帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
<< 前の話 次の話 >>

51 / 90
初任地での仕事が安全に終わると思ったか?
第五十一話 トンネルを潜るとそこは雪国


 イゼルローン回廊同盟側出口は、ダゴン星系付近を起点として大きく分けて四つの航路に別れている。

 

 一つはティアマト星系やアスターテ星系等、アーレ・ハイネセンの長征組がバーラト星系に辿り着くまでに通った(と想定されている)航路、公式名称を第4星間航路、俗に長征航路である。

 

 二つ目がヴァラーハ星系やエルファシル星系、カナン星系等旧銀河連邦植民地等の多く残る航路であり、恐らく銀河連邦時代の主要開拓航路であった公称を第10星間航路、通称フロンティア航路である。

 

 三つ目がヴァンフリート星系やドラゴニア星系、ボロドク星系等比較的不安定な恒星系が多くある辺境航路であり、両軍ともに大規模な兵力が展開出来ず、小競り合いが中心に展開され、戦死者を積み重ね続けている第16星間航路、別名白骨航路である。

 

 最後が私の故郷たるアルレスハイム星系やフォルセティ星系、シグルーン星系等帝国がサジタリウス腕開拓に際して開拓した星系群が連なる第24星間航路、通称帝国航路である。

 

 実際は完全に分かれている訳ではなく、主要航路から毛細血管のように小航路が伸び相互の航路間で行き来がある程度可能ではあるが、大まかに区分すればこの四航路が主な航路になる。

 

 因みにコルネリアス帝の親征の際、当初は比較的航路情報が把握されていた帝国航路に主力、フロンティア航路に別動隊を侵攻させたものの、特に帝国航路においてゲリラ戦と焦土戦を実施され、想定外の反撃を受ける事になった。結果コルネリアス1世は方針を変え軍を後退、長征航路から再侵攻する事を決定した。

 

 同時にその頃、同盟軍主力は長征航路からダゴン星系を経由しつつ帝国軍の背後を襲撃しようとし、結果最終的補給を受ける筈であったティアマト星系にて両軍は遭遇、第1次ティアマト会戦の勃発と敗北へとつながる。亡命政府や旧銀河連邦植民地を(意識してかしてないかは不明だが)生贄にして勝利しようとし、大敗をしたこの一件は同盟の黒歴史の一つである。

 

 さて、自由惑星同盟軍は国内を主に7つの方面軍に大きく分けて、その中から航路は星間航路巡視隊、有人星系は星系警備隊が管理しているが、それとは別に国境に関しては方面軍管区制を導入して各方面軍管区の自由裁量の余地を広げ、即応性を高めている。

 

 全4個方面軍管区については前述の4つの航路をそれぞれ担当している。例えばアルレスハイム星系を始めとした帝国航路は第4方面軍管区の管轄だ。

 

 第16星間航路を管轄・防衛する第3方面軍管区であるが、この軍管区が担当する星系の一つクィズイール星系は、クィズイール星系統合軍という宇宙軍・地上軍の統合運用部隊が帝国軍の侵攻に対処するため展開している。そしてクィズイール星系第五惑星カプチェランカには、その防衛のためにクィズイール星系統合軍から抽出されたカプチェランカ戦域軍が駐留する。

 

 大局的で千里眼的な戦略構想を有する金髪の小僧にとっては路傍の石であろうが、惑星カプチェランカは当星系において特に重要な拠点の一つとして両軍に見なされている。旧銀河連邦の移民候補惑星の一つであり、恐らく宇宙暦280年頃に放棄されたと見られるこの惑星はその惑星開発の遺産として呼吸可能な酸素と、汚染されていない(但し凍結している)水資源が惑星一面に広がっている。断片的なデータによれば、開拓者達は別星系から大量の水を輸送すると共に微生物類や化学工場等を使い、惑星の酸素の生成と気温の上昇を試みたらしい。

 

 計画が順調に進めば、宇宙暦380年頃には惑星の平均気温は20度から25度に安定、地下の莫大な鉱物資源と農業、水産業を軸とした豊かな惑星として、1000万人以上が居住する事になる筈であった。開発予算の不足と航路の治安悪化の結果、おじゃんになったけどね。

 

 現在では地表を覆う大気の層と凍てつく雪原、そして惑星上に点在する開発基地の廃墟と、赤道上にある開拓者が移植したであろう僅かな生物や針葉樹林による小規模な生態系がその過去を伝える。

 

 また、航路上の地上監視拠点としても十分とは言えなくても利用出来る。鉱物資源と居住可能な(しかも改造すれば相応の未来を期待出来る)、そして星系内の監視拠点としてもある程度利用可能な惑星、それがカプチェランカであり、同盟・帝国の勢力圏の混在宙域にある事もあり、例年の如く規模こそ小さいが熾烈な係争地として多くの血が流れていた。

 

「まぁ、そんな惑星が私の赴任先な訳だ」

 

 私は手元の携帯端末の資料を見ながら現実逃避する。え、何から逃避するかって?それは……。

 

「帝国艦隊!砲撃来ます!」

「中和磁場出力上げろ!取り舵一杯!びびるな!この距離からなら光学兵器の命中率なぞ知れたものだ!」

「護衛部隊!ちんたらするな!さっさと追い払え!」

 

 正に私の乗る宙陸両用輸送艦が帝国軍の砲撃を受けているんですよ。わーい、窓から帝国軍の砲撃の光が見えるよー?

 

 私の乗船する宙陸両用輸送艦「ユーリカ41号」を含む輸送艦艇11隻、護衛艦艇として巡航艦3隻、駆逐艦12隻はカプチェランカの衛星軌道上で帝国軍哨戒艦隊と楽しい砲撃戦を開始していた。正確には戦闘するのは護衛艦隊のみであり、輸送艦艇はその後方に隠れているが、流れ弾がガンガンこっちに飛んで来る。ハイネセンから輸送艦に乗って移送される事3週間近く、まさか任地に着く前に戦闘に巻き込まれるとはたまげたなぁ。

 

 無論、宇宙空間での光学兵器の命中率はしかも遠距離ではたかが知れているし、運悪く命中してもエネルギー中和磁場に大概弾かれる。だからとはいえ、文字通り初めての戦闘に巻き込まれ、しかも何もやれる事が無いというのは恐怖しかない。あ、今隣の輸送艦にビーム当たって弾かれた。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「棺桶の中で仲良く蒸し焼きは御免だぜ?」

「たく、ようやく降下という時に面倒臭いな」

 

 同乗していく味方の兵士達が愚痴愚痴とそんな軽口言い合う。中には無視して三次元チェスをしたり、読書したり、飯食っている奴までいた。ちょっと、皆さん肝据わり過ぎじゃないですかね?

 

「なぁに、若いの。そう怖がるな。こんなの前線では良くあることじゃ。どうせすぐ終わる。運が悪くなければ後方の輸送艦が簡単に沈むか」

 

 それにどうせ出来る事無いのだから騒ぐだけ無駄じゃ、とハンバーガー食いながら隣の席の同僚と三次元将棋をする老軍曹が懇切丁寧に答えてくれた。因みに顔に戦斧食らったみたいな痛々しい傷があった。あ、これは修羅場潜ってますわ。

 

「そう言われても……うう、腹痛い」

 

 死がすぐ側でにこやかに笑いかけているのにリラックス出来るか。それとも長く軍人を続けてこいつら感覚が麻痺しているのだろうか?

 

「若様……このベアト何事があろうとも一命を賭け、御守り申し上げます。ですのでどうぞ御安心下さい」

 

 椅子に座る私にベアトが隣で手を強く握りしめる。因みにもう片方の手には隠れて見えないがブラスターが握られている筈だ。

 

 流石に轟沈すればどうしようもないが、そうでなければ従士にもやりようはある。

 

 艦の各所には救命カプセルがあり、その場所も予め彼女は把握している。被弾すれば爆沈前に私をそこに詰め込み、助かろうと群がるほかの兵士を射殺して射出するつもりだろう。カプセルは一人乗りだが、多分迷わず私を優先して捩じ込む筈だ。

 

「……そうだな、流石に着任前から戦闘に巻き込まれて少々気が動転していたようだ。無様な姿を見せたな」

 

 私は内心の恐怖を押し殺して従士に平静を装う。周囲の兵士達は然程緊張していない、まして私は武門の名家出身だ。無様な醜態を晒すわけにはいかない。

 

ワープの度に死にかけているのは指摘しないで。

 

「もう少しだ……もうすぐ救援部隊が来る!そうすれば敵も後退する!」

 

 護衛艦隊と帝国艦隊の砲戦は激しさを増していた。ついに護衛艦隊の駆逐艦「コタバル45号」が被弾し、小破した。ほかの艦艇の支援を受け、被弾艦艇は後退する。

 

 それを皮切りに両軍から損傷艦艇が出始める。撃沈される艦艇が無いのは両軍の艦長やその上位の隊長が優秀である事もあろうが、それ以上に損失を気にして無理な戦いをしないからだ。

 

 一昔の帝国軍ならここで損害を気にせず近接戦闘を仕掛け双方壮絶な潰し合いになるのだが、今どきはそんな度胸のある貴族は少ないし、平民でも代々軍人となる士族階級の不足もあり、艦長レベルになると成り上がりのために士官学校や専科学校を卒業したただの中流階級も多い。

 

 彼らは立身出世のために、自身のために戦うため、帝政や一族の名誉のため戦う武門貴族や士族に比べすぐ後退(という名の逃亡)や降伏するし、命を惜しみ、士気は劣悪だ。徴兵された下層市民や農民共は推して知るべし、だ。

 

 その点では、地元に根付き地理に明るく、要塞化された領地に立て籠った上で貴族階級たる士官から兵士まで代々役職を受け継ぎ、同じ軍内、部隊内のみで限れば恐ろしいまでの連携戦闘を取る貴族私兵軍は、装備面で一歩劣るとはいえ今や帝国正規軍よりも厄介であるという意見も同盟の軍事評論家にはある。イゼルローン要塞が出来る前、同盟軍が帝国領に侵入した時には、地の利を得て職人芸的な戦闘を行い、しかもなかなか降伏しない貴族私兵軍に相当苦しめられた。

 

 まぁ、その代わりよその私兵軍や正規軍との連携は地元での戦闘に最適化されたいるため出来ないし、地元を離れたら一気に弱体化するけど。私兵軍は極めて守勢的な軍隊だ。

 

 さて、損害が発生してから更に三十分余りだらだらとした戦闘が続く。双方共に損失を出すのを恐れて攻撃よりも防御に重点を置いて戦う。

 

「来たぞ……増援部隊だ!」

 

 一人の乗員が叫んだ。第6惑星第2衛星に駐留していた小艦隊から50隻ほどが抽出され派遣された救援艦隊が輸送艦のレーダーに映りこむ。

 

 同時にカプチェランカ地表からも光源が飛び立つ。地上軍の星間防空ミサイルの雨だ。同盟軍は地上と宇宙から同時に反撃に移る。

 

 帝国軍駆逐艦が一斉に迎撃ミサイルを打ち出した。成層圏で双方のミサイルが爆発の光で空を彩る。これ以上の戦闘は無意味であると判断したのだろうか、帝国軍は長距離砲で牽制しつつ後退を開始した。ミサイルの爆発やビームの光条といった戦場の光は減っていき……やがて完全に消えた。

 

「終わったな」

 

 戦闘を観戦していたある兵士が呟く。それは帝国と同盟の間で日常のように発生する典型的な小競り合いの一つが終わった事を意味する。

 

『周辺脅威の排除を完了。これより本艦は大気圏突入準備を開始する。総員シートに座り、安全ベルト着用の用意。震動に気を付けろ、荷物は固定、飲食物があるなら飛散しないように腹に詰めるなり、蓋をするなりしておけ』 

 

 艦内アナウンスが鳴る。忙しく周囲の乗員達は観戦をやめて各々の席に戻り、あるいはゲームを中断したり、食事を中止して大気圏突入の準備に移る。多数の戦闘艦艇の護衛を受けながら、輸送艦隊はゆっくりと重力の井戸へと舞い降りていく。

 

「はぁ……」

 

 私もようやく危険が遠ざかった事を確認し、小さな溜息をつく。同時に手持ちの酔い止めを口にする。もうすぐ大気圏突入だ。正直震動がやばい、気持ち悪くて吐きそうになる。何度も訓練でやっているので慣れては来ているのだが……私は重力に魂を引かれた人間なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 自由惑星同盟軍カプチェランカ戦域軍は現在カプチェランカ南大陸を中心に兵員5万7000名が旅団・連隊単位で各所に展開しており、これとは別に銀河帝国亡命政府軍も1万名程が派遣されている。

 

 カプチェランカにおける戦闘は大きな波がある。惑星の一年は668日、内600日以上がブリザードの吹き荒れる荒天であり、この時期は航空戦力は使用出来ない。……逆に言えば60日余りの間航空戦力を投入可能な事を意味する。

 

 現代において、航空支援無しでの地上戦は自殺行為だ。カプチェランカにおける戦闘はブリザードの止む夏(といっていいか怪しい寒さだが)に苛烈になる。航空軍や宇宙軍の爆撃支援を受けた地上軍や宇宙軍陸戦隊が帝国軍と各地で激しい戦闘を繰り広げる。

 

 一方、一年の大半を占める冬には双方小隊から中隊規模での偵察活動と小競り合いをだらだらと続ける事になる。

 

 即ち、カプチェランカにおける「本物」の戦闘は僅か2か月の夏が本番であり、残りはその添え物に過ぎない訳だ。金赤のコンビがカプチェランカに来たのは、ブリザードの吹き具合から見て恐らく冬の時期だろう。原作の戦闘は、カプチェランカ全体の戦局でいえば局地戦での敗北でしかない。

 

 そしてカプチェランカにおける同盟軍の最も古く、最大の拠点「カプチェランカ赤道基地」では今正に秋の終わり、そして冬に差し掛かろうという時期を迎えていた。

 

 同盟標準時6月22日1135分、「ユーリカ41号」を始めとした宙陸両用輸送艦群はカプチェランカ赤道基地に設置されたカプチェランカ軍事宇宙港に降下する。

 

 軍事宇宙港、などと大層な名だが、所詮は辺境の係争地である。管制塔があり滑走路もあるが、それは航空部隊との共用である。しかも一年の大半が雪に埋もれ、工兵部隊が除雪作業に従事する羽目になる。

 

 ましてシャトルでの揚陸は雪の降り積もるこの気候から見て自殺行為なので、カプチェランカでの惑星間の物資・人員移動は帝国艦艇のような大気圏降下能力を持つ宙陸両用輸送艦艇での輸送が主だ。同盟軍では製鋼技術が劣る上、ブロック工法が使いにくいので宙陸両用艦艇は高価であり、その殆んどがその能力を必要とする宇宙軍陸戦隊や地上軍の輸送用艦艇である。帝国は主要戦闘艦艇全てに大気圏突入能力をつけているが、あれはかなり贅沢だ。

 

 真っ白な同盟軍士官寒冷地用防寒着を着て大型バッグを手に持った私は、列に並んで遂にカプチェランカへの第一歩を踏み出した。

 

「………!」

 

 艦のハッチから出ると共に私は一瞬目を見開き、僅かに驚愕した。

 

「こりゃあ………一面銀世界だな」

 

 文字通りそこは地平線の先まで白銀の大地が広がっていた。息をすれば冷たい空気が肺に満ちて、白い吐息が吐き出される。

 

 幼年学校や士官学校でも雪原での教練はあったし、実家やテルヌーゼンでも雪が降り積もる事はいくらでもあった。

 

 だが、これはどこか違った。これまでとは比較にならない。惑星全体が雪と氷に閉ざされているからだろうか、より強大で、より冷たい無機質な雰囲気を感じた。

 

「若様……」

「あっ、すまん。……今出る」

 

 すぐ後ろのベアトの指摘のお陰で後がつかえている事に気付いて私は慌ててハッチから飛び出る。

 

 後から続くベアトと共に、私は基地の司令部に向かうために除雪されたばかりの滑走路を滑らないように注意しながら歩く。

 

『第901補給大隊は直ちに第8バンカーに集結せよ。輸送艦からの物資を格納する』

『基地整備隊は明日の出港までに各艦艇の整備と補給を済ませろ。明後日はブリザードが酷くなる。作業を遅らせるな!』

『明日の出港に備え本国帰還予定者は手荷物の最終チェックを1600時までに済ませる事、損傷装備については2000時までに搬入作業を済ませてください』

 

 基地ではアナウンスが次々と鳴り響きそれに従い後方支援要員が各種作業に移っていく。駆逐艦並みの巨体を持つ中型宙陸両用輸送艦のタラップが開き次々と装甲車両や弾薬、修理部品、機材、食料や消耗品、中には郵便や宅配便が軍需科や補給科、工兵科の人員によって運ばれていき、各科の高級士官達が荷物を確認し、受取のサインをしているのが見えた。共に移送された部隊の兵士達が誘導班に指示されながら列を作り兵舎に向かう。

 

 一方、帰りの便には任期を終えた兵士達がようやく本土に戻れる事に喜色の笑みを浮かべながら荷物を運んでいた。明日の便に乗る同盟地上軍陸上軍第845歩兵旅団と同盟宇宙軍第187陸戦連隊は、共に6か月に渡りこの極寒の惑星の表面で激闘を繰り広げてきた。

 

 あるいは損傷して現地での修繕が不可能になった装備がトランスポーターに乗せられ、あるいはジープに牽引されながら移送される。また、青いビニールシートに包まれた多くの特殊貨物は特に丁重に輸送艦に運ばれていった。

 

「………」

 

 数か月前までこのカプチェランカでは一個戦隊の宇宙艦隊、そして7万の同盟地上軍、1万8000名の宇宙軍陸戦隊、また各種航空隊、水上部隊、更には亡命軍からも2万名近い増派を受け、帝国地上軍野戦軍と狙撃猟兵団、そして装甲擲弾兵団と壮絶な戦闘を繰り広げたらしい。最終的には2万名を超える戦死者を出し、北大陸の三分の一を奪還した。

 

現在は冬に備え両軍とも重装備の大兵力を後退させ、戦闘も小康状態にあるらしい。その意味では幸運だ。

 

 カプチェランカ赤道基地にはカプチェランカ戦域軍の司令部として師団規模の戦力が駐留しているため地上部にも多くの施設があるが、その殆どは所詮失っても惜しくない物だ。基地としても機能の7割以上は広大な地下に存在している。

 

 ブリザードにより宇宙からの軌道爆撃が難しいカプチェランカではあるが、補給の関係もあり、流石に総司令部は比較的天候の安定している(比較的)温暖な赤道部に置くしかない。帝国軍も同様で、惑星の反対側には帝国軍の司令部があるだろう。対策として宇宙軍が上空を防衛し、防空部隊の強化と主要施設の地下化をせざる得ない。

 

 そんな訳で私達は今基地の地下12階にある司令官室に向け通路を抜け、エレベーターで向かう。途上警備や事務で通りかかる下士官や兵士に敬礼をされるのでそれに返礼していく。

 

「たかが一少尉が司令官に挨拶するのも可笑しな話だけどな」

 

 ベアト以外いないエレベーター内で自嘲するように私は口を開く。万単位の軍人がいるこの基地で、たかが少尉が司令官に挨拶なぞ身の程を知れ、と言われるだろう。予備役士官でも、幹部候補生の下士官上がりでもない士官学校出の(同盟軍全体から見て)エリート出身ではあるが、だからといって本来ならば配属部隊の司令官に挨拶するのがせいぜいだ。

 

「司令部伝令班ねぇ……」

 

 この役職が私が身の程知らずにもカプチェランカ戦域軍司令官に拝見する理由だ。司令部直属となるこの班は、文字通り司令部や部隊間での伝令役だ。

 

 通信妨害の技術の発達の結果、情報伝達手段は場合によっては伝書鳩や伝令犬、さらにはそれに対抗するための猛禽や毒餌が使われるまでに退化する場合があるのが宇宙暦8世紀の戦場だ。そのため、実際に「人」が部隊に対する命令を連絡する事もある。まぁ、宇宙軍の連絡艇の地上版だな。

 

 それ以外にも宇宙軍と地上軍、また亡命軍やその他現地自治体との連絡手段として使われるのが私の役職の仕事だ。ようはメッセンジャーだ。無論、普段はやる事が無いので司令部の警備なども請け負う。

 

「若様の初任地として十分、とは言いませんがまず満足出来る部署であると存じます」

 

ベアトがにこやかに答える。彼女も同じく司令部連絡班所属である。

 

「まぁ、一応合理的ではあるんだよな」

 

 宇宙軍と地上軍の意思疎通は大事だ。下手したら誤爆で万単位死亡なんて有り得る。宇宙軍と地上軍双方への理解がある者、更に言えば亡命軍の事情に通じ話が出来る者が望ましい。また司令部の護衛や戦場に伝令に向かう事もあるので陸戦技能がある程度必要であり、そして司令部勤務なので将来に向け上官の指揮や仕事を近場で見る事が出来、かつ理解出来る知識も必要であるので、士官学校出の者に宛がうべきポストでもある。

 

 さて、今期の士官学校卒業生で該当するのは誰でしょう?うん、知ってる。言いたい事分かるけど、初年度から前線は流石に酷くない?

 

 まぁ、もう冬が近づき戦線が小康状態に落ち着きつつあり、しかも司令部勤務だから前線勤務としては安全な方ではあるのも事実だ。

 

 亡命政府からすれば初年度から前線にいたという箔付になり、かつ貴重な経験を積め、私を嫌っていそうな長征派当たりとしては戦死しない程度に怖がらせる嫌がらせが出来るという訳だ。両派にサンドイッチにされてこの人事を考え付いた奴は優秀だ。感謝する気は無いけど。

 

「まぁ、愚痴っても仕方無いか」

 

 気を取り直そう。どうせ大規模な戦闘はしばらくない。長くても一年程度で任期は切れ、本土に戻れる筈だ。実戦参加が無くても戦地にいった勲章は貰える。せいぜいハイネセンに戻ってからドヤ顔で威張ってやろう。

 

 そんな馬鹿みたいな事を考えている間に基地の最下層に到着した。私はベアトを控えさせながら司令官室に向け進む。携帯端末の地図に記された通りに通路を進み、私はそこを見つける。

 

 扉の両脇を固め、実弾銃を装備する警備兵が敬礼する。私がベアトと共に返礼、その後私は自動扉を潜り、暖房の効いた司令官室に入り、その高価そうな司令官机の前で教本通りの優美な敬礼で官命を発した。

 

「ヴォルター・フォン・ティルピッツ少尉、ベアトリクス・フォン・ゴトフリート少尉、宇宙暦784年6月22日1230時を持ってカプチェランカ赤道基地司令部伝令班に着任致します」

 

 この日、この時間、私は遂に同盟軍軍人として初任務に付いたのであった。

 

 

 

 




尚、作者は平和には任期を終わらせる気は無い(無慈悲)







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。