天使と夢の島 小説版   作:Lang_E

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第2話

 オゾンはそれから、少年と犬を見かけることが多くなった。  

彼らはある時は残飯を、ある時はガラクタのようなごみを嬉々として集め、それらをボロボロのリヤカーに詰め込んでいた。

 

オゾンにとってはそれはただの迷惑でしかなかったが、その姿はどこか楽しそうであった。

そしてある時、オゾンは彼らの寝床を見つけた。  

古ぼけて真っ黒に近づいている、赤い小さなソファーなどが無造作に並べられている。  

テレビやひびの入ったルームライトを置くことですこし部屋を豪華にしてみたのかもしれない。  

 

しかし家というにはあまりにも粗末で、そしてどこか滑稽でもあった。

当然屋根もなければ壁もなかった。  

 

――家なの、これ  

 

オゾンは我も知らず、そんな言葉が口をついていたことに気づいた。  

少年たちはそこで、雨露をまともに受けながら育ってきたのだろう。  

そして彼らは棄てられたのだろう。  

オゾンは考察した。  

社会にかもしれないし、もしくは両親にかもしれない。  

どちらにせよ人としての存在意義を否定され、ごみ扱いを受けたのだ。  

だから彼らはここにいるのだろう。  

そんなごみが、ごみを拾っている。  

なんて哀れな話だろう。  

オゾンはそう感じた。  

オゾンは久しぶりに感じたゴミに対して哀れみに、一瞬戸惑う。

特に涙が流れたりはしない。  

その代り、大きなため息が漏れた。  

そしてそんな少年に、オゾンの心に引っかかる何かを感じた。    

 

しかし少年も、犬も目をキラキラと輝かせていた。  

こんな絶望的な場所にいるのにも関わらず、彼らの眼はきれいだった。  

彼らがどう育ったのかはわからないし、知りたくもない。  

しかし彼らは明らかな幸福の色を浮かべていた。  

少しそれがオゾンにとってはまぶしくもあった。    

オゾンは以前、誰か、おそらく天界の仲間だったかがこの夢の島について教えてくれたことがあった。  

 

夢の島に捨てればすべてがきれいになる。  

おそらくそれは棄てて目の前には何も残らないからきれいになる、そんな気持ちを言っているのだろう。  

全く自分勝手な話だ。  

オゾンは誰のために怒っているのだろうかと、少し恥ずかしくなり、顔を伏せた。    

少年は今日もお宝集めと言って賞味期限の切れた弁当や、使われなくなったおもちゃをあさる。  

その姿を見るたびに、オゾンは小さくうつむいていた。

 

「邪魔をしないで」

 

オゾンはそう、少年たちに言いたかった。  

しかし少年たちの姿は、そんなオゾンの個人的欲求を遮った。  

オゾンはため息をつき、天を見た。  二人の天使が空を舞っているように見えた。

 

 

 天使として一人前の存在にようやくなった日、オゾンは一枚の手紙を受け取った。  

神様が手書きした手紙だった。  

レターオープナーで開いてみると、中には二枚の便せんが入っていた。  

オゾンは食い入るように文章を読む。  

そしてオゾンはその内容に、天にも昇るかのような思いだった。  

簡単なようで難解な、神様の言葉。  

しかしオゾンにとってそれは何を示しているのか、彼女はよく理解していた。  

興奮のあまり胸が高まる。  

オゾンは当時からも普段表情を表に出すタイプでは無かった。  

しかしそれでもその日はうれしくて、手紙を一日中もっていた。  

そして適宜、時間ができるとそれを見てはうれしい気分に浸った。

 

*  

 

天界の仲間は皆元気だろうか。  

オゾンは空を走る雲を見つめた。  

天使たちはどうやらカモメだったようだ。  

キャーというけたたましい音を立ててカモメは空を舞う。  

彼らの使命は何なのだろうか。  

そんなことを考えると、どこかから声がした。

 

「あなたは帰れないわ」

 

その声はどこか自分の声のようであり、一方で誰か他人の声のようにも聞こえた。  

――帰れない  

オゾンはそのことばを聞き、オゾンは体から血液が引いていくのを感じた。  

オゾンは天界に帰るためにごみを消している。  

しかしそのごみは消えることなんてない。  

人間が、そしてあの少年がごみをまき散らし、そして仕事を増やすからだ。  

きっと当分帰ることはできない。  

オゾンはそう考えると、ただ涙が出てきた。  

カモメが鳴き声のような声で飛んでいく。  

使命などなくとも、カモメたちは巣へと戻り、そして仲間や家族に会うことができるだろう。  

あるいは仲間とともに移動しているのかもしれない。  

しかし希望を忘れては天使の沽券にかかわるだろう。  

あんなに可哀そうな少年だって希望だけは忘れず、毎日楽しそうに過ごしているのだもの。

 

――自分もいつか、仲間の元へと帰るんだ。  

オゾンはそういうと立ち上がり、小さな声を出した。

 

「私は帰るわ」

 

その声は夢の島を駆け巡る風と、そしてカモメと、ごみ収集車の音に混ざって消えていった。  

しかしオゾンはそんなことを一切気にせず、再びごみを一つ一つ浄化してゆく。  

そうすることで帰るべき天界は近づく。  

そして仲間にこれだけの大地を浄化したことを自慢し、神様に認めてもらうのだ。  

オゾンはそう思うと、がぜん元気が出てくるような気がした。  

オゾンはまた、長い時間ごみの浄化を行ったのち、祈った。  

 

「神様。今日は六百二個のごみを浄化しました。お迎えをお待ちしております」

 

祈ることで、そして自分が頑張ることで夢が近づくのならば。  

そうであるならばいかなる努力もできるような、そんな気がした。

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