帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第四十五話 こちらが考える事は大概相手も考えていたりする

「……おにいちゃん、なんかたいへんそーだなぁ」

 

 士官学校の庭でソフトクリーム片手に歩くフレデリカ・グリーンヒルは、野外照明から映し出されるソリビジョン映像を見ながら大して心配していないだろう口調で呟く。

 

 ヴォルター・フォン・ティルピッツ士官学校四年生の代表を務めるチームと、コーデリア・ドリンカー・コープ士官学校四年生の代表を務めるチームの試合が始まっていた。

 

 尤も、時折挟まる司会の会話を見るに彼女の知り合いの帝国貴族は余り順調では無さそうである。

 

「あー、そっちいっちゃったら駄目なのに………」

 

 ソリビジョンの中では、伯爵側の小部隊が数倍する相手側のチームと遭遇して砲撃戦を開始していた。数の差からすぐに勝敗は決まり、寡兵の艦隊は押され始めていた。

 

「あーあ、だからいったのにぃ……きゃっ!?」

 

 ソリビジョンの映像に気を取られてしまったのが悪いのだろう。余所見して歩いていた彼女は気付いたら何かにぶつかってしまった。

 

「うう……あ、そふとくりーむ……」

 

 尻もちをついた彼女が次に視界に移したのは地面に落ちてしまったソフトクリームだった。

 

「うぅぅ……」

 

 母親に買ってもらったそれの無残な姿に瞳を潤ませて嗚咽を漏らし始める。

 

 何という事だ!こんな事あっていい訳が無い!一体誰だ、余所見してぶつかってきたのは!

 

 そんな敵意を向けてぶつかった相手を視界に収めようと頭を上げる。そこにいたのは……。

 

「すたー…ぴー……ちゃん?」

 

 彼女が見たのはソフトクリームが腹の辺りにべったりとつき、頭を掻いて困ったようにする桃色のマスコットであった。

 

 

 

 

 

 

 

 アルレスハイム星系は恒星アルレスハイムを中心に9つの惑星とその周辺を回る41個の衛星、3つの外縁天体、約25万に及ぶ小惑星からなり、星系全体では小惑星帯等隠れやすい宙域もあるが、宇宙嵐等の災害も無く、基本的に航海上の問題の少ない正面戦闘向きの星系だ。

 

 人口分布でいえば亡命政府施政権内の人口の大半7200万が居住しており、内首星である第四惑星ヴォルムスは人口6500万を数える人口過密惑星の一つであり、そのほか星系内の惑星や衛星の軌道上にあるスペースコロニー、地表のドーム型都市、資源採掘基地等にまばらに市民は居住している。

 

 経済的には恵まれている。帝国から持ち出された貴族資産を使った金融業、移設されたプラントによる重工業(同盟はエレクトロニクス分野では帝国を上回るが鉄鋼業・化学工業分野の技術では帝国に一歩譲っている)、同盟軍や亡命軍向けの軍需産業、帝国式景観を利用した観光業、職人技やブランドといった高付加価値により同盟との競争を避けた農業や軽工業、豊かな星系内資源を使った資源・エネルギー産業等、産業の多角化に成功しており、市民の古式ゆかしい生活をしているため分かりにくいが、一人当たりGDPの平均は同盟平均を10~15%程上回る。

 

 特に最後の資源・エネルギー産業は正にアルレスハイム星系政府にとって幸運であった。コルネリアス帝の親征以前は同盟からの外貨獲得手段となり、親征後は戦後復興の礎になった。長らく同盟政府優位の固定価格による販売が続いていたが、それでも豊かな天然資源が無ければ貴族資産や重工業特許の数々の切り売りにより親征後の復興するほかなく、その後の経済発展は無かっただろう。

 

 実際、同盟では幾度か亡命政府の勢力拡大を阻止すべく、星系政府の有する資源開発基地の差し押さえが議論された事もある。尤も、同盟の防波堤たる亡命政府の弱体化への危惧、そしてそのほかの国境星系の反発により最終的には棄却されたが(国境星系群と亡命政府の経済的結びつきは強い)。

 

 そんな訳で、アルレスハイム星系は基本的に多くの人口と資源開発基地の存在から戦闘に市民を巻き込みやすく、戦場としては推奨されない星系だ。亡命軍は帝国軍の大侵攻の際に星系全土を舞台にしたゲリラ戦による徹底抗戦を想定しているものの、同盟軍のドクトリンからすればこのような星系で会戦を行おうなんて狂気の沙汰だろう。

 

 そこはやはり市民の保護を優先する同盟軍と、市民の巻き添えも犠牲も気にせず体制維持を優先する亡命軍の思想の差異に違いない。一般的な同盟市民は軍に見捨てられたら怒り狂うだろうが、亡命政府の市民は勝利の前での少数の犠牲は許容されるべきという教育を20世代に渡って受けている。

 

さて、それは兎も角………。

 

「チュン、デュドネイ、スコットはこの星系は余り分からんよな?」

 

 動揺から回復した私は必死に頭を回転させ状況を理解し、やるべきことを考える。

 

 自由惑星同盟の領有する星系はサジタリウス腕全体で十数万星系に及ぶ。実際には超新星爆発やブラックホール、時空震や宇宙嵐等の環境の影響により実際に技術的に管理可能・航行に適した星系は五万星系に満たず、偵察衛星等での観測・監視を行っているのはその中の八割程度、同盟軍や同盟警察が巡視活動をして恒久的管理が出来ているといえるのは一万八千星系、居住可能惑星や人工天体、ドーム型都市、資源開発基地が存在し多かれ少なかれ人間が居住する星系は三千を超える程度だ。しかもその内半数以上は人口一万に満たない鉱山基地である。

 

 実際問題、それら全ての星系での戦闘を想定なぞ出来やしない。同盟軍で迎撃訓練や研究の為されるのは有人星系や国境星系の中でも侵攻ルートに適した一部の星系、そして帝国の大侵攻に備えたドーリア星系やヴァーミリオン星系等領域内部の幾つかの迎撃予定星系のみ、実質的に入念に研究されているのは過去実際に戦闘の起きた極一部の星系ばかりだ。

 

 ましてや数回の戦闘しかなく、亡命軍の存在により同盟軍の戦闘する可能性の低いアルレスハイム星系での戦闘を士官学校の学生が研究している訳が無い。

 

……私のようなアルレスハイム星系出身でなければ。

 

「……ベアト、ホラント、ヴァーンシャッフェ、幼年学校でのお勉強は覚えているな?取り敢えずここは「基本計画18号」に沿って展開するぞ。チュン達はこっちが指示するからそれに従ってくれ」

 

 亡命軍は本土決戦くらい散々想定している。それこそ最悪亡命軍艦隊壊滅、同盟軍の援軍無しの状態で低周波ミサイルの雨が降り注いだ後の地上戦、いやそれどころかABC兵器による無差別攻撃も想定している。更には同盟軍の侵攻に対する防衛計画すら存在するし、逆侵攻の計画も存在するとのうわさもある。相手側は兎も角、このステージは我々帝国系にとっては勝手知ったる我が家だ。これまで何度も幼年学校で研究と学習を行ってきた。寧ろ同数の艦隊での戦闘ならまだマシといえる。

 

「兎も角第4、5、8惑星に補給基地と地上部隊陣地を構築する。ベアト、各拠点間の哨戒に移ってくれ。偵察衛星もばら撒け」

『了解致しました』

 

 恭しくベアトが答え艦隊を隊単位に分散して哨戒任務を実施し始める。彼女の艦隊は各拠点の連絡網の警備を担う。必要に応じて敵のゲリラ戦による足止めも行う事になる。

 

 同時に艦艇に搭載する小型偵察衛星が哨戒網の外縁部に設置されていく。実際の戦闘になれば瞬時に電子戦や砲撃で破壊されるのが偵察衛星であるが、それはそれで敵部隊の存在を察知出来るので構わない。

 

 相手の動きはまだ分からんが私は最低限やるべき事を命じていく。相手は見知らぬ星系の地理に不慣れだ。今の内に迅速に動き初動の利と地の利を掴むべきだ。

 

『………まぁ順当な判断だな』

 

 無線越しにホラントが答える。公転周期の関係もありこのステージの星間位置関係から考えれば第4,5,8惑星に基地を作り、それを起点に線を結べばある程度共同した警戒と迎撃網を形成出来る。まずは各拠点と部隊間の連絡を密にして確実な安全地帯を確保する。

 

 

「第4惑星軌道上にスコットは展開してくれ。暫くはそこを最重要拠点とする。デュドネイ、第五惑星軌道防衛に移動してくれ。チュン、艦隊の半数を第八惑星衛星軌道に。あそこは小惑星帯がある、大軍と遭遇しても多少の戦力差はどうにかなる筈だ。残りの艦隊戦力は第四惑星軌道に集中させる」

 

 ここまでは幼年学校でも習ったアルレスハイム星系防衛計画の基本も基本だ。それでも一から考えて動くのに比べれば時間的に優位だ。

 

 今回のシミュレーションにおいてこちらが優位な点は二点、即ち地の利と士気だ。地の利は先ほど言った通りにこの星系の特徴や研究は散々行ってきた。一方、相手は一から星系の特徴を調べざるを得えない。そして今回のシミュレーションは奇しくも故郷を侵す敵軍の迎撃という形となった。ホラントは兎も角、ベアトやヴァーンシャッフェの士気は高まっているだろう。尤も、これは逆に思考の硬直化を招きかねないので注意しないといけない。

 

「次は敵艦隊の動向か……」

 

 当然ながら我が方の戦略の基本は受け身の防御だ。だが同時に、守備に徹するにも正しい情報を基に戦力の展開と集中を必要とする。そのためには索敵するしかない。レーダーや通信傍受といった手段もあるが、最も確実な手段は小部隊を斥候として放ち光学的手段による観測をする事である。

 

「スコット、支援部隊の配置し終えたらセオリー通り電子戦による索敵は頼む」

『ああ、だが期待するなよ?』

 

 鼬ごっこになる電子戦は大概互いに無力化し合う事になる不毛な争いだ。それでも無意味とはいえない。何せ無意味といって用意しなければ均衡は崩れ、一気に戦闘は虐殺に変わるのだから。不毛であろうとも手を抜けない。

 

「さて、問題の哨戒部隊の編制は………どうするべきかね?」

 

私はホラントに尋ねる。

 

『さほど大軍を割く必要はあるまい』

『そうだねぇ。向こうはこちらを補足するため以外にも地理の確認のためにかなりの哨戒部隊を編制するだろうからね。相手側から接触する事に期待しようか?』

 

 ホラントとチュンがほぼ同じ答えを出す。つまり相手から見つけてくれるから哨戒に出す戦力は最小限に、拠点の設置と警備を優先すべき、と言う訳だ。

 

「そうだな。では私の本隊から哨戒部隊は抽出しよう。迎撃の主力はホラント、チュンの分艦隊の残りはその補佐を頼む」

 

 私は麾下の5個戦隊2500隻の内2個戦隊及び宇宙空母搭載のスパルタニアン3個飛行隊を持って周辺偵察を実施する。艦隊は隊単位で、スパルタニアンは2機一組で散らす。

 

 シミュレーション時間内にて試合開始40時間と31分後、遂に最初の戦闘が起きた。第6惑星第2衛星軌道上にて、私の放った哨戒部隊の第355駆逐隊が敵艦隊と遭遇した。規模は不明ながら、15光秒の距離から哨戒部隊に撃ち込まれる中性子ビーム砲の閃光から見て戦艦ないし巡航艦を含む10隻前後の艦隊であると思われた。対するこちらの戦力は駆逐艦10隻である。少々分が悪い。

 

 幸運にも現状は回避とエネルギー中和磁場により損害は発生していない。ならば……。

 

「駆逐隊は牽制しつつ後退しろ。相手を引きずりながら第4衛星軌道上まで誘導するんだ!」

 

 一方で、付近で哨戒活動を行っていた戦力を第4衛星の死角に集結させる。最初の駆逐隊で誘導しつつ、機を見て衛星の死角から後方に回った別動隊が砲撃を与える算段だ。本来ならば逃げてもいいが、相手にこちらの拠点を教えかねない。それに緒戦の小競り合いではあるが、ここで一つ勝利して相手側に心理的ダメージを与えたいという意図もある。

 

 同時に第6惑星方面の哨戒網の警戒を強化をベアトに命じた。敵哨戒部隊があれ一つの可能性は限りなく低い。見つけ次第、情報を出来るだけ与えずに撃破したい。

 

「こんな所か……チュン、どう思う?」

 

 私は敵艦隊との遭遇に対してチームの参謀役に意見を尋ねる。

 

『そうだねぇ。兎に角ここは時間を稼ぐべきだね。正面からの決戦じゃあ流石に地の利を持って守勢に徹したとしても勝つのは難しいからねぇ』

 

 コープは迫撃が得意分野、スミルノフ、ダランベールは火力の集中に定評がある。マカドゥーは何をしてくるのか知れたものではない。

 

 こちらの取りうる選択肢は、決戦の回避と情報の封鎖だ。敵の哨戒部隊や偵察衛星は出来うる限り破壊して、こちらの具体的陣容の把握を阻止する。相手の陣容が分からなければ攻める事も、策に嵌めるのも不可能だ。

 

 そして時間に余裕が無くなれば、相手チームも攻撃の入念な計画を立てる余裕は無い。時間を稼ぐ事はこちらの勝利のための手段だ。

 

「そうだな。いっそ、陽動部隊を使って相手の捜索の手を逸らすのもいいか」

 

戦隊単位で相手側に接近し注意を引くのも手だ。

 

 と、この後の作戦について協議していたその時だ。

 

「いっ……!?」

 

私は驚愕のあまり間抜けな声を上げた。

 

「おい、どういう事だ!?これは……!??」

 

 気付けば第6惑星第4衛星の影に待機していた別動隊60隻は半包囲下にあった。第355駆逐隊を迫撃していた敵部隊の後方から襲い掛かろうとした別動隊は攻撃の直前に側面からの砲撃を食らった。完全な奇襲だった。

 

『誘い込まれたな』

 

 舌打ちしつつホラントが口を開いた。敵艦隊100隻余りは待ち伏せを予測し、先回りしてガス状惑星たる第6惑星内に潜んでいたようだった。そしてこちらの奇襲と共にガスの中から躍り出たらしい。

 

 同時に355駆逐隊を迫撃中だった敵艦隊が反転しこちらの別動隊に砲撃を開始する。こちらの駆逐隊は射程の関係からすぐさま救援にいくのは出来ない。

 

「ちっ……中央突破だ!そのまま前方の敵を薙ぎ払い友軍と合流する……!」

 

 すぐさま決断を下す。側面を襲われた以上、反転迎撃は艦列の混乱を招きかねないリスキーな行為だ。少なくとも相手チームの方が上手なのに成功出来ると思えるほど己惚れていない。ならば正面の最初の敵小艦隊を数に任せ突き破るべきだ。

 

 実際、正面の少数の艦隊はすぐさま撃破される。エネルギー中和磁場は数倍する火力に突き破られ、次々と敵艦艇は火球と化す。そのまま42隻にまで減ったこちらの待ち伏せ艦隊は355駆逐隊と合流、355駆逐隊はレーザー砲で迫撃してきた敵別動隊を迎撃して味方の反転の時間を作り出す。

 

 相手側は深追いしない。すぐに目的を達するとそのまま砲撃の射程外まで後退を始める。引き際が良い。こっちは周辺の哨戒部隊を集めて120隻の艦隊を援軍に送ったばかりだ。数量的に不利にならない内に引いて来やがった。

 

「初戦で負けとはな……」

 

 こちらの損失は18隻、対して相手は10隻の損失……小競り合いというに相応しいささやか過ぎる戦闘だ。損害も決して大きな差はない。しかし……。

 

「いきなり負けたか……」

 

敵の機先を制して動揺を与える事に失敗した。いや、問題はそこではない。

 

「……手慣れている?」

 

 宇宙での航海は入念な下準備が不可欠だ。恒星の活動周期や隕石群やデブリの軌道、惑星活動、過去のワープ事故による重力異常……人類が恒星間移住時代を迎えて千年を超えても尚、宇宙航海は危険と隣り合わせであり、航海前に各星系の事前の調査が欠かせない。

 

 そんな中で、いきなり事前の情報も無く、地理的に不慣れな星系であのような待ち伏せが出来るだろうか?シミュレーションとはいえそんな無謀な事をするほどに相手チームは愚かではない。となると……。

 

『気付いたか、貴様も』

 

 ホラントが少々不快な口調で私の思い至った結論を肯定する。 

 

「………おいおい、確かに可笑しくはないが、少し恨みが強くないかね?」

 

 つまり、相手チームはこの星系でのシミュレーションを、侵攻計画を研究した経験があると言う事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「初戦は一応勝ち、と言った所かしら」

 

 コーデリア・ドリンカー・コープ四年生はささやかな勝利に酔う事無く、淡々と艦隊を後退させながら呟く。

 

「地の利があると思ったのかも知れないけど、甘いわよ、じゃが芋共」

 

 口元をゆっくりと吊り上げるコープ。それは嘲笑であった。

 

 成程、確かにこの星系がステージに設定された時動揺した。確かに普通ならば滅多に出てこないステージだ。千回連続でシミュレーションを実施しても出てくる可能性は低いだろう。大半の学生は想定、いや想像もしていないだろう。

 

……私達でなければ。

 

『懐かしいなぁ。まさかこの星系で試合なんて、時の女神様も粋な計らいをしてくれとうみたいや』

 

 マカドゥーがリゲル訛りの強い同盟語で口を開く。やんわりと、ゆっくりとした口調は、しかし同時に粘りのある意地の悪い雰囲気を与える。

 

「……マカドゥー、標準語で話しなさいな。一瞬何言っているのか分からなかったわ」

 

 試合中に気が緩んだり、興奮すると地の言葉が出るのがこの悪友の悪い癖だ。彼女の家は何のこだわりか、何故か身内では同盟公用語では無く絶滅寸前リゲル語で話す。先祖から続く母語は大事にしないといけない、との事らしい。

 

『ありゃま?……あー、あー、ごめんごめん、これでいいかしら?じゃが芋共の苦虫噛む表情を想像するとつい興奮しちゃってねぇ。それで?ここからは基本計画通りでいいの?』

「ええ、御先祖様もいい加減な計画で奴らを攻めるつもりは無かっただろうし、まずは基本に忠実にいきましょう」

 

 建国から帝国との接触以前、同盟の最大の脅威は内戦であった。「長征一万光年」を達成した者の子孫たるハイネセン・ファミリーと旧銀河連邦植民地、あるいはかつての宇宙海賊の末裔たる星間交易商人とその集まりである船団……星間交易商工組合の分離独立が同盟軍の脅威であった。無論、技術的にはハイネセンを始めとした長征系書惑星政府が圧倒的に上であり、「607年の妥協」以前は各種の通商条約……明らかに不平等条約であった……により経済的にも優位に立っていた。それでも帝国との遭遇以前の両者の人口比は1:4であり、内戦が起きればハイネセンを盟主とした同盟体制は崩壊する可能性があった。

 

 それ故に同盟軍は「607年の妥協」以前は内戦や非対称戦を想定した編成であったし、それ以降も決して国内戦の可能性を、そのノウハウを捨てたわけではない。

 

 そしてダゴン星域会戦の勝利と亡命者の大量発生……それは再び同盟軍に国内戦への関心を抱かせた。その中には、帝国貴族共が統治するアルレスハイム星系に対する対反乱制圧作戦も含まれる。コルネリアス帝の親征後のアルレスハイム星系政府の同盟への正式加盟後も、統合作戦本部や長征派の一部士官達の間ではアルレスハイム星系の反逆に備えた計画は準備されている。無論、今となっては使う可能性の低い形だけのものではあるが……。

 

 それでも長征派の将校達は定期的にアルレスハイム星系制圧計画の更新を行う等、その関心は捨て去られたわけではない。無論、相手方……亡命政府ももそれくらいは予想済みではあろうし、その対策も想定はしているだろうが。

 

 今回は少々古い時代の作戦計画を基にアレンジして攻め立てる。流石に最新の計画は学生の身では閲覧出来ないからだが、地理情報は同じなので流用自体は可能だ。

 

「それに……この星系は何度かやらされてきたのよ」

 

 値は張るし、軍用のそれとは質や情報処理速度こそ劣るが、民間にも戦略シミュレーターは販売されている。多くの場合民間の宇宙警備会社や大手塾の士官学校コースがお得意様だが、個人での購入も無くはない。多くの高級将校を輩出してきた旧家では有名な家庭教師を雇い、現役軍人の指導を受け、自宅のスポーツセンターで鍛え、専門の栄養士により管理された食事をし、一族単位で値の張る戦略シミュレーターを購入して戦略を学んでいる。どこぞの新入生は金がなく歴史を学ぶために仕方無く士官学校に入学した者もいるらしいが、恐らくガセ情報だろう。真実ならば恐らくそいつは変人だ。そんな簡単に同盟有数の名門校に入学されてたまるか。

 

 子供の頃、父や祖父に初めて戦略シミュレーターを使用させてもらった時、親族一同が選んだのがアルレスハイム星系であった。しかも勝利するまで終わらなかった。

 

 それ以降も、何度もこの星系を敢えて設定したシミュレーションが行われた。しかも多くが反乱鎮圧作戦を想定したものであったのは恐らく偶然ではない。おかげでこの星系の地理はある程度理解している。最後辺りは流石にうんざりしたものだ。

 

「彼方さんの拠点のおおまかな予想はつくわ。第四惑星と第五惑星、第八惑星辺りがこの惑星座標だと候補、恐らくは……」

『第四惑星?』

「……でしょうね」

 

 コープは悪友の言葉を肯定する。そもそも相手側は亡命軍の迎撃計画を基に行動を開始している筈だ。そうなると、必然的に政治的・経済的中枢たる第四惑星ヴォルムスを最重要拠点にする計画が立てられるのは当然だ。

 

 ならば今回も第四惑星に拠点が構えられている事は確実だ。

 

「地上部隊は拠点に待機よ。防衛用の最小限の戦力のみ残して全艦隊で第四惑星を目指す。恐らく分散している敵艦隊を時間差をつけて各個撃破する」

 

 相手が第四惑星を放棄して戦力の再集結をされたら面倒だが………。

 

「出来ないでしょう、貴方達には?」

 

 私達(長征派)に故郷を踏み荒らさせるなんて許したら老人連中になんと言われるか………奴らが分からない筈もない。正面決戦を強いる事が出来ればこちらの勝利だ。

 

 当然相手側の半数は非帝国系である。勝利のためにその選択に反発する可能性はある。それならそれでいい。不和の種がばら撒かれれば連携の隙が出来る。

 

「さて、では始めましょうか………?」

 

……正面から散々に叩き潰してやる。  

 

 

 

 

 




良くら読むと実は両者の作戦と前提にに微妙な齟齬があるのが分かったり







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