天使と夢の島 小説版   作:Lang_E

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第5話

 オゾンは体を少し翼で浮かせ、そして思い切り伸びをした。

今のオゾンにとって、伸びをすることで筋肉の疲れを取ることが唯一の楽しみだった。

体から無意味に入った力や、疲れの類が抜けていくのをオゾンは感じる。

オゾンの表情もまた、堅くなっていたものが、少しずつ柔らかくなっていった。

 

しかし体が楽になったとしても、何かしくしくするような気持ちが心のなかに感じる。

胸騒ぎではないが、何か寂しさにもような感情。

オゾンは周囲を見渡し、「この景色だもの」と、自らを納得させた。

灰色だらけの景色。

ひどいにおいの空気。

晴れていれば空だけが異様な青さを見せるが、それすらも監獄にいるような気持ちにさせる。

気が滅入るのも当然だともオゾンは感じた。

 

オゾンはしくしくする心をまるであやすかのように、十字架の前跪く。

ビニル袋の嫌な感じが脚に響いた。

十字架は暗い地上をまるで照らすかのごとく、明るい輝きを見せていた。

オゾンは祈りを捧げ、十字架を見つめる。

 

――神様がずっと見てくれている。

 

そう考えるだけでここで浄化を行うモチベーションになるような気がする。

 

 *

 

あの日、天界ではリングの授与が行われていた。

リングの授与を神様から受けた天使は、地上に降り立ち、そして各自の持ち場を浄化する。

そして浄化が終われば迎えに来てもらえる。

オゾンは人間界に降り立ち、そして神様と神様のために働けることを心待ちにしていた。

人間は神に似せられて作られた、というのだからきっと素晴らしい存在なんだろう。

そして人間を喜ばすことができればきっと、神様も喜んで下さる。

期間も長くて数年だと先輩は言っていた。

オゾンはただ、地上に降り立つことを楽しみにしていた。

 

「オゾン、あなたはとても強い」

 

神様の優しい声が聖堂の中に響き渡る。

オゾンは神様の言葉に頬を赤らめた。

 

「お前の行く夢の島は、人間たちに汚されてしまいました」

 

神様はそういうとオゾンを向いてほほ笑む。

オゾンはきっと神様のお役に立てるように働くことを誓った。

 

 *

 

 オゾンの表情は旧友のことを思い出したようにほころんだ。

 

「天使様」

 

後ろから声が聞こええる。

 

「あの、天使様!」

 

オゾンはその声の方向を剥いた。

少年が犬とともに立っていた。

彼は手にこぎれいなバッグを持っていた。

 

「やっぱりあなたは天使様だったんですね」

 

少年はどこかうっとりしたような表情でオゾンを見る。

オゾンはそんな彼を、不思議そうに見つめた。

 

「これ、見つけました」

 

彼はトラッシュ、と名乗った。

トラッシュはカバンを差し出す。

おそらく人間界では豪華なものとされているのだろう。

茶色い模様の入ったカバンと、ピンク色のガラス瓶に入った香水、いくつかの宝石を差し出した。

オゾンは顔を伏せる。

ごみを渡される屈辱。

しかし最高のプレゼントを渡される喜び。

その二つが心の中をうごめき、そして駆け巡る。

 

「あら、気が利くのね」

 

オゾンはそういうと、とりあえずプレゼントに手を触れる。

トラッシュのプレゼントは、あっけなく消えた。

トラッシュは唖然とし、犬は怒りの色を見せる。

しかしオゾンはあくまで涼しい顔をして見せた。

自分は天使なのだ。

天使がごみを受け取るわけにはいかない。

そしてトラッシュのしていることのせいで、自分は天界へと還れないのだ……

オゾンはそう、自身に言い聞かせた。

 

トラッシュは目線を下にそらす。

そして彼は、まるで言葉をかみしめるように、一言一言丁寧に話を始めた。

 

「天使様、ここにあるものはすべてごみだと思われるのですか?」

 

その顔はまるで悲しみにも、怒りにも、諦観にも見えた。

オゾンはため息をつき、ある一点にむけて指を刺した。

何台ものごみ収集車がごみを吐き出していた。

そしてオゾンはため息交じりに言葉を吐いた。

 

「人間たちがここを汚し続ける限り、私は天界に帰れやしない」

オゾンは顔を伏せる。

トラッシュもまた、まるで胸をナイフでえぐられたかのような、そんな沈痛な面持ちでオゾンを見つめた。

 

それ以降、トラッシュはオゾンの前に姿を現すことはなかった。

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