帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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一話に収めようと思いましたが長くなったので分割します。
六十三話は9時、六十四話は10時に投稿します。

痛そうな描写あり


第六十三話 怒っても、暴言を言うのは良くない

「では、曹長と軍曹は殿として残ると?」

 

  深夜、ライトナー軍曹が斥候を仕留めた後、対策のために起こされたゴトフリート少尉は、目の前の下級従士二名に淡々と尋ねる。

 

「はい、賊軍の規模は、一個連隊はあるでしょう。この地形では多少足止めは出来るでしょうが、所詮時間稼ぎにしかなりません。そのためここからの脱出は既定路線です。問題は……」

「追撃ですね?」

 

 星の光に金色の長髪を照らす新任少尉はその先を答える。

 

「御明察です。賊軍共を中央に誘引しつつ、地下から外縁部に脱出されるのが上策ですが、それだけではすぐに捕捉される可能性があります。ですので若様の任務と安全のために避難されるまで注意を逸らす必要があります」

「そのために、貴方方が残留する、と?」

「我々は所詮下士官、しかも従士の分家生まれです。この場で残る者としては当然の選択です」

 

 曹長は苦笑しつつも、そこには苦悩や不満の感情は読み取れなかった。それどころか当然の選択だと確信していた。

 

 命の価値は違う、という考えは帝国人にとっては常識だ。より優秀で人類社会に貢献出来る血筋を残すためにそれ以外が犠牲になるのは公共への当然の義務であるし、それを抜きにしても兵士よりも下士官、下士官よりも士官の方がその損失を回避すべきものである。同盟では帝国貴族や高級軍人が友軍を盾にしたり、文字通り盾艦を利用したりする事を非人道的行為だと糾弾するが、帝国人には余り理解出来ない考えだった(実の所盾艦は言う程に非人道的でもないが)。戦場で命の優先順位があるのは当然の事ではないか?

 

 その点でいえば最優先に脱出させるべきは自分達の主人であるし、その護衛としてゴトフリート家直系の部下が次点に来る。そしてライトナー家分家筋の自分達はその脱出のための礎になるのは当然の流れであった。幸い本家筋ではなく分家筋なので戦死しても替えが効く。無論、一族は大事であるが主家の家族には代えられないものである。寧ろ、主人を助けるために殿を務めるのは名誉な事だ。

 

「……非礼を承知で御聞きしますが、降伏や裏切りなぞはしないでしょうね?」

 

 本当に非礼の極みであり、侮辱であるが、敢えてゴトフリート少尉は尋ねる。事は主人の命に関わるのだ、当然の事であった。

 

「当然ですぅ、そんな事するくらいならぁ、自決する方が余程マシですぅ」

 

 ナイフの血と油を布と紙で拭き取りながら装甲戦闘車の上に乗った軍曹が答える。

 

 元々銀河帝国において降伏が忌避されるのは開祖ルドルフ1世の訓示によるものではある。銀河連邦末期、連邦軍や連邦警察は宇宙海賊や犯罪組織、テロ組織、武装教団等との死闘を繰り広げた。これらの組織は連邦軍や連邦警察に対して人質や脅迫材料として捕虜を盾にする事、士気を落とすために残虐な方法で処刑や拷問を加える事すらあった。

 

 ルドルフ大帝自身も幾度となく戦友が殺害される場面や部下が人質になる経験をしており、それ故に軍人や警察に対して降伏を認めず、また人質がいようとも容赦なく攻撃し、弾圧を加える事を厳命した。降伏しても五体満足で帰れる者は僅かであり、身代金は活動資金に、取り逃がせば将来的にはより多くの人民や兵士が犠牲になるためである。

 

 帝政成立後は帝室と門閥貴族階級の成立により、そこにある種の選民思想が追加される。帝室を頂点とした身分階層、その支配階級の剣であり盾でもある帝国正規軍や私兵軍は帝室や貴族階級に仕える立場であり、支配されるだけの臣民とは違う、という価値観が生まれる。そして軍と戦うのは共和主義等というカルトを信仰する狂信者や、秩序を乱し臣民を食い物にするマフィアや宇宙海賊……臣民以下の蛮族であり、危険分子であり、帝国の保護を受けるに値しない賤民である。帝室や門閥貴族の代理として秩序と安寧を守護する軍人がそのような者共に頭を下げ、命乞いをするなぞ、帝国の威信を穢す行為に他ならない。

 

 どっぷりと思想教育を受けた臣民は帝室と体制こそが唯一の正義であると確信しており、その考えを抵抗なく受け入れた。降伏する者は体制の裏切り者だ。危険思想の持主だ。ならばその遺伝子が家族にも受け継がれているかも知れない。故に降伏した者の家族は迫害を受ける事もある。そうなれば更に降伏と言う考えに対して忌避感が生まれる。

 

 故に降伏するくらいならば玉砕するなり自決すべし、という思想が長い時間をかけて帝国軍に浸透する事になった。それが薄れるのは自由惑星同盟との長きに渡る戦争により捕虜がそれ以前とは比べようもない程発生し、厳しい軍規を敷く武門貴族や士族の軍人が戦死していき、その占める割合が低下してからの事だ。

 

「軍曹の言う通りです。ここで降伏や裏切りなぞ一族と先祖への侮辱です」

 

 5世紀、二十世代以上に渡り一族で仕えてきたのだ。臣下として長年多くの恩恵を受けてきた身である以上、今こそが務めを果たすべき時である。伝統の重みと教育が個人ではなく一族や誇り、忠義を重視する従士階級の価値観を形作っていた。

 

「……分かりました。武運を祈ります。失礼な事を言いました、謝罪します」

 

 二人の表情を視線を暫し観察し、信用……いや、信頼した表情で少尉は答えた。

 

「いえ、当然の事です。……極稀に土壇場で逃げる臆病者もいますので、疑うのは仕方ありません」

 

心底侮蔑するように、憎々しげに語る兄。

 

 帝国の門閥貴族にしても、亡命した貴族にしても極稀に義務を果たさずに逃げる従士もいない事もない。そういう者は大概歴史の浅い新参者……平民や新興下級貴族(帝国騎士や一代貴族が中心だ)出身であり、背負うべき伝統も貴族として覚悟も無く平民相手にふんぞり返るために従士になるのだ。

 

 本物の、古い従士は違う。初代はその才覚を認められ、その上で一族が永代に渡り多くの責任と危険がある事を理解した上で登用されるのだ。それは重い責任があると共に名誉な事でもある。

 

 代々主家にその才覚を以て忠誠を尽くし、義務を果たす。その代償に主家から様々な保護を受け、多くの褒賞を得るのだ。断じて門閥貴族の腰巾着ではない。自身の立場と義務に誇りを有する者が真の従士なのだ。

 

 故に逃げる事なぞ許されない。そのような恩知らずの、下劣な、犬にも劣る卑怯者になぞなりたくない、それが一般的な従士階級の思考回路であった。

 

「本当ですぅ、最近はぁ、覚悟もないのにぃ貴族になる馬鹿も多いですからぁ」

 

 戦場で命乞いする賊軍の帝国騎士は少なくない。100年も歴史の無い、金で立場を買った奴らが大半だ。貴族になる事をなんだと思っているのか?覚悟もないなら平民として分を弁えろ。

 

 二人の言に頷きながら肯定の意を示すゴトフリート少尉。問題は……。

 

「若様に御了承いただけるか、ですね」

 

 天幕の中で就寝しているであろう彼らの主家の跡取りが脳裏によぎる。

 

「……非礼を承知で言わせて頂くならば若様には統治者たるための、将たるために必要な素養に未だ不足する部分が御座います」

 

 ゴトフリート少尉は、淡々とした表情で、しかし緊張しながら答える。当然ながら相対する双子の下士官の表情は強張った。

 

「……勘違いしないで下さい。能力面で若様が優秀な御方である事は間違いない事実で御座います」

 

 それこそ幼少期から一流の教材と一流の人材、万全の環境を与えられたのだから当然と言えば当然ではある。だが、それでも客観的に見て同盟軍士官学校を上位成績で卒業した事は十分称賛されるべきであるし、貴族階級としての礼儀も態度も、問題ではない程度には体現(演技)出来ている。その点は問題無い。

 

「……ですが、少々若様は必要以上に身内に甘い欠点が御座います。仮に誰が残っても若様の顰蹙を買うでしょう」

 

 同盟において門閥貴族は家臣をぞんざいに扱うというイメージがあるがそれは正しくない。仕える従士や奉公人の大半は数世紀に渡り代々仕えてきた一族であり、血縁関係もあるために実質的には身内同然である。ぞんざいに扱われている者の多くは臨時雇用の食客や平民の雑用人であり、それとて実際にぞんざいに扱うのは雇用した一族の名誉に関わるために滅多にない(粗雑に扱って良いような無能を雇用し、身の回りに置く事は不名誉である)。

 

 それでも限度はある。身内であっても門閥貴族は下級貴族とは違う。貴族と平民程の差はなくとも明らかに違うのだ。銀河帝国の身分制度は皇族・貴族・平民・奴隷階級の四つに大別され、最後に至っては「人」口として扱われもしない。その中でも更に細やかな階層が存在し、細密に分類すれば三桁近い階層・種類に細分化出来、平民や奴隷階級ですら最上位と最下位とで生活も価値観も、体制への忠誠心も、そしてその命の価値すらも大きく違う。

 

 そして指導者層たる門閥貴族一人の命は数千、数万の平民よりも重い。そして当然下級貴族よりも。

 

 身内は大事ではあるが、同時に主人と臣下の価値は違う。主人のために臣下が犠牲になるのは当然の事であった。

 

 臣下を可愛がり、慈しみ、その失敗に寛容で、個々の機微を良く観察して扱う……。それはある意味では美点ではあるのだろう、度量が大きく、身内を可愛がるのは血縁と主従関係を重視する私的な意味での貴族としては好ましいものである。

 

 但し、公的な場面での貴族としては欠点にもなる。平時は支配者として臣下を慈しむのは良いが、有事には勝利のために平然とそれを犠牲にするのが、支配者の義務である。自身の勝利が、生存が最も優先されるべき使命である以上「道具」である臣下はそのための礎にならなければならない。その時に平民と違い、罵倒や非難を無視し責任から逃げず、全体のために一部を犠牲にする決断が出来る者が門閥貴族なのだ。

 

 ゴトフリート少尉の目から見て自身の主人は身内に非常に甘く見えた。自身や他の者に対して過分な程に寛容なのは光栄な事であるが、同時に危険にも見えた。主人と臣下の上下関係は明確に区分されるべきだ。

 

「若様には、まだ少々不慣れな事柄です。具申しても従士の損失を惜しむでしょう……いずれは御直し下さる事でしょうが、今はそのような時間は御座いません。……ですので無礼を承知で行うしかありません。責任は私が全て取ります。貴方方はどうぞ、己の義務を遂行してください」

 

 「資産」たる従士を勝手に利用するのは許されない事であるが……彼女は自身の責任を持って命じた。

 

 同時に双子の下士官も成すべき義務を全力で果たそうと心に決める。

 

 尤も、彼女は大きな勘違いをしていた。彼女の主人が寛容なのは身内への優しさではなく、臆病さ故の事であることを、だからこそ、主人の行動を読み間違えたのだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若様……お願いです!御下がりを!御身に何かあれば……!」

「ベアト、私が回収するまで援護射撃をしろ。位置的に戦闘装甲車は入り込めまい。位置さえ気取られなければ十分足止め出来る筈だ」

「若様……!」

 

 ブラスターライフルのエネルギーをチェックし、腰の軍用ナイフを兼用する銃剣と手榴弾を確認した所で従士が叫ぶような声を上げた。

 

「だまれ……!役目が果たせないなら失せろ。私だけでいく」

「若様の役目は救援を呼ぶ事です!ここで戦う事ではありません!」

 

 私の強い口調に怯み、一歩下がるが、しかし震える、しかし強い声で反論して見せる従士。その内容は正しい。確かに私の任務は救援を呼ぶ事であり、戦闘ではない。だが……。

 

「部下を統制し、指揮し、連れ帰るのが現場士官の役目だ。私は部下の独断を許す事も、使い潰す事も、まして見捨てる事も学校で指導された覚えはないぞ!?」

 

 戦友を信頼し、上官を敬い、部下を可愛がり、市民を守る、というのは民主主義を信奉する自由惑星同盟軍軍人の理想像(実際に出来ているとは言っていない)である。

 

 無論……建前だ。私もそんな高尚な軍人ではない。私が二人を救援に向かう理由は戦友、と言うこともあるが最大の理由はもっと利己的なものだ。

 

「若様は同盟軍人である以前に伯爵家の嫡男で御座います!若様に何かあれば臣下一同が嘆く事をお考え下さい!」

 

 ベアトは軍人としてではなく貴族として説得しようと切り替える。その言葉には口にこそしないが何かあればライトナー一門が責任を問われる事も含んでいた。

 

「よーし、つまり貴様はこう言いたいんだな!?私に代々仕える臣下が平民共に嬲り殺しにされるのを見て見ぬ振りをして尻尾巻いて逃げろと?素晴らしい貴族の誇りだな、あ?」

 

 私の半分演技、半分本物の暴言に対して金髪の従士は一瞬体を震わせて、怖気づいたように見えた。身分制度が骨身に染みている者にとってはその最上位にある門閥貴族の怒気を買う事の意味は理解出来る筈だ。ましてや幼少期を除いてここまで荒れた口調なのも珍しいから一層事態の深刻性が分かる筈だ。これで折れてくれれば嬉しいのだが……。

 

 尤も、目の前の従士がこの程度で引き下がらない事は分かっていた。私に内緒にしようとしてまでの事だ。相応の覚悟をしていることは確信していた。

 

「若様……責任ならば私が全て御受け致します。従士の分際で越権行為である事は承知しております……ですが、どうか……どうか御引き下さい。ここで万が一の事があれば伯爵家は……」

 

 切実な表情を浮かべ、諫言する従士。必死である事は分かる。完全に善意から来ている事も分かる。だが……それでも、それでも認める事は出来なかった。認められなかった。

 

 私の身代わりに死なせるなんて怖くて出来なかった。自分が死ぬのは怖い。だが、同じぐらいに顔見知りで、自分のために誠心誠意仕えてくれる者を消耗品のように扱う勇気も、度胸も無かったのだ。まして私より年下なのに……?

 

 結局、私が戻ろうとしているのは義侠心や優しさではない。怖いからだ。自分の生き残る踏み台として家臣を、部下を死なせる事が怖いのだ。しかも、赤の他人じゃない、その身内や家族がすぐ側にいるのだ。家臣を死なせて、その癖偉そうにその家族に顔を合わせて命令しなければならないのだ。その責任に、卑劣さに心が圧し潰されそうになるから助けにいくだけだ。

 

結局……私は臆病者なだけだ。

 

 ははは、魔術師も、獅子帝も、いや原作の門閥貴族共すら凄いよ。あっという間に何万、何十万の生死を左右する決断が出来るんだからな!私には魔術師のように冷静に自身の罪に向き合う事も、獅子帝のようにそれを乗り越える覇気と覚悟も、門閥貴族共のように犠牲を当然と考えられる高慢さも無い。

 

 家臣が二人、自分のために死ぬ事すら、その責任が怖くなり、逃げたくなってしまう。その死を背負う勇気もない。

 

 あるいは中途半端に平和な常識がある者と1世紀以上戦争している世界の者達の価値観の違いなのかも知れない……内心自虐気味にそんな事も考える。この時代の奴らって鋼の心の持ち主ばかりだ。心底そう思う。

 

「口ばかりは達者だな?私を誤魔化し、まして資産たる従士を勝手に使って良い身分な事だ、責任を取る?本当に覚悟なぞあるのか?」

 

 内心泣きそうになるが長年の演技力はそんな事を億尾にも出さずに高慢な言葉を冷たい表情で吐き出させてくれた。

 

「当然です」

「そうか、従士位を剥奪した上で火刑にかけてやるが構わんな?」

 

 冗談ではない、と付け足してやる。究極的には領民がそうであるように、家臣だって主人の財産だ。平民や奴隷よりも大事にされても門閥貴族が命じれば処刑は難しくはない、滅多にないが前例がないこともなかった。

 

 無論、実際にする訳がない。そんな事出来る度胸や高慢さがあれば助けに行こうとしない。

 

 それでも門閥貴族の発言はそれだけで意味があることを思えば冗談では済まない内容であり、根っからの貴族信奉者には十分過ぎる程には脅せる内容だったが……。

 

「……御望みとあらば」

 

 流石に蒼白な表情を浮かべるが数秒の逡巡の後、はっきりとした声で恭しくそう答えてみせた。……ああ、ゴトフリート家は良い教育をしているよ!

 

「……突入準備をしろ。命令だ」

「若様……!」

 

 その声に八つ当たりであると分かりつつも苛立ちを感じて、私は声を荒げた。

 

「………!!いつ私が貴様に意見を求めた!?この恩知らずがっ!貴様は黙って自分の職務を果たせばいいんだ!従士の分際で甘えさせてやっている内にそんな事まで忘れたか!?」

 

 苛立ちと恐怖から、怒気と敵意を滲ませて鋭く睨み付けながら私はそう吐き出した。

 

 そこまで言って、自分が相当ふざけた事を言い放った事に気付く。甘えさせている?どの口で言っていやがる?迷惑かけているのは自分の方なのは明らかなのに。

 

 暫し、不気味に場が沈黙する。砲撃音が聞こえている筈なのに私には聞き取れなかった。唯、目の前の少女が何を考えているのか、という一抹の恐怖感のみがあった。

 

「……大変失礼致しました。御命令のままに致します」

 

 見た事ないくらいに生気の無い表情で、事務的にそう答えるベアト。そこで私がどれだけ愚か者なのかを思い知らされた。

 

「あっ…そ、その……す、済まん……言い過ぎた」

「……いえ、構いません。全て至らぬ私の責任です。それよりも、お早く」

 

 咄嗟に謝罪するが、それに対してすらベアトは最大限の敬意を表しつつも淡々と、無感動に、義務的に答える。

 

 事態は切迫していた。こうしている間にも砲撃は降り注ぐ。これ以上弁明の時間は無かった。 

 

「……わ、分かった」

 

 後ろ髪を引かれるが、時間はそんな悠長に待ってくれない。私は迷いと自責の念を振り払い手摺をよじ登りながら地上に出る事を決意した。

 

……ははっ、すぐに後悔したよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は走る。荒廃した廃墟の中をひたすらに走り続ける。

 

「畜生……!」

 

 廃墟の中で出会い頭に鉢合わせした帝国兵、驚愕した表情を向けてくるのを先制してブラスターライフルの銃身で殴りつけ、倒れた所で一発お見舞いして迅速に息の根を止める。無線や大声で助けを呼ばれる訳には行かない。

 

 周囲一帯は砲撃と爆撃により耳が可笑しくなりそうになっていた。

 

「そのせいで敵兵も少ないのが救いか……!」

 

 抵抗が頑強なために未だ相応の戦力があると思ったのだろう、一旦部隊を後退させての砲爆撃……まさか二人で抵抗していたとは思っていないだろう。先ほどのは本隊から逸れた兵士か、浸透していた特技兵か……この際どちらでもいいな。

 

「ベアト、状況はっ!?」

『恐らくそろそろ地上攻撃も始まります!お早く……!』

 

 建材が度々落ちていくのをヘルメットで守りながら私は廃墟を駆ける。この開発プラント中央部はカプチェランカが野外活動不可能な環境の頃に建設された居住エリアであり、住民の保護のため一際頑丈に作られていた。砲爆撃にもある程度は耐えられるために立て籠るのに都合が良い。尤も、四階建ての建物は六割方崩壊していたが。

 

「うおっ……危ねぇっ!」

 

 至近に砲弾が落ちたのか、次の瞬間壁が数メートル先の壁が吹き飛び、私は体を丸めて礫から身を守る。もう少し命中のタイミングがズレていたらそのまま死んでいた。私は時間が無い事を理解しつつすぐさま先を急ぐ。

 

「どこだ……?んっ……!?」

 

曲がり角を右折したところで私はたじろいだ。

 

 通路一面が赤い血で染まっていたのだから。床には半個分隊の帝国兵の死骸……明らかに銃殺以外の方法で殺されていた。そして、この場でこんな事の出来そうな奴らは二人しか私は知らない。

 

「……ここだな」

 

 私は警戒しつつ奥の部屋に向かう。帝国兵に間違われて殺られるのは真っ平だ。

 

「……ライトナー曹長……軍曹、いるか?私だ、ティルピッツ少尉だ……!!」

 

同士討ちを避けるために双子の名前を呼ぶが……。

 

「返答なし、か……」

 

 返事が無いので私は警戒しながら通路を通る。そして扉を開くとゆっくりと部屋に入る。

 

 ……次の瞬間、横合いから振り下ろされた手斧を寸前で避けた。

 

「っ……!!?」

 

 長年の鍛練が無ければ確実に首が千切れていたと断言出来る。体を翻して避けると直ぐ様体勢を立て直す。そして、襲ってきた相手を改めて視界に入れた。

 

「なっ……!?」

 

 そこには小柄な人影が立っていた。尤も、生きているのか怪しい状態だったが。

 

 最早自身の血なのか、返り血なのか分からない。雪原迷彩は真っ赤に染め上がっていた。額と頭からは血が流れ栗毛の髪も今や乾いた赤毛に変わってしまっていた。右手は可笑しな方向に曲がり、応急処置のされた横腹の包帯は赤黒く濡れていた。

 

 重傷である事は間違いない。今すぐにでも応急処置が必要に思えた。が………。

 

「グウゥゥゥ………!!」

 

 怒気を含んだ、警戒……いや、威嚇するような唸り声はまるで獣のそれであった。鋭い赤瞳は私を見ているようで何も見ていないようにも見える。

 

「………」

 

 私は最大限の警戒態勢を取る。味方とか、主従関係なぞ、今はあまり関係無かろう。相当に興奮状態にあった。

 

 それが今目の前にいるネーナハルト・フォン・ライトナー軍曹の状態であった。

 

 

 

 




やったね!高慢な原作貴族に一歩近づけたよ(白目)!







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