の地位についていた。

 

 そのライトナー家の分家グライン=ライトナー家もまた代々下士官や尉官としてティルピッツ伯爵家私兵軍や帝国軍宇宙軍陸戦隊、地上軍、装甲擲弾兵軍団に所属していた。本家はともかく、そこから枝分かれした分家の一つである。宮廷の警備や主家の護衛の一員として随行する事はあっても大貴族の淑女と口を聞く事は無いし、社交界に出る事も無い。そんな暇があればいつでも主家からの動員に答えられるように戦斧の鍛錬をしている。

 

『俺のような学の無ぇ軍人は何も考える必要は無ぇ。唯主家や本家の命令通り目の前の賊共を処分していけばいいだけだ。それは分かっている。だがなぁ……それでも気に食わねぇ事はある!』

 

 全てを決断し、国を導くのは強靭な意思と思慮深い知恵を有する帝室と門閥貴族、帝国騎士や従士家はその手足としてその指針を実現すべく実務をこなし、自身で考える意思も能力も無い愚民……平民達は哀れな子羊の如くその指導に導かれるべきである、帝国開闢以来の古き良き伝統を当然の如くライトナー大尉も信奉していた。

 

 だからこそ忠義深く従士としての義務を果たし、勇気ある軍人としての義務を果たし、善良な帝国臣民として選挙で主家と与党への投票の義務を果たしてきた。主家の命令ならばどのような命令であろうとも疑う事無く、その実現のために全力を尽くすのは良き帝国人としても、アーレ・ハイネセンの理想実現からも当然の判断だ。

 

『だから我慢しているが、貴様の態度は見ているだけでも耐えられねぇ……!』

 

 自由・自主・自尊・自律……偉大なるルドルフ大帝が唱えた全人類の指導者に必要な資質であり、国父アーレ・ハイネセンも目指すべき理想として提唱した四概念、その体現者たる門閥貴族が、しかも主家の次期当主が態々足を運んでいるというのにあのふてぶてしく人を食ったような態度は何か?

 

 本来ならば自身の下に足を運んだ頂いた事に感涙し、その御言葉を拝聴し、その御命令に寸分違わずにお答えするのが当然の行動では無いか?

 

『貴様は確かに優秀なのだろうな。士官学校試験の成績も上等らしいしな。だが、だからと言って自惚れるなよ?貴様は我々亡命軍やティルピッツ伯爵家の陸兵が腰抜けか無能の集まりだから若様が自分を高く買っているとでも思っているのだろうが、そんな事は無ぇ。我々は全員死なぞ恐れない戦士の集まりだ。貴様程度の実力者は幾らでもいる……!』

 

 地上戦部隊に限れば装備の質も、兵士の士気や練度も帝国軍どころか同盟軍すら上回るのが亡命軍である。上官の命令であれば例え十重二十重に張られた防衛線を一切恐れる事無く突撃するし、絶対死守命令が出されれば文字通り最後の一兵卒に至るまで徹底的に抗戦する。例え腕を失おうとも、銃弾を全身に浴びようともひるまずに目の前の敵を刺し違えてでも仕留める、降伏なぞ有り得ない。亡命軍の有する特殊部隊はどれほど無謀な作戦であろうとも躊躇なく成功させる事で有名だ。例え部隊が全滅したとしても。

 

 それは、正に古き善き銀河帝国帝国軍の黄金時代の姿だ。後退せず、屈服せず、降伏せず、最後の一人になろうとも戦いを止めない、それこそが常勝無敗、一騎当千の帝国軍の有るべき姿。オリオン腕の賊軍共は今や軟弱な烏合の集に過ぎない。亡命軍こそ真の帝国軍の伝統を受け継ぐ組織であり、そこに所属する兵士こそ真の帝国軍人なのだ。

 

 その戦いぶりから友軍たる同盟軍からすら恐怖、あるいは畏怖される亡命軍の陸兵の一員としてライトナー大尉は目の前の学生を威圧する。彼自身装甲擲弾兵として20年近くに渡り最前線で帝室と主家に奉仕してきた身だ。殺害した賊軍の数は優に3桁を数える。引き換えに左腕と右足が義手と義足に変わり、右側の肺は人工肺に交換され、鼻と数本の歯を失い整形しているがこの程度の喪失は安いものである。

 

 一方、歴戦の同盟軍地上軍兵士でもたじろぐ威圧を前にしてもシェーンコップは物怖じせず、寧ろ不敵な笑みで睨み返す。

 

 その態度にむかついたのか、鼻を鳴らして視線を逸らす。

 

『若様も、どうしてこのような奴を……。あれ程の侮辱を受けながらご配慮なされる必要なぞ無いのだ。ましてこのような事に協力せよと……。我々の身は兎も角、若様が御苦労なされるのは理解していらっしゃるでしょうに』

 

 護衛目的で派遣されている以上自分達をどう使おうとも、どう使い潰そうともそれ自体はほかの門閥貴族から問題視される事は無い。

 

 だが、任務が任務であるから根回しが必要な筈だ。態々殆ど平民と同じような帝国騎士を救出するために関係各所に連絡する手間がどれ程のものか。これがせめて伯爵家の重要な従士家の者なら理解も得られるのだろうが……。

 

『ようは、俺の厚遇が気に入らない、というわけですな?』

 

 古くから仕える家からすればどこの馬の骨……とは言わなくとも、代々一族の血肉を犠牲に忠誠を尽くしてきたのに他所様がいきなり丁重に遇される、しかも相手は敢えてつれなくして自身の価値を吊り上げているように見えるわけだ。

 

 無論、不良学生はそのつもりは無いし、あの伯爵家の若造もそこまで考えていないだろう。だが、下がどう思うかは別だ。寧ろ帝国の宮廷で数多くある前例から照らせばこの程度の認識で済むのはまだマシな方だ。

 

『そういう事だ。貴様のせいで……いや、もういい。これ以上は蛇足だな。……無論、御命令で御座いますので最大限の努力を持って任務を全うさせて頂きますのでご安心を』

 

 言いたい事は言い切ったとばかりにライトナー大尉は口調も元に戻す。

 

『……もう、大尉、圧力怖いですよ~?私怖くて漏らしそうになったのですが……』

 

 ずっと黙っていたレーヴェンハルト曹長が半分涙目で口を開く。

 

『曹長、これは失礼しました。しかし曹長もしっかりして頂かなければ。この程度でたじろいでいては重要な時に護衛を出来ません』

『いやぁ~私は航空科ですものでぇ~』

 

生身の白兵戦は無理ですよぅ、と誤魔化すように笑う。

 

『いやいや、良いのでは無いですかな?淑女は戦斧を振り回すより笑顔を振りまいていた方が余程男性方には助かるというものですからな』

 

 貴方を淑女とすればですが、とは不良学生は言わない。年上のお姉さん風で顔は整っているが最初の出会いがあれなので到底恋愛対象にはなり得ない。

 

『淑女ですか、いやぁ照れますねぇ!私結構美人!?けど若様にも家族にも一度も呼ばれた事無いんですよ!う~どうしてかなぁ?』

 

 取り敢えず鏡を見ろ、不良学生と大尉は内心で同じ事を考える。

 

『はあ~、若様成分が足りない……。この際ベアトリクスちゃんでいいから抱き枕にして嘗め回したい。いや、舐め回したいっ!はぁ……せめてテオ君とネーナちゃんこっち来ないかなぁ?そうすれば……』

 

 そこまで口にして無線機からの着信を受け、レーヴェンハルト曹長はふざけた表情を止めてイヤホン型の無線機を耳に装着する。

 

『……ええ、そう……そう、分かったわ。バレない程度に監視しておいて。残りは念のために残りの区画を調査して。ええ……そちらはこっちでやるわ』

 

 無線を切った曹長はにこにこ笑みを浮かべて注目する後部座席の二人に答える。

 

『今、シェーンコップさんの仰る車があったそうですよ~?テルヌーゼン郊外のトレオン街第16区だそうです~』

 

同時に彼女の車は少々乱暴にその行先を変更させた。




アーレ・ハイネセンの語る自由・自主・自尊・自律は帝国貴族の模範にして大帝陛下の仰った人類指導者としての素質。選挙戦でそれを体現する門閥貴族階級に投票するべきなのは確定的に明らか。


亡命軍地上軍は装備と補給の潤沢な大日本帝国陸軍。万歳突撃しなきゃ(使命感)







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