帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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戦闘描写が難しい


第四十七話 集中するとドライアイになるから気を付けよう

「すたーぴーちゃん、あれってどっちが勝っているかわかるー?」

 

 ペロペロと子供らしくソフトクリームを舐め回しながらロリデ……フレデリカ・グリーンヒルはベンチに座った状態でソリットビジョンを指差し尋ねる。一方、隣でソフトクリームの染みの残る笑顔(固定)のスターピーちゃんは頭(というより体)を傾け「分かんないピー」とジェスチャーする。

 

「……ねぇ、ジャ……スターフリー君、あれはどうなっているの?」

 

 少し離れた所で風船を子供達に配るスターフリー君(の中の人)に尋ねるジェシカ・エドワーズ嬢。品の良いロングワンピースを着た淑女がヒトデ……ではなくお星様姿の着ぐるみとこそこそ話す姿は地味にシュールだ。

 

「そこは色々あってな。すこ「わー!スターフリーくん、風船ちょーだい!」

 

 スターフリー君はすぐさま声を掛けてきた子供に駆け寄り、笑顔(に固定された表情で)で風船をやり、子供のお願いに答え暑苦しい着ぐるみで子供をハイテンションで抱きかかえ親御さんに写真を撮ってもらう。降ろした子供に元気よく手を振り、子供が見えなくなった所でエドワーズ嬢の下に戻る。

 

「話は……少し遡る。どうやらヤンの奴、はぁ、余所見していてあの子供にぶつかったらしくてな。…しかもその時アイスを落させてしまったらしいんだよ」

「ヤンって、ぼーっとしている事多いから有りそうな事ね」

「ああ、そこで「スターフリー君!サインちょーだい!」

 

 再び目を純粋に輝かせる子供に向け、スターフリー君は颯爽とその下に駆け寄る。ぷるぷると持ちにくい着ぐるみ越しに(作った業者を殴ろうかと中の人物は思った)、どうにかスターフリー君の名前と簡単な絵、メッセージを色紙に書くと固定された笑顔で子供に差し出す。ありがとー、と感謝の声を上げる子供に手を振って別れた後幼馴染みの下に戻るスターフリー君。

 

「はぁはぁ……当然子供は涙目になる訳だな。それでだ、ヤンの奴……はぁ、子供のあやし方も分からず取り敢えず大泣きするのを止めるために…ソフトクリームを買ってやったんだよ」

「よくあの手で支払い出来たわね」

「滅茶苦労してたぞ」

 

 カードを持っていないために財布から着ぐるみ越しに悪戦苦闘しながら小銭を掴んでいたのをスターフリー君(の中の人)は知っている。

 

「はぁ…問題はその後に「ねえ、スターフリー君!握手してー!」

 

 爆転しながらアグレッシブに子供の下に向かうスターフリー君。純粋にはしゃぐ子供に「僕も嬉しいよー!」と手を振って表現する。握手だけでなくハグまでするサービスに楽しそうに笑う子供。バイバイと元気に手を振って別れた後ぜいぜいと疲れた声をあげながらエドワーズ嬢の下に駆け寄る。

 

「はぁはぁ……でだ、問題はその後に……はぁ、あのお嬢さんに気に入られて……元からスター兄妹が大好きらしくてな……はぁはぁ、しまいにあれよあれよとベンチに誘導されてしまったわけだ。はぁ、逃げようとしても捕まえられて半泣きになるから離れようもない」

「ねぇ、ジャン大丈夫?さっきから凄く疲れた声よ?」

 

 秋とはいえ、まだ微かに残暑が残り、しかも物凄く湿気る着ぐるみを着てのアグレッシブに子供達の相手をすればさもありなんである。

 

「大丈夫さ、ジェシカ。こんな所で子供達の夢を壊す訳にはいかねぇよ」

 

 着ぐるみ越しに爽やかな笑みを浮かべ中の人が答える。かなり恰好良い、俳優のような表情であった。恐らく幼馴染が見ていれば恋愛劇が始まっていただろう。残念ながら彼女が見るのは固定された着ぐるみの笑顔のみだ。

 

尤も今の彼にはどうでも良かった。今は唯子供達の夢を守る、それだけが使命だった。

 

 彼は覚えている。まだ初等学校に上がったばかりの頃、両親に連れてきてもらった遊園地でアニメショーを見た。握手をしてもらい、サインもしてもらった。しかし、純粋な興奮は長くは続かなかった。舞台の裏手で中の人が汗だくで着ぐるみを脱いでいる姿を見た時彼の純粋な子供時代は終わりを告げたのだ。

 

 断じて自分が同じ思いを子供達にさせてはならない。この役目を引き受けた時、それを彼は心に誓ったし、それを今更捨てるつもりは無い。彼はスターフリー君を演じ切るだろう。この学校開放が終わるまで。それこそが今の彼の義務そのものであった。

 

「そ、そう……」

 

 着ぐるみ越しに感じられる熱気と意志に顔を僅かに引き攣らせてジェシカ・エドワーズは返答する。正直引いている。何があった、何がこの幼馴染に着ぐるみ越しに分かる程の強い信念を与えているのだ?

 

(あー、いいなぁ。二人共、私の代わりに変わってくれないかなぁ)

 

 一方、スターピーちゃんの中でぼんやりと少女の話を聞き流していた学生は狭い視界越しに遠くに待機する友人を眺める。と、いうか傍観しないで助けて欲しい。私はこんな小さな子供の相手が出来る程器用じゃない。

 

「すたーぴーちゃん、話聞いている?」

 

そこに妙に勘の良い少女の指摘。

 

 慌てて「ちゃんと聞いているピー!」とばかりに腕を振ってジェスチャー。スターピーちゃんが言葉を話さなくて良い設定で助かった。下手に根掘り葉掘り聞かれたら対応出来なかった。

 

 そんなスターピーちゃんの態度に一応納得したのか頬に僅かにソフトクリームをつけたままの少女はソリビジョンに視線を移す。

 

「あっちのチームのおにいちゃんね、わたしの知り合いなんだ。しょーじき、すこ……とってもなさけないし、おとなげないけど、パパのおしごと仲間のかぞくなんだって。だからね、仕方ないけどおーえんしてね?」

 

 おい、何故わざわざ言い換えた、後何気に辛辣過ぎないか?、と内心で突っ込みを入れつつ着ぐるみの中からぼんやりと見つめるようにシミュレーションを観戦する紅茶党の学生。

 

(まぁ、それは兎も角……応援ねぇ)

 

 正直最上級生達の試合にまだ軍事の基礎の基礎を学んだばかりの身で偉そうに論評するのは流石に人の機微に鈍感な彼でも好ましい事ではない事は分かる。

 

 それでも敢えて論評するというのならこの娘には悪いがこの勝負の勝敗はほぼ決している。

 

(戦術的に考えればここで会戦場所を特定されて正面決戦を強要された時点で既に戦闘の主導権を握られたようなものだからなぁ。守り手は防衛線構築の点では優位だが……)

 

 同時に戦略面では拠点の存在そのものが選択肢を束縛する。過去、堅牢な防御陣が機動戦の前に敗れた事実を忘れてはならない。無論、だからと言って計画性も妥当性も無い攻撃では防衛側の軍勢を打倒する事は不可能である事も過去の歴史が証明しているが。

 

 だが、残念ながらここではそれは当てはまらない。決して防衛側が無能である訳ではない。だが、相対する相手が悪いのだ。

 

 ゲリラ戦にでも持ち込めばもう少し勝率は上がっただろうが……。

 

「嫌なものだね……」

 

 傍の少女にも聞こえないように小声で戦史研究科所属の学生は呟く。

 

 確か記憶にある限りあそこは有人惑星だ。これはシミュレーションであるが、現実であったならばゲリラ戦なぞすれば市民を巻き込む事になる。全く、軍人とは卑しく、救い難い人種だ。勝つためならばどんな外道な、下劣な策でも昼食の内容を考えるように思いつくのだから。軍事が悪魔の管轄する領域の概念である事をしみじみと思い知らされる。

 

(……それにしてもまさかあのチームが、とはねぇ)

 

 今年の大会の思いがけないダークホースとして注目されている、と親友がいっていたのを思い出す。おかげで賭けに負けて500ディナールも消えた、と着ぐるみを着ながら嘆いていた。

 

 だが、それ以上に中心人物に余り良い噂を聞かない事でヤンは相手チームの代表を僅かに記憶していた。確か帝国から亡命した貴族だった筈だ。唯でさえ彼らは学校内でも家臣一同引き連れて大名行列し、上級生でも平民や下級貴族ならば門閥貴族の下級生に従う姿は異様だ。まして現在の彼らの首領がチームの代表ともなれば尚更である。

 

 金で入学した、課題を手下にやらせている、成績を上げるためにわざと部下と戦い八百長している、美人の家臣侍らせて羨ましけしからん、そもそも家臣に日常の家事その他させているとかふざけんなそこ代われ……大して興味は無いから話半分でしか聞いてないし、後半は唯の嫉妬だが悪い噂には事欠かない。

 

 流石に全て本当ではないだろうが確かに学内で何度か遠目に見れば周囲に控える家臣もあって「権威が服を着て歩いている」と評するしかない。更に言えば遠目から自分を稀に見ているように感じる事もあり、正直関わりたくない。名家の出身でなければ身寄り無し、財産無し、友人も少ない吹けば飛ぶような身の上だ。下手に亡命貴族と関わり面倒事に巻き込まれるのは御免被りたい。

 

まぁ………。

 

「大昔の御先祖様宜しく、焦土戦でもやるかと思ってたけど、流石に悪意的に見すぎたかなぁ?」

 

 同盟軍士官学校一年生戦史研究科所属ヤン・ウェンリーは少しだけ……ほんの少しだけ戦史研究から抱いていたソリビジョンに映る門閥貴族への評価を上方修正した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルレスハイム星系第四惑星周辺宙域は多くの有人惑星の例に漏れず、宇宙船の航行に適した空間である。宇宙嵐も、時空異常も無く、小惑星や宇宙デブリも極少数しかない。そのため戦闘は殆ど地理上の特性を利用する事なく広く動きやすい宙域における正面から機動力を生かしたの殴り合いとなりつつあった。

 

 即ち、艦隊決戦においては文字通り艦隊の質量、そして司令官の技量が勝敗を決する事になる。

 

「艦隊、中和磁場出力40%強化!来るぞ……!」

 

 私の指示とほぼ同時に敵艦隊から青白い中性子ビーム砲の光条が一斉に撃ち込まれる。

 

 最初の一斉射を艦隊が相互に連携して形成された中和磁場の結界が受け止め、二斉射目の前にそれは綻び各所で艦艇が火球と化し、三斉射目の前に前列の隊列が次々と核融合の光に包まれ原子へと分解される。補給を終え前線に参戦してきた3個戦隊の主砲三連斉射の前に瞬く間に数百隻の艦艇が消滅した。

 

 悲しい事にこれは幸運な事であった。中和磁場の出力強化が間に合わなければ損失は倍になっていた筈だ。流石砲術に秀でたスミルノフ四年生である。火力を集中するべきタイミングとポイントが絶妙だ。

 

 火力の集中といっても一斉に同じ所に撃てば良いと言うわけではない。万全の艦隊の前では無闇に砲を撃った所で大半は中和磁場に受け止められるので消費するエネルギー以上の戦果を上げる事は出来ない。予め牽制射撃により相手の中和磁場を弱めたり、砲火ポイント毎に火力の厚みを変える等して相手の陣形を乱れさせて出来た脆弱な地点を、敵が塞ぐ前に一気に突き崩さないとならない。

 

 原作の魔術師はその点では化け物だ。彼は良く先制攻撃で一点集中砲火を行っているが、あれは砲兵の高い練度(宇宙では僅かな砲撃の仰角のズレで明後日の方向に弾が消えてしまう)もそうだが、万全の敵艦隊の航行中に生じる僅かな部隊間の連結点の隙間を見極め狙い撃ちしているのだと思われる。ほかの提督では気付けない、或いは瞬時に対応出来ない本当に僅かな隊列の乱れを目敏く見極めているのだ。マジ魔術師人間辞めてるな。

 

「ちぃぃ……第41戦艦群、第54、55巡航群前進!空いた穴を塞げ!第2戦隊全艦、ミサイル斉射と共に後退!隊列を立て直せ!」

 

 私は鈍い頭をフル回転させ、可能な限り迅速に戦線を立て直す。崩れかけた最前列をネプティス紳士仕込みの艦隊運用術でギリギリの所で立て直し近接戦闘を仕掛けてきた駆逐艦群を戦艦の中性子ビーム砲の雨が薙ぎ払う。

 

 戦闘は余りに危うい均衡の下に膠着していた。我が方は中央に私の第1分艦隊とデュドネイの第5分艦隊総勢4000隻が固める。左翼はチュンの第3分艦隊1800隻、右翼はホラントの2100隻が固める。後方にベアトの第4分艦隊800隻が警戒と予備戦力を兼ねる。

 

 彼女の戦力は半数を第八惑星衛星軌道上に展開していたチュンへの供出と中央への数度に渡る戦力提供により三分の一にまで減少していた。だがその少ない戦力を上手くやり繰りして第四惑星との補給路の警備、敵別働戦力の警戒、後方支援部隊の警護を綱渡り状態ではあるものの全うしていた。これは彼女の非凡さの証明だ。限られた戦力を遊兵を作らず、かつハードワークに至らせず、必要な任務に必要な戦力を導入するのは簡単な事ではない。

 

 スコット率いる後方支援部隊はあちらこちらへと動き回る。第四惑星に作られた仮設補給基地から各種物資を移送して前線に届ける。病院船と工作艦が負傷兵の治療と損傷艦艇の応急修理を続ける。電子戦に特化した特殊工作艦が妨害電波を放ち、各種のダミーを放ち艦隊の移動や展開を偽装すると共にその損失を可能な限り防ぐ。大量の浮遊レーダーや偵察衛星をばら撒き敵艦隊後方の動きも探る。

 

 地上部隊も暇ではない。第四惑星では地上部隊が補給基地の防衛のために星間ミサイル群や電磁高射砲、防空レーザー砲を設置して軌道爆撃に備える。衛星軌道上には各種軍事衛星群を展開、また周辺を浮遊する隕石群に観測施設や防衛施設を設置し簡易の要塞にする。宇宙軍陸戦隊所属の特殊部隊は浸透して破壊工作を実施しようとする敵陸戦部隊の排除に動く。ヴァーンシャッフェはその任務を十全にこなしてくれた。

 

 問題は純粋な実力である。ホラントは兎も角他のメンバーは全員敵艦隊の動きに対応しきれないのだ。

 

 相手チームの各行動自体は決して独創的な物ではない。獅子帝の言葉を借りるのならば「独創性の無い戦場から独創性の欠片も無い戦闘が生み出されている」訳である。

 

 問題は個々の策謀の速さだ。個々の動きは士官学校にて基本的な対処法は指導されている。しかし相手側はその良く回る頭を使いこちらが一つの動きに対応している間にさらに二つの行動をしてくるわけだ。常に一手先に行動してこちらの処理能力を後手後手に回し、パンクさせようとしてくる。しかも嫌らしい事にこちらを立てればあちらが立たぬ、というような限られた戦力による二者択一を迫るような作戦を連発してくる。この動きは恐らく後方で悠然と予備戦力として待機するマカドゥー四年生が主導している事は間違い無かろう。絶対今頃意地の悪い笑みを浮かべている筈だ。

 

 最前線中央を預かるスミルノフ、ダランベール両学生は毎度毎度実に良いタイミングで良いポイントを突く。しかもどこぞの猪武者と違い引き際を弁えている。こちらが罠に誘っても寸前で回避してきやがる。破壊力は劣るだろうが、思慮深さから罠に突っ込み破滅的な損害は受ける事が無い。

 

 右翼を預かるコープは平凡な戦闘に終始する。彼女の本領は敵軍崩壊後の追撃戦だ。彼女に崩れた敵に対して大型艦の長距離砲と単座式戦闘艇の連携による総攻撃を行わせれば最悪複数の戦隊が宇宙の塵となるだろう。彼女は最終攻勢まで物資を温存するつもりのようだ。一方チュンも何方かと言えば受け身の戦術家であり、そのため戦いは地味な消耗戦の様相を見せつつある。

 

 左翼を預かるカルドーゾは席次23位の秀才であるが相手が次席と言う事で今一つ精細を欠く戦況の下にあった。尤も相手が相手である事を考えると膠着状態を維持しているだけ健闘しているとも言える。一方ホラントは優勢ではあるものの今一つ押し切れずにいた。全体では戦闘は膠着しているために右翼だけが突出してしまえば孤立し逆撃を受ける可能性があったためだ。

 

 敵軍の後方にて補給線警備、地上戦部隊を管轄するマスードは派手な活躍は少ないが自身の職分を十分に果たしていた。教本通りの動き……と言えば馬鹿にする者もいようがだからこそ定石に従いミスの非常に少ない確実な手を打ってくる。後方から補給線の切断を実施するのは非常に困難であった。

 

 ファン・スアン・ズン四年生率いる後方支援部隊はスコットと暗闘を繰り広げる。双方ともに電子戦で相手の目と耳を奪おうと、あるいは出し抜こうと蠢動し、多数の欺瞞情報を流し合い混乱させようとする。本来ならばマカドゥーがその役目についても良かったが、それは彼の無能を証明するものではない。寧ろ両者が連携する事により現在、彼らは自身の動きを欺瞞し、戦闘の主導権を握る事に繋がっていた。

 

 全体で見て指揮能力はこちらが若干不利、それでも辛うじて均衡を保てるのは補給線の長さとこちらが防戦側に回るために事前準備が出来る点からだ。ホラントを警戒してリスクの高い攻勢に出れない事もあるだろう。

 

「不味いなぁ。消耗戦だよなぁ、これ」

 

 だらだらと貴重な戦力が消費され続ける現状に舌打ちする。このまま戦い続けてもいつかは集中力が切れてこちら側のメンバーのミスが増える。それが限界まで来た時一気に相手は全面攻勢に出る筈だ。そうなったらどうしようもない。

 

「………」

 

 ちらりとシミュレーターから観客席に視線を移す。おうおう、我らが同胞出身者の皆様は怒り、というよりも困惑に近い表情だ。何故に幼年学校で学んだ通りに戦わないのか、とでも考えているのだろう。負けたら怖いなぁ。

 

 (父方の影響を強く受けているために)比較的同盟の価値観に順応しているロボス少将はハラハラしたような緊張した表情でシミュレーションを見つめている。私の方針に理解を示しつつも、負けた際の事を考え心配そうに渋い顔をする。

 

 そうはいっても士官学校時代から死亡フラグを立てる訳にもいくまい。此処は少なくとも面子は立つ程度の試合を演じて見せなければなるまい。

 

 こちらの希望はチュンの艦隊だ。正確に言えば第八惑星に配置していた分艦隊の約半数、それにベアトの第八惑星方面に散らしていた哨戒部隊、合わせて約1300隻。この艦隊はこのまま素直に本隊に合流せず大きく迂回して敵艦隊左翼を側面から攻撃する予定となっている。コープの旗艦を撃破出来れば勝敗は決まるし、そうでなくても左翼が混乱すればホラントの右翼も前進でき半包囲も不可能ではない。

 

「問題はそうは問屋が卸さない、かっ………!?」

 

戦闘開始から10時間後、敵艦隊が動いた。いや、正確には動いていた事に気付いた。

 

 後方の予備を兼ねていたマカドゥー率いる第5分艦隊、そこに各分艦隊から戦力を抽出して編成された2200隻の艦隊がチュン率いる第3分艦隊に襲い掛かった。直前までコープの艦隊が陣形を横に薄く広く展開し移動の察知を隠蔽していたようだ。チュンはそれを半包囲体勢を意図したものと考え対応して陣形を広く展開していたために劣勢に陥る。

 

「……!」

 

 すぐさま中央から1個戦隊、また後方のベアトが300隻を抽出して左翼に援軍を送る。同時にチュンの対応も的確であった。無理に受け止めるのではなく寧ろ中央から突破させて援軍艦隊と敵第5分艦隊を正面からぶつけさせた。同時にチュン率いる第3分艦隊は両側面から敵第5分艦隊に砲撃を加える。

 

実質的に半包囲された敵第5分艦隊は瞬く間に100隻近くが失われ、足が止まる。

 

 だが、あるいはそれも想定の内であったらしい。予備戦力と中央が薄くなった所に敵の中央艦隊が攻勢に出る。同時にコープ率いる第1分艦隊はこちらから見て10時方向からチュンの第3分艦隊右翼及び中央の私の第1、及びデュドネイの第5分艦隊を突く。十字砲火を受け中央部左翼先頭の戦艦群が粉砕され、その穴を塞ごうとした第236駆逐群も中性子ビーム砲の雨の中で原子に還元される。

 

 ベアトはすぐさま危機を察知した。有する最精鋭たる第201戦艦群を援軍に出す。同時にデュドネイも中和磁場の出力を最大にして正面と左斜めから来る攻勢を受け止める。チュンの第3分艦隊左翼はそのままマカドゥー艦隊の側面に打撃を与えつつ時計方向に迂回してマカドゥー・コープ両分艦隊の後背につき痛撃を与える。

 

 2時間余りの戦闘は最終的に第八惑星から敵艦隊側面に回り込もうとした第3分艦隊の役半数1300隻が50光秒の位置にて察知された時点で終了した。両艦隊は部隊を引き離す。

 

 12時間に渡る戦闘により我が方は1500隻、相手側は1200隻余りを喪失した。こちらの損失が多いのは指揮官の差もあるし、後背に回ったチュンの艦隊の戦力が不足していた事もある。だが、こちらは側面からの奇襲を失敗したとはいえ、無傷の1300隻が合流した事により戦術的には優位に立ったのも事実であった。

 

「と言っても、まぁよくも不味い戦いをしたものだ」

 

完全な消耗戦、貴重な戦力を削り取られてしまった。

 

「チュン、別動隊の半数はそちらに移す。残り半数は予備に回して『おい、油断するな……!もう一撃来るぞ!』うげっ!?」

 

 長期に渡る戦闘が一旦終結した事に油断した矢先にホラントの通信。同時にシミュレーターから見えるモスグリーンの艦船の影が次々と爆炎の光に消える。後退した、と見せかけてから高速艦艇のみで急速に突進して旗艦を討ち取りに来やがった。

 

「やべっ……旗艦後退!旗艦後退!直掩部隊前に出ろ!」

 

 そう命令している間にも電磁砲の雨を食らったすぐ側の戦艦が核爆発の光に消える。なにふり構わず旗艦を後退させる傍らで浸透進撃をしてきた200隻余りの艦隊を迎撃する。駆逐群を前に出すと共に直属空母部隊の単座式戦闘艇を発艦させる。旗艦のすぐ前方ではウラン238弾とミサイル、電磁砲と言った実弾兵器が飛び交う地獄と化している。

 

『若様、今援軍を……!』

「いや、待て!それより主力に注意しろ!この程度の戦力で旗艦の直掩部隊を抜けない事は承知している筈だ!なら恐らく……!」

 

 ベアトへの注意喚起とほぼ同時に相手艦隊の内中央2個分艦隊は再びの総攻撃を開始した。別動隊との合流が終わるまでの数時間内に勝負をつけるつもりらしい。

 

「それにしても……そんなに物資に余裕があるか……!?」

 

 敵艦隊は景気よく砲弾を撃ちまくる。計算ではそろそろ次の補給が終わるまで大規模攻撃に移るだけの物資は枯渇していると思ったが……どうやらこちらが気付かないように各部隊単位で少しづつ物資を節約し、中央の2個分艦隊に移送していたらしい。随分と細かくケチな真似をしてくれる……!

 

 デュドネイの第5分艦隊が旗艦を含む第1分艦隊を守るように前に出る。中和磁場のエネルギーも残り少ない第5分艦隊は比較的物資に余裕のある第21戦隊が中心になり迎撃する。

 

 同時にホラントの右翼が前進、敵左翼を牽制しつつそのまま1個戦隊が敵中央艦隊の正面を抑える。

 

 第1陣。第2陣の隊列を食い破ったがそこで進撃が止まる敵艦隊。反撃しようとするが相手の判断は素早い。すぐさま十字砲火が来る前に後退に移る。奇襲に来た200隻の艦隊は天頂方向から包囲を抜け本隊の下に逃げ去る。相応の損失を与えたが別動隊の半数近くは逃亡に成功した。

 

「やっと引いたか……」

 

 敵艦隊が完全に射程外まで離脱した所でようやく緊張が解ける。さっきのは本気で撃沈寸前だった。

 

「それにしても……ここらが限界か」

 

 自分も含め、精神的に皆磨耗しつつある。小さいがミスも増えた。次の敵の攻撃までに物心両面の回復は容易ではない。

 

 喉の渇きを感じてペットボトルの水を飲む。目の疲れに対して目薬をさす。軽食はルールに従い同盟軍正式レーションのビスケットやカロリーメイトを胃に詰め込む。

 

 同時に通信回線を開き会議に移る。皆……正確にはホラント以外は疲れ気味だ。

 

『正直、これ以上は厳しいと言わざる得ないな』

 

随分と目が疲れた様子でスコットが口火を切る。

 

『こっちも……戦力…かなり削られた』

『増援をどう使うかがポイントだねぇ』

 

デュドネイとチュンがそれぞれ答える。

 

『地上部隊は余裕は御座いますが………』

「相応に被害は受けている、か?」

『はっ』

 

 艦隊戦の裏では各所の小惑星基地での戦闘、潜入工作する敵工兵、特殊部隊がヴァーンシャッフェ率いる陸戦隊と小競り合いを繰り返していた。両軍とも損失は艦隊戦の比でないがそれでも後方の通信基地や補給基地への攻撃に対する対処は相応の疲労を彼に与えていた。

 

『いかが致しましょう?』

 

ベアトが恭しく尋ねる。

 

 ………想定以上の被害と疲労だが、辛うじて時間は稼げたか。

 

「ホラント」

『ああ』

 

私の呼び声にホラントは答える。

 

「ここはあれで行くか」

『………しか無かろうな』

 

 私の提案に淡々と腕を組み答える。両軍の補給と再編、そして残り時間から見れば古典的だがこの手しかあるまい。幸い援軍のおかげで頭数は揃っているし、幼年学校時代にアレクセイやベアトも含めての二対二でのシミュレーションで組む際は幾度かやったので要領はある程度分かる。時間切れの惜敗か引き分け……いや、出来れば判定勝ちに持ち込みたい。……望み薄だけど。

 

「………さて、出来る限り悪足搔きをしようかね」

 

私は小さく呟くと最前列部隊の再編成を命令した。

 

……後は相手が誘いに乗ってくれる事を祈ろうかね?

 

 








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