帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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ロボス元帥「多少補給が滞った所で占領地の民衆に物資を供出させる事も可能ではないか」(命令系)

これは間違い無く高貴なる帝国貴族の血を引いていますわ。


後、今からフォーク准将がどうぶっ壊れるかが楽しみで仕方ありません(鬼畜)


第四十六話 言い訳が更に話をややこしくする事ってあるよね?

「やはりな……恐らくはあるだろうとは知っていたが、この目で見るのは初めてだな」

 

 戦略シミュレーションの戦況モニターを見つめながらある佐官は口を開く。

 

「あれは恐らく679年に作成させた「差押え計画」だな。噂通りの動きだ」

 

 帝国系、正確には帝国系同盟軍人の中でも帰還派に属する軍人達が小声で語り合う。

 

 同盟軍……正確には同盟軍の中でも統合作戦本部や長征派がアルレスハイム星系制圧用の作戦を作っている事自体は、1世紀以上前から把握はされている。同じく同盟軍に属し、高級士官も幾人もいるのだから当然だ。無論、帝国領侵攻作戦、フェザーン制圧作戦、或いは同盟内での内戦や対クーデター作戦計画等と同様にA級重要事項であり、同盟軍の最高機密としてまず公開される事は無い。そのためその詳細については僅かにしか出てこない。

 

 無論、軍事作戦は合理性を重視している以上、その作戦詳細は同じ軍人としてある程度推測出来、そこを大きく外れる事は無い事も確かだ。

 

「流石に古い作戦だからな。それに奴らも馬鹿じゃああるまい。多少アレンジしているだろうな」

 

 それでも作戦を見る事が出来たのは僥倖だ。亡命軍の想定がどれ程合致しているのかが把握出来る。そしてそこから現在のバージョンについてもある程度推測出来うるのだ。

 

「まさか戦略シミュレーションでこんな事態になるとはな。若さ…ヴォルター四年生の動きは「基本計画18号」か」

 

 宇宙暦680年に亡命軍がアルレスハイム星系に対する帝国軍……そして同盟軍の……の侵攻に備え当時の幕僚総監兼地上軍総監であったブルクハルト・フォン・ケッテラー元帥の作成した計画だ。流石に情勢や軍事力比率の変動により現在は9回改訂されて最新の「基本計画64号」に迎撃計画の座を譲り渡しているが、往年の名将の作成した計画である事は事実だ。

 

「そうなると……このまま「継続計画104号」にお移りなさる訳か?」

「でしょうな。遺憾ではあるが地の利も、時間の利も無いのでしたらそれこそが勝利への確実な道」

「シミュレーションとはいえ、故郷が焼けるのを見るのは不快だな」

 

 将校達は一同に戦況スクリーンを見つめる。だが仕方あるまい。何はともあれ勝利しなければならないのだ。「多少」の犠牲は許容され得る……口には出さないし、同盟軍人として公言出来ないが、彼らの瞳は確かにそう語っていた。

 

 一方、士官学校校長シドニー・シトレ中将を挟んで反対側の観客席においても似たような会話が為されていた。

 

「これはこれは……なかなかに興味深い試合になったものだ」

 

 士官学校事務長ピーター・エドワーズ准将は呟く。1世紀前に作成された同盟軍と亡命軍の作戦計画、多少学生によるアレンジがあろうが、その二つがぶつかりあった際どちらに勝利の女神が微笑むのか、軍人であれば関心を抱かざるを得ないのが正直なところだ。

 

 エドワーズ准将の周囲でも多くの長征派若手士官が両軍の動きについて半分興奮気味に、そして相手チームに対する敵意と嘲りも含めて議論を開始していた。

 

「此度の試合で、一番の注目の的になりましたな。エドワーズ准将」

 

 興味深そうに戦況スクリーンを見上げていたエドワーズ准将はすぐさま立ち上がり敬礼をした。

 

 同盟宇宙軍第2艦隊司令官マイケル・ワイドボーン中将は背筋を伸ばし、颯爽と歩み寄る。その動きはとてもこの年60を越える老提督とは思えない。

 

「はい、下馬評ではコープ四年生のチームの勝利と思っていましたが、こう来ると分からなくなりそうです」

 

 遺憾ながら、コープ四年生の実行している「差押え計画」の出来は完璧とは言えない。コルネリアス帝の親征により多くの優秀な軍人が失われた後に作成された急造計画のため、どうしても粗がある計画だ。

 

 一方、相手側の実行していると思われる「基本計画18号」はアルレスハイム星系防衛に成功した亡命軍三元帥の一人ケッテラー元帥が中心に作成されたものだと伝わる。冷酷にして冷徹、そして明朗な頭脳を有し、帝国軍をして名将と言わしめたケッテラー元帥はヴォルムスでの地上戦にて600万に及ぶ帝国地上軍精鋭の攻勢を……数千万に及ぶ民間人の犠牲と引き換えではあるものの……遂に撃退して見せた名将であった。親征中の帝国地上軍の戦死者の3割がアルレスハイム星系で戦死した、と聞けばどれ程激しい戦闘が起きていたか分かろうものだ。そのような人物が立てた計画は決して軽視出来るものではない。

 

 片やがさつな計画を優秀な学生が、片や優秀な計画を(無能ではないが相対的に)才覚のない学生が行うわけである。その結果がどうなるか、なかなか予想がつくものではない。

 

更にいえば、これは歴史のIFでもある。

 

 コルネリアス帝の親征後ほぼ同時期に作成されたこの計画は、実施の一歩寸前に来たこともあった。

 

 コルネリアス帝により被った損害による莫大な財政赤字を埋めるために、同盟では一時期亡命政府の有する貴族資産やアルレスハイム星系の資源開発基地を強制接収するべき、という強硬論が極右から提言された事があった。

 

 686年には同盟軍がアルレスハイム星系施政領域の境界に無断展開し、衝突寸前に陥った。

 

 当時の最高評議会は三日三晩にわたり会議を開き、強硬接収か、撤退か激しい議論が為された。熟慮に熟慮を重ねた議論の末に同盟軍は撤退し、同盟と亡命政府の開戦寸前に至った最大級の危機は当時の同盟・亡命政府の良識的な首脳部により回避された。

 

「開戦していたらどうなっていたか、政治家としては兎も角我々軍人からすれば不謹慎を承知で知りたくなりますな」

 

 エドワーズ准将はどこか子供のような笑みを浮かべる。それは子供がアニメのキャラクターを戦わして誰が最強か、とでも考えるような笑みだった。

 

「……コープ四年生は優秀だが青いな。あれは相手が第四惑星を死守すると考えているようだ」

 

艦隊の動きを見ながらワイドボーン中将は口を開く。

 

「最近の若いのは甘い者が多いですからなぁ……」

 

 第二次ティアマト会戦により優秀で、そして冷徹な古くからの帝国貴族軍人……伝統的に帝国軍首脳部を独占していた十八将家とその分家、従士家……が激減し、結果として現在まで帝国軍の戦い方にかつての勇猛さと苛烈さは消え失せた。

 

 前線では傍流の武門貴族や新興貴族、平民が代わりに軍の指揮を取るようになった。多くの市民は馬鹿貴族の代わりに実力主義に基づいた軍人が前線に出てきたと考えるだろうが、古い軍人からすれば寧ろ何と甘い敵が増えたのだろうか、と楽に感じる者も少なく無かったのが本音であった。

 

 若者は信じないかも知れないが、半世紀前の帝国軍は本当に強力だった。実力もさることながら、敵を殺すためならば自身の身の安全なぞ考慮しない。降伏なぞ殆どしないし、必要とあらば特攻同然の戦い方も平然とする。占領地の収奪も、虐殺のハードルもかなり低い。

 

 死を恐れない精強な兵士や下士官、冷酷にして効率的な指揮を取る貴族士官の組み合わせは、一世紀に渡り同盟軍を苦しめ続けた。特にイゼルローン要塞の建設前、回廊の帝国側の国境に設けられた軍役属領(シルトラント)郷土臣民兵団(ラントヴェ―ア)、貴族領の私兵軍や領民は総督や領主の命令に従い、文字通り玉砕するまで抵抗を続けた。狂信的な敵と戦う事程苦痛な事は無い。それに比べれば、今前線の主力を担っている平民や新興貴族の軍人は粘り強さがなく、命を惜しむ者ばかりで遥かに気楽であった。

 

 故に彼らは思う。相手チームが第四惑星を放棄する事なぞ驚くに値しない。いや、相手に渡す位なら焦土にしてしまいかねない。アルレスハイム星系に巣くう者達は第二次ティアマト会戦により軟弱になった帝国とは違い古い帝国貴族、そして古い帝国軍の気風を残す悪鬼の群れだ。民主主義を掲げていても奴らの本性は冷酷で残虐な支配者なのだ。

 

 ここまで言っても若者はなかなか理解しないだろう。当時の帝国軍の真の苛烈さなぞ若手将校には想像も出来まい。

 

「相手側はやりますかな?」

 

エドワーズ准将は尋ねる。

 

「して欲しく無い、というのは願望だろうな。勝つためならば「忠実なる臣民」の犠牲なぞ大して気にもすまい」

 

 相手チームの動きを睨みつけながらワイドボーン中将は半分諦めたような口調で答える。  

 

「だからこそ我々は奴らを信用出来んのだよ。自分達のためならば付き従う臣民すら塵芥の如く捨てる。ましてアルタイルの強制労働者の子孫なぞ、どうなろうとも気にも止めまい」

 

 「ハイネセン・ファミリー」……特に長征派が亡命貴族に不信感を抱く原因がそこにあった。ガワこそ民主主義を唱えその実、選民主義としか言いようのない行動を平然とする。一世紀半に渡りアーレ・ハイネセンと共に偉業を成し遂げた者達にとって、亡命政府はいつ後ろから刺してくるか分からない存在だった。彼方にとっても言い分はあろうが、少なくとも多くの長征派にとってはそれが全てであった。

 

「今回のシミュレーションも、奴らの化けの皮が剥がれるだけの事だ」

 

 半ば相手チームの行動を確信しつつ、ワイドボーン中将は無感動にそう呟いた。

 

    

 

 

 

 

 さて、予定が大きく狂った。彼方さんは此方ほどで無くともここの地理に明るいらしい。恐らくこちらの迎撃計画もある程度予測済みだろう。そうなるとこちらの計画の根幹が崩れる。指揮官の質で劣る我々が勝つには……。

 

『若様、ヴォルムスを放棄して焦土戦に移りましょう』

「よし待てベアト、落ち着け、話せば分かる」

 

 ベアトが淡々と怖い提案をしてきたので私は落ち着かせる。

 

『?……若様、僭越ながら私は冷静に意見具申をしているのですが……』

「うん、知ってた。だから少し黙ってね?」

 

 平然と故郷を焼こうなんて言わないで、怖いよベアトさん。可愛い顔で首傾げても駄目だからね。

 

『で、ですが、若様……ここで正面から戦闘に入るより焦土化して補給線に負荷をかけ、ゲリラ戦で戦力を削り取るのが軍事上定石です……!』

 

 訴えるように説明するベアト。うん、亡命軍だけだからね、その定石。いや、半世紀前の帝国軍ならやるだろうけど。

 

 亡命軍の一世紀前に作成した「基本計画18号」は、そのままの予定ならば「継続計画104号」に移行する事になる。主要拠点を焦土化し、星系各地の市民と地上軍は其々の持ち場で徹底抗戦し、宇宙軍は補給線をゲリラ戦で脅かす事になる。

 

 無論今回のシミュレーションでは民兵なぞ編成出来ないが、実際にもしアルレスハイム星系まで帝国軍が侵入したら色んな意味でヤバい事になる。

 

 ヴォルムスは惑星全土が入念に要塞化されている。雄大で美しい自然に隠れ見えないが、陸上のそこらかしこにトーチカやミサイルサイロ、地下基地の出入り口が隠蔽されている。保管されている武器は銃器だけでも市民に二丁ずつ位は多分配れる量がある。即応予備、予備役、後備役が全て動員されたら市民の半数位には昇るはずだ。個々の練度に差があるだろうが、最低限銃器の取り扱いや車両運転、応急措置位の心得はある。熱狂的に帝室や貴族階級を崇拝する彼らは降伏も後退もせず、正規軍と共に徹底的に戦うだろう……というか一世紀半前にした。あれだ、コルネリアス帝の親征に何があったかと言うとリアル沖縄戦やスターリングラードしていたと思えばいい。

 

 正面決戦しないなんて貴族の誇りはどうした?そこは考え方次第でね。貴族が潔く自裁するのは大抵誰の目にも勝敗が明らかになった際醜態を晒さないように、という考えからだ。逆に言えば、勝つためならばどれだけ犠牲を払おうが、残虐な手段を取ろうが寧ろ望む所なのだ。

 

 選ばれし門閥貴族は、事なかれ主義で責任を取るのを嫌う銀河連邦の腐敗した政治家とは訳が違う。憎ければ憎め、敵意を向けられるのは望む所、逃げも隠れもしないので復讐してくるが良い、それも全て叩き潰してくれる、と言う訳だ。

 

 そもそも「宇宙の摂理は適者生存、優勝劣敗である。人類社会もまたその例外では有り得ない」……大帝陛下の有難い御言葉に従えば社会の指導層たる帝室と門閥貴族の「御慈悲」でほかの臣民は生存を許され、その指導の下で正しき社会体制の一構成員として存在する事を許されるのである。ならば臣民が指導層に奉仕する事も、人類の理想的な社会体制を守るために愛国心に燃え戦う事も、ましてや指導層の命令に従い玉砕するまで戦う事も当然であるのだ。

 

 正直同盟人や前世持ちの私からすれば、地球教徒並みのイカれているように思える。実際帝国でも、体制の弱体化や指導層の腐敗や醜態、同盟との戦争による共和主義思想の流入により、富裕市民や知識層、新興の帝国騎士や一代貴族を中心に、かつてのように絶対的な忠誠を尽くす、何てことは無くなった。

 

 それでも尚、二十世代に渡る思想教育により、特に無学な下層階層の多くは帝室や門閥貴族に対して畏敬と尊崇の念を素朴に強く抱いている。

 

 皮肉な事に、民主制を敷いているアルレスハイム星系はその傾向が一段と強い。住民の少なくない数が領主によって連れ出された家臣や私兵、領民である。前者二者は言わずもがな、後者についても全領民を連れていけないので領民の中から特に優秀な(そして資産価値の高い)者のみを連れだした。彼らからすれば自分達は領主に認められた「優秀な存在」である。そりゃあ体制を擁護する。

 

 更に言えば、帝国と違い亡命政府の貴族は一応義務を果たし、腐敗が(比較的)していない点も原因だ。新無憂宮の賊共と自分達は違うというアンチテーゼの意味と、同盟という貴族に敵対的存在が腐敗を抑止する監視役となっている事、そして単純に真面目に優秀な貴族として働かないといつ滅びるか分からない事、それが帝政初期を彷彿させる腐敗せず優秀な貴族階級が多く亡命政府に所属する理由であり、民主制が敷かれながら多くの市民が狂信的に帝室と貴族階級を崇拝している理由であった。

 

 尤も、だからといってここで簡単に焦土戦を実施するか、と言うとそういうわけにはいかない。

 

 恐らくはシミュレーションを見ている同胞の多くはそれを当然の戦略と捉え、期待しているだろう。だが、ほかの同盟人はそんな事はまず考えまい。

 

 というかガチ目に引かれる。フラグの香りしかしない。やった途端にシトレ校長辺りからアンドリューなフォーク並みの評価を受けそうだ。そうで無くてもチーム内でも既に火種になりかねない。

 

『私は反対だねぇ……』

 

……ほら来た。

 

『軍事的勝利のためとはいえ、民間人の生命と財産をぞんざいに扱うような作戦を行うべきでは無いよ。ましてや焦土戦なんてやるべきではないね』

 

 パン屋の二代目が玉子サンドを咀嚼しながら淡々と、しかし力のこもった声でゆっくり意見具申をする。

 

『チュン四年生、それは甘い考えです。敗北してしまえば意味がありません。勝てば最終的には市民は救われるのです。何よりも先に勝利を優先すべきです』

  

淡々と、しかし鋭い口調でベアトは反論する。

 

『言いたい事が分からない訳では無いよ。だけど、だからと言って市民を守るべき軍人がその義務を放棄するのは頂けないね。例えシミュレーションとはいえ、そんな汚点の残る勝ち方は私は好きになれないよ』

 

 流石将来民主主義に乾杯しそうな方だ。シミュレーションとはいえ、余りに市民の人命軽視した戦い方は好かないようだ。

 

『ホラント君もそう思わないかい?現実にもしこの星系で戦う事になった時、同盟軍が無辜の市民を見捨てて戦う事が出来るかな?』

 

 チュンはベアトと意見を戦わす愚考は犯さない。より実戦的なシミュレーションを望むホラントを味方につけようとする。

 

『御気持ちは分かりますが、しかし正面から戦い勝算はあるのでしょうか?』

 

 ベアト程に強圧的ではないが、ヴァーンシャッフェは疑問を吐露する。地上部隊を指揮する身からすれば第四惑星での相手チームとの防衛戦にそれなりの自信がある分、内心の不満は外面に出ているそれよりも大きい事だろう。

 

『俺はどっちでもいいぞ?所詮シミュレーションだしなぁ』

 

試合成績のみを気にするスコットは面倒そうに中立を宣言する。

 

『私は……放棄に……反対…かな』

 

 デュドネイは途切れ気味ながら意見を述べる。シミュレーションとはいえあからさまに市民の保護を放棄する戦い方は好きになれないらしい。

 

『………代表役の貴様が決めろ。ティルピッツ』

 

各員がそれぞれの意見を言った所でホラントが問う。

 

「げっ、私か?お前はどうなんだよ?」

『興味なぞ無い。俺は誰が相手だろうが、どのような条件だろうが負ける気は無い』

 

厳つい表情で腕を組み、淡々と答えるホラント。

 

『若様……勝利のためには多少の犠牲は付き物です!』

『うーん、私としては納得出来ないねぇ。そんな勝ち方しても周囲の顰蹙を買うんじゃないかな?』

『敗北に比べれば遥かにマシです……!』

『余り賛同は出来ないなぁ……』

 

 ベアトとチュンが無線越しに鍔迫り合う。正確には敵愾心を向けるのはベアトだけだが……。

 

 外野の意見を無視し、私はしばし思考の海に沈み考えこむ。

 

 純軍事的な面のみで考えれば勝率が確実に上がるのはベアトの意見だ。相手の補給線に負荷を与えつつゲリラ戦に徹するのが上策だ。一方、恐らく相手は正面決戦を指向している筈だ。同盟軍の教育では市民の人命が最優先であるし、客観的に見て長征系、特にティアマト閥のコープからすれば故郷を捨てるなぞ考えまい。

 

 逆に勝利のためであるならば、故郷を焼く事を我らが亡命政府の長老組は大して咎める事はすまい。下手したらその果断な決断能力が賞賛されかねない。クレイジーだな。尤も、そこまでして負けた場合の反応は怖いけど。

 

 当然ながら行った瞬間、教官連中がドン引きする事請け合いだ。シミュレーションとはいえ顰蹙を買うだろう。自分の命もかかっていないのに信望を積極的に落とすべきでは無い。下手すれば昇進の障害にもなりかねん。それはまずい。獅子帝を下っ端の内にキルするには、せめて奴が従軍するまでに佐官になりたい(なれるとは言っていない)。

 

 ふざけやがって、獅子帝昇進早すぎなんだよ………!皇族でもあの昇進スピードは早すぎるぞ。そりゃあ門閥貴族の反発を買うわ。

 

 さらに言えば、将来の故郷の運命についても考えねばなるまい。原作では、年代こそ忘れたがアルレスハイム星系まで少なくとも一回は帝国軍が侵攻してくる事は明白だ。そうだよ、カイザーリング男爵あんただよ!

 

 正直、あの会戦の具体的内容は分からない。だが、アルレスハイム星系まで押し込まれていた事を考えると亡命政府もかなり苦戦していた事が分かる。本拠地まで押し込まれていた事を考えると、あの会戦の際亡命軍は明らかにゲリラ戦を行っていた筈だ。迎撃の同盟軍を帝国軍が待ち伏せしていた事を考えると、周辺の制宙権は帝国軍の手に落ちていた事を意味する。

 

 ヴォルムスがどうなっていたかは分からない。一個艦隊で落せる程にヴォルムスの守りは薄くない。だが、ヴォルムス以外の星系内自治体が無傷だったとは思えない。最低でも万単位で市民も戦闘の巻き添えになっているだろう。カイザーリング艦隊のサイオキシン麻薬の蔓延と亡命軍や市民の抵抗って無関係と考えるのは少しお人好し過ぎる気がするだよ。ベトナム戦争の米軍状態だった可能性がある。陰惨な戦闘が続くと薬物に手を出す兵士は少なくない。

 

 ここで正面決戦を志向するのは、焦土戦を行う亡命軍や帝国系士官の考えに一石を投じたいという意図もある。基本ゲリラ戦しか無いのは分かるが、積極的に焦土戦しようと考えるのは止めて欲しいんだよなぁ。幼年学校でも正規艦隊戦の講義を殆どしないんだよ。

 

 何よりも……シミュレーションとはいえ故郷を自身で焼き払うのは気分が良いものではない。……門閥貴族としては、ある意味失格ではあるが。

 

さてさて、そうなると……言い訳がいるな。

 

「………ベアト、確かに勝利のためにはそちらの方が可能性が高いな」

『では……!』

「だが………」

 

 私は自身の意見が入れられたと考えたベアトに釘を刺す。

 

「一時的とはいえ、逃げるのは不愉快だな」

 

私は頑固で、気位の高そうな横柄な口調で答える。

 

『ですが……!』

 

私は無線を秘匿回線に変更してから口を開く。

 

「それに、問題は勝った後だ」

『その後……ですか?』

 

 私が秘匿回線に移した事に合わせてベアトも無線を変える。

 

「勝つだけならば我ら亡命軍は出来よう。相手は賊軍であれ、賎民の子孫であれ、皇帝陛下の御旗の下で戦う我らが負ける道理は無いからな」

 

 嘘だよ?獅子帝なり、双璧なり、魔術師が出て来たら虐殺されるからね、確実に。

 

「だが帝国であれ、同盟に対してであれ、ヴォルムスが焼けてしまえばその後の軍の再建が出来ず、そうなれば報復なぞ出来やしない。目先の勝利だけを追求すべきでは無い。その後も我々は戦わなくてはならん。分かるな?」

 

 その戦いで勝っても、本拠地が焼けてしまえば兵器の修繕も、兵士の補填も覚束ない。帝国のように物量に余裕があれば良いが、亡命政府の有する居住可能惑星は第四惑星のみだ。ドーム型都市や人工天体群も施政権内には幾つかあるが、その生産能力はたかが知れている。

 

「戦うだけならば焦土戦も良かろう。だが、戦い続けるためには不本意だがこの手を使う訳にはいかん」

 

 その場で頭をフル回転させて自身の意思を補強する言い訳をこじつける。

 

『お、おっしゃる事は分かります。で、ですが、この作戦は彼のケッテラー元帥の成立させたもので………』

「ならば、それを越えればよいでは無いか。正面から奴らを歓待してやろうじゃないか!それとも、私がケッテラー元帥に比べ軍才が劣るとでも?帝国開闢以来の名家であるティルピッツ伯爵家の嫡男である私がだぞ?」

 

 うん、確実に劣るね。あの人、地上戦が専門家だったけど普通に艦隊戦も出来るもんね。

 

『そ、そんな事は御座いません!若様は名門ティルピッツ伯爵家の血を引く者、何故ケッテラー家にその軍才が劣りましょう!ましてや長征派の「蛙食い」共に劣る通りが御座いません!』

 

 尤も、この極めて忠実な従士はそう思わなかったらしい。ベアトは私の発言に心から心外だとばかりに叫ぶ。

 

『若様がそう仰るのならば、この不肖ベアトリクス・フォン・ゴトフリート従士、謹んでその御意思承りましょう!命に代えて若様に勝利を捧げて見せます!』

「いや、そこまでしなくていいから!?」

 

 あ、これ地雷踏み抜いたな、と私は確信した。うわぁ、そんなに目を輝かせないで。私、そんなに向上心も覇気もないから。

 

『では、行きましょう若様!「蛙食い」共を一刻も早く我らが故郷から叩き出してしまいましょう!』

「アッハイ」

 

 屈託の無い笑顔で話を進める従士。下手に否定すると話が面倒になるのでこれ以上誤解を解くのは止める事にする。あれだね、時として流れに任せる方が良い事もある。

 

何はともあれ………。

 

「……故郷を守るために、一つ頑張りますかね」

 

 小さく、小さく決意と共に私は呟いた。……勝てるかは分からないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 シミュレーション開始後89時間45分後、アルレスハイム星系第四惑星から17.6光秒の位置で両軍は相対した。一方は星系の第四惑星に向け、もう一方はその進路を塞ぐように展開する。攻める者と、守る者の信念が衝突する、よってその戦いは必然の事であった。

 

 互いに向かい合う両軍は、ともに火力を最大に出来る横陣を持って睨み合う。その距離は少しずつ、しかし確実に縮まっていく。それは両軍が共に決戦を望んでいる事の証左であった。

 

「……狙い通り、ね」

 

 コープ四年生は戦況スクリーンを睨みながら静かに呟く。やはり奴らはここを放棄する事は出来なかったか。少々卑怯かも知れないが現実の戦闘では心理戦は当然、罵倒は甘んじて受けるがそれを恥じる事はあり得ない。

 

 我が方の艦隊が哨戒部隊と後方警備を除いて戦闘艦艇9800隻、対して敵艦隊は戦闘艦艇8700隻、双方ともに主力の激突までに二十数回の哨戒部隊による小競り合いをして数百隻を喪失していた。内半数以上がこちらが勝利していた。

 

「彼方の数が少ないのは散らした艦隊が集結していないか、別動隊として回り込むか、潜んでいるか……」

 

 尤も数は知れている。対処法とて構築済みだ。そうそう遅れは取るまい。

 

「では、いきましょう」

 

 コープ四年生は、チーム内の各員に指示を飛ばす。無線通信は雑音が混じり、低い悲鳴をあげ始める。双方の電子戦部隊が妨害電波を放ち、電子戦を始めている事の証明である。

 

 不愉快な貴族共と、憎らしいライバル、纏めて正面から打ち負かしてやる。

 

 コープは手を振り上げると、一呼吸の後、ただ短くこういい放った。

 

「ファイア!」

 

コープの命令と共に数万条の光線が撃ち出される。

 

 同時にその線条を受け止めた敵艦隊から報復の砲火が撃ち込まれる。

  

 双方の艦隊は破壊のエネルギーを解放し、陣形のそこらかしこから核融合の爆炎の光が生まれる。それは人命を代償に生み出される残酷で、儚い芸術であった。

 

 ここにアルレスハイム星系における戦略シミュレーションはその第二幕……そして本番が始まったのである。

 

 

 








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