帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:古ぼけた蝶番
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第七十二話 言葉の受け取り方は人それぞれだったりする

妹はその知らせを聞いた時、笑顔を浮かべていた。

 

 これまで帰ってこなかった最愛の姉が一週間ぶりに帰宅するのだ。いつも姉に甘えて、風呂や就寝も共にしていた彼女にとってこの一週間は苦痛だった。奉公人の女中達がこれまで以上に優しくしてくれたが、それでも寂しかった。兄二人とは少し歳が離れているし、気難しい性格のため然程仲良くなく、姉だけが唯一全力で甘える事が出来る相手だったからだ。

 

 無論、主家の「付き人」と言う仕事が如何に大事で、名誉あるものであるかは耳に蛸が出来る程に一族の皆から聞いていたので仕方無いとも思っていた。

 

 偉大なる伯爵家本家の付き人程名誉な事はないという。伯爵家の従士家の中でも五大従士家本家のほか幾つかの家の者しか付く事が許されず、しかも不運な事にノルドグレーン家本家には歳が似合う男子がいなかったのだ。

 

 それもその筈で本来の後継者が跡継ぎを作る前に戦死し、現当主になってからも流産と病死を一回ずつしたために付き人候補を作るタイミングを逃した。

 

 幸運にも次期当主になるであろうと目されている息子は癇癪持ちで各家から送られた付き人候補を次々と送り返しているために、男子ばかりでなく女子にも御鉢が回ってきた。女子ならば気難しい若様にも気に入られる者がいるかも知れない、と。

 

 彼女にはそこまで理解は出来なかったが、それでも本来ならば選ばれない名誉ある仕事に姉が選ばれたのはとても素晴らしい事であるとはなんとなく理解はしていた。それ故に我慢はしたが、悲しいものは悲しいのだ。

 

それ故に姉の帰還を妹は喜んだ。

 

泣きそうな表情で家に帰ってきた姉を見るまでは。 

 

父が怒気を強めて姉に詰め寄る。びくびくと震える姉の姿を見るのは初めての事であった。

 

「お、おとうさま……おねえさまをおこらないで……!」

 

つい、姉を叱りつける父に駆け寄りそう懇願する。

 

「お前は黙っておれ!」

 

 厳しい怒声に妹は小さな悲鳴を上げながら動きを止める。その目元は急速に潤んでいた。

 

「それくらいにしたらどうか?子供の行い相手にそう強く言い寄るものでもあるまい」

 

 その声に父は口を止め、目を見開く。家の玄関に佇む偉丈夫にその視線は固定される。

 

 人が変わったかのように頭を下げながら何か謝罪する父、妹はその隙に姉の下に駆け寄る。

 

「お……おねえ…さま……?」

 

 恐る恐る姉に声をかける。すると、姉はいきなり妹に抱き着いた。

 

 その行為に困惑するが、姉が嗚咽を漏らしながら呟く言葉に次の瞬間に体が凍り付く。

 

「ごめんね……ごねんね……今だけ…少しお姉ちゃんに甘えさせて………」

 

 弱弱しく、懇願するような姉の呟き、こんな弱弱しい姉を彼女はこれまで知らなかった。その姿に胸を締め付けられる。

 

「そう厳しく言うてやるな。此度の事はそれの過失ではない」

「ですが……」

「良いのだ。それは良くやってくれていた。問題があるのは……」

 

父が客人と何やら話をしているのが聞こえた。

 

 姉に過失がない?姉が何か間違いをした訳ではないのなら、何故姉はこんなに泣かないといけないのか?何故父にここまで責められないといけないのか?何故追い返されなければならないのか?自分よりもずっと賢い姉が……。

 

「どうしてですか……?」

 

 それは、彼女にとって長年敬うよう教えられてきた存在への忠誠心と敵意が複雑に混ざった心情が生まれた瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  回廊出入口制宙権を巡る同盟と帝国の戦いは同盟軍の勝利に決した。

 

 宇宙暦785年2月27日、ダゴン星系外縁部においてレオニード・オレウィンスキー中将率いる第2戦闘団・第4辺境星域分艦隊を中核とした同盟軍七五〇〇隻はヴェルナー・フォン・シュリーター中将率いる帝国軍八四〇〇隻を撃破した。帝国軍の損失は艦艇一二〇〇隻から一五〇〇隻と推定され、対する同盟軍の損害はその三分の一に満たない。昨年11月より計500回近く続いた一連の小戦闘の結果遂に同盟軍はイゼルローン回廊への進入路を確保したのである。尤も、ダゴン星系までの制宙権を手に入れるために同盟軍は延べ六〇〇〇万人を動員し、戦死者一一万と負傷者三〇万の損害を被っていたが。

 

 3月3日、ハイネセンより第2・第3・第11艦隊を中核とし、その他独立艦隊を編入した4万3800隻が進発した。同時に地上軍より第5・第10・第21・第32・第33遠征軍が動員された。これら地上軍部隊はイゼルローン回廊内の諸惑星の制圧に投入される事になるだろう。

 

 ハイネセンからイゼルローン要塞までの距離は約4000光年、単艦ならば兎も角、艦隊規模の戦力がこの距離を落伍艦や事故の発生を防ぎながら進軍するには最低でも一か月以上は必要であるとされる。回廊内の諸惑星や小惑星基地、軍事衛星等を排除する必要もあると考えれば要塞攻略戦の本番は4月中旬から下旬になるであろうと思われる。

 

「今度はやれるのかね?前回よりも動員数が少ないじゃないか?」

「だが質は相当なものだぞ?動員艦隊は特に練度の高い三艦隊、四大空戦隊を全て投入だ」

「宇宙艦隊司令長官殿が直々の参加だと。分艦隊・戦隊単位の指揮官も期待の新人と歴戦の老将のガン積みと来てる」

「パエッタ、スズキ、アップルトンにキャボット……パウエルにルフェーブル……ボロディンまでいるのか」

「エース級の艦長もごろごろいるな」

「面子は爽快だがこんなお粗末な情報統制でいいのかね?」

 

 基地内の食堂に設置された液晶テレビから流れるニュースを見つめながらぼやくように兵士達は語り合う。

 

 第四次イゼルローン要塞攻略作戦は、軍事機密でありながらすでに完全に公然の秘密と化していた。過去三回の攻略作戦においては第一次こそ進発前に大々的に発表されたものの第二次・第三次攻略作戦は作戦終了後に民間メディアにその事実が発表された。難攻不落のイゼルローン要塞攻略の可能性を1パーセントでも高めるためには帝国軍の不意を突くと共に駐留艦隊増強の時間を与えるべきではない筈であった。

 

 しかし、今回の攻略作戦では既にかなり早い段階から作戦が民間メディアに流れてしまっていた。いや、恐らくは故意に流していた。

 

「目的は攻略ではなく艦隊撃滅だな」

 

 一人の士官が呟く。それは大半の士官にとっては既に思い至る結論であった。同盟軍の此度の遠征の主目的は要塞攻略ではなく帝国艦隊の撃破だ。

 

「選挙が近いので手頃な勝利を掴んで来い、といった所か?」

 

 別の士官が皮肉気に語る。最高評議会及び同盟議会選挙が近づくと大規模な軍事作戦が実施されるのは最早同盟政治の御約束だ。軍事作戦の実施は帝国への脅威と同盟の結束を宣伝するセレモニーに等しい。勝利出来れば政権の支持率向上に繋がる。

 

「馬鹿、そりゃあそんな思惑もあるだろうがそんな不純な理由で大軍を動かせるかよ」

 

相席していた別の士官が呆れ気味に答える。

 

 政治家も馬鹿ではない。選挙が近い、という理由だけで出征を命じられる訳ではない。勝てば良いが負ければ選挙の敗北を意味する。十分に軍事的な勝算が無ければそんな危険な賭けが出来る訳がない。

 

 実際の所、純軍事的に見た場合同盟軍の目的は帝国軍を回廊内に押し込める事による戦線の縮小と防衛網の補強である。781年の第三次イゼルローン要塞攻防戦以来、防戦と劣勢に追い込まれている同盟軍にすればここで戦線を押し上げる事で戦域を縮小させると共に帝国正規艦隊に一撃を入れる事で帝国の再攻勢を一時的にせよ断念させる事にある。そして稼いだ時間で防衛線の再構築を図る。事実動員される三個艦隊の内二個艦隊は艦隊決戦型編成のそれであった。そして同盟軍上層部は帝国艦隊に何等かの形によって打撃を与える見通しがあるのだ。

 

まぁ、それはそれとして………。

 

「少将も従軍するのですか?」

 

 ナイフで切り分けたシュニッツェルをフォークで口に含みながら私は目の前の叔父に尋ねる。

 

「うむ。形としては第3艦隊の航海参謀としてな。第24星間航路は遠征軍の主要航路となる。私が直に現地で航海計画を調整する訳だ」

 

 私の質問に対してふくよか過ぎる体型の叔父殿はシュヴァイネハクセを口に入れながら答える。おいおい、500グラムはある豚の脛肉がアッという間に消えていきやがる。

 

 参謀と言っても多種多様な種類がある。此度の遠征でも遠征軍の総参謀長に各艦隊の参謀長がおり、それぞれの下に更に専門分野によって作戦参謀・情報参謀・通信参謀・後方参謀・計画参謀・人事参謀といった一般参謀の他、専門の輸送参謀・航海参謀・砲術参謀・航空参謀・法務参謀・広報参謀・監察参謀・会計参謀・陸戦参謀・憲兵参謀等が存在し、更にその下に佐官から兵卒に至る各種スタッフが所属する。平均すると艦隊司令部や番号付き地上軍司令部の場合は数百名、複数個艦隊を統括する司令部では千名に匹敵するスタッフを抱える。ロボス少将は専門幕僚の航海参謀として遠征軍の第3艦隊の第24星間航路からイゼルローン要塞に至るまでの航海計画の作成と実施が職務である。

 

 此度の遠征では第4星間航路より第2・11艦隊、第24星間航路より第3艦隊が進出する事になっている。ワープポイントの数や航路管制の関係上、万を超える艦艇が一つの航路から進出すれば渋滞や事故の原因になり得る。幾つかの航路に別れて分散進撃するのは当然であった。

 

 そして第24星間航路の交通と政治・経済・軍事上の中心がこの星であれば成程、参謀殿が直接来るのも納得だ。式典の後もだらだらとこの星にいたのは交通面や補給面の調整を直に行っていたためであろう。

 

「第3艦隊は四週間後にはここに辿り着くだろう。その時私も艦隊司令部に帰還する事になっておる」

「皆言っていますが、今回はやはり要塞攻略が主目的ではなく艦隊の撃滅が狙いでしょうか」

「それは流石に言えんな。軍機に関わる」

 

 にやり、と意味深げな笑みを浮かべながら豚脛肉の塊を頬張る少将。どうやら話すつもりは無いようだ。

 

「軍機ですか……でしたら仕方ありません。御武運を祈ります」

 

 原作では具体的内容が不明な第四次攻防戦である。流石に艦隊旗艦が「雷神の槌」で消し飛ぶ事は有り得ない(艦隊旗艦は作戦であっても要塞主砲射程内に入ってはならない決まりだ)し、原作通りに進めばここで叔父が戦死する可能性は皆無であろう。だがそれも私の存在がどんな影響を与えているか分からない以上油断出来ない。叔父はアムリッツァの重要なキーパーソンだ。ここで死なれたら困り過ぎる。

 

 無論、純粋に身内としての心配もある。色々借りもあるし、ここで死んで欲しくはない。

 

『続いて、6月の同盟議会総選挙について……』

 

 イゼルローン要塞攻略に向けた出征の報道を終えたニュースキャスターが次に語るのはお堅い政治の話……という訳ではなかった。

 

『はい!今回の注目立候補者と言えばやはり最初に思い浮かぶのパラス選挙区2区のアレキサンダー氏でしょうね!フライングボールサジタリウスカップを三度優勝したフライングボールの神様、身長189センチの引き締まった体!何よりあの俳優のようなイケメン顔!ダンディ過ぎて惚れ惚れしちゃいますよ!』

 

スタジオの出席するアイドルが熱く語る。

 

『ウィンザー夫人もいいですよねぇ』

『女優のような美貌に上品な佇まい、キリッとした視線、ニュースキプリングの看板アナウンサーを五年務めて、755年度のミス・ハイネセンにも選ばれた御人ですからねぇ。それにあのズバズバと斬り込む物怖じしない態度!いやぁ、キャスターとして議員に食って掛かる姿は本当見ごたえがありましたよ!』

『汚職議員に鋭く切り込んでインタビューする姿から「鋼鉄のキャスター」等と議会で恐れられていたそうですからねぇ。今から議員の皆さん戦々恐々じゃないですか?』

 

 若い俳優や評論家達が笑いながらそんな事を語る。まぁ、そういう事だ。

 

 全員が全員と言う訳では無いが半分くらいのマスコミの報道はあんなものだ。政策よりも立候補する有名人について語る方が視聴率が良いのだ。それでも投票率があればまだ救いはあるが残念ながら前回の投票率は6割前半だ。おう、衆愚政治だな。

 

 というか、ウィンザー夫人は経歴的にまだかなりマシな方だ。ハイネセン記念大学出身で若い頃は美貌と才覚で知られる大物ニュースキャスター、一時期は報道官として前線で幾度も取材をしており、その命知らずな報道姿勢は安全地帯で取材するほかのマスコミより余程勇敢だ。第三次イゼルローン要塞攻略戦で死別した夫ウィンザー中将(准将より死後二階級昇進)はハイネセンファミリーの名門の出であり自由戦士勲章受章者であり、十年後の宇宙艦隊司令長官候補であった。

 

「……さて、ではそろそろ私は仕事があるので御先に失礼します」

 

 時計の針を見た後にそう言って、私は食べ終えた皿を返しに行くために立ち上がる。

 

「若様、私が運びますのでお渡し下さい」

 

いつものように従士は雑事の代行を申し出る。

 

「いや、構わない。自分で運ぶ」

「若様……?」

 

疑念の表情を浮かべる従士に私は答える。

 

「なに、他意がある訳ではない。正直事務仕事ばかりで太ってな。これ以上脂肪をつけると大帝陛下が墓から這い出て食い殺しに来るかもしれん。まぁ、世話してくれるのは有りがたいが至れり尽くせりされて運動不足という事だ。許せ」

 

 そういって自身のトレーを運び始める。それは少なくとも嘘ではない。

 

「……承知致しました」

 

 大帝陛下を出されては流石にこれ以上食い下がる訳にはいかない。粛々と自身のトレーを持ってついて来る。当然のように周囲の警戒は怠らない。

 

 そしてトレーを返し台に置こうとした瞬間、その名前が響き渡った。

 

『そうそう、注目の立候補者と言えばこの人は外せませんよ!パンプール選挙区3区のヨブ・トリューニヒト候補です!』

「うえっ!?」

 

その名前につい私は仰天して振り向いた。

 

「どうかなさいましたか……?」

 

従士も私の行動に何事かと尋ねる。

 

「い、いや……何でもない…が………」

 

 私は配膳トレーを運びつつも思いもよらない原作人物の登場に驚愕していた。テレビには支持者に向け微笑む爽やかそうな男性が映っていた。笑みを浮かべ白く光る歯は綺麗な歯並び、整えられた黄土色の髪、俳優のような甘いマスク、女性受けの良さそうな理知性と快活さを兼ね備えた人物のように思えた。

 

「おいおいおい………ここで出てくるか」

 

 解説によれば自由共和党から出馬する新人だそうだ。その経歴は華やかで、父はパンプール星系警察の幹部、母はヴァレンヌ星系の有力な農場経営者の娘である。中央官僚の登竜門たる国立中央自治大学、その中でも特に難関な政治学部を一発合格した上に首席で卒業。徴兵ではその事務処理能力を評価され後方勤務本部に所属。後方勤務でありながら三年間で二等兵から兵長に昇進して見せる者はそうそういやしない。

 

 その後、同盟警視庁採用試験をトップの成績で合格、同盟警察の刑事課、後に機動隊に所属する。幾つもの事件解決に貢献し、特にエリューセラ中央劇場人質事件、テルヌーゼンでの暴動鎮圧、ライガール星系における宇宙海賊掃討戦、エピノア人民軍本部襲撃等で陣頭指揮を取りその指揮能力を高く評価されている。29歳で同盟警察の警視正に昇進するのは異例の昇進だ。その後同盟警視庁公安課に一年ほど所属し、今回の出馬を決意したらしい。客観的に見てエリート中のエリートだ。

 

「自由共和党って言えば……統一派か」

 

 ここ二十年同盟議会の過半数を占め与党の座を維持するのは国民平和会議である。これは宇宙暦767年に結成された主要な中道右翼から中道左翼政党からなる連合だ。実態は内部には長征派からなるサジタリウス民主同盟や統一派の自由共和党、亡命帝国人共和派のオリオン解放連盟や我らが皇帝陛下を崇拝する立憲君主党等を含む寄せ集めである。実際選挙では一旦解党し、所属各党で議席の奪い合いや調整をして、その後再び連合する有様である。

 

 内情としては政財界の大物や古くからの地方の有力者が多く、圧倒的な動員力や資金で半ばごり押しで選挙戦で勝利を治める姿は醜悪であるが、同時に潤沢な資金と人脈で著名な知識人や学者を御意見番にするために何だかんだあっても安定した政治を実施している。極右や極左はアレなので消去法で有権者は殆どは嫌々支持しているようであった。

 

「こりゃあ、その内調べた方が良いかもな………」

 

まぁ、それも目前の課題を解決してからの事だがね。

 

「えーと……これから東大陸まで飛ぶんだったな?」

「はい、同盟軍の第115地上軍団と亡命軍の第9野戦軍団の演習における調整とトラブル対処になります」

 

そう言いながら優秀な事務員は書類を手渡す。

 

「了解だ。飛行機の用意は?」

「空港に待機出来ております。1330時に発進、2100時には到着する予定です。2300時に演習参加部隊との第一回の打ち合わせになります」

 

流れるように従士は答える。

 

「手際が良いな」

「お褒めに預かり光栄で御座います」

 

少尉は、私の言葉に微笑みながら答えた。尤も、僅かにではあるが含む所があるようにも感じられるが。

 

(まぁ当然だろうな………)

 

 監視役も兼ねるために私の警戒を受けている事も知っている筈だ。私が警戒してるのだから仕える方からしても人間である以上思う所があるだろう。それどころか私は(飾らない言葉で言うならば)彼女を追い出そうとしているのだ。フォローはするつもりだが彼女からしても立場からして警戒せざるを得ない筈だ。

 

無論、私も流石にそればかりは譲れないのだが……。

 

 一応、監視の目を誤魔化しながら叔父やリューネブルク伯爵を始めとした個人的に親交のある人物の善意と交渉によりある程度下準備は整えてある。取り敢えず父のスケジュールをチェックして先回りした上で説得……出来たらいいなぁ。

 

「はぁ……」

「?御気分が優れぬようでしたら取り止めにしましょうか?」

「いや、大丈夫だ。……仕事に行こうか?」

 

 一瞬、頷いて監視を引き離そうかと思うが止める。自分の仕事は果たさなくてはな。

 

ああ、けど憂鬱だなぁ。何せ参加部隊が、ねぇ……?

 

 

 

 

 

 ヴォルムス東大陸の半分は荒地と高原、サバンナと化している。元々はこの地が惑星の中心であったのだがコルネリアス帝の親征に際して当然の如く低周波ミサイル等で絨毯爆撃を受けて今では荒れ果てた大地と廃墟と化していた。一部……どころか少なくない部分が砂漠化していた。

 

 そんな訳で東大陸は惑星上の陸地の28パーセントを占めるが人口はせいぜい600万いるかどうかである。それでも同盟の大概の辺境惑星よりも多いのだが。

 

 大陸中央の高原とサバンナ地帯にある25万平方キロメートルの面積を誇るアルトマルク演習場が今回の演習の舞台であった。ほぼ同一の環境である惑星リシャリーフに派遣される予定である同盟軍第115地上軍団と亡命軍第9野戦軍団合わせ総兵力九万七〇〇〇名は3月7日から18日の12日間に渡る最終的な共同演習を実施した後戦地に派遣される予定であった。更に敵部隊の役を果たすために亡命軍より現地駐留の一個師団及び三個予備役師団が動員される手筈である。

 

 演習内容は揚陸戦闘の基本的な形から始まる。軌道爆撃とそれに紛れて特殊部隊や戦闘工兵隊、狙撃猟兵団が小型突入ポッド等で潜入、破壊工作の実行と共に主力部隊が宙陸両用戦闘艇や大気圏内航行可能戦闘艦艇が降下し、更に大気圏内戦闘機が制空権を確保、艦艇から吐き出される地上部隊を掩護する。その後砲兵陣地や防空陣地、補給拠点を整備しつつ機甲戦力を全面に押し出しながら各地の敵陣地を一つ一つ占拠ないし破壊する。最後は敵戦力を追い詰めながら包囲殲滅だ。成功すれば教科書通りかつ理想的な戦闘である。

 

 当然の如くそれだけの戦力が動けば演習でも問題が起きない訳ないんだよなぁ……。

 

「現地交通警察から陳情です!星道97号線が第309予備役歩兵連隊により渋滞している模様です」

「大気圏突入コースを逸れたモンテリア22号の空中移動による震動でベッデハイム村の窓硝子48枚が破壊されたようです!モンテリア22号は現在移動中止して地上待機中のこと!」

「星道340号線で接触事故です!民間のトラックとジープが接触したようで……両車の乗員が乱闘を始めて憲兵隊と現地警察により拘束されたようです!」

「第1034歩兵連隊の行方不明の同盟軍兵士二名がモンテバッハ村で保護されたようです。両名とも衰弱しているようで恐らく森で遭難したのではないかと思われます」

「はっは、ワロスワロス」

 

演習三日目でこの様だよ!

 

 演習のための野戦司令部の一角に張られた天幕内で私は分室から派遣された事務員達の報告を聞きながら現実逃避をする。糞みたいに問題ばっか起きるな。

 

 よく前線勤務の者は事務仕事を馬鹿にするが、実際にやれば分かる。後方も(仕事量的に)地獄だぜ!寧ろ前線は生命に直結するために案外ローテーションは厳しく敷かれる傾向がある。過労で一人ミスして死ねばその分一層戦局が厳しくなるのでさもありなんだ。後方の事務は?おう、戦死しないからデスマーチでもいいよね?(マジキチスマイル)

 

 事務や後方勤務で出世出来る奴はマジでヤバい。処理能力が人間辞めているの。ロックウェルは無能?奴はミス無しで連続120時間デスマーチを達成したレジェンドだぞ?一人で十人分の事務仕事平然とこなすんだぜ?到底たかが地方調整連絡官なんて仕事でくたくたな私とは格が違うね。

 

 ぶっちゃけて言えば私が活躍出来るのは相当面倒になった問題に対して(反則で)解決する場合位だ。大半は数は多くてもそこまでややこしい問題ではない。大事なのは個々の問題を迅速にミスなく片付ける場合だ。

 

 やはりその点で言えばノルドグレーン少尉は優秀であろう。その場で法律や軍規を思い出し即断即決で事態を解決して見せる。大概の問題は彼女以下のスタッフでどうにかなってしまう。

 

あれ……?私ってやっぱり要らない子?

 

 そんな事を考えていると、電話応対をしていた事務員の一人がこちらに駆け寄り耳打ちする。

 

「中尉、第36武装親衛師団の下士官が市民との乱闘で逮捕されたようです」

「……またか」

 

私は嘆息するように溜息をついた。

 

 第36武装親衛師団「ディルレヴァンガー」は特殊志願者を中核とした……つまり外人部隊の一つで特に激しい戦果と悪名で名高い部隊の一つだ。主にゲリラ掃討や山岳戦を主眼に置いた部隊であり捕虜が殆どいないのは捕らえたゲリラや狙撃手をその場で射殺するからであると言われる。帝国軍で軍規を破り戻ったら処刑されかねない者、同盟軍で捕虜虐待や殺害、その他の戦争犯罪を犯した者、辺境宇宙の無国籍の元宇宙海賊に最近では紛争が終結したマーロヴィア暫定星系政府から流れた大量の傭兵や軍閥兵士が編入されている。

 

 実力自体は編入前から戦闘経験を多数経験し、編入後は激しい戦場に叩き込まれるために本物であるが荒くれ者揃いの上で素行が悪すぎる。師団憲兵隊は通常の三倍の規模、正直亡命軍の、武装親衛隊の中でも忌み子扱いの部隊だ。

 

「三日……移動の時も含めれば十日で十四件、一日一回以上の不祥事とは恐れ入るな」

 

 元より出所が酷い上に過酷な戦場での従軍が多いために余計荒れているのかも知れない。

 

「分かった。憲兵隊に引き取らせてくれ。謝罪文の作成がいるな。後師団長以下にはきつく言う必要もありそうだ」

 

 私はベレー帽を被るとノルドグレーン少尉と同盟軍憲兵二名を同行させて師団司令部にジープに乗り込み向かう。

 

 三十分も走らせれば高原に欺瞞され、対空陣地が張り巡らされた第36武装親衛師団司令部に到着する。司令部天幕の前で印象に残るシュタールヘルムを被った目付きの悪い衛兵二人が内部へ入るのを止めるので身分証明書を見せると共に目的を伝える。

 

「師団長に伝えろ。地方調整連絡官が来ているとな。一連の不祥事への対策が出来ているのか尋ねにいけ」

 

 見るからに非帝国系な兵士達は互いに顔を見合わせ僅かに困惑し、ついで片方が天幕の内に入り要求を伝えに行く。

 

「何だ?同盟軍か?」

「けっ……あの歳で中尉だとよ。士官学校の坊ちゃんか。実戦も知らずに偉そうによ」

「前線で戦った事もねぇ憲兵もいやがるぜ?見るからにモヤシ見てぇな白い顔だ」

「見ろよあの女。良い尻してんじゃねぇか。おい!こっち来いよ!仕事は休憩して遊ぼうぜ!」

 

 司令部内の警備兵やら後方勤務の人員、部隊展開のために兵士を引率して待機中の下士官やらが不躾な視線を向けながら嘲笑したり、ふざけたり、あるいは揶揄うような声を上げる。ならず者師団とはこの事だな。

 

 明らかにセクハラ発言を受けている従士は顔色一つ変えずに待機する。一方、憲兵隊員達が不安そうな表情を浮かべていた。……いや、憲兵の態度の方が普通だけどな?私も正直マジ怖い。

 

 数分程して案内された天幕の奥には野戦服を着た師団長ミハイル・シュミット大佐と参謀長カルプ中佐が控えていた。そのほか天幕には参謀や通信士、伝令、警備兵も控える。

 

 初老の骸骨のように痩せているシュミット大佐は左目が眼帯、額から右頬にかけて切り傷が刻まれた士族階級の出であった。幾多の激戦を潜り抜けた古参兵でもある。正直家柄以外では勝ち目がない人物だ。

 

「態々足を御運び頂き恐縮ですな。第36武装親衛師団師団長ミハイル・シュミット大佐だ。それで、同盟軍の連絡官がどのような用件でお越し下さったのかな?我々も暇ではないのでね。手短に頼みたい」

 

 椅子に座り堂々と話す大佐は威圧感を出したまま高圧的に尋ねる。片目だけだがその視線が既にマフィアか何かのように鋭すぎる。どもりそうになるがここで引く訳には行かないので気を引き締める。

 

「同盟軍地域調整連絡官ヴォルター・フォン・ティルピッツ中尉です。はい、此度の演習に於きまして貴軍の度重なる不祥事に対して改善を促したいと考え訪問した次第です」

 

私は敬礼し官姓名を答えた後要望を口にする。

 

「ほう?御貴族様かね?それは態々こんなごろつきの集まりに足を運んでいただき恐縮だ。事態に対する憂慮はしている。我々も軍規の引き締めと再発防止を心掛け対処したいと思う……と言いたいが」

 

 そこで胸元からシガレットケースを取り出し、葉巻を一本取り出す。口元に咥えれば命令するまでもなく従卒の一人がライターで火をつけた。一服して副流煙(流石に宇宙暦8世紀のため毒素は最小限に抑えられているが)を周囲に巻き散らした後続きを口にする。

 

「我々は亡命軍だ。ハイネセンの奴らは我らをそこらの星系警備隊と同列に語ろうとするが我々は同盟軍とは独立した銀河帝国亡命政府の軍隊だ。外人部隊だけどな。お前達同盟軍の軍規に従う理由も、その命令を聞く理由も我々にはない。失せな。やりたければパパにでも泣きつく事だ」

 

 嘲り気味な返答。クスクスと周囲から噛み殺した笑い声が薄っすらと響き渡る。同行する憲兵隊が周囲を不安たっぷりに警戒する。

 

「大佐殿。余りにも非礼ではないでしょうか?我々は同盟軍からの使者として、同盟軍の代表としてこちらに参上したのです。それをこのような応対。後日行くべき所で我々が直訴すれば後悔なさるのは大佐の方になりますよ……!」

 

 鋭い目つきで大佐を睨みつける少尉。喧嘩慣れしていない人物なら十分動揺するであろう。が、目の前の人物にとっては微風程度に過ぎないようであった。

 

「あ?お嬢さん、余り回りくどい事を言うもんじゃねぇな?貴族付きの副官って事は付き人か何かだろう?はっきり主家の家名を汚すなとでも言えや。それとも坊ちゃんを泣かすなか?従士も御守りで大変だな?」

「なっ……!?」

 

 歯に衣着せぬ言いように流石に唖然とした表情をする少尉。

 

「悪いがこちとら同盟軍に従う義務も理由も一ミリもねぇ。弾除けの弾除けだからな、これ以上危険地帯に放り込まれようともビビるかよ。後お嬢さん、その顔と口調は凄んでいるつもりかね?」

 

 肩を竦めて薄笑いを浮かべる大佐。骨が見えそうな程痩せているためにかたかたと頭蓋骨が笑っているようにも見えた。

 

「その軟な顔。見た所戦場経験ねぇだろう?戦闘処女め。ぬくぬくと机の上でキーボード打ってばかりやってるから肌が白いんだよ。俺らをビビらせたかったらせめて一回ぐらいは戦場で小便漏らしてきな。それとも温室育ちの従士様はそんなはしたない事は出来んかね?」

「………!」

 

 余りに無礼な言いように体をわなわなと震わせながら目を見開き相手を殺すように睨みつける少尉。何事かを口にしようとするところで私は静止させる。

 

「……大佐、余り少尉を侮辱しないで頂きたい。階級と組織に違いはあれど名誉棄損で訴訟は可能です。まして少尉は優秀な事務処理能力を有している。大佐ともあろう方が事務を蔑ろにする発言、指揮能力・指導能力を疑わせる発言をするのは控えるべきかと存じますが?後そのような発言を仰るという事はここにいる皆さまは晴れある初陣で失禁なさった経験が御有りである、と考えて宜しいでしょうか?」

 

 一触即発な状況で私は内心漏らしそうなのを我慢しながら淡々と(内心勇気を振り絞って)そう答える。貴族やっていると演技と表情固定ばかり上手くなる。

 

 当然ながら、私の侮辱を婉曲的に修飾した返答に一旦場の空気が凍りついた。

 

「……坊ちゃん、貴族様なら殴られないとでも思っている訳じゃあなかろうな?うちが後ろから弾が飛んで来る部隊って知らんのか?」

 

 剣呑な空気が天幕内に充満する。警戒した少尉が咄嗟にブラスターを手に私の前に出ようとするのを止める。正直隠れてそのままお腹に突っ込んで泣きたいけどここは我慢するしかない。ここで舐められたら多分終わりだ。

 

「いえ、大佐殿の発言をそのまま解釈した次第であります。私は大佐と師団のこれまでの軍歴と武勇に感銘と敬意を抱いております。大佐と師団の名誉のためにも不用意な御言葉は誤解の元となり得ますのでお控えになられた方が良いかと」

「……やはり貴族様だな。口ばかりよく回るわ」

 

 吸いかけの葉巻を硝子の灰皿に押し付けるとこちらを見据える。

 

「さっさと本題に入れや。余所者の分際で、俺らに文句を垂れる屁理屈位は考えているのだろう?」

 

そう促され、私も恭しく報告をする。

 

「はい、亡命軍は確かに我が同盟軍とは組織が事実上独立しており、同盟軍の命令と要求を受け入れる義務は御座いません。ですが、第一にアルレスハイム星系政府の市民は同盟加盟国の市民でもある以上同盟政府の保護すべき市民であります。故にこれ以上の市民への不祥事があれば同盟軍としても市民の保護のために介入すべき案件であることを御理解頂きたい」

 

師団長は黙ったままだ。次を話せ、という事らしい。

 

「第二に、同盟軍は亡命軍の協力組織であります。同盟関係を結んでいる以上貴軍の不祥事は共同戦線を張る同盟軍との連携に著しい不都合をもたらす懸念があります。円滑な共同作戦のために貴軍には友軍への配慮を願いたいと考える所存です」

 

 周囲からの敵意を含めた視線が痛いが、ギリギリ平静を装い堂々と答える。

 

「第三に、これ以上の不祥事は演習そのものの成否に繋がります。不祥事による事件の発生は演習スケジュールの遅延に繋がりかねません。演習にも予算がかかります。遅延した場合その費用の請求もあり得ます。そのような事が起こり得る前に師団に改善を促したい。以上の点を伝えさせていただきます」

 

 ようは、不祥事をこれ以上起こしたら同盟軍も動くしかない。実戦における連携に支障も出る。また不祥事の結果演習や作戦の遅延が起きれば裁判起こして給与差し押さえるぞ、と言う訳だ。

 

「おい、それは脅迫かね?」

「いえ、このような不祥事が続いた場合、同盟軍が実施するであろう事実について説明したまでの事です」

 

 下手に軍規やら名誉やら秩序を口にしても意味がなさそうだからな。それでも危険な戦地に叩き込まれるのはいつも通りとしても連携不足で誤射や誤爆で無駄死には嫌であろうし、給与がカットされるのはご免であろう。というよりは実利を口にした方が良い。

 

「……給与カットは頂けないな。暴動が起きる。真っ先に殺されて吊るされるのは士官である我々だ、その後はお前らに殺意は向くだろうな」

 

 暫しの沈黙の後、そう言いつつもニタニタと楽しそうに笑う大佐。御免、何で笑っていられるのか一ミリも分かりません。というか暴動になったら吊るされるの!?

 

「うちは外縁部や外宇宙の無法地帯産まれの奴も多いからな。御行儀良くストライキする前にコレする馬鹿がいないとも限らんのよ」

 

 そういって右手を銃の形にして私にパーン、と撃ち込む真似事をする。お、おう、辺境外縁部は修羅の国なのか。

 

 いや、帝国建国や同盟の拡大期の記録を見れば残当かも知れんが……。同盟加盟準備中のマーロヴィアは同盟政府と初接触の時点でリアルソマリアな群雄割拠状態だったそうだ。近年接触した幾つかの旧銀河連邦植民地も同様の世紀末覇者状態。恒星間航行技術どころか星系内航行技術を有する勢力も滅多に存在しない。現地の市民や兵士の民度はお察し下さいである。

 

「まぁいい。金が出なくなると脅せば少し位の間は大人しくなるだろうさ。ようは前線に出るまでの一週間程の間静かにさせておけ、と言いたいんだろう?」

「……極論すれば、ですが」

 

 出来れば戦地でも上品にして欲しいがそこまで言う事は出来んし、気概も、権限もない。あくまで別組織に所属する私に出来るのはこの場における忠告のみだ。

 

 忠告を終えて敬礼した後に私は退席する。何処か複雑な表情を浮かべる少尉と憲兵を連れて天幕の出口に向かうと後ろから大佐が声をかける。

 

「中尉」

「……何でしょうか?」

 

振り向きながら警戒しつつ答える。

 

「仕事熱心なのは結構だがな、今度来る際は従軍勲章を着けておく事だ。馬鹿の中には実戦処女扱いされるからな」

 

 下世話な話をするように笑いながら大佐は答える。

 

「了解致しました」

 

 私はそれに誤魔化すような苦笑いしながら出口に向かった。成る程、実戦処女はこの師団ではからかいの的になると。

 

 大佐自身も部隊の掌握するためにあの態度を取っている可能性もある。そこに文句を言いに来る小役人がいればあの態度も有り得なくもない。私も周囲には実戦知らずの貴族の坊っちゃんに見えただろう(新品士官であることに代わりはないが)。最終的に受け入れるとしても部下に対するポーズを示さないといけないのではないだろうか?いや、ただの想像だけどさ。

 

 どちらにしろ、確かに勲章付けて実戦経験があるとアピールしないと舐められそうな部隊ではある。

 

 まぁ、今回忠告はした。亡命軍の方でも何らかの形で警告はしているだろう。後は大佐と憲兵隊の働きに期待するしかあるまい。

 

 問題はそれでも事件を起こす者がいる場合であるが……。 

 

 ジープに乗り込み同盟軍演習司令部へと戻る。私は後部座席の隣に座りこむ元気のない従士に口を開きフォローを入れる。

 

「少尉、要らぬ気遣いであるかも知れないが大佐の言葉は余り気にする事はない。所詮は荒くれ者共の大将に過ぎん。少尉の事務能力は先ほど言ったように優秀であるし、実戦に参加していないからといって臆病という訳でもない。深く考えるような事ではないぞ?獣が喚いているとでも思っておくといい」

 

 実際あそこまで汚く罵られたら門閥貴族……とまではいかなくともそれなりに良い所の娘である少尉にはショッキングだったかも知れない。嫌な事は忘れて無かった事にするのが一番だ。

 

「いえ、若様……私は問題は御座いません。ですが……若様や伯爵家に対してもあのような暴言……あのような賎しい身分の者共が……!」

「少尉」

「っ……!いえ、失言でした」

 

 私の注意にすぐに運転席の憲兵の存在に気付き謝罪する。憲兵達は普通の同盟人だ。余り身分制度を意識した発言は口にするべきではない。

 

 ベアトよりはかなりマシではあるが、やはりあそこまで言われたら流石に怒るしかないだろう。少なくとも付き人の身である以上は内心は平気でも形だけでも怒らないといけないかも知れない。そうしなければ付き人としての意味が無い。

 

「今の立場を忘れるな。我々は同盟軍としてここにいる。口は慎め」

「……承知しました」

 

 少尉は荒れる心情を落ち着かせるために深呼吸した後、いつものように落ち着いた口調でそう答えた。

 

「……いや、言い過ぎだな。やはり私のような学生気分の抜けない新品士官だとああ言った荒くれ者の集団に軽く見られてしまう。本来ならば私が真っ先にあの口を咎めるべきだったのを世話をかけた」

「いえ……」

「正直、ああ言えたのも護衛がいると安心出来た所がある。助かった」

 

 一応、そう言ってフォローを入れる。いや、だってあんだけ侮辱されたら名誉取り戻すのに闇討ちも無きにしもあらずだし……。ぶっちゃけあのアウトローどころか盗賊集団ともう一度正面から会話するのは御免過ぎる。

 

「帰ったら多分仕事が増えているだろう。頼むぞ?」

「はい」

 

 私は彼女の意識を別のものに向けさせるためにそう口にした。少尉はソプラノ調の美しい声でそれに対して穏やかに返事した。まぁ、実際増えているだろうしなぁ……。

 

「はぁ……」

 

 私は窓の外から演習の砲兵部隊の砲撃を見つめながら、ベアト達の安否やこれから起こるであろうトラブルの数々、父の説得といった問題に思いを馳せ、内心の焦りを誤魔化すようについ溜め息をついた。

 

「…………」

 

 故に、私は怒りに燃える隣の従士の瞳に気付くことが出来なかった。




各勢力の民度及び人命価値
同盟=アメリカ
フェザーン=日本
帝国=大祖国戦争ソ連ないし日本帝国
辺境外縁部(銀河連邦の残骸)=汚物は消毒だぁ!!








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