帝国貴族はイージーな転生先と思ったか?   作:鉄鋼怪人

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ネタバレ 主人公が登場しない


第八十四話 本場の貴族ムーヴが見たいか?

 オリオン腕とサジタリウス腕間を結ぶ二つの回廊のうちの一つ、イゼルローン回廊、その最も狭隘な箇所こそが丁度恒星アルテナの存在する宙域であり、その周りを公転するのが回廊と同じ名を持つイゼルローン要塞である。

 

 漆黒の宇宙に浮かぶその姿は表面のナノマシンを配合したハイドロメタルからなる「海」により星々の輝きを反射し、幻想的な美しさを放っていた。

 

 美しいのは外側だけではない。この要塞は「全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる銀河帝国皇帝」を主君とする「銀河系を永続的に統治する唯一無二の人類統合体ゴールデンバウム朝銀河帝国」の本土を「辺境の逃亡奴隷からなる野蛮な反乱勢力」から守護する神聖にして鉄壁の要塞として構築されたのである。その内装もまた豪奢の極みであった。

 

 最下級の兵士達ですら個々に浴室とトイレ、一段ベッドのある居住室が用意され、最高級の将官クラスになれば屋敷と称するに相応しい広さの私室に最高級の家具と調度品、使用人が下賜される。士官階級の足を運ぶ通路には高級な壁紙が貼り付けられ、ルドルフ大帝を始めとした歴代皇帝の肖像画や彫刻、オーディン神話に由来する絵画や天井画が飾られる。通路を照らすのは輝く水晶のシャンデリアだ。

 

 要塞内の娯楽もまた、到底前線のそれとは思えない。内部には兵士・下士官用、士官用、更には貴族用の歓楽街がそれぞれ存在し、前者二つの場合は居酒屋やプール、大規模公衆浴場、スポーツ施設、コンサートホール、カジノ、映画館、遊園地、娼館等が、後者の場合はオペラ劇場や美術館、動物園、水族館、植物園、図書館、舞踏館、ジム、サロン、高級レストラン等が用意されている。

 

 故に、要塞に帰還したエドムルト・フォン・グライフス大将、ヴィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ中将の二人が入室した会議室が宮廷のように煌びやかであったとしても驚くに値しない。

 

 要塞内には予備も含め司令官級の集う事を想定した作戦用大会議室が計七つ存在する。その中でも第一大会議室は別名を「鏡の間」と称されていた。

 

 大理石の壁と床、虹色に輝くシャンデリア、黄金色に輝く金の装飾と芸術的な壁画と天井画、長い天然高級木材のテーブルには既に三十名余りの主要幹部が胸元に煌びやかな勲章を下げながら着席していた。

 

 そしてその上座に目を向ければそこには誰も座らない、いや座る事が許されない至高の玉座。その背後の壁には帝国を象徴する双頭の鷲と黄金樹を象徴する帝室の紋章の描かれた旗が立てられ、丁度席に座る彼らを見下ろすように威厳に満ちた開祖ルドルフ大帝と覇気のない現皇帝フリードリヒ四世の肖像画が飾られる。

 

 ……そして恐らくはかつてのコルネリアス一世帝の如く親征が行われぬ限り、その椅子に座る者は現れる事は無いであろう。

 

「第二猟兵艦隊、只今要塞内に帰還致しました」

「同じく第四弓騎兵艦隊、要塞内に帰還完了致しました」

 

 グライフスとメルカッツの両名は帰還を知らせると共に此度の防衛戦を指揮する二人の大将に貴族らしい優美な敬礼をする。美しさに満ちた会議室も、しかし彼らもまた門閥貴族の出であり、見慣れている訳でなくても平民共のように精神的に圧倒される事はない。

 

 二人の報告に玉座から一つ離れた左右の席、左側の席に陣取る要塞防衛指揮官ミュッケンベルガー大将は腕を組み、厳かな表情で無言で頷く。

 

 武門貴族の名家、十八将家が一つにして今や断絶したケルトリング侯爵、その分家筋に当たるミュッケンベルガー伯爵家の次男グレゴール・フォン・ミュッケンベルガーは威風堂々、覇気に溢れた名将であり、見る者にそれだけである種の畏怖と安堵を与える人物に思える。

 

 一方、玉座の右側に座る細い線に赤茶髪の男は薄っすらとした笑みを浮かべ口を開いた。

 

「御苦労です、グライフス大将、メルカッツ中将。席に着いて下さい」

 

 そう言って二人が席に着くのを確認すると、男はテーブルに座る諸将を見やる。

 

「皆、早朝の急な招集に集ってくれて御苦労。報告によれば、どうやら下賤な奴隷共が遂にこの要塞まで攻めてきたようだ」

 

 嘲りと哀れみを含んだその言葉には、同時に大軍が押し寄せて来る事への切迫感も欠けているように諸将には思えた。だが、それが決して彼が事態を軽視している訳でも、楽観視している訳でも無いこともまた、理解していた。

 

「さて……先ずは紅茶でも淹れようか」

 

 まるで要塞に雪崩れ込もうとする大艦隊を路傍の石とでも言うように、要塞駐留艦隊司令官エヴァルト・フォン・ブランデンブルク大将はそう口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 端正で品のある従兵達が恭しく、完璧な動作で全ての参加者の前に紅茶を淹れたティーカップを置いて下がると、ブランデンブルク大将は苦笑するような笑みを浮かべる。

 

「………安心して欲しい。毒を混ぜるような無粋な真似はしないよ」

 

 ブランデンブルク大将は誰一人としてティーカップを手に取らない状況を面白がるように微笑を浮かべる。実際、仮に彼が反乱を起こそうと思えばここで主だった諸将を毒殺すればほかの指揮官がいない以上、要塞の全機能・全部隊の指揮権を手に入れる事が可能であるのだ。冗談を口にしているようでも、決して笑えるものではない。……特にこの大将の立場を思えば。

 

 前代ブランデンブルク伯爵は文官貴族としてオトフリート五世の長子であるリヒャルトの派閥に属し、リヒャルトが冤罪による自裁に際して共に責を背負わされて自決させられた。その後、領地や財産の過半を差し押さえられ、少年時代極貧、とは言わないまでも大貴族としては質素な生活を過ごしてきた。そのために本来ならば帝国大学を経て官僚となるのが代々の伯爵家の者の伝統であったものをより早く官職につくために幼年学校から士官学校を経ずに准尉として帝国軍に入隊した経歴の持ち主であった。

 

 その後リヒャルトの冤罪が立証されたものの、伯爵家の財産や領地は、しかし殆どが戻る事が無かった。この事についてはフリードリヒ四世の後ろ盾となったブラウンシュヴァイク・リッテンハイム両家による他家の勢力回復を阻む工作であったと言われているが、不穏な噂もあった。彼が領地を召し上げられた復讐のために軍人になり、将来反乱を起こすつもりであったから、というものである。

 

 その噂が事実かどうかは関係ない。帝国の宮廷においては噂というものはあるだけでも危険なのだ。兎も角も彼はそれを払拭するためにか叛徒共との戦いや帝国本土の反乱鎮圧に精力的に励み続けた。

 

 そのおかげで四十前に大将に昇進、そしてフリードリヒ四世の寵姫の懐妊時の恩赦の一環として数年前に接収された財産や領地を返還された所であった。この戦いが終われば予備役に編入され領地に帰還する事も決まっていた。

 

 だが、未だに怪し気な噂が流れていた。ブランデンブルク伯はリヒャルトの冤罪が証明された時点で領地を返還されなかった事を恨んでおり、イゼルローン要塞を乗っ取って反乱を起こそうとしている、と。大方宮廷の敵対勢力か叛徒共の情報部の流した怪情報であろうがそれでも経歴が経歴だけに誰もが意識せざる得なかった。一説では装甲擲弾兵第三軍団が援軍として派遣された真の目的は反乱を起こした際のブランデンブルク大将の処刑、という噂もあるほどで……。

 

 そういう背景もあり、ミュッケンベルガー大将ともう一人以外を除く場の全員が一瞬動揺する。それをブランデンブルク大将は、寧ろ楽し気に見やりティーカップに口を付けようとし……その前に大柄な男が熱い紅茶を豪快に飲み干した。

 

「ふん、ほかの者共は兎も角、この俺が毒程度でたじろぐとでも思ったか?」

 

 約二メートルに及ぶ鍛え抜かれた巨躯、精悍な競争馬を思わせる纏められた黒髪、勇壮で整った顔立ちはしかし痛々しい傷跡が残るためか、それとも猛獣のような鋭い眼光故か、威圧感しか与えない。装甲擲弾兵副総監兼装甲擲弾兵第三軍団司令官オフレッサー大将はティーカップを乱暴にテーブルに置くと不愉快そうに鼻を鳴らした。

 

「いやはや、流石帝国一の勇者オフレッサー大将と言うべきかな?毒の危険を顧みず勇猛なお飲みっぷりです。ですが私としては……恐らく他の方も同意見でしょうが、貴方ほどの戦士が毒程度で死ぬとも思えません。貴方が御飲みになるだけでは他の諸将の不安は拭いきれないでしょうね?」

 

 肩を竦めると共に薄っすらと笑いながらブランデンブルク大将は、そう言って改めて湯気の立つティーカップに口を付ける。全ての紅茶は同じティーポットから注がれている事から、それは紅茶に毒が含まれていない事を自らの命で証明する行いであった。そのわざとらしい所作を腹立だしげに見やりオフレッサー大将は再度鼻を鳴らす。

 

「……ふむ、流石は帝室からの恩寵の茶葉。有象無象の物とは格が違う」

 

 昨年、辺境でカルト教団の指導の下に起きた奴隷共の反乱を粉砕した事、それによる褒美の一つとして下賜された帝室御用達のアルト・ロンネフェルトの茶葉。何世代にも渡る品種改良と商業用としては完全に採算を無視した栽培と加工によって生み出された豊潤な味わいは間違いなく銀河で最高のものであった。

 

 ここに来てようやく諸将もティーカップに手を伸ばす。ブランデンブルク大将自らが毒見をしたのは当然として、恩寵の茶葉で毒殺等をする事は帝国の法では大罪であり、族滅すら有り得る。態々そのような危険な手段を取る事はあり得ぬ以上、この場で彼らが毒殺される可能性は限りなく低い。何よりも貴族階級であろうとも、特に門閥貴族の中でも大貴族と称される家でなければ帝室御用達の茶葉の味を味わう機会は決して多くはない。

 

 そうして一人不機嫌そうに手を組むミュッケンベルガー大将が不快そうに口を開く。

 

「ブランデンブルク大将、卿は少々冗談が過ぎる。口は災いの元、要らぬ漣を立てぬ事だ」

 

 苛立つ、というよりは困る、あるいは呆れるという体で要塞防衛司令官は口を開く。二人は幼年学校において生徒と教官という立場で知り合いであった。故に要塞防衛司令官は礼を取りつつもどこか教官のように諫言する。

 

「……肝に銘じておきましょう。要塞防衛司令官殿。さて……」

 

 どこか楽し気な笑みを浮かべ、テーブルを見渡すブランデンブルク大将。要塞防衛司令官以外の全員が紅茶を味わっているのを確認しているようだ。

 

「では改めて会議を始めましょうか」

 

 席を共にする諸将にブランデンブルク大将は改めて同盟軍迎撃の作戦会議の始まりを宣言した。まずは要塞の情報課、それに前線で戦闘を繰り広げていたグライフス大将、メルカッツ中将両名が「不逞な共和主義者共」の陣容について説明を開始する。

 

「反乱軍の総兵力は凡そ三個艦隊、艦艇数は最大でも四万五〇〇〇隻は越えぬと予想されます。また地上戦部隊は後方の警備にその大半が注がれており、情報課の分析が正しければ叛徒共の本作戦の主目的は要塞攻略、と言うより寧ろ我が方の艦隊撃滅であると想定されます」

 

 参謀経験も豊富なグライフス大将は各方面からの情報と自身の前線での感触から反乱軍の目的を説明する。

 

「うむ、御苦労。メルカッツ中将の方の所見は?」

 

 ブランデンブルク大将は同じく前線で戦闘を経験したメルカッツ中将に質問をする。

 

「……小官もグライフス大将の説明の通りであると愚考致します。敵方の目的は明らかに我々を要塞から引き摺り出した上での撃滅にありましょう。事実、回廊内における各戦闘においても遠方からの砲撃と即時後退よる挑発行為が散見されており、前線部隊の指揮官の中にはこの挑発により激高している者も存在します。各部隊の統御が失敗した場合、味方の一部が想定外の突出を行う可能性もありましょう」

 

 メルカッツ子爵家の三男として分家の男爵家を継ぐ初老の中将は暫し考え込んだ後、淡々と説明をする。それはどちらかと言えば主観的な視点を排除し可能な限り客観的に物事を見据えようとする故の事に見える。

 

「やはり、というべきかな?此度の侵攻は余りにもわざとらしい。全く兆候の掴めなかった前回と比較しても防諜に気を配っていないにも程がある。お陰で我々は万全を喫した迎撃態勢を取る時間を得る事が出来たが……」

 

 結果として下級指揮官達の中には敢えて要塞砲に頼らなくても正面からの艦隊決戦で雌雄を決しようと意見する者もいる。同盟軍の挑発行為もあり、帝国軍上層部は各部隊の統制に少なからず支障をきたしていた。

 

「要塞防衛司令官殿としては此度の戦、どう考えますかな?」

 

 ここで敢えて要塞防衛司令官に意見を求める要塞駐留艦隊司令官。同じ部署に同等の権限の者が配属されれば九九・九%の確率で両者は不仲となるものであるが、此度に関して言えばその極稀な例外に当たるらしい。

 

「……奴らが要塞攻略に本気で取り組むつもりが無いとすれば、奴らが自ら要塞砲の射程内に入る事は無いだろうな。ならばこちらとすれば取れる選択肢は艦隊戦で勝利する、あるいは補給線に負担をかけ撤退に追い込むあるいは……」

「こちらから要塞砲の射程内に押し込む、ですかな?」

 

 要塞駐留艦隊司令官の言葉に重々しく頷くミュッケンベルガー大将。

 

「それが最も短期に、かつ戦力の消耗の少ない手であろうな」

「ですが実際に行うとなると危険も伴いましょう。最悪要塞表面に取りつかれる可能性もあります」

 

 要塞防衛司令官の補足説明に地上戦・揚陸戦の専門家である要塞陸戦隊司令官シュトックハウゼン少将が意見する。イゼルローン要塞の外壁の堅牢さは信頼に足るものであるがそれでもやり様によっては陸戦部隊を揚陸させる手段も無くはないのだ。

 

「ふん、その時は我々の出番だ。侵入してきた叛徒共を全員フリカッセにしてくれる。たかが奴隷共が幾ら集まろうと我ら装甲擲弾兵団の敵ではないわ!」

 

 そう叫ぶのはオフレッサー大将である。その言ははったりではない。事実彼が准将時代、イゼルローン要塞に潜入した特殊部隊を文字通り挽肉の山に変えた実績がある。

 

「陸戦隊投入よりも寧ろ爆撃……特に単座式戦闘艇による主砲への攻撃の方が懸念材料です。何基か破壊させた程度ならば問題はありませんが……」

 

 そう語るのは要塞主砲管制司令官リッテンハイム准将である。大貴族リッテンハイム侯爵家の分家トリーゼン=リッテンハイム男爵家出身の中年の技術将校であった。

 

「雷神の槌」を発射する八基の特殊浮遊砲台は平時は流体金属層の「海」で身を守り、更に砲自体五重の装甲版に対ビームコーティングが施され何発か戦艦の主砲を受けた程度では問題無く、また威力こそ減衰するが二、三の砲台が破壊された程度ならば主砲の発射自体に問題は無かった。寧ろレーザー水爆ミサイルで爆装した単座式戦闘艇の近接爆撃の方がある種の脅威である。

 

「その点に関しては要塞防空隊の働きに期待するとしよう。前回の戦闘の教訓を受け浮遊砲台と防空航空隊の強化は完了しておる。場合によっては第二猟兵艦隊所属の航空隊も臨時で貸しても良い。宜しいかな?グライフス大将?」

「その点は構いませぬ。こちらとて艦隊防空用の最低限の空戦隊があれば十分ですので」

 

 ミュッケンベルガー大将とグライフス大将の交渉は円滑に纏まる。ミュッケンベルガー大将が元よりどちらかと言えば艦隊畑出の将官である事が一因であろう。要塞防衛司令官が比較的陸戦畑出や情報畑出の者が多い中では珍しい人選であった。

 

「……では方針としては艦隊戦を行いつつ叛徒共を要塞砲射程内に押し込める方法で宜しいですかな?」

 

 ブランデンブルク大将の言葉に場の諸将が積極的に、あるいは消極的に肯定する。これまでの防衛戦と根本的には余り変わり映えのしない作戦ではある。だがだからこそ有効な策である事は間違いないのだ。

 

 具体的には艦隊戦を行いながら左右両翼を伸ばし半包囲するように叛徒共を要塞砲射程内に押し込む。ここで同盟軍が密集して射線に入れば良し、対抗して両翼を伸ばしてくれば消耗戦に持ち込む。要塞砲射程と回廊危険宙域の隙間での砲撃戦となれば数の差は出にくく兵站の距離からして帝国側が優位となり得た。

 

 特にその場合メルカッツ中将率いる第四弓騎兵艦隊の出番だ。大型戦闘艇群が伸びた同盟軍の隊列に横合いから一撃離脱戦法で消耗させていく。

 

 正確には各方面からの情報を加味して細々とした段階があるが大まかに言えばこのような形に落ち着く。そのほか緊急時の部隊の指揮序列、部署ごとの情報共有等で二時間余りの時間が費やされる。

 

「うむ、こんな所だな。諸君、此度の招集御苦労。叛徒共は恐らくは数時間もすればこの要塞の前に展開を始めよう。要塞防衛部隊は各自持ち場に、艦隊は出航と展開を……メルカッツ中将は特に叛徒共の部隊展開妨害任務に就いてもらう。これ以降の会議は各自の職務もあるので通信によるものになるだろう」

 

 ここで呼び鈴を鳴らす要塞防衛司令官。同時に台車を運ぶ従兵が会議室に入室する。

 

「此度の戦いの勝利を祈願すると共に諸君の戦功と栄達を期待して祝杯を挙げようと思う。私の私物であるがクヴァシル産の410年物の貴腐を用意した」

 

 その声に流石にどよめきが広がる。帝国直轄領たる惑星クヴァシルは帝国前期より続く酒造の名地である。豊かな土壌と豊富で清潔な水、安定した気候、天然物の高級酒類の原材料を生産し、そのまま酒造所で製品に加工する事が可能な体制が整えられていた。

 

 その中でも帝国歴410年産の葡萄は過去一世紀で最高の出来であり、その年に生産された物がその名も高い「410年物」である。特にこの年のエーデルフォイレ……貴腐葡萄を使った白ワインは唯でさえ希少な「410年物」の中でも別格であった。それこそ門閥貴族ばかりが集まるこの会議場の出席者達が驚く程に、である。

 

 黄金に近い白ワインがグラスへと注がれる。所謂「出陣の祝杯」のために熟練の職人が一つ一つ作り上げたそれは唯一度の利用のためだけのものだ。

 

 しかしワインの味を左右する要因の一つにワイングラスの感触や温度、材質等が挙げられる。最高のワインを味わうためにはグラスの質も重要であった。更には視覚を楽しませるためにより透明性を高め、光を反射し輝かせる技巧も為されており、かつ打ち砕かれる時は煌びやかに、優美に四散される事も想定していた。故に使い捨てのそのグラスは、しかしもし平民共がその値段を知れば絶句する事に違いない。

 

 諸将がグラスを手に取り立ち上がる。

 

「ミュッケンベルガー大将」

「……いや、要塞駐留艦隊司令官が行うと良い。卿は此度の戦が最後であろう?現役の最後を飾るに丁度良い機会であろうて」

 

 ブランデンブルク大将に向けそう語りかけるミュッケンベルガー大将の口調は同じ同僚に向けるもの、というよりは目を掛けている生徒に向けてのように見えた。

 

 その好意に頷いて了承すると要塞駐留艦隊司令官が音頭を取る。

 

「それでは諸君、要塞防衛司令官のご厚意に甘え、僭越ではあるが私から宣言させてもらいましょう」

 

 そして後ろを向き、ワイングラスを大理石の壁に掛けられた大帝と現皇帝の肖像画に向け掲げる。

 

「皇帝陛下が御為に!!乾杯(プロージッド)!!」

 

「「「乾杯(プロージッド)!!」」」

 

 諸将が一斉に叫び、グラスを口元へとやる。そして飲み干した者から次々とグラスを惜しげもなく大理石の床へと叩きつけ議場を颯爽と立ち去っていく。

 

 5月1日0900時、この日の会議にて帝国軍の此度の防衛戦における基本方針は決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、狭隘なイゼルローン回廊に万単位の艦隊を配置する事は決して容易な事ではない。そして当然ではあるが同盟軍が懸命に部隊配置を完了させようとする行いを帝国側が唯見ている訳が無かった。

 

 帝国軍は会議で決定した基本方針に従いメルカッツ中将指揮下の第四弓騎兵艦隊を中核として、単座式戦闘艇や大型戦闘艇、駆逐艦等による攻撃により同盟軍の戦力配置を妨害する。これに対して同盟軍も各独立部隊や空戦隊、亡命軍の小部隊が迎撃した。最前線で小さな、しかし激しい戦闘が行われ、後方では両軍の主力が展開されると共に電子戦による暗闘も苛烈さを増す。

 

 やや同盟軍が苦戦した約二日に渡る小競り合いが終結し、5月4日1400時、遂に同盟軍はイゼルローン要塞正面に全軍を展開させた。

 

「第二・第一一艦隊、要塞主砲の推定有効射程外、七光秒の位置で進軍を停止!」

「偵察部隊より連絡!帝国軍要塞駐留艦隊及び第二猟騎兵艦隊の要塞前方への展開を確認!艦艇数凡そ二万七〇〇〇隻!」

「イゼルローン要塞表面より多数の熱源反応を確認、浮遊砲台群と推定されます!」

「続いてセンサーが強力なエネルギー反応を探知………これは!特殊浮遊砲台の浮上を確認!」

 

 同盟軍の総旗艦「アイアース」艦橋内で次々と齎される情報、その中でもそれは一瞬艦橋要員を凍り付かせた。

 

 艦橋のメインスクリーンが拡大される。イゼルローン要塞に浮かび上がる八つ特殊浮遊砲台。円を作るように浮かぶそれらからは強力なエネルギーが放電される。即ち、あの「雷神の槌」が発射準備に入った事を意味していた。艦橋の兵士達からどよめきの声が上がる。

 

「憶するな!主砲射程外だ!各自任務に集中せよ!」

 

 ゴロドフ総参謀長の叱責に各自が慌てて作業に戻り始める。

 

「全く、反応だけで怯えよって……」

 

 射程外にありながらその存在を察知するだけで狼狽する部下達に呆れ気味に口を開く総参謀長。

 

「仕方ないことじゃろ。あの要塞の前に我々は過去三度苦汁を味わってきたからのぅ」

 

 ブランシャール元帥は総司令官用の椅子の上で白い顎鬚を摩りながら仕方なさげにそう語る。

 

 イゼルローン要塞と「雷神の槌」、この二つの存在は今や同盟軍の全兵士の恐怖の的であった。

 

 同盟軍は過去三度要塞を巡る大規模な遠征を行い敗北してきた。772年の第1次遠征では情報不足の中不用意に接近した二個艦隊が主砲の餌食となり旗艦が撃沈される等の惨敗となった。776年の第2次遠征においては三個艦隊が十分な情報を得ていたにも関わらず前線部隊の疑心暗鬼により遠距離砲戦のみを行い撤退した。

 

 781年の第3次遠征は過去二回の遠征を徹底的に研究し、最も成功に近づいた遠征であった。完全な防諜体制の下に進撃した三個艦隊は奇襲攻撃に成功。精鋭たる要塞駐留艦隊を数の利で押し潰し、散開陣形で要塞表面に取りつき陸戦隊の揚陸に成功した。

 

 だが、同盟軍が成功していたように帝国軍もまた防諜に成功していたのだ。第2次遠征後、帝国軍は要塞の防護体制を強化していた。陸戦隊や浮遊砲台の追加に要塞主砲の改修による性能向上、要塞の外壁装甲の強化、何よりも流体金属による「海」の深度が当初の九〇メートルから一一〇メートルまで強化されていたのだ。

 

 結果、陸戦隊が用意したレーザー水爆爆雷では外壁を貫通し切れなかった。急いで対大型艦艇用のレーザー水爆ミサイルを取り寄せ設置準備に入ったがそこを増援部隊と要塞陸戦部隊の攻撃を受け同盟陸戦隊は撤収を余儀なくされた。更に散開していた同盟艦隊はそのまま押し込まれる形で要塞主砲射程内で密集する事になり、二度に渡り雷神の鉄槌を受ける事となった。

 

 正規艦隊を使った大規模遠征だけではない。中には工作部隊による反乱誘発、電子戦部隊による要塞システムの無力化、特殊部隊による司令部制圧作戦、小艦隊による特務作戦等も両手の指では数えきれない数が試みられてきた。そして同じ数だけ失敗してきたのだ。

 

 十数年間で何百万に渡る同盟軍兵士の躯の山を築き上げてきた漆黒の要塞。あらゆる手段をもってしても落とせぬ難攻不落の要塞、それに恐怖するな、という方が無茶なのかも知れない。

 

「じゃが、確かにこう動揺されては士気に関わるからのぅ。……ふむ、全艦隊に対してオープン回線を開いてくれ。一つ叱咤激励と行こうかの?」

 

 そう冗談めかして言いながら元帥は通信士に命じる。通信士が「遠征軍総司令官の通達である、全将兵傾聴!」と通達した後元帥に無線機を手渡す。それぞれの職務に精励していた将兵は緊張の面持ちで会戦前の司令官の通達に意識を向ける。

 

 そして、無線機を受け取った歴戦の元帥は……口を開いた。

 

「あーあーあー、マイクテスマイクテス。諸君!昼飯はもう食べたかな!?」

 

 ぼけ老人のような元帥のその第一声に身構えていた全将兵が脱力する。

 

「いやぁ、昼のテレビ見たかね?今シーズンのサジタリウスカップの準決勝戦、儂の地元のトリプラドラグーンが負けてしまってのぅ。折角の四期連続優勝に手が届くと思ったのじゃが、まさか解散寸前のメルカルトデビルバッツに敗北するとは予想出来なんだ」

 

 全将兵がこいつこのタイミングで何言ってんだ?という表情を向けていた。

 

「そうそう、実はの、先月うちの孫娘が出産しての!曾孫じゃ曾孫!まさか軍人生活をやっていて曾孫を見れるとは流石に思わなかったのぅ。画像が送られてきたが小っちゃくて可愛くてのぅ……あー、頬がぷにぷにしてるのじゃ!」

 

 いや知らんがな、全将兵が無駄に心を一つにしながら内心で叫んだ。

 

「そうそう、大事な事を忘れる所じゃった!今日の夕食は御約束の金曜日のカレーじゃぞ!カレー!儂の大好物じゃ!」

 

 いや知ってるから、と全将兵は内心で同時に突っ込みを入れる。同盟宇宙軍では曜日感覚を自覚させる手段の一つ(と残り物一斉掃除で予算削減のため)、金曜カレーや月末の鍋料理は基本だ(一方帝国軍では金曜日は余り物でアイントプフだ)。

 

「ははは、……まぁそう言う訳での、儂は今回の遠征で死ぬ気はない。来年のトリプラドラグーンの優勝も、初曾孫を抱っこするのも、夕食のカレーを食うためにもな」

 

 ここで元帥の口調の雰囲気が変わるのが分かった。弛緩していた将兵達の意識は一気に引き締まる。

 

「諸君は何のために軍人になった?帝国の打倒か?民主主義と祖国を守るためか?給料のためか?家族の敵という者もいるだろう、単に軍人が格好いいから、という者、代々軍人だからと言う者もいるじゃろうて。それは構わん。同盟は自由の国じゃ、自由に軍人になり、好きな時に辞めると良い」

 

一拍おいて、元帥は続ける。

 

「じゃが、死に急ぐなよ?何事も命あっての物種じゃ、戦い続ける事も、給料を貰う事も、勲章を胸につけ威張る事も、子や孫に自慢する事も死んでしまっては出来ん。……じゃから死に急ぐな。我々が勝つための算段はつけておる。諸君達は今回の危険手当てと航海手当てを何に使うのか落ち着いて考えながら任務に励むと良い。……おっと、張り切りすぎて散財なぞするなよ?儂も若い頃失敗した」

 

 艦橋に苦笑が漏れる。総参謀長は少々不機嫌そうだが黙ったままだ。この演説が怖じ気づく兵士達を落ち着かせ、緊張を解きほぐすためのものであると理解しているためだ。

 

「さて、ではそろそろだな。諸君、目の前の獲物に対して存分に自慢話とボーナスを稼ぎたまえ」

 

 同盟艦隊ではその演説に答えんとばかりに兵士達が叫び声を上げ、同じくらいの兵士達が呆れ気味に総司令官を罵倒する、がそこには確かに喜色と親しみがあった。士官達も不機嫌、というよりかは仕方なさそうに頭を掻く。何はともあれ、同盟軍内における陰鬱な雰囲気は払拭されたのは間違いがない。

 

 一方、相対する帝国軍も無線通信の内容は傍受していた。両脇に盾艦を侍らせる要塞駐留艦隊兼イゼルローン方面艦隊臨時旗艦「アールヴァク」艦橋内で紅茶を楽しんでいたブランデンブルグ大将は通信内容を聞くと呆れるように頭を横に振る。

 

「……やれやれ、品性の欠片もない演説だ。これだから共和主義者の妄言は見るに耐えないのだよ」

 

 万人が自らの欲望の赴くままに行動した結果、道徳と公益が蔑ろにされ、拝金主義と神秘主義、そして暴力が蔓延した醜悪な銀河連邦の失敗から何も学んでいないように見える。 

 

 人類社会の秩序と安寧は偉大なる大帝陛下の血脈、そして選ばれし門閥貴族による支配によってのみもたらされるものである、ブランデンブルグ大将はその事を確信していたし、決してそれは空虚な妄言ではない。

 

 国民と国家の結合は人類統一国家、そして星間国家を成立させてから極めて困難となった。

 

 国家に対する国民の帰属意識は地球時代においては民族と宗教、王家あるいはイデオロギーによるものであると言われる。

 

 だが、90年戦争による国教の概念の衰退、人類統一国家成立によるイデオロギーや民族意識の希薄化、星間国家成立後はそこに距離による惑星間の同胞意識の欠如が追加された。

 

 歴史を辿れば、地球統一政府は地球と諸惑星間の同胞意識が断絶して内戦により崩壊したし、銀河連邦もまた経済成長という飴を失った瞬間に連邦体制は空中分解寸前にまで陥った。多くの市民にとっては……特に地方の市民にとっては自らを銀河連邦の国民、という意識よりも生まれ育った星の市民、という意識の方が遥かに強かったし、郷土愛すらない者は文字通り自己の利益のみを追求した。宗教道徳の衰退と大不況を合わせた結果が連邦末期の醜悪な腐敗と混乱だ。

 

 ルドルフ大帝が安定した人類統一国家を維持するためにとった手段は単純であり、そして極めて効果的だった。それが銀河帝国という国家体制だ。神聖不可侵たる皇帝が中央を、そして皇帝に忠誠を捧げる優秀な遺伝子に最高の教育を施した貴族達が地方を統治する。帝室と貴族は婚姻による血の結束により運命を共にする同胞であった。

 

 そして権威主義的な教育にオーディン教なる国教をでっち上げ、人名や街並みをゲルマン風に改める事で人民に対して同族意識を育ませる。人民に「帝国人」と言う同胞意識を生み出すと共に星間国家の長年の統治の課題であった愛郷心を領主への忠誠心にすり替える。

 

 これにより、領主さえ中央への帰順を誓う限り、例え貴族領が中央から経済面・行政面で独立していても中央から国家として分離する事態は防がれる。血縁関係があり、自らの権威の裏付けたる帝室への反逆を図るのは余程の愚帝相手か、宮廷闘争に敗れ追い詰められた場合くらいのものだ。

 

 文化的均質化と中央集権と地方分権の混合体制、それにより帝国は500年に渡り安定した統治を続けてきたのだ。

 

 ……そして、共和主義を掲げる自由惑星同盟を僭称する叛徒共は帝国の国家体制を根底より覆しかねない危険分子であった。

 

 帝国以外の国家、それだけでも人類統一国家としての帝国の存在意義を揺るがしかねない。その上、多様性と民主主義を奉じるなぞ愚かというほかない。所詮同盟なぞ軍事力と反帝国、そして「建国神話」で辛うじて統一されている国家に過ぎないではないか。

 

 愚かな平民共や奴隷共は支配階級の視点で物事を考える事は出来まい。故に口の回る共和主義者が巧みに誘導すればこの危険なカルト思想に忽ちのうちに汚染されてしまう事であろう。

 

 悍ましい、帝国の体制が崩壊すればその先に待つのは「自由」や「多様性」、「人権」の名の下に欲望のままに動く賎民共が闘争を始め、再び銀河が戦乱の時代に戻るだけだ。

 

 故にブランデンブルク大将が開戦前に発した演説は同盟人には兎も角、門閥貴族にとって、そして平均的な帝国人にとっては極めて理路整然とした内容であった。

 

「全軍、傾聴せよ」

 

 無線機越しにブランデンブルク大将はそう発した。平民出身の兵士共にも聴かせるために帝国公用語ではあったが、その流暢で透き通った声に、宮廷風の語り方は聴く者達に明らかに貴族の品格を印象付けていた。

 

「これより我ら帝国軍は帝国辺境に蔓延る叛徒共の掃討に入る。相手は帝国の支配を受け付けぬ順わぬ蛮族であり、共和主義なぞを奉ずる悍ましい狂信者である。諸君とてその背徳的な奴らの教えは知っておろう」

 

 帝国における教育では共和主義は偉大なる大帝陛下が打破された旧弊であり、因習であり、危険思想である。特に保守的な地方出身者にとっては悍ましさしかない存在だ。

 

「そして奴らは帝国の威光に従う所か、忌まわしい事に大軍を以て帝国本土を侵略せんと欲している。見るが良い、そして想像するが良い。あの蛮族共が我らが神聖なる帝国に土足で踏み入る様を!我らが故郷を焼き払い、富を収奪し、子や妻を誘拐するさまを!」

 

 その言葉は一面では真実であろう。要塞建設以前、同盟が帝国領に侵攻し、貴族から「市民から収奪した富」を差押え、多くの「帝国の圧政に苦しむ市民」を「解放」した歴史がある。そして帝国と同盟、両者の認識の違いは個々のケースで見た場合片方のみが嘘を語っている訳ではなかった。

 

「我らは帝国本土を叛徒共から守護する防人であり、皇帝陛下の槍であり、臣民の盾である。諸君、我々はあの血と欲望に飢えた蛮族共を一歩たりとも帝国本土に踏み入れさせてはならぬ!」

 

 帝国軍将兵達その顔に興奮の感情を生じさせるのを確認し、ブランデンブルク大将は叫ぶ。

 

「帝室が藩屛たる貴族諸君!今こそ指導者としての義務を果たせ!帝室が守護者たる士族諸君!今こそ戦士たる義務を果たせ!帝室の恩寵を受ける平民諸君!今こそ皇帝陛下の御恩に報いるために奉仕せよ!帝国万歳!!皇帝陛下万歳!!」

皇帝陛下万歳(ジーク・カイザー)帝国万歳(ジーク・ライヒ)皇帝陛下万歳(ジーク・カイザー)帝国万歳(ジーク・ライヒ)皇帝陛下万歳(ジーク・カイザー)帝国万歳(ジーク・ライヒ)皇帝陛下万歳(ジーク・カイザー)帝国万歳(ジーク・ライヒ)!』

 

 ブランデンブルク大将の演説が終わると同時に、帝国軍の無線通信は帝室と帝国を賛美する叫び声で埋まる。通信を傍受していた同盟軍の通信士達は演説と気味の悪い程に統率された兵士達の叫びを聞きながら吐き気を感じると共に「どちらがカルトだ」と毒づいていた。

 

 無論、帝国軍も一枚岩、とはいえない。貴族階級は大仰に頷き、士族階級は唸るように雄叫びを上げ、学のない下級兵士や地方人が感動の涙を流す横で都市部の中流・上流階級の平民出身の士官、下士官は冷笑しながら周囲の熱狂を眺めていた者も少なくなかった。

 

 双方の熱狂と緊張が最高潮に達した頃、両軍は遂に艦隊戦の準備を完全に完了させた。

 

 そして誰もが興奮する中、しかし永遠に続きそうな静寂が場を支配していた。艦隊司令官が、艦長が、砲術長が、通信士が、一兵卒に至るまでが一言も発せず、両軍合わせて八〇〇万を越える将兵達が唯二人の声だけを待っていた。

 

 遠征軍総旗艦「アイアース」艦橋では老いた元帥が、要塞駐留艦隊旗艦「アールヴァク」艦橋では四〇手前の貴族が、静かに手を上げる。そして………。

 

「ファイアー!」

「ファイエル」

 

 5月4日1515時、その声と共にイゼルローン回廊において通算四度目の殺戮劇が幕を開けたのであった。

 




「鏡の間」はまんまヴェルサイユのあれを想像してください

この作品のオフレッサーは道原版とノイエ版の中間なイメージ、ミュッケンベルガーはOVA、メルカッツ、シュトックハウゼンはノイエ版、後にストレスでOVAくらいにまで老けるor太る予定です。

銀河連邦は310年、地球統一政府は575年で滅亡(更には地球は人類統合の象徴としての優位があり前半は太陽系のみの国家)であると考えると490年も星間国家として体制と勢力圏を維持し続け(しかも後半150年は戦争しながら)、尚余裕のあった銀河帝国って実は滅茶苦茶優秀じゃね?と思う作者

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