各地からごみを集めてきたごみ収集車は、やがて川のように一か所へと集まった。
そして自動車からは多数のごみがごろごろと音を立てて投げ出されていく。
それらはまるで都市という、満腹中枢の壊れた存在から吐き出された吐しゃ物のようでもあった。
自動車のバック運転を知らせる警告音と、排気ガスの音が響き渡る。
それだけでもうるさいのに、カモメの鳴き声や、人の怒鳴り声なども朝からけたたましく響いていた。
何より、ここはまるで鼻をつんざくかのような悪臭が立ち込めていた。
周りを見渡せば至る所でごみが自然発火を起こして燃え、そのすすがまた悪臭を増強する。 そんな夢の島を、一人の少女がごみの山の上からじっと見つめていた。
真っ白な髪。
それはまるで雪のようであった。
真っ白な服。
それは彼女の純潔を象徴しているようでもあった。
そして頭の金のリング。
それは彼女が何者であるかを示していた。
彼女、オゾンは翼をひくひくと動かしつつ、ごみに手を触れた。
中には野菜くずや割れた卵などが詰め込まれていた。
オゾンはそれに手を当てる。
するとごみはジュッという音を立てたか否かの間に、煙一つ残さず消えていった。
そして彼女は石板に一つ×印をつける。
今度は別の、カップラーメンのくずが入ったごみ袋に手を置く。
中には真っ黒になった液体と、「しょうゆらーめん」と書かれたプラスチックのカップが入っていた。
やはりたちまち腐った廃液もろとも、においをもたてずに消えていった。
それをオゾンは二時間ほど、休むことなく続けていった。
そしてささすがにくたびれてきたころ、彼女はごみの山に突き刺さった金色の十字架の前に跪く。
十字架は灰色で覆われた夢の島の中でも、いや、この世の中の何よりも神々しい金色を放っていた。
そして彼女は祈りをささげる。
彼女の祈りは何かを強く願うかのように強く、そして何かにすがるかのように儚かった。 それは天使であり、そのお勤めをすることは当然であるということのほかに、そうしていなければいけないような、そんな気がしていたからかもしれない。
祈ることで救われるなら、いくらでも祈っていたい。
彼女はそう思いつつも適当な時間で祈りをすませ、再びごみを消す作業、浄化をはじめた。
ふわふわのかけ布団を消す。
暖かい空気とともに消えていった。
今のような寒い冬の時期、きっと人間は欲しがるだろうに。
オゾンは何となく残念に思い、ため息をつく。
次にまだ真っ白い空気清浄機を消す。
空気清浄機から出てくる空気は何とも清潔で、気持ちがよかった。
そしてオゾンは小さな小鳥を消した。
あまりにも動きが緩慢で、気づいたときにはもうすでに手が触れて消えてしまっていた。 生物をうっかり消してしまった。
しかしそのことに罪悪感を感じ無いほどまでになってしまった。
人間はもう使えない、使い終わったものはもちろん、まだ使えるような代物まで次々に人間は捨てて、そしておそらく新しいものを購入しているのだろう。
おぞましい。
うっとうしい。
オゾンはそう感じるとともに、自身の仕事を終えられないことにうんざりした。
思わずもう一度、さらに深いため息をつく。
目の前に広がるごみの大陸。
これをどう処理しろというのか。
神様も全くひどいところに派遣なさったものだ。
オゾンはそんなことをつぶやきたくもなった。
オゾンはふと、空を見た。
快晴の冬空は少しではあるが澄み切った青を見せており、灰色の大地との妙なコントラストを感じることができた。
その空の空気で胸を洗うべく、息を思い切り吸う。
それだけで何となく気持ちいい一日を過ごせそうな、そんな気がした。
空には一筋の飛行機雲を吐きながら、飛行機が飛んでいた。
行き先はどこだかわからない。
しかしもしかしたらどこかに帰る便なのかもしれない。
なんだか胸が騒ぐ。
オゾンはせっかく胸に入れた冷たい空気があたたかくなっていくことと、その胸騒ぎの原因に、思わず顔を顰める。
――見上げるんじゃなかった。
オゾンはそんな気持ちを忘れるべく、再びごみを浄化する作業へと戻った。
そしてまた二時間ほど黙々と、誰とも会話することなくごみを消す。
その後オゾンは我に返るのを忘れるべく、祈りを一心不乱にささげた。
その様子を一人の少年と、一匹の犬がが見ていた。
ごみの中から何かいいもの、お宝は見つからないかとごみをあさっていたところ、二人は神秘的な輝きを放つものに気づいたのだ。
この薄灰色の大地ではほかには見ることもないくらい真っ白な姿。
その白さには神々しさと、そして美しさが秘められていた。
――なんて美しいのだろう。
少年はその姿に思わず息を飲み、そして顔がほてりだしたのを感じた。
彼は持っていた自動車のおもちゃを地面におとしたことすら気づかなかった。
オゾンは妙な、自分を見つめるような視線に気づいた。
オゾンは振り向く。
そこには犬と少年がいた。
彼らはじっと、つぶらな目で彼女を見つめる。
オゾンはそんな眼の前にいた一人と一匹を、まるでにらみつけるかのような鋭い目で見つめた。
緑のパジャマのような服はごみからの廃液などで汚れで黒ずみ、髪の毛もまたごわごわになっていた。
それは犬のほうも同じであった。
さらに眼の前にはごみが散らばっている。
オゾンは本日何度目なのかもわからないようなため息を漏らし、ごみを浄化する。
自身の羽に妙な感触があるのを感じる。
何とも言えない、柔らかいような、かたいような感触が、オゾンの脳に強い電流として伝わっていく。
そして案の定、彼は深い、ジュクジュクしたやけどを負った。
オゾンは痛がる少年を一瞬見やったが、それでも我関せずとふわりと飛び上がり、別のゴミを消しに向かった。
彼も彼と手捨てられたごみなのだ。
自分はごみを浄化するためにやってきた。
そしてそれを浄化するまで、自身の願いは果たせない。
しかしなぜか、かれらの姿は脳裏からまるで油のついた汚れのようにべっとりとこびりつき、離れなかった。
オゾンはその考えを振り切るかのように、無限に広がるごみを一つでも消すべく、再びべつの場所へと降り立った。