オゾンは祈りののち、再びごみを浄化し始めた。
今日もまたとどまることを知らないごみの排出に、オゾンはただ涙も、嘆きの声も出ず、ひたすら大きなため息をつくだけだった。
明らかに自分の能力ではすべてを浄化して天界に帰るなど無理なのかもしれない。
そう思うとオゾンの心はざわめく。
しかしオゾンはその感情に負けるものかと、一つ一つ、さらに力を込めてごみを消していく。
まるで無限に自身がシステムになってしまったかのような、そんな気分になってくる。
しかしそれでも、神様はオゾン自身の能力を見越してきっと派遣なさったのだろう。
オゾンはそう信じてみた。
そうすることで少しだけ気持ちが和らぐような気がした。
遠くで少年と犬がごみ袋を破き、中のものを取り出しそうとしているのが見えた。
そしてごみ袋はまるではぜるように中身が飛び出す。
中身はどこかの店の弁当だったようだ、
飛び出したものは犬が、飛び刺さなかったものは少年が手で食べ始めた。
まるでごちそうであるかのように、明らかに幸せなのであろう表情だ。
オゾンはそんな少年をにらんだ。
ごみを散らかし、そして自身の仕事をふゃす。
彼の自分勝手な行動により、オゾンの願いの成就は一歩ずつ遠ざかってしまう。
そのことがもちろん悔しい。
しかしそれ以上に、オゾンはいらつきを覚えた。
「何しているの」
オゾンは近づき、問い詰めるように言った。
少年と犬は食事をやめ、オゾンのほうを向く。
「こんなに散らかして」
オゾンは少年の散らかしたごみの近くへと向かう。
「私の仕事の邪魔をしないで」
オゾンはそういうと、少年の「お宝」ひとつひとつに手を触れ、消していく。
そうすることで自身の夢と、いらいらの正体を消すことができるような気がした。
少年は余りのことに驚いたのか、まじまじとオゾンを見た。
「あ、あの、そこを掃除するの、少し待ってください」
ややつたない言葉。
しかしそれでもはっきりした意思表明にオゾンは驚く。
「ごみ」でもしゃべられるのか。
ここに捨てられ、社会生活も送っていない存在がしゃべられるのか。
オゾンはそのことに少しだけ驚いた。
どこかから音が聞こえる。
まるでここのような地には似合わないくらい凛として張り詰めた音。
おそらく金属のこすれる音だろう。
しかし不快ではなく、むしろ心が落ち着くような音だった。
「オルゴールですね」
少年はそういうと、近くに転がっていた箱を取り上げた。
そして箱についたつまみを回し始める。
そのオルゴールの上には真っ白なバレエダンサーのような人形が載せられており、つまみを回すと音に合わせて踊り子がくるくると回り始めた。
「まだ使えるのに。棄てられたのか」
少年は少し残念そうな、憂いを帯びた表情でオルゴールを見つめた。
オルゴールの人形はただ回っているだけだが華麗であり、また音も張り詰めていながらもあたたかい。
その二つのギャップと、そして二つのマリアージュが何ともオゾンには不思議で、楽しく、そして美しく見えた。
オゾンはその音に思わず耳を傾ける 。
そして音は止まり、ダンサーは踊りをやめた。
「死んだの?」
オゾンははっと驚き、少年の顔を注視する。
しかし少年は特に驚くそぶりを見せることもなく、オルゴールの後ろについていたつまみを回した。
「つまみを回せば、また動き出します」
そして音楽はまた流れ始めた。
どこか物憂げで悲しい音楽。
――こんな美しいものまで捨てられているのか。
オゾンは思わず顔を伏せた。
オルゴールの音はオゾンの心にたまっているわだかまりを優しく包むかのように響いていた。
しかしオゾンの感情はそれに負けたくないといわんばかりに、暗いものを垂れ流してくる。
その感情にオゾンの心はざわめき、そしてオゾンは顔をあげる。
嫌な汗が服をなでていく。
そしてその汗から発せられる熱気は、自身の心の中のあたたかさを奪っていくようだった。 思わずオゾンは振り返る。
少年はオゾンの邪魔をしないようにと配慮したのか、リヤカーを引いてどこかへと言ってしまっていたようだった。
「よかった」とオゾンは胸をなでおろす。
こんな姿を見られていたらたまったもんじゃない。
オゾンは一度深く息を吸い、そして踊りを再び休んでいるダンサーを呼び覚まそうとした。 そして少年がしていたように、オゾンはつまみに手を掛けた。
しかしその瞬間、ジュッ、という音を立ててオルゴールは消えてしまった。
オゾンは再び、ゆっくりと顔を伏せた。
こんなに美しいものまで消してしまうのか。
これは果たして今まで消してきたようなごみなのだろうか……。
オゾンの眼から一筋の涙が伝ってきているのに、彼女は気づいた。
「柄にもないわね」
オゾンは深いため息をついた。